隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:46 激戦! 竜騎衆!! 後編

「ハッ! お前みたいな雑魚がオレの相手をしようとは……笑わせてくれるぜ!」

「な、なんだと!?」

 

自身の前に立ち塞がったポップのことを頭の先からつま先まで見回すと、ガルダンディーはため息を吐いた。その安い言葉に、だがポップは過敏に反応する。しかしその反応すら、ガルダンディーにしてみれば興が削がれる要因の一つでしかなかった。

 

「事実を言ったまでだろうが? 裏切り者の元軍団長を倒せばまだハクが付くってのに、こんな人間一人殺しても自慢にもなりゃしねぇ……」

 

ポップの見た目は、どこから見ても強者という言葉が連想されるような物ではない。魔法使いという職業の為に多少貧弱なのは仕方の無いことであり、さらに悪いことに比較対象がクロコダインとヒュンケルなのだ。

その二人と比べては、ポップを弱そうに感じるのも無理は無い……というより、世界中の人間の大半が弱く見えるだろう。比較対象が間違っている。

 

他の二人の竜騎衆は、その強者の相手をしているというのに。なんでオレだけ……僅かに悲観に暮れるものの、ガルダンディーはすぐに気持ちを切り替えた。

 

「だがまぁ、バラン様からは油断するなって厳命されてるんでな! お前にゃ精々、人間って種族の限界を味わいながら死んでもらうぜ!!」

 

つい先ほどに味わった、底冷えするほどの恐怖。その時の感覚を思いだし、無様な姿など万が一にも見せられないとばかりにポップを睨みつけた。鳥人族であるガルダンディーが持つ猛禽類のような鋭い視線に射貫かれながらも、ポップも負けることはない。

 

「ふざけんな! こっちだって負けるつもりはねぇ!! メラミ!!」

 

手に持った杖を振るい、火炎呪文を浴びせかける。生み出された火球は一直線にガルダンディーへと襲い掛かっていくが、相手は軽い身のこなしでそれを回避する。馬鹿正直なだけの攻撃など、この辺りのレベルになってくるとそう簡単に当たるものではない。

 

「ヘッ、あぶねぇあぶねぇ……ルード!!」

 

そう口では言うが、その態度からは余裕がありありとにじみ出ていた。馬鹿にされていることを理解しつつポップが追撃の呪文を放つよりも早く、ガルダンディーは相棒たる空竜(スカイドラゴン)の名を呼んだ。

主が地に降りたため上空に待機していたルードであったが、その声を聞いてすぐさま降下する。反対にガルダンディーは自らの翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。

 

「逃げた!?」

「クハハハッ!! 違ぇな、こうする為よ」

 

そのまま空中でルードの上へ飛び乗ると、手綱を掴んで軽く振り回した。それが相棒への命令となり、ルードは大きく息を吸い込んだ。

 

「さあ、焼き殺せ!!」

「う、おおおおっっ!?」

 

主の命令を受けて、ルードは燃え盛る火炎を吐き出す。上空から放たれるブレスの攻撃は、地上にいるポップにしてみれば炎の壁が降り注いでくる様な物だ。少ない逃げ場を求めて必死で駆け出し、どうにか炎の直撃を回避する。

 

「汚ぇぞテメェ!! そんな場所から攻撃するなんて!!」

 

天空を悠々と舞うスカイドラゴンの姿は、端から見れば雄大な光景にも映る事だろう。だが今のポップにしてみれば、そんな呑気なことは一切考えられない。敵は距離を取り、しかも手の届かない上空から攻撃を行ってくる。

対してこちらは地上から空に向けて呪文を放たねばならない。三次元的な行動の取れる空中ならば、相手は簡単に攻撃を避けるだろう。ただでさえ強敵を相手にしているというのに、普段の戦いでは意識を裂かないことにまで注意して攻撃せねばならない。こんな不公平なことがあるだろうか。

 

怒りとやるせなさで思わず叫ぶが、ガルダンディーは涼しい顔であった。

 

「クハハハッ!! 吠えてろ吠えてろ!!」

 

