(しかし内容は半分以上スルーしても問題無いという……)
何より、超が付くほどの独自設定が出てきますので……色々とご注意ください。
「大丈夫、全部話すから」
チルノが何故死の大地のことを知り、
「全部……って……?」
「どういうことだ?」
「その意味も含めて全部を説明するわ。それと、これから話す内容はとっても重大なことだから、
だがそう答えられても理解が追いつかず、むしろますます困惑するばかりだった。戸惑うマァムたちの言葉を聞きながら、チルノはそう尋ねる。
「う、うん」
「ああ」
「勿論、私も問題ないわ」
「何を言いたいのか、いまいち理解が追いつかんが、それは必要なのことなのだろう? ならば異論は無い」
「それを望むのでしたら」
「各国のお偉いさんと一緒ってのは、ちょっと緊張しそうだけどな」
殆ど何も話をしていないにもかかわらず、けれども彼女の事を信用しているのだろう。ダイたちはそう素直に頷いた。最後に付け加えられた、からかうようなポップの言葉を耳にして、全員の緊張がほんの少しだけ緩む。
ひょっとして、重くなりすぎないように配慮してくれたのだろうか? そんなことを考えながら、チルノは仲間たち全員に向けて深く頭を下げていた。
舞台は再び、パプニカ大礼拝堂へと移る。
先の
「まずは、諸王の皆様。私のワガママを聞いていただいて、ありがとうございます」
広間の最奥――つまりこの場の全員を見渡せる位置に立つと、開口一番、チルノはそう告げた。
「何か大切な話をしたいってことだけど? それって、あたしたちも……各国の王様たちも集める必要があるの?」
「まあまあレオナ姫、彼女の見識と知恵の深さは貴女もよく知っているでしょう?」
不思議がるレオナに向けてフローラは宥める様に言うと、彼女は当然とばかりに首肯する。
「だったら私たちを無意味に集めるわけではない、そうするだけの理由があるのでしょう。違いますか?」
「ええ、その通り。凄く大切な話です……だから、ずっと機会を窺っていました」
「ふむ……ではチルノや、そなたの話を聞かせてくれるか?」
「はい」
ロモス王シナナの柔らかな態度に微かな安らぎを覚えながら、チルノは口を開く。
「皆さんは、勇者アバンの伝説はご存じですよね? いえ、アバンの冒険でなくとも構いません。吟遊詩人が歌う
大事な話をすると聞かされていたのに、突然別の話をされる。そのことに少々肩すかしを食らったような感覚を味わいながらも、だが誰も口を挟まない。
「そういった話を聞いて『もしも自分がその話に登場していたならば、もっと上手に英雄を助けることが出来たのに』『もしも本の中に入ることが出来たら、この辛い結末をもっと幸せな未来に変えてやるのに』……そんな空想に耽ったことはありませんか?」
「ああ、ある……な」
「ガキの頃にやった勇者ごっこの延長線みたいなものか? まあ、それくらいなら誰でもあるだろ」
不意に問いかけられて、数名が口を開いた。特にポップなどは、小さな村に住む普通の少年だったために、共感の度合いは顕著だった。
そして――意外といっては失礼かもしれないが――ヒュンケルも、声には出さないものの大きく頷いていた。彼の場合、育ての親バルトスにヒュンケル――かつて魔界を牛耳ったという伝説の剣豪――の名を授けられたため、父から名付け元となったヒュンケルの逸話をねだったり、城内の魔物たちとごっこ遊びに興じていた過去がある。そして、勘違いからアバンのことを恨んでいた過去があるため、そういった想いには敏感だったのだ。
「話は変わりますが、先ほど
反応があったことに満足し、チルノは別の話を切り出す。
「南海にデルムリン島という孤島があり、そこは魔王の邪悪な意志から解放されたモンスターたちがひっそりと暮らす場所でした。ですがその島にはモンスターだけでなく、たった一人だけ、人間の少年も住んでいました。その少年が仲間たちと共に成長し、遂に大魔王を倒す……そんな物語です」
それはあらすじとしても端的すぎる内容だった。
だがそんな簡単な説明であっても、この場にいる誰もが何のことかを理解するには十分すぎた。
「えっ……? それってチルノたちのことでしょ? 大魔王は倒してはいないけれど……」
「まさか、もう勝った後のことを考えているのか? ワッハッハッ!! 気が早いというか頼もしいというべきか!!」
レオナが不思議そうに首を傾げ、そしてクロコダインはチルノの言ったことを、バーンを打倒してこの世界に平和を取り戻した後に伝えられる物語のことだと判断していた。
「いや、おっさん。ちょっと待った」
「ん? どうしたポップ?」
「おっさんだけじゃない、皆もだ。さっきのチルノの話、おかしいとは思わないか?」
「む……?」
そう聞き返され、クロコダインは思わず首を捻る。だが彼が口を開くよりも早く、シナナが叫んだ。
「わかったぞ! 先ほどの言い方ではダイだけで、チルノが出ておらん!!」
「そうよ! どうして『デルムリン島に一人の少年しか住んでいない』なんて表現を……?」
シナナの言葉でマァムも気付き、だが理解が追いつかないと言ったように考え込んだ。
「そもそも、急にこんな話を始めること自体がおかしいんだ。各国の代表を集め、全てを話すと言っておきながら、結論を言わずに別の事を話し始めた。ならば、この話に何か意味があると考えるべきだろう」
「つまり、先ほどの話もダイ様の名前だけでチルノ様の名が出ていない事にも何らかの意味がある……ということか?」
ラーハルトの言葉にヒュンケルは頷く。回りくどい言い方をしている以上、チルノに何らかの考えがあるのだろう。彼はそう判断していた。
そして、何か別の意味があるという観点を追加してチルノの言葉を思い返そうとして、唐突にポップが口を開く。
「な、なぁ……おれ、フッと荒唐無稽な答えが浮かんできたんだけどよ……これ、言っても良いのかな……?」
「ポップ君も? 実はあたしもそうなの……」
ポップが閃くとほぼ同時に、レオナも脳裏に一つの結論が浮かんでいた。
「……最初にチルノが言った話と合わせて考えると、嘘みたいなことしか浮かばないんだけど……でも、まさか……」
それはあまりに荒唐無稽な結論。常識で考えれば、まず有り得ないことだろう。
「うん。多分、レオナたちが考えていることで間違いないわ」
そんな荒唐無稽な結論をチルノは強く肯定してみせた。そして、その答えが間違ってないとばかりに更に材料を取り出してみせる。
「さっきの話だけど、タイトルは"ダイの大冒険"っていうの」
「えっ……おれ??」
