隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:23 激戦を終えて

「な、なんじゃこれは!? それに、お主たちは一体……!?」

 

ダイたちの前に姿を見せたのは老年のパプニカ兵だ。白髪を短く刈り込み、髪と同じく白い髭を蓄えている。身に着けている鎧にはあちこちに傷がついていることもあり、見た目だけならば歴戦の古強者を思わせる。

だが今その男は視線の先に流れるマグマに注意が向いていた。無理もないだろう。この辺り一帯は元魔王の居城であり、死火山となっているはずである。それがこれだけ活動しており、おまけにそこへ見知らぬ人間までいるのだ。驚くなと言う方が無理である。

 

「初めまして。私たちは……」

「い、いや待てお主らは……どこかで……?」

 

この中で唯一相手の素性を知るチルノが誤解の無いようにと口を開く。だが彼女が何かを言うよりも先に、相手の方がチルノたちを見て何事か考え始めた。

チルノとダイの姿を交互に見回しながら唸っているその様子に、思わずチルノも動きを止める。やがて相手は何かを思い出したように手をポンと叩いた。

 

「そうじゃ! ダイ君!! それにチルノさんじゃな!?」

「は……はい、そうです。私たちの名前を知っているということは、あなたは?」

 

喜色を浮かべてダイとチルノを指差すと、二人は何故知っているのかと驚いた顔を見せる。

いや、チルノだけは相手のことを知識として知っているが、直接の面識はない。そのため初対面の対応を装っていた。とはいえ相手の勢いに多少面食らっていたのも事実だが。

 

「やはりそうじゃったか! わしはバダック。レオナ様のお付きの兵士の一人じゃ」

「!!!」

 

バダックと名乗った老兵士の言葉に、チルノを除く全員が弾かれたように反応する。特にダイたちにしてみれば、この国に来て初めてのパプニカ国民との邂逅である。驚かないはずもない。

 

「バダックさんですね。ご存じでしょうが、私はチルノです。レオナから聞いているかわかりませんが証明代わりにこれをどうぞ。ご確認ください」

 

そう言うとチルノは鞘からパプニカのナイフを引き抜いて、バダックへと見えるように差し出す。

 

「おお!! これは姫がそなたに渡したと言っておった太陽のナイフじゃな」

 

バダックはそれを受け取ると、まるで商人が鑑定をするかのようにナイフを見回す。形状や装飾を細かく調べ、特に根本にある宝玉は念入りに確認する。

 

「ふむ、確認させてもらったわい。確かに本物のようじゃな。すまんのぉ、疑っているわけではないのじゃが……」

「いえ、変に誤解を招くような真似になるくらいなら当然ですよ」

 

しばらく検分を続けていたが、やがて納得したように笑顔でバダックはナイフをチルノへと返す。彼女もまた、それが当然と言った態度で受け取る。

 

「えーと……今の何?」

「お姫様から貰ったっていうそのナイフで、身元が証明できるのか?」

 

そのやり取りが何を意味しているのか理解できずにいたダイとポップが揃って疑問の声を上げた。

 

「ダイは知っているでしょ? これはレオナから貰った王家の武器。つまり、これを私が持っているということで、間接的な素性の証明にもなるの。そして、バダックさんはそれを知っている。つまりそれだけレオナに近い位置にいたという証拠にもなるのよ」

「それだけではないぞ。この短剣は、刃の付け根にはめ込まれた宝玉からパプニカの紋章が透けて見えるんじゃ。何も知らず、形だけ真似た短剣を作るような不届き者がいた場合、この透かしを見れば真贋は一目瞭然というわけじゃな」

 

さながら現代日本のお札の透かしと同じようなものである。透かしの入った本物の短剣を持っていたおかげでチルノは本人であると認められ、バダックから信用されたということだ。とはいえ手段さえ選ばなければ、姿形はモシャスの呪文で真似て短剣は奪ってしまえば成り代われなくもないのだが、バダックは人が良いのか既に気を許した態度を見せている。

 

「「へぇ……」」

 

一方、そんなことは露知らずにいた二人は説明を聞いて感心した顔をする。

 

「でも、そんなのよく知っていたわね」

「レオナから貰った大切なものだし、手入れをしていれば紋章のことくらい誰でも気づくわよ。由緒正しい大事な物だってことは、本人からも聞いていたから」

 

マァムの言葉に、チルノは大したことはないと返す。実際、本来の歴史でもパプニカのナイフは素性の証明としても使われていたのだ。そうでなくとも一国の姫が持っていた護身道具である。相手にも受け取っているという話が伝わっている以上、そのくらいは知らなくても想像はつくだろう。

 

「……あっ!? じゃあ、おれの持っている短剣ってもしかしたら偽物になるんじゃ……!?」

 

感心もそこそこに、ダイが思い出したように唐突に声を上げる。そしてチルノとバダックを交互に見ながら、まるで捨てられそうな子犬のような不安げな目をする。

 

「ふむ? どういうことじゃ?」

「以前、私がパプニカのナイフを真似てダイ用に短剣を作ったんです。それで心配しているんじゃないかと」

 

現在ダイは、ロモス王から頂戴した鋼鉄の剣(はがねのけん)の他にもう一本、チルノがその特異な生産スキルにて必死で拵えた短剣を装備している。これはパプニカのナイフを参考に作られているため、形が似ている。そこを心配しているらしい。