彼からしてみれば、人間など取るに足らない存在でしかない。そして、これは戦いというよりも駆除という認識の方が強かった。邪魔な人間を殺すだけの行動は、害虫駆除のようなものだ。安全な場所から炎を吐いて殺すころに、何のためらいもない。

 

「そのナリから、お前が魔法使いってことはわかってんだよ! だったら、呪文も届かねぇ場所から攻撃してりゃ、そのうち死ぬだろ!!」

「そんなの、魔法使いだろうが戦士だろうが同じじゃねぇか!!」

 

手も足も届かない場所から炎のブレスを吹き続けていれば、相手がどんな職業であろうとも同じだろうと訴えるが、その言葉も今のガルダンディーにとってみれば何の痛痒も感じることはない。

 

「ハッ! やっすい挑発だなぁ!! 逆だよ、逆!! 貧弱な魔法使いだからこそ、安全な場所からちょいと焼けばすぐに殺せるって寸法よ!! そもそもお前は前座! そんな雑魚相手に無駄な労力は使えねぇなぁ!!」

 

体力のある戦士では、殺すのにもう少し手間が掛かる。場合によっては直接攻撃でダメージを与える必要があるだろう。だが肉体的に脆弱な魔法使いならば、ブレスだけで問題なく倒せる。そんな危険を冒す必要もないということだ。

完全にポップを下に見た発言である。

 

――ちくしょう!!

 

ガルダンディーの言葉を聞き、思わず心の中で毒づいた。敵が誇りを持っていれば、挑発することで正々堂々という戦い方を選択するかも知れないと、ポップは賭けていた。だが実際はまるで相手にされていないだけだった。

 

「そら、わかったらとっとと死ねよやぁ!!」

 

再びルードが鎌首をもたげ、眼下に向けて炎を吐き出した。上空から見下ろすポップの姿はまるで地を這う虫のようであり、その虫を相手に火を投げかけて追いかけ回す。その行動がガルダンディーは溜まらなく愉悦を感じる。

 

「くうぅぅっ!!」

 

飛翔呪文(トベルーラ)を使えば、ガルダンディーと同じ場所で戦うことは出来るだろう。だがそれは、逆に自らを不利に導くはずだと判断する。空戦騎と名乗っているのだ、空中戦はお手の物だろう。

そして相棒のスカイドラゴンもいる。チルノが話した事前情報によれば、ガルダンディーとこの空竜は子供の頃から一緒に育ってきた相棒のような関係だという――何故そんなことを知っているのかはさておいて。

 

そんな二人を前にして下手に空中戦を挑めば、逆にコンビネーションであっという間に殺されかねないだろう。幾らトベルーラに慣れたとはいえ、空を得意領域とする敵を相手にして押し勝てると思うほどポップは呑気では無い。

 

「ならこれだ! ヒャダルコ!!」

「おおっと!!」

 

迫り来る炎を大きく飛び退いて回避すると、その勢いを殺すこと無く立ち上がって冷気呪文を放った。だがその攻撃は、ガルダンディーが手綱を捌くことであっという間に無力化されていた。

空中を移動することで直撃など易々と避けてしまい、吐息を放つ場所を調整することでヒャダルコの冷気とぶつかり合って相殺してしまう。

比較的範囲が広いはずのヒャダルコでこの結果ということは、他の呪文であってもどれだけの効果をもたらすことが出来るのやら。

試しとばかりに放った呪文の結果に歯噛みしながら、再び天空を我が物顔で舞うドラゴンへと視線を向ける。

 

「無様だなぁ、その程度の冷気呪文でルードの炎を防ごうってのか!?」

「…………っ!」

 

ガルダンディーの挑発の言葉を聞きながら、ポップは必死で抗う術を模索する。

――問題なのは距離と位置関係だ。上空からではポップの行動の殆どが見るだけで手に取る様に分かってしまい、離れているために何か行動を起こしても余裕で反撃の手段を用意されてしまう。

 

――くそっ!! 情けねぇ!!