突然出された自身の名前にダイは面食らう。彼の肩に乗っているゴメちゃんも、友の名が付いた題名を耳にしてか驚きを隠せずにいた。
「私は、その話がただの創作物として存在している……そんな世界からやってきて、物語の結末をもっと良くしてやろう……そう思っている人間です」
この世界に来てからこの事実を口にする機会が、チルノには数度あった。だが過去のそれらと比較しても、おそらくはこれが最も緊張する瞬間なのだろうと感じていた。
「遠回りな言い方になってしまったことは、ごめんなさい。でも皆に伝えるには。これが一番わかりやすいと思って」
そう言いながらチルノは頭を下げる。だが一世一代の告白を聞いてもこの場の全員は乾いた笑いにも似た、複雑な表情を浮かべるのが精一杯だった。だが彼らの気持ちの整理を待ち続ける時間すら彼女には惜しい。伝えるべき事は山ほどあるのだ。
「信じられない気持ちはわかるわ。でも、これは本当の話。何度も読み返した物語だからこそ、私は大魔王の本拠地の場所も名前も知っていたし、ロン・ベルクの名前も知っていたの」
「いや、いやいやいやいや! 冗談、だろ……?」
最も早く立ち直ったのはポップだった。彼は「有り得ない」と強調するように自身の顔の前で手を横に振りながら尋ねる。だが何度聞かれようとも、チルノの答えは変わらない。
「ううん、本当の話よ。さっき皆が推察した通り、物語の中でデルムリン島に住んでいるのはダイだけ。育ての親はブラスで、実の親はバランとソアラの二人だけ。あと家族と呼べるのはゴメちゃんと島のモンスターたちくらいで、チルノなんて名前の姉はいない……」
それは自己の否定にも似た言葉だった。誰よりも近くで、ダイを常に支え導いてきた少女の口から出たなど、とても信じられない言葉。
「でも、こう言ってもまだ信じられないわよね? だから――」
そう言って一人の王へと目を向ける。
「『賭けに勝利するコツは最後の瞬間まで勝利を疑わないこと』……でしたよね?」
「むっ……!」
「な、なんじゃそれは??」
シナナは何の事か分からず困惑し、だがクルテマッカはその言葉に大きく目を見開いた。
「……ワシの持論だ。それで代々の財産をさらに大きくしてきた、言うなれば必勝のコツと呼んでもよい」
「そ、そうなのですか!? ですが、そんなことは今まで聞いたことが……」
事実確認をするように、アキームが恐る恐る尋ねる。
「初耳なのも当然だろう。何しろ、今まで誰にも教えたことは無かったのだ。下手に口にすると御利益が落ちそうな気がしてな……しかしどうしてそれを知って……いや、知っていると、自身の口で言っていたな……」
誰も知らないはずの事実を知っていることに驚かされ、話の出所を尋ねようとする。だがすぐに自身でその答えを口にしてその言葉を引っ込めていた。
「勝手に公言してしまい、もうしわけありません」
「いや、かまわん。お主がその事実を知っているということは、おそらくはワシ自身が口にしたのだろうな。ならば、責めることもできん」
「……信じて、いただけるのですか?」
「信じろと言ったのは、お主の方であろう?」
クルテマッカの意外な反応に、今度はチルノが驚かされる番だった。だが彼は慌てる様子もなく、平然とそう言ってのけた。どうやらその事実を知っているということが彼の中では、相当な決め手となっていたようだ。
「なるほど、そういうことか。ようやく合点がいった。これは信じるしかないだろう」
「え……?」
二人の会話を聞きながら、今度はヒュンケルが納得したように頷く。その声にマァムが思わずそちらを見れば、彼もまた納得したような表情を浮かべていた。
「地底魔城に魂の貝殻が隠されているなど、オレは……いや、誰もが知らなかったはずだ。
仮にハドラーやバーンが知っていれば、真っ先に破壊していてもおかしくはないだろうからな。だがお前はあの時、それを持ってオレの前に現れた。それも、さして迷った様子も見せずに」
魂の貝殻には、ヒュンケルの父バルトスの最期の声が残されていた。それも、聞けばヒュンケルが反旗を翻しかねないほどの事実が込められているのだ。彼の言う通り、ハドラーたちが知っていれば、要らぬ禍根を断ち切るためにも真っ先に破壊しているだろう。だが現実にはそれが行われることが無かった。
いや、それどころか、そんな物があるなど誰も知らなかったのだ。
ヒュンケルが不死騎団長として地底魔城に本拠地を設けた時に、城内は調査されている。それ以前に、パプニカの調査部隊が入っていてもおかしくはないだろう。
もっと言うならば、ハドラーが倒れたのは今から十五年前だ。その時からチルノが入るまでの間、かつての魔王が根城としていた場所に一攫千金を夢見た命知らずの盗賊が足を踏み入れていないはずはない。
にも関わらず、今まで見つかっていない。それだけ難解な場所に隠されていながら、加えてチルノが潜入したときは不死騎団のモンスターたちも大勢いたのだ。だというのにあっさりと見つけてヒュンケルの前に持ってきた。
これを異常と言わずして、何が異常なのだろうか。
「それとテランでの竜騎衆の情報について教えられたときもそうだ。あの話を聞いていたからこそ、オレたちは多少なりとも楽に戦うことができた。どういうことか、ずっと気になってはいたのだ」
「ああっ!! そうだった、ずっとチルノに知ってた理由を聞こうと思ってたのに……」
ヒュンケルの言葉にポップも思い出したように声を上げる。同じことに気付いていたにも関わらず、今まで機会を逃し続けていたことに、悔しそうに唸る。だが、数秒唸り続けてから新しく気付いたように別のことを口にした。
「って、待てよ。なら、ダイが大地斬と海波斬を最初から知っていたのも……」
「うん……私が教えたの。素質があることは分かっていたし、修行の時間を可能な限り短くしたかったからね……」
記憶が連鎖して思い出されるように、アバンが家庭教師としてデルムリン島に来た時の記憶がポップの中に浮かぶ。となればその先にどうなるのかも、想像に難くない。
チルノは悲壮な様子でそれを肯定し、だが甘んじてそれを受けるためにも、次に繋がるであろうヒントを込めた言葉を口にした。
「修行の時間……ん? ……ってことは!!」
期待に違わずポップは聡明だったようだ。チルノのヒントの言葉を間違えることなく拾い上げ、気付いた瞬間に怒鳴り声を上げながら少女の胸ぐらを感情的に掴み上げる。
「チルノッ!! お前、どうして先生を見殺しにしたんだ!!」
「……ゥッ!」
――当然、そうなるわよね……
