時は、ダイ達がバランとの激闘を終えてパプニカへと戻ってきた頃まで遡る。
様々な知識や経験を得た彼らは、それぞれがそれぞれの為に動いていた。
ダイとチルノは知っての通り、ロモスにて伝説と謳われた覇者の剣を手に入れ、マァムと共にパプニカへと戻ることとなる。戻ってくれば今度は鍛冶師へ会いに行くことになるのだろう。
レオナは
ヒュンケルはラーハルトと共に人間世界に馴染む案内――と言う名の修行を繰り広げており、クロコダインもそれに付き合わされていた。三人が三人ともタイプは異なるものの世界全体で見ても指折りの戦士たちである。その彼らが互いに鎬を削り合えば果たしてどれ程のレベルアップを見せるのか。
そして、ポップは何をしているのかというと――
「むー……」
大魔道士マトリフの隠れ家にて、彼はうなり声を上げながら一冊の本と格闘していた。古めかしい装丁のそれこそ、アバンの書。勇者アバンがその武芸・呪文・精神の全てを後世のために記したこの世に一冊しかない手書きの本である。
この数日間はヒュンケルたちが目を皿のようにして読み込んでいたが、怪我も癒えて本格的に修行をするには不要と置いていったおかげで、今はポップが独占して読んでいた。とはいえ――
「はー……っ、ダメだ……イマイチ気持ちがノらねぇや……」
地に直接座り込み、胡座をかいて本を読み込んでいた彼であったが、その集中力は普段と比べて散漫になっていた。気付けば地面を閉じて、天を仰いでいる。
パプニカに戻ると、ポップはマトリフに連れられて特訓を付けられていた。それも「しばらくコイツを預かる。滅多なことでは戻らないと思え」とレオナたちに言付けるほどの念の入れようであった。
その言葉にポップは今までにないほど本格的な雰囲気を感じ取り、どれほど過酷な修行が行われるかと期待と不安を入り交じらせていた。破天荒ではあるものの、なにしろこの世界で一番の魔法使いの修行である。その効果の程は折り紙付きだ。
だがその期待は、悪い意味で打ち砕かれた。
最初の一日こそマトリフ直々にポップの特訓に付き合ってくれたものだが、二日目からは特訓メニューを伝えられて「それをこなせ」と言われただけである。本人はフラッとどこかに出かけたり、何か細やかな作業を行うだけでポップに構うことはなかった。
変化があったのは昨日のこと、ようやく別の修行内容が与えられたかと思えば「アバンの書を読み込め」であった。
それがマトリフに与えられた今のポップの課題である。どれだけ厳しい特訓が課せられるかと覚悟していた彼に取ってみれば、拍子抜けするようなものばかりだ。彼の言葉を信じて真面目に読み続け、今まで教えられた事もなかった呪文も知ることが出来た。効率的な呪文の技術も知ることができた。
だが、着実に成長しているのに反して今のポップの心は曇っている。
「考えてみりゃ、今まで修行はずっと誰かと一緒だったもんな……」
自分以外誰もいない中で、彼はポツリと呟いた。
一年ほど前、家出同然でアバンに弟子入りしてからというもの、修行は大抵アバンが見ていた。そしてデルムリン島にてダイとチルノの二人と出会い、パプニカにてマトリフに修行を付けてもらう。そのいずれのタイミングも誰かが彼の近くにおり、こうして一人で修行を行うことに慣れていなかった。
とはいえ世界中の武人・魔法使いが垂涎するアバンの書を読みながら口にするには、なんとも贅沢な悩みである。
「まあ、仕方ねぇか……師匠が何かやってるのは知ってるし、今はこうして真面目にやるだけだな……」
どこか心の中では納得しきっていないようだが、それでも気を取り直すように自分の頬を叩いて活を入れる。
「そうすりゃ、次の戦いではおれだって……」
――活躍できる。
そう断言しようとしてポップは自ら口を噤む。バランのことを思い出したからだ。
「い、いや、大丈夫だ。呪文を無効化する相手なんて、そうそうポンポン出てくるわけがねぇんだ。次はしくじらねぇ……!!」
呪文が通じないため、彼が相手をしていたのはバラン配下の竜騎衆が一人、ガルダンディーである。だがそのガルダンディー相手にすら、まともに勝てなかったことを思い返して歯噛みする。
互角の勝負を繰り広げたと言えば聞こえは良いかもしれないが、ポップがなんとか食い下がれたのは事前のアドバイスのおかげが大きい。相手の戦い方と特殊な技を教えてもらい、その情報から自分なりに策や戦い方を考える時間があった。その前情報と猶予がなければ、一対一ではおそらく負けていただろう。
「……そういやチルノのやつ、竜騎衆一人一人の名前はおろか戦い方なんて、どこで知ったんだ?」
苛立ちと共に思い返していたところで、ポップはふと気付いた。彼がどうにか戦えた情報の出所についてだ。その情報の一切合切はチルノから伝えられた物である。
何故そんな情報を知っているのか? そう尋ねたときにも彼女は、この危機を乗り越えたら必ず説明すると言っていた。
