隣のほうから来ました   作:にせラビア

66 / 127
実はこの辺から、超見切り発車の展開です……



LEVEL:66 世界会議開催

まだ朝日の燦めきがまぶしい中、ダイたちはパプニカの王城前へと辿り着いていた。

ロモスの武術大会を終え、ルーラで帰ってきたのだ。驚異的なバイタリティで復興を進めるパプニカは、もはや不死騎団によって一度滅ぼされたとは思えないほどの活気を取り戻していた。

時間的に、朝食の準備は終わっている頃のため煙が立ち上っている姿は少ない。精々がパン屋や食堂くらいだ。代わりに港の方まで目を凝らせば、多くの人々が忙しなく動き回っている姿が見られる。ましてや高台から見下ろしているため、その景色は絶景の一言だろう。

吹き抜ける潮風の心地よさと相まって、まるでこの場所が自分の為に拵えられたのだという錯覚まで覚えてしまうほどだ。

 

「わぁ、これがパプニカの街並みなのね……!」

 

そんな景色を眼下にしながら、マァムは感慨深くそう口にする。武術の修行のために、復興が開始されるよりも早くパプニカを立った彼女にしてみれば、記憶の中にあるのは傷ついた街並みだけだ。

それが今ようやく本当の光景を見る事が出来たのだから、喜びも一入(ひとしお)だろう。

「そういえばマァムは、見たことないんだっけ?」

「ええ、見る前にロモスに戻っちゃったから……でも、こんな素敵な景色が見られるんだって知っていたら、出発をすこし遅らせても良かったかもね」

 

チルノの言葉にマァムは少し悪戯っぽくそう答えた。

なるほど確かに、街が復興していくその様子は誰が見ても心躍るものがあるだろう。

 

「でも、見た目ほど簡単じゃなかったわよ。黙って見ていても街は元には戻らない、上が許可して指示してあげないと、回る物も回らなくなっちゃうから……」

 

だがチルノは淀んだ瞳でそう答える。ベンガーナのデパートへと向かうまでの数日間、事務仕事が出来るということで随分と書類仕事を回されていたのだ。パプニカのためでもあり、レオナの為でもあるのだが大変だったの一言に尽きる。

テランから戻った時には、色々と大変な状態だったために免除されていたのだが……

 

「な、何かあったの……?」

「……色々とね」

 

そんなことを知らぬマァムは、チルノの様子に驚かされる。チルノもわざわざ説明することでもないと判断して、曖昧な返事をするだけだったが。

 

「ふ~ん、なかなか綺麗な国じゃないか……ま、シティ派のぼくにはちょっとあわないかもしれないけどねぇ……」

 

なお、そんな復興の苦労はおろか滅ぼされていた状態すら一切知らないチウは、街を見下ろしながら呑気な事を口にしていた。

 

「おや……? これは皆さま、お帰りなさいませ!」

 

城門近くでわいわいとやっていたからだろう。一人の兵士が喧噪に気付き、近寄ってきていた。だがその相手がダイとチルノだと気付くと、彼はすぐさま姿勢を正し背筋を伸ばして挨拶をする。

 

「見回りですか? お疲れ様です。ただいま戻りました」

「いえそんな、当然のことですから」

 

チルノの言葉にも丁寧に対応する。何しろ彼からすれば相手は救国の英雄なのだ。いくら何日もパプニカに滞在して慣れ親しんだとはいえ、敬意を払ってしまうのも無理はない。

兵士はダイたちの顔を順番に見ていき、そして三人目で動きを止めた。

 

「失礼ですがそちらの方は……?」

「マァムよ、覚えてない?」

「……おおっ! これは失礼いたしました!! 以前お見かけしたときとは雰囲気があまりにも違うものでしたから」

「いえいえ、気にしないでください」

 

そう指摘され、彼はようやく得心がいったとばかりに大声を上げて頭を下げる。とはいえ、二週間近く前に初めて出会ったかと思えば、すぐに旅立っているのだ。しかもその時には今のような武闘家の格好でもない。

彼の言葉ではないが、纏う雰囲気があまりにも違い過ぎるのだ。マァムもそれは自覚しているのか、彼に言葉に気分を害するような素振りすら見せずにいた。

 

「ではこちらの方も皆さんの仲間なのでしょうか?」

 

