隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:64 ポップと不思議なダンジョン

「ちくしょうっ……いい加減にしてほしいぜ……!!」

 

ポップは思わず悪態を吐く。足下には、バリイドドッグと呼ばれる犬のような怪物(モンスター)の死体が転がっていた。それもついさきほど倒したばかり、火炎呪文を使ったらしく辺りには死肉の焦げたイヤな臭いが漂っている。

 

「……やべぇ!」

 

その臭いを嗅ぎつけたのか、それとも戦闘音に反応したのか、遠くから複数の足音が聞こえてくるのを察知し、慌てて逃げ出す。一息つく暇も無いとはこのことだろう。

 

だが、それは無理もない。彼が今いるこの場所は、破邪の洞窟。前人未踏の難所である。

 

周囲は薄暗く、彼が持つたいまつの光だけが唯一の光源と言って良いだろう。数メートル先も自由にならない闇を前にして、苛立ちしか感じない。耳を澄ませども、音は何も届かない――かと思いきや、時折怪物(モンスター)の遠吠えらしきものが聞こえてくる。それが耳に入ってくるたびに、否応なしに警戒して辺りに気を配らなければならない。

もっとも、そういった事前情報があるのはまだ優しい部類であり、中には魔法生物のように一定距離に近づくまでは決して身動き一つ立てず、獲物を待ち続ける狡猾な怪物(モンスター)もいる。事前準備もなし、身構える暇すらなく襲われては怪我も必至だ。

 

これでもしも洞窟内の壁と床が平らでなければ、歩いているだけでも小さな傷を無数に作っていたことだろう。天井には今だ手つかずの鍾乳石が無数にあることから、ここは元々天然洞窟であり、誰かがそれを整備して迷宮を作り出したことが窺える。それこそ、伝承の通りに神が作り出した洞窟である証の一つなのかもしれない。

 

「ハァ……ハァ……どうやら撒いたみたいだな……」

 

通路の陰に隠れながら、ポップは荒くなろうとする息を整えながら周囲の気配を伺う。そして何もいないことを確認するとようやく一つ、大きな息を吐き出した。

 

「少しは、休めるか」

 

そう言いながら座り込むと、背負い袋の中から水を取り出し、そのまま一口だけ含んで口内を湿らせる。

水と言っても入っているのは水筒などではなく、革袋に飲み口を付けたものだ。温度はぬるい上に皮の味が染み出しており、一言で言って不味い。だがこんな物でも今は命をつなぐ大切な水だ。なるべく節約のために飲む量を減らしていたが、それでも重さから判断するにそろそろ半分を切った辺りだろう。

 

「ついでだ、今のうちに食っておくか」

 

同じく背負い袋から、今度は小さな丸薬のような物を取り出す。これは師マトリフ謹製の携帯食料らしく、食べれば腹の中である程度膨れて満腹感を少なからず感じることができ、栄養価もある程度備えている――らしい。ということが同封された紙に記載されていた。

欠点は、食べた気が全然しないのと不味いことだろう。とはいえ、食料を持ち込めばそれだけ荷物が多くなる。こんな場所ではこれでもご馳走なのだろう。

 

「そろそろ半分、か?」

 

不味い水と不味い食事のことを忘れるように、先ほどまで手にしていたたいまつを見つめる。これは一本で半日ほど火が灯り続けるものであり、この一本目が消えるまでの間は潜り、消えたら戻ってよい。という試練の真っ最中だ。

だが一本目のたいまつに点火してから、どれだけの時間が流れたのか。ポップにはよく分からなかった。外にいれば太陽や月の動きや位置でおおよそが分かるものの、ここではそれすらもわからない。

今のポップにとって時間を知るための手がかりとなるのは、このたいまつだけだ。それも、蝋燭(ろうそく)が段々と短くなるように、なにかある程度の指標となるものもない。油の残り時間を推測するのも難しい。なにより――

 

「もらったは良いけれど、ちょっと邪魔なんだよなぁ……」

 

魔法使いであるポップにとって、たいまつを持って常に片手が塞がっているというのはハンデの一つに近い。というか、誰に持たせても同じだろう。戦士や武道家は言うに及ばず、僧侶や魔法使いもこの状況では嫌がるに違いない。

尤もポップは、マトリフから両手でそれぞれ呪文を操る術を教わっているために今のところはなんとかなっているものの、それが無かったら今頃どうなっていたことか。

 

