隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:14 決戦ロモス城

キメラの翼の効果によりチルノが降り立ったのは、ロモス王宮の中庭だった。

時刻はまだ朝も早く、日も完全に昇り切っていない頃である。中庭には警備の兵たちがちらほらと見受けられ、その向こうの城内では朝の支度を行っているのも見える。煮炊きでも行っているのか、かまどからは煙が立ち上っており、城内の人間はせわしなく動いている。

 

「な、なんだお前は!?」

「ここをどこだと思っている!! 怪しいやつめ!!」

 

そんな中へ、不意にチルノが空から降ってきて姿を見せたのだ。突然少女が現れたことで王宮は局所的な混乱を極め、警備に当たっていた兵士たちは各々が持っている槍や剣をチルノへと突きつける。

自分に向けられた武器の数々を見ながら、チルノは自分の迂闊さを少しだけ呪った。

キメラの翼の移動先は、使った人間のイメージに左右される。彼女にとってロモスで一番印象の強い場所がどこかと問われれば、偽勇者でろりんたちと大立ち回りを演じたこの中庭だったのだ。

朝の忙しい時間に、人間が突然降ってくる。しかもロモス王国は未だ百獣魔団の攻勢に悩まされている最中である。不審者扱いで問答無用で捕縛――いや、処罰されてもおかしくない。早い話が、時も場所もタイミングも全てが好機を失しているのだ。その結果が、今の彼女の状態だった。

 

「ご無礼については謝ります。でも、至急の要件なんです!」

「問答無用!!」

「大人しく縄に着けばよし! 抵抗すれば、こちらとて容赦はせんぞ!!」

 

チルノは両手を上げて無抵抗をアピールしつつ、必死で要件を訴える。だが兵士たちは聞く耳を持たず、武器を構えたままチルノを包囲してその輪をじりじりと狭めていく。

さらに悪いことにその輪の向こうでも兵士たちが集まっており、各々が武器を持って僅かな抵抗も見逃さんとばかりにチルノのことを睨んでいる。

時間がないのに……こうしている間にも、百獣魔団が攻めてくるかもしれないのに……と苛立ちを募らせるチルノだが、それ以上どうすることもできそうにない。強引に突破することはできなくはないだろうが、現在の状況からそれはできない。何か話を聞いてもらえる手はないものかと、知恵を絞っていたときだ。

 

「なあ、あの娘のこと、どこかで見たことなかったか?」

「やっぱりか? オレも見覚えがあるんだが……」

 

不意に、囲みの向こう側にいた兵士の一人が、そんなことを漏らした。するとその隣にいた兵士も、自分もだとばかりに賛同の意を示す。

その一言がきっかけとなったように、兵士たちの間に疑問がゆっくりと波及していった。

どこかで見たことがあるような……あれは確か……そんな考えが兵士たちに伝播し、気が付けばチルノを囲んでいる兵士たちすら気もそぞろになっている。

これはチャンスかもしれない。チルノがそう考えた頃に、やおら兵士の一人が口を開いた。

 

「思い出した! あれは……!」

「なんの騒ぎだ!?」

 

だがその言葉は後から来た声にかき消された。言いかけた兵士は思わずその声の方向を見る。

チルノも残りの兵士たちも、全員が声のした方を向くとそこには国王シナナの姿があった。騒ぎを聞きつけてここまで来たのだろう。国王の正装のまま、だが年齢を感じさせぬキビキビとした動きで城内から中庭へと歩みを進めている。

 

「国王様ッ!? 危険です、お下がりください!!」

 

兵士の一人がシナナを庇うように前に出て、チルノの姿を王の前から隠そうとする。だがチルノも馬鹿ではない。ここが勝負を仕掛けるポイントとばかりに、声を張り上げる。

 

「王様、ご無沙汰しております。デルムリン島のチルノです。覚えておいででしょうか?」

「ん? おお、チルノ! チルノではないか! 久しいな」

 

彼女の言葉は王へと届き、シナナは前の兵の体から顔を覗かせるような恰好でチルノを見つめると、懐かしい知人に出会った時のように歓喜の声を上げた。

その王の言葉で、周りの兵士たちもようやく気付いてあっと声を上げた。数か月前の大騒ぎの張本人の一人であり、兵士の中には彼女に魔法で動きを拘束された者や、事件終了後に魔法で怪我を治してもらった者もいる。見覚えがあって当然だ。だがいくら警戒態勢でピリピリしていたとはいえ、すぐに気づかなかったことを恥じているらしく、何人かの兵士は視線を逸らしていた。

 

「ふむ、少し大きくなったかな? 月日が経つのは早いものじゃな。今日は急にどうしたのだ?」

 

王の記憶に残るそれよりも成長したチルノの姿。特徴的だった褐色の肌も燃えるような赤髪もそのままだったが、顔つきは以前に出会ったあのときよりもずっと大人びて見える。はっきりと美人になったと言っていいだろう。もしかしたら、彼女が自分から名前を名乗らなければ、シナナであっても気づかなかったかもしれない。

この成長の裏には、何か大きな事件を乗り越えでもしたのであろうかと、シナナは呑気に考えていた。

だがそんなシナナの予想とは裏腹に、チルノは大きく頭を下げながら悲鳴のように声を上げた。

 

「無礼は承知です! どのような罰を受けようとも文句は言いません! ただこれだけは伝えさせてください!!」

 

そこまで言ってから顔を上げ、中庭にいる全兵士に聞こえるようにはっきりとした口調で言う。

 

「ロモスに向けて、百獣魔団が総攻撃を行います!!」

 

その言葉に、周囲にいた全ての兵士たちが色めきだった。そしてそれは、王であるシナナも例に漏れることはなかった。

 

「な、なんじゃと!? それは本当か!?」

「はい。そもそもは別の要件で、デルムリン島からここまでキメラの翼でやってきました。ですがその移動途中、魔の森の中でモンスターたちが大勢集まっているのを見ました」

 

キメラの翼を使い、デルムリン島からロモスへと向かう道すがら。彼女は確かに目撃していた。確認できたのは短い時間だけだったが間違いはない。あれは獣王クロコダインとその部下の百獣魔団たち。かつて彼女が本で見たことのあるロモスへの総攻撃前の場面を再現しているかを思わせるような光景だった。

 

「な、なんと……」

「集まった無数のモンスターたちが、一人の巨漢の下に集まっていました。おそらくあれがリーダーだと思います。私が見た限りですが、まるで決起集会でも行っている最中のようでした。これからロモスへ攻め込むぞという決意を表明しているかのような、剣呑とした雰囲気に見えました」

 

チルノの説明を聞いた途端、兵士たちがざわつき始めた。だが、漏れ聞こえるその内容は、チルノの言葉に懐疑的な声の方が多かった。確かに、ルーラで移動している一瞬で見ただけでは、証拠としては弱いだろう。

少女が一人見たと言っているだけでは、そう易々と兵士を動かすこともできない。いや、これはどちらかと言えば信じたくないといった方が近いかもしれない。大した証拠もなしに総攻撃だと言われて、信じる者も少ないだろう。

 

「信じられないかもしれませんが、事実です。嘘だと思われるのでしたら、すぐにでも見張りの塔からでも確認してください。おそらく、森から攻め入るモンスターの姿が見えるはずです」

 

だがチルノは必死で訴える。このままでは城下に住む無辜の民たちに犠牲が出てしまう。本当ならこうして問答している一瞬すら惜しいのだ。

 

「……わかった、信じよう」

「王様!?」

 

チルノの瞳を見つめていたシナナは、やがてそう口を開いた。

 