残る一人――チウへと視線を動かし、兵士は少しだけ動きを止めた。

何しろ幾ら勇者のパーティにいるとはいえ、チウは大ねずみの怪物(モンスター)である。その姿を見ただけで懐疑的になってしまうのは仕方のないことだろう。

だが彼は、ダイたちが説明するよりも早く何かに気付いたように声を上げる。

 

「なるほど、クロコダイン殿と同じようにダイ殿の正義の心によって改心したのですね」

「へ……?」

「え……なんだねそれはっ!?」

 

チルノはその言葉に聞き覚えがあった――というよりもそれを言ったのは他ならぬチルノ本人である。パプニカにてザボエラとの戦いの最中、クロコダインが仲間になったことを説明する際に手っ取り早く信じさせるために使った言葉だ。

このままその理由でも良い気もするが、それではチウ本人が納得しないだろう。仕方なし彼女は誤解を解くために口を開いた。

 

「いえ、この子は――マァムもですが、二人ともブロキーナ殿に弟子入りしていたんですよ」

「そうです、私の兄弟弟子のチウと言います」

「なんと! あの拳聖ブロキーナ様の……!! 失礼しました、心強い仲間が増えていたのですね」

 

それを聞いてすぐさま謝罪する兵士の姿に、チウは溜飲が下がったらしくそれ以上追求するようなことはなかった。どうやら彼もブロキーナの弟子ということに誇りを持っているらしく、ダイの正義の心で仲間になったと思われるのが嫌だったらしい。

 

チウの機嫌が直り、兵士が顔を上げたのを見計らってからチルノは改めて尋ねる。

 

「ところで、レオナに戻ってきた報告をしたいのだけれど、王宮にいるのかしら?」

「はっ! いえ、姫様はあちらにいらっしゃいます」

 

そう言って、彼は王城ではないある場所を指さした。

 

「そうか、世界会議(サミット)のために……」

「あそこがその秘密の会場ってことか」

 

全員が見つめるその視線の先には、パプニカ大礼拝堂がそびえ立っていた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

大礼拝堂の中は、世界会議(サミット)の会場になるということもあってか、完璧に復元されていた。隅々にまで手入れが行き届いており、もはやひび割れ一つとして見受けられなかった。窓ガラスにも豪華な物が設えられており、まるで透明な板がはめ込まれているかのようだ。

チリ一つとして落ちていない内部を案内され、ダイたちはある一室へと通される。

 

「姫様、失礼します。皆様をお連れいたしました」

 

その部屋はパプニカ関係者の控え室の様な場所らしい。中には椅子やテーブルといった調度品が並び、そのどれもが上品そうに見える。そしてその部屋の中ではレオナと三賢者が何やら話し合いをしている最中だった。

だが声が掛けられるやダイたちの方を向き、その表情を満面の笑顔へと変える。

 

「みんな! お帰りなさい」

「ただいまレオナ」

 

彼女は戻ってきた一人一人の手を取り無事を祝う。まずはチルノの手を取り、続いてマァムへと向かった。

 

「マァム、久しぶりね」

「レオナこそ!」

「随分強くなったみたいね。頼りにしてるわよ」

 

手を握り、その佇まいを見ただけでも以前のマァムとは違うということが感じられる。肌から伝わってくる闘気が違うとでもいうのだろうか。かつての彼女とはまるで別人のような感覚をレオナは感じていた。

 

「レオナの方こそすごいわ! 世界中の王様を一つにまとめちゃおうなんて……」

 

対するマァムもまた、自分では思いもつかないスケールの大きなことを為し得ようとしている彼女に賛辞を送る。だが、それを聞いたレオナの表情は陰りを見せた。

 

「……世界中……そうね、世界中だったらどれだけ素晴らしかったことか……」

「……!?」

 

言葉に詰まるレオナの様子に首を傾げると、後を引き継ぐように三賢者が口を開いた。

 

「我ら三賢者がそれぞれの国に向かいましたが、各国の国王を救出することは出来ませんでした……リンガイア王軍の猛将と謳われたバウスン将軍など、ある程度は救出できたのだが……」

「将軍が仰るには、リンガイア王とは離ればなれになってしまったとのことです。大国リンガイアの協力が得られれば、これほど心強い事はありませんでした……」

 

アポロ、マリンの言葉を聞いて誰もが沈痛な表情へと変化する。使者を任されたとはいえ、すでに滅ぼされた国を探すのだ。こうなることも十分予想できたのだが、やはり現実として突き付けられると自らの無力さを思い知らされているようで、心が痛む。

