隣のほうから来ました   作:にせラビア

52 / 127
LEVEL:52 伝説の武器を求めて

その日も空は雲一つ無い快晴に包まれていた。

テランにて繰り広げられた竜騎将バランとの死闘を乗り越えたダイたちは、レオナの母国パプニカへと戻ってきていた。

書を読んだレオナはアバンの教えに揺り動かされ、世界のために自ら率先して動くことを誓い、自国に戻るや否や家臣たちを巻き込んで精力的に動き回り続けている。すでにパプニカに戻ってからすでに一週間近く経過しており、その間にはダイたちはレオナの忙しい姿を見ているだけであった。手伝おうかとも申し出たが、レオナたちにやんわりと断られ続けていた。

――曰く、自分たちにしか出来ないことをするのだからダイたちは気にしないでくれとのことであった。

 

そしてヒュンケルたちは、パプニカに来るなりクロコダインを巻き込んで特訓を開始していた。アバンの書によって基礎から鍛え直そうとする剣の達人と、神速の槍の達人との修行は実践さながらであり、近くで見ているだけでも命がけとなるほどだ。巻き込まれたクロコダインはそんな二人に必死で追いつこうと必死である。

ラーハルトと人間たちとの交流についても、ある程度はスムーズに行われていた。ヒュンケルを受け入れたという土壌があったおかげだろう。もっとも、ラーハルトの仏頂面にパプニカの人々はおっかなびっくりの部分もあったのだが。

 

ポップはパプニカに戻るなり、マトリフに修行へ連れて行かれた。日が暮れても戻ることなく修行を続けており、滅多なことが無い限りは呼び戻したり様子を見ることもマトリフが禁じるという念の入れようである。

果たして、戻った時にどのような成長を遂げているのか。それは誰にも分からない。

 

そして、ダイはといえば――

 

「はぁっ!!」

 

気合いと共に右拳に力を込める。そこには(ドラゴン)の紋章が浮かび上がり、ダイの身体が竜闘気(ドラゴニックオーラ)に覆われていく。

 

「いつでもいいよ、姉ちゃん!」

「はいはい、それじゃあ……【ファイラ】」

 

姉に向けて軽く手を振りながらアピールする弟の姿を見ながら、チルノは火炎魔法を放つ。その途端、炎が踊るようにうねりダイの全身を包み込むが、それらは全て竜闘気(ドラゴニックオーラ)によって無力化していく。火の粉すら消え去った後には、焦げ跡すら残らないダイの姿がそこにはあった。

 

「さすが、結構強めに放ったつもりだったんだけど……」

 

竜闘気(ドラゴニックオーラ)は呪文をことごとく防ぐ――かつてのバランの戦いで身をもって知り、今回も予想通りであったとはいえ、その結果にチルノは思いがけず感嘆の声を上げる。

 

二人がしているのは、ダイの(ドラゴン)の紋章の効果確認である。どのくらいの威力に耐えられるのか、それは我が身を持って見極めるのが一番手っ取り早いとのことだ。

 

テランから戻ってから数日の間――ダイは紋章の力を全開で使い続けた反動を懸念して。そしてチルノは一度その身を捧げた影響を懸念され、大事にならないようにと二人は強制的に休まされた。幸か不幸か、その間は魔王軍の襲撃もなく平穏なものであり、休まされていた二人には少々退屈な時間でもあったのだが。

 

そしてダイは昨日、チルノは本日ようやく解放され、自由になった途端ダイに付き合わされて魔法を使う羽目になっていた。なお、剣や闘気を使った攻撃に対しての昨日しっかりと確認済みである。

 

「どのくらいの威力だったの?」

「最初に出会った時のポップのメラゾーマくらいはあった、かな……?」

 

弟の言葉に姉は少々首を捻りながら答える。バランの前例もあってその程度は余裕で弾くであろうと知っている。ましてやダイの紋章は拳に発現させた特別製である。そのため、チルノは放つ魔法にそれだけの威力を込められるのだ。

 

