隣のほうから来ました   作:にせラビア

71 / 127
人型モード鬼岩城は、全高145メートルだそうです。

これは、ヒルトン大阪やNTTドコモ品川ビルとほぼ同じ高さ。
(なおガンダムは18メートル)

でも元はお城に手足が生えた様なものですから、そのくらいの巨体も仕方なし。
それに戦艦大和(全長263メートル)と比べれば小さい小さい。



LEVEL:71 猛攻! 戦車部隊!!

「会議は今、どうなっているのでしょうか……?」

 

大礼拝堂に拵えられた会議場のすぐ近く、パプニカ関係者の控えの間にて、メルルはどこか心細そうに呟いた。この部屋と会議場とは厚めの扉に隔てられているために声が聞こえることはない。

だがそれでも完全には遮断しきれず、ときおり怒声の様なものが彼女の耳に届く。それがメルルの不安をそこはかとなく煽り、ついには耐えきれずにそんなことを口に出していた。

 

「あまり気にしない方が良いでしょう。会議場にはフローラ様もレオナ姫もいらっしゃる……それに、貴女が気に掛けている少女も」

「そ、それは……」

「失礼、少々意地の悪い言い方でしたね。ですが、我々にできることは、会議の成功を信じて待つのみです。それを実現してくれる方が、あそこにはいるのでしょう?」

 

その言葉をホルキンスが聞きつけたようで、少々揶揄を含んだ言葉を口にする。チルノのことを話題に上げられ、メルルは頬を少々赤らめながら反論をしようとするが、何も口をついて出ることはなかった。

とはいえホルキンス側も、その関係性をどうこういうつもりは微塵もない。むしろその逆、彼の狙いはメルルの緊張を緩和させることだった。すぐさま謝罪の言葉を述べると、会議場へと続く扉へ向けて強い信頼を含んだ視線を向ける。

 

「ピィ……!」

 

その言葉に触発されたように、スラリンもまたメルルを元気づけるかのように力強く鳴き声を上げる。メルルにはスラリンの言葉は理解できないものの、だがその表情と声音から何を言いたいのかを理解していた。

 

「スラリンさんも……そうですね、私が浅はかだったみたいです。うん、私が信じなくっちゃ!」

 

そう言いながら彼女は、チルノに最後に言われた言葉を反芻する。この場にいる誰よりも、パプニカの兵士や精強そうなベンガーナ兵たちよりも誰よりも自分の占い師と腕に期待してくれているのだということをだ。

期待された役目を果たすべく、水晶玉へと意識を集中しようとしたときだ。

 

「伝令! 伝令!! 緊急報告です!!」

 

部屋の外、それも階下の方から怒鳴るような声が聞こえてきた。その声にメルルはおろかその場にいた誰もが動きを止めて、声のした方へと目を向ける。そんな中、真っ先に動いたのはパプニカの兵長の一人であった。

 

「どうした! 何かあったのか!?」

「ハッ!! それが、海上から突如として濃い霧が立ちこめて来ました!!」

 

彼は部屋から飛び出るとそのまま、階下へ続く階段から身を乗り出すようにして返事をする。そこには伝令の兵がおり、今にも倒れんほどの疲労を見せていた。だがそれほどの状態であっても息を切らせることなく、彼は自身の伝達内容を淀みなく口にしてみせた。

 

「濃い霧……だと……?」

 

その報告は、普段ならば取るに足らないような内容だった。平時であれば、その程度のことで緊急報告を行うなどあり得ないことだ。

 

だが、今は状況が違う。

パプニカには各国の指導者たちが集まっており、加えて開催前日にレオナから兵士たちに向けて直々に厳命が下っていた。その内容とは「会議中はどのような些細なことであっても変化があれば緊急事態として報告せよ」という物である。

これはチルノの「会議の開催は魔王軍に察知されている」という言葉を受けて、短時間で考えた苦肉の策だった。いかなる異変も全体が共有させ、住民はすぐにでも避難できるように状況を整えておいたのだ。

 

「ハッ!! 数メートル先も見えなくなるほどの霧です!! いかがいたしましょう!?」

「……第二種警戒態勢だ! 住民にはいつでも避難できるように呼びかけろ!」

 