 

「でも、ダイ君が覇者の剣を手に入れて戻ってきてくれたのは嬉しい知らせだわ。勇者に伝説の剣が加われば、未来の材料として十分すぎるほど明るいもの!」

 

しかしレオナは、そんな暗い感情を吹き飛ばそうとことさら大きな声で口にした。確かに、勇者に伝説の剣が加われば鬼に金棒である。魔王軍との戦いにも拍車が掛かろうというものだ。

とはいえ、肝心の剣がダイにしてみれば未完成であるということを知る面々からすれば、必ずしも明るい材料とは言い切れないだろう。目下、手早く目的を片付けてしまおうとチルノは考える。

 

「実は、その剣に関わることなんだけれど……レオナ、ポップがどこにいるか知らない?」

「え、ポップ君? 彼なら……」

「誰か今、おれのことを呼んだかい?」

 

――そこにいる。という言葉と共に指を差そうとしたところでポップが隣の部屋からヌッと顔を出した。

 

「ええ、私が呼んだけれど……どうしたの? なんだか随分眠そうね」

「ああ……ちょっと部屋を借りて仮眠しててな……」

「ちょっと! まさかここで寝てたの……!? 呆れた……」

「堅いこと言うなよ、マァム……変な時間に寝たから、眠くってしかたねぇんだって……」

 

突然顔を出したことに驚かされるものの、その顔は瞼が重そうに下がっており誰がどう見ても寝起きのそれだった。どうしてそんなことになっているのか、チルノは本来の要件も忘れて思わず尋ねてしまった。

そして「仮眠をしていた」という彼の言葉にマァムが驚きと呆れたを混ぜた様子を見せる。なにしろここは世界会議(サミット)の会場となる場所だ。そんなところで眠りこけていれば、そんな反応をするのも無理はない。

その言葉を聞いてもなおポップは精彩を欠いた様に生返事を返し、かと思えば数秒後にはまるで飛び起きたかのように叫んでいた。

 

「って、マァムか!?」

「ええそうよ。おはよう、お寝坊さん」

「おいおい、そう邪険に扱わないでくれよ。何せ昨日死にかけたんだから、今くらいはゆっくり寝かせてくれって」

 

マァムの言葉にポップは飄々とした態度で言い訳をする。だが、その内容は少々聞き捨てならない内容であり、思わずダイは聞き返してしまう。

 

「死にかけたって、何やってたの?」

「んー……ダイたちなら知ってるか? ほれ、おれが師匠に特訓を申し出ただろ。それの仕上げみたいなもんだ。詳しくは省くけれど、それが原因で夜中過ぎに起きてよ。その後は眠れなくって結局朝まで起きてたんだ」

 

ポップの言う特訓とは、マトリフの手によって破邪の洞窟に叩き込まれた時のことである。アバンとの奇跡的な再会によって命からがら戻ってくることができた。とはいえ彼は洞窟内で意識を失っており、目を覚ましたときには既にアバンは去っており時間はもはや朝に近いほどであった。

その上、眠らされてときに回復呪文を受けたこともあってか眠れずにいた。そのため起きたままだったというわけである。

 

「今日が戻る予定日だって、エイミに伝言を頼んだでしょう? それを聞いてから、ポップ君はここで待っていたのよ。とはいえちょっと調子が悪そうだったから、待ってる間に寝ても良いって言ったのはあたしよ。だからあんまり怒らないであげてね」

 

あんまりポップが責められるのもどうかと思い、レオナが助け船を出す。その言葉を聞いて、マァムは納得したように矛を収めた。

 

「そうだったの。ごめんなさいポップ、ちょっと早とちりしすぎたみたいね」

「なぁに、わかってもらえりゃそれでいいぜ」

「でも、そんな大変な特訓をしていたなんて……」

 

本来の歴史では存在しないポップの特訓に、チルノは何が起こったのか知りたくて仕方が無かった。何しろ彼がそのような事になったのも、彼女が存在していたからである。責任感とほんの少しの好奇心からどんなことをしていたのか聞こうとして、そして気付いた。

 

「ポップ……その、変わった?」

「え? そうか??」

「なんていうか、一皮むけたみたいな……本当に、何があったの?」

 

思わずマジマジとポップのことを見つめてしまう。普通ならば人はたった数日で劇的に変わることなどない。だがそんな常識など軽々と飛び越えてしまうのがアバンの使徒というものである。