「レミーラの呪文……いや、ダメだ。こんな状況じゃあ、何が起こるかわかったもんじゃない。節約しねぇとな……」

 

レミーラとは明かりを作り出す呪文であり、ポップはその呪文の契約を結んでいるため使うことは可能だ。だが直前で使用を思いとどまる。

何が起こるのか、まったく予測できないような洞窟の中を進んでいるのだ。加えて奥に行けば行くほど登場する怪物(モンスター)たちは強力になっている。万が一の時に備えるためにも、魔法力の消費はできるだけ控えた方がいい。

 

「よし、そろそろ行くか。次で……何階だ? 9階だっけか?」

 

息つく暇も満足に与えてくれない、一人きりの洞窟探索。それは現在が地下何階なのかの計算すらも覚え違いをするほどに過酷なものだったようだ。ぼやきながらポップは、地下8階(・・・・)へと続く階段を探すべく再び動き出した。

 

 

 

「ん、あれは……ひょっとして!!」

 

とぼとぼと探索を続けるポップの視界に、不意に四角い箱の姿が飛び込んできた。思いがけない発見に声色が高くなり、小走りで無警戒に近寄っていく。そこにあったのは彼の願い通り、宝箱だった。

 

「やっぱり、宝箱だ。へへ……これこそまさに天の助け! さーて、中身は何かな……?」

 

探索に加えていつ始まるとも知れぬ戦いという、気の滅入るようなことを延々続けてきたためか、どうやら警戒心が疎かになっているようだ。ポップは特に疑うこともなく宝箱を開けようとした。その途端――

 

「ばあああああ!!」

「うおおおぉぉっ!?」

 

宝箱は自ら動き出した。箱自体が奇声を上げながら大きく開いたその姿は、さながら肉食獣の顎のようだ。そこには鋭利な刃のような歯が何本も並んでおり、舌も見える。その奥――いわゆる喉の辺りには、相手を馬鹿にしたような瞳があった。

突然動き出したことに驚き、動きを止めてしまったポップの腕目掛けて、宝箱は力いっぱい噛みつく。

 

「ぎゃああああああっ!! ひ、ひとくいばこだと!!」

 

ナマっていた精神を強制的にたたき起こすほどの鋭く強烈な痛みが、腕を通してポップに頭に流し込まれる。手にしていたたいまつを思わず放り投げてしまうほどの衝撃だった。だが激痛を味わいながらも、敵の正体を看破していた。

人喰い箱――宝箱に擬態し、うかつに開けた者へと襲いかかる怪物(モンスター)である。こういったダンジョン挑む際には要注意すべき敵だと教わっていたのだが……

 

――教わったはずなのに、知っていたはずなのに、ドジった!!

 

ポップは胸中で無念の声を張り上げる。

だが反省するのは後回しだ。人喰い箱はポップの右腕を丸呑みように大きく食らいついており、そのせいで片腕が封じられている様なものだ。まずはコイツをどうにかしなければならない。その上、先ほどの絶叫を聞きつけたのか遠くの方からは何者かが近寄ってきている音が微かに聞こえてくるため、その対処も必要になる。

 

「まずはコイツから……イオ!」

 

噛みつかれたままの右腕に魔法力を集中させ、爆裂呪文を放った。イオの魔力弾はすぐさま人喰い箱の口内に着弾し、爆発を起こす。文字通り口の中で爆薬を破裂させられたようなものだ。予期せぬ衝撃を味わい、人喰い箱は思わず食らいつきを離してしまう。ポップの狙い通りに。

 

「ギラ!」

「ギャアアアア……!!」

 

殆ど間を置くことなく、続けて左手からギラの呪文を放つ。閃熱が一瞬にして襲いかかり、瞬く間に人喰い箱を焼いていく。ダメージを受けた直後、まだイオの衝撃から回復せぬ間にギラを受けては、耐えられなかったようだ。断末魔の悲鳴を上げながら事切れた。

敵を倒したことを確認するが、だが休む暇はなかった。続いては騒ぎを聞きつけて集まってきた魔物の群れの対処だ。これをどうにかしなければ窮地を脱することはできない。

 

「へへ、おあつらえ向きに来やがったな……」

 

集まった怪物(モンスター)たちは、ごうけつぐま・おおくちばし・ゴートドン・キラータイガーなどの獣族ばかりだった。場所が通路の途中だということもあってか、前後からわらわらと湧き出てくる。一見すれば完全に挟まれた状態ではあるが、だがそれらを見たポップは小さくほくそ笑み、左右の手をそれぞれの群れへと伸ばす。