霧の状況を伝令から聞いた兵士長の判断は素早かった。僅かな逡巡の後に、そう命令を下す。伝令の男はその命令を復唱すると、すぐさま元来た道を引き返していく。

 

緊急報告ではあったが、内容としては取るに足らないものだろう。霧に紛れて襲ってくる可能性があるのだから、住民はいつでも逃げ出せるようにしておけという至極真っ当なもの。

だがその報告を聞き、一人だけ違和感を覚えた者がいた。

 

「……霧」

「どうかなさいましたか、ホルキンス殿?」

「いえ、少し気になることが……」

 

口から零れた言葉を、パプニカ兵士長が尋ねる。彼は口を濁したように黙り掛けたが、やおら意を決したように開いて見せた。

 

「実は、我がカール王国が超竜軍団に襲われる前、相手にしていた魔王軍を思い出したのです」

「は……? と、申されますと……?」

「その名は、魔影軍団。奴らが攻め込んでくる時は、よくこのような霧を目にしたもので、つい……」

 

カール国が戦っていた相手についての知識を持たない兵士長は、ホルキンスの言葉の意味を理解することはできなかった。だがそれは、彼が"霧"というキーワードを口にした途端、見事な閃きを見せる。

 

「……っ!! まさか!!」

「う、あああっ!!」

 

彼が思わず声を上げたのとほぼ同じ瞬間、メルルが苦しそうに声を上げた。

 

「感じ、ました……巨大な、恐ろしい力を……!!」

 

恐怖に震えるように自身の頭を抑えながらも、彼女は気丈にも兵士長へとそう告げた。それを見た兵士長は直ぐさま決断して見せる。なにしろ彼もまた、メルルが非凡な才能を持つ占い師であることは間接的にではあるが聞かされていたのだ。

名高いホルキンスが感じた微かな"気付き"に加えて、占い師の"予知"の能力まで合わされば迷う必要はなかった。

 

「すぐに全兵に伝達!! 第一種警戒……いや、戦闘態勢だ!! すぐに会議場にも報告を……」

 

だがその命令が全て言い終わるよりも僅かに早く、爆音が鳴り響き黒煙が窓へと映り込む。思わず外を見た彼らの目には、隣の部屋にいる諸王たちと同様、屹立する鬼岩城の姿がはっきりと見えていた。

 

「なっ……なんだあれは!!」

「あれ、です……私が見たのは……」

「っ!! 御免!!」

 

鬼岩城を見た途端、ホルキンスはまるで弾かれたように動き出していた。まるで扉を蹴破るようにして、会議場へと躍り込んでみせる。

 

「うおぉっ!?」

「な、何じゃ!?!?」

 

まるで爆発したような巨大な音を立てて開いた扉に、中にいた諸王たちは再び驚かされた。だがホルキンスはそれを無視して、フローラの元へと赴く。

 

「フローラ様!! あれはもしや……」

「ええ、私も同じ事を考えていました。一月(ひとつき)ほど前の、あの事件ですね?」

一月(ひとつき)前? それは一体……何があったというのだ??」

 

その言葉にフローラは頷く。だが他の王たちはその意味が分からず首を捻るだけだ。混乱する王たちへ向けて、フローラは説明してみせる。

 

一月(ひとつき)程前に、カールの北海……いえ、死の大地に近い洋上と言った方が正確でしょう。そこで、一隻の大型船が沈没しました。その事件で生き残った船員たちは、恐怖に怯えながらも『海に巨大な人影が立っていた』と証言したそうです」

「そういえば、ヒュンケルたちからの報告にもあったわね。鬼岩城が、魔王軍の本拠地が消えたって……」

 

フローラの話で思い出したように、レオナもまた自身の持つ知識の中から合致するであろう事を悔しそうに零していた。

 

「フローラ様のお話とも、時期は一致する……軽く受け止めていたあの時のあたしを、怒鳴りつけてやりたい気分だわ……」

「いえ。それを知ったときは誰もが恐怖で錯乱していたのだと思っていました。勿論、私も同じでした。まさかあのような化物がいたなど、想像することもできなかった……」

 