見た目はまるで変わらないが、その内側から滲み出てくるような何かをチルノは感じ取っていた。

 

「うーん……上手くはいえねぇんだけど、色々と胸のつかえが取れた。そんな感じだぜ」

 

――胸のつかえが取れた。

その言葉から何があったのか考えるものの、どうにもチルノの脳裏にはピンと来ない。少しの間考え込んでいると、やがてポップの方から口を開いてきた。

 

「褒めてくれるのは嬉しいけれどよ、おれに何か用事があったんじゃねぇのか?」

「あ、そうだった!」

 

言われた通り、ここで悩んでいる暇はなかった。本来の目的を思いだし、まずはそれを優先することにする。

 

「ポップ、いきなりで申し訳ないんだけれど、ランカークス村まで連れて行って貰えないかしら」

「ランカークス村? そりゃ、おれの故郷じゃねぇか……どうしてそんなところへ? こう言っちゃなんだが、何にもねえ小さな村だぜ」

「それは、おれが話すよ。実は――」

 

その理由については自分自身で話すべきことだと思ったらしく、ダイが前に出てきた。

そしてダイは全員に向けてランカークスへと向かうだけの理由を説明する。ロモスで何があったのか、そして伝説の剣を手に入れて何を思ったのか。

 

レオナたちはそれを黙って聞いていたのだが――

 

「ふ……ふふふ……あはははは!! もうダメ、お腹痛い!」

 

やがて耐えきれなくなったのかレオナが堰を切ったように笑い出した。

 

「伝説の剣がサイズが合わないから直して欲しいって! ドレスの仕立て直しをするんじゃないんだから!! あははははは!!」

「レ、レオナ! そんなに笑うことないだろ!!」

 

あまりの大笑いにダイは思わず顔を赤らめて反論する。だがレオナは、決してふざけていたり嘲笑うような気持ちは一切ない。むしろその逆だ。

 

「ごめんごめん。でもいいじゃない、だって覇者の剣が物足りないってことでしょう? 勇者のアピールには十分すぎるくらいだわ」

 

余人では予想もつかないようなスケールの大きさに笑うしかなかった、というのが最も正しいといえるだろう。そのまま姫とは思えないほどケラケラ笑い続けるレオナを横目に見ながら、ポップは言う。

 

「ま、姫さんの言うことも一理あるわな……で、おれはランカークスまで案内すればいいのかい?」

「ああ、それをポップに頼みたくて」

「よっしゃ、任せとけって!」

 

ドンと胸を張ってそう断言するポップのその姿に、チルノは一抹の不安を覚える。

 

「頼んでいる身でこんなことを聞くのも失礼だけど……ポップ、本当に大丈夫なの?」

「……ん? ああ、ひょっとして体調のことでも心配しているのか? なら問題ないぜ、もうすっかり目も覚めたしな」

 

まだ寝ぼけていないか心配されたと思ったのかポップはそうアピールするが、チルノの懸念点は別のことだった。本来の歴史では、ポップはアバンに弟子入りするために家出をしており、そのことを気に掛けている。大雑把に言えば、両親の前に顔を出しにくい。どの面下げて親の前に戻れるのか。といった心情である。

それが彼女の目の前にいるポップはどうだ。そのような態度は鳴りを潜めている。これも彼の言う特訓の成果なのだろうかと、チルノは気付かれないようこっそり首を捻った。

 

「大丈夫だってさ、姉ちゃん。もう出発する?」

 

ダイは姉のそんな内心など知らず、いつ立つのかと尋ねてきた。だがチルノはそれを片手で封じるような動作をしながら言った。

 

「あ、それなんだけれど。今回は私はパプニカで待っているから」

「えっ!?」

「剣を打ち直すだけなら、私がいなくても問題ないし」

 

当然一緒に来ると思っていただけに、残るというチルノの言葉はダイには衝撃的だった。だがチルノは構わず続ける。

 

「それに、まだ剣の問題が解決すると決まったわけじゃない。もしかしたら、空振りの可能性だってあるわ。だったら、誰かが残って情報を集めなくちゃ。幸いにも世界会議(サミット)のおかげで各国の王様が来るんだし、出来るだけ尋ねて回っておくから。ね?」

「うん……」

 

そう言われては、ダイも言い返すことは出来なかった。確かに姉の言う通り、それだけならばわざわざ大人数で行くこともない。空振りする可能性も考えれば、鍛冶師の情報は多ければ多いほど良い。