 

「ベギラマ!!」

 

今まさに獲物へ襲いかかろうとする魔物の群れ目掛けて、強烈な閃光が放たれた。目も眩むような熱と光が集まった怪物(モンスター)たちを次々と焼き殺していく。

ポップがやったことは、敵の群れ目掛けて呪文を放っただけだ。

とはいえ相手は通路に殺到して一列に並んでおり、十分な広さが確保できない。そんな場所では満足に回避することもできず、加えて直線的に高熱波を放出する呪文を使ったことで相手を貫通して次々にダメージを与えられるという、地形と状況を上手く使った攻撃だった。

さながら将棋倒しのように、集まった獣たちは瞬く間に倒されていく。さすがに呪文の効果範囲は無限ではやく、生き残った怪物(モンスター)たちもいたが、それらはベギラマの威力を恐れたらしく矢継ぎ早に逃げていった。

 

「へへへ、ざまぁみろ! ……いってぇ……!!」

 

周囲に一匹も怪物(モンスター)がいなくなったことを確認して、軽口を叩くと同時に痛む右手を抑える。右腕は人喰い箱に噛みつかれてダメージを受けており、そこへさらにイオの呪文を使っている。爆発の余波を受けることは――出力を自在に調節する特訓のおかげもあって、威力控えめの呪文を放ったがそれでも――免れない。

トドメが両手で放ったベギラマだ。

この呪文は今のポップが使える呪文の中では高位に位置する。それを両手で使えば、魔法力をごっそりと削られるのも当然だった。体力も魔法力も一気に消費し、ポップは思わず倒れ込んでいた。

 

「くそっ……このまま意識を失えたら、どれだけ楽だろうな……」

 

悲鳴を上げる肉体に鞭を入れて、背負い袋から薬草や包帯を取り出し、治療を始める。とはいえ痛みと疲労に悩まされる身体では思うように動かず、随分と手間が掛かってしまう。

 

――ちょっと前に休んだと思ったら、またこんなかよ……それに回復だって、マァムがいてくれりゃホイミの呪文ですぐに治るのによ……

 

思い通りに行かない自分の身体に苛立ちが絶えない。それでもどうにか手当を終え、仕上げとばかりに袋から瓶を一つ取り出す。それは自身の魔法力を回復させる効果を持つ"魔法の聖水"だった。それを振り撒き、大きく減った魔法力を回復させる。

 

「これ、ベンガーナで買ったヤツか? そういや、あの買い物は楽しかったな……」

 

空になった聖水瓶を見ながら、ポップはふと気付いた。確証があったわけではないが、直近で手に入れたこともあってそう思っただけだ。だが思った事が切っ掛けとなって、仲間達の事を連鎖的に思い出す。

 

――あの宝箱の罠、チルノでもいりゃ気付いてくれたかもな。そうだよ……ダイでもおっさんでも、ヒュンケルでもいい。誰かがいてくれりゃ、もっと楽だったのに……

 

「こんな洞窟に目的もなく潜って、一体何の意味があるんだ?」

 

今だ答えの見えぬ問題に頭を悩ませながら、治療を終えたポップは立ち上がると落としたままだったたいまつを拾い上げ、再び歩き出した。

 

 

 

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手にしたたいまつの明かりが、最初と比べると随分と弱くなっていた。明かりが弱いということはそろそろ一本目のたいまつが切れる証拠――それはつまり、ようやくこの洞窟から戻っても良いということだ。

 

 

――こりゃ、やべぇな……

 

だが今のポップはそれどころではなかった。壁を背にして張り付き、できる限りたいまつの光を遠ざけたまま、背中越しにそっと横目で部屋の様子を伺う。そこは今までの階層に存在したのとは比べものにならないほど大きな部屋だった。光が壁に届かぬほど広く、空気の音の反響からもその広大さがうかがい知れる。

内部にはその広さに恥じぬ無数の怪物(モンスター)が生息しており、さらには部屋の主でも気取っているのか青い肌をした単眼の巨人が鎮座している。

 

――サイクロプスかよ、なんだってこんな大物が……

 

忌々しさが湧き上がってくるが、同時にそれも仕方ないのかとも考えていた。なにしろ現在階層は彼の主観では、既に二桁を突破している。となれば、今までとは別格の大物が現れてもおかしくはない。

サイクロプスは巨体に見合っただけの怪力と生命力を持っている。一対一ならば今のポップならば負けることはないだろうが、周りの魔物の数が問題だ。サイクロプスと同時に相手取ればまず間違いなく押し負けるだろう。