上背はポップの方が高く、魔法使いという職業といえども若者であり成人男性相応程度の腕力は持っている。強い力で締め上げられる苦しみを受けながら、だがこういった行動にでるのも当然だろうとチルノは心のどこかで達観したように感じていた。
「よせ! ポップ!!」
「やめて!!」
「なんでだヒュンケル!! マァム!!」
二人が慌てて声を上げる。
どちらかといえばお調子者の少年らしからぬ感情的な行動に、この場の全員が数秒間ほど呆気に取られていた。それに加えて、チルノが殆ど声を上げなかったのも大きかったのだろう。まるでそうなることが当然のように抵抗らしい抵抗も見せぬままにいたことが、彼らの気付きを遅らせていた。
「こいつは、アバン先生が死ぬとわかっていながら見捨てたんだぞ!! 本当に未来のことがわかっているのなら、どうして助けてくれなかった!? お前は、結末を変えようとしていたんじゃなかったのか!?」
「そ、それは……」
「先生がいれば、もっと犠牲は少なかったかもしれねぇ! マァムだってヒュンケルだってもっと救われたはずだ!! それにカール王国は先生の故郷だ! その人たちにお前は『お話でそうなっているから見捨てました』って本当に言えるのかよ!?」
ポップの言うことにも一理あると思ってしまったのだろう。マァムが言葉に詰まり手が止まる。だがそんなことは関係のない男が動く。
「チッ、これ以上は見てられん」
「ラーハルト!? てめぇ、離しやがれ!!」
「そういうわけにもいかん。これ以上はチルノ様に害を為すと判断した」
ラーハルトはチルノからポップを瞬く間に引き剥がすと、そのまま羽交い締めにして動きを封じる。なんとか脱出しようとするものの、地力の腕力が違いすぎるためビクともしない。
「けほっ……だ、大丈夫だから。ラーハルト、離してあげて」
「しかし!!」
まだ痛む胸元をさすり、少しばかり辛そうな表情を覗かせながらもチルノは告げる。
「大切な人と別れる未来を知っていたのに、それを阻止出来なかったら怒っても仕方ないわ。その感情は当然のことだから、私は甘んじて受け止める」
何でもない、当然事だと言ってのけるチルノの姿に、ラーハルトは拘束する力を少しだけ緩めていた。
「それに、ポップは自分のことだけで怒っているんじゃなくて、私達みんなの怒りを代弁してくれているんでしょう?」
「はぁ?」
突然有り得ないことを聞かされ、ポップの顔が困惑するように歪む。
「だってポップは、さっき自分のことよりもヒュンケルたちのことを口にしてた。それに、カール王国の人たちのことも。二人は優しいから、きっと怒りを飲み込んでしまう。フローラ様は立場があるから、感情的になることは難しい。そう思ったから、私にああやって詰め寄ったんでしょう?」
そう尋ねられて、ポップは力なく黙った。
それは果たして図星を付かれたからか、それとも
「それに本当は私だって、あの時に助けられるのなら助けたかった。でも先生は私たちの未来に賭けてくれた。ポップも覚えているでしょう?」
「ああ……忘れてねぇよ……」
苦い記憶ではあるが、だからこそ彼は忘れられない。ダイとチルノ、自分よりも年若い二人がアバンに並び戦おうとする姿を目にしていながら、何も出来ずにいた日のことを。思い出していくうちにポップの頭から怒りの感情は消え去り、同時に力も抜けていく。
「悪い、チルノ……おれ、頭が変になってたみたいだ。考えてみりゃ、お前はずっとおれたちを助けようとしてくれてたんだもんな。何より、あの時ハドラーを相手にして何も出来なかったおれが、お前を責める資格なんてねぇよ……」
何時の間にかラーハルトはポップから手を離していた。意気消沈したその姿を見て、もう大丈夫だと判断したのだ。俯きながら謝罪の言葉を口にする姿に、チルノは首を横に振った。
「ううん、そんなことはない。結局私は、先生がメガンテを使うのを止められなかったんだもの。ズルをしていたのに失敗していたら、怒っても当然だもの。覚悟はしていたし、気にしていないわ」
「ああ、悪いな……気を遣わせちまって……」
そう言いながら、彼女はポップを元気付けるように優しく声を掛ける。チルノの言葉にポップもまた、決まり悪そうな表情を見せながらもぎこちなく頷いて返す。
まだ本調子ではないものの、これで問題は無いだろう。そう判断したチルノは、ずっと心配していたもう一人の方を向く。
「それともう一人、謝らなきゃいけない人がいるの……ラーハルト」
「オレですか?」
まさか自分が槍玉に上げられるとは思っていなかったのだろう。意外そうな顔でチルノを見つめる。
「ええ……ううん、本当はバランに謝らなきゃいけないんだけど、ここにはいないから。だから、ラーハルトに判断を任せるわ」
そう前置きされ、ラーハルトは思わず息を呑んだ。それはつまり、バランの代役としてチルノの話を聞くということだ。
「バランから聞いたかしら? 私がバランにどうして信じてあげられなかったんだって文句を言ったことを」
「いえ、おおよそ程度でしか知りません」
その問いかけをラーハルトは首を横に振りながら否定する。バランから直接詳細に聞かされてもおらず、ヒュンケルたちとの会話からある程度は知っているものの、詳しく知っているかと聞かれれば答えは否だ。
「そう、だったらちゃんと話した方が良いわね――」
そう言うとチルノは、重く口を開いた。
話す内容はテランにてダイとバランが最初に邂逅したときの内容だ。少女は一言一句、丁寧にその時のことを思い出すようにしてラーハルトへと伝えていく。バランがどうしてダイの生存を信じて探し続けなかったのかを訴え続けたときの事を。
「――と言う具合よ。偉そうに説教していたけれど、結局のところは私はズルをしていただけ。信じ続けていれば出会えるってことをわかっていたから、大層な文句も言うことが出来たの」
やがて、全てを話し終えるとチルノはその全てを覆すようにそう告げる。今まで言ったことの全ては、自分が先の未来を知っているからこそ言えたのだと、自嘲するように。
「今すぐにバランの所に行って、この話をしてもいい。そうでなくても、その手の槍で私を突き殺しても文句は言わないわ。どんなに言い繕っても、私はただの嘘つきでしかないの」
そう言いながらラーハルトの前に無防備に立つ。だが、どのような結果になろうと受け入れようと決意の表情をしていた。バランに話をしたことは決して公平なことではないのだと訴えかけ、そしてそのバランの口添えによって仲間となったラーハルトにも、怒る資格はあるのだと。
「チルノ様……」