そして情報を集めるのであれば、ダイに近い人物の方が適切だろう。だが本人はランカークスへと赴くため、チルノが話をするしかあるまい。

頭ではその理屈が分かるため、ダイはしぶしぶ頷く他なかった。

 

「それじゃ、ダイにはこれも預けておくわ」

 

そう言ってチルノは弟へ袋を手渡した。ずしりとした重みのある袋を受け取ったダイは、初めてみたかのように興味深そうにそれを眺める。

 

「これって……?」

「中には覇者の冠が入っているわ。もしも剣を打ち直すのに材料が足らなかったら問題だし、持って行って。余ったら、交渉の材料にしてもいいから」

「交渉の材料……って? どういうこと??」

「たとえば、このオリハルコンを素材にして自分の作りたい武器を作っても良いから、剣を打ち直してくれ――みたいに頼むとかね。その辺は任せるわ」

「ええっ! そんな、受け取れないよ姉ちゃん!!」

「大丈夫大丈夫。知っての通りロモス王の許可は取ってあるし、それにダイの剣が完成しない方がよっぽど大事件よ。私の代わりだとで思って、連れて行ってあげて」

「姉ちゃんの代わり……」

 

そう呟きながら、ダイは手にした袋を強く握りしめた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「本当によかったの? 一緒に行かなくても」

 

ルーラでの移動による光跡が空へと上っていく。だがそれも一瞬のことだ。すぐに光の道筋は景色に溶けて見えなくなる。もはや粒子にも満たなくなったその光を、チルノたちは大礼拝堂のテラスから眺めていた。

 

結局、ポップのルーラによってランカークス村へと向かったのはダイ・マァム・チウに術者のポップを加えた四人だった。メンバーが決まれば善は急げとばかりに、すぐさまルーラの呪文で飛び立っていた。見送りはチルノ・レオナに三賢者だけだ。

 

チルノの横顔を見ながらレオナはそう尋ねる。だがチルノは一切気にした様子を見せない。

 

「うん。さっきも言った通り、私がいなくても問題ないから……それに、これからパプニカには各国の王様が続々と集まってくるんでしょう?」

「ええ……もう既に何人かは集まっているわ」

 

逆に真剣な顔で尋ね返され、彼女は少々戸惑いながらも答える。それを聞き、チルノは小さく唸り声を上げてから、慎重に言葉を選びながら言う。

 

「うーん……秘密裏にしようと思っているレオナには悪いとは思うけれど、この会議も魔王軍にバレていると思った方がいいかも」

「えっ、そんな!」

「世界中の人が動けば、敵はそれだけでも察知・推察してくると思う。それに攻撃するなら、一カ所に集まった方が都合が良いでしょ?」

「じゃあ、チルノはまさかその防衛のために残ったの!?」

 

まさか、といった様に驚くレオナに向けてチルノはしっかりと頷く。

 

「その狙いもあったわ。各国の王様が集まる中、一時的とはいえダイがいなくなる。だったら少しでも戦力の足しになればと思って……まあ、ヒュンケル達もいるんだし、その心配は無いかも知れないけれどね」

 

それは、かつては魔王軍として人間を滅ぼす側についていながらも数奇な運命によってダイたちと同じ道を歩むことになった大切な仲間達。今現在は修行のためパプニカ近郊にいるのだが、異変があればすぐにでも飛んでくることは疑いようもない。

 

「三人には開催の日程は伝えてある?」

「ええ一応……」

「それなら、問題ないとは思う。パプニカの兵士達もいるし、各国の王も護衛は連れてきているんでしょう?」

「そうね、いることはいるんだけど……あら?」

 

そこで会話は強制的に打ち切られる。外から聞こえてきたのは、ガガガガガという重量感のある音だった。その音を聞きに付けてレオナはテラスから階下を見下ろす、レオナに釣られるようにしてチルノも下を覗き、そして忘れていたことに気付く。

 

そこには何頭もの馬が車輪の付いた巨大な鉄の塊を引っ張り走る姿があった。音の正体は鉄の車輪が不整地の地面にぶつかり合う音だ。そして馬が引いているのは戦車――近代兵器のように自走こそしないものの、素早い動きで動き回り大砲を撃ち出すことを可能とする兵器だった。

 

「……ベンガーナ王」

 

――あー……忘れてた……

 