だがバダックはダイの短剣の素性を知らぬため、頭の上に疑問符を浮かべる。そこをチルノがすかさず補足すると、それを聞いたバダックは少しだけ何かを考えるようなポーズを取った。

 

「なるほど。その短剣を少し見せてもらってもいいかの?」

「うん。はい、これ……」

 

チルノの話を聞いて興味が湧いたのか、バダックが申し出る。ダイは自身の持つ短剣が取り上げられるのではないかという恐怖からか怯えながらも素直に差し出した。

 

「ほほう……なるほど、なるほど……」

 

短剣を受け取ると再びつぶさに観察を始める。とはいえ今回は太陽のナイフの時よりも時間はかからない。全体をざっと見まわすと。すぐにナイフをダイへと返した。

 

「大丈夫じゃよ。似ているのは形だけで、装飾などは別物じゃ。ましてや姫の知り合いであるダイ君が持っているとなれば、そうそう目くじらを立てられることもあるまい」

「本当!? よかった……」

 

ダイにしてみれば、これはチルノから貰った大切な武器である。それを形が似ているという理由で取り上げられたりしようものならば、はたしてその落胆は如何ほどだろうか。とあれ太鼓判を押されたことで、ようやく安心した表情を見せる。

 

「さて、とりあえずお主らの素性はわかった。どうしてここにいるのか、ここで何があったのか、聞きたいことは山ほどあるわけじゃが……」

 

そう言いながらバダックは少し離れた場所に視線を向ける。

 

「さすがにこんな場所で、というわけにもいかんからのぉ。どこかに移動せんか?」

 

その視線の先には、未だ熱を発して元気に暴れ回るマグマの姿がある。十分に距離を取っているため、そうそう簡単に溶岩流に巻き込まれる心配はしないが、視界の端にそんなものが見えていては落ち着けるはずもない。

 

「腰を据えられる場所か……おれたちが拠点にしていた場所まで戻るか?」

「でもあそこ、もう片付けちゃったわよ」

 

この数日間、ダイたちが仮の拠点として過ごしていた場所のことだ。だがチルノの言うように、決戦に向かうに際して片づけてしまっている。再び準備すれば寝食も可能となるだろうが、時間も掛かる上に人数が増えているので随分と手狭である。

 

「落ち着けてすぐに休める場所が理想かな?」

「そうね。ダイもヒュンケルも、普通じゃないくらい疲れてるはずだもの」

「港町、は無理だし……神殿も……」

 

熾烈な激戦を繰り広げた後のため二人の剣士の疲労は筆舌に尽くしがたい。出来ればすぐにでも柔らかなベッド――とまではいかなくとも、ゆっくり休める場所が望ましい。

 

「ならば、わしの隠れ家まで来るか?」

「え?」

 

どうしたものかと思っているところに、バダックが声を掛ける。

 

「ここから離れた場所なんじゃが、そこに潜んでおったんじゃよ。高級な宿屋というわけにはいかんが、あてのない野宿よりかはマシに過ごせるはずじゃぞ」

 

パプニカ兵であるバダックは、国を滅ぼされ仲間とはぐれてからも再興を信じて疑うことはなかった。いつか訪れる祖国奪還の機会を信じて、敵の占領下にて密かに活動を続けていた。その際に作り上げた拠点である。

 

「お言葉に甘えちゃう?」

「異議なし。というかダイたちを早く休ませてやろうぜ」

「あいわかった、ならばわしに任せておきたまえ。さあ、こっちじゃよ」

 

ポップたちの言葉を聞いて、バダックは上機嫌に勇んだ様子で歩き始めた。ポップが慌ててそれに続き、チルノがダイに肩を貸しながらそれに続く。そしてヒュンケルは――

 

「ヒュンケル、どうしたの?」

 

立ち上がってはいるもののすぐにバダックたちの後を追うでもなく、ただ黙って遠くを見ているその姿に気付いたマァムが声を掛ける。

 

「いや、失ってみると存外名残惜しいものだと思ってな……」

 

遠くを見つめるヒュンケル。その視線の先には、マグマの海に沈んだ地底魔城があった方角だ。

 

「そう……」

 

マァムもヒュンケルの気持ちを慮り、言葉少なめに呟いただけだ。ヒュンケルにとって地底魔城は、幼少期を父親と過ごし育った場所であり、同時にその父の死に目を看取った場所でもある。そして不死騎団長となってからは、人間を恨み一国を滅ぼす拠点となった場所であり、真実を知らされた場所なのだ。

悪い思い出ばかりというわけではないが、印象深い事件も多くあった場所だ。大雑把に分類すれば、地底魔城は気に入っていたのだろう。物言わぬ部下たちも、執事のように振舞っていた骸も、今は全てマグマの海の底に沈んでいる。そんな事実を突きつけられれば、心の整理など簡単にできるはずもない。

 

「いや、大丈夫だ。不死騎団長だった頃のオレは、あそこでもう死んでいる。踏ん切りをつけるには丁度良いだろう」

 

だがヒュンケルはマァムに心配をかけさせまいと平気なように振る舞い、まだ生命力は不足して貧血のようになっているだろうに、それを感じさせない足取りで少し遠くに見えるダイたちの後を追い始めた。

 

「それと……」

 