互いに反省の色を見せる二人の女性。だが、このような展開を想像しろという方が無理だろう。成人男性の百倍近い身の丈の巨人が襲ってくるなど、誰が想定できるというのだろうか。よしんば想定できたとしても、対策など打てよう筈もない。

 

「ああっ、あれを!!」

 

苦心するレオナたちをまるで嘲笑うかのように、鬼岩城は手にした軍艦を放り投げる。それは最も手近な、港湾付近へと落ちた。地面に激突すると同時に――軍艦内にあった砲弾用の火薬に反応したのだろう――大爆発を起こす。その威力は家々をまるで模型のように簡単になぎ倒し、新たな炎を生み出して見せた。当然、軍艦内部に待機していたベンガーナ兵たちはただでは済まない。

 

唯一幸運なことがあるとすれば、パプニカの住民たちに死傷者はいなかったことだ。霧が出た段階で警戒を呼びかけ、住民たちはいつでも避難出来るように身構えていた。そこに来て鬼岩城の登場である。それを見た兵士たちは自己判断で民衆へ避難を強制させていた。

本来ならば縦社会であるはずの軍人にとってはあり得ないことだが、今回はそれが功を奏してたようだ。

 

「なんとっ!! 軍艦を投げ飛ばした!!」

「信じられぬ……もはや人智の及ぶ相手ではない……!!」

 

再び生まれた炎を見て、王たちは恐怖に戦く。敵の威圧的な巨体と、その巨体に見合ったパワーは単純な恐怖を彼らに植え付けていた。

 

「きっと私たちを全滅させるのが目的です。秘密裏のはずのこの会議が開催されることを知っていたんだわ……」

 

――どうやら、チルノの懸念が当たったみたいね……当たって欲しく無かったけれど。

 

当たって欲しくないと思いながらも、万が一には備えていたことが功を奏した。友人の先見性にレオナはもう何度目になるか分からない驚嘆を覚えていた。

 

「わ、我がベンガーナの軍艦が……兵たちが……うっ……ううっ!! おおおおっ!! おのれええぇぇ!!」

 

自国の最新鋭の軍艦が玩具のように破壊される。その光景を見たクルテマッカは、顔を怒りに染めてベランダへと駆け出した。落下防止の囲いから上半身を覗かせ、地上へ向けてあらん限りの声で叫んだ。

 

「アキィーーームッ!!!! 戦車部隊を出撃させろ!! 我がベンガーナ軍の真の力を見せてやるのだ!!」

「ハッ!! かしこまりました!!」

 

下にはベンガーナ自慢の戦車部隊が一糸乱れぬ統率で並んでおり、戦車隊長アキームは王の言葉に勢いよく返事をする。そしてひらりと体重を感じさせぬような動きで、馬へと飛び乗ってみせた。

 

「出撃だッ!! 行くぞッ!!」

 

部下たちへそう号令を下すと、彼は先陣を切って突撃していく。その姿はまるで恐れを知らぬ武人のそれだ。高潔な意志によって支えられたそれは部下たちへと伝播し、隊長に続けとばかりに進軍していった。

 

「ベンガーナ王!! 相手は軍艦を一撃で潰すような奴じゃぞ!! それに一人で突っ走るような無茶な真似をどうして……」

「黙ってもらおうかロモス王!!」

 

少し遅れてベランダへと出たシナナは、クルテマッカを諫めるようにそう言う。だがクルテマッカはそれを強引に遮ると憎々しげな瞳を鬼岩城へと向ける。

 

「あの軍艦には、多くの兵たちが乗っていたのだ……自らの手で魔王軍を倒すことを夢見ていたのだ!! そんな部下たちの無念をこの目で見ながら、勝ち目がないから逃げろというのか!? そのような腑抜けた行為など、出来るものか!!」

 

大礼拝堂からでは遠く、港湾部分がどうなっているのかまでは目視ではとても確認できない。だがそれでもクルテマッカは、無茶と分かっていても命令を下さずにはいられなかった。あの軍艦の船員に選ばれるだけでも、並大抵のことではない。そしていざ出港したものの、何の活躍も出来ずに散っていった、その部下たちの無念を汲み取ろうとしていた。

 