慌ててテラスから階下へと駆け下りていくレオナの後ろ姿を見ながら、チルノはこっそりと頭を抱えた。

 

 

 

「……困ります、ベンガーナ王! 行動は秘密裏にという約束を守っていただかなければ!!」

「そうですとも! ただでさえあのような軍艦然とした船で入港され、我々は困惑していたのです。さらにあんな武器まで……!」

 

チルノが階下に降りたころには、ちょうどレオナたちの悲痛な叫び声が聞こえてきた所だった。目立った行動を取ることを諫めているものの、相手は一切聞く耳を持たない。

 

「戦車だよ、君! 我が国が誇る精鋭戦車部隊だ。なぁ、アキームよ!」

「ハッ! 我がベンガーナ戦車部隊は世界最強の陸軍と自負しております!」

 

そう答えたのは、ベンガーナ王クルテマッカⅦ世と戦車隊長アキームの二人である。

クルテマッカは大国の王らしく服装も何やら相当な高級品のようだ。顔つきと態度に自信と豪胆さに溢れており、それは伊達に世界一安全と呼ばれた国の王をしてない。

アキームの方も、謹厳実直な軍人というような立ち振る舞いだった。鋭い目つきで油断なく王に付き従っている。鎧を身に付けているのは護衛役としては当然だが、室内で有るにもかかわらず兜を取ろうともしないのはこの場の警備を信頼していないことの現れだろうか。

 

「……ベンガーナ王、あなたは魔王軍の力を侮っています! 我々が勇者の名の下に力を集めねば、絶対に勝利は得られないのですよ!!」

「フッ……これからは兵器だよ、レオナ姫。大砲の前には剣も呪文も無力だ。私はてっきり、我が軍をどうやって使って魔王軍を倒すのかという会議だと思っとったんだがね……」

「……っ!!」

「(レオナ、抑えて)」

 

あまりに不遜な物言いに、レオナは思わず叫びそうになる。だがそれを見越したチルノは慌てて彼女の横に並ぶと肩を掴み、誰にも聞こえないほど小さく囁く。これから交渉を行おうという相手に対して、話し合いのテーブルにつく前から気分を害させるのはどう考えても得策ではないからだ。

心配しすぎかもしれないが、万が一のことを考えての行動だった。

 

「(ありがと、チルノ)」

 

レオナもそのことは分かっているらしく、吐き出し掛けた言葉をどうにか飲み込んで平静さを取り戻す。

しかし、その行動にクルテマッカの興味を持ったらしい。彼は珍しい物を見るような目でチルノを見つめる。

 

「おや、そこの少女はどなたかね? 珍しい肌の色をしているようだが、レオナ姫の召使いかな?」

「……」

「中々に舞台映えしそうな容姿をしている。どうだろう、我々が魔王軍を倒した後は我が国に来ないか? 踊り子としてきっと人気が出るぞ」

 

そう言うと「はっはっは」と笑いながらクルテマッカはアキームを伴い礼拝堂内を奥へと進んでいった。

 

「ちょっと待ち……お待ちください! ベンガーナ王!!」

 

レオナは思わず口を出かけた言葉を慌てて抑え、言い直しながらその後を追う。三賢者達はレオナが爆発せずに我慢できたことにホッと胸をなで下ろすと、続いてチルノへと頭を下げる。

 

「チルノ殿、もうしわけございません」

「いえいえ気にしていませんから。それに、相手をするレオナの方が大変でしょうし……本当に、爆発しなきゃいいんだけれど……」

 

そう呟きながらも、彼女はベンガーナ王の前に姿を現したことを少しだけ後悔していた。何しろ彼女が姿を見せたことで、不要な言葉を一つ引き出した様なものだ。あの場でレオナを抑えなくとも、彼女ならば自制できたはずなのだから。

とはいえ、これ以上自分に出来そうなことは何もないだろう。そう判断したチルノは、当初の予定を遂行することにした。

 

「そうだ、アポロさん。テランのフォルケン王はもうご到着していますか?」

「ええ。といってもお体の影響でここにはおらず、城の方に来ておられますが……ひょっとして覇者の剣のことで?」

「そうです、少しでも情報を集めておかないといけないので……本当はレオナの傍にいた方が良いのかもしれないんですけれどね」

「いえ、それは我らの役目でもあります。チルノ殿はお気になさらずに」

 

 

 

 

「チルノ!」

 

