「フフフ、地上最強の剣だと? それに加え、貴様らだけでこの鬼岩城を容易に倒せるような口ぶり……大きく出たな……」
チルノの言葉を聞き、それまで沈黙に徹していたミストバーンが再び口を開いた。
「そのどれもが貴様らには叶わぬ願いだ! この鬼岩城と魔影軍団が存在する限りな!」
ダイが地上最強の剣を持って戻ってくることも、ヒュンケルたちが鬼岩城を倒してみせるという決意も、そのどちらをも嘲笑う。尤もミストバーンにはそれだけの自信の裏付けがあるのだろう。彼らの抵抗などアリの反逆にも等しく見えていた。
「何を言い出すのかと思えば、ミストバーンだったか? 叶わぬ願いとは、お前の言葉の方がよっぽど大言壮語だな……貴様自慢の鎧人形たちは既に全滅しているぞ。次はその動きの鈍いデクの棒でオレたちを倒すつもりか?」
だがその言葉に黙っていられよう筈もない。ラーハルトは口を開くが、ミストバーンはそれに取り合うことはなかった。だが返事の代わりとでも言うように、鬼岩城腹部の正門が鈍い音を立てて再び開かれる。
「全滅させた? その程度で勝ったつもりか、愚か者どもめが……!!」
その奥からは、再び無数の鎧兵士たちがずらりと立ち並んでいた。いや、鎧兵士だけではない。さらに奥にはデッド・アーマーたちの影も見える。つい先ほど、倒したばかりの相手が再び姿を見せたことで、ベンガーナ兵たちの間に動揺が走り始めていく。
「我が魔影軍団は不滅の軍団!! 疲れを知らず、恐れを知らず、暗黒闘気ある限り何度でも甦る!! 貴様らがどれだけ強くとも、無限に湧き出る敵を倒し続ける事はできん!」
際限なく湧き続ける部下の存在が、ミストバーンの根拠の一つであった。どれだけ強い存在であろうとも不眠不休で無制限に動けるはずもない。いずれ疲弊しきって動けなくなるのは道理である。
ならば当然、相手はその発生源を止めようとするだろう。しかし――
「そして、いかに地上最強の剣といえどもこの鬼岩城を倒すことなど不可能だ! この城は魔王軍の技術の粋を集めて作られている。たとえオリハルコンの武器であろうとも容易には打ち砕けん!! 貴様らの攻撃などではビクともせんわ!!」
その程度のことは誰しもが思いつく。故に要塞である鬼岩城の堅牢さは群を抜いていた。魔王軍の――というよりも魔界の技術によって建造され、外壁も並の強度ではない。バーンを除けば鬼岩城の事を最も熟知しているミストバーンは、ヒュンケルら三人の誰がどのような技を繰り出そうとも問題は無いと判断していた。
続けて戦車兵たちが潰してきたはずの砲門が引っ込んだかと思えば、すぐさま新しい大砲が顔を覗かせる。
「貴様らが懸命に潰した大砲も同じだ! たった一門ずつしか装備していないとでも思ったか? 砲門も砲弾も、城内にはまだまだ予備がある。無限の兵士と無数の砲撃を前に、貴様らは惨めな屍をさらすこととなるのだ!! フハハハハ!!」
さながら必勝の策を誇るようにミストバーンは高笑いを見せた。確かに、無限の戦力があればその自信も理解できる。ラーハルトたちの攻勢にも動じることなく、殆ど反撃を行わなかったのもこれが原因だろう。
不利になったように見せかけ、余裕を見せたところへ見せつけるかのようにすれば、相手の戦意をより大きく削ることも出来るからだ。普通の相手ならば今の言葉を耳にしただけで温存策を取ろうとし、闘志や攻撃の手が鈍ってもおかしくはない。
「増援か。だが、同じ顔ぶれしか用意せんとは……芸のない奴だ……」
だが彼らにはその理屈は通用しなかった。新たに現れた、一度見た敵を前にしてラーハルトは若干げんなりとしながら呟く。
「魔影軍団の兵士は暗黒闘気で動いているからな。おおかた、城の内部で量産しているといったところだろう」
「なるほど。たしか、鬼岩城に開かずの間があったな……記憶に間違えがなければ、右胸の辺りだったはずだ。可能性があるとすれば、そこだろう」