先ほどのようにベギラマを放てばなんとかなるかもしれないが、その戦法に賭けるには魔法力を消費しすぎていた。同じ事をしても倒しきれる保証もない。

 

――まあ、無理に戦う必要はねぇか。どうにか上手いことやり過ごして、別のルートを探そう。

 

頭の中で簡単に算盤を弾き、戦闘はどう考えても得策ではないと判断したポップはそっとその場を離れようとする。

 

カチッ――

 

突然、ポップの足の下から音が聞こえた。それは踏んだ本人ですら聞こえたか聞こえないかというほどに小さな小さな音。

その正体は罠の作動音。それも地雷などと同じく、一度押したスイッチを離すことで罠が作動するタイプだ。だが不幸にも踏んだことに気付かず、ポップは足を上げてしまった。

 

「うおっ!?」

 

突然、耳が痛くなるほどの甲高い音が周囲に鳴り響いた。罠に気付かずにいたポップは予期せぬ怪音に驚き、たいまつを取り落としてしまう。甲高い警告音に加えて石造りの床からカランカランと乾いた音が響き渡る。これだけ騒がしくすれば、気付かない者は皆無だった。加えて床に転がったたいまつが細々とした光を放ち、そこに誰かがいることを明確に語っている。

 

「やっべええええぇぇっ!!!」

 

もはや室内を確認するまでもない。音と光を合図に怪物(モンスター)たちが雲霞のごとく殺到する。地響きすら感じる足音と迫り来る圧は、もはや室内を確認するまでもない。

ポップは慌てて元来た道を戻ろうとすると、そのタイミングでたいまつの火が消えた。瞬間的に明度が下がり、怪物(モンスター)たちは僅かな戸惑いを見せる。

 

「今なら……イオ!!」

 

追い詰められていたからこそ、その好機を逃すほど愚鈍ではない。ポップは狙いを付けることもなくやたらめったらに両手でイオの呪文を連発する。魔力弾が壁や床に炸裂して爆音が響き、辺りに粉塵と瓦礫を産み出す。

音と煙を目眩まし代わりに、ポップは全力で逃げ出した。

 

――情けねぇ!! こんな子供だましみたいな罠に引っかかるなんて!!

 

駆けながら自責の念にかられるが、同時に自分一人だけだったのは不幸中の幸いだとも考えていた。もしもここに仲間がいれば、自分のせいで足を引っ張り大怪我を、下手すれば全滅させていたかもしれないのだ。

 

「そんなことになっていたら……」

 

思わず浮かんだ仮定だったが、だが彼が知る仲間たちならばこの程度の危機など難なく片付けてしまうだろう。そう考えると、急に足取りが重くなっていた。

果たして自分がいる意味はあるのだろうかと、そう考えてしまう。気付けば駆け足は歩きとなり、ついには立ち止まってしまった。

 

「暗い……そういや、明かりがねぇな」

 

まるでそこで初めて辺りが暗闇に包まれていたことに気付いたように声を漏らす。背負い袋からもう一本のたいまつを取り出そうとして、だがその動きを止めた。

 

「ま、別にもう節約しなくてもいいか。レミーラ」

 

片手を掲げ、呪文で明かりを作り出す。途端に辺りが明るくなり、周囲の状況が手に取るように分かるようになった。

 

「マホトラ!」

「んなっ!?」

 

急に飛んできた呪文を避けることも反応することもできずに、まともに喰らってしまう。マホトラは相手の魔法力を奪い取る呪文だ。その直撃を受けたため、魔法力をごっそりと奪われてしまった。全身が鉛の様に重くなり、せっかくのレミーラが小指の先ほどの頼りない光へと小さくなっている。

呪文を唱えたのは、楕円形の不気味な仮面を被り未開の部族のような格好をした魔物(モンスター)だ。片手には牛の頭骨らしき装飾の杖を持ち、マホトラが成功したことが嬉しいのかケラケラと笑っている。

 

「コイツはゾンビマスター、だっけか? ってことは……!?」

 

かつてアバンから学んだ知識が呼び起こされ、嫌な予感が背筋を震わせた。その予感を肯定するように、ヌッと緩慢な動作で腐った死体が姿を現す。

 

「やっぱり! くそっ、もう魔法力が……でもやるっきゃねぇ!」

 