チルノの話にじっと耳を傾け続けていたラーハルトは、ようやくその重い口を開いた。待機状態となっている鎧の魔槍を握る手に力を込め――
「そのどちらも、お断りします」
彼ははっきりと断った。
「確かに、チルノ様は未来のことを知っていたからこそ、その言葉を言えたのかもしれません。ですが、あなたはダイ様を助けるために自身の命すら投げ打ち、見事記憶を取り戻させた。そんな方を、どうして手に掛けられましょうか? そしてもう一つ、貴方の知る物語の中にチルノという少女は登場しないと仰っていた。ということは、あの時の行動は物語に沿ったものではない、貴方だけの気持ちだったはずです」
青魔法"ゆうごう"の力により、ダイの消えたはずの記憶が甦った瞬間。その時のことを思い出しながら、ラーハルトは切々と語る。
人の想いの力が
それを見た時に、ラーハルトの心は決まっていた。どのような事情があろうと、そんな相手を今さら疑う事も無かった。
「あの光景を見た時、オレの心は動きました。あの時よりずっと、貴方こそダイ様の相手に相応しいと思っています。その気持ちは、今でも変わっていません。おそらく、バラン様も同じ考えでしょう」
忠誠を示すようにチルノの前に膝を突き、臣下の礼を見せる。
「あり……がとう……」
湧き上がる感情を必死で堪えながら、チルノはそう呟いた。
「でも、どうして今になって話をする気になったの?」
ラーハルトの忠誠の言葉を聞いてから、数分の時間が流れている。その短い時間であったものの、チルノは落ち着きを取り戻していた。ポップはまだ少々所在なさげな表情を見せているものの、話し合いに支障は無いだろう。
そう判断し、レオナは沈黙を打ち破るように口を開いた。
「元々このタイミングで話をする予定だったの。今なら多くの人に私のことを知って貰えるから。手間も省けるし、足並みも揃えやすいでしょ?」
「それはわかるけれど、でもどうせならもっと早くに……それこそポップ君の話じゃないけれど、アバン先生に師事したときに話をしていれば、よかったんじゃない?」
「うん、それが出来れば最良だったんだけどね……」
彼女の当然の疑問に、チルノは苦心したように答える。
「まず、私が未来を知っていると言っても信じて貰える? 今でこそ、レオナたちから重すぎるくらいの期待と信頼を受けているけれど、私は元々デルムリン島に住んでいた世間知らずな小娘だよ?」
これが彼女が伝えなかった第一の理由である。
突然そう告げられたとして、はたして信じる者がどれだけいるだろうか? 全く知らぬ人の話を信じる者など、皆無と言って良いだろう。
「仮にレオナと出会った頃の私が『この島の奥に向かうと魔のサソリが襲ってくる。それはテムジンとバロンがレオナを亡き者として王位簒奪をするためで、最終的にはキラーマシーンで襲ってくる』って言ったら、信じてた?」
「え、それは……」
どこか懐かしく、だが実際は一年も経過していない思い出を振り返る。
「最初は信じないと思うわ。でも実際に魔のサソリは現れるわけだし、そうなったらチルノの話を信じて、儀式を取りやめるなり、何か別の手段を講じてたんじゃないかしら?」
「うん、そうだよね。そういう『未来を知っている』という証拠があれば、信じようって気にもなるでしょ? だから、私はその証拠を積み重ねる必要があったの」
続けて、第二の理由を口にする。
「でも、もしもレオナが別の動きをすれば、テムジンたちもきっと別の動きをするはず。だから、可能な限り状況を変化させたくなかったの」
「え、えと……? どういうこと??」
「なるほど、わかりましたよチルノ。貴方が言いたいのは、未来の知識と現在の状況との間に可能な限り齟齬を無くしたい――ということですね?」
説明に混乱するレオナの思考を導くように、フローラが口を開いた。
「未来の知識と現在の状況、この二つが一致していればいるほど、あなたの知っている展開となりやすい……もっと言えば、状況をコントロールしやすくなる。違いますか?」
「いえ、仰る通りです」
さすがは見識に長けて経験も多いカールの女王である。この世界の人間では馴染みの薄い考えであろうことを、あっさりと看破し分かり易い表現へと変えてみせた。
「私の知る物語では、最終的に勝利してこそいるものの、常にギリギリの戦いの連続でした。どこか一つ歯車がズレただけでも、敗北してしまうのではないかと思うほどの。そんな時に、私が未来を知っていることが知られたらどうでしょう?」
チルノはそう、皆へと問いかける。
「未来を知っている者がいる。ならば、必勝の策と看破されるのではないか? ならばもっと別の策を考え、別の力を使い、別の時期に実行しよう……こうなっていくと、私の知識は役立たずになります」
未来は決まっているものではない。
チルノが知っている知識も、あくまで『この道をまっすぐ進めばどうなるか』がわかっているだけだ。小さな変化でも積み重ねていくことで、大きな変革を齎す可能性もある。
「さっきのテムジンたちの話も、下手をしたら失敗を悟って証拠を隠蔽されていたかもしれない。そうなればパプニカは獅子身中の虫を常に手元に置くことになる。最悪を想定すれば、キラーマシーンをパプニカの王宮で暴れさせて強引に王権を奪っていた可能性だってあったかもしれない」
そう言われて、レオナは渋面を見せた。
まあ、二人の元々の狙いを考えればその可能性は限りなく低いだろうし、そうやって無理矢理に簒奪したとしても末路は国際的なお尋ね者だろう。だが追い詰められば、そうやって馬鹿をやる可能性は十二分にある。
功を焦りすぎれば、短絡的な行動を取るのは誰でも同じだ。ましてやそれが、相手に未来を知る者がいるとしられれば、どのような手段も不可能と判断されかねない。あくまで自分の作戦が水際で止められている程度に見せかけた方がずっと楽なのだ。
「だから秘密が漏れることも防ぐ意味もあって、今までずっと黙ってきました。このことを知っているのは、デルムリン島ではおじいちゃんだけ。ホルキア大陸では、マトリフさんだけです」
「その二人には、話をしていたのか」
「だから師匠はあんな無茶な特訓させたのかね……?」
そう告げる胸の中で、チルノはこっそりと謝っていた。
アバンのことは意図的に伏せていた。なにしろ彼は、大魔王バーンですら恐れていた地上世界随一の切れ者である。その生存を可能な限り隠匿しておくのは、取って置きの切り札の一つとなりえるからだ。
確かに
それに彼女の推測が正しければ、アバンは今はギルドメイン大陸にいる。よって、嘘は吐いていない。そもそも今までの発言でも、彼が死んだなどとは一言も口にしていない。