ヒュンケルとクロコダインは、互いに持つ知識を補完するように話し合っていた。かつて暗黒闘気を操り不死騎団を率いていたヒュンケルだからこそ知りえる知識にて看破し、クロコダインもまた軍団長であったころの知識にて、鎧兵士たちの製造場所を推測してみせた。
「右胸の辺りだと? ならば、そこを潰せば無限の兵士とやらは止まるわけだ」
二人が推察してみせた潰すべき位置。ラーハルトはその場所を睨んでいた。未だ鬼岩城とは距離があり、一足飛びに飛び移るのは彼の身体能力を持ってしても困難そうに見える。目測を誤れば、そのまま海へドボンと落ちるだろう。
「だが、潰すにはまずあの鎧兵士たちを蹴散らして進む必要があるぞ」
「それだけではない。城内に侵入すれば今以上に敵が、それこそ雲霞のごとく襲ってくるはずだ」
そう言ってヒュンケルは鬼岩城腹部へと視線を投げる。そこでは正門前へ再度手が添えられ、鎧兵士たちが次々に乗り移っていた。程なくして先ほどと同じように、多くの雑兵がやってくるはずだ。時間は余り残されていない。
さらにクロコダインは、内部に侵入してからの厄介さを説く。鬼岩城内部は、決して攻め込まれる事など無いという自信の表れなのかそれほど複雑な造りをしておらず、比較的単純な構造をしている。
だが単純ゆえに身を隠す場所なども存在しないということだ。下手をすれば地上で戦う以上に危険となるかもしれない。
経験者二人の弁に耳を傾け、ラーハルトははやる気持ちを少し落ち着ける。
「なるほど。それは少しだけ面倒だな」
「ああ。正直な話、この程度の兵士ならば万の軍勢でも支障は無い。むしろ問題があるとすれば攻め込む方法だろう」
「あの巨体だ。ミストバーンの言葉ではないが、堅さはかなりのものだろう……さて、どうしたものか?」
「攻める方法、一応あるわよ」
三者三様に頭を悩ませていたところへ割って入り、チルノは声を掛ける。降って湧いたようなその言葉に、全員が思わず彼女の顔を見つめていた。
「なにっ、それは本当かチルノ!?」
「どうするつもりだ?」
「クロコダインとヒュンケルは、鬼岩城に入ったことがあるでしょう? だったら、当然その内部構造もある程度は知っているはず。そんな二人に、改めて聞くわね。あなたたちの知っている鬼岩城に、
切羽詰まった様に答えを求めるクロコダインらへ対して、だがチルノは二人へ向けて謎かけめいた言い回しをする。だが彼女が口にした「腕や足に該当する区画」という言葉に、真剣に頭を悩ませ、そのような場所があったのかを思い返す。
「むぅ……いや、そんなものは無かったはずだが。ヒュンケルはどうだ?」
「オレも知らんな」
やがて出た答えは、どちらも否定である。だがその回答に、チルノはコクリと頷く。彼女が欲していたのはその回答だったのだ。
「でしょう? そもそも普通に考えたら、城に手足を付ける必要なんてないはず。だから、あの手足は後付け。移動する際に、周囲の岩石をくっつけて手足として利用しているに過ぎないと思うの。多分、関節部分に何らかの仕掛けがあるはず」
それもまた、彼女の知る本来の歴史からの知識であった。
そもそも鬼岩城には、手足など初めから存在していない。城として建造されているのは、言うなれば腰から上の部分――いわゆる上半身と、肩から肘までの部分だけだ。この状態の鬼岩城を遠目から見れば、さながら巨人が大地に埋まっている様に見えるだろう。
では腕や足はどこにいったのか? その答えは、鬼岩城の両腰部分と両肘部分。計四カ所に設置された魔法動力球にある。
バーンの鍵を使い鬼岩城の仕掛けを起動させることでこの魔法動力球が作動し、周囲の岩石を引き付けて手足を生成する。魔法動力球は、魔法力を物理的な動力へと増幅変換する装置であり、各種関節部分を構成する重大なパーツなのだ。加えてその魔法力で引き付けた岩石の硬度を補強する役目も持っている。ある意味では、鬼岩城を操作する玉座以上に重要な部分と呼んでも差し支えない。
「なんと、そんな方法であの城が?」
「あくまで推測だけどね。でも、可能性は高いと思うの。末端部分なら、城本体よりもずっと柔らかいはず……」
