隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:51 そして脚本は動き出す

マトリフに先導される形で、チルノは城内の別の一室へと入った。部屋に入るなり、マトリフは近くにあった椅子へどっこいしょと声を上げながら座ると、チルノをギロリと鋭い目つきで睨んだ。

 

「ポップから、大体のことは聞いた」

「あはは……やっぱりそのことですか……」

 

チルノもまた、近くにあった椅子に腰掛けてマトリフと正面から向き合う。嘆息混じりに吐き出された言葉を耳にしながら、少女は誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべる。

 

「すみません。でも、あのときにはそれ以上の手が浮かばなかったんです」

「……とりあえず、何があったのか。お前の口から聞かせろ」

「はい……」

 

虚偽は許さんとばかりの視線をその身に受けながら、チルノはバランと戦いの中で何があったのか、その一部始終をマトリフへと話していく。

やがて――その全てを聞き終えると、マトリフは軽く天を仰ぐ。

 

「なるほどな。だからか……」

 

どうしたものか。そう言外に語るような口ぶりで呟く。

 

「あの、何が……?」

「言いたいことは色々あるが、まずはお前からだ」

 

何を言っているのか、その理由を問いただすよりも早く、マトリフが口を開く。

 

「ダイは記憶を取り戻し、親子の仲は……まあ、最悪ではない。それどころか新しい仲間まで加わって万々歳――そう思ってるだろ?」

「え……ダメでしたか?」

「お前が死んでなけりゃ、オレだって文句はねぇよ」

「う……」

 

融合の青魔法を使い、ダイの記憶を取り戻させる。その目論見は成功したが、代償としてチルノの命を支払うことになった。マトリフはそのことを責めていた。痛いところを突かれたとばかりに、チルノは言葉に詰まる。

 

「で、でも! 本来の歴史ではポップが命を失う羽目になっていたんです! それに比べたら私の命くらい……」

「それだ」

 

なおも訴えようとするチルノの言葉を、だがマトリフは一言で切って捨てる。その力強い言葉に、チルノも半ば強制的に口を閉ざしてしまうほどだ。

 

「お前はこの世界という物語の脚本を知っている唯一の人間だ。そして人間は前例があるとそれに頼っちまう。つまりお前は、自分が知る展開と同じ道筋を無理矢理にでも辿ろうとしているんだよ」

 

チルノが黙ったことを確認してから、マトリフは説教を再開する。

 

「それが悪いとは言わねぇ。オレだって、そんな知識がありゃそうしてるぜ。ただ、その知識がそろそろ役に立たなくなって来ているってことを自覚しておけ」

「え……? マトリフさんは、何か知っているんですか?」

 

まるで見てきたかのような口ぶりで話すマトリフの様子に、チルノはたまらず口を挟んだ。だが当のマトリフは、その言葉に待ってましたとばかりに意地悪い笑みを浮かべる。

 

「ああ、お前の話ならばオレはハドラーと戦うと聞いていたが、いなかったぞ」

「え……!?」

「嘘じゃねぇさ。念のため周囲も探ってみたが、そんな物は影も形もなかった。仕方ねえからそのままポップたちに顔を出したんだからよ」

 

微かに遠い目をしつつ、マトリフは今もなお頭の一部分は緊張状態を維持させて敵襲に備えていた。近くに、探知用の魔方陣を設置した。だがそのいずれにも引っかからない。

だが今回の場合は、何もないことが問題なのだ。

ハドラーに果たして何があったのか。チルノはあれこれ可能性を考えるものの、情報が少なすぎるのだ。結局はどれも想像の域を出ない。

 

「他にも……おっと、何でもねぇ」

「ちょ、ちょっと! まだ何かあるんですか!?」

 

続く、明らかに知っていながら相手をからかう口ぶりに、チルノは更に焦らされる。すでにハドラーが不在という相違点を教えられているのだ。それに加えてこれ以上何があるのだろうかと、本人からしてみれば気が気でない。