 

このままこの場所でやり合っていても、勝機どころか反撃の機会すらまずあり得ないだろう。そう考えたポップは、踵を返して近くの林へと駆け込んだ。

 

「おやおや~? なんだ、隠れちまうのか? オレを倒しに来たんじゃねぇのかよ!?」

 

そんなポップの行動を上から眺めながら、完全に逃げた見なしたのだろう。手綱を操るとゆっくりと後を追いかけていくようにスカイドラゴンを移動させていく。その様はまさに猫がネズミをゆるゆると痛めつけている姿を連想させる。

 

「おっと、木の陰に隠れたのか。まあ、そのくらいの頭はあるだろうなぁ……」

 

だが口ではそう言いながらも、ガルダンディーにしてみればその程度の考えは児戯にも等しいものだった。ルードとのコンビで戦っている時に、同じように遮蔽物の影に隠れた相手など無数に存在していた。

彼の中ではこの程度の抵抗など、あってないようなものだ。

 

「だが気付いてねぇのか? そんな細い木じゃ、何本用意しようとルードの炎の前にゃ、盾にもならねぇのさ!! あの街みたいに、林ごと焼き尽くしてやるよ!! クワーックワックワッ!!」

 

逃げ込んだはずの遮蔽物が壁となり、逆に追い詰められることになる。そうやって勝利を手にしたことなど、過去に幾らでもあった。今回もそれと同じことで勝利を得ることが出来るはず、そう思ってた。

 

「…………あの街だと!?」

 

隠れたはずのポップは半身ほどを見せながら、ガルダンディーへと叫ぶ。

 

「テメェ、ここに来る前に何かしたのか!?」

「あん? なんだ、気になるのか? たしか、ベンガーナとか言ったか? ちょっとしたウォーミングアップってヤツだ、目障りだったから焼いてやったのよ!! バラン様もお許しくださったぜ!! 開戦の狼煙には丁度良いってな、クハハハハッ!!」

 

その言葉でポップは思い出した。この戦いの前に、ベンガーナから火の手が上がったという連絡が入ったのだ。そのときはてっきりバランの仕業かと思っていたが、目の前の敵の仕業だったのだ。

彼とて、バランに言いたいことが無いわけでは無い。だがそれ以上に、今のガルダンディーにはもっと分かり易い怒りを感じている。準備運動代わりに人の命を奪うなど、とうてい許容できるものではない。

 

「なんだと……!? テメェ!!」

 

怒りに震えながら、ポップは頭の中で一つの対抗手段を思いついた。

ヒントはチルノが教えてくれたスカイドラゴンとのコンビネーションと、皮肉にもガルダンディー自身が口にしたベンガーナという言葉だ。今の自分ならば、下手に強力な攻撃呪文を連発するよりも有効だろう。

問題は、実行するポップ本人が少々胸くそ悪い想いをすることなのだが、先のガルダンディーの言葉でそんな気遣いはとっくに吹き飛んでいた。

 

「なぁに、どうせ人間なんざ全員滅ぼすのよ。少し早いか遅いかの違いでしかねぇ! それにお前もすぐに、あの世へ送ってやるよ!!」

 

再び大きく息を吸い込み、スカイドラゴンが強力な火炎を放った。扇状に広がっていくそれは、炎で作られた波のようだ。確かにこれほどの火力であれば、下手な樹木など飲み込んでしまうだろう。

自信ありげにしていたように、普通の相手ならば遮蔽物ごと焼き尽くして勝利を得てきたというのも十分に頷けるほどだ。

 

「バギ!!」

 

だがポップとて無力ではない。攻撃呪文やブレスの攻撃から身を守るために風を操るなど、彼の仲間が幾度となく実行していたのだ。あれだけのお手本があれば、真似ることなど容易いこと。ましてや彼は、世界一の大魔道士の弟子なのだ。

この程度は出来て当然だろう。

 

鍛え上げられた魔法力から生み出された真空の刃は、火炎の息を切り裂いて行く。だがそこまでで魔法力が尽きたのか、スカイドラゴンまでの通り道が空中にできあがっただけだ。

――目論見通りに。

 

「見えたぜ! そこだ!!」

 

自信があったはずの炎の攻撃を防がれて、ガルダンディーたちは僅かに動揺していた。驚愕に目を見開いたドラゴン目掛け、ポップは懐に入れたままの袋を思い切り投げつける。

 