驚くラーハルトの言葉に、チルノは少しだけ否定しながらも推測という名の事実を口にしてみせる。だが彼の目には彼女が真実を言っている様にしか見えなかった。
普通の人間ならば鬼岩城の巨体と異様さに圧倒され、こんな推測をする余裕など無いだろう。怯えて逃げるのが関の山か、仮に戦うという闘志を持つ者ならば愚直に攻撃しようとするかのどちらかと言ったところだろう。それをこうもあっさりとやってのけたことに、ラーハルトは己の中のチルノの評価を更に上げる。
「なるほど、ならば……不可能ではないかもしれん」
「クロコダイン?」
チルノの話をジッと聞いていたクロコダインは、腕を組み頭の中で何かを考えるようにブツブツと小さな声で何やら呟いていた。その様子に思わずヒュンケルが声を掛けるものの、それすら耳に入っていないようであったが、やがてその目を見開いた。
「よし! あのデカブツに一泡吹かせられるかもしれん。オレに一つ考えがある。すまんが、少々時間を稼ぎ、ヤツの足を止めてくれるか?」
そう言うが早いか、クロコダインは返事を待つこともなく歩き出した。その様子に一番驚かされたのはチルノだ。
「あ、足止めって……ちょっ、ええっ!!」
「頼んだぞ!!」
「わぷっ!」
だが止めようと口を開こうにもその暇もなく、続くクロコダインの行動にチルノは完全に度肝を抜かれた。なんと彼は、そのまま海へと飛び込んだのだ。巨体が勢いよく沈んだ事で、噴水のかくやといった巨大な水柱が立ち上がり、チルノたちを大量の水しぶきが降り注ぐ。彼女はなんとか身を捻って迫る水滴をかわそうとするが、半数ほど被った。
「足止めとは、軽く言ってくれるな」
「だが、腕力はオレたちも知っての通りだ。鬼岩城を破壊するのにクロコダインほど適したヤツもいないが……さて、どうする?」
一方、ラーハルトとヒュンケルにも同じ程度の水滴が降り注いでいた筈なのだが、彼らはどうやったのか、その殆どを避けていた。鎧の表面に幾つか涙のように流れる水滴だけが、彼らの技量を持ってしても避けきれなかったということを知らせる。
「ねえ、それ……私がやってもいい?」
突然鬼岩城を足止めしろと告げられ悩む二人に向けて、チルノは水で張り付いた前髪を指で払いながら口を開く。褐色の肌と水に濡れた髪が不思議なほどよく似合い、このような思わず見惚れてしまいそうな色気を醸し出していた。
「それは構わんが……」
「何か手立てがあるのですか? それならば、オレたちも可能な限りお手伝いします」
だが相手はヒュンケルとラーハルトである。そのような洒落た様子に気付いた様子もなく彼女の言葉に頷くだけだった。チルノは二人の言葉に同意を得たと判断すると、続いて後ろに並ぶ者達へ向けて大きな声を上げた。
「アキームさん! 戦車隊の皆さん!! お願いです、少しの間だけ攻撃を抑えて貰えますか!?」
「誤射の心配か? ならばその気遣いは無用だ。砲撃に当たるほどクロコダインもオレたちもノロマではない」
少女の言葉を聞き、ホルキンスとアキームが揃って戦車隊に攻撃を控えるように指示を出した。とはいえ、戦車たちは度重なる砲撃を行ったせいで残弾は殆どない。彼女が口に出さずとも、自然と攻撃は止んでいただろう。
「ううん、そうじゃなくて。今から鬼岩城に向けて、かなり大きな魔法を放つから出来るだけ集中させてほしいの。お願いできる?」
「……それを使えれば、鬼岩城を止められるんだな?」
「もちろん、威力は保証するわ。勢い余って破壊するくらいのヤツだから」
問いただすようなヒュンケルの言葉にチルノは自信たっぷりに頷いて見せた。少女のその表情に二人の男たちは互いに顔を見合い、そして力強く頷く。
「お安いご用です!」
「わかった。鬼岩城の相手はお前たちに任せたぞ!」
――ヒュンケルとラーハルト。
共に魔鎧を身に纏った二人の戦士に、その身を守られる。この地上で最も頼りになる護衛だろう。贅沢すぎる待遇にほんの少しの笑みを浮かべると、チルノは魔法を放つべく集中していった。