 

「くくく、まあ、たまにはハプニングに身を委ねてみるのも良いんじゃねえか? 何せお前は、本来の歴史に介入しているんだ。どこかに歪みが出てくるのは当然だろうが」

 

だがマトリフはチルノの様子をどこか楽しそうに眺めながら、取り合おうとはしなかった。その言動から、何か未知の脅威などではないだろうとアタリをつけられはしたものの、こちらも情報が少なすぎるのだ。それ以上はどうしようもない。

 

「それともう一つ。お前は自分よりもポップが生き残ればそれで良いと思っていたんだろうが、それは違うからな」

「え……?」

 

頭を整理しなおそうとしたところで、更に続く言葉を投げかけられた。だが今度は至って真面目な様子である。その雰囲気にチルノも自然と背筋を伸ばす。

 

「お前がいなくなれば、世界に絶望しかねない相手はいるんだ。そのことだけは肝に銘じておけ」

「――そう、ですね。もう、いい加減……」

 

心当たりがないわけではない――というよりも、一人しかいない。自分の弟の顔を思い出しながら、同時にバランとの戦いのことを思い返す。朧気ながら感じたダイの感情は、大切な存在が命を懸けてくれた。自分はそれだけ強く思われていたという喜びと、そんな存在を守れなかった自分に対する怒り、そしてその原因を引き起こした眼前のバランへの強烈な怒りだった。

これまでチルノは、ダイのことを弟だと思っていた。本来の歴史ではレオナと結ばれたのだから、そうするのがダイにとって最良なのだとずっと思っていた。記憶を失ったダイに対して、厳しくも強い言葉を投げかけられたレオナの姿を見て、これならばダイを任せられるとさえ思っていた。

だがその想いはレオナもまた同じだったのだろう。ダイがチルノのことを想っていると理解しているから、あんな態度を取れたのだ。

今まで見ないようにしていた気持ちに向き合い、少女の心は大きく動く。

 

チルノのそんな思い詰めたような表情を見ながら、マトリフは一先ずは大丈夫だろうと判断していた。この世界はチルノの知る物語の中ではないのだ。出会いが変われば想いも変わる。そして何より、物語のために自己を捨てる必要はないということに気がついた。

 

「さて、そっちの方はもう問題ないようだな。じゃあ次は、お前が生み出した歪みの犠牲者についてだ」

 

問題の一つが片付いたことを確認しながら、もう一つの問題についてマトリフは向き直る。だがチルノは最初、その言葉の意味を理解できなかった。たっぷり十数秒ほど考えた後、ようやく口を開く。

 

「ひょっとして……ポップのことですか……?」

「ああ、そうだ。お前の一番の犠牲者かもしれねぇな」

「う……っ……」

 

含みを持った言い方に、チルノは思わず小さくなる。

本来の歴史では、命を落とすのはポップであった。そして、バランから竜の血を与えられ、蘇生すると同時に大幅な強化がされていたのだ。

だがこの世界ではチルノがその役目を負っている。一番の犠牲者というマトリフの表現も正鵠を得ているだろう。

 

「最初に会ったときは驚いたぜ。あの野郎、がむしゃらに力を求めていやがったからな。何事かと思ったが、お前の話を聞いて合点がいったぜ……」

 

外で警備をしているポップと再会したマトリフは、ポップの瞳の奥底に眠る力への渇望に気がついた。本人は隠しているつもりだろうが、マトリフから見れば一目瞭然であった。百年近く生きているのは伊達ではない。似たような事例など幾らでも見たことがある。

 

「ま、ポップの立場から見れば、激戦の中で何も出来なかったんだ。そりゃ、ああなってもおかしくはねぇよ」

「それって、やっぱり……私のせい、ですよね……」

 

マトリフの言葉に、チルノの様相は暗くなる。

 