「あん……?」

 

それに拍子抜けしたのはガルダンディーの方だった。

炎を防いだのであれば、次は必殺の呪文の一つでも放ってくるはず。だが実際に行ったのは、訳の分からない袋を投げつけると言う行動だった。

とはいえ、幾ら無駄に見えても敵の投げた物を無策に受けることなどありえない。何が狙いかは知らないが、この程度ならば少し身を捻るだけで簡単に避けられる。少しだけスカイドラゴンの身体を動かす。

 

「イオ!!」

 

それを待っていたのはポップも同じだ。彼は威力を抑え、代わりに速度を高めるように調節した爆裂呪文を小袋目掛けて放った。イオの光球は狙い違わず袋に激突すると、爆発して中の物(・・・)を空中一体に散布する。

 

「がっ! ゴホッ!! なんだ、こりゃ……!? くそっ、けむってぇ!!」

 

爆発と同時に噴煙が生み出され、それがガルダンディーに襲い掛かる。ただの爆発煙にしてはやけにまとわりつくそれを手で振り払いながら、一端距離を取ろうと相棒のスカイドラゴンに命令を下そうとしたときだった。

 

「ルード……?」

 

相棒から感じる大きすぎる違和感。その感覚は殺意となってガルダンディーへと襲い掛かってきた。

 

「ガアアアアアアアアアッ!!」

「ルード!? 落ち着け、何があった!?」

 

必死で手綱を操りながら言葉を投げかけて、どうにか制御しようとするがまるで上手くいかない。以心伝心と呼べるほどの相棒であったはずのスカイドラゴンは、今や殺意に満ちた瞳でガルダンディーを睨みつけ、自身の背に乗るそれを振り落とそうとすべく、空中で大暴れを始める。

 

「くおおぉっ!? し、仕方ねぇ!!」

 

そのあまりの暴れっぷりにもはや制御することを諦め、ガルダンディーは自身の翼を打ち鳴らして空へと逃げる。これで振り落とされる心配は無くなった。だが新たな問題が発生していた。

 

「ルード、止めろ!! オレがわからねぇのか!?!?」

 

空中へ浮かぶガルダンディー目掛けて、スカイドラゴンがその巨大な顎を開けて牙を突き立てんと噛みつく。相棒を傷付けたくないガルダンディーは、その攻撃をギリギリまで引きつけて避ける。その間も訴え続けるが、効果はまるで無い。

 

「すっげぇ効き目……」

 

自分でやらかした事とは言え、そのあまりの効果に思わずポップは呆然としていた。

彼が投げつけた小袋こそ、ベンガーナのデパートにて購入した"毒蛾の粉"である。その効果はメダパニ――つまり、吸い込んだ相手を混乱させて同士討ちを引き起こす。

どうやらガルダンディーには吸い込んだ量が少なかったのか、それとも耐性があったのか、効果が及ぶことは無かった。だがその相棒であるスカイドラゴンのルードでは抗うことは出来なかったらしい。

今のルードには、ガルダンディーの姿がおぞましい化け物に見えていることだろう。

 

「グワアアアッ!!」

 

相棒と呼んで差し支えない相手に襲われることは、想像以上に動揺を生み出していたのだろう。爪と牙に襲いかかれた幾度目かにて、遂に避け切れず、ガルダンディーは大地へと叩き付けられた。

だがそれだけで攻撃は終わらない。

弱り、地へ落ちた敵を前にして、スカイドラゴンは攻撃の手を緩めることなく、更に追撃を仕掛けようと突撃していく。

 

「畜生……!! 許せルード……ッ!!」

 

自らへと襲い掛かる相棒を前にして、ガルダンディーは覚悟を決めた。牙の攻撃をやり過ごしながらカウンター気味に素手の一撃を叩き込んだ。

スカイドラゴンはその空戦能力と引き換えに、ドラゴン種族の中では比較的肉体が弱い部類に入る。だがだとしてもドラゴン族の一員だ。半端な攻撃ではダメージとならないだろう。

そう考えたガルダンディーは、相棒の目を覚まさせるべく、全力の拳を叩き込んでいた。

 