「わしはかつてこの子に、未来の賢者の称号を与えた。そのわしが、チルノの言うことをどうして疑おう? じゃがお主ら兵たちの危惧するように、総攻撃かどうかはまだ判断がつかん。だとしても、大量のモンスターが集まっていたことは間違いない。ならばまずは事実確認を行い、その知らせが真実かどうか。本当に総攻撃が行われるのかを確認せねば」

 

王の言葉に兵士たちは頷く。

未来の賢者という言葉に一瞬チルノは「やめて」と反応しかけるが、さすがに空気を呼んで黙っていた。

 

「では王様、事実を確認後にすぐにでも対策会議を……」

「ダメです! それでは遅くなります!」

 

兵士の一人が言いかけた言葉をチルノは遮った。横やりを入れられてその兵士はムッとした顔になったが、無礼なことは承知の上の行動。時間がないのだ。

 

「そうだな。モンスターたちが攻めて来たのを確認後には、すぐにでも城下に警告を出してくれ。こちらの指示を待つ必要はない。他の者はまず避難ルート確保と緊急時の行動対応を徹底させよ。手の空いている者は食料や武器、薬の準備を行え」

 

シナナはチルノの言葉に頷くと、兵士たちにすぐに動くように命を下した。王命を聞いた途端、さすがは訓練された兵士たちといったところか。それぞれが澱みなく駆け出していく。

 

「王様、ありがとうございます」

「何、このくらいは大したことはないわ。伊達に魔王軍と戦っているわけではない」

「あとは、時間があれば簡易な罠でも仕掛けたいところですが」

「罠?」

「資材を道の途中に積み重ねて、即席の一方通行を作るとか。射撃用の穴を開けた防壁の向こうから弓を撃つとか。そのくらいが関の山でしょうけれど、そんなものでもあれば少しは敵の進軍を遅らせることはできると思います」

「ふむ。だが難しかろう。そこまでの時間があるかどうか……」

「ですよね……」

 

自分で言っておいてなんだが、それは実現する可能性は極めて低いだろうとチルノは思っていた。時間が足らなすぎるのだ。今はただ、兵士たちが一刻も早くモンスターの襲撃を確認して、厳戒態勢へと移行してくれることを願うしかない。

シナナはチルノを伴って謁見の間へと移動すると、運命の瞬間を黙して待つ。

はたして、どれほどの時間がたっただろうか。その時は唐突に訪れた。

 

「……鳴った!」

「鐘の音、それに獣の遠吠えまで……なるほど、お主の言っていたことはやはり事実じゃったか」

 

最大警戒を告げる鐘の音がけたたましく鳴り響き、兵士たちの怒号が風に乗って微かに聞こえて来た。そして何よりも、身を震えさせんばかりの遠吠えが幾重にも重なり、遠くから地鳴りのように響いてくる。もはやチルノの言っていたことを疑うものはロモスに一人もいないだろう。

 

「さて、久しぶりに会えて名残惜しくはあるのだが、チルノ。お主もそろそろ避難すべきじゃな」

「……え?」

「ここまで知らせに来てくれただけでも僥倖じゃよ。最初に、何か別の要件があってロモスまで来たと言っていたではないか。お主はその目的を果たしなさい。なに、襲撃はわしらだけで何とか防いでみせよう」

 

シナナの表情からは、チルノのことを心底気遣っていることが見て取れた。本当ならば頼りたいだろうに、王としての矜持がそうさせるのか、大人として未来ある子供を逃がそうとしているのか、シナナは努めて平気な顔をチルノへと見せる。

 

「お気遣いいただき、ありがとうございます。ですが、ここまで来て逃げるわけにはいきません」

 

チルノはそんなシナナの想いを受け止めながら、しっかりと返事をする。

 

「それともう一つ、逃げられない理由があります。私が用があるのはそのモンスターの群れのボス――百獣魔団の団長なんです」

「なんじゃと!?」

「ダイも今、ロモスの城下まで来ています。あの子も、敵の団長に因縁があるはず。撃退には協力してくれると思います」

 

これにはシナナも驚かされる。

一体チルノがどうして百獣魔団の団長に用があるというのか。話を聞いた限りでは、デルムリン島からロモスまで直接やってきているのだ。そのどこで因縁が生まれたのか。ダイのことも同じだ。どうして城下にいることを知っているのか。そしてなぜ因縁があることを知っているのか。

それを問いただそうとしたが、それよりも先に一人の兵士が部屋へと飛び込んできた。

 

「想定通りモンスターの群れがロモスに攻め込んでまいりました!! 国王様、どうか今のうちに避難を!!」

「何!?」

 

それは一国の王の命を気遣っての進言。普通ならばその言葉に従い、逃げるのが常道だろう。

 

「何を言うか!! まだ戦いは始まったばかりじゃ!!」

 

だがシナナはきっぱりと断った。それは王としては失格なのかもしれないが、王としての覚悟は持ち合わせているようにも見える。

 

「そなたら兵が命懸けで戦っておるのに、どうしてわし一人が逃げられようか!! それよりも、戦況はどうなっておる!?」

「……はっ! し、失礼いたしました! 発見がギリギリ間に合ったので、城門を固く閉ざしてなんとか侵入は防いでいるところです。ただ、飛行系のモンスターが存在していますのでそれらは城壁の効果もなく、弓を中心とした兵団が討伐に当たっています」

 

シナナの言葉に感激し、若干呆けていたが兵士は正気を取り戻すと報告を始めた。

どうやらがら空きの門から魔獣たちが際限なく侵入する未来だけは避けられたらしい。まだモンスターたちの攻撃によって門が破られる可能性がないわけではないのだが、とりあえずの結果にチルノはホッと息を吐く。

 

「市民の避難状況は?」

「そちらも手早く指示が出せたおかげか、混乱しつつも何とか避難は進んでおります。こちらも飛行系の魔物が邪魔をしてきていますが、全体の被害は想定よりも少ないです」

「ふむ、この襲撃を知らせてくれた未来の賢者のおかげじゃな」

 

シナナの言葉に、チルノは曖昧な笑みを浮かべて返す。本心ではその役職で呼ぶなと言いたくて仕方がないのだが。

その様子を照れていると勘違いしたらしく、シナナも満足そうに笑う。

 

「ええ、全くです。もしもチルノ殿が来なければ、百獣魔団の強襲を防ぎきれなかったでしょう。その場合、市民にどれだけ被害が出ていたことか……」

「そうじゃな。それに、頼もしい味方も来ておる。希望を捨てず、一人一人が出来ることを精一杯行うのじゃぞ」

 

国王のその言葉に兵士は頷き、そして疑問が生まれた。

 

「は……? 味方とは、チルノ殿のことですか?」

 

王の隣にいる少女を見ながら、困惑したように言う。確かに彼女は国王に認められ、偽勇者事件でもその頭角を見せた小さな英雄である。だが、彼女一人にそこまで期待を寄せてよいものかと思い兵士は王へと言う。

返ってきたのは兵士も予期せぬ言葉だった。

 

「いや、ダイもじゃよ。チルノの話では、城下に来ておるそうじゃ」

「なんですと!? それならば」

「うむ。未来の勇者と未来の賢者がおるのじゃ。この戦、何としてでも勝つぞ!」

 

チルノとダイは、偽勇者事件の英雄としてロモスの兵たちの間では人気も高い。特にダイは、まだ幼いながらも見事に剣を操り前に出て戦う小さな英雄として憧れを抱いている者がいるほどだ。その二人がいると知れば、王の鼓舞と合わさって士気も上がるだろう。