マァムへ完全に背を向け、表情を一切見せないようにしてからヒュンケルは呟く。

 

「今のオレはあの場所よりも大切なものがある。だから気にすることはない」

 

そう言って、かつての魔剣士は己の胸元に手を当てる。そこには彼の過去と現在をそれぞれ示す証がひっそりと揺れていた。

 

 

 

「【リジェネ】」

 

ベッドの上に横たわるダイにチルノは自己再生促進の魔法を使う。穏やかな光がダイを包み込み、未だ残る傷をゆっくりと癒していく。今までも何度か感じたことのあるくすぐったいようなその感触を堪能しながら、弟は姉に向けて微笑んだ。

 

「ありがと……姉ちゃん……」

「落ち着いたら、今日はもう寝ちゃいなさい。後のことは私たちがやっておくから」

「うん、おねがい……」

 

そう言うとそのまま瞳を閉じ、よほど疲れていたのか肉体が安息を求めていたのか、すぐに眠りについた。

 

ここはバダックの隠れ家、その寝室である――と言っても部屋などあってないようなもの、いや部屋と言うのもおこがましい、洞窟を整えた程度のものである。元々が一人で隠れ潜むための家である。寝台もあるが一人分だけ。あとは適当な家具などがある程度だ。

とあれその一つしかないベッドの上にダイを寝かせると、簡単に治療を終える。そもそも、ここに来る途中にもケアルの魔法を使って傷の回復は行っている。だが、幾ら回復魔法を重ね掛けしようとも、心までは回復しない。ヒュンケルと闘い、自身の放てる現在最強の技を繰り出し、そして溶岩の海を渡って命からがら逃げているのだ。疲れもする。どんなに強い人間であっても、敵を気にすることなくゆっくりと休める時間というのは必要になる。

なお、隠れ家までの移動にはチルノが持つキメラの翼を利用した。歩いても良かったのだが、一刻も早く二人を休ませたいという願いが優先された結果である。

そして完全に余談ではあるが、翼による移動でわかったこととして、バダックの隠れ場所はチルノたちが仮の拠点として利用していた場所とは真逆の方向にあった。大神殿を挟んで西に向かえばバダックの隠れ場所が、東に向かえばチルノたちの拠点がそれぞれあった、と言えばわかりやすいだろうか。対極の位置を中心に移動しているためか出会う確率も下がっていたらしい。

とはいえそんな事実をバダックもダイたちも誰も気にも留めなかったが、本来の歴史を知るチルノだけはそういう理由で会わなかったのかと一人こっそりと納得していた。

 

「スラリン。大丈夫だとは思うけれど、ダイのことを一応見ていてもらえる?」

「ピィ」

 

枕元のスラリンに向けてそう頼むと、了承の返事が飛んできた。チルノからの依頼ということもあってかスラリンは飽きることなくダイの様子を眺めている。そんなスライムの様子に満足しながら、続いてチルノはヒュンケルの方へと目を向ける。

 

「マァム、そっちはどう?」

 

ヒュンケルは部屋の隅で(むしろ)のような簡素な敷物の上で、自身のマントを掛けて寝ていた。ベッドが一つしかないうえに本人が「オレは床でいい」と意固地になったため、仕方なく取った措置である。

そんな彼の近くには、マァムが献身的についていた。彼のことを心配する彼女らしく、何が起こってもすぐに対応せんといった気構えが見え隠れしている。

 

「ええ、こっちも寝たわ」

 

チルノの言葉にマァムも若干安心したように答える。ヒュンケルはこうやって眠るまでの間、ずっと気を張っていたのだ。そして眠りについている今であっても、どこか気難しそうな寝顔をしている。もしもマァムが傍にいなければ、もっと険しい表情をしていたかもしれない。

 

「そう、よかった」

 

眠りについた二人を起こさないように小声で返事をする。ヒュンケルの場合はダメージもさることながら、グランドクルスで消耗した生命力の方が比重としては大きい。そのため、ゆっくり心と身体を休めて回復に専念できる時間が何よりも重要になってくる。ちょうど今のような時間が大切なのだ。

 

「ダイも寝たし、私はポップの方に行くけれど、マァムはどうする?」

「私は……」

 

少しだけ切なそうに隣のヒュンケルを見つめる。その動作だけで、彼女の気持ちを雄弁に語っていた。

 

「それじゃ、私だけ行ってくるわね」

「ごめんね」

 

マァムと、彼女のすぐ近くにいたゴメちゃんにそう告げるとチルノは寝室を後にする。

本来の歴史ではヒュンケルはダイたちを迫りくる溶岩から救うためにその身を犠牲にする。死んだかと思われていたが、その後クロコダインに助けられ、揃ってダイたち一行の危機に加勢するのだが……

チルノは頭を悩ませる。

自分のしたこととはいえ、クロコダインは未だ姿を見せず、逆にヒュンケルは命を危険にさらすこともなく無事に加入している。その変化が未来に何か大きな影響を与えなければ良いのだが。これからの魔王軍の行動にも、一行の人間関係にも、だ。それら未知の出来事に対して不安と、不謹慎ではあるが、ほんの少しだけワクワクする気持ちを感じていた。

 

「むむむ……そんなことがあったとは……」

 