「グアアアアアッッ!!」

 

絶叫と共に、スカイドラゴンが大地にその身を横たわらせる。

それは、互いに相手の事をよく知っているが為に起きた悲劇と言って良い。すれ違いざまに放たれた拳は、攻撃した本人の予想すら超えてルードに大ダメージを与えていたのだ。それは痛みで正気を取り戻すと言った範疇を大幅に超えてた一撃となっていた。

 

「ル、ルードッ!!」

 

自分の攻撃を受けて瀕死となった相棒を見ながら、慌てて駆け寄る。だが大地に倒れたスカイドラゴンはピクピクと全身を痙攣させ、ガルダンディーの言葉に反応すらしない。

 

「そ、そんなあぁぁっ!! うおおおおっ!! なんでお前が、あんまりだああっっ!!」

 

自身の手で相棒を瀕死にまで追い詰めたことが、予想以上にガルダンディーの心を蝕んでいた。涙を流しながら必死で相棒にすがりつくその姿は、人間が仲間を失った時のそれと何ら変わる事は無いように見える。

 

――これが、チルノの言っていたヤツか……

 

そんなガルダンディーの姿を見ながら、ポップは心の中でアドバイスを反芻する。弱点であると同時に逆鱗でもあり、倒せば良くも悪くも戦況が変わる。

相棒を失った悲しみと怒りを持って、今度は自分に襲い掛かってくるのだろうということは容易に想像が付いた。

だが同情することはしない。目の前の相手はベンガーナの街を焼き、ダイを連れ去ろうとする敵なのだ。

 

――そうだ! 今のうちに!!

 

「ギラ!!」

 

少女から託されたアドバイス従い、ギラの呪文を放つ。その閃熱は、未だ悲しみに苛まされるガルダンディーの頭部の羽を包み込む。

 

「なっ……!? ぐああああっ!?!?」

 

ルードにすがりついていたガルダンディーには、その一撃を回避することはできなかった。呪文で生み出された熱量はそのまま頭部の羽を燃やし尽くす。

 

「これでその厄介な羽は使えねぇだろ?」

「テ、テメェ!! なんでそれを知ってやがる!?」

 

ゆっくりと悲しみに浸る暇すらガルダンディーには与えられない。その目の端には涙を残しながらも、不意打ちをされた怒りと、自身の奥の手である二種類の羽の効果を何故知っているのかという驚きで、感情がまぜこぜになっている。

 

「ヘッ、大事なドラゴンを手に掛けたのはお気の毒だがな、お前だって何人も人間を殺したんだろうが!!」

「うるせぇ!! このルードは、オレが唯一心を通わせた兄弟なんだ!! それをよくも、ドブくせぇ人間どもなんかと一緒にしてくれたなぁッッ!!!!」

 

――おいおい、こりゃ聞いてねぇぞ……

 

ポップの言葉を聞いて涙を流しながら激昂するガルダンディーの姿を見ながら、少しだけチルノへ文句を言う。大事な相棒だとは知っていたが、ここまでの怒りを見せるのは彼にしても想定外だった。

だが、同時にチャンスでもある。冷静さを欠いた相手ならば、どんなに強い相手だろうと付け入る隙は必ずあるはずなのだ。

 

「ヘッ! ハゲ頭で何を言おうと、怖くなんかねぇんだよ!! んで、次は剣か? その腰に差してんのは飾りか?」

 

ビビりそうになる己の心を必死で押さえつけながら、余裕の笑みを浮かべて更に相手を煽ってみせる。そのポップの言葉通り、ガルダンディーは腰に差していた剣を抜き放つ。

 

「お望み通り剣だ!! コイツで切り刻んでやるよ!! 拾い集められねぇくらいバラバラにな!!」

「出来るもんならやってみろ鳥野郎!! 先にこっちが焼き鳥にしてやる!!」

 

激怒のあまり竜すら逃げ出すほどの強烈な眼光を浴びながら、ポップもまた杖を構え直してガルダンディーへと対峙しなおす。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「……なるほど。似ているというのは、やはりそういうことか……」

「何のことだ……?」

 