 

「それは頼もしい。兵たちもそれを聞けば喜びましょう。しかし、チルノ殿がいるのは分かるとして、どうしてダイ殿は一緒ではないのです?」

「そういえばそうじゃな。なぜ別行動を取っておるんじゃ? ダイは一緒ではないのか?」

 

兵士と王に揃って訪ねられ、チルノは一瞬言葉に詰まった。

確かにそうだ。デルムリン島で何が起きたのかをシナナは知らないのだから、二人が別行動している理由も知るはずがない。

 

「ダイは、アバン先生の特訓を終えて一足先に出発したんです。私は、まだ修行が残っていたのでちょっと遅れて出発することになりました」

 

仕方なくチルノは、簡潔にアバンの修行の都合だということにした。だがアバンの修行を受けたと聞いたシナナたちは揃って驚きの声を上げる。アバンのネームバリューはここでも絶大のようだ。チルノを見る目がより期待に満ちたものになっている。

 

「なるほど。しかし、ならばどうしてダイが城下にいることがわかるんじゃ?」

 

そう問われて、今度こそ完全に言葉に詰まってしまった。だが黙っているわけにもいかない。

 

「け、賢者ですから! 呪文で知ることができるんです!」

 

そう言った自分を自分で殴りたくなったのは秘密である。事実、サイトロの魔法で位置を確認しているのだから嘘など何一つ言っていないのだが。

彼女の内心の葛藤など知らぬ王たちは、その返答に驚いていた。

 

「なんと、そのような呪文があるのか」

「さすがは王様が見込まれた賢者殿ですね」

 

よかった。納得してくれた。と胸を撫で下ろそうとした途端、天井からギシギシと苦しそうに軋む音が聞こえてきた。

何事かと王も含めて見上げると、天井には巨大な亀裂が走り今にも崩れ落ちんばかりの様子を見せている。

 

「危ないッ!!」

 

チルノは咄嗟に王を庇うように動くと、それに遅れて天井が爆発したようにはじけ飛ぶ。破片が縦横無尽に吹き飛ぶが、幸いなことにチルノが庇ったこともあって王は無傷だった。だが一緒にいた兵士は飛び散った破片の打ちどころが悪かったらしく気絶してしまう。

そしてその爆発の向こうからは、ガルーダを伴ったクロコダインが姿を現した。

 

「な、何者だっ!?」

「オレは魔王軍の百獣魔団長クロコダイン!!」

 

クロコダインの表情は覚悟を決意に満ち溢れていた。たとえどの様な手を使おうとも、決して揺らぐことがない強固な意志は恐ろしさすら感じる。事実、クロコダインの声を聞いただけでシナナは竦み上がり、それ以上何も言えなくなってしまった。

 

「はじめまして、クロコダイン。あなたが来るのを待っていたわ」

 

だが、誰しもが畏怖する巨体を前に、チルノは怯えることなくそう言った。

 

 

 

――ガンガンガンガンガンガンガンガン。

 

突然けたたましく鳴り響いた鐘の音を聞き、ダイは反射的に飛び起きた。ダイだけではない、同室のポップとマァムも、寝ていたところで無理矢理意識を覚醒させられ、ただ事ではないと起き上がる。

 

ここはロモス城下の宿屋である。ネイル村を出発したダイ一行は、時間をかけてようやくロモス城下に到着した。だがあいにくと到着したころにはすっかり日も暮れており、王への謁見は叶わなかった。明日また出直そうということになり、宿屋で一泊することとなった。

せっかくフカフカのベッドで寝ていたというのに、どうやら目覚めは最悪となったようである。

 

「なんだこりゃ!?」

「鐘の音……これは警鐘だわ!」

 

文字通り、戦いや災害などの危険が迫っていることを知らせるために打ち鳴らす鐘のことである。それが今もなお、けたたましく音を上げている。何か危機が迫っていることは容易に想像がついた。

 

「全員起きろ!! 避難するんだ!! モンスターの大群が来るぞ!!

 

その想像を裏付けるように、窓の外からは巡回の兵士が大声で呼びかけている。窓から見てみれば、兵士が小隊を作って避難を呼びかけたり住民の誘導をしていた。

 

「モンスターの大群だって!?」

「きっと百獣魔団だわ! まさか攻め込んできたの!?」

「ど、どーするよダイ!?」

「とりあえず準備を整えよう。本当に百獣魔団が来たのなら、おれたちも戦わなくちゃ!」

 

現在は起きたばかりなのだ。寝間着姿ではどうすることもできない。その言葉に従い、まずは着替えることにした。

 

「ところでよぉ、本当に百獣魔団と戦うのか?」

「ポップ、何言ってるのよ!?」

 

弱気なポップにマァムから檄が飛ぶ。彼女は女性のためシーツで区切った即席の個室で着替えている。決して男に混じって恥もせずに着替えているわけではない。なお、時折シーツから着替えるシルエットがうっすらと透けて見えているのだが、ダイとポップは後ろを向いて着替えているので幸いにも誰の目にも留まることはなかった。

 

「いや、無理に戦わなくても避難の手伝いとか、さ……」

「情けないこと言わないで!?」

 

手早く着替えを終えたのだろう。マァムはシーツの奥から出てくるとポップを掴んでガクガクと揺さぶる。

 

「アバン先生の仇を取るんでしょう!? 魔王軍と戦うんでしょう!? 忘れたの!!」

「それにポップ、ここにいればどのみち百獣魔団との戦闘は避けられないよ。覚悟を決めなきゃ」

「とほほ……結局そうなるのね……」

 

準備を済ませたダイたちは部屋を出る。すると丁度良いタイミングだったのだろう。隣室のでろりん達も部屋から出てきたところだった。

 

「あ、お前ら! お前らも起きたのか!?」

「そりゃ、あんだけ大声で叫んでたらね」

 

昨日ダイたちが宿を取った時、奇妙な偶然からでろりん達と再会しており、過去のいざこざは水に流してお互い仲良くやろうということで話はついた。再会した彼らはなぜか妙にひょうきんな一団になっており、最初にデルムリン島に乗り込んできた時とは雲泥の差である。

完全に許したのかと聞かれれば首をひねるところではあるだろうが、こうして話をするくらいには打ち解け合っていた。

 

「なあ、モンスターの大群って……」

「決まってる、魔王軍の百獣魔団だよ!」

「ひゃっ……!! なんだとぉっ!!」

 

百獣魔団と聞き、でろりんは言葉を失った。

 

「いや! でもまだ来ると決まったわけじゃ……」

 

希望的観測を含んだ言葉を言おうとしたが、半ばで黙らされた。台詞の途中で、魂を震えあがらせんばかりの咆哮が窓の外から聞こえてきたのだ。獣の群れの声が響き渡り、聞く者の恐怖を想起させる。

 

「あ、あの声……」

「なんだって急に、こんな大群で怪物が出て来るのよぉっ!!」

 

決定的だとばかりにでろりんは肩を落とし、ずるぼんの悲痛な叫びが響き渡る。

 

「わからない。でも、襲ってくる魔物は倒さなくっちゃ!」

「そうだわ、あなた達も偽物とはいえ勇者なんでしょ? 手伝ってちょうだい」

「俺たちが!? 無理無理無理無理!!」

 

マァムの言葉に、偽勇者一行は揃って首を横に振りながら叫んだ。

 

「なぁ……ダイ……あれ……」

 

今まで沈黙を守っていたポップが、突然口を開いた。彼の指差す先には、空を飛ぶ小さな影が見える。一体何が? とダイたちもでろりんたちもよく目を凝らしてみると、それはクロコダインの姿だった。ガルーダがクロコダインを掴み、そのまま飛行している。