確かにあの場では一分一秒を争う事態であったし、悠長に説明している暇がなかったのも分かる。だが今にして思えば明確な解答を避けていたようにもポップには見えていた。
「――まさか、敵と内通して!? いや、そんなわけねぇよなぁ……」
最もありえるであろう可能性の一つを口にして、だがすぐに自分で自分の考えを否定する。仮に本当に内通者だったのならば、裏切るタイミングは幾らでも転がっていた。アバンの使徒を全滅させるのが目的でも、ダイを仲間に引き入れるのが目的であっても。その全てをフイにしてでも隠し続ける意味が分からない。
そしてなによりも、ポップがチルノを信じるに足る理由がある。
「バラン相手にあれだけの啖呵を切って……考えてみりゃ、ずっとダイの母親代わりとして暮らしてきたんだよな。母は強しってヤツか……」
ダイがまだ赤子の頃から常に一緒におり、ときに姉として、ときに友として、ときに母としてダイに接してきた彼女が裏切り者などと、ポップには想像することもできなかった。加えてバランを相手に放った言葉の数々は、どれもダイのことを真摯に思っていた言葉としか聞こえなかった。
二人の途切れぬ絆を改めて思い返すと共に自分の家族のことを思い出し、ポップはほんの少しだけ感傷的な気持ちになる。
「ん、いやちょっと待て!!」
納得しかけたところを頭の冷静な部分が待ったを掛けた。
子供の頃からダイの面倒を見る。
口で言うのは簡単なことだが、実際の年月に換算すれば十年以上の長い時間が経過している。しかもそれを行った相手は子供――ダイより一歳上の少女なのだ。普通ならば面倒を見るどころの騒ぎではない。ダイと一緒にブラスに面倒を見てもらうのが当たり前だ。
いくら年長は下の子供の面倒を見るといっても、強制でもなければ限度がある。だがチルノはそれが当然だというように言ってのけ、あまつさえ赤ん坊の頃のダイのことすらよく知っているように言って見せた。
――そんなこと、可能か?
自問しつつポップは自分の子供の頃の記憶を掘り起こす。小さな村であり、隣近所の家々とは家族ぐるみの付き合いもちらほらとしていた。その中では当然、ポップ本人も年上の子供に面倒を見てもらったことも、年下の子供の面倒を見たこともあった。
だが――
「どう考えてもおかしいだろ……」
性格や環境などで多少異なってくるだろうが、それでも子供のすることである。丸一日中面倒を見続けることなど出来るはずがない。有り体に言ってしまえば
「じゃあ、どうしてそんなことが出来るんだ……? 普通の精神じゃ無理だろ……」
だがそれをチルノはやってのけたというのもポップの中では受け入れられた。出来ないはずのことが出来る、という矛盾した事実の答えを求めて彼の頭は思考を続け、そして一つの仮説を生み出した。
「いやまて、それなら普通の精神じゃなければ? 何か別の……もっと成熟した存在なら……ッ!!」
そこまで口にして脳裏に浮かんだのは、大人が子供に戻ったなら可能なのではないかということだった。成長した精神と蓄えた知識を持って子供の頃からやり直せたならば、きっとそんな感じになっていてもおかしくはないはずだ。それならば、赤ん坊の頃の記憶だって覚えていても不思議ではない。
「チルノはひょっとして……人間じゃない……?」
だがそれならば、ダイの強さにしても納得できる。チルノが小さな頃から稽古相手となっていたと聞いていたが、それも以前蓄えた知識と経験を活用したのではないだろうか。持って生まれた
「それに呪文が一つも契約出来なかったくせに、今まで見たこともない不思議な力を使いこなしている……」
アバンの"
「いや、ないない。そんなことあるわけねーって……」
そう言うとアバンの書へと視線を落とす。全てを忘れるように一心不乱に集中するその姿は、どこか無理をしているようにも見えた。
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――翌日。数日ぶりに顔を見せたマトリフは、ポップを隠れ家近くの海岸へと引っ張り出していた。空を見れば日が昇りきった頃であり、空は雲一つない快晴の兆しを見せている。
これから特訓が開始されるのだが、けれどもポップはどこか浮かない様子を見せていた。
「なあ……師匠……」
「あん? どうしたそんな腐ったツラして?」
「もしかして、なんだけどよ。人生をやり直せる呪文とかってあったりするのかね?」
「人生をだ? そりゃどういうこった?」
ポップの質問の意図が読めず、マトリフは首を傾げる。
「例えば、今のおれが知識やら記憶をそのままに赤ん坊になって、もう一度やり直せるようなそんな呪文とかがあるのかなって、ちょっと思ってさ」
「人生をやり直す呪文、ねえ……」
――チルノの何かに気付いたのか……?