洞窟を出て、チルノが顔を覗かせると、ちょうどポップの話を聞いていたバダックが唸り声を上げていた。その声のイントネーションから感心の意味が含まれていることから、彼が話を終えたのだろうとアタリをつける。

 

「ごめんねポップ、一人で相手させちゃって。もうお話は終わったの?」

「ああ、まあ……大雑把に何をしたか程度だけどな」

 

そうして声を掛けると、ポップが言う。彼には、ダイたちがホルキア大陸に来てから今までのことをバダックに説明することを頼んでいた。ダイやヒュンケルの怪我に何か手助けできるわけでもなし、一人暇を持て余すくらいならば、というわけである。ダイたちの休息を邪魔することのないよう、バダックと二人で外に出ていた。

とはいえ、一口に説明と言っても色々と込み入った事情もある。どこまで話せば良いものか頭を捻らせつつも、とりあえず当たり障りのない範囲の内容をポップは伝えていた。

具体的には、自分たちはダイの仲間であり、アバンの使徒であること。ロモスで百獣魔団を倒し、海路でパプニカまでやってきたこと。不死騎団を倒したこと。その後に氷炎将軍と名乗る敵が現れて、死火山に衝撃を与えて溶岩に囲まれたが命からがら逃げてきたところをバダックと偶然出会った。という程度である。

なお、不死騎団長の正体については明かしていない。さすがにペラペラと簡単に吹聴できる内容でもなく、扱いは慎重にならざるを得なかった。今のヒュンケルは、パプニカで合流したアバンの使徒の仲間だと説明していた。

――嘘は言っていない。

 

「おや、チルノさんか。ダイ君たちの容体はもう良いのかね?」

「はい、ベッドを貸していただいて、ありがとうございます」

「なんのなんの。この程度のこと、君たちの偉業に比べれば些細なことじゃよ」

 

チルノの言葉にバダックは笑顔で言う。ポップから活躍を聞いていた彼に取ってみれば、今のダイたちは救世主のようなものだ。バダックの状況は言うなれば、隠れ潜んでいたら祖国が奪還されていた。といったものである。そのため、少しでも力になれたなら光栄であると本気で思っていた。

 

「君たちの活躍はポップ君から聞かせてもらったよ。しかし、不死騎団がすでに倒されておったとは。事前に知っておれば、わしも参戦したんじゃがの」

 

だが同時に、自身の力を少しでも発揮したいという気持ちもある。兵士でもある彼には、戦いという活躍の場がなかったことを悔いるように吐き出した。

 

「老いたりとはいえ、かつてパプニカにこの人ありと謳われた剛剣の冴え、お主たちにも是非見せたかったわい」

「そ、そういえば、バダックさんはどうして地底魔城に?」

 

その言葉を聞き、チルノは慌てて話題を変えた。本来の歴史でも同じようなことを言ってダイたちについて行こうとしていたバダックであったが、戦力としてはお察しである。自分も今度は仲間として剣を振るうなどと言い出さないようにするための措置である。

隣ではポップがよくやったと言わんばかりの表情を浮かべていた。どうやら彼もチルノと同じ考えだったらしい。

 

「む……いや、三日ほど前から不死騎団のガイコツたちの姿をまるっきり見かけなくなってのぉ。怪しいとは思いつつも偵察をしておったんじゃ。そしてあの日は地底魔城へと思ったところで、落雷やら大爆発やらじゃ。駆け付けたところで、偶然にもお主たちと会えたわけじゃよ」

 

チルノの言葉を聞くと、存外素直に教えてくれた。

ヒュンケルが決闘に集中させるために部下たちへ下した戦闘禁止命令は、知らぬうちにバダックも対象に含まれていた。そのために敵がいないことを不審に思い、バダックは偵察を繰り返していた。そして、いざ本拠地を確認してみようとしたのは偶然にも決闘当日。ダイたちのライデインやグランドクルスといったド派手な技を見て近寄ってきたのだ。

 

「しかし、溶岩に飲まれかけるとは災難じゃったな……よく生き延びられたもんじゃ」

「ああ、そうだな。チルノがいなかったらあそこで全滅していたぜ」

 

ポップも思い出したように呟く。溶岩に囲まれて逃げ場がなくなるなど、普通ならばそうそう味わうことの出来ない体験である。チルノの空中浮遊の呪文で辛くも難を逃れたが、それがなければどうなっていたことかを想像して身震いする。

 

「でもポップ、あなたも助けられたはずよ」

「あん? どういうことだそりゃ?」

「トラマナの呪文は知ってる? あれを使えれば、溶岩を渡れたと思う」

 

トラマナはざっくり言えば、毒の沼地や溶岩、バリヤーなどを無力化する呪文である。分類としては魔法使いの操る呪文に属しており、その理屈で言えばポップでもあの場はパーティを救えたはずである。

 

「トラマナ、ねぇ……」

 

だがチルノの言葉を聞きながらもポップは渋い顔をしていた。そんなチンケな呪文を覚えるくらいならば、強力な呪文を操り敵を一掃、というのが彼の考え方である。そのため、あの場面でも自分がもっと強力な――溶岩すらも凍り付かせるくらいに強力な呪文を覚えれば良いのではないか考えてしまう。

派手な技に傾倒するという気持ちは分からなくもない。だが、呪文を使って敵を倒すだけが魔法使いではないことをそろそろ自覚させた方がいい。そう遠くない未来を思いながらチルノは苦言を呈しているのだが、どうもうまく伝わらなかったようだ。