「結果的に、見捨てることになってしまいました。謝って済む問題ではないですが、バウスン将軍には――いえ、
アバンの事を隠したという後ろめたさを隠すように、続いてチルノはバウスンへと頭を下げる。急に話題を向けられ、バウスンは戸惑う様子を見せる。
「いや、お話はよくわかった。だが、例えそなたが我が国にやってきて、魔王軍が攻めてくると忠告したとしても、当時では信じる者はいなかっただろう。仮に信じたとしても我が国を襲ったのは超竜軍団だ。果たしてどこまで防ぎ切れたことか……」
それでもバウスンは冷静に、もしもの場合を考え、そして現実的な考えを口にしていた。この辺りは流石、滅んだとはいえ大国の将軍といえるだろう。
「だが、それら痛みを乗り越えて世界は一つとなろうとしている。その結果に向けて、そなたが頑張って来たことも教えてもらったつもりだ。ならば、どうかお願いしたい。その知識と経験を活用して、どうか世界に平和を齎して欲しい。そのためならば、命を落とした民たちも浮かばれるはずだ」
――何を勝手なことを言っているのかと、死した者たちからは言われそうだがな。と自嘲するような物言いをバウスンは自身の言葉の最後に付け加えた。
だがそれだけでも、チルノからすれば肩の荷が下りた気分だった。少し未来を知っているだけで、万能の活躍など出来るはずもない。恨み言の百や千を言われても仕方ないとすら覚悟していた。
「そう言っていただけると、幸いです……それと――」
万感の思いと共にそう口にする。
続いてカール王国の二人――フローラとホルキンスに声を掛けようとして、だが彼女は戸惑う。フローラはまだしも、ホルキンスは本来の歴史ではバランの手で瞬く間に倒されている。そんな事実を今の彼に告げるのは、野暮以外の何物でもないだろう。
「……それと?」
「ううん、何でもないの」
だから彼女は首を横に振った。
全ての真実を知らせることが最良とは限らないからだ。ただ、それとなくフローラに告げておこう。とそれだけは心に刻んでおく。
「今お話をしたように、私は自分の知識のことを可能な限り隠してきました。ですが、これから先の戦いはさらに激しさを増します。私一人で状況をコントロールするのも限界に近いはず。だから皆さんに未来の事をお話しました」
そして彼女は最後にそう告げる。
「ダイはオリハルコン製の剣を手に入れて、人々は互いに協力することの大切さを改めて学びました。このときならきっと、自分が知る未来とは異なることが起きても大丈夫だと思いました。どうか、皆さんの力を貸してください」
そう言って彼女はもう何度目かになる頭を下げる。その行動に対して、一行は当然だと言わんばかりに頷いて見せた。
「では、これから先が本来ならばどうなっていたのか。それをお話します」
全員の反応を確認してから、チルノはそう切り出した。ある程度は知っていた方が、対処もしやすいはず。そう考えてのことだ。そのため自身の知る本来の歴史のこれから、直近の出来事について、差異の生まれた点を交えて説明していく。
曰く――
本来ならば、鬼岩城の討伐にはポップとマァムも参加していたこと。そして城そのものはダイがオリハルコンの剣で倒していたこと。
キルバーンの挑発を聞き、ポップが先走っていたこと。それを追ってダイも死の大地へと向かい、死神の罠からポップを救ったこと。
そこに超魔生物となったハドラーが現れ、ダイとハドラーの戦いは痛み分けとなったこと。
ハドラーは超魔生物となりダイに匹敵するほどの力を得たことでバーンに再評価され、オリハルコン製のチェスの駒を貰ったこと。その駒に禁呪法を使い生み出した無敵の親衛隊員を手に入れたこと。
人々はカールのサババで死の大地へ渡る大型船を建造していたところ、親衛騎団が襲ってくる。その目的は死の大地へやってくる人間のふるいを掛けること。ダイたちはオリハルコンの騎士団と戦い、一旦引き分けにまで持ち込んだこと。
「――と言ったところかしら。これ以降もあるんだけれど、まずはこんなところね」
そこまで話をしたところで、チルノは一旦話を区切る。だが、話を聞いた者達の反応は様々だった。
多くは、ハドラーが超魔生物と化してまで勝利を求めようとする執念に驚く者と、オリハルコンの兵士という言葉に悲観的になる者が大半だった。尤も中には、本来の歴史では焦って飛び出していたところ冷静に堪えたことに感心する者もいたが。
「つまり、超魔生物になったハドラーと親衛騎団……それが当面の敵と考えて良いのかしら?」
「ええ、あくまで台本通りなら。という注意書きは付くけれどね」
マァムの言葉にチルノは但し書きがあることを告げる。
「ダイもポップもこの場にいるから、ハドラーはいつ出てくるのか? いえ、そもそもそれ以前に、ハドラーは生きているのかすら視野に入れた方がいいかもしれないわね」
「どういうことだ?」
クロコダインの上げた疑問の声も、当然だった。何しろチルノはその部分について説明をしていないのだから。彼女以外に誰にも理由がわかるはずも無い。
「ごめんなさい、その説明が抜けていたわね」
そして今度は、ハドラーがダイが
そのことをバーンに知られ、後が無くなったことを。
本来ならばテランでバランとの決着を付けた後、夜襲を仕掛けてでもダイたちを抹殺しようとしていたが、たまたま現れたマトリフと警護役だったポップの二人によって阻止され、瀕死の重傷となることを。
アバンの使徒を脅威と見なして、勝利のために超魔生物となる決意をしたことを。超魔生物の身で呪文を使うため、魔族の肉体を――明日をも捨てたことまでを告げる。
「少し駆け足だったかもしれないけれど、これがその理由。でもこの世界では、ハドラーは夜襲を仕掛けてこなかった……それどころか、何の動きも見せずにいる。予定通りに超魔生物へと生まれ変わっているのか、バーンに見捨てられて既に命を落としているのか。それとも、全くわからない第三の道を歩んでいるのか……」
「なるほど。その沈黙が、未来を知るチルノにしてみれば他の人間よりもずっと恐ろしいということか」
クロコダインの言葉に少女は頷いた。
「でも、可能性としてはまだ生きていると思った方が良いはずよ。ハドラーがどれだけ失態を見せても、バーンはまだこの程度では失望しないはず。ハドラーを追い込んで、生まれ変わるかも知れないとどこか期待していたから」