ヒュンケルの独白に向けて、ラーハルトは尋ねる。

 

「なに、お前達がここに来るまでの間、バランが人間を憎む理由について話し合っていたのだ。そのときに少し、な……」

「なんだと……?」

 

その言葉に耳にしてラーハルトは鼻で笑う。幾ら話し合ったところで、バランの心の痛みを理解することも、その原因を探り出すことも人間になど出来るはずが無い。そう思っていたからだ。

 

「バラン様が人間を憎む理由か……面白い、それで答えは出たのか?」

「ああ、おそらくでしかないがな……」

 

バカにしているとすら感じられる、相手を軽んじる口調だった。だがそんな態度を見せるラーハルトを無視して、ヒュンケルは続きを口にした。

 

「……アルキード王国」

「ッ!?」

 

たった一言でしかない。だがその一言を耳にした途端、ラーハルトは呼吸を忘れたように驚き、大きく動揺を見せる。

 

「バカな! 何故だ! どうしてそれを知った!?」

「あくまで推測でしかない、最初にそう言ったはずだ。だが、お前の言葉で確信が持てたよ。ありがとう」

「ぐ……っ!」

 

自身の態度が敵に大きなヒントを与えてしまった。バランに忠節を誓うラーハルトにとってみれば、それは耐えがたい屈辱であった。ぎりりと奥歯を噛み締めながらヒュンケルを睨みつける。

 

「そして、どうやら負けるわけにはいかなくなったようだ。ダイのためにも、バランのためにも、チルノのためにもな!」

「バラン様のためにだと!? どういう意味だ!?」

「オレもかつては、人間の世界に失望していた。だが、仲間達が気付かせてくれたんだ。人間の世界もそれほど捨てたものじゃ無いということを……今度はオレがバランにそれを教えてやりたい……いや、バランだけではない! お前にもだ!!」

「な……なにが、だ!?」

 

バランだけでなく、自分をも救う。そう口にするヒュンケルの姿は、ラーハルトからしてみれば未知の存在でしかなかった。その口ぶりから、推測でしかないと言っているが、バランの過去の傷のことを完全に知っているのだろうことが覗える。

そして、それを知った上でラーハルトをも救うということはどういうことかなど、容易に想像がついた。

 

「お前もまた人間の世界に絶望したのだろう? おそらくは、その特異な生まれのために迫害を受けた……違うか?」

「馬鹿な……なぜそれを知っている……?」

 

ラーハルトは魔族の父親と人間の母親との間に産まれた混血児である。だがラーハルト本人がそれを打ち明けたのはバランに対してのみ。他の者が、ましてや人間が知っているなど信じられようはずも無い。

 

「ある人物から聞いた、とだけ言っておこう……他には、お前の槍はオレが持つ鎧の魔剣とは兄弟のような物だ、とかな……」

「…………」

 

その言葉にラーハルトは押し黙る。

自分たちのことを知る人物がいると言う事実で、どう動くかを図りかねているのだろう。俯いたその姿勢を見ながら、ヒュンケルは更に口を開く。

 

「ラーハルト! オレは、お前とは戦いたくない! 今が、バランがやり直せる最後のチャンスかもしれんのだ!! お前が真にバランのことを想うのならば、頼む!!」

 

彼の精一杯の言葉であった。互いに口を閉ざしたままの時間が流れ、やがてラーハルトが重く口を開く。

 

「……鎧化(アムド)

 

それは鎧の魔槍を発動させるキーワードだった。その言葉に従い、魔槍は展開するとラーハルトの全身を包み込み、彼に鎧を纏わせる。

ヒュンケルが身につける全身鎧とはまた違ったデザイン。急所を重点的に防御しており、それでいながら動きやすさを兼ね備えた、重鎧といったところだろうか。

鎧を身につけたということは、彼の意思を改めて確認するまでもない。

 

「ラーハルト!!」

「お前なんぞに何が分かるというのだ!! バラン様もこのオレをも救うだと!? お前らなどに消せるほど、軽いものだとでも思ったのか!?」

 

槍を手にするとヒュンケルへと突きつけながら、ラーハルトはそう宣言する。

 

