隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:59 二人の師

「す、すげぇ……なんて威力だ……」

「いや、これは単純な拳の威力ではないのだろう……何か隠された力があるような……」

 

ガラガラと音を立てながら、生体牢獄(バイオプリズン)は崩れ落ちていく。その様子はまるで、生物が朽ちていく様子を早回しで見せられているようだった。しかもそれは、マァムの放ったたった一撃によって引き起こされたものだ。

牢の中にいた男たちはその結果に驚き、何が起きたのかわからずに推論を口にするのが精一杯だった。

 

「見ての通り、牢は破壊した……次はあなたの番よ!」

 

生体牢獄(バイオプリズン)を破壊した当人のマァムは、自然体に立ったままザムザを睨みつけながらそう言った。

 

「次はオレの番だと……どうやって生体牢獄(バイオプリズン)を破壊したのかは知らんが、実験動物(モルモット)風情が調子に乗るな!!」

 

対してザムザは、自慢の牢獄を破壊されたことで怒りの感情に支配されて冷静さを欠いていた。感情の赴くままにマァムに襲いかかって行く。

だがその動きはマァムから見ればとても稚拙なものだった。己の身体能力の高さにあかせた乱暴な攻撃。そんなものが、武神流を学んだ今のマァムに通用するはずもない。

 

「甘い!!」

 

襲いかかるザムザを迎撃するようにマァムもまた飛びかかり、素早い動きでリーチの差をものともせずに一瞬にして懐に飛び込むと、相手の横っ面を目掛けて輝く拳の一撃をたたき込む。凄まじい勢いで放たれた攻撃はザムザ本人が突進していたこともあって、彼のの巨体をふらつかせるばかりか、そのまま吹き飛ばしてダウンさせるほどだ。巨大な身体が倒れて、辺りに土煙が立ち上る。

 

「チウ――じゃなくて……大ねずみさん、大丈夫かしら?」

「マァムさん――じゃなくて……名も知らぬ武闘家の娘よ、ボクのことを気に懸けてくれるのかな?」

「ええ、まぁ……」

 

ザムザがダウンしている隙にチウを回復しようと考え、その際に一応気を遣って怪傑大ねずみとは初対面である。という体で接したのだが、どうやら裏目に出たようだ。知り合い同士がお互いに初対面を装うという、なんとも面倒なやりとりとなっている。

それでも気を落とすことなく、マァムは当初の目的を口にする。

 

「回復呪文を使おうと思ったのだけれど……案外平気そうかしら?」

「いや! いやいや!! そんなことはありません!! 今も傷は残って……いや、残ってはいるが、こんなものはかすり傷!! 回復など必要ありません!!」

「そ、そうなの……? でも、一応は……ホイミ」

 

チウが窮鼠包包拳(きゅうそくるくるけん)を使っても問題ない程度にはチルノが回復させていたので、実は大方の怪我は治っている。

だがそれとこれとは話が別だ。

慕うマァムからの回復呪文を受けれると聞いて、チウは喜んでそれを享受しようとした。だがすぐさま、自分の中の怪傑大ねずみとしての意識がそれを拒否する。殆ど治っているのに、下心ありきで回復を受けるなど彼の中の英雄像からすれば言語道断だったようだ。

とはいえ加えて文字通りかすり傷程度の負傷しかしていないので、強がりというわけでもない。そんなチウのキャラに少々圧倒されつつも、マァムはとりあえずホイミ呪文を唱えて回復させる。

 

「おおっ! マァムさんの回復呪文!! ありがとうございます、マァ……武闘家の娘さん!!」

 

すでに"マァム"とそのものズバリの名前を言っているのだが、それを無かったことにする。その胆力は見習うべきなのかも知れない。

 

「だが、怪我を治して貰ったが……すまない、ボクの力ではアイツを倒すことは出来ないようだ……悔しいが、この戦いは任せるよ……」

「もちろんよ、任せて。あなたから貰った心は、決して無駄にはしない!」

 

実力差を理解して、引き下がるという発言であったが、だがマァムはその想いをしっかりと受け止める。そもそもマァムがこの場にいるのはチウの言葉に力を貰ったからである。

 

「ありがとう。じゃあボクは……牢に閉じ込められていた彼らと一緒に下がるよ。その方が、安心して戦えるだろう?」

 

マァムの言葉にチウも納得したように頷き、次に自分が出来ることを考え、彼女が戦いに集中できるように場を整えることを提案し、すぐさま走って行った。そんなチウの行動にマァムは心の中で短く礼を言う。

 