 

「ポップ君、チルノさん」

 

二人が話していたところに、バダックが真剣な表情で割り込んでくる。

 

「よくぞ魔王軍を――不死騎団を倒し、パプニカを救ってくれた! 姫に代わって、わしからも礼を言わせてくれ!」

 

胡坐のまま、深々と頭を下げる。その姿からは感謝の念がありありと伝わってくる。先ほどまでのどこか接しやすい愉快な姿とのギャップで、見ているチルノたちが慌ててしまうほどだ。

 

「そんな、頭を上げてください! 私たちは大したことはしていませんから」

「そうだな、一番苦労してたのはダイだぜ。まあ……おれたちもちょっとは頑張ったけどよ」

「じゃが、君たちも骨を折ってくれたのは事実じゃろう? ならば……」

「そんなことはありません。レオナの――友達のためですから。当然のことです」

 

意固地になろうとするバダックであったが、チルノがそれを遮る。その言葉を聞いた途端、バダックは感涙の涙を流した。

 

「くうう……なんと、なんと……賢者の儀式をデルムリン島で行ったのは、やはり間違いではなかったのじゃな……あの姫のことをこんなに慕ってくれる友が出来るとは!!」

 

かつてのデルムリン島で起きた謀反未遂事件。その時には賢者バロンと司教テムジンの策略もあってバダックは同行することは出来なかった。だが、レオナから伝え聞いていたダイとチルノという二人の話。そしてその二人の話をするときのレオナの嬉しそうな表情は、聞いていたバダックにもまだ見ぬ相手を信頼させるほどだった。

そして実際に会ってみれば、救国の英雄でありながらもなんとも奥ゆかしい。彼にしてみればまるで伝説の勇者の再来のようであった。

 

「姫にも今すぐ伝えてやりたいわい」

「ん? てことは、姫様の居場所を知っているのかい?」

「いや、無事じゃということは分かっておるが、居場所については……」

 

ぽつりと呟いた言葉にポップが耳聡く反応すれば、バダックはあっさりと肯定する。そうして話を始めようとしたが、再びチルノが口を挟んだ。

 

「そのお話は、出来ればダイたちが起きてからの方が二度手間にならずに良いと思いますが……一日を争うのなら、私たちだけでも先に聞きますけれど」

「む……? 判断は難しいところじゃが……姫のことじゃ、一日くらいは大丈夫じゃろう。それに、話をしても今日はまともに動けんじゃろうからな」

 

チルノの言葉にバダックは考え込むが、最終的には同意する。彼の知るレオナの情報も、言われたように寸暇を惜しむほどの緊急性があるわけでもない。そして、話をしたとしても、すでに日は傾き始めており、もうじき夕方から夜になろうとする時間帯である。ダイたちが休んでいることもあって、ここで話さなくてもそれほど問題はないと判断していた。

 

「さて、では代わりに食事の用意でもするかの。せめてもの礼じゃ、出来るだけ豪華になるよう頑張ってみるわい」

 

すっくと立ち上がると、そう言ってどこかへ向かう。おそらく食料を取りに行ったのだろう。

 

「いい人みたいね。でも、それだけに心苦しいっていうか……」

「ああ。正直今までいなくてよかったと思うぜ。ヒュンケルのことがあるしな……」

 

バダックの姿が見えなくなったことを確認してから、チルノが重々しく口を開いた。それにポップも同意する。ヒュンケルの問題というのはパプニカに住んでいたものにとってはデリケートな問題だ。

 

「今の段階ではバダックさんには伏せるように後で言っておくわね。それでこの場は凌げるだろうけど、レオナと会ったら流石に誤魔化せないだろうし……頭が痛いわ……」

 

正体を明かすにしても、タイミングというものがある。ヒュンケルの誠実な気持ちというのもわかるが、ここで馬鹿正直に言っても誤解を招くだけである。本人としてはもどかしいことこの上ないだろうが、しばらくは我慢していてもらうしかないだろう。

本来の歴史ならばヒュンケルは、バルジ島でのフレイザード戦に加勢したこともあってかその罪を許されていた。だが、今回の場合はそれも期待できそうにない。おそらくチルノの知るように、レオナはバルジ島に隠れているはずである。だが、フレイザードが都合よく出てきてくれる保証はない上に、今のフレイザードでは空裂斬を使えるダイならば苦戦はしないだろう。

そうなれば、ヒュンケルは魔王軍を抜けたまま何もしていないと受け取られかねない。レオナの性格上、そのまま処刑などにはならないとは思うものの、兵士たちは納得できないだろう。

 

「そのレオナって、この国のお姫様のことだろ? お前だけでも先に安否のことを聞かなくていいのか?」

「うーん……聞きたい気持ちはあるけれど、出来ればダイと一緒に聞きたいかなって思って。それに、レオナなら無事だって信じているから」

 

それは本来の歴史を知るからこそ言える言葉だった。だがそれを知らぬポップには、チルノがダイの事を立てて無理をして心を押し殺しているようにも見える。自分よりも年下の少女が気丈に振舞うように感じてか、ポップはそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

「さて、ではずいぶん待たせたように感じるが、姫様たちのことについて、わしの知っていることを話そう」

 