大礼拝堂から王城へと向かう道すがら後ろから名前を呼ばれ、チルノは思わず振り向き、そして絶句した。

 

「え! レオナ!?」

「……良かった……追いついたわ」

 

そこには大礼拝堂にいるはずのレオナがいた。ここまでの距離を走ってきたのだろう、息を切らせ額には幾つかの汗を浮かべている。

 

「どうしてここに?」

「アポロから、お城に行くって聞いたから、それでちょっとね」

「礼拝堂にいなくて良いの?」

「大丈夫よ、アポロたちに押し……頼んできたから。それにまだ全員揃っていないし、開催時間にも余裕はあるわ」

 

押しつけてきた。と言いかけて言い直した様子から、どうやら慌てて抜け出してきたのではないか。そう考えたものの、チルノはすぐに別の可能性に気付く。

三賢者たちがレオナの気晴らしにと考えて、意外と自発的に役目を買って出た場合だ。真相は闇の中だが、せめて後者であって欲しいと願う。

 

「それで、抜け出してまで私を追ってきた理由は?」

「実はチルノに会って欲しい人がいるのよ」

「会って欲しい人……?」

「そうよ。その人に会って、できれば力を貸して欲しいの」

 

はたして誰のことなのか、チルノは首を捻る。本来の歴史の知識と照らし合わせても、彼女には思い当たる人物が浮かばない。しかも口ぶりからするに、初対面の相手だ。

無理矢理に当てはめるとすれば、リンガイア王国のバウスン将軍といったところだろうか。だが、レオナがここまでして会わせようとする相手とはとても思えなかった。

 

「それって誰なの? それも聞かないうちには返事もしようがないのだけれど。それに、私だけでいいの? ダイたちが戻ってくるまで待った方がいいんじゃない?」

「それも考えたんだけれど、いつ戻ってくるかわからないから。だったら、先にチルノだけでも会ってもらおうと思ったの」

 

少し探りを入れてみるが、レオナの態度は変わりそうにない。どうやら「はい」か「いいえ」の返事以外では進まなそうだ。

 

「……わかったわ、会いに行く。ここはレオナの顔を立てておきましょう」

「やったぁ! さっすがチルノ!!」

 

その言葉がよほど嬉しいのか、チルノを軽く抱きしめるほどの喜びぶりであった。

 

そして二人揃って城への道を歩く。道中の話題はベンガーナ王の事で持ちきりだった。

 

「レオナ、ひょっとして、ベンガーナ王はずっとあんな調子だったの?」

「ええそうよ、まったく失礼しちゃうわね。大砲や戦車があれば、剣も呪文も無力だなんて。勇者は不要だっていうのかしら、まったく!」

 

ここぞとばかりに不満を吐き出すレオナをなだめつつ、だがチルノは自分の考えも口にすることにした。

 

「うーん。でもその考えも、あながち間違えとは言い切れないのよね……」

「チルノ? それは一体どういうこと!? まさか貴方までダイ君たちは要らないなんて言うんじゃ……!」

「違う違う、そうじゃなくて」

 

味方と信じていた相手に裏切られたと思ったのだろう、大げさ過ぎるほどの反応をレオナは見せる。そんな彼女を落ち着かせながら、チルノは自身の知識と考えから冷静に説得していく。

 

「確かに、大砲は少し訓練すれば誰でも扱えるようになる。呪文みたいに契約の必要もないし、剣みたいに連日稽古をする必要もない。兵士の数が足らなくなっても、一般人をすぐに戦力へと変えられる凄い兵器よ」

 

肯定する言葉はあまりお気に召さないらしい。とはいえ、お手軽に戦力を揃えられるという評価は為政者として興味をそそられるようだ。

 

「でも、勇者の代わりを務めるには荷が重すぎる。だってダイやポップが大砲を使っても、決して強くはならない。むしろ弱くなるわ」

 

その言葉にレオナはようやく喜色を見せ始めた。

 

「もしも本当に大砲が万能だったら、デパートでドラゴン達に襲われることはなかったでしょう? あそこはベンガーナなんだから大砲で武装くらいしていたはずよ。でも現にドラゴンは街中まで現れて、私達はそれを撃退したことからも明らかでしょう?」

「あ、うん……そう言われればそうね」

「つまり、大砲は全体の攻撃力の底上げにはなるけれど、突出した戦力の代わりにはならないの」

 

――今はね。

 