「本当なら、ポップはダイの一番の親友としてあの戦いでも死力を尽くしたんですから。それが今回の場合は、私が全部持って行っちゃったんですから……」

「……お前、少し勘違いしてるだろ?」

「え……!?」

 

悲壮な表情を浮かばせるチルノを見ながら、マトリフは嘆息を吐きながら答える。

 

「お前の知る世界のポップだったらそうだろうな。良いところを全部持って行かれりゃ、腐りもするだろうよ」

「あ……っ!」

「けれどこの世界のポップは違う。お前という存在がダイの隣にずっといたことを知っているのだ。だったら、自分は一番の親友だなんてそうそう口に出来るもんじゃねぇ。まあ、友情だ仲間意識だって物は持ってるだろうが」

「じゃ、じゃあどうして!?」

 

そう、マトリフの言うようにこの世界ではダイとポップの出会いもまた異なっている。だがチルノは意識の中では、どうしても本来の歴史のポップを思い描いてしまうのだ。

 

「自負が無い分だけ、ダイの力になりてぇって感情が強くなってるんだろうよ。ダイの隣に並べるだけの男になりてぇってな。それが今回の戦いでは良いところなしで、その上これ以上強い敵が控えているんだ。焦りもする」

 

だがこの世界は違う。ダイの力になりたいと思っているのは同じでも、懸ける意気込みが異なっているのだ。ダイに影響を受けたとはいえ、その成り立ちが異なっている。

付け加えるならば、チルノにも多少なりとも影響を受けているのだ。同じアバンに教えを受けた者であり、ましてや彼女は卒業の証も受け取ってはいない。そういう意味では、ポップはチルノを自分とどこか同じように捉えていた部分があった。

だがバランを相手に見せつけたチルノの圧倒的な存在感にそれも吹き飛ばされていた。

 

「本来なら――竜の血だったか? それのおかげで底上げがされたみてぇだが、この世界じゃあそれもない。それに加えて今の精神状態だったら、近いうちにデカい失敗をするだろうよ」

「そんな! なんとかならないんですか……!?」

 

デカい失敗と言われて、チルノの脳裏に浮かんだのはメドローアを跳ね返されて消滅する一行の姿だった。さすがにそこまでの未来はそうそう起こりえないだろうが、それでも注意しておくに超したことは無い。

 

「まあ、仕方がねえだろ。オレがなんとかしてやるよ」

 

必死に訴えるチルノを見ながら、マトリフはにやりと不敵に笑った。

 

「ほ、本当ですか!? でも、どうやって?」

「それは――」

「それは……?」

「わからん」

 

あまりに落差の大きい間抜けな発言に、思わずチルノは椅子から転げ落ちた。

 

「ナハハハハ! まあ、しばらくポップは借りるぜ。何日かすれば、良い案も思いつくだろうよ」

「は、はぁ……とにかく、ポップのことはお願いしますね……」

 

よろよろと椅子に体重を懸けながら立ち上がる。その様子をマトリフは真剣な表情で眺め続けている。

 

「まあしかしなんだな」

 

そう言うが早いか――

 

「ひっ!」

「竜の血を飲んだ人間は力を得るっていうのに、お前は全然変化がないな」

 

まさに電光石火の早業。いつの間にかマトリフは椅子から立ち上がると、チルノの尻をなで回していた。さわさわと無遠慮な感触が這い回り、チルノは反射的に払いのけようとする。

 

「マトリフさん!!」

「おっと」

 

だが相手の方が何枚も上手だ。軽くよけられてしまう。

 

「まあ、迷惑料ってところだ。堅いこと言うなよ」

 

スケベな表情を浮かべてそういうマトリフを見ながら――それでも言っていることには一理あるため――チルノは必死で自身の内側から湧き上がる感情を抑えていた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「ただいま……」

 