それに彼自身、怒りの感情に支配されてはいるものの、全く勝算が無いというわけでもなかった。

 

「それに、相手をよく見てみたまえ。あれはさながら岩石で出来た人間よ。素早い動きは出来ず、先の弱点として上げられていた空を飛ぶ(ドラゴン)もおらん。撃てば当たるような巨人が相手ならば、戦車の勝機は十二分にある!! そうは思わぬか!?」

 

決して無謀では無いと証明する言葉を口にし、同意を得ようとチルノの方を向く。チルノもまた彼の意志を理解し、口を開いた。

 

「ほぼ同意見です。ただ……」

「ただ? ただ、どうしたというのだ?」

「戦い方を知っていれば、勝率はより上がるでしょう。そこで――」

 

そう言うとチルノは、一つ博打を打つことにした。それは、本来の歴史では決してあり得ないこと。だがこの世界では何の因果か実現した奇妙な奇跡に、彼女は賭けることにする。この賭けに勝てば、結果は決して悪い方には転がらないはずだと信じながら。

 

「無茶と無礼をお願いで言います。戦車部隊の指揮権を、ホルキンス殿に渡してください」

「……なんだと!?」

 

チルノの言葉にクルテマッカは目を見開いた。だがそれも当然のことだろう。

ホルキンスは、カール王国の騎士団長にして隣国にも名が通った英雄だ。だがいくら英雄とはいえ、他国の人間に自国の兵の指揮権を渡すことなど、常識で考えればあり得ない。

 

それはチルノ本人も重々に承知している。だがそれでもなお、彼女は賭けたのだ。ホルキンスの将としての才覚に。そして、クルテマッカが――いや、世界中の国々と人々が本当に協力することの大切さを理解したということに。

 

「勿論、無理にとは言いません。ベンガーナ王とフローラ様、そしてホルキンス殿の三名が了承されれば……」

「構いませんよ」

「フ、フローラ様!?」

 

とはいえ、思わず弱気な発言が口をついて出ていた。だがその全てを言い切るよりも早く、フローラはまるで当然のことのように言ってのける。

 

「出来ますね? ホルキンス」

「問題ありません。カールでも大砲はありますし、あの数ならば我が手足のごとく指揮してみせましょう」

 

それはホルキンスもまた同じだった。先にフローラが了承したというのも背中を押したのだろう、その表情には迷いが無い。

二人の言葉を耳にしたクルテマッカは、苛立ったような様子を見せながらも叫んだ。

 

「……わかったわい!! 諸国に英雄として名高いホルキンスならば、下手も打たないだろう!! だが、無様を晒せばどうなるか、わかっているだろうな!?」

「当然です。自分の恥は、我が主の恥。ならばどうして、我が主の恥となるようなことができましょうか! 期待された以上、その期待を必ずや真っ当してみせましょう!!」

 

ホルキンスの名声は、クルテマッカとて耳にしている。それに、ロモス王に諭されたこともあった。だがそれを素直に認めきれず、半ばヤケクソのように叫んでいた。それでもホルキンスはクルテマッカの言葉に見事な姿勢と態度を見せると、先行した戦車部隊の後を追うべく塔の外に出ようとする。

 

「ホルキンスさん!!」

 

だがそれにチルノは待ったを掛ける。

 

「あの敵は、鬼岩城は城に手足が付いて動いているに過ぎません! つまり、これは城攻めと同じなんです! だから……」

「なるほど、そういうことですか。ご忠告感謝しますよ! 未来の賢者殿!!」

 

時間が無いことは理解している。そのためチルノは可能な限り手短に伝えようとしていた。だが、たったそれだけの言葉を耳にしただけで、ホルキンスは止めた足を再び動かすと鬼岩城へ向けて駆けていった。

本当に伝わったのかと不安になりながらも、今は信じることしかできない。

 

「チルノ、さん……」

 

その原因がメルルであった。ホルキンスが会議場に飛び込んで来たのにかなり遅れて、彼女は今にも泣き出しそうな表情でチルノの元へ顔を見せる。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……私、せっかくチルノさんが頼ってくれたのに……気付くのが遅れてしまって……」

 

