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「やっ……た……」
肩で息をしながら、ダイは会心の手応えを感じていた。つい先ほどまで漂っていた凄惨なまでの怨念も膨大な魔法力も、もはやその一切が影も形も感じられない。あれほどまでに暴れていたはずの魔力炉すら跡形もなく消え去っている。
それはつまり、バーンの完全な消滅を意味していた。
「さようなら……バーン……」
今際の際の言葉もなければ、最期を看取った者もいない。まるで煙が消えるように死んでいった大魔王へ若干の哀悼を表しながらそう口にする。
「はは……でも、勝ったんだ……」
精根尽き果てたようにダイはその場に座り込んだ。同時に疲労感がドッと押し寄せて来て、指一本動かすのも面倒なくらいだ。それでもダイは自らの身体に鞭を入れ、剣を掲げる。
「へへ……」
超硬度を誇るオリハルコンで作られ、この世で最強の剣と言われたダイの剣だが、今やその姿はボロボロになり、すぐにでも砕け散りそうなほど無残になっていた。
鬼眼王バーンという超防御力を持つ者へのギガストラッシュに加え、そこから間を置かずにチルノとのギガフレアストラッシュ――紛らわしいので、ギガフレアストラッシュと命名しておく――まで放ったのだ。
限界などとっくに超えている。ギガフレアストラッシュのエネルギーを受け止められたことすら奇跡に近い。
「おれの無茶に付き合ってくれてありがとう。おかげで姉ちゃんを守れたよ」
最大限の感謝を込めながら、ダイは剣を鞘へと大事に収めた。
そしてダイが限界だったということは、チルノもまた限界だったということだ。肉体の疲労も魔法力も限界に達し、竜の姿を保つことすら出来なくなった。彼女は人間の姿へと戻りながら床へ倒れ込んだ。
「姉ちゃん!」
チルノが倒れ込んだ際の音を耳にしたダイは慌ててチルノの方を向き、そして――
「うわわわわっ……!!」
――慌てて横を向いた。
お忘れかも知れないが、トランスによって竜の姿へと変じた際に着ていた服は全て吹き飛んでしまう。そしてそのまま元に戻るのだ。当然服など身につけているはずもない。
予期せず一糸まとわぬ姿の姉を目にしたダイはすぐに視線を切った――訂正、顔は外を向いているが、視界の端ギリギリで見てはいた。
これは何かあった時にすぐに動けるように様子を把握するためで、チルノの裸を見たいからではない。決してない。ないったらない。
「ね、姉ちゃん、大丈夫? 生きてる?」
「ダイ……? うん、なんとか……全身が、すごく、痛いけれど……」
そう話す声はダイから聞いても辛そうだった。
大魔法の連発に召喚術の維持、極めつきに巨竜へ変身して鬼眼王バーンとの肉弾戦だ。疲れない方がおかしい。その上、
片腕は骨が折れているのかまともに動かせず、顔も殴られている。さらに、竜から戻った際のショックが影響しているのか、全身に力が入らない。上半身を起こすどころか顔を上げることすら困難なほどだ。
「と、とりあえずこれ着て!」
ダイは慌てて上着を脱ぐと、チルノへと手渡す。斜め横を向き、精一杯手を伸ばしながら上着を渡そうとする。
「ありがと」
――でもこれ、入るかな?