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「何を企もうと、全ては徒労に過ぎん……そもそも、この私が指をくわえてみているだけだと思っているのか……?」
チルノたちが動いたのを確認してか、ミストバーンもまた動き出した。その言葉を合図としたように、鬼岩城の肩の辺りに位置する窓から無数の影が飛び出していく。その動きは中々に早く、やもすれば一瞬見逃しかねないほどだ。
「ホロゴーストどもよ、死を撒き散らせ! ガスト、お前たちは小娘の呪文を封じ込めろ!」
現れたのはまるで紫色をした煙の様な
「人形の次はハエか、鬱陶しい……チルノ様の邪魔になるな」
「ホロゴーストは
ヒュンケルの言葉通り、ホロゴーストの方は空を飛びながらもザラキの呪文をベンガーナ兵たちへ向けて無差別に放ち始める。幸いなことにというべきか、距離が離れているおかげでザラキの呪文の効果もそれほど強力ではないものの、死へと誘う言葉を彼らは死に物狂いで抗い続ける。
どうにか発生源を止めようと無事なベンガーナ兵が苦心するも、相手は空の上。戦車の弾丸も心許なく、そもそも戦車の砲撃はホロゴーストのような小回りの効く小さな敵を相手にするのにはお世辞にも向かない。ホルキンスたちですら、まともな反撃の手段がなかった。
残るガストたちはミストバーンの命に従い、チルノへ向けて急降下を行う。
「下は任せろ」
「なら、上の相手は任されたぞ」
ヒュンケルの短い言葉を耳にするとラーハルトは天を睨み、高く跳躍した。そして当のヒュンケルは、前方へと駆け出す。
「鎧兵士どもよ! 裏切り者を殺せ!」
続いて鬼岩城の腕が地面へと到着した。地へと乱暴に下ろされたその巨大な手の中は、先ほどと同じように無数の鎧兵士とデッド・アーマーの姿が見える。だが、それを二度も黙っているほどヒュンケルは甘くはない。既に対処法は頭の中へと思い描いている。
「タネがわかれば、貴様のそれも大道芸に過ぎん!!」
弓を放つように剣を構えると全身の筋肉を引き絞り、照準代わりの左手を眼前の岩塊へと向ける。
「ブラッディースクライド!!」
強烈な螺旋を描く剣圧は、そのまま鬼岩城の腕へと突き刺さった。圧縮され、かなりの強度を誇っているはずの岩石だったが、ブラッディースクライドの威力はその堅さを物ともせずに抉っていく。岩石の腕は、まるでただの陶器のように脆く砕けていった。
だが、ラーハルトらと共に鍛え上げたヒュンケルの腕前はこの程度では収まらない。その破壊力は鬼岩城の腕を完全に粉砕しても止まることは無く、さらにはその手中に待機していた鎧兵士たちをも巻き込み、千々に引き裂いていった。
「……以前のオレでは、ここまでは出来なかっただろうな」
その身震いするほどの破壊力を見て、ヒュンケルは一人呟いた。自らを鍛え直し、闘気技の扱いをより習熟させた必殺剣の一撃は、彼の想像以上の物だったのだ。鬼岩城の腕はまるで大爆発でも受けたかのように削り取られており、手首から先は完全に消失していた。
デッド・アーマーらも直撃を受け、もはやどの部分だったのか確認が困難なほど細切れにになっている。当然、もはや動くことはない。
「鬼岩城の腕を破壊しただと……こざかしい真似を!!」
バーンからの預かり物でもある鬼岩城を破壊されたことにミストバーンは憤りを覚えるものの、まだ激昂するほどでも無い。チルノの言葉通り、両腕と両足はただの岩石の集合体――幾らでも取り替え可能な消耗品でしかなかった。
壊れたらまた直せば良いだけのことと思いながら、ミストバーンは鬼岩城を操る。
空中高く飛び跳ねたラーハルトは、すれ違いざまにガストたちを次々に両断していった。ガストたちは鎧兵士どもとは違いある程度の知識があるのか「ギョエエェェ!」と、さながら呪詛の様な断末魔を上げて絶命していった。
「まずは、ひとつ……!」
空中という全く足場のない不安定な場所ながら、手にした槍を巧みに振り回してガストを撃退していく。すれ違うと簡単に言うものの、ラーハルトは上昇中でガストは下降中である。すれ違えるタイミングはほんの一瞬しかない。その一瞬で攻撃を行うなど、普通ならばまず不可能だろう。