「へぇ、じゃあ結構強いんだね」

 

実際は結構などという表現では括れないほど強力なのだが。とあれ、ひとまずの確認が出来たことでダイは満足げに微笑んだ。続いて、頼まれたもう一つの確認へと移る。

 

「じゃあ、次の確認に行くわよ……【ブリザラ】」

「メラゾーマ!」

 

宣言から少し間を開けてから、チルノは冷気魔法を放つ。だが合図付きであり事前準備をするだけの時間もあれば、今のダイにはそれに対応することは容易かった――というよりも、それだけのわざと時間を与えているのだが。

チルノの放った冷却魔法を、ダイは火炎呪文にて迎撃する。

続いての確認項目は、ダイがどれだけの呪文を操れるかだ。メラやライデインといった呪文は修行を経て通常の状態でも操れるようになっていたが、今のメラゾーマのようにそれまで全く操ったことのない呪文であっても、(ドラゴン)の紋章による補助を得ることで扱えるようになっていた。

 

「わ! ……っと」

 

短い驚きの言葉と共に、チルノは自身に向けて飛んできた火球を避ける。

チルノの放ったブリザラの魔法には、先のファイラと同じくかなりの魔力が込められていた。だがダイの放ったメラゾーマはそれを迎撃するどころか、打ち破ってなお相手に襲いかかるほどの威力がある。

それはつまり、チルノの呪文を正面から打ち破る程度にはダイの呪文が強力だということを意味していた。

 

「うーん……わかっていた事とはいえ、こうもあっけなく押し負けるとちょっと落ち込むわね……」

「へへへ、今なら姉ちゃんにも負けないや」

 

その結果を見ながら、チルノは唸る。

いくら炎系呪文は比較的扱いやすい部類とはいえ、今まで使った事のない呪文を易々と操り、相反する属性の魔法を正面から打ち破るほどの威力を持つ。

知識としては知っていたが、(ドラゴン)の騎士という存在の異質さを彼女は改めて思い知らされていた。もっともそのダイは、姉の魔法を正面から押し切れた結果に驚いたのか、小さく喜んでいるのだが。

 

「やっているな」

 

そんな二人に声が掛けられる。声のした方を向けば、見知った顔が三つあった。

 

「あれ、ヒュンケル!? それにクロコダインとラーハルトも!?」

「ワシもいるぞい」

 

――訂正。クロコダインの巨体で隠れていたらしく、彼の陰からバダックがひょっこりと顔を覗かせる。

 

「チルノ様、お体の具合はもうよろしいのですか?」

「ええ、もうバッチリ。ところで、ラーハルトたちはどうしたの? 確か、この時間は修行をしているって話なんじゃ……?」

 

チルノが知る限りでは、彼らは朝は互いに武器を交えて修行を行っていたはずである。それが今日に限ってなぜここに来たのか、という疑問の声にクロコダインは口を開いた。

 

「ああ。本当ならば今日もここに来る予定ではなかったのだが、じいさんの頼みでな」

「すまんのぉ。何しろ宝箱二つは、ワシ一人で運ぶにはちと手間だったもんじゃから」

 

バダックは少しだけの申し訳なさと、たっぷりの感謝を込めて言う。その言葉通り、クロコダインは両手にそれぞれ宝箱を持っていた。

 

「気にすることはない。ことのついでというやつだ」

「昨日のダイ様に続いて、今日はチルノ様の元気な姿も見ることができたのだ。無駄足ではないな」

 

しみじみとそう語るヒュンケルとラーハルトの姿は、少しずつではあるが確実に人間との交流の成果が出ているようだ。

 

「……昨日?」

 

だがラーハルトのその言葉に、チルノは少しだけひっかかりを覚えた。確かにダイが解放されたのは一日前なのだから、おかしなことではないのだが。思わず口に出たその言葉に、ヒュンケルたちが反応する。

 