どこか疲れたような様子を見せながら、チルノはダイたちがいた部屋へと戻る。マトリフとの話はアレで終わりであり、結局マトリフに触れられたのはあの一度だけだったとはいえ、その一度だけで精神的な疲労は相当なものだったようだ。

だがそんなチルノを見るなり、スラリンがその胸に飛び込んでいく。

 

「ピィ!!」

「ありがとうスラリン。心配させちゃったみたいね」

 

チルノも慣れたものであり、スラリンを一瞥しただけで受け止めながら、続けて部屋の様子に目を配る。椅子に座ったヒュンケルがアバンの書に目を通しており、ダイもその横で同じくアバンの書を見ているようだ。ラーハルトは少し離れた場所で壁を背にして無表情で目を瞑っている。クロコダインとポップはラーハルトを監視しているような様子を見せ、レオナはメルルと何かを話していたらしく、決意の込められた表情をしている。

 

「姉ちゃん、おかえり。大丈夫だった?」

「うん、まあ、それなりに」

 

退室間際にあったことを思い出すものの、余計な波風を立てるのもどうかと思い、ダイの言葉にチルノはスラリンを撫でながらそう返す。

 

「戻ったか、チルノ」

 

その騒ぎを聞きつけた、というわけではないだろうが、ヒュンケルが書から顔を上げる。

 

「後でアバンの書を見ておくと良い。色々と得る物があるはずだ」

「ええ、ありがとう……ヒュンケルは何か得られた?」

 

そう言うと再び視線を下に落としたヒュンケルへ向けて、チルノは何気なく尋ねる。アバン手記によって闘気技を学んだとはいえ、アバンの書は万人に向けて書かれた武芸の書物である。アバンから直接教わった以外にも得るものが色々とあるはずだ。

そう思っての、何気ない言葉にすぎなかった。

だがその言葉は、チルノの予想を超えてヒュンケルは強く反応する。

 

「ああ……いや、最初から学び直している途中と言ったところか。なにしろ、どこかの誰かに少々遅れをとったからな」

 

冗談めかした口調ではあるものの、その言葉の真意には遠慮や謙遜と言ったものは一切含まれていない、本気のそれが潜んでいる。そしてそれは、一人の男の興味を引くには十分過ぎたようだ。

 

「ならば、精々学び直しておくことだな。何度も無様な姿を見せては、師も浮かばれまい」

 

すぅっと、室内の温度が数度下がったような、鋭い気配が場を突如として支配する。ラーハルトの言葉にヒュンケルが少しばかり強く反応したためだ。

 

「ああ、当然だ」

 

その言葉に今度はラーハルトが少しだけ反応をみせる。室内は更に剣呑さを増し、知らぬ者が見れば一触即発だと思うことだろう。

その様子を見ながら、チルノは一計を案じる。

 

「だ、だったら二人で修行をしたらどうかな?」

「……なに?」

「ほら、ヒュンケルはラーハルトと似た境遇だし、似たような相手ならば打ち解けやすいんじゃ無いかと思って……ダメかな?」

 

それはある種の賭けでもあった。

ヒュンケルとラーハルトの二人は、本来の歴史でも激戦を繰り広げた相手同士。その二人で競わせれば、互いに互いを研鑽しあう良きライバルとなれるのではないかと。そう考えたのだ。

遠慮がちに尋ねるチルノの言葉に、はたしてラーハルトは無表情のまま口を開いた。

 

「かしこまりました。チルノ様がそう仰られるのでしたら、従いましょう。ついでにその男のことも、少々鍛え直しておきます」

「ああ、それは楽しみだ。早々にお役御免とならなければいいがな」

 

現状、確かにラーハルトの方が腕前は上だろう。ならばこそ、挑発めいた物言いも納得できる。そしてヒュンケルはそれを受け入れた上で、さっさと上達して追い抜いてやると返していた。

 

「姉ちゃん……本当に大丈夫なの……?」

「だ、大丈夫……多分ね……」

 