クロコダインの後ろには、キメラやバピラスなどの空を飛べるモンスターが後に続く。地上を走るモンスターは城門で食い止められているが、飛行可能なモンスターは足を止めることなくロモス城へ向けて移動する。

先頭を行くクロコダインは恐ろしい形相をしていた。憤怒と決意に彩られたそれは、彼の巨体と相まって凄まじい迫力を見せる。

十分に距離があるというのに、偽勇者たちは見ただけで怯えて竦み上がってしまうほどだ。

 

「な、なんだよあのものすげえの……」

「お城に向かってるわね」

「クロコダイン!? まさか、この襲撃は……」

 

ダイがそう気づいたときだ。

 

「おい! この宿屋にはまだ残っている人間はいるか!? いたら早く逃げるんだ!!」

「は、はい。今残っているお客様は……」

 

先ほど外で大声を上げて警告していた兵士が宿へと飛び込んできた。宿は不特定多数の人間がいる関係上仕方ないのだろう。飛び込んできた兵士に対して、宿主が応対しつつダイたちの方を向いた。兵士も釣られてそちらを見て驚かされた。

 

「おお、ダイ殿ですか!? お久しぶりです!」

「知り合い?」

「うん、前にロモスにゴメちゃんを助けに来た時に出会った兵士の人……多分……」

 

自信無さげに答えるが、それは無理もない。

この兵士がダイと出会ったのは以前の事件の、それも大立ち回りの最中だ。その後は王のとりなしで宴となり、翌日に挨拶もそこそこに帰っている。兵士の一人一人が自己紹介をされたわけでもないので、ダイのことを兵士の方が一方的に知っているだけだ。

それを自覚しているため、兵士の方も特に気にした様子は見せなかった。

 

「ははは、あの時は自己紹介などもしませんでしたからな。覚えていなくても無理はないでしょう」

「ごめんなさい」

「いえいえ……おや、そういえばチルノ殿とは別行動だったのですか?」

「え? 姉ちゃんがどうかしたの?」

 

兵士の言葉にダイは不思議そうに聞き返す。そうすると今度は兵士の方が不思議そうな顔をした。

 

「おや? ご存じないのですか。チルノ殿は今朝早くに王宮へ来られ、百獣魔団が襲撃を掛けると警告してくださったのですよ」

「ええっ!?」

 

寝耳に水とはこのことか。いや、確かに姉は後から合流すると知っていたが、一体いつの間に追い抜かされたのか。しかも百獣魔団襲撃の警告までしているとは。何も知らないダイからしてみれば、とても信じられなかった。同時に、チルノが自分にとってどれだけ大事な存在なのかを再認識する。

 

「もしかして別行動を取っていましたか?」

「ああ。チルノはちょっと用事があって、別々だったんだよ」

「なるほど、そうでしたか」

 

ダイが黙ってしまい、どうしたことかと兵士が困惑する。それを察知したポップが、一言添えて何でもないというニュアンスを出してやり、言外に予定通りだから何でもないと伝える。相手もそれを理解したため、それ以上追及することはなかった。

 

「ですがこれぞ天の助け! チルノ殿だけでなくダイ殿までいれば、恐れるものはありませんな」

「いや、おれたちは……」

「おっと、いけない。申し訳ありませんが、まだやることが山積みですので、私はこれで失礼します。この戦い、必ずや勝利しましょう!」

 

そう言うと兵士は外に駆け出して行った。ロモスの小さな英雄二人が揃っていることで興奮したらしく、兵士はダイたちが応戦に参加すると思い込んでいるのだ。二人とも参加しないわけではないし、ピンチの場面に英雄がいることを知ればそう思ってしまうのも仕方ないだろうが。

 

「てか、チルノ来てるのかよ。いつの間に来たんだあいつ?」

「……おれ、城に行かなきゃ!!」

 

チルノは城にいて、クロコダインは城へ向かっている。ならば二人が対峙するのは火を見るよりも明らかだ。そうなればどうなるかは、考えるまでもなかった。

いくら姉でも、一人でクロコダインを相手にすればどうなるかは分からない。無事でいられるかどうか。そこまで考えた時点でダイの心は決まっていた。

 

「ダイ、わかってるのか!? 城にはクロコダインが……」

「だったら! だったらなおさら行かなきゃ駄目じゃないか!!」

 

慌ててポップが止めようとするが、それは逆効果でしかなかった。ポップの手を振り払い、ダイは城へ向けて駆け出していく。ゴメちゃんすら気に掛けることなく走り出すその様子は、ダイの視野がどれだけ狭くなっているかの証左だった。

 

「ダイ!! もう……ポップ! 私たちも追うわよ!!」

 

独りで先走って行くダイの背中を見ながら、マァムも追いかけるべくポップに声を掛ける。だが、当のポップの顔色は優れなかった。

 

「あ、ああ……けどよ、ダイが行ってチルノもいるんだろ? だったらおれなんて必要ないんじゃねえのか?」

「ポップ! あなた自分が何を言っているかわかってるの!?」

 

ポップの言葉にマァムは、彼の肩を掴んで問い詰める。

 

「マァムだって見ただろ、クロコダインのあの表情を……あれはハンパじゃねぇ……」

「だから! 私たちが行って加勢しなきゃ!! 仲間でしょ!? 友達なんでしょ!?」

「わかってんだよ!! わかってんだけどよ……」

 

ポップは苦しむように言う。

ダイの強さを知っているからこそ、先のネイル村にてクロコダインとの戦いでピンチに陥ったことがきっかけで、また負けるのではないかという疑念が胸中を渦巻いている。それと同時に、信じたいという気持ちも湧き上がっており、心が決まらない。

逃げたいという気持ちと助けたいという気持ち。二つの感情の板挟みにされ、苛まされる。

 

「ポップ! あなたはアバン先生から何を学んだの!? 機転を利かせてクロコダインの攻撃を封じ込めたあの時のあなたはどこに行っちゃったのよ!!」

「はぁ!? あんときは……」

 

だがマァムにはポップのそこまでの感情を読み取ることは出来なかった。彼女の目には、直前で怖気づいてしまったようにしか見えない。ポップに奮い立って欲しいからこそ檄を飛ばす。

そのマァムの言葉に反論しかけて、ポップの言葉が止まった。言われて思い出したのは先のクロコダイン戦でダイをなんとか助けた時のことだ。

 

「あんときは……」

 

あの局面にて、咄嗟に思い出したのはチルノが使った戦法。だがそれは功を奏して、クロコダインに痛手を負わせることが出来た。それどころか、まるで計ったかのようにピッタリと息の合ったタイミングでポップはクロコダインを攻撃して、マァムはダイの回復を行えた。

あれがきっと仲間と連携し合うということなのだろう。

あの時取った行動は、人の真似に過ぎない。だがそれでも、あの時のやったことをもう一回やるくらいなら、自分でもできるのではないか。

 

「あんときはダイを逃がすためにやっただけだ! おれに戦う気なんてねぇよ! だから……」

 

空元気でも元気、という言葉がある。

たとえ見せかけだけ、元気なふりをしているだけだったとしても、空元気をしているうちに本当に元気を取り戻すという言葉だ。それと同じ事がポップの中で起こっていた。

この場合はさしずめ、ヤケクソでも勇気とでも言えばいいだろうか?