顎に手をあて考えるフリをしながら、マトリフの頭に浮かんだのは一人の少女のことだった。というよりも、その情報から当てはまるのは世界広しといえども彼女以外に存在しないだろう。
「そんな呪文を探してどうするんだ? もう一度ママのオッパイでも吸いてぇのか?」
「マ……いや、そうじゃなくてよ!! その……」
下品な物言いにポップは一瞬顔を赤らめるが、それ以上の言葉をすぐに続けられず言い淀んでしまう。
「……そう! ちょっとアバンの書を読んでいて思ったんだよ。もしもそんな呪文があれば、もう一度アバン先生に会えるんじゃねぇかって!」
――どうやら、ようやく疑問に思ったってところか。
いかにもとってつけたような理由を口にしながら、上手いこと騙せただろうかと師の顔色を伺おうとする弟子を見ながら、マトリフはそう判断した。
チルノの存在は、彼女を知れば知るほど異質に思うだろう。そう判断するだけの材料が彼女には多すぎる。それでも仲間だから、良い方向に傾いているから、といった理由でなんとなく問題にはなっていないだけだ。
仲間だからと無条件に信じるのは危険すぎる。信じることは決して悪いことではないが、その信じるに値するだけの理由を探す者が一人くらいいても良いだろう。
そういった目が、ポップにもようやく芽生えて来たのだとマトリフは推測する。
「まあ、世界中を探せばあるかも知れねぇが……少なくともオレは聞いたことがねぇ。そんな夢物語みたいな存在を追い掛けてる時間は今のお前にはねぇぞ」
だがそれを指摘することはしない。
本人自身まだ疑い始めたばかりといった様子であり、ここで下手に口にしても何も良いことはないだろう。なにより、チルノ本人がいずれ自分の口から語ると言っているのだ。ならばその時を待ってやるのが現時点での最良と判断していた。
「わーってるよ、ちょっと聞いてみただけだ。それで、今日はどんな特訓をすりゃいいんだ!?」
そんなことを考えているだけの時間も余裕もない。そう言い含めれば、ポップはそれを鋭敏に感じ取ったらしく修行への前向きな姿勢を見せる。どうやらチルノに対する疑問は一旦考えるのをやめたらしい。
「ああ、まずは午前中の課題だ」
「午前中……ってことは午後もあるのか?」
「そういうこった。けれどまあ、この課題は出来なくてもオレはお前を責めたりはしねぇ」
「なんだそりゃ? いつもなら殺そうとしてるんじゃないかってくらい無茶な事させるのによ」
出来なくても責めはしない、という師の珍しい言い方にポップが驚きながら軽口を叩く。だがマトリフはその軽口を真摯に受け止めていた。
「こればっかりはオレがお前の尻をいくら蹴り上げようと、出来るもんじゃねぇんだよ。本人のセンスが問われるんだ」
「センス……? 怖えな、一体何をやらせようってんだ?」
普段とは明らかに違う言い方。そして本人のセンスが問われるという珍しい表現に、ポップは思わず息を呑む。これから何をやらされるのか、真剣な態度を見せた弟子に向けてマトリフはニヤリと笑う。
「簡単だ、これをやればいい」
そう言いながら、両手に
「ど、同時に二つの呪文を……!?」
「できるか、これ?」
そう促され、ポップは自分の両掌をまじまじと見つめながら答える。
「わ、わかんねぇ……やったことねえから……」
「物は試しだ、やってみろ。失敗しても文句は言わねぇ」
「あ、ああ……それじゃ……!!」
師の言葉に背中を押され、物は試しとばかりにポップは
――ヘッ、やっぱりか……
弟子の様子を見ながら、マトリフは心のどこかで信じていたのだろう。ポップの両手にも
「で……できた……?」
成功したことに一番驚いていたのは、当の本人であった。
「よし、出来るんなら話は早え。迎えに来るまでその練習をしてろ」
「練習って……これ以上何をすればいいだよ?」
簡単だと言われた課題を一発で成功させてしまったことに驚き、それ以上の発展がポップの頭には浮かばないようだ。もっとも、これはマトリフが本当にポップへ伝えたいことの事前準備に過ぎない。下手に頭を働かせて
今はまだ、実力は元より精神面での未熟さが目立ちすぎる。
「右手と左手、左右のどちらからもバランス良くエネルギーを操れるようにしとけ。どんな呪文を使おうとも自分が思った通りの調整ができるようにな」