小声で尋ねてきたダイに対して、同じく小声でチルノは返す。二人のやりとりは、仲間同士で仲良くすることしか知らないダイたちには少々理解するのが早すぎたようだ。

 

「ついでだ、クロコダイン。お前も付き合え」

「む、オレか?」

 

いつの間にか室内の剣呑な雰囲気は消えていた。クロコダインもあの気配に少々飲まれていたのだろう。ヒュンケルの言葉に正気を取り戻したような様子でそう答える。

 

「ああ、アバン流には斧を使った戦い方も当然ある。奥義はそれぞれ豪地断・乱海断・崩空断というそうだが……どうする?」

「そうね。損はしないと思うけれど?」

 

ヒュンケルの言葉に渡りに船とばかりに、チルノが乗っかる。大変ではあるだろうが、間違いなく実力はあがるだろう。そしてなにより。

ヒュンケルとラーハルトとのマンツーマンでは、互いに意地を張って倒れるまで延々と続けかねないという不安が彼女の中にわいていた。ならば、常識人でもあるクロコダインがいれば、いくらかでも中和されるだろうという少々ずるい魂胆もあったりする。

 

「ふむ……確かに、ダイやヒュンケルといった戦士を育てたアバン殿の教えには武人として興味がある」

 

そんなチルノの少しだけ黒い部分を知ってか知らずか、クロコダインはヒュンケルの誘いに乗り気の様子を見せる。

 

「付き合おう。ただ、奥義を使うのは少々気が引けるがな……」

 

大地裂断と自ら名付けた技を使うときでさえ散々葛藤した程度には不器用な男である。たとえ術利や体捌きなどを学んだとしても、それを易々と使うことは無いのだろうその姿は容易に想像がついた。

 

「よっし、おれも師匠に修行をつけてもらうとするか!!」

 

そんなヒュンケルたちの姿に感化されたように、ポップもやる気を露わにする。そんな仲間たちの様子を見ながら、レオナは強く頷いた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

大魔王バーンの座する玉座の間から、ハドラーはゆっくりと姿を現した。その表情には余裕がなく、思い詰めている。部屋の前で待機していたザボエラから見ても何かがあったと察するのには十分過ぎるほどだ。

 

だがそれも無理もないことだ。

つい先ほどまで魔軍指令ハドラーは、大魔王バーン直々に失態について咎められていたのだ。(ドラゴン)の騎士であるバランを失ったことだけではなく、今までの数々の失態について咎められていた。だが、勇者アバンを葬った功績によって首の皮一枚繋がり、どうにか退室を許されたのである。

 

「ハ、ハドラー様……いかがなされましたか?」

 

そのあまりにも静かな様子に耐えかね、ザボエラが声を掛ける。だが当のハドラーはお構いなしだ。自身に掛けられた声すら耳に入ることなく、先ほどの大魔王とのやりとりを反芻していた。

 

六大軍団はすでに半分以下まで減らすほどの大失態。そして、バーン自らが声を掛け、苦労して仲間に引き入れたバランの離反。それだけでも、ハドラーが処刑されるのには十分すぎる理由だろう。それは決して、かつての勇者アバンを葬った程度では相殺しきれるものではない。

 

ならばなぜ自分は生かされたのだろうか。ハドラーはその理由を考える。

 

少なくとも逆の立場であれば、並大抵の功績では帳消しに出来るものではない。

なにしろ世界に一人しかいないはずの無敵の(ドラゴン)の騎士を失うきっかけとなったのだ。ハドラーとて弱者ではないが、バランと比較すれば一枚――どころか何枚も落ちる。にも関わらずだ。

これは自身への期待の表れ――などと、砂糖菓子よりも甘いことは絶対にないだろう。窮地に追いやられたハドラーの頭脳はその理由を導き出す。

追い詰められた状態ではたしてどう動くのか、それを見極めるために泳がされている。そう考えるべきだろう、と。このままでは本当に命を失いかねない……いや、もうすでに殺されているに等しい状態だ。

 

――ならば、オレが得るものは……!!