たった一度だけ、その場の雰囲気に流されて行った行動。だがそれはポップの心の中に小さな勇気を蓄積させていた。一度やったことなら、もう一回できるのではないか。そう思わせる程度には積み上げられた自信。

気が付けばポップの心の中には、もう少しだけやってみようという気持ちが湧き上がっていた。

 

「だから! とっととダイを追いかけて、チルノと一緒に回収してさっさと逃げるぞ!! もう一回言うぞマァム、おれは戦わねえからな!!」

 

そう言い放つとポップは、ダイの後を追いかけるように駆け出していく。

 

「ふふふ、カッコ悪いわね」

 

その発言を聞いたマァムは、ポップの心情を何となく理解していた。虚勢にも似た発言は額面通りに受け取れば情けないことこの上ない。でもそれは精一杯の勇気の証。この姿を見ただけでも、彼女がダイたちについてきたのは間違いではなかったと思える。

口ではああ言っていても、ポップがダイを見捨てることはもうこの先無いだろう。マァムはなぜかそう確信できた。

 

「さあ、私たちも行きましょう。ゴメちゃん」

 

ゴメちゃんに声を掛けると、マァムもダイたちの後を追った。

 

 

 

「行ったか?」

 

ポップたちも走り去り、無人となった宿屋にて、でろりんが空き部屋からこっそりと顔を出した。

 

「じゃな」

 

まぞっほも物陰から姿を見せると、誰もいないことを確認する。その言葉を聞くと、ずるぼんとへろへろも隠れるのをやめて姿を見せた。彼ら一行は、兵士が宿屋に飛び込んできた途端に隠れていた。以前の偽勇者騒動もとりあえずの裁きを受けており、別段お尋ね者というほどではないのだが、兵士たちと好き好んで関わり合いたくないという微妙な小悪党な心情ゆえの行動だった。

 

「しかしあいつらすげえな、あんな化け物相手に戦いに行こうなんざ」

「あの魔法使いクンも大したものよねぇ。言ってることは情けなかったけれど、土壇場で覚悟決めちゃったって感じでさ」

 

でろりんはチラリと見たクロコダインの姿を思い出して身震いを再発させ、ずるぼんは先ほどのポップの言動を思い出して賛辞する。

「真の勇気とは打算なきもの。相手の強さによって出したり引っ込めたりするのは、本当の勇気ではない……じゃったかな……?」

「あん? まぞっほ、なんだよそれ?」

「いや、わしの師匠が言っておったんじゃよ。あやつを見ていたら、何故かこの言葉を思い出しての」

 

それは本来の歴史において、まぞっほがポップに向けて言った言葉。肝心な時に踏ん張ることが出来ず、仲間を置いて逃げ出してしまったとある魔法使いの実体験を含んだ言葉である。その歴史の中では、迷いながらも我が身可愛さに一度ダイのことを見捨ててしまったポップであったが、まぞっほの言葉を聞き、微かに残った勇気を振り絞って応援に駆け付ける。

 

「じゃが、あの小僧には必要のない言葉じゃな」

 

まだまだ頼りないが、必要な時に勇気を振り絞れる。先ほどのは仲間に尻を蹴り上げられたから動いてるだけだったが、一度動くことが出来れば二度目以降は簡単だろう。今は借り物の勇気であっても、ポップはいつの日かそれを自分だけの本物に出来るだろう。

何度機会があってもその度に動けなかった自分と比較すれば、百点満点と言っていいだろう。まぞっほはそう結論付けた。

 

「なんだ? 今更正義の魔法使いにでも目覚めたのか?」

「ならいっそ、ここらで正義の心に目覚めてあいつらの加勢に行ってみてはどうじゃ? かつての偽勇者パーティが窮地を救うなんざ、なかなかドラマチックじゃぞ」

 

そう言われて一瞬だけ考えるでろりん達。だが結論を出すのも早かった。

 

「いや、ないない」

「そうそう、あたしらには似合わないわよ」

「だな」

「じゃろうなぁ、わしも言っててジンマシンが出そうじゃったわ」

 

言っていることは情けないが、これが彼らのいつも通りだった。正しい道を歩くことから外れ、かといって裏街道にまで落ちることのできない半端な小悪党たち。だがぬるま湯に浸かるような生活であってもこれはこれで楽しいものだった。彼らには水があっているのだろう。

 

「さて、わしらはわしらの出来ることをしようかの。急がんとモンスターの大群が来るぞい」

「「「異議な~し!」」」

 

その出来ることが火事場泥棒でなければ、彼らもきっと百点満点だった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「待っていただと? オレをか!?」

 

チルノの言葉に、クロコダインは訝しんだ。自分と目の前の少女の間には関係性など何もない。そもそもこの襲撃自体が人間に察知されているはずもなく、つまり待ち伏せることなど不可能なはずだ。

にも拘わらず、眼前の少女は待っていたと言ったのだ。そういえば奇襲を掛けたつもりが、直前で城門を閉じられてしまい、空を飛べないモンスターたちは城壁を越えることもできずに苦戦していたことをクロコダインは思い出す。仕方なく自分と飛行可能なモンスターたちで先に攻め入ったのだが、飛行系モンスターだけでは数が足りず、状況はあまり芳しいとはいえない。

落ち着き払ったチルノの口ぶりから、まさかロモスの対応はこの少女が行ったのか? と推測する。チルノの得体の知れなさに、クロコダインの警戒心が一段階上がった。

 

「ええ、あなたに――正確には、あなたが持っているはずの、ブラスおじいちゃんを封じ込めた魔法の筒に用があるの」

「なっ……!?」

 

目の前の少女が発した言葉が信じられなかった。なぜ魔法の筒のことを、中身を含めて知っているのか。

 

「貴様、何者だ!? なぜそれを知っている!!」

「自己紹介が遅れたわね。私の名前はチルノ。ダイの姉で、ブラスおじいちゃんの娘よ!」

「ダイの姉だと!?」

 

その名を聞いただけで、失ったはずの片目がズキリと痛んだ。目の前にいるのが討伐の勅命を受けた相手の姉だとは、さすがに思いもよらなかった。そして、クロコダインが持つ魔法の筒を知っていることもだ。ザボエラから筒を渡されたときに、中に何が入っているのかは聞いている。

だが、この少女のことは聞いていない。仮にザボエラが意図的に伝えなかったのだとしても、この少女は得体が知れなさすぎる。

クロコダインの感情が、少しずつ驚愕の色を持ち始めていく。

 

「おじいちゃんは返してもらうわ。見たところ、あなたもそんな物を使うのは本意ではないでしょう?」

 

そう言いながらチルノは内心安堵した。本来の歴史とここまで同じ展開である以上、クロコダインは魔法の筒を持っていると踏んでいたが、確証はなかった。だが反応を見るに、まだ同じ流れを踏襲しているらしかった。ならばまだやりようはあるはずと意識を集中させる。

 

「くッ! 黙れ!! ダイをおびき出すためにロモス国王を狙ったが、姉ならばかえって好都合よ! 死んでもらおう!!」

 

多少なりともクロコダインの武人の心をくすぐる言い方をしたものの、効果はなかったわけではないが、それでも後ろ暗い覚悟を決めた心は動かなかったようだ。血走った目で斧を突き付けながらそう宣言する姿を見て、チルノはクロコダインの相手が避けられないことを悟る。

 

「王様。部屋を傷つけますが、ご容赦くださいね」

 

シナナを庇うように王の前へ出ながら、チルノは小声で伝える。だがそれを聞いたシナナは狼狽えるばかりだ。

 

「大丈夫なのかチルノ? お主一人でこの相手は……」

 