「ふむ……ザボエラが超魔生物の研究をしていることは知っていた。となれば、一足早く決意した可能性も高いのか? だが、そう決意させるだけの理由がどこかにあったはずだ……魔族の肉体をも捨てさせるだけの何かが……」
元魔王軍としてハドラーの事を知っているからだろう。ヒュンケルもクロコダインに並び、頭を捻り出す。何か見落としはなかったかと、頭を捻り続けるものの、妙案は何も浮かばなかった。
「そこは私も気になるけれど、でも一旦忘れて貰って良いかしら?」
難しい顔をする戦士二人に声を掛ける。本当ならばチルノもその話し合いに参加して、可能な限り可能性の模索と対策を立てておきたいのだが、そういうわけにも行かない理由があった。
「これから、大魔王バーンの目的と秘密について話すわ……」
そう告げた途端、室内の空気が一気に引き締まった。敵の総大将について、人々はその名前程度しか知らないのだ。元々魔王軍にいたヒュンケルたちですら、知っていることは皆無に近いだろう。
その謎が白日の下に晒されるとなれば、自然とこうもなろう。
「でも、正直に言ってスケールが大きすぎるの。もしかしたら、聞いただけで戦意を喪失しかねない。だから、この話を聞くには相応の覚悟が必要よ。絶対に諦めないっていう強い覚悟が……」
事実、これから話す内容はこの世界に住まう人々にとっては途方も無い事だ。そしてその途方も無いことを実現するだけの力をバーンは持っている。だからこそ、話を聞いても折れぬだけの精神を持っているかとチルノは尋ねる。
幸いなことに誰一人として席を立つ者はいなかった。全員が全員、この場にいる以上は地上を守る戦いの最前線にいると言うことを理解している証拠だろう。
「もう後戻りは出来ないわよ……まずは、大魔王バーンの正体から」
心強い味方の姿に胸を打たれながら、チルノは口を開いた。
「と言っても、クロコダインたちは知っているでしょう? 薄布の向こうにシルエットだけが浮かぶその姿を」
「そうだな。だが、薄布一枚隔てた先からも、強烈な圧が伝わってきたぞ」
「どのような化け物がいるのかと、興味は尽きなかったが……」
二人はかつて鬼岩城で顔を合わせた時のことを思い出し、それぞれ感想を口にする。言い方は色々あれど、正体不明だが相当な実力者だろうと言うことだけはヒシヒシと感じていたことだけは共通している。
「期待しているところ悪いかもしれないけれど、バーンの姿は老人よ。一言で表すなら、威厳のあるお爺さん。頭の左右から角を生やした白髪に白髭の魔族の老人なの。何しろ数千年以上の時を生きているんだから」
「老人? じーさんってわけかよ? なんだか拍子抜けだな」
少し話している間に元の調子を取り戻したのだろう、ポップがバーンの姿を想像してか気楽そうに声を上げる。
「ううん、その逆よ。老人なのに、当時のヒュンケルたちが萎縮するほどの強さを持っているの。魔界の神と名乗るだけあって内在する魔法力は天界の神々すら敵わないほどに強力よ……そうね――」
これは果たして言うべきだろうか? とチルノは一瞬言葉に詰まる。言えば多くの人間を絶望に招いてしまうかもしれない。だが、事前に言っておけば対処の仕方も思いつくはずだ。そう覚悟して続く言葉を口にする。
「――ポップはメラゾーマの呪文に自信があるでしょ?」
「ん? まあ自慢じゃねぇが、師匠にかなり鍛えられたからな。それがどうかしたのかい?」
「……そのメラゾーマの火球を、大魔王はメラの呪文で上回るの」
「いくらなんでも、そりゃ嘘だろ……?」
信じたくないと言うように問いただすが、チルノは否定するように首を横に振るだけだ。
メラ系の呪文は、火の玉を撃ち出す最もシンプルな攻撃呪文だ。その最下級と最上級の呪文とが衝突すればメラゾーマの方が勝つ。子供でも答えられる単純な結末の筈だ。
「本当よ。メラゾーマの火球とメラの火球がぶつかり合って、大爆発を起こす。それでもバーンのメラはなお健在のまま。これが大魔王の持つ超魔力よ」
だが大魔王が放つ呪文は、その単純な結末を容易に覆す。子供でも知っている事実を否定するほどの事例を語られただけに、それを聞いた一行の絶望感はいかほどだろうか。
「でもポップの言うこともあながち間違いじゃない。老人だけあって、体力や生命力は魔法力と比べて劣るわ――"光魔の杖"を使われなければね」
「光魔の杖……?」
「"理力の杖"は皆さん知っていますよね? 使用者の魔法力を吸い上げて打撃力に変える、非力な魔法使いや僧侶のための武器。原理はそれと同じです。ただ、光魔の杖にはその上限がないんです」
そう言われても、どうやら理解が追いつかないようだ。それは聞いた人々の曇った表情を見れば一目瞭然だった。いや、理解が追いつかないというよりも、具体的な強さが想像し難いという方が正確だろう。
「もっと分かり易く言いましょうか? 水鉄砲は皆さんご存じですよね? 水を吸い上げて、発射する子供のオモチャです。あれを理力の杖だと思ってください」
だからチルノは、己が思いつく限り最もシンプルな表現を語る。
「その水鉄砲が、水と言う名の魔法力を際限なく吸い上げることができたら? 吸い上げた水を全て撃ち出したらどうでしょう? バーンの持つ魔法力は海水のように底知れません。そこから吸い上げた大量の水を津波のように撃ち出せる……それだけの攻撃力を生み出すのが光魔の杖です」
今度ははっきりと、全員の顔が青ざめていくのがわかった。だが、この光魔の杖すら前哨戦に過ぎないことを語らなければならない。気が重くなることを実感しながらも、チルノは言葉を止めることは無かった。
「でも、この光魔の杖すらバーンにしてみれば護身用の武器。体力が落ちている老人が肉体技術で遅れを取らないための装備でしかないんです」
「ねぇ……話を聞けば聞くほど、大魔王に勝てそうにないんだけど……本当に勝てるの……?」
そこまで聞いて遂に根が尽きかけたのか、レオナが恐る恐る手を上げながら聞いてくる。その反応は至極当然だろう。何も知らなければ、絶望してこの場から逃げていてもおかしくないはずだ。それでも希望を失わずにいるのは、チルノが持つ未来の知識を信じていることに他ならない。
「ええ。だから、バーンが光魔の杖を使う前に――もっと言えば、
「本気?」
「ミストバーンの名前に違和感を感じたことはない? 総大将バーンの名を与えられている以上、特別な存在であることは想像に難くない」
良くある例としては、親の名から一文字取って子供に名付ける。だろう。他にも、君主の名を冠した物品を下賜されるなどだろうか。そこには特別な意味がある。
「でも彼はバーンの名前に、