 

そこまで考え、ハドラーの腹は決まった。

 

「ザボエラ!!」

「は、ははっ! なんでございましょうか!!」

 

突然の吠えるような言葉に、ザボエラは驚きつつも返事をする。だが続くハドラーの言葉は、ザボエラを更に驚愕される内容だった。

 

「オレは先ほどバーン様より、最後通告を受けた! 勇者ダイたちを全滅させられねば処刑する、とな……」

「なななななんと!!」

 

これまでずっとハドラーを相手に取り入り、自身の地位を高めようとしてきたザボエラにしてみればそれは寝耳に水であり、決して認めることの出来ない内容だった。ハドラーを失えば、自身のこれまでの苦労も水の泡となるのだ。

だが完全なる打算と自己保身により、ザボエラはハドラーの次の行動を予測する。

 

「すると、これより勇者どもを襲うわけですな。問題ありませぬ、奴らを葬るだけの策は幾らでも……」

「いや、そうではない」

 

嬉々として策を披露しようとしたザボエラであったが、それをハドラーは否定する。

 

「ザボエラ! 貴様が密かに続けている超魔生物の研究……今こそ、それをオレのために使え!!」

「は、え……はぁっ!? な、なぜそれを……いえ、それをハドラー様にですと!?」

「そうだ。もはやオレは死んだも同然の身……ならば、せめてやつらを倒さねば死んでも死にきれぬ!!」

 

なぜハドラーが自身の研究を知っているのかも驚きだが、それ以上にそれを自分に使えという内容にザボエラは驚かされた。それはハドラーがバーンより渡された肉体を捨て去るということなのだ。

ザボエラからすれば狂気に満ちたとしか思えない提案であったが、ハドラーは至って冷静だった。ただ、命よりも勝利を求めたかつての部下に感化され、燻っていたはずの気持ちを取り戻した。ただそれだけだ。

 

「嫌とは言わせん! 逆らえば、殺す! それに、貴様にとっても利はあるはずだ」

「わ、わかりました! ですが、利とは……?」

「決まっている。このオレの肉体を実験材料にすることができるということだ」

 

その言葉を聞いた途端、ザボエラには少々の落胆が浮かぶ。確かにハドラーの肉体を材料とできるのはまたとない好機ではあるが、自信満々に言った内容がこれでは……

表情には出すこと無くとも、その様子に気づいたのか。それとも最初からその反応を予想していたのか、ハドラーは更に自信を込めながら二の句を口にする。

 

「そしてもう一つ」

「もう一つ、ですか……? はて、それは一体……」

「おや、貴様は気づかなかったのか? まあいい、教えてやる。それは――」

 

そう言ってハドラーは、もう一つの利について話し出した。それは、ザボエラですら思いつくことの無かった悪魔の所業。

 

「――な!! 馬鹿な!! そんなことが、成功するはずが!!」

「構わん! やれ!!」

 

相手は(ドラゴン)の騎士――それも、完全に覚醒したとびっきりの相手だ。そんな相手に、もはや下手な小細工など通用しないだろう。

ならばどうするか。これは最後の機会、ならば、その機会を最大限に活用するだけだ。手段はもはや選んでなどいられない。

 

たとえ、どんな手を使ってでも……

 

 




まずは、あけましておめでとうございます。(時事ネタ)

まさかダイの大冒険が再アニメ化&ゲーム化とは驚きです。
だ、大丈夫なんでしょうか……その、出来映えとか……(封○演義という前例)
ゲームも似たような心配……む、無双ゲーとかかな?

それはそれとして。

今回、感想欄にあった斧での地・海・空の技の名前を使わせていただきました。
(問題でしたら該当部分は消します)
(でも結局、ワニさんがそれを口にする機会は無いんじゃないかなぁ……)

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