荷が重いだろうと思っていた。相手は見るからに戦士タイプ。賢者の、それも女性のチルノでどこまで戦えるのか。しかしシナナのその考えは、チルノの放った魔法を見た途端に吹き飛んだ。

 

「【ファイラ】!」

 

炎が舞い上がり、凄まじい熱を発しながらクロコダインの巨大な体を包み込む。

 

「なんと……」

 

かつて見たチルノからは想像もできないほどに強力な魔法を見せられ、シナナは言葉も出なかった。予想を遥かに超えた強さ。これならば勝てるのではないかと、そう思わせるのには十分すぎるほどだ。だが不幸なことに、チルノの相手は並みの怪物ではない。

 

「がああああ!!」

「そういえば、そんな武器を持ってたわね……」

 

突風が吹き荒れてファイラの炎が吹き飛び、火炎の中からクロコダインが姿を見せる。クロコダインは真空の斧の力を借りて、風の防壁を張ることで炎を防いでいた。とはいえ直撃は避けられたものの余波までは防ぎきれず焼け焦げた跡が見える。

本来の歴史ではポップのメラゾーマを防いだ手段だったのだが、チルノも忘れていたため同じ轍を踏む羽目になった。思わず歯噛みするものの、チルノはポップとは違い、真空の斧を使って防いだことを知っている。そして攻撃方法はこれだけではない。ならば狼狽えることなく二の矢を放てばいいだけだ。

 

「だったら……【エアロラ】!」

 

目には目を歯には歯をとばかりに、続いて風の魔法を使う。これまで使用していたエアロとは比べ物にならない程の突風が生み出され、圧縮された空気がクロコダインに襲い掛かる。真空の斧の効果で発生した風はエアロラの風圧に一瞬だけ抵抗したものの、すぐに敗れ去りクロコダインに風で出来た暴力を届ける。

 

「ぬうぅぅっ!! これしきのこと!!」

「耐えた!?」

 

だがクロコダインは腕で顔を庇いながら自身の闘気を防御へと集中させてエアロラの暴風を耐えきった。その鱗に幾らかの傷跡は残すことは出来たが、実質的なダメージには結びつかない。タフな相手だとは知っていたが、まさか本人の防御力で無理矢理耐えるとは思わず、チルノの手が一瞬止まる。

クロコダインを相手にそれは大きな隙であり、敵はそれを見逃すほど凡愚ではない。

 

「ぬん!!」

 

勢いよく振り下ろされたクロコダインの斧を、チルノは慌てて引き抜いたダイ用のナイフで受け流す。

質量が違いすぎるため、まともに受け止めればナイフなど瞬く間に破壊されてしまう。そのための受け流しだ。力の方向を巧みに逸らしてやれば、この剛力と真っ向から力比べをしなくとも済む。

とはいえ。

 

――重いッ! やっぱり真正面からじゃ相手にならない!

 

受け流しの技術を習ったが、教わっただけですぐに出来るならば苦労はない。たった一撃を受け流しただけでチルノの腕に痺れそうなほどの衝撃が走る。もっと習熟していれば、こんな無様なことにはならないのだろうが。

そもそもクロコダイン相手に自分の未熟な剣術で対抗できるなどと、彼女は微塵も思っていなかった。自分が出来ることはまず時間を稼ぐこと。ダイはこの国にいるのだ。異変に気付いてきっとここまで来るはず。ならば合流してからクロコダインを叩けばいい。

ダイ到着までの間は、可能であれば意表をついて少しずつでもダメージを与えておく。

ザボエラの時のような失態はもう犯さない。少しでも自分の有利な土俵で戦うように、チルノは自分に言い聞かせる。

 

「【フラッシュ】!」

「くっ! 小賢しい真似を!!」

 

閃光で相手の目を眩ませる魔法を不意打ち気味に使うが、クロコダインはまるでそれを予期していたように腕で目を庇い、強烈な光の攻撃を防ぐ。

 

「王様! 下がってください!!」

 

やはりこの程度では通じないかと内心思いつつも、僅かな隙を作り出すことに成功したチルノは慌てて声を飛ばした。おそらくもうクロコダインは国王のことなど眼中には無いだろうが念のためだ。流れ弾で怪我でもされるような真似は避けたい。彼女の声を聞き、シナナは這うようにして避難する。

 

「【プロテス】」

 

背後の気配が移動するのを感じながら、チルノは長期戦に備えて防御の魔法を自身へと掛ける。直接攻撃のダメージを軽減してくれるありがたい魔法だが、クロコダインのパワーを相手にどこまで活躍してくれるかは未知数だった。

不安を感じたチルノはもう一枚の手札を切る。

 

――この魔法は、あまり使いたくなかったんだけどね……

 

「【ヘイスト】」

 

続いて唱えたのは加速の魔法だ。

対象の行動速度を上昇させる、攻撃にも回避も有効な素晴らしい魔法――だと、これを覚える前のチルノは思っていた。

 

「えええぃっ!!」

 

ダイのナイフを構えてクロコダインへと突っ込む。その速度はヘイストの効果で加速され、チルノ本人の能力以上となっていた。今ならば天馬とだって競争が出来そうなくらい体が軽く感じる。だからこそ、チルノはその感覚を恐怖と感じてしまう。

 

「むっ!? なんという速度、だが!!」

 

突如としてスピードアップした攻撃に面食らったものの、クロコダインも歴戦の強者である。戦斧を横に振るい、広い範囲を薙ぎ払う。その攻撃をチルノは大きく飛び退いてかわす。

 

着地先は、彼女が思っているよりもずっと後ろ(・・・・・)だった。

 

「……ッ」

 

これがヘイストの欠点。加速された身体能力に感覚が追いつかないのだ。そのため、進みすぎたり戻りすぎたりと調整が難しい。攻撃にも回避にもその影響が出るため、前線で武器を手にして戦うのにも常にそのズレに悩まされる。

超一流の戦士ならば、このズレをすぐに修正して活用できるのかもしれないが、あいにくとチルノはそこまでの練度を持っていなかった。それでもこの速度を活かせば、かく乱程度はできるはずと考えてた。

 

「どんな呪文かは知らんが、その効果か。だが、オレには通じん!!」

 

その言葉と共にクロコダインが突っ込んでくる。だがクロコダインとまともにやり合う気のないチルノは、横をすり抜けてやり過ごそうと動いた。

 

「見切った!! そこだ!!」

「ぐっ!!」

 

そこはクロコダインの戦斧の範囲内だった。

振り上げられた斧がチルノの体に打ちつけられ、一瞬で意識を刈り取られそうなほど凄まじい衝撃が襲い掛かる。叩きつけられた勢いで彼女の体が吹き飛ばされた。

 

「チルノ!!」

 

その瞬間を見ていたシナナは思わず叫んでいた。あの剛腕から繰り出される斧の一撃がどれほどのものかは想像に難くない。それをまともに受けてしまってはどうなるか。

 

「だ、大丈夫です……」

「馬鹿なッ! オレの斧を受けて無傷だと!?」

 

シナナの心配をよそに、チルノは痛む体に鞭を打ちながらゆっくりと起き上がる。それはクロコダインからすればあり得ぬ光景。今度はクロコダインが叫ぶ番だった。

 

――無傷じゃない!!