「どういうことだ? 影武者、とかか?」
「結論から言うわね。大魔王バーンは、限りなく永遠に近い生命を得るために、自分の肉体を二つに分けたの。叡智と魔力を残した老人の身体と、若さと力を持ったもう一つの身体の二つにね」
「なんと……!!」
「そして分離させた肉体には、凍れる時間の秘法という秘術を使ったわ」
話を聞き驚きを見せるが、これだけで話は終わらない。続く凍れる時間の秘法という言葉に、フローラが僅かに反応を見せた。
「これはあらゆる外部の影響を遮断するの。僅かな例外を除けば、どんな攻撃も呪文も影響を受けず、それどころか時間の影響すら受けない。秘法が使われた時の姿のまま――若いままの姿でずっといられるの」
凍れる時間の秘法という物の存在すら、知ってる者は皆無に近い。そこに大魔王が肉体を分けるとなれば、もはや話についていくだけでも精一杯なのだろう。
「そしていざという時には、二人のバーンが一人になるの。知恵と魔力、若さと力を兼ね備えた最強の存在になって敵を迎え撃つ」
「それが、バーンの本気……」
「ならばその若い肉体を今のうちに探しだし、封印すればいいのでは?」
「それも不可能です」
ホルキンスが妙案を思いついたとばかりに口にするが、チルノはすぐに否定する。
「正確には"探す必要がない"そして"簡単には出来ない"というのが正しいですね」
「む? どういうことですか?」
「若いバーンの肉体の場所は、私たち全員が知っています」
さながら謎かけのようなチルノの言葉。だが、その言葉にヒュンケルは目敏く反応してみせた。ここまでヒントが揃っていることもあるにせよ、流石は教えを受けた身というところだろうか。
「まさか、ミストバーンの正体とは……!?」
「ええ、秘法で凍っているバーンの肉体を覆い隠す黒い霧。それこそが本当のミストバーン。その正体は魔界の暗黒闘気の集合体が命を持った存在なの」
「暗黒闘気が、命を……?」
「人の様な姿形をしているのは、若いバーンの肉体が骨格のようになっているから。そこに筋肉のようにミストバーンが覆っているの。そしていざという時には、バーンの肉体に入り込み、敵を倒すことを許可されている」
「まさか、ありえません!!」
そこまで話を聞き、フローラが叫んだ。
「凍れる時間の秘法は外部からの影響を受けません! それをどうやって肉体を操るんですか!?」
かつて凍れる時間の秘法はアバンがハドラーを封じるために使ったことがある。その時は術者の力量不足もあって二人とも時間が止まったままだったのだが、そこからなんとかアバンだけを助けようとカール王国が試みなかったはずはない。
その時の苦い経験が今の疑問を生んでいるのだろう。
「それは、ミストバーンの持つ特殊な能力が原因です。暗黒闘気の集合体のため、生身の肉体を持たず、その代わりに他者の肉体に憑依して操る事が出来ます。その能力に加えて身体全てが暗黒闘気という特性、バーン自身も暗黒闘気の使い手という三つの要素が重なって、不可能を可能にしているんだと思います……」
この辺りは、本来の歴史でも曖昧な部分が残ったままである。そのためチルノは推論を交えつつ説明を行った。
「ミストバーンが無口だったのもそれが一因か?」
「そうか! 下手に喋れば同一人物だと気付く者が現れるかもしれない!!」
「だろうな。だがバーンが黙るわけにはいかない。ならば影が黙るしかない」
元魔王軍に属していた二人はやはり理解が早い。チルノが説明せずとも、補足するように言葉を交わすその姿に、彼女は少しだけ感謝する。
「話が長くなりましたが、結論を言わせていただきます――バーンは真の姿という奥の手を隠している。けれど、若さを失うためその手段は可能な限り取りたくはない」
バーンの強さを一通り語り終えた少女は、最後とばかりに自身の考えを口にする。
「逆に言えば、ミストバーンを倒せばバーンの若い肉体は無防備になる。老人のバーンの方は可能な限り準備を整えて対策を講じれば、ギリギリ勝利は出来るはず……」
はず、と言う言葉を使ったのは彼女の自信のなさの現れでもあった。
「相手が私達を侮って全力を出さずに、猫がネズミを甚振って殺すような真似をしている間に、勝利をもぎ取るしかないと、私は考えています……」
「なるほど。追い詰められたネズミは獅子よりも凶暴ですからね。その恐ろしさをたっぷりと教えればいいわけか」
ネズミと言う言葉が出来たからかチウが得意げに口を挟む。
――そんな
全員の心が一致した瞬間だった……
「と、とにかく」
場の空気を取り戻すかのように、チルノは大慌てで言う。
「これがバーンの正体。そして最後に、バーンの目的についてお話します」
「それこそ、私達を殺して地上を征服するんじゃないの? ミストバーンも言っていたじゃない」
「ああ、オレたちもそう聞いている」
レオナとヒュンケルがそう口にする。
「ううん、それは過程でしかないの。本当の目的はもっと別にあるわ。真の目的は、魔界に太陽の光を差し込ませること」
そう言うとチルノは、指を下に向ける。丁度地面を指し示す仕草に、数名が意味がわからないといった顔をする。
「魔界は地上世界から地下深くにある。でも目的を達成するには、地上世界が邪魔。だから、地上の大地全てを吹き飛ばしてそれを実現しようと考えているの……それが、真の目的よ。大魔王軍やハドラーの復活も、もっと言えば私達の抵抗も全部、片手間の余興みたいなものでしかないの」
そう言われて、本日何度目かとなる絶望感にも似た何かが一帯を支配した。
家の日当たりが悪いからと言って、屋根を破壊する馬鹿などいないように、そんなことをすれば地上はおろか魔界もただでは済まないはずだ。だがその馬鹿を大魔王は本気で実行しようとしている。
これに無力感を感じない者などそうそういないだろう。
「勿論それは阻止するつもりですし、実現には大がかりな手順が必要です。防ぐ手立てはあります。これには諸王の皆様の協力が必要で……」
「無論じゃよ!」
「ああ、何をすればよい? 費用は全て我がベンガーナが出そう」
「私も微力なれどお助けしましょう」
「ワシの知識が少しでも役に立つのなら、この老骨にいくらでも鞭を打とう」
「当然、カールも協力を惜しみません。世界の危機なのですから」
遠慮がちに言った言葉ではあったが、だがその言葉に各国代表者たちは予想以上に食いつきを見せた。皆、世界の危機という事実とそれから逃れるための方法ということもあってか意気込みが違う。
「それならば、部下や知り合いの魔法使いにヒャド系呪文の特訓と、ルーラで移動できる範囲を可能な限り広げるようにお願いできますか?」