「ほら、キミたち! 何をしているんだ!! 巻き込まれないようにもっと下がるんだ!!」

「下がるだぁ!? 何を言ってる!!」

「そうとも! 全員で協力すれば……」

 

背後の方からはチウの声と、その言葉に反論するゴメスたちの声が響いてきた。彼らの言い分はむしろ当然だ。いかにマァムが強くとも、ザムザの姿を見てしまっては女性一人で戦える相手と思えるはずもない。

 

「大丈夫! マァムさんの最強拳があれば、あんな相手は敵じゃない!! むしろ、全力で集中して戦えるように、ボクたちは下がっておくべきなんだ!!」

 

だがチウは、そんな声を一喝して黙らせる。彼女が操る必殺拳の強さと危険性をよく知っているからだ。まずあり得ないことだが、万が一以下の確率で彼女の放つあの一撃が仲間に当たればどうなるか。そんな不安を抱かせないためにも、マァム一人で戦わせた方が良いと考えた。

 

「最強拳……?」

 

いまいち話の先が見えず、出場者たちは混乱する。だが、それが牢を打ち破ったあの一撃のことなのだろうということだけは自ずと理解出来た。

 

 

 

「この、小娘があッ!! 生体牢獄(バイオプリズン)を破壊しただけでは飽き足らず、オレを殴り飛ばすなど!! 殺す!! 貴様も殺してやる!!」

 

殴り飛ばされた衝撃から起き上がり、ザムザは殺意を込めた瞳でマァムを睨む。眼力だけで生物を殺せそうな力強さを持っていたが、だがマァムはそれらを悲しい瞳で受け止める。

 

「ザムザ……あなたのその力の一端は私も見せてもらったわ。でも、その力を得るのに、どれだけの人間の……怪物(モンスター)の命を犠牲にしたの?」

「犠牲だと? フン、くだらん!! これは崇高にして偉大な実験! 魔族が神に近づくための偉業の一つなのだ!! 人間や怪物(モンスター)風情がどれだけ犠牲になろうがオレの知ったことでは無い! いや、むしろ感謝すべきだ!! ゴミクズ程度の価値しかなかった命が、偉大なる実験の礎という意味を与えてやったのだからな!!」

 

拳を交えたのはほんの僅かな時間。だがそれだけでもマァムにも超魔生物の肉体的な恐ろしさは理解できた。あらゆる魔物の長所を取り込んだという言葉は嘘偽りなく、仮に修行によってこれだけの強さを得ようとするのであれば、どれだけの時間と練度が必要になるのか、彼女には想像もつかない。

それだけに理解できた。その強さを得るために、代償として(おびただ)しい数の命が犠牲となったのかを。そして、こともあろうに死んでいった命を粗末に扱い、犠牲は名誉だと口にする。

それは到底、マァムが許せることではなかった。

 

「神様がくれた生命を玩具のようにもてあそぶなんて、最低だわ! 絶対に誰にも許されないことよ!! 誰も教えないなら私が教えてあげるわ! 生命の痛みを……!!」

 

怒りの眼差しを覗かせながら、深く静かな闘気と自身の内へと凝縮していく。

 

「生命の痛みだと!? 不滅の肉体を持つ超魔生物を相手になにを……」

 

マァムの決意を笑い飛ばそうとして、だがザムザはその動きを止める。不意に自身の右半面から鋭い痛みが走ったからだ。猛烈な違和感に言葉を止めたザムザであったが、続いて角にヒビが走って行く。自身の肉体に起きた変調を信じられず、だが戸惑っている間にもヒビは瞬く間に広がっていく。

 

「ぐあっ!!」

 

ついには限界に達したように砕け散った。爆発するような衝撃を受け、ザムザは思わず顔を仰け反らせる。だが驚くべきところはそこではない。

 

「バ、バカな!! 再生が始まらない!? なぜだっ!?」

 

超魔生物はあらゆる傷をたちどころに治す。故に、このようなことはありえない。しかし現実にザムザはダメージを負い、再生が行われることもない。想定外の事態と痛みに戸惑うザムザを、マァムは強い瞳で見ていた。

 

「すげぇ……なんて威力なんだ……」

「なるほど、あれならむしろ一人の方が安全かもしれん……」

「あれが、まさか……」

「そう、あれこそが彼女の必殺拳――その名も閃華裂光拳!!」

 

腕を組み、得意げな様子でそう語るチウ。そのおかげで幸いにも、ゴメスたちの「確かに凄い技だが……お前が言うのかよ」という視線に気づくことはなかった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「閃華裂光拳……凄い威力ね……」

 