翌日。すっかり元気になったダイたちを集めて、バダックはそう切り出した。

 

「まず姫は無事じゃ」

 

その言葉に一行は安心した表情を見せる。

 

「じゃが居場所はわからん。不死騎団の襲撃で神殿が破壊されたときに、皆とは離れ離れにされてしまったからな……」

 

しかし続くバダックの言葉に再び顔色が悪くなった。居場所が分からないのでは、現在の最新状況が分からないからだ。そして、不死騎団の襲撃という言葉にヒュンケルが顔を微かに曇らせる。幸いにと言うべきか、それを気づいたのはダイたちだけであったが。

 

「だが安心してよいぞ。姫の傍には常にパプニカ最強の賢者三人がついておる! きっとこの大陸のどこかに無事に生きておられるはずじゃ!」

「そっか、よかった……」

「そんな強そうな護衛がいれば、安心だな」

 

三賢者が付いているという言葉にダイたちは心配した様子を完全に見せなくなった。ただ、チルノだけは違った。パプニカの賢者という言葉自体がどうしても忌避感を覚えてしまうのだ。

何しろ比較対象があのバロンである。知識として知っているので無用な心配だと分かっていても、実際にバロンと会った身としてはどうにも信頼しきれない部分があった。同じようなことをダイも考えているかと思ったが、様子を見る限りではどうもそうではないらしい。

 

「姫はいつも言っとった……『ダイ君とチルノが来れば必ず勝てる。それまで皆で頑張ろう』とな……じゃが、それがまさかもう既に叶っていたとは……わしも粘った甲斐があった……」

 

感慨深そうにバダックが言うと、ダイは照れたような顔を見せる。昨日も同じような気持ちになっているために涙こそ流さなかったが。

 

「後は姫様に戦勝を知らせるだけじゃな」

「いや、さっきの話だと居場所は分からないって言ってただろ?」

 

ポップの言葉に、バダックはニヤリと不敵に笑った。

 

「なぁに、その辺については昨日しっかりと考えておるわい!」

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「で、神殿に来たは良いけど、ここに一体何の用があるんだ?」

 

バダックの言葉に従い、一行は神殿跡地へと移動していた。だがその道中、ここで何をするかは一切知らされていなかった。ただ、行けばわかるという言葉に従って来たものの、かつて見た廃墟のような光景が広がっているだけである。

 

「ふっふっふ。ここのどこかに、地下倉庫があるんじゃよ」

「地下倉庫?」

「倉庫の中に何かあるんですか?」

 

妙案を思いついてから時間が経過していたことで、少し茶目っ気が出たのだろう。わざと勿体ぶるような言い回しをしていた。

 

「ズバリ、火薬玉じゃよ……!」

「火薬玉?」

「パプニカではな、戦場の合図として信号弾を用いるんじゃよ。火薬玉を見つけ出して打ち上げれば、この大陸のどこかにいる姫様の目にも届くに違いない」

「なるほど!」

 

質問の答えを聞いて、マァムが納得したようにポンと手を叩く。その反応を見てか、バダックは満足気に笑う。

 

「『我勝てり』の赤い信号弾を見れば、きっと姫様も安心して姿をお見せになるはずじゃ」

「……それが、魔王軍に見つからなければな」

 

得意げになっていたバダックに向けて、ヒュンケルが口を挟んだ。

 

「む……?」

「そうね。私も、それが気になっていたの」

 

ヒュンケルの言葉にチルノも頷く。

 

「フレイザードが現れてからまだ一日しか経っていない。まだこの大陸にいるかもしれないわ。そこに信号弾なんて目立つ合図をすればどうなるか……」

「重要な何かがここにある、と敵に宣伝しているようなものだ」

 

それはチルノだからこそ言える意見でもあった。彼女の言う通り、本来の歴史では信号弾を見たレオナの所から先遣隊が出てくる。だがそれが気球という目立つ偵察手段であったことが災いしてか、隠れ潜んでいたレオナの所へフレイザードが襲撃してくるのだ。

 

「な、ならばどうするんじゃ!? このホルキア大陸を虱潰しに探せというのか?」

「いいえ。信号弾は打ち上げましょう。でも来ると分かっていれば、対処の方法はあるわ」

「えーと、つまり……どういうこと?」

 

チルノの言っていることが分からないというように、マァムが言う。ダイとポップも同じように分からないと言った顔をしている。

 

「敵に気づかれている、ということを前提に行動すればいいの。レオナが姿を見せたら――って言っているけれど、まずは誰かが安全を確認しに来るはず。だったらそこで事情を話してすぐに動けるようにすれば、危険は減るはずよ」

 

早い話が、敵が来ると分かっているのだから、奇襲を受ける前にさっさと行動してしまおうということである。

 

「それに、襲ってくるとしたらフレイザードでしょう? だったらこっちには切り札があるわ」

「なるほど、ダイか」

 

流石はアバン流刀殺法を習い魔王軍幹部の情報を持っているだけはあり、ヒュンケルがいち早く気づいた。そんな兄弟子の洞察力を流石と感心しながら、チルノは頷く。

 

「ええ、空裂斬よ。あれがあれば、フレイザードを相手にかなり楽に勝てるはず」

 

空裂斬の特性を知る彼らにしてみれば、素直に理解できる話である。全員が納得したように頷き、自然にダイへ視線が集まった。

 