「ああ。昨日もこのくらいの時間に、ダイの力試しに付き合わされたよ」

「そのときは、オレたち三人が武器や闘気で攻撃をしたのだがな。手合わせとはいえ、まるで歯が立たなかった」

「なるほど。昨日は武器を、そして今日は呪文を試したかったのね?」

 

二人の言葉からダイがしたかったことを確認するように尋ねると、ダイは首肯する。

呪文を放つだけならば一人でも出来るが、呪文に対してどれだけの防御力があるのか、使った呪文がどれだけの威力を持つのかは、やはり他者と比較するのが一番手っ取り早い。

 

「うん、本当はポップに頼もうと思ったんだけど……ずっとマトリフさんのところに行ってるみたいだから頼みにくくってさ……」

 

ダイの言うように、ポップはマトリフのところへ掛かり切りとなっている。パプニカに戻らない日々が続いており、今頃何をやっているのかは不明のままだ。

はたしてこれはどのような影響を及ぼすことになるのか、チルノは未知の展開に注意するよう頭の片隅に刻みつける。

 

「それなら私じゃなくても、三賢者の皆さんとかレオナとかは?」

「いやいや、それも無理なんじゃよ」

 

反射的に脳裏に浮かんだ、パプニカにいる呪文の使い手をあげたが、だがそれはバダックによって否定される。

 

「今、姫は何か大きなことをやろうとなさっておる。その命を受け、三賢者は世界中を駆け回っとるからな。まだ詳しいことはわからんのじゃが……」

「あっ! そういえば……」

 

どうやらチルノは完全に失念していたようだが、バダックの言葉で思い出す。アバンの書によって感銘を受けたレオナは現在、とあることを実現するための真っ最中だったのだ。それも、三賢者に命じて世界中を巻き込むほどのもの。

 

「うん、具体的に決まったらおれたちにも知らせるって言ってたけれど……なんだか毎日忙しそうだったから。だから、姉ちゃんに頼んだんだ」

「なるほどね」

 

しっかりと気を遣う弟の姿に少々の感激を味わいながら、チルノは頷く。

 

「じゃが、そう悪い話ばかりではないぞ。クロコダイン、頼んだわい」

「やれやれ。やっとこれを下ろせるのか」

 

バダックの言葉を合図に、クロコダインは両手それぞれに抱えていた宝箱を地面へと下ろした。口ではようやく重荷を下ろせたと言わんばかりであったが、置いた時の様子からそれぞれの箱はそれほど重量は無いように見える。

 

「それは?」

「姫からのプレゼントじゃよ。ほれ、ダイ君!」

 

宝箱の一つを開け、バダックはダイを促す。ダイもその言葉に従い、箱を覗き込む。

 

「わぁ、服だ!」

 

そこにあったのは、青を基調とした服だった。

 

「今の姫はダイ君たちの直接の力にはなれん。じゃがせめてもの役に立てればと思い、姫はこの服を作らせたんじゃよ。こいつはパプニカの特殊な布と法術で編まれた服じゃからお前さんが大暴れしても大丈夫のはずじゃ! 本気を出した(ドラゴン)の騎士の力にはどんな武器も鎧も耐えられないという話じゃが、これなら多分……!!」

 

だが自信満々の表情もそこまでだった。不意にそれまでと比べて落胆したような表情となりながら、バダックはさらに続ける。

 

「ただ……残念ながら武器は用意できんかった。普通の剣ではその場しのぎにもならんじゃろうから、ならば用立てるだけ無駄だという結論になってしまってのぉ……」

 

本来の歴史では、ダイはバランとの戦いで持っていたパプニカのナイフを消失している。そしてこの宝箱の中には、三刀のナイフのうち、最後に残った一刀も入っていたのだ。

だが、この世界ではパプニカのナイフは消失していない。そのため、何かもっと相応しい武器を用意する予定だったのだが……バダックの言うような結論に落ち着いていた。

 

「まあ、早速着て見せてくれるか?」

「もちろん!」

 

聞くが早いか、ダイは箱から服を取り出して着替え始める。今までのダイの格好のイメージそのままに、だが金糸の刺繍などで荘厳な印象がより強まっていた。魔法の糸で作られたそれは服というよりも、闘衣と呼んだほうが適切だろう。