 

反射的に喉まで出掛かったその言葉をチルノは必死で飲み込む。

いくらプロテスの魔法で守りを固めていたとしても限界がある。クロコダインの剛力で振るわれた斧はチルノの服を切り裂き、腹部から胸元に掛けて深いスリットが入っていた。

幸いなことに出血はしていないが、衝撃までは緩和しきれず打撲が酷い。もしかすれば骨にヒビくらいは入っているかもしれない。

チルノは痛みを堪えようと無意識のうちに傷跡に手を伸ばして、そして気づいた。胸元に吊るしたままのアバンの守りが、淡く光っている。

 

――卒業の証が無い私でも、アバン先生はちゃんと守ってくれてるのね

 

アバンの守りに封じ込められたマホカトールの呪文が、さらにダメージを軽減してくれたようにチルノには思えた。偶然でしかないと切って捨てるのは簡単だ。それでもチルノは、少しだけアバンの使徒に近づけたような気になり、思わず笑みをこぼす。

 

「何が可笑しい!!」

 

その笑いが癇に障ったのだろう、クロコダインが苛立ちを見せる。チルノは遠くから聞こえてくる足音を耳にしながら、余裕をもって答えた。

 

「そう、ね……時間稼ぎが終わったから、かしら?」

「なに?」

 

時間を稼いでどうだというのだ、と問いただす暇はなかった。

 

「姉ちゃぁぁん!!」

 

数名の兵士に案内されて、ダイが謁見の間へと飛び込んできた。

 

「ダイ!? おお、ダイか!!」

「来たなダイ! 待ちかねたぞ!!」

 

ダイを見たシナナは歓喜に打ち震えた。チルノの時にも感じたが、ダイもまた以前会ったときよりもより逞しく成長しているように見える。彼の言った言葉ではないが、ダイとチルノが揃えばこの戦いは負けることなどないと夢想してしまうほどだ。

 

「ダイ、来てくれてありがとう」

「姉ちゃん……?」

 

ダイは久方ぶりに再会したチルノを前に、思わず涙を流しそうだった。どうしてここにいるのか、どうやってここまで来たのか、そんな疑問など吹き飛んでしまう。ただ会えたことが無性に嬉しくて仕方ない。

そして姉を見て気付く。

彼女の服が切り裂かれ、その顔は苦痛を訴えている。それをやったのは誰かなど、考えるまでもなかった。

 

「クロコダイン!! よくも姉ちゃんを!!」

 

ダイは怒りの声を張り上げて、ナイフを構える。その後ろにはダイをここまで案内してきた屈強な兵たちが、武器を構えて立ち並んだ。

そして、怒り心頭に発しているダイの隣へチルノは立つ。

 

「ダイ。気持ちは嬉しいけれど、落ち着いて」

「でも!」

「まずは装備を整えてから、ね? それと兵士の皆さんは王様の護衛をお願いします」

 

興奮気味のダイを落ち着かせるべく優しい言葉を掛けながら、ダイ用のナイフを差し出す。同時にやってきた兵士には王と気絶した兵士の対応を頼むことで、少しでも戦いやすく場を整える。

 

「これっておれの!? 見つけてくれたんだ!!」

 

ナイフを見たダイは嬉しそうに受け取ると、それまで持っていたパプニカのナイフをチルノへと返す。久しぶりに戻ってきたナイフは、ダイの手に吸い付くように馴染む。彼のサイズに合うようにチルノが調整したのだからそれも当然であるが。

 

「ただ、悪い知らせもあるの。デルムリン島に妖魔司教ザボエラって敵がやってきて、おじいちゃんを連れて行ったの……」

「えっ!?」

「おじいちゃんは今、クロコダインが持っている魔法の筒の中にいるのよ」

「何のために……まさか……!?」

「そのまさか。人質よ……あなたを倒すための、絶対の切り札としてね」

 

チルノの言葉を聞いた途端、ダイだけでなくそれを聞いていた兵士たちもざわめきだした。人質を使うという卑劣な行為に怒りを感じ、「卑怯者!」「恥を知れ!」と口々にクロコダインを非難する声を上げる。

 

「ええいっ!! 黙れ!! 黙れえぇッ!!」

「!!!」

 

非難の言葉に逆上したかのように、クロコダインは吠えた。そして懐から魔法の筒を納めた箱を取り出す。

 

「ふざけるな!! このような物など使わずとも、オレは戦える!! 勝てるのだ!!」

「待て、クロコダイン」

 

激情に身を任せたまま、それを放り捨てようとする。だがそんなクロコダインを宥める声がどこからともなく響き渡った。

 

「よいではないか。そやつらの望み通りに使ってやったらどうじゃ!?」

「この声は……!!」

 

聞き覚えのある声にチルノは辺りを見回す。それは、部屋の天井隅に蠢く肉塊から発せられていた。いつの間にそこにいたのか、巨大な眼球と無数の触手を持ち、まるで視神経をそのまま抜き出してきたようなモンスター。

悪魔の目玉である。

 

「ザボエラ!!」

「キィ~ッヒッヒッヒッ! また会ったな小娘よ。じゃがお主に構っておる暇などないわい」

 

悪魔の目玉は魔王軍の偵察役の他、さながらカメラのように音声や光景を仲介する連絡用としての役割も持っている。その機能を使ってザボエラは疑似的にこの戦いを観戦していた。

 

「クロコダインよ! 既にお主はその魔法の筒を受け取った! その時点で使うことは覚悟していたはずじゃ!! 今更手放したところで何になるというのじゃ!?」

「ぐ……」

「半端なプライドに拘って何になる!? もはや後はないんじゃぞ!?」

「ぐ、グオオオオオッッ!!」

 

葛藤したもののザボエラの甘言に従ってしまい、クロコダインは手にしてた箱を握り潰して中に納められていた魔法の筒を取り出す。

 

「出でよ!! デルパッッ!!」

 

魔法の筒が開き、中から一体の鬼面道士――ブラスが解き放たれた。

 

「じいちゃん!!」

 

反射的に飛び出しかけたダイのことを、チルノは肩を掴んで止める。

 

「何するんだよ姉ちゃん!!」

「落ち着いて。おじいちゃんは今、デルムリン島の外に出てるのよ……」

 

そう言われてダイはハッとした。デルムリン島はマホカトールの結界に守られているからこそ、邪悪な意志の影響から逃れることが出来る。だがこの場にはそれがない。となれば今のブラスが果たしてどんな状態であるかなど、わざわざ説明するまでもない。

なぜ自分はそんな簡単なことにも気づかなかったのかと、ダイは歯噛みする。

対してチルノは、ブラスが解放されたことに安堵していた。

無力化する方法はいくらでもある。睡眠魔法や麻痺魔法などの状態異常で動きを封じてから、持参した魔法の筒で回収してしまえばいい。どうせ邪魔する者などいないのだから簡単な仕事だ。

そう考えていた。

 

「キィ~ッヒッヒッヒッ! そうじゃ! よくやったぞクロコダイン!! これでお主は絶対に負けん!! そら、ワシからの祝いの品じゃ、受け取れぃ!!」

 

だがそんなチルノの考えはあっさりと裏切られた。

ザボエラの言葉を合図に、クロコダインがあけた天井の大穴から複数の人影が降ってくる。その姿は一言で言えば、全身紫色をした人型の悪魔。片手には短刀を、もう片方の手には鞭を携えている。背中には蝙蝠を連想させる巨大な羽を備え、その羽を巧みに操って玉座の間へとふわりと舞い降りてきた。

 

「あれは、サタンパピー!?」

「何の真似だザボエラ!!」

「さっきも言ったじゃろう? 祝いの品じゃよ。お主は気にせずダイを倒せばよい。こやつらは周りの邪魔な枝葉を切り落とすための露払い役よ」

 