だがラーハルトはそれをいとも容易くやってのけていた。目に付いたガストどもは片っ端から切り裂き、距離があり直接槍の届かぬ相手には衝撃波を撃ち込んで仕留めていく。
たった一人の戦士によって、ガストの一団は全滅させられる。だが彼にしてみれば、こんなものは前哨戦にも過ぎない。本命は次の相手だった。
「クケケケケケッ!!」
ガストを倒したことで危険度が跳ね上がったのだろう、全てのホロゴーストたちがラーハルトへと意識を向けると彼を殺すべく呪文を唱えた。
「ザキ!」
「ザラキ!!」
上から雹のような密度で死の言葉が降り注ぐ。だがラーハルトは無数の死の弾幕を正面から受け止めると、何事も無かったかのようにそのまま突っ切った。無知なホロゴーストたちは自らの放った呪文がまるで効果の無いことに驚くが、あらゆる攻撃呪文をはじき返す鎧の魔槍を身に纏った彼ならばそれも容易い。
とはいえザラキの呪文を完全に無効化することはできず、耳障りな死の言葉にラーハルトは僅かながら顔を顰めていたのだが……逆に言えば、その程度の被害しか与えられなかったということだ。
やがて、跳躍は遂に頂点へと達した。鍛え直したラーハルトの脚力は、鬼岩城の胸元近くまで易々と到達したが、そこまでだった。跳躍の頂点まで達し、ラーハルトの身体は空中で一瞬だけ静止する。
「愚か者が……身動き取れぬ空中が貴様の墓場だ!!」
「……むっ!?」
狙い定めていた瞬間の到来に、ミストバーンは思わずほくそ笑んだ。ラーハルトがどれだけ素早く動こうとも、空中ではその動きは制限される。ましてや呪文を使っているわけでもないただの跳躍ならばいずれは限界が訪れ、落下のためにその動きは止まる。
ミストバーンはここぞとばかりに鬼岩城を操ると、その頭部をラーハルトへと向けて光線砲を放つ。
これもまた、鬼岩城に仕込まれた攻撃手段の一つであった。両目部分へと魔力を集中させて放つだけの単純な攻撃だ。斜角は制限され攻撃範囲も直線的ではあるものの、だがその威力は集約した
「舐めるな……はああっ!!」
「なにっ!?」
発射の予兆を見たラーハルトは、手にした槍をすぐさま力一杯振り下ろす。空気すら切り裂くほどの振り下ろしは強烈な反動を伴う。ラーハルトはその反動に逆らうことなく身を任せた。
その結果――空中で逆さまの体勢となり、反動の勢いはそれだけでは飽き足らずにラーハルトの肉体をさらに上空へと押し上げ、光線砲から間一髪身を躱すことに成功する。
ミストバーンからすれば、ラーハルトが空中で再度跳躍をしたように見えたことだろう。予測出来ぬ動きに、ホロゴーストたちも動きが止まる。
「失せろ!」
天地逆となった景色を見ながら、ラーハルトは両手で槍をしっかりと握り直すと、そのまま一閃させた。その速度は振るう槍の影すら見えないほど。常人には、気がつけばラーハルトが槍を振り終えていたとしか分からないだろう。
凄まじいほどの速度で振るわれた槍は驚く程の圧を生み出し、広範囲に放たれる。その勢いは音を置き去りにするほどだった。音の壁を打ち破った一撃は、そのまま衝撃波となってホロゴーストたちへ襲いかかり、そのかりそめの命を食い破っていく。
それだけでは飽き足らず、鬼岩城へと食らいつくとその両目の部分を切断せんほどに深々と食い込んでいた。これではもはや光線砲を放つ事は不可能だろう。
「たしか
既に体勢を整え直し、重力に従いラーハルトは落下していく。見上げるその先では、ヒュンケルらと共に鍛えた際に覚えた技が、その威力を遺憾なく――いや、発案者たるアバンですら想像もしないほどの破壊力を振るっていた。
ヒュンケルとラーハルトの二人が稼いだ時は、戦場全体からすればほんの僅か。だが彼らの戦いのおかげで、チルノにとっては十分過ぎるほどの時間を稼ぐ事が出来た。最後の仕上げとばかりに、少女は目標を見つめる。
――相手が鬼岩城だし、このくらいは平気よね?