 

「なるほどね、みんながここに来たのは、これを運ぶついでだったってところ?」

「ああ、じいさんに頼まれたのでな。だが、お前たちが心配だったのも本当だ。元気そうな姿を見られて一安心だよ」

 

ダイの着替えの傍ら、チルノはクロコダインに話しかける。バダックが届け物をするところにクロコダインたちが偶然出会い、荷物を運ぶこととなったのは嘘では無い。だが、その用事が無くてもチルノの様子を見に来たのも、決して間違いではなかった。死の淵から蘇った者なのだ、心配しすぎても仕方の無いことだろう。

 

「ほれほれ、何をぼーっとしておるんじゃ? この宝箱はチルノちゃんの分じゃぞ」

「えっ!?」

 

そう言いながらバダックは残ったもう片方の宝箱を開ける。

 

「い、いいの……?」

「当然じゃよ。ワシは話でしか知らんが、先の戦いでは一番の功労者じゃと聞いておる。それに、女の子にいつまでもそんな格好をさせるわけにはいかんからな」

 

そんな格好と言ったが、別にあられもないような姿と言うわけでは無い。

何しろ彼女が元々身につけていた装備は、バランとの戦いでボロボロになってしまった。そこでメルルに用立てて貰った布の服――もっと言うならば無地の地味な服――を間に合わせとして着ていたのだ。

 

「わぁ……!」

 

宝箱に納められた服を取り出した途端、チルノの目が輝いた。

こちらもダイと同じく、一見すればそれまでのイメージを崩さぬようなそれであり、刺繍も同じように施されており、見ただけでも上位の魔道士という印象が伝わってくるようなデザインだ。

 

「パプニカの布は呪文との相性が良いからのぉ。それは防御力もさることながら、魔力を高める効果も期待できるそうじゃ」

 

一国の宮廷魔術師や賢者が身につけるローブだと言われたとしても、疑いようのないようなほどの代物だ。ダイの分と併せて作らせたため、なかなか時間が掛かっていたのだが、それだけの時間を掛けただけの価値は十分にあるほど。

 

「ささ、遠慮することはないぞ。着てみるといい」

「え……っと、こんな凄い装備をもらえたのはありがたいんだけど……」

 

思わず我を忘れ、手にしたローブを身体に当てていたのだが、バダックの言葉にチルノは申し訳なさそうに口を開いた。

 

「さすがにここで着替えるのは……」

「……は! そ、そうじゃな!! まあ、着替えは後でもいいじゃろ!!」

 

自分が男であること、兵士として男所帯が長かったこと、先ほどダイは迷うこと無く外で着替えたことなどもあって、チルノもそのまま着替えるのが当然のように考えていたようだ。バダックは自分の失言に気づき、慌てて咳払いをしながら何事も無かったかのようにその場を誤魔化す。

 

「と、とにかく! これで防具の問題についてはなんとかなるじゃろ!」

「問題はそれだけではないがな」

 

だがヒュンケルが空気を読まず、その言葉に待ったを掛ける。

 

「まず、使える武器がない。並の敵なら拳だけでもカタがつくが、本当の強敵が相手となれば素手では渡り合えん」

「それと、紋章の力を使う時間についてもだな。今のままでは長期戦はできん」

「紋章の時間?」

「……ああ、チルノ様はあの場にいませんでしたね」

 

付け足すように口を開いたクロコダインの言葉を、チルノは聞き返す。本当は知っている事柄なのだが、ここは知らぬフリをしておいた方が良いだろうという判断からだ。幸いなことに、それに気づいたラーハルトが説明する。

 

「昨日の、ダイ様との力試しの時です。紋章の力を発揮して、我々を相手に歯牙にも掛けぬほどの強さを誇りました。ですがそれも短い時間のこと。消費が激しすぎるのでしょう、すぐに紋章の力を使い切ってしまいました」

「へぇ、そんなことがあったんだ……」

 