ゾンビマスターの名が示すとおり、敵はアンデッド系の怪物(モンスター)を呼び寄せ操る事も得意としていた。前衛後衛がはっきりと分かれる、相対すれば非常に嫌な相手だ。

対するポップはマホトラの影響で既に残魔法力はスズメの涙ほどしかない。それでも抵抗を諦めればその時点で彼の人生は終わってしまうのだ。頼るべき仲間はおらず、たった一人で乗り越えて生き延びて次に繋げなければならない。

魂すらも振り絞って、彼が得意とする火炎呪文を使おうとしたときだ。

 

「な、なんだ!?」

 

不意に後ろから羽交い締めにされ、さらには両足を万力のような力で掴まれる。間の悪いことにそれが原因で集中が乱れ、呪文が霧散してしまった。

 

ポップの動きを封じたのは、どくどくゾンビとグールだ。腐った死体にばかり意識を向けすぎていたのが敗因か、それともゾンビマスターの知略の勝利か。とにかくこうなってしまってはもはや非力な魔法使いにはなすすべもない。

 

「が、あああ……」

 

強烈な力で掴み上げられているため、敵の爪が肌へと食い込んでいく。衛生など皆無のその爪は、かすっただけでも恐ろしい毒となってポップの身体を蝕む。それどころかダメ押しとばかりにゾンビ達はポップの身体へと噛みついた。腐毒を伴った息が直接流し込まれ、急速に意識が闇へと沈んでいった。

 

――そういえば、前にもこんなことが……

 

沈みゆく意識の中で思い返したのは、ロモス城での戦いだった。敵の策略により、師アバンによく似たゾンビに惑わされ襲いかかられながらも、それでもあの時のポップはそれを偽物と断じて勇気を振り絞ることができた。

そこから反撃の起点として、逆転勝利を掴むことができたのだ。

 

――けど……今回はもう無理だぜ……

 

ポップの心がついに弱音を吐いた。

 

「アバン、せんせい……すみません……」

 

目の前の死体たちの姿と、ロモスで見た偽アバンの姿。そして本物のアバンの姿がポップの視界の中で混ざり合う。幻覚と現実とか渾然一体となった景色を見ながら、ポップは遂に瞼を閉じた。

 

「ニフラム!」

 

暗闇に包まれたポップの意識の最後の一欠片が、懐かしい声を耳にする。ニフラムは、聖なる力で邪悪な魂を光の彼方へと消し去る呪文だ。マホカトールを初めとする破邪の呪文を得意とするアバンにとっては初級呪文のようなものであり、同時に今のような状況であれば最も頼りになる呪文でもあった。

 

――そうだ……ニフラムの呪文……今みたいな場合に使えたら……

 

どれだけ助かるだろうか。

呪文を唱えたその声に促されるように、ポップは一度は閉じた筈の瞼をもう一度だけ開く。そして彼は見た。

 

「アバンストラッシュ!」

 

最も尊敬し、慕うアバンが剣を逆手に持ち、最大の必殺技を放つ姿を。ゾンビマスターを一撃で屠るその姿は、見間違えようはずもない。

 

「せん、せい……?」

 

思わず口から零れた言葉だったが、それがありえないことも知っている。

 

――でも、せんせいはもう……そっか、あっちからおれのことを、むか……え、に……

 

全ては死ぬ間際の自分が見ている妄想。都合の良い幻覚でしかないのだろう。けれど、幻でもいい。最後に一目だけでもアバンに会うことが出来たのだから。

 

そう考え、ポップの意識は完全に闇へと沈んだ。

 

 




本来この話で終わる予定がもう1話続いてしまう、計算の出来ないダメ人間……
展開とか場面とか悩みすぎたダメ人間……

満腹度が減ると倒れそうなタイトルですね。ポップも武器屋の息子ですから、このくらいは乗り越えてもらわないと(苦笑)

通路に一列に並んだ敵を貫通技で一直線に攻撃。まるでMAP兵器ですね(羽の某ガンダムのようにベギラマでローリングさせるとかもアリですかね?)
なお、ゾンビ出しちゃうのは私の趣味。

さて、ここでまさかの人物が登場。一体誰なんだ……?
きっと自粛に疲れて外に出たくなったのでしょう(時事ネタ)

覇者の冠をどうしましょう?

  • 打ち直さずそのまま装備しよう
  • 打ち直してチルノ用の武器を作ろう
  • 打ち直してチルノ用の防具を作ろう
  • 覇者の剣と一緒にまとめてダイの剣を作ろう

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