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、準備していた魔法を解き放った。
「【クェーサー】!」
それは彼女が以前使ったコメットの魔法に酷似していた。魔法の力によって天空に隕石が生み出され、鬼岩城へと激突し大打撃を与える。尤も、それだけならばコメットの魔法と違いはない。異なるのはその量だ。
今回生み出されたのは、瞬時には数えきれぬほどの量の隕石だった。その全てが、まるで行儀良く列に並ぶように、鬼岩城へ向けて猛然と襲いかかっていく。
「ぐ、ぬおおおっ!?!?」
ミストバーンの狼狽する声が鬼岩城から響き渡った。だがそれも当然のことだ。
たった一撃であってもバランの
鬼岩城が如何に魔界の技術を用いた堅牢さを誇ろうとも、無数の隕石の衝突を想定しているはずもなかった。
絶え間ない衝突によって鬼岩城全体が激しく揺れ、要塞部分の外壁すら次々に砕かれていく。外部に露出していた大砲の部分や、ホロゴーストたちが出撃する穴の部分は他と比べて一段階脆いらしく、見るも無惨な程に潰れていた。
無限にも思える隕石の激突によって鬼岩城の足は完全に止まり、ともすればその勢いに負けて今にも倒れそうだ。
「おお……さすがは大きな的ね……狙うのが楽でいいわ」
クェーサー――ようやく操れるようになった青魔法であったが、そのあまりの規模と破壊力は、想像を凌駕するほどのものだった。あれほど巨大な鬼岩城ですら、隕石が激突するたびにその身をよろけさせている。遠くから見ていることと相まって、それはどこか非現実的な光景のように感じられる。
同時に、それ以上が存在することを思い出し、思わず身震いする。
それはメテオと呼ばれる魔法――端的に言ってしまえばコメットの上位互換と考えて良い――であり、クェーサーと同じく無数の隕石にて敵を打ち倒すのだが、その威力はおそらく最高峰。クェーサーよりも広範囲かつ高威力を誇るだだろう。もはや個人に向けて放つような代物ではない。
――だけど、相手によっては……
その破壊力に見合うほどに消費も大きく、慣れぬ魔法を使ったことで強い疲労感を覚えながら、チルノは最悪の場合を想定し、その時が来たら使うことも辞さないことを決意する。
海中へと身を潜めたクロコダインは、その尻尾をくねらせながら泳いでいた。
元々彼の種族は
深く潜水し、彼には珍しく音も立てぬようにして鬼岩城へと忍び寄る。その動きは、地上よりもずっと素早く快活にさえ見える。筋骨隆々とした体躯に加えて重い鎧を着込んでいるにも関わらず、そんな影響など微塵も感じさせぬほどだ。
やがてクロコダインは、地上の激戦が嘘のようにすんなりと鬼岩城の足下近くまで辿り着いていた。とはいえそれは鍛え上げた怪力と、なによりも強靱な尾の存在あってのこと。それらが無ければ未だ泳ぎの途中か、はたまたこのようなことは考えもしなかっただろう。
「(この爆音は……!? いや、今こそ最大の好機!!)」
そしてもう一つは、彼の依頼通り鬼岩城が動きを止めていたことだ。もしも動き回っていれば強力な水流が巻き起こり、いかにクロコダインと言えども木の葉のように翻弄されていたことだろう。
突如として上空から響き渡る轟音を耳にした彼は、手近な岩礁へ尾を巻き付けた。
そして、完全に動きを止めた鬼岩城を前にして、彼は右腕の筋肉を肥大化させ、獣王会心撃を放つ。片腕から放たれた闘気流の渦は、海水をも巻き込んで眼前に位置する鬼岩城の左足を削っていく。
だが、それだけだ。削り取ってはゆくものの、これでは決定打にはなりえない。それは使い手であるクロコダイン本人が一番分かっていた。
――やはり、一つでは不可能か……ならば!!