昨日チルノが休んでいる間の出来事のため、知らないのも当然だった。だが、その場に直接いなくとも、三人の戦士たちを相手に戦っている姿は目に浮かぶようである。

 

「うーん……あのときは、もっと長く紋章の力を使えたのになぁ……」

 

昨日の事を思い出し、バランとの戦いのそれと比較しているようだ。ダイは紋章の発動時間の違いに首を傾げながら呟く。

 

「見た限りだが、拳に全闘気を集中するあまり無尽蔵にエネルギーを消費しているようだ。よほど上手く力を配分できるようにする必要があるだろう。そこはこれからの課題だな」

「その問題は訓練で解決するだろう。だが、武器の方はそう簡単には解決せんぞ」

 

クロコダインとヒュンケルが揃って口にする。彼らの言うように、紋章の扱いについては訓練でなんとかなる問題だ。だが武器についてはどれだけ特訓を積み重ねてもどうしようもない。

 

「ラーハルトは何か知らないかな?」

「いえ、あいにくと……ですが、バラン様が使っていた真魔剛竜剣のような、オリハルコン製の武器でなければ、(ドラゴン)の騎士の力には耐えられないでしょう」

 

藁をもすがる気持ちでダイはラーハルトに尋ねるが、彼もまたその疑問に対する答えは持っていなかった。

 

「そっか……」

「お力になれず、申し訳ございません」

 

所在なさげに頭を下げるラーハルトを見て、続いてダイは姉へと視線を移す。

 

「姉ちゃん……」

「――まさか、オリハルコンを作れって言うの?」

「ダメなの?」

 

これまで、いつか気づくだろうと期待を込めてチルノはあえて黙っていた。だがやってきたのは、オリハルコンを作れというある意味で彼女の予想を超えた言葉だった。さすがにこれ以上黙っているのも問題かと思い、チルノは答えを口にする。

 

「さすがにそれは無理よ。というかそれ以前に、ダイは伝説の武器を一つ知っているでしょう?」

「「「「なにっ!?!?」」」」

「うーん……そんなのあったっけ……??」

 

途端、ダイ以外の四人が一斉に驚きの声を上げた。そして当の本人は、チルノの言葉を頼りに自分の記憶を必死で探していたところだった。

だが予想通りというべきか、すぐには浮かばず、しかたなしチルノはため息交じりに口を開く。

 

「ロモスで王様から"覇者の剣"を下賜されるはずだったでしょ? もう忘れたの?」

「あっ!!」

 

答えを聞いて、ダイもようやく気がついた。

そもそも覇者の剣は、ダイがロモスにてクロコダイン率いる百獣魔団を撃退した際に、王様から勇者の称号と共に授与されるはずだった物だ。だがダイはそれらを『自分は勇者として認められるほど強くもないから不要だ。それはもっと別の世界平和のために使ってくれ』と言って受け取ることを断っていた。

 

「覇者の剣じゃと!? そりゃ、伝説に名高い最強の武器ではないか!!」

 

その名を耳にした途端、バダックは悲鳴のような声を上げる。おそらく、この世界で最も有名な武器の一つだろう。神から与えられたとまで言われるそれならば、(ドラゴン)の騎士が扱う武器としても相応しい。

 

「なんと……お二人はそんな武器をご存じだったのですね」

「うーん、でも良いのかなぁ? おれ、あのときに自分は要らないって言っちゃったし」

「大丈夫じゃない?」

 

自身の過去の言葉を思い返し、やはり必要になったのでくださいと言いに行くのは果たしてどうしたものかとダイは悩む。だがチルノはそんなダイの悩みを解決すべく口を出す。

 

「世界の平和のために使ってくださいってあのとき言ったでしょ? だったら、勇者が使うことが一番の近道だと思う。それに、今やダイは(ドラゴン)の騎士の力に目覚めて、ライデインだって使える。これで勇者と名乗れないってことはないでしょう?」

 