と、最後の言葉だけはチルノは飲み込む。この後、技術力が進歩していけば勇者の代わりを担うのも決して夢物語ではないだろう。だがわざわざここで言う必要もない。

チルノの総評を聞いて驚いたような表情を見せ、やがて言葉を絞り出した。

 

「……ねえ、チルノ。あなたも、世界会議(サミット)に参加しない?」

「ええっ!? いきなり何を言ってるの?」

「お願いよ、あなたがいればベンガーナ王もきっと考えを改めるわ! あたしだけじゃ、もしかしてってこともあるから、ね?」

 

そんな馬鹿騒ぎをしながら、何時の間にか二人は城のすぐ近くまで辿り着いていた。

 

 

 

「ここよ」

 

レオナに案内されたのは、パプニカ城内のとある一室だった。何日かここに滞在しているチルノであったが、それでも知らない部屋である。果たして中がどんな間取りだったのか、それすら一切答えられないくらいだ。

その部屋の扉をレオナは軽くノックする。

 

「どうぞ」

 

返事はすぐに返ってきた。それを聞き、レオナはゆっくりと扉を開けるとまず自ら部屋に入り、続いてチルノを先導する。

 

「これはレオナ姫、本日はいかがされました?」

「以前お話をしていた勇者ダイの姉、チルノを紹介しようと思いまして」

 

部屋の中に入ったチルノが見たのは、一人の男だった。黒髪を短く刈り込んでおり、鋭い眼光を湛えている。それは先ほど見たアキームよりもずっと力強く、明らかに手強いのだろうということは余裕で推測できる。

簡素な部屋着を着ており、部屋で寛いでいたように見えるものの、立ち振る舞いはどうにも油断ならない。

もしも自分が戦ったのであれば、そうそうに負けるのではないか。チルノはそんな未来を幻視するほどだった。

 

「お初にお目に掛かります。なるほど、貴方がチルノ殿ですか。ロモス王に未来の賢者と評され、レオナ姫が絶賛する……お会いできて光栄です」

 

――誰!?

 

丁寧な挨拶をされるが、今のチルノはそれどころではない。レオナがこのように敬意を払った物言いをする相手とは果たして誰なのか、思い出そうとするのに必死だった。

 

「紹介するわね、この方はカ――」

 

レオナもこの男のことを紹介しようとする。だがチルノの耳にはまるで入らなかった。

 

 




皆さんは"疾風の槍"という武器をご存じでしょうか? ダイの大冒険に出てくる武器なのですが、おそらく大半の方が「知らん」と言うかと思います。実はこれ、シグマが持っている槍の名前なんです。作中で名前は一切出てきませんでしたが(原作19巻の巻末に記載されています)
(私もちょっと前に知りました)

名前から判断すると「素早さを上昇させる?」とか「バギ系呪文を操れる?」とか「飛行に特攻?」みたいな妄想できますけれど、そういった描写も特になし……この「描写が特にない」というのもがクセモノでして。
なにしろ「全身オリハルコン人間なんだから、ヘタな槍で攻撃するより自分の身体で殴った方が強い」わけです。そんな彼らが身に付ける以上、呪文を跳ね返すシャハルの鏡のように「何らかの特殊能力」があれば装備する対象になるはずです。
でもそれがない。なので疾風の槍は「何の効果も持たない槍だけど、装備する価値がある強い武器」と考えられます。
となると選択肢は一つ、オリハルコン製です。そうなると「ハドラーもオリハルコンを持っている……!?」とも考えられて……
つまり「敵側にオリハルコン装備を出しても良いんだなぁ」ってことです。

……冷静に考えると"シャハルの鏡"もよくわからん装備ですよね。呪文を無効化する全身オリハルコン人間。マトリフとポップ以外の魔法使いは手も足も出ないのに、なんでそんなピンポイントメタな物を持っているんでしょうか……? カウンター狙いにしても自分で殴った方が強いだろうに……
(「メドローア → 勝った」みたいな感じで、話に緊張感がなくなるのを防ぐ目的なんでしょうけれど。そのくせマァムが殴ってもビクともしない防御力を持つ反則装備)
あ、ハドラーを守るための装備という理由なら問題ないのかな?

しかし、シャハルの鏡といい疾風の槍といい、ハドラーから装備を二つも与えられるとかシグマは贔屓されていますね。アルビナスが内心すっごく嫉妬してそうです。

(今回の話の解説とかしろよ私……)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。