「なんだそりゃ? 随分と難しい注文だな。どっちも今出せる全力をバーッと使うだけじゃダメなのか?」
「悪いとは言わねぇよ。これを操れれば、攻撃呪文と回復呪文を同時に使うことも出来る。自分が増えた様なもんだと考えりゃ、出来ることの幅が随分広がるだろ?」
ポップの言葉は、いかにも若さに溢れた言葉だった。自分も過去にそんな時代があったことを思い出しながらも、だがマトリフは真の目的を隠したまま理由の説明を続ける。
「けれど、所詮は自分の身は一つだけだ。魔法力だって自分の限界以上には使えねぇ。なら使う呪文の方を調節できるようにするんだよ」
「なるほど。確かにそうだな……」
「今日までお前に課した修行をキチンとやっていりゃ、問題なく実現できるはずだぜ」
そう口にした途端、ポップの顔色が少しだけ変わった。その反応からすぐさまどこかで手を抜いていたのだろうとマトリフは悟り、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。
「まあ午前中はこの特訓をしておけ。午後になったらイイところに連れて行ってやるからよ」
その迫力を受けて、ポップは本人でも気付かぬ程度に後ずさりしていた。
「まさか……この課題はそのイイところに行くための下準備なんじゃ……?」
「ほぉ、随分と勘が良くなったじゃねぇか。死にたくなかったら本気で考えておけよ」
そう言ってマトリフは踵を返す。残されたポップは、午後までの短い時間を使い必死で頭を悩ませ続けていた。
「おら、ご到着だ。ここがイイところだよ」
既に太陽は中天を過ぎていた。ポップはマトリフに連れられて
「なんだここ、洞窟?」
目の前には、まるで獣が大口を開けたようにぽっかりと広がる洞窟があった。そして周囲には、金属で出来た柵がぐるりと洞窟の入り口を囲むように張り巡らされている。ルーラのおかげでフリーパス状態で内側に入ってしまったが、普通に歩いて来たのであれば乗り越えるのに多少手を焼かされることだろう。
「そうだ。破邪の洞窟って言ってな、名前くらいは聞いたことあるか?」
「うーん……有るような無いような……」
記憶を探るものの、これといった明確な情報は頭の中から引き出せなかったようだ。難しい顔を浮かべていたが、やがて恐る恐る口を開いた。
「っていうか、ここって柵とかあるし勝手に入っちゃマズいんじゃねぇのか?」
「ん? たしかカール王国が管理していたはずだ
「いいいいいっ!? 王国が管理って、それこそマズいだろ師匠!!」
「いいんだよ、カールは魔王軍に滅ぼされて今のところ管理人は不在だ」
いけしゃあしゃあとそう言ってのける師の姿を、ポップは苦々しい表情で見つめる事しかできずにいた。とはいえ何か言っても考えを変える訳がないことを知っているため、やがて彼は全てを諦め降参したように手を上げる。
「それで、おれはこの洞窟で何をすりゃいいんだ? 奥にすげぇお宝でもあるのかい?」
「ちょっと行って、帰って来りゃあそれでいい」
「へ、それだけかよ?」
疲れたように口にするポップであったが、マトリフは散歩でもしてこいと言わんばかりのトーンで言ってきた。予想外の反応に思わず聞き返してしまうほどだ。
「ああ、それだけだ。ほれ持ってけ、餞別だ」
そう言って大きめの背負い袋をポップへと渡す。受け取ったポップは、持った瞬間予想外のずっしりとした重さに思わず小さく
「重てぇな、これ。一体何が入ってるんだ?」
「開けてみろ。たいまつがあるだろう?」
「たいまつ? ……ああ、確かにあるぜ」
口を開けてごそごそと袋に手を入れれば、二本のたいまつが突っ込まれていた。他に、雑多な道具も詰め込まれているのが見える。
「そいつ一本で半日は持つはずだ。そのたいまつが一本消えるまでは潜り続けろ。二本目に火を付けたら戻ってきて良いぞ」
「一本消えるまで潜る……はぁっ!? 半日だって!?!?」
聞き流しそうになったものの、信じられない言葉にポップは思わず叫んでいた。
「良く聞いてるじゃねぇか」
「聞いてるもなにも、ここってそんなに深い洞窟なのか!?」
半日潜り続けられるという言葉に驚くポップであったが、マトリフは意にも介さない。