勇者としての実力は当然として、六大軍団を既に四つも打ち破っているのだ。これだけの実力と実績を積み重ねているのに勇者と認められないとあっては、過去に勇者と認められた多くの人間たちは揃って落第だろう。

 

「でも、もう剣が別の事に使われてたらどうするのさ?」

「それも大丈夫だと思う。だって王様は『さらなる成長を期待しているぞ』とも言っていたもの。あれは、いつか剣を持つに相応しくなったら改めて渡すって意味でしょうからね。覇者の剣だってきっと残っているはずよ」

「うーん……うん、わかったよ姉ちゃん!」

 

――本当に、残っていれば良いんだけどね。

 

チルノの説得でダイは得心がいったように朗らかな表情を浮かべる。だが本来の歴史を知る彼女は、覇者の剣が既に偽物とすり替わっていることを知っている。ならば行く意味はないかように見えるが、何も剣を手に入れることだけが目的ではない。

それ以外にも用事があるため、ここでロモスには向かっておくべきなのだ。

 

「じゃあ、早速行きましょうか?」

「でしたら、オレもお供させてください」

 

善は急げとばかりにロモスへ向かおうとする。だが、突然ラーハルトが口を挟んだ。

 

「お二人の身に何かあれば、オレはバラン様に顔向けができません。過保護、と思われるかも知れませんが、どうか!」

 

それは彼の立場からすれば、ある意味では当然の懸念であった。自分の目が届く範囲から離れた場所に、ダイたちが向かうのだ。ならばラーハルトからすればそのような行動に出たとしても不思議では無い。

 

「大丈夫よ、ロモスに戦いに行くわけじゃ無いから。ちょっと行って、剣を貰ってくるだけだから」

「しかし……!!」

「ラーハルトは自分の修行を進めておいて、ね?」

 

その申し出は、とてもありがたかった。だが、本来の歴史を知るチルノから見れば彼がついてくることは過剰だと判断する。既にポップがいない状況ではあるが、彼の代わりは彼女ができない訳では無い。

そしてもう一つ、修行の旅に出た彼女(・・)の気づきの一つともなるのだ。ならばここはラーハルトの力が無くともさして問題は無いだろうとの判断だった。

 

「……承知しました」

 

完全に納得した訳では無いだろうが、ラーハルトはそう言うと頷く。

 

「じゃあ、ちょっと準備してくるから待ってて」

 

それを見たチルノは、その場から駆け足で離れて行った。

 

「準備って、姉ちゃん何するんだろ?」

「……着替えじゃないのか?」

「あっ!!」

 

自分の発言の迂闊さに気づき、ダイは少しだけ頬を赤くした。

 

 

 

「お待たせ……って、どうしたの?」

「遅いよ姉ちゃん!」

 

チルノが再び戻ってくると、そこにはダイだけしか残っていなかった。そのダイも、待ちくたびれたように口を尖らせて不満を言う。

 

「ヒュンケルたちはもうとっくに行っちゃったよ。着替えにどれだけ時間を掛けてるのさ!?」

 

そこまで言ってから、ダイは少しだけ視線を逸らして小声で続きを口にした。

 

「……まあ、似合ってるけど」

「ふふ、ありがとうダイ。それに、着替えだけじゃなくて、これを取りに戻っていたの」

 

そう言うとチルノは道具袋からアイテムを取り出すとダイに見せる。

 

「キメラの翼?」

「ええ、まさか歩いて行く訳にもいかないでしょ? それと、この子たちも」

「ピィ!」

「ピーッ!」

 

チルノの言葉に、ゴメちゃんとスラリンが顔を見せる。

 

「ゴメちゃん! スラリンも!」

「二人とも、途中で出会ったの。二人で遊んでいたみたいだけど、話をしたら一緒に行きたいって言うから……ダメだった?」

 

少しだけすまなさそうな顔をするチルノとは対照的に、二匹のモンスターたちは連れて行けとばかりに偉そうな態度を取っていた。だが姉の言葉に対してダイは得意そうに言う。

 