不可能と悟るや否や、クロコダインはすぐさま左腕の筋肉を肥大化させた。右腕にも負けぬほどに力と闘気を蓄え、二つ目の獣王会心撃を放つ。だが、二つ目のそれは一つ目とは明確に異なる点があった。
それは渦の回転方向。一つ目とは逆回転の渦を放つと、二つの渦を激突させるように掌を捻り重ねる。
「(獣王激烈掌!!)」
さながら二つの闘気流による強烈な圧縮攻撃とでも言えば良いだろうか。重なる竜巻は海中に巨大な渦を巻き起こし、鬼岩城の左足をその半ばから一気に抉り取った。微細な砂粒にまで砕かれていく岩石の奥に、チルノの言葉通り魔法動力球があった。だがその球体すらも獣王激烈掌の渦は飲み込み、砕いていく。
前からの圧力に負けぬよう必死で堪えていたところで、片足が突然無くなればどうなるか。そんなものは、わざわざ考えるまでも無い。支えを失った鬼岩城は勢いに押されるまま、背中から倒れる。
「なっ!! う、うおおおおおぉぉっ!! 馬鹿なあああぁぁっ!!」
ミストバーンの悲鳴がパプニカに響き渡る。それは、思わず同情したくなるほどに悲痛な声だった。だが同情こそすれど、手を差し伸べる者は誰もいない。
鬼岩城の巨体は、海中へと沈む。
「海波斬!!」
ヒュンケルが剣を振るい、技の名の通り波を切断する。
「ふんっ!」
ラーハルトも同じようにして、沿岸部へと襲いかかる津波を切り裂いた。
鬼岩城は、高さだけでも優に百メートルを超えるほど巨大な移動要塞である。そんな物が海面を叩けば、当然強烈な波が生み出される。
二人はその被害を軽減させるべく、持てる技にて迎撃していた。
「【
その作業はチルノも同じだ。
いつぞや使った時には威力も範囲も小さく絞ったものだったが、今回は遠慮する必要もない。陸地へと襲いかかろうとする津波を相殺するようにして魔法の津波を生み出し、その被害を打ち消してみせた。
もしも彼女たちがいなければ、沿岸部分には多少なりとも被害が出ていたことだろう。
「すまん! 大丈夫だったか!!」
津波が静まった海面からクロコダインが顔を出した。非常に申し訳なさそうな顔をしており、この状況は彼に取っても誤算だったようだ。
「クロコダイン! まったく、この位は予期しておけ!」
「そうは言うがな、こちらもなかなか大変だったのだぞ」
「まあまあ……規格外の相手だったし、私達で被害も抑えられたから。このくらいは、ね?」
ラーハルトは余計な手間が増えたことに怒りを露わにするものの、チルノの取りなし言葉を耳にすると素直にその矛を引っ込める。
「出てこい、ミストバーン。よもやこの程度で死にはすまい?」
まるで凪のように静かになった海面へ油断なく視線を這わせながら、ヒュンケルは呟いた。
(残りの)やりたかったこと
・チルノさんの魔法、何を使おう……? 城相手だから大技の方が良いよね?
・原作ではポップにガスト。でもこっちに飛べるヤツがいない……あ、ラーハルトならいけますね? でも戦力が絶対足らないからホロゴーストも。あと海鳴閃を使わせる。
・クロコダインってワニ男だから、水中戦もある程度出来るよね? じゃあ、それで見せ場を作ろう。と思いついて鬼岩城の片足をぶち壊させました。
そして、鬼岩城について。
本文で書いた通り、手足は後付けなのが公式設定です。魔法で強度アップや圧縮して堅くしてあるでしょうが、元々は岩石です。ならクロコダインの全力で壊せぬ道理はないです。
(ブロックが船を担いで歩くような世界ですから)
次はヒュンケルさんの活躍。ミストバーンとの戦いですね。
……もう勇者いらないな……