「さあ、鎧を纏え! そのような甘い考え、我が槍で打ち砕く!! 貴様だけではない! 貴様に余計なことを吹き込んだという相手もだ!!」

「くっ、やむを得んか……鎧化(アムド)!」

 

相手は思った以上に頑迷のようだ。既に戦闘は避けられないことを悟り、ヒュンケルもまた鎧を身に纏う。自分と似た相手と事前に知らされておきながら、説得することの出来なかった事に対する苛立ちを感じながら、ラーハルトの相手をすべく剣を手にする。

その瞬間、ヒュンケルの肉体は弾かれた様に剣を構えた。

 

「はぁッ!!」

 

剣を手にしたと言うことは、戦闘開始の合図でもある。ラーハルトはすぐさま動き、疾風のような速度で手にした槍を走らせる。穂先がヒュンケルを貫かんとする直前、無意識で動かした剣が槍にぶつかり、どうにか初撃を防ぐことに成功する。

 

「……速いとは聞いていたが、見ると聞くでは大違いだな……」

「ほぉ、オレのスピードを知っていたか。流石は元魔王軍の軍団長だけのことはある」

 

事前知識があったからこそ、今の一撃を防げたのだろう。ラーハルトはそう推察するが、実際はそうではない。彼の速度はヒュンケルの考えていたそれよりも遙かに速かった。

事前に闘気の技について学び、相手の殺気を僅かながらでも感じられたからこそ、無意識で身体が反応して防げたに過ぎない。もしも彼が闘気技について今よりも未熟だったならば、この一撃で命を落としていても不思議では無かっただろう。

 

「ならば、これも防げるか!?」

 

跳躍すると、手にした槍を大上段に掲げ高速で回転させる。

 

「ハーケンディストール!!」

 

そこから繰り出されるのは、弧を描いた衝撃波だった。

槍を振り回すことによって生み出された遠心力、鎧の魔槍の攻撃力、それらがラーハルト本人の凄まじいスピードによって放たれるのだ。組み合わさったその一撃は、生半可なものではない。

威力もさることながら、攻撃範囲を併せ持つ最強の一撃と呼んで良いだろう。大地を大きく両断するほどの衝撃波は、到底人の目に映るものではない。だが――

 

「……見切った」

「何ッ!?」

「いや、見切ったというのは語弊があるな……やはり、多少なりとも知っていると違うようだ。どうやらまた、命を救われたか」

 

何やら納得し切れないといった風体で、ヒュンケルは呟いている。

余波まではかわしきれなかったのか、多少なりとも鎧にダメージはあるようだ。だがヒュンケル本人は無傷のまま。なによりも直撃を避けられたのだ。ラーハルトにとってみれば屈辱以外の何物でもない。

そして何よりも聞き逃すことの出来ない事をヒュンケルは口にしていた。

 

「知っている、だと!? ハーケンディストールの一撃を貴様は知っていたというのか!?」

 

自分がスピードに長けた戦士だというのは、元軍団長という立場からすれば知っていてもおかしくは無いだろう。そう、ラーハルトは判断していた。

だがハーケンディストールについては話が別だ。吹聴されるような下手を打ったことなど、今まで無かったはずである。どこから情報が漏れたのかと、疑うのは当然のことだ。

 

「いや、教わったのだ」

「教わった、だと!? またそれか! そもそも貴様らの中にオレのことを知っている者がいるはずがあるまい!!」

「……いいや、確かに教わったんだ。チルノからな」

 

テラン城の外に出てバラン達を待ち構える間、ヒュンケルはもう少しだけラーハルトの技について説明を受けていた。特にハーケンディストールについては念入りに話されていた。

飛び上がり、衝撃波を放つこと。そしてもう一つは、突進しながら敵を切り裂くこと。その二種類の異なる攻撃方法から、アバンストラッシュのようにという表現を使ったこと。

そして彼女の言葉通りであった。

ハーケンディストールについて多少なりとも情報を得ることが出来れば、戦いの才能を持つヒュンケルにしてみれば、欠けた部分を想像で補うことは不可能ではなかったのだ。

そして、事前に見た神速の如き一撃から、想定していた攻撃速度を調節する。

 