「ううん、大丈夫だよ姉ちゃん! それにおれ、ルーラが使えるようになったんだ!!」

「え!? そうなの!?」

「うん! 紋章の力があれば、飛翔呪文(トベルーラ)だって使えるんだ! その前のルーラくらい楽勝だよ!!」

 

その言葉にチルノはずいぶんと驚かされた。

だがなるほど、この世界のダイは紋章の力を抜きにしてもライデインなどの呪文を扱っているのだ。ならば(ドラゴン)の騎士として目覚めた今のダイならば、そのくらいのことはやってのけてたとしても不思議ではない。

 

「じゃあ、お願いするわね」

「まかせて! ルー……」

「あ、まずデルムリン島に行って」

 

姉に良いところを見せようと張り切っていたところを止められる形となり、ダイは少しだけ恨めしそうな目を見せる。

 

「デルムリン島? いいけど、何の用事なの?」

「覇者の剣を貰うんだから、せめて覇者の冠は返還しておこうって思ったの」

 

その理由は虚実が混ざっていた。

仮に本当に覇者の剣が授与されるのであれば、覇者の冠は持て余している。ならばダイの言葉では無いが、覇者の冠は別途世界平和のために活用して貰った方が良いだろうという考えがある。

そして本来の歴史では、覇者の剣は既に奪われており、覇者の冠を材料として武器に打ち直すのだ。ならば今のうちから覇者の冠を手元に置いておき、武器に打ち直す許可も取っておこうという、もう一つの考えである。

 

「わかったよ、デルムリン島だね? じゃあ姉ちゃん、ちゃんとおれに捕まってて……いくよ、ルーラ!!」

 

言われるまでもなく、チルノはダイの手を強く握る。続いてルーラの呪文が発動し、パプニカの空に光の帯が描かれていった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

その瞬間、デルムリン島の空が一瞬光った。

かと思えば次の瞬間には、すさまじい速度で光が降ってきた。その光はそのままデルムリン島へと降り注ぎ、轟音を上げて地面へと激突する。

 

「痛たたた……」

「ピィ~……」

 

薄く砂煙が立ち上がり、チルノたちが衝撃の痛みに声を上げる。唯一ゴメちゃんだけは空を飛んでいるためダメージを受けることは無かったが、他の三人はそういうわけにもいかなかったようだ。

 

「ごめん、姉ちゃん……おれまだ、自分一人でしか使ったこと無くって着地が……!?」

 

チルノと同じくダイもまた、痛みを堪えながら着地制御に失敗したことを謝りかけて、そして気づいた。自分の下にはチルノがおり、ちょうどダイがチルノの上に覆い被さったような姿勢になっていたのだ。

まるで姉を押し倒したような格好になっており、それに気づいたダイは慌ててチルノの上から退ける。

 

「ううん、平気だから……ん、どうしたの?」

「なんでもないよ!」

「ピィ~」

 

痛みに堪えていたためにそんな弟の心に気づかず、チルノは不思議そうな顔をしてスラリンと顔を見合わせる。そしてダイは顔を少しだけ赤らめ、そんな姉弟の様子をゴメちゃんは何かを悟ったような顔で見ていた。

 

「なんじゃ今の音は……!? おおっ、ダイ! それにチルノも!?」

「あ、じいちゃん。ただいま」

 

ルーラの着地点は、ダイたちの家の前だった。そしてルーラの衝突音に驚かされ、ブラスが何事かと顔を出していた。ブラスに続いて、彼の護衛役を担っているロモス騎士たちも姿を現してくる。

 

「ただいま、おじいちゃん。ちょっと、忘れ物を取りに来たの」

「忘れ物……? はて、何かあったかのぉ?」

 

チルノの忘れ物と言う言葉に、だがブラスは何のことか分からず首を捻る。

 

「覇者の冠のことだよ。じいちゃん、あれどこにあるんだっけ!?」

「ああ、それならチルノが作った台座の上にちゃんと飾っておるぞ」

「台座の上だね!?」

 