そう呟く彼女の表情は、まるで幽霊のようだった。チルノが会議場に入る前に見せた嬉しそうな表情とは雲泥の差である。スラリンがメルルの肩に乗り、必死で慰めようとしているがそれすらも耳に入っていなかった。

どうやらチルノの言葉を必要以上に重く受け止めてしまい、鬼岩城接近に気付けなかったことに自責の念を感じているようだ。

 

――これは、私のせいね。

 

「メルル、落ち着いて聞いて」

 

チルノは自身の発言からそう判断すると、まずは落ち着かせようと彼女の両手をそっと握りしめる。

 

「敵はおそらく、あの霧で身を隠しながらやってきたの。きっと、メルルの予知能力も騙すくらい強力な霧だと思う。そんな相手に、気づけたんでしょう? だったら、十分誇っていいはずよ」

 

本来の歴史を知るチルノは、あの霧がミストバーンの生み出した物だと言うことを知っている。鬼岩城を覆い隠すほどの大量の霧だ。そこに通常の霧以上に姿や気配を隠蔽させるための、なんらかの呪法的な処理が施されていたとしても不思議では無いだろう。

 

「それに、メルルの仕事はここからが本番よ……多分、敵はまだ会議場の詳細な位置までは分かっていないから」

「……えっ!?」

 

続く言葉に、メルルの表情がようやく変化する。

 

「もしもこの大礼拝堂に集まっていると知っていれば、掴んだ軍艦をこっちに向けて投げていたはずでしょう? そうでなくても、攻撃をこっちに向けていたはず。それをしないってことは、今はまだこちらを燻り出そうと動いているに過ぎないの」

 

その隙を逃すこと無く、チルノは本来の歴史の情報から推測という名の正解を語る。

 

「でも敵もバカじゃない。出方を探りながらも、同時にこっちの居場所を探そうと配下の怪物(モンスター)を放っているはず。だから――」

「――あっ!! わ、わかりました!! 今度こそ、それを見つけてみせます!!」

「ごめんね、損な役回りばっかり任せちゃって……」

 

ここからが仕事の本番という言葉に加えて、失点を挽回しようと思っていたメルルにしてみれば、チルノが語ったのはむしろ多すぎるくらいである。だがそのおかげで彼女は、チルノにまだ頼りにされているのだとはっきりと理解し、その表情を一変させた。

 

これで彼女のことも大丈夫だろう。そう判断したチルノは、続いてアポロたちへと目を向ける。

 

「三賢者の皆さんは、レオナたちの護衛をお願いします!」

「心得ています。ですが、チルノ殿? その言い方は、まるで……」

「え、チルノ……まさかあなたも……!?」

 

アポロの婉曲的な質問に、だがレオナもチルノがどうしようとしているのかを察した。

 

「うん、凄く怖いけれどね……でも、私もアバンの使徒だから」

 

レオナたちを心配させまいと、チルノは笑顔を見せる。それに、今この状況を招いた原因は自分自身だとチルノは考えていた。

本来の歴史ではランカークス村への旅路にはメルルも同行しており、彼女の予知能力のおかげでパプニカが鬼岩城に攻め込まれているという危機を知ることが出来た。だが今、メルルは彼女が原因でパプニカに残ったままなのだ。これでは彼らがパプニカの状況に気づけるはずもない。

ならば、せめてダイたちが戻ってくるまで敵の足を止めてやろうと責任を感じていた。

 

「それじゃ、行ってくるね」

「ちょ、ちょっと!?」

 

そう言うが早いか、チルノもまたベランダへと飛び出すと、そのまま囲いをヒラリと飛び越して見せる。レオナが制止の声を上げたがもう遅い。

会議の場所は大礼拝堂の塔の最上階に近い。そんな高所に、彼女の身体は空中に投げ出されていた。

 

「【レビテト】!」

 

だが彼女もバカではない。直ぐさま浮遊の魔法を唱えると、落下の勢いを消してみせる。

 

――こういうときは、飛翔呪文(トベルーラ)が羨ましいなぁ……

 

レオナたちが慌てて下を覗いた時には、彼女が地上にゆっくりと着地したところだ。続いて自身の意志で浮遊状態を解除すると、彼女は港へ向けて直ぐさま駆けだした。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「発射用意ッ!!」