「ああ、そうだ。そもそもここは誰も最深部まで到達したことがない。古い文献によれば、この洞窟は人間の神が邪悪な力に対抗するための呪文の全てを納めた場所らしいぜ」
「神が作った洞窟……!?」
「さてな、オレはそりゃ眉唾だと思ってるが……だが、この洞窟に様々な呪文が眠っているってのは本当だ」
神、という想像のスケールを超える名前が出てきたことにポップは思わず息を呑む。だがマトリフはそれに取り合うことなく、あくまで冷静に事実だけを述べていく。
「ただし、実力に見合わない力を身に付けさせないように、この中は想像を絶するほど厳しい場所だ。さっきも言ったように地下何階まであるのか誰も知らねぇうえに、進めば進むほど迷宮が複雑になっていく。出てくる怪物も次々強力なのがわんさと沸いてくるぜ」
リターンはあるが、それとは比較にならないほどのリスクがあるということを理解して、ポップは知らず知らず冷や汗をかいていた。同時に、そんな無茶苦茶な洞窟に自分がこれから挑まねばならないことも理解する。
「そんな場所に潜って、一体何をすりゃいいんだよ……? 地下何階だかの強力な呪文を覚えてくりゃいいのか?」
「んなことは言ってねぇだろ。さっきも言ったとおり、潜って戻ってこい」
「それだけか? 他に何かウラがあるんじゃ……」
あれだけ恐怖を煽るような事を言っておきながら、ただ潜るだけのはずがないのだ。それ以外の狙いが絶対に何かあるはず。マトリフにしごかれているのは伊ではない。
「ああ、あるぜ。だがそれをわざわざ全部説明してやらなきゃ、理解できねぇのか?」
「け、けどよぉ……」
「オラ、文句言わずにさっさと行ってこい。奥に行けば行くほど、イヤでも理解できるはずだ」
「いやいやいや、無理だって!! 間違いなく死んじまうだろうが!!」
あれやこれやと注文を付けて拒み続けるポップの姿を見ていたためか、いつの間にかマトリフは今にも洞窟内へと蹴り飛ばしそうな剣呑な雰囲気を纏わりつつあった。
「安心しろ。その袋の中には、潜っていられるだけの道具が揃えてある。それに、今のお前の腕っ節ならこの洞窟から戻ってくるくらいなら問題ないはずだ」
その言葉通り、袋の中には薬草などの道具が詰め込まれていた。確かにこの量ならばポップ一人が二十四時間乗り切るくらいならばなんとかなりそうだ。
「それに、これを乗り越えられなきゃオメェはこの先、どこかで脱落するだろうよ」
「なっ……!!」
どこかで脱落する。その言葉にポップは過敏に反応をして見せた。
「それ、本当なのか……?」
「……おそらくは、な」
真剣な顔で頷くマトリフの様子に、ポップも覚悟を決めたように真面目な顔をして、たいまつを片手に袋を背負う。
「わかったぜ!! 行ってくりゃいいんだな!!」
そう言い残し、意気揚々と迷宮へと挑んでいく。
「死ぬなよ、ポップ……」
やがて、ポップが洞窟の中へと足を踏み入れてからある程度の時間が経過し、その姿は見えなくなった頃、マトリフは見えないはずの弟子の背中へ向けて祈るように呟いた。
本当ならさっさとお話を進めた方が良いんでしょうけどねぇ……
ポップがこのままだとメドローア取得失敗で消滅しそうで怖くて……
早い話がテコ入れです。だって竜の血ブーストもないですし、メルルフラグも立ってないんだもん……ごめんねポップ、私が悪いんです。
(ネタバレ:まだメドローアは覚えないはず……)
(そして前回に引き続いてアンケートは継続中。多分次話まで予定)
覇者の冠をどうしましょう?
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打ち直さずそのまま装備しよう
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打ち直してチルノ用の武器を作ろう
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打ち直してチルノ用の防具を作ろう
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覇者の剣と一緒にまとめてダイの剣を作ろう