「大丈夫、任せてよ!」

 

そんな全員の期待に応えるかのように、ダイは力強く頷く。そんな弟の様子を、チルノは頼もしそうに見ていた。

本当はレオナがどこに隠れているのか言ってしまい、全員でそこまで移動するのが一番安全かもしれない。だがここで下手に秘密裡に行動すれば、フレイザードが野放しになりかねない。そしてもしも未来にて下手なタイミングで邪魔をされるくらいならば、多少レオナを危険に晒すことになってもさっさと撃退した方が良いだろうと考えていた。

 

「よし、話はまとまったようじゃな! ならばまずは全員で地下倉庫を探すぞ!!」

 

バダックの言葉を合図に、全員が廃墟の探索を始めた。とはいえ、瓦礫などが大量に存在しており、景観すら完全に変わっている。元の姿を知るバダックであってもどこに何があったか分からなくなっているほどであり、ひたすら地道に探すしかなかった。

 

「うへぇ……! こりゃ大変だぜ……」

 

思わずポップが愚痴を零すが、それも無理はない。地下倉庫への階段が瓦礫の隙間から見つかればよいが、階段そのものが瓦礫で完全に隠れている可能性があるのだ。それを考慮すると、最悪ここの瓦礫全てを撤去しなければならない。

 

「スラリン、あった?」

「ピィ」

「ゴメちゃんは?」

「ピー」

 

ダイとチルノが、それぞれ相棒のモンスターに声を掛ける。小さな彼らたちは、人間では見つけられない場所まで入り込むことが出来るため、こういう場面では重宝されていた。とはいえ、何時崩れるかもしれない廃墟である。注意深く探索を行っているためか、成果は芳しくない。

先ほどの返事も、何も見つからなかったと言っている。

 

「あっ! これじゃない!?」

 

さらにしばらく探し回っていると、マァムが声を上げた。この声に全員が集まると、確かに瓦礫の折り重なった僅かな隙間の下に地下への階段が見えている。

 

「確かにあるのぉ、しかし……」

「こりゃ、狭すぎるぜ。潜り込めねぇよ」

「スラリンたちなら入れると思うけど?」

「残念じゃが、どれが必要な火薬か判断できんだろうし、それに大きさもの問題もある。とてもスライムでは持ち運べんじゃろう……」

「となれば、これを片付けるしかないだろうな」

 

全員が意見を出し合うが、妙案は浮かばない。そしてヒュンケルの言葉に導かれるように全員が積み重なった瓦礫に目を向ける。

 

「でも……ちょっとこれをどかすのは無理じゃないの……」

 

マァムがそう言うのも無理はない。高さだけでも人の四倍はありそうなほど(うずたか)く積まれており、破片の一つ一つも大きい。人の手でこれを片付けようとすれば、果たしてどれだけ時間が掛かるだろうか。

 

「そうでもない。ダイ、力を貸せ」

「え?」

「秘剣を使うぞ。あれなら問題なく壊せるだろう」

「あ、そっか!」

 

ヒュンケルの言葉に納得したように飛び出すと、ダイは剣を逆手に持つ。その様子を見て、先を知るチルノは一応釘を刺しておくことにした。

 

「ダイ、一応言っておくけれど火気厳禁だからね」

「大丈夫だってば。それにこのくらいなら、魔法剣を使うまでもないよ」

「頼もしいな……行くぞ!」

 

その威力を身をもって知るヒュンケルが薄く笑いながら、こちらも負けじと剣を抜いて全身に力を込める。ダイも同じく精神を集中させ、闘気を込める。

 

「アバン……」

「ブラッディー……」

 

以前は互いに相手へと向けて放たれた必殺技だったが、和解することのできた今ではこうして隣に並び立つことが出来る。

 

「ストラッシュ!!」

「スクライド!!」

 

放たれたそれぞれの秘技はさながら合体技のように重なり合って力を増し、巨大な瓦礫へと一直線に突き進む。力を合わせた時の威力は凄まじく、瓦礫全面に対して圧倒的な破壊の渦をまき散らしていく。ほどなくして、あれほどあったはずの瓦礫は綺麗さっぱりなくなっていた。

 

「ははは……とんでもねぇの……」

「じゃが、これで入れるわい! 早速行ってくるぞ!!」

 

ポップが何かを諦めたように言うのも無理はなかった。仮に彼の魔法だけでは、丸一日かけても無理だろう。それほどの破壊力なのだ。細かく砕かれた小石ほどの破片や砂だけが、辛うじてここに巨大な瓦礫があったことを証明している。

やがて、バダックが手に信号弾を持ちながら出てきた。

 

「待たせてすまんのぉ。あったぞ、信号弾じゃ」

 

そう言って手に持つのは、火薬玉と筒だった。打ち上げ花火の仕掛けを想像するのが一番早いだろう。筒も導火線も火薬玉も、まさにそれである。

 

「それに、こんなものもあったわい」

「なんですか、それ……?」

 

一緒に手に持っていたのは、金属片であった。長方形に形作られたそれは、ただの鉄板にしては少しだけ色が違う。鉄の鈍色にしては鮮やかな発色をしており、加えて薄い青色が混じっている。

 