 

沿岸部に辿り着いたベンガーナ戦車部隊は、一列横隊で等間隔に並ぶ。丁度鬼岩城を中心として、左右へ翼を広げたような陣形を取っていた。

それを確認したアキームは、良く通る声で叫ぶ。隊長の号令の下、部下たちは砲撃の反動で戦車が吹き飛ばないようアンカーを下ろして地面に固定させ、砲身の仰角を調整する。ギギギという金属同士の擦れ合うような重々しい音が響き、砲口が鬼岩城を睨んだ。

 

「撃てぇぇぇぇッ!!」

 

号令一下、一糸乱れぬタイミングで砲弾が撃ち出された。砲弾はそのまま一直線に迫り、鬼岩城の腕に肩に、胴体にと確実に攻撃を与えていく。岩石に包まれた鬼岩城の防御力では砲弾の威力に耐えきれず、着弾するたびにまるで巨大な爆発が起きたかのように粉塵が立ちこめていた。

 

「攻撃を続けろ!! ベンガーナ軍の真価を見せるのだ!!」

 

アキームの激を受けて、戦車兵たちは更に苛烈な砲撃を加えていく。重い砲弾を装填し、発射用の火薬を充填させると直ぐさま第二射を放って見せた。一糸乱れることなく統率されたその動きは、今までの訓練の成果が着実に――いや、訓練の時以上の動きをどの兵士たちもしていた。

 

さらに、戦車の砲撃を見たことで触発されたのかロモスの船も動き出した。こちらは沖へと回り込むように操船しながら、装備した大砲で鬼岩城の背後を突くように砲撃を仕掛け始める。

 

――勝てるッ! これならば!!

 

この状況を見て、アキームは心の中でそう叫んでいた。魔王軍の巨大兵器を自身の指揮の下、見事に討ち取ってみせる。それは武人としての誉れだろう。

だがそんなささやかな彼の夢想は、背後からの大音声によってかき消された。

 

「攻撃を縮小しろ!! 砲撃の数が多すぎる!!」

 

思わずアキームは後ろを振り返り、そして訝しげな視線を向ける。彼にからすればその相手は会議の場でちらりと見かけた程度の存在でしかなく、素性も知らなかったからだ。部外者が、ましてや男が口にしているのは自分の考えと真っ向から反対するものである。

そんな命令を聞く必要などないだろう。

 

「貴様、何者だっ!! 我々をベンガーナ戦車隊と知らんのか!?」

「我が名はホルキンス! カール王国騎士団長を任されていた者だ!」

「カールのホルキンス!?」

 

作戦行動の邪魔だからと追い返そうとしたところで、アキームは信じられない名を耳にしていた。顔こそ知る機会に恵まれなかったが、遠く離れたベンガーナにも彼の名は届いている。各国に名を轟かすほどの英雄だと。

そんな相手が一体どうしてこの場に来たのか。続く言葉にアキームは更に驚かされる。

 

「先ほど、ベンガーナ王より戦車隊の指揮権を正式に一時譲渡された。よって、今より戦車隊を指揮する!!」

「ば、馬鹿な……そのようなことを、王がお認めになる筈が……」

「いや、事実だ!! 我が主の誇りに賭けて誓おう! 嘘だとわかれば、この首を差しだしても構わん!!」

 

その言葉は彼にとって信じられない内容であった。そもそも自国の部隊の指揮権を他国の人間に渡すなど、クルテマッカ王に果たして何があったのか、彼は知るよしも無い。

だが戦場のド真ン中で吐くような嘘でないことも理解できる。この場に近寄るだけでも並大抵の胆力ではないはずだ。

 

「わ、わかった……我が部下たちを、存分にお使いください……」

 

何よりも、僅かな時間すら惜しいこの状況である。アキームは根負けしたように力なくそう言ってのけると、ホルキンスは「承知した」という言葉と共に力強く頷いて見せた。

 

「聞け! ベンガーナの勇敢な兵士諸君!! 我が名はカール王国騎士団長ホルキンス!! 特命を受け、アキーム殿から一時的に戦車部隊の指揮権を譲渡された!! このことはベンガーナ王もご了承済みだ!! 以後、我が命に従ってもらう!!」