ザムザとマァムが戦っている場所から少し離れた場所にて、チルノはダイの治療を続けながら呟いた。彼女が知る本来の歴史において、超魔生物ザムザを相手に対して現時点で唯一といって良い有効な攻撃方法である。

 

――この世界には、俗にマホイミと呼ばれる呪文が存在する。人間の生体機能を魔法力によって促進するホイミの呪文だが、過度に使いすぎれば生体組織を破壊する劇薬となってしまう。そんな強力すぎる回復呪文を指す言葉だ。

対生物相手ならば致命的な効果を与えるが、その分だけ消費魔法力も多く、いつしか歴史から消えていった呪文。だがブロキーナは回復呪文と武神流拳法を併用して、インパクトの瞬間に爆発的な威力を生み出してマホイミと同じ効果を得る極意を編み出していた。

それこそが閃華裂光拳であり、使う際にマホイミの効果で一瞬だけ光ることからそう呼ぶようになったのだろう。

 

「マァム……すごいや……」

 

姉の言葉に頷くように、ダイもまた口を開く。未だ苦しげな表情を見せるが、それも治療前と比べて幾分と和らいでいた。毒の影響が減衰している証拠だろう。もしくは――マァムの戦う姿がよく見えるようにと――チルノがダイを膝枕しているからかもしれないが。

とあれ、閃華裂光拳を放つマァムの姿はこの場の誰よりも頼もしく見える。

 

「そうね。でもダイもこのままマァムに任せっきりってわけではないんでしょう?」

「……うん」

「じゃあ今は、マァムを信じて、あとは毒が治るように気を強く持っていなさい」

 

"病は気から"という言葉があるように、気の持ちようで効果も変わる。治ると自分が信じれば、体内の免疫機能が活性化して解毒も早く完了するだろう。

 

 

 

ザムザは自身の顔を手で押さえながら、信じられない事実を必死で受け止めていた。自らが必死で研究を進めてきた無敵の生物たる超魔生物。超魔生物学が完成すれば、敵となる相手など存在しない。そう信じてきた。だがそれが今、根底から崩れようとしていた。

 

「ガアアッ!! この力、この威力……なるほど、生体牢獄(バイオプリズン)を破ったのもこの力か……!!」

 

ギリギリ冷静な部分がマァムの力を分析する。何が起きているのかはわからなくとも、マァムの技によって生体牢獄(バイオプリズン)が壊され、自身も危機に陥っているのは分かる。

 

「あの小娘といい、貴様といい!! 貴様たちは生かしておくわけにはいかん!! グアアアアアアッ!!」

 

再び絶叫を上げながら、ザムザはマァムへと襲いかかる。殴りは分が悪いと考えたか、今度は蹴りだ。それも地面を蹴り飛ばし、同時に大量の瓦礫を放っている。超魔生物のパワーによって蹴り飛ばされたそれらは、かなりの勢いを伴ってマァムへと襲いかかる。

目眩ましと攻撃を同時に兼ね備えた一撃であったが、だがその程度の小細工でどうにかなるほど相手は甘い相手ではない。

マァムは斜め前に大きく跳び、すれ違うようにして攻撃をやり過ごす。

 

「そこかっ!!」

 

だがマァムの動きにザムザは鋭敏に反応して、着地点を狙うように拳を繰り出した。回避不可能のタイミングであり、ダメージは避けられない――相手がマァムでなければ。

 

「はっ!」

 

マァムはこのままでは回避不可能と悟るや否や、迫り来る拳を足場に高く跳躍してザムザへと迫る。まるで曲芸師のような軽やかな動きに驚かされ、ザムザの動きが一瞬止まった。その間にマァムはザムザの顔面に蹴りを放つ。

 

「ガフッ! だがこの程度では……」

 

 鞭のようにしなる脚から繰り出された蹴りは凄まじい鋭さを持っていた。それが顔面にたたき込まれれば、体力自慢の怪物(モンスター)でも倒れるほどだ。だがその一撃も、超魔生物の肉体には幾ばくかのダメージを与えただけに留まる。

不意を突いた攻撃が不発に終わったことを笑おうとして、ザムザの言葉が止まる。空中で更に体勢を立て直して、追撃の一撃を放とうとするマァムの姿が見えたからだ。

 

「武神流! 閃華裂光拳!!」

「ぐはああああっ!!」

 

胸元へと突き刺さった一撃が炸裂し、ザムザは大打撃と共に吹き飛ばされる。攻撃を終えたマァムはその場でくるりと一回転しつつ、危なげなく地面へと降り立った。

 

「バカなっ! こんなバカなことが、あってたまるか!!」

 

蓄積するダメージによってよろよろと起き上がりながら、ザムザは吠える。

 

――おのれ、おのれおのれ!! グズグズしていては……!!