上背はダイよりもチルノの方が少しだけだが大きいし、胸のサイズがあるから着るのは無理かもしれない。とはいえ、そんな風に必死に気遣う弟の姿を姉はクスッと笑いながらそれを受け取ろうと手を伸ばした。
「いたたたた!!」
「姉ちゃ……あ……!」
途端、腕から走った激痛に悲鳴を上げてしまった。なにしろ大怪我をした片腕で受け取ろうとしたのだ、そりゃ痛いわけである。
おまけにダイがすぐに反応したかと思えば、見てしまったことの後悔と手助けしたいという気持ちの板挟みで動けなくなり、結果的に凝視してしまう。
「だ、大丈夫、気にしないから……それに今さら恥ずかしがるような関係でもないでしょう?」
「う……うん……」
痛みを堪えながら、チルノは改めて比較的無事な方の腕で上着と受け取ると努めて平静に口にする。とはいえ耳まで真っ赤に染めていたが。
一方、とりあえずタオルの代わりのように上着で胸元を隠している姉の様子を見ながら、ダイも生返事する。どうしたものかと所在なさげに瞬きを連発するのが精一杯だった。
「ダイーッ!! チルノーッ!! 生きているかー!?」
と、そこへ文字通り天からの助けがやって来た。上の方からポップの大声が反響して聞こえ、ダイは助かったとばかりに上を向き、負けないくらいの声で返す。
「生きてるよーっ!!」
場所が広いためぐわんぐわんと反響して響く音に若干顔を顰めながらも叫んだ甲斐があったらしく、その声は無事上まで届いたようだ。続けてバランの声が聞こえて来る。
「ディーノ!! チルノ!! 無事か!!」
「だいじょうぶ!!」
――そんな感じで、上と下とで大声でのやりとりを続ける。
上としては「それまで襲い掛かってきていた触手が急に倒れて、同時に下から凄いエネルギーが放たれた。ダイたちの仕業だろうと思い、声を掛けた」とのこと。対して下からは「バーンは倒した。二人ともボロボロだけど、生きている」ということまで伝えた。
どちらもお互いに無事であることを確認できたため、交わす声はどんどん明るくなっていった。
そして締めとばかりに――
「少し待っていろ! すぐにそちらへ……むっ!?」
バランがそう言い掛けたときだ。突然、言葉を遮るように
オリハルコンすらボロボロになる激戦に、城が耐えられるはずもない。
「逃……ディ……」
天井の砕ける音に紛れて、上からそんな声が微かに聞こえてきた。
「何とか逃げるから! 父さんたちも逃げて!!」
ダイはそう怒鳴り返すと身を翻した。
次々に降ってくる瓦礫から逃れながら未だ倒れたままの姉の元へと向かうと、彼女を横抱き――いわゆるお姫様抱っこで抱え上げる。
「……っ!」
「痛いだろうけれど、もうちょっとだけ我慢してて」
「……うん」
回復呪文の一つでも唱えたいところだが、今はその時間すら惜しい。こうしている間にも土砂と瓦礫に押し潰されかねない。
腕の中から聞こえてきた小さな悲鳴に向けて申し訳なさそうにそう返す。頷くチルノの反応を確認してから、ダイは呪文を唱えた。
「
……。
…………。
………………。
――しかし MPが たりない!
そんな声が聞こえた気がした。
「え……う、嘘だろ!?」
そう言うが、現実が変わることはない。
何しろ
「くそっ……どうすれば……」
肉体の疲弊に加えて魔法力不足でクラクラする頭に苦しめられながらも、ダイは必死で考えていた。
頼みの綱だった
「出口……! 出口はどこだ……!?」
「ダイ……」
ならば走ってでも逃げ切ってやるとばかりにダイは出入り口を捜す。そんな弟の姿を見ながら、チルノもまともに働かない頭でどうにかしようと考えていたときだ。
――あれって……?