 

続けて、戦車隊の隊員全体へと向けてそう告げる。

突然の命令系統変更に兵士たちは僅かに浮き足立つものの、だがさしたる混乱すら起こることなく兵士たちは受け入れていた。

 

確かにホルキンスは名の知れた将軍だ。そんな人物が指揮をするのであれば心強く感じるのも当然だろう。

だがそれ以上に、兵士たちはホルキンスの声に圧倒されていた。未だ砲撃の音すら残る戦場において、彼の声はどこまでも良く響き、兵士一人一人の耳に確実に届いていた。雑音を切り裂き、人に聞かねばと思わせるほど、彼の声は兵士たちの胸に心強く響いていた。

 

「攻撃の量が多すぎる!! 噴煙で敵の姿を視認できなくするなど愚の骨頂だ!!」

 

その言葉だけで、戦車隊の攻撃は勢いを無くす。だがそれは勢い任せの大雑把な攻撃から、より効率的な戦い方へと遷移するための布石にすぎない。

 

「戦車部隊は右翼、左翼の部隊に別れ、それぞれ敵の足を狙え!! まずは敵の動きを止めるのだ!!」

 

命令を耳にした途端、戦車たちはまるで生き物のように活発に動き出した。ホルキンスの言葉に従い部隊は別れ、砲撃箇所を巧みに変更していく。

 

「敵は手足の生えた巨大な城だ!! ならば反撃の手段を持っていて当然だろう!? なのにどうしてお前たちは一カ所に固まっている!? まとまって砲撃を行うのではなく、常に有利な位置を取るように意識しろ!! だが攻撃は一点に集中させてみせろ!! 反撃の兆候があればすぐに逃げろ!! 大砲を素早く動かせるのが、戦車の利点のはずだ!!」

 

一台一台が機敏に、だがまるで機械仕掛けのように正確に走り回り、鬼岩城へ砲撃を続けていく。通常ならば複数の戦車が動き回るだけでも大変なのだ。自由自在に動き回れば、それだけ仲間同士で激突する可能性が増える。

だが戦車兵たちは、即席の指揮官の指示に従い見事にそれをやってのける。

 

――凄まじい……なんと、羨ましい光景なのだ……

 

アキームはその様子を、歯噛みしていた。ホルキンスの指揮の下で改めて動き出した戦車部隊は、彼が知る今までのそれと全く別物として彼の目には映っていた。

自身の統率能力を遥かに上回るほどの手腕を見せられながらも、だが彼は悔しさは微塵も感じることはなかった。あまりに圧倒的な光景に、嫉妬を覚える暇すらなかった。ただただ羨望し、そして、願わくば今この光景と同じものを、自分の手で生み出して見せたい。その想いに渇望していた。

そして、この英雄の位置に少しでも近づきたい。そう思いながら、彼もまた戦線に加わっていた。

 

 

 

 

「全軍攻撃停止!! いつでも動けるよう待機!!」

 

圧倒的有利かと兵士たちが思い始めたところで、ホルキンスは攻撃中止の命を下す。だが、すぐに動き出せるようにとの命を受けて、兵士たちは攻撃の手をピタリと止める。

 

ホルキンスが攻撃を止めさせたのは他でもない、鬼岩城の様子が変わったのを確認したからだ。もしも勢いに任せて苛烈な砲撃を続けていたのでは気付くのが遅れたであろう。

それまで棒立ち状態であったはずの敵が、ゆっくりと腕を動かすとさながら自身の胸元を引きちぎるような動きを見せたのを彼は見つけた。

 

「あれは……いかん!! 全員退けええぇぇっ!!」

 

反射的にホルキンスは叫んでいた。彼はバラバラと岩塊が剥がれ落ちていくその下に、強固な城壁のような輝きを見つける。それを見た途端、チルノから事前に伝えられた情報を思い出したからだ。

 

――手足の生えた城を相手にした、城攻め。

ならば城からの反撃も当然のことだと彼は理解していた。こちらがしているように砲撃に晒されるのではということも、城門が開き内側から兵士が雲霞のごとく湧き出てくるだろうとも、想定していた。