 

彼の視界の端には、ダイを治癒しているチルノの姿が見える。ダイに使った毒は彼の謹製の毒薬であり、いかに解毒呪文(キアリー)を用いようとも簡単に解毒できるものではない。だがそれは時間を掛ければそのうち治療が終わるということだ。

そうなれば目の前のマァムだけでなく、ダイも同時に相手をしなければならないということだ。仮に二人を同時に相手にすれば勝率はガクリと落ち込むだろう。

つまり、この場でマァムだけでもなんとかしなければならない。そのためには――

 

「カアアアアッ!!」

 

――なっ……!?

 

「グフフフッ……このザムザ様の頭を舐めて貰っては困る……!」

 

起き上がったザムザへ更に追い打ちを掛けようと迫り来るマァムへ向けて、ザムザは十分に引きつけてから彼は特殊な粘液を口から吐き出した。予想だにしなかったその攻撃にマァムは回避しきれず、その粘液を両手へと受けてしまう。

 

「先ほどのお前の蹴りはあの光る技ではなかった。そもそも、自在に使えるならばオレの肉体に触れた時に遠慮無く使えば良い。つまり、あの技を使えるのは拳を使ったとき――しかも攻撃が命中した瞬間だけに限られると踏んだのよ」

 

完全に固定されているわけではないので、粘液に包まれていても指は動かせるのがせめてもの救いだろうか。両手を覆う粘液を拭い取ろうと両手を擦り合わせるが、一向に取れる気配がない。そうやって足掻くマァムの姿を見ながら、ザムザは逆転の芽が出たことに気を良くする。

 

「ならば元となる拳を封じてしまえば良い。実に簡単な対処法だ!」

「ふぅん……なるほどね。良い読みをしているわ……」

 

マァムがザムザの目の前で閃華裂光拳を見せたのは二回だけ。その二回で技の特性と必要な条件を推測し、自身が実現可能な対処を実戦してみせる。敵ながらあっぱれと言う他なかった。

 

「グハハハハッ、命乞いか? それとも時間稼ぎか? 予め言っておくが、それは特殊な皮膜粘液。ちょっとやそっとでは取れん!! そして!!」

 

ザムザは大きく息を吸い込み――

 

「ガアアアッ!!」

 

――そして吐き出す。

 

「うっ、これは……!! ゴホッ!!」

 

そこから吐き出されたのは、薄紫色をした不思議な吐息だった。迫り来る息を僅かに吸っただけで、マァムは強く咳き込む。その様子にザムザはニヤリと笑う。

 

「猛毒の息だ。この毒が貴様の身体を蝕む。いかに武術の達人といえど、吹きかけられた息を素手で防ぐ方法など持ち合わせていないだろう? その毒は立っているだけでもお前の体力を奪い、しかも容易に解毒は不可能。つまり……!! このオレの勝利は盤石ということだ!!」

 

確かにザムザの言うとおり、ただ突っ立っているだけでもマァムの身体を毒が蝕んでいくのが感覚で分かる。そして相手の言うように、解毒をしている暇など無いのだろう。悠長に解毒呪文(キアリー)を唱えていようものなら、その瞬間に襲いかかられる。

 

「……っ……はああああああああっ!!」

 

そこまで理解したマァムは、一度瞳を閉じて小さな声で何かを囁いた。だがすぐに目を開き、気合いを上げながら意識を集中させ、今までに見せたことのない独特な構えを取る。両手の掌を眼前で重ね合わせ、ザムザへ向ける。

 

「フン、なんだか知らんが無駄なことを!!」

「はっ!!」

 

気合いの声と共に、マァムの掌から光の奔流が放たれた。その一撃は余裕の笑みを浮かべて油断していたザムザに直撃し、彼の肉体を傷つける。

 

「ガッ!? なっ、なんだこの攻撃は!! 闘気砲だと!?」

「まだまだ、こっちもあるのよ!!」

「ム……!」

 

闘気砲を放ったかと思えば、続いてザムザに向けて一気に距離を詰める。その動きはまるで息をもつかせぬ連続攻撃を思わせるほどに早い。だがマァムのその行動を、ザムザは心の中で嘲笑する。彼女の両手は未だ粘液に覆われており、閃華裂光拳を使われる危険性は無いからだ。

先の闘気による一撃も、驚きはしたものの威力としては耐えきれないほどではなかった。その事実がザムザの油断を誘う。相手を攻撃できる確実な距離まで引きつけて、じっくりと叩けばよいと考える。