「これはのぉ、キラーマシンの装甲を真似たものじゃよ」

「ええっ!?」

「チルノさんが言ったのじゃろう? 禁忌であってもより安全に研究して利用する方法があるはずじゃと。その研究の成果の一つじゃよ」

 

レオナがデルムリン島に来た際に、チルノはキラーマシンの残骸を貰うためにそう言ってパプニカの人間を説得したことがあった。そのときの行動が巡った結果が、バダックが手にしている金属である。

 

「とはいえまだ研究段階。生み出された金属は本物よりも脆かったが、じゃが既存の鉄よりは硬いから一応の成功とも言えるじゃろうな。仮にじゃが、キラーメタルと呼んでおった。これからこの金属を実用化しようとしていたんじゃが、戦争には間に合わなくてのぉ……」

 

これが間に合っていれば負けることはなかった、とでも言うように悔しそうに呟くものの、すぐに気を取り直す。

 

「パプニカ一の発明王と言われたこのわしも、お主の発想には驚かされたわい。それに、お主の言葉を信じて保守派の人間を説得して回った姫もじゃな。二人の協力した結果が、これを産んだのじゃよ」

 

友情の結果とでも言うように得意げになるが、チルノの耳にその言葉は届いていなかった。

 

「キラー……メタル……」

 

いうなればこれは、チルノが歴史を変えた結果生み出された物である。本来の歴史には存在しなかった物であり、彼女の行動の成果の一つと言ってもいい。バダックの言うように実用化まではしていなくとも、これがあればと思う程度には有効なものらしい。どこか不思議な感じを覚え、彼女はその金属から目が離せなかった。

 

「差し出がましいのですが、それ……いただけますか?」

「勿論じゃ。そもそも発案者に是非とも見てもらおうと思って持ってきたのじゃよ。さあ、受け取ってくれたまえ」

 

そう言って差し出されたキラーメタルを受け取る。手にした途端、ずっしりとした重さが伝わってくる。材質から考えれば、キラーマシンの装甲をそのまま転用したダイの短剣よりかは脆いだろうが、それでも硬度はかなりの物らしい。

 

「さて、わしは信号弾を打ち上げる。それまでゆっくりしていてくれ」

 

そう言うとバダックは少し離れた、打ち上げるのに適した場所を探しに行く。そうしてチルノたちだけが残された。だがチルノはキラーメタルを見つめたままだ。

 

「キラーマシンの装甲利用とか、すげえな。けど、そんなもん貰ってどうするんだ?」

「……うん、決めた。ダイ、あなたの剣を貸して?」

「え、これ? どうするのさ?」

 

意を決したように、チルノはダイに言う。ダイは何をしようとするのか分からないまま、それでも言うことに素直に従い鋼鉄の剣(はがねのけん)を抜くと姉に手渡した。

 

「……やっぱり。もう結構傷ついているわね」

 

手にした剣を簡単に見回す。ロモス王から頂いたばかりの新品の剣であったが、刀身には細かな傷や刃零れは当然、剣そのものが歪んでいた。それはヒュンケルとの戦いがどれだけ激戦であったかの証でもある。

 

「このキラーメタルで、鋼鉄の剣(はがねのけん)を強化しましょう」

「え……だって姉ちゃん、ナイフを作ったときだってすごい時間かかってなかったっけ?」

「一から作ればね。でも今回は、刀身の補強とコーティングくらいだから、すぐに出来るはずよ」

 

ダイの疑問は尤もだったが、チルノは平然と返す。素材も扱いやすくなっており、影響個所も少ない。ならば短剣を作った時よりも時間が掛からないのも道理である。ましてやこれからフレイザードとの戦いを控えている以上、少しでも強化しておきたいと考えるのは当然だった。

 

「いいのか? 話を聞いていた程度だが、大事な物なのだろう?」

「せっかく貰った物だし使わないと。それに、自国のお姫様が生み出した金属で作られた剣を手にした勇者が助けに来るなんて、ロマンティックじゃない?」

「そうなのか? まあ、ダイが良いのならオレは何も言わんが……」

 

チルノの返答にヒュンケルは困ったような表情を浮かべて、だがそれ以上は何も言う必要がなくなったのか黙ってしまった。話の矛先を向けられたダイは素直に頷く。

 

「うん。姉ちゃん、お願い」

「任せて」

 

了承の言葉を聞くと、チルノはすぐに生産技能を使って金属片で剣を強化していく。そこから少し離れた場所からは信号弾が打ち上がり、大空を赤い煙が彩っていく。

 

やがて、空の彼方からはパプニカの紋章の刻まれた気球船がゆっくりと姿を現した。

 

 




今回は動き少なめ。気球に乗るまでは行く予定だったのになぁ……

この世界のトラマナって破邪呪文に分類されるらしいので、溶岩には効果あるのかな?
(キルバーンの罠みたいな呪文関係ではなく、自然現象なので効果範囲外に思えて)
『トラ』ップをふ『マナ』い、だからトラマナ。の語源から考えると確率半々くらい?
まあ、有効ということにしておいてください。そもそも元の呪文からして、ダメージ床避けの結界を張るのか、ちょっと浮くのか、どんな効果なのかわかってないし。

そろそろマトリフ師匠が出ますね……登場させられるよね?
頑張れ未来の私……
(師匠に「MP? そりゃムチムチプリンって意味だぜ」とか言わせてセクハラさせたい)
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