 

実際、彼のその想定は間違っていなかった。だが見積もりは甘かったようだ。

 

岩石の鎧を脱ぎ捨てたその下から、鬼岩城の真の姿が浮かび上がる。腹部に巨大な城門を備え、胸部に無数の大砲を構えたその姿は、まさに手足の生えた城そのものだ。その無数の大砲からは雷鳴のような轟音と共に砲弾が放たれる。

 

「い、いかん……っ!!」

 

自身の予測を遥かに上回る速度を持って放たれた砲撃に、ホルキンスは防御の姿勢を取りながら戦車隊の無事を祈ることしかできなかった。

 

だがどれだけ待っても襲ってくるだろう衝撃は感じられず、ベンガーナ兵たちの苦痛の悲鳴も何も起こらない。

 

「な、なんだ?」

「確かに撃たれたはず……なのに、どうして……」

 

違和感を感じたのは戦車兵たちも同じだった。彼らは恐る恐る辺りを見回し、やがて気付いた。自分たちがいる場所よりも更に前。最前線の位置で仰々しい槍を持った一人の男が立っていることに。

 

「危ないところだったな。全員、生きているか?」

 

背後の兵たちの様子を確認するように尋ね、だが続いて驚いたような口調を見せる。

 

「おや? パプニカの兵士ではないのか。ならば守る必要はなかったか?」

「ラーハルト!!」

「冗談だ、クロコダイン。第一そんなことをすれば、ダイ様に叱られかねん」

 

冗談とも本気ともつかない口調でラーハルトはそう言ってのける。気付けば戦車たちから少し離れた後ろに、いつのまにかクロコダインが立っていた。

 

「……守る、だと? 我々を、守ったというのか……?」

「ああ、そうだ。あのデカブツからの砲撃は全てたたき落とした。怪我は無いだろう?」

 

事もなさげに言ってのけるラーハルトの言葉に、だがそれを聞いたホルキンスは僅かに震えていた。何しろ砲撃が着弾するまでの時間は一秒にも満たなかったのだ。加えて撃たれた数も一発や二発ではない。

それをさも出来て当然のようにやって見せた目の前の男の実力は、彼の目を持ってしても底が知れなかったのだ。

 

「全て、ではなかろう。幾つか見逃しもあるようだが?」

「既に住民の避難は済んでいるのだ。無人の建物が壊されても、また建て直せば問題なかろう?」

「問題ないわけがなかろう! オレがなんとか防いだから良いものを!!」

 

ブツブツと文句を言うクロコダインであったが、ラーハルトがどこまで真面目に聞いているのかはいささか疑問だろう。

視界の端に映ったそんな光景に微かに笑みを浮かべてから、ヒュンケルは打って変わって鋭い目で鬼岩城を――いや、その奥に座する敵を射貫く。

 

「久しぶりだな、ミストバーン……」

「ヒュンケル……!!」

 

無言だった鬼岩城から、初めて声が上がった。

 

 




総員、第一種戦闘配置!! ってファンタジーっぽくない言い回しですね。ヤマトやガンダムとかの領分だと思います。
(でも他に上手い言い方が思いつかなかったので)

なんか、ホルキンスを活躍させたかったのでこんな展開に。
カールだって大国ですから、大砲はあるはず。それに戦車なんて、馬に乗ってクロスボウを撃つ兵士の延長みたいなものでしょう。そんな感じです。
アキームさんも弱くは無いけれど、器が違ったということで、どうかご容赦を。

さて、ずっと出番のなかった三人が、ようやくの再登場です。

修行していたから……仕方ないんです……でも約半年も間が開くって(滝汗)
(劇中では一週間くらいという恐怖。原作ヒュンケルの槍修行も5日……)

肝心の修行の成果ですが、大雑把にはそれぞれの得意分野を更に特化させた感じ。
とくにヒュンケルとラーハルトがやばい。なんていうか凄くやばい。
(ラーハルトはすでにその一旦が垣間見えてますし、ヒュンケルも……)

この二人と比べられるワニさんは泣いていい。イケメン二人の踏み台にされちゃう。
でもクロコ好きなので、活躍シーンもある予定(予定は未定)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。