不意に視界の端で何かが光った。
「ダイ……あれ……」
「え?」
チルノが指さした方向へとダイたちは向かう。そこにあったのは卒業の証、アバンのしるしだった。
「これって……」
「私の、みたいね……」
拾い上げるためにチルノを下ろしているため、チルノは膝に手を当ててバランスを取りながら立ち、ダイが拾い上げたそれを目にしていた。
一目見るなり自分のものだと確信する。
前述の通り、竜王バハムートへの変身をすると身に付けているものは耐えきれずに弾けてしまう。アバンのしるしもその例に漏れることはなかったようだ。首から外れ、魔力炉が開けた穴にでも落ちてここまで来た。そんなところか。
ここまでならば、少々珍しくとも取り立てて驚く様なことではない。
だが不思議なことに、吹き飛んだはずのアバンのしるしはどこも壊れていなかった。輝聖石には傷一つ付いておらず、鎖も千切れていない。誰かが事前に留め金を外さなければ、もしくは自ら留め金を外さなければ、こうはならないだろう。
「これ、姉ちゃんの剣も!!」
「え、うそ……!」
続いてダイはガリアンソードを拾い上げる。それもまたアバンのしるしの近くに落ちており、チルノが光に気付かなければその存在に気付くことはなかった。
「そうだ! この剣なら!!」
「そうね、これなら……!」
手にした剣の特異な性能を思い出し、ダイの脳裏に一つの可能性が浮かんだ。持ち主の意志に応じて自在に伸び縮みするこの剣をロープの様に扱えば、ここから抜け出せるかもしれない、と。
チルノまた同じ事を考えたのだろう、同意の言葉を口にしたところで、はたと気付く。
「あなたが教えてくれたの……?」
アバンのしるしを手にしながら尋ねる。だが当然、ペンダントは何も語ることはない。ただキラリと光っただけだ。そしてそれだけで充分だった。
「よし……もうひと頑張り……」
「駄目だよ! 今の姉ちゃんにそんなことさせられない!」
力なく手を伸ばしガリアンソードを掴もうとするが、ダイがそれを拒否する。
剣をロープのようにして脱出する以上、一人がもう一人を抱えるなり背負うなりして、二人分を支える必要がある。
何しろ片腕がまともに動かなく、残った腕も力が上手く入らないのだ。立っていることすら辛い今のチルノには、とてもそんなことは任せられない。ダイが止めるのも当然だろう。
「でも!」
「おれがやる!」
なおも食い下がろうとするその意見を封殺し、ダイはチルノを抱き寄せると片手でガリアンソードを握り、振るう。
鞭のように伸びるよう願いながら振るったそれは、だが普通の剣のように虚しく空を斬っただけだった。
「そんな!!」
ダイの剣がダイのためだけに生み出されたならば、ガリアンソードはチルノのために生み出された剣だ。持ち主以外が手にしても、その真価が発揮されない。いくらダイが
それを理解しているからこそチルノは無茶を承知で剣を取ろうとし、ダイは無理を承知で剣を取ったのだ。
「頼むよ! お前はおれのことを嫌いかもしれないけれど、でももうお前しかいないんだ! 今のおれの力じゃ姉ちゃんを守れない! だから……!」
手にした剣に向けて、ダイは必死でそう懇願する。弟の姿を見ながらチルノは刀身に沿って指を這わせ、剣を慈しむように撫でる。
「お願い、ガリアンソード。今の私じゃ、あなたを使えないの……ダイを守れないの……今だけでいいから、力を貸してあげて……」
その言葉に応えたかのように剣が動いた。刀身が幾つにも分かれ、ツタのように垂れ下がる。
「やった!」
「ありがとう……ごめんね、無理を言わせちゃって……」
歓喜の声を上げるダイ。そしてチルノはもう一度だけ、剣を愛おしそうに撫でた。
「よしっ、しっかり掴まってて!!」
離さないようにチルノを片手でしっかりと抱き締め直すと、ダイは剣を振るう。先端を伸ばしてまだ無事な壁に突き刺すと、そこから振り子のように移動する。いっぱいまで移動したら剣を抜き、再び同じよう別の壁へと突き刺して移動する。
――まるであの時みたいだ。
子供の頃、デルムリン島で木に絡まったツタを使い、姉と一緒にこんな風に遊んでいたことがあった。
ダイはそんな昔の事を思い出しながら
ターザンロープ代わりにされたガリアンソードさんは泣いていい。
(せっかく作った剣なのにイマイチ活躍の場がなかったので最後にちょっと出番を。二人がお互いを守るって言ってるのに心動かされた、みたいなイメージ)
感想で「ギガフレアストラッシュで良いのでは?」と突っ込まれました。
確かにその通りでした。何故気付かなかった私。多謝。
早速使わせていただきました(以降の出番はがあるとは言っていない)