余計な手出しは無用だとばかりに、クロコダインは制する声を上げた。だがザボエラはダイの相手はしないということを免罪符として有無を言わせない。

ザボエラの言葉を証明するかのように、サタンパピーたちはチルノと兵士たちへ視線を向ける。その数は三体。それだけ見れば少ないと思うかもしれないが、サタンパピーは肉体能力も高く加えて呪文も使いこなす、かなりの強敵と言って良い。

そうは問屋が卸さない。

そんなことわざを思い出しながら、チルノはサタンパピーたちを睨みつける。

 

 

 

「ザボエラ様、よろしいので?」

 

ここは妖魔師団のとある一室。

ザボエラと妖魔師団所属の魔術師たちが水晶玉を前にずらりと並び、悪魔の目玉を通じて映し出されるロモスの光景に見入っていた。その集まっていた魔術師の一人が、ザボエラへの疑問を口にした。

 

「あん? なにがじゃ?」

「サタンパピーの事です。妖魔師団でも上位のモンスターを三体も投入するなど……」

「それに、ロモスはクロコダインの担当地域。むやみに妖魔師団所属のモンスターを入れるのは後々問題になるのでは?」

 

渡りに船ではないが、別の魔術師もザボエラへの疑問を口にする。出されたその意見は、どちらも至極真っ当なものだ。魔王軍とて組織である以上縄張り問題は存在しており、そこにサタンパピーという強力なモンスターを繰り出せば争論の種になることは間違いないだろう。

 

「クロコダインへ策を授けたとはいえ、心配になって妖魔師団でも上位のモンスターを援軍として派遣する。仲間を助ける(・・・・・・)行為の一体何が悪いんじゃ?」

 

だがザボエラは意に介した様子も見せず、邪悪に笑う。その顔からは、仲間を心配している様子など微塵も感じられない。一切の澱みなく紡がれた台詞からは、ザボエラが前もって回答を用意していたということがありありと見て取れた。白々しく仲間(・・)とまで言う。

それはつまり、これは予定された行動であり、魔王軍内部にて問題に上げられたとしても問題なくやり過ごせるという自信の表れでもある。仲間などとはカケラも思っていない。クロコダインのことも自身の出世のための駒の一つとしか見ていない。

 

「クロコダインには必勝の策を授けておるが、あのダイとかいうガキは中々やりおるからな。保険じゃよ、保険。仮に奴が親を見殺しにして戦ったとしても、クロコダインを相手に戦えば無傷では済むまい。そうなれば弱ったところをサタンパピーどもに仕留めさせることもできる」

「おお、なるほど!」

「さすがはザボエラ様!」

「策が成功すれば、ダイを倒す助力をしたということでワシの株も上がる。それにこやつらはアバンの使徒じゃ。周りの雑魚とて倒せば十分に加点となる。どちらに転んでも損はないわい。キィ~ッヒッヒッヒッ!」

 

既にザボエラの脳裏には敗北の二文字は存在していなかった。後はダイをクロコダインが倒すのかそれとも手駒のサタンパピーが倒すのか。興味の大半はそちらに傾いている。

 

「それにまだ仲間がいたじゃろう? あ奴らにも、即席ながらも面白い策を用意してあるわ。どうなるか見ものじゃわい」

 

自身の策が成功することを微塵も疑うことなく、水晶玉を眺めながらザボエラはさらに下品に笑った。

 

 

 

「ダイ!」

 

サタンパピーたちと睨み合う中、出遅れたポップとマァムがようやく追いつき、玉座の間に飛び込んできた。

 

「遅れてごめんね」

「悪い、道が混んでた! ……って、なんじゃこりゃ!?」

 

遅れた理由にカッコつけるようなことを言ってから、ポップは驚いた。彼が想定していた敵以外にも三体のモンスターがいたからだ。

 

「ポップ! それと……」

「私はマァムよ、よろしくねチルノ。詳しい自己紹介は後でするわ」

「マァムね、わかった。初めまして」

 

ポップがビビっているその横では初対面となるマァムとチルノが軽く挨拶をかわす。チルノはマァムのことを知識としては知っているのだが、この時点ではさすがに名前を呼ぶわけにもいかない。

チルノが言葉に詰まったのを察したマァムが助け舟を出してくれたおかげで、スムーズに事が運んだ。

 

「は、話が違うじゃねえか……クロコダインだけじゃなかったのかよ……」

 

三体のサタンパピーは飛び込んできたポップたちも攻撃対象とみなして視線を向けてきた。その視線にポップは怯え、チルノへと縋るような視線を向ける。

 

「文句はあそこにいる妖魔司教に言って」

「あそこ……うわっ!! なんだあの生き物は!?」

「悪魔の目玉……?」

 

初めて見たのか、ポップは悪魔の目玉のグロテスクな見た目に圧倒されて思わず声を上げる。

 

「来おったか残り物のアバンの使徒ども!! 飛んで火にいるなんとやら、お主たちにはコイツをくれてやろう!!」

 

ポップたちが来たことを知って、ザボエラは嬉々として叫んだ。そして玉座の間に煙が立ち込みはじめ、カーテンのように辺りを覆い隠す。その煙の向こう側からは床から何かが徐々に生み出されていくのが見える。

 

「なんだ!?」

 

生み出されていくモノは次々と重なり合い、煙のカーテンに人型のシルエットを映し出す。その朧気なシルエットを見ながら、知らず知らずのうちにポップは呟いた。

 

「アバン……先生……?」

 

 




なんとアバンが敵に!?……なわけないですよね。これほど偽物だとバレバレなのもそうそういないかと(苦笑)多分10人中9人くらいは考えつくネタだと思います偽アバン。そしてザボエラならやりかねないと思いませんか?
でもって、偽アバンを出現させるのは序盤がベスト。後半だとアバンの死を乗り越えられていますが、序盤の頃だとフラッと出てこられると本物だって信じてしまう。不都合な真実よりも都合の良い嘘を信じてしまうって心理です。

当初はマネマネにしたかったんですが、初出がDQ4(DQ4の敵は魔界の魔物扱いなのでどうかと思って)なので別の手段にしました。そんな縛りなんて無視して普通にマネマネにすればいいのにね。(ボラホーンとか種族トドマン(グレートオーラス?)(どっちもDQ4)ですし)
ハタから見れば一瞬の足止めにしかなりませんが、アバンの使徒には絶大――になるかはザボエラの演技力にかかっている。そんな扱いになってるはずです。何をしたのかなこの妖怪ジジイは。
(絶対普通にマネマネにした方が良かったって後悔するパターンだなこれは……)

「出したり引っ込めたりするのは本当の勇気ではない!」ってまぞっほの台詞、言わせてあげたかったなぁ……
あのセリフはあくまできっかけでしかなくて、もともとポップはこのくらいやってくれるって信じてます。勇気と自信をちょっとずつでも積み重ねれば、ビビりつつも活躍してくれるって信じてます。勇気を司るアバンの使徒なのですから、このくらいはね。
その代わりダイがまだ甘ったれ。誰かがダイの尻を叩かないと。

サタンパピー。原作よりも強いダイに加えて戦力も増えている。だったらザボエラだってこのくらいはしますよね?(それにコイツが邪魔しないと「スリプル、イルイル」で終わってしまう)
(そういえばコイツ、外見の『アレ』は腹筋ですよね?モッコリじゃないですよね??)

ヘイストに自ら制約を掛けていく。倍速で動けても感覚置いてきぼりになるかなって。
(スカラやバイキルトは当人の持つ能力以上の攻撃力や防御力を発揮するから戦士系からは嫌われている。って設定をどこかで見たような気がしたんですが……)

どうしてこんな展開になった……


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