 

「死ねぇ!!」

 

十分に引き寄せたマァムへ向けて、ザムザは上から押し潰すように拳を振り下ろす。丸太よりも太い豪腕から繰り出されるは空気をも切り裂く鋭い一撃であったが、マァムは迷い無く突っ込み、さらにザムザへ近づくことでこれを回避する。

 

「せええいっ!!」

 

十分すぎるほど近寄ると、マァムはザムザの腹部目掛けて瞬時に連続して何発もの拳をたたき込んだ。今までマァムが見せてきた攻撃と比べれば、はっきりと弱いと断言できてしまう攻撃。だがその攻撃を叩き込むと彼女はすぐさまザムザから離れて距離を取る。

 

「くくく、どうした? その非力なこうげ……き、ききき……ブベエエエエッ!!」

 

それは超魔生物の肉体からすれば拍子抜けするほど弱い攻撃だったのだろう。わざわざ攻撃を掻い潜り、近寄って放った攻撃がこの程度の威力しかないのか。そう嘲ろうとして、だがその言葉は最後まで紡がれることはなかった。

ザムザは突如として苦しみだし、全身を小刻みに震えさせる。さらには慌てて口を抑え、懸命に堪えようとするも、その努力も虚しく盛大に吐血した。

 

「今までの光る技とは違う……なんだこの、身体の奥底にズシリと来る衝撃は……!! おおお……ググググ……!!」

 

闘技場の地に鮮血を撒き散らしながら、自分の肉体に何が起きたのか理解が追いつかずに混乱していた。閃華裂光拳の攻撃とはまるで異なった、身体の内側に爆裂呪文を叩き込まれたような衝撃とダメージは、超魔生物の肉体を持ってしてもそう簡単には耐えきれない。

 

そもそも傷というのは外傷――つまり皮膚に負うものだ。それを防ぐために生物は体毛や鱗を生やしたり、場合によっては皮膚そのものの柔軟さで傷を防ぐ。だが内側からやってくるダメージに耐える生物など、そうそう存在するものではないのだ。いかに超魔生物といえどもそのような特性まで兼ね備えているはずもない。

 

「馬鹿な……不滅の、無敵の肉体が……」

 

――光る技を封じたと思えば、なんだこの技は……それに、ヤツの身体は猛毒に蝕まれているはず……もはや立っているだけでも辛いはずなのに、なぜこれほどの力を出せる!?

 

理解できない攻撃に悩まされながら、マァムに恐怖の籠もった視線を向ける。自分の行った行動全てが裏目に出ているように感じてしまい、彼の心はさらに追い詰められていく。そのため、マァムの身体をうっすらと覆う膜のような光に気づくことはなかった。

 

「手を包んだ程度で戦闘力が鈍ると本気で思っていたのかしら? だとしたら、頭が良い割にあなたの想定は甘すぎるわね……これが、あなたが笑っていた人間の力よ!」

 

見る者によっては恐怖すら感じるほど、強い眼差しでザムザを睨み付ける。その視線に怖じ気づき、ザムザの脚は自然と一歩下がった。それを見たマァムはわざと大きく間合いを詰めていく。

 

「くっ、来るなああっっ!!」

 

無造作に近寄ってくるマァムの姿に生物の持つ根源的な恐怖を感じ、彼女を追い払うように左手を振るった。攻撃の意志など何も感じられない反射的なその動きは、今この場面では致命傷でしかなかった。

 

「これでっ!!」

 

迫り来るザムザの腕を目掛けて、マァムは再び両手で連撃を繰り出した。今度は先の一撃よりも強烈な威力を持ち、さらに彼女の手は闘気の光に包まれていた。

 

「ひっ! ガ、グアアアアアアアッ!!」

 

放たれた攻撃は僅かな間を置いてから、ザムザの左腕はズタズタになっていった。内側からの強い衝撃によって腕に幾筋もの亀裂が走り、そこから闘気が水蒸気のように吹き出して破壊してく。超魔生物の強力な再生能力を持ってしても、その傷は容易には治らないだろう。

 

そして、想定外の副次的効果ではあるが、拳と闘気による強烈な衝撃と熱に耐えきれず、マァムの手を覆う粘液が砕け散った。

 

 




嗚呼……今回でザムザ倒すまで行くはずだったのに……
(進みが遅くて怖くなって投稿してしまう私)

マァムが使ったのは「あの技」です。チルノさんがパプニカで教えていたアレです。
いくら教えたからって、ここまで使いこなすとか……やはり天才……

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