ブラスの言葉を聞くなり、ダイは弾かれたように飛び出して家の中に入っていく。

本来の歴史ではロモス王からせっかく頂いた覇者の冠であったが、家のどこかに放置したままだったらしく、必要になった時には家中をひっくり返すほどの勢いで探し回っていた。

 

チルノはそれを知っていたため、ロモス王より覇者の冠を賜った時点で木製の台座を作りそこに飾っていた。いつ必要になったとしてもすぐに手に入れられるようにするための備えである。

 

「やれやれ、何かと思えば……」

「急にごめんなさいおじいちゃん。ちょっと、覇者の冠が必要になったの」

「なるほど覇者の冠が必要でしたか」

 

ダイの様子をみてブラスとチルノは互いに苦笑いを浮かべる。だが、そんな親子の心など知らず、ロモス騎士の一人が急な来訪の理由に納得したように口を開く。

 

「ダイ殿に差し上げた物とはいえ、かつての国宝ですからね。きちんと扱っていただけているのは、我々としても嬉しい限りです」

「我々も時々ですが、手入れをさせていただかせているのですよ」

「あはは……ありがとうございます」

 

そのまま話は、冠の扱いへと変わっていった。きちんと手入れをされていることに彼らは感心し、勇者ダイへの印象を更によくしていく。

本当はそれをやったのはチルノであり、彼女がいなければ遊び飽きた玩具のような乱雑な扱いをされていたのだが――わざわざそれを言う必要もないだろう。自分の胸の裡に永遠にしまったままにしておくことを少女はひっそりと誓う。

 

「あったよ、姉ちゃん!」

 

見つけやすい場所にあるため、ダイは手に覇者の冠を持ったまますぐに戻ってくる。少しの間、話し合うだけの時間も無いことにチルノは少しだけ残念に感じる。

 

「姉ちゃん、早く行こうよ」

「はいはい。ごめんなさいおじいちゃん、なんだか忙しない感じになっちゃって」

 

チルノはせめて少しでもブラスと話をしたかった。特にバランとのことについて、ブラスへと一言だけでも謝りたかった。だがダイに急かされ、それもままならないようだ。残念に思いながら、別れの挨拶をする。

 

「なに、構わんよ。何やら大変なことがあったようじゃが、元気でやっとるならそれでいいわい」

「……うん、おじいちゃん。ちゃんと元気でいるから!」

 

だが、ブラスにはそれすらお見通しだったらしい。チルノの微かな様子の違いをブラスは読み取り、気遣うように言葉を掛ける。チルノもまたそれに気づき、短いながらも感謝の言葉を口にしていた。

そして、ダイの手を掴む。

 

「待たせてごめんねダイ。もういいわよ」

「それじゃ行くよ、ルーラ!」

 

再びデルムリン島からロモスへと旅立ちっていく子供たち。だが最初の飛行モンスターに乗って出発した時とは違い、今回はルーラの呪文である。とても立派になったその姿を、ブラスは誇らしく思いながら見送っていた。

 

 




(今回、全部書き終えた後で「あ、スラリンとゴメちゃんがいない!?」と気づいて慌てて付け足しました。あー恥ずかしい……)

ロモスには姉弟だけで行くことに。というか、ロモス王に一度「覇者の剣を授けよう」って言われているのですから、受け取りに行くだけです。
剣も冠も貰うのは流石に恐れ多いので冠は返還する、と見せかけた短縮行為です。
きっと冠は素材になる運命なんでしょうね。

覇者の冠。
この世界の場合、家を探すとあっさり見つかります。
原作では家中をひっくり返して探してましたね。大切にされない伝説の武具さん涙目……と思ったので、チルノさんに台座を作らせて飾らせました。
最初期(4話)の描写がようやく日の目を見ました。

ダイがルーラを使える。
まあ、このくらいは良いんじゃないかなと。事実原作でも後々使ってますから。
決してルラハラ(ルーラに不慣れを装い、異性にラッキースケベを期待するハラスメント行為。主に着地時に『組んずほぐれつ』する)が目的ではありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。