その結果が、初めて見たはずの必殺技を回避するという事実となっていた。

 

「その名は確か……ディーノ様の姉などと、たわけたことを口にしていたあの小娘の名!? 馬鹿な事を言うな!」

「いや、事実だ。お前達の心の痛みを教えてくれたのも、チルノだ!」

 

自分よりも年若い少女が、どうして知っているのだろうか。そんなことを信じられるはずもない。だが事実は事実でしか無いのだ。

ヒュンケルはただただそのことを訴える。彼女から教えられたことを、そして、彼女が持つ可能性を。

 

「ラーハルト、お前は言ったな? バランの痛みも自分の痛みも、簡単に消すことなどできない! オレには消すことなど出来ないと!」

「それがどうした!」

「偉そうなことを言ったが、オレではバランに伝え切れんかもしれん……だが、チルノがいる。アイツはダイの姉であり、友であり、そして母でもあった。それだけの想いを持った者が、たとえ(ドラゴン)の騎士が相手だろうと負けるものか」

 

幼き頃より長き時間を共に過ごし、実の親よりも深い絆を結んできたのだ。時にそれは、血の繋がりよりもずっと尊い物になると、ヒュンケルは知っている。彼がバルトスに育てられたことで得た物を、損なうことの無かった二人ならば。

 

「ならば、何をするというのだ!? バラン様を前にして、何が出来るというのだ!?」

「知らん」

「なに!?」

「知らんと言ったのだ。だが、オレは信じている。人の心を、あの二人の絆を!」

 

具体的な事は何も聞かされていない。だがチルノがそう言ったのだ。ならば彼もまた、それを信じるのみだ。

 

「ふざけるな!! そのような曖昧な物など!!」

 

ラーハルトにしてみれば、それはただ盲信しているのと同じであった。散々くだらない説教を聞かされたあげくがコレでは、怒りも湧き上がろうというものだ。

ふつふつと高まる怒りを感じながら連続で槍を繰り出すが、ヒュンケルはその攻撃を一撃ごとに少しずつ対応し、避けていく。

 

「む……っ!?」

「これも教わったことだ。お前を相手に余力を残す事は難しい。避けるのなら、致命傷だけにしろ、とな」

 

凄まじい突きの速度によって衝撃が発生し、ヒュンケルの鎧を傷つけていく。だが、ヒュンケル本人は相変わらずダメージを受けぬままだ。

 

二人は知らないことだったが、この時のヒュンケルはチルノが使ったマイティガードの魔法の効果を受けていた。物理攻撃に対する結界が張られ、幸運な事にその後で鎧を纏っていた。そのため、肉体と鎧の間に結界が生じており、さらなるダメージを緩和していたのだ。それが無ければ、いかに最小限のダメージに抑えていたとしても、ジリジリと削られていたことだろう。

 

「……少しは、信じる気になったか?」

「おのれええぇぇっ!!」

 

認められないとばかりに、ラーハルトは再び槍を振るう。だがその穂先は、本人も気付かぬほど僅かではあるが、精細さを欠いていた。

 

――後は、反撃の方法だけか……そこは教えて貰っていないな……

 

魔槍に追い詰められながら、ヒュンケルはそう考えた自分を笑う。これ以上おんぶに抱っこでは、面目が立たない。強敵を前にして、彼の剣は少しずつその鋭さを増していた。

 

 




毒蛾の粉はスカイドラゴンに使う物です(DQ3のガルナの塔での稼ぎ方より)
無駄な買い物じゃないよ。最初からここで使う予定だったよ。
しかし、DQの混乱行動は作り込み凄いですよね(遊びもですけれど)
DQ4の各キャラの混乱行動とか感動すら覚えますよ。
(そのうち混乱してダークドレアム呼んだりしてくれないかなぁ(苦笑))

ラーハルトが緑川光さんの声で脳内再生されます。何故だろう?
でもあのイケボで「ハーケンディストール!」って言って欲しい……

この二人は(色々予定があるので)まだ勝負がつかないんです。
(ボラホーンは相手が悪かった)
もうちょっとだけ待ってあげてください。
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