「どういうことじゃ?」
「地上の破壊に、バーンは黒の
「黒の
耳慣れぬ言葉に、だがテラン王フォルケンは弱りつつある身体の事も忘れるほど大声で叫んだ。
「ご存じなのですか?」
「うむ。禁呪法よりも恐ろしい、魔界の爆弾と聞いたことがある。大きな物ならば、大陸一つを沈めるほどの威力を持つとか……」
「さすがはテラン王、博識ですね。その通りです」
チルノの知らぬフォルケンの知識量の片鱗を見せつけられ、少女は小さく唸る。伝承などに詳しいとは聞いていたが、
「ロモス・オーザム・リンガイア・パプニカ・バルジ島・カールの計六つに、黒の
「では、先の話はそれを防ぐ方法なのですか?」
その言葉にチルノは首肯する。
「そうです。黒の
「なるほど、それを行うためのヒャドとルーラですか」
「はい。ただ、タイミングが重要なのです。計画では、まず世界中に五つの爆弾を設置。そして最後の六つ目を設置すると同時に、全ての爆弾に仕掛けられた時限装置が作動して、六分後に同時爆発を起こします。ですから、この六分の猶予の間に全てを凍らせます」
そこまで聞いて、当然の疑問のように三賢者のエイミが口を挟む。
「だったら、その五つを予め凍らせておけば余裕が生まれるのでは……?」
「いえ、それをバーンが許すとは思えません。私達はバーンが黒の
「……どういうことですか?」
エイミに続き、今度はマリンが質問する。
「下手に動けば、黒の
「なるほど。確かにそうですね」
「それと同じように、今まで私がお話をした内容も全て、実際に体験したときには初めて見聞きしたように反応するように心がけてください」
「……そうしなければ、黒の
アポロの言葉にチルノはゆっくりと大きく頷いた。
チルノが多くの人々に秘密を公開することを後回しにしていた理由の一つがそれである。知る者が多くなれば、それだけボロを出す確率も上がる。特にバーンという絶対強者がいるこの世界では、どんなミスが引き金となるかもわからない。それを回避するためにも、情報は可能な限り隠匿しておきたかった。
「聞いたあなたたち!? チルノの苦労を無駄にするんじゃないわよ!! 特にアポロ! マリン! エイミ! もしも黒の
それを合図としたかのように、レオナが威勢良く口を開いた。投げかけられる言葉は、おそらく最前線で闘うことになるだろうアバンの使徒たちへの注意と引き締めのため。そして、万が一のための準備を怠らせないための言葉である。
一国の頂点に立つ者として、アバンの使徒たちを導くリーダーとしての現れのようだった。
「最後に、自分のことを少し話しておくわね」
「自分のこと?」
チルノの言葉の意味が掴めず、レオナが頭上に疑問符を浮かべる。
「レオナだって最初は驚いていたでしょ? 私はメラもホイミも契約できない。でも、その代わりに不思議な力が使えるって。その理由についてよ」
「ああっ! そういえばそうだったわね。もうあまりにも当然のように使っていたから、気にならなくなってたわ……」
かつてデルムリン島で初めて会ったときのことを思い出して、レオナは郷愁を覚える。あの時はあれほど気になっていたことがもはや欠片すら疑問に思わなくなっているのは、チルノへの信頼の証でもあり、同時に人間はどんな異質な事であっても自分たちに便利な事ならば慣れていくということでもあった。
「でも、理由とは言ったけれど推測に近いから……知りたくないから、これは黙ったままにしておくけれど……どうする? やっぱりやめておいた方が良い?」
「ううん、聞かせてちょうだい。それにここまで来て黙っているのはズルいわよ。気になって夜に眠れなくなっちゃう」
確かに、バーン打倒に関してだけ言えば直接聞く必要は無いかもしれない。だがもはや、チルノが知りえる知識について全員が興味を持っている。レオナの言葉がなくても、誰しもが聞きたいと答えただろう。
「それじゃあ、話をするわね……と言っても、さっきも言ったけれど推測混じり。後になればなるほど但し書きが多くなるから、そこだけは覚悟しておいて?」
ある意味では全員の目が今日一番強く注がれる中、チルノは自身の事について語り始める。
「前にも言ったけれど、私はこの世界の出来事が物語として存在している世界から来たの。でもその世界には物語はそれ一つだけじゃない。他にももっとたくさんの物語があって、私が使っているのはその中の一つ、とある別の物語の中で使われている呪文なの」
その物語の中では魔法と呼ばれている、この世界のメラやヒャドとは全く大系の違う呪文なんだけれどね。と付け足す。だがそこにポップが口を挟んだ。
「……ん? なんでそんな面倒なことをしてるんだ? 呪文なんて統一した方が楽だし分かり易いだろ?」
彼が疑問として言いたかったのは、火炎を扱う呪文ならばメラ系で。治癒の呪文ならばホイミ系で統一すれば一目瞭然だろうということだった。実際に呪文という異能の技術が存在している世界だからこその認識といえるだろう。
「それはね、私のいた世界に呪文なんて存在していないからなの」
だがチルノのいた世界にそんな物は存在しない。存在しないからこそ、各人が自由に想像する余地が残されているとも言える。その結果が、作品毎に異なった呪文が生み出される一因なのだろう――権利関係とかそういった部分もあるだろうが、それは今言うことでは無い。
「モンスターもいなければ、魔王軍も存在しない。その代わり科学技術がすごく発達していて、例えば馬よりも早く動く鉄の箱に乗って移動したりしてるわ」
「鉄の箱……?」
「えーっと……」
「上手く想像が出来んな……」
「まあ、その話は置いておきましょう」
ある意味で今日一番頭を悩ませる仲間たちの姿に苦笑しながら、チルノは話を進める。
「それで、別の作品――ううん、異世界って言わせて貰うわね。その異世界の力を、私は使えるの。武器を加工していたり、
「異世界って凄いのね……自分の常識がおかしくなりそう……」
「常識がおかしくなっているのは、多分私が一番影響を受けているわね。だって、どうしてこんな力を使えるのか、自分でもさっぱりわからないんだから」
「わからない?」
「自分でも?」
「うん、そうよ。そもそも使えるって気付いたこと自体が偶然なの。だって自分の知っている物語の世界に来ているのよ? なら、その世界の呪文――つまり、メラやホイミを使えるって考えるのが自然でしょう? 異世界の力を使おうって発想が不自然、使えてしまうのははっきり言って異常よ」
極端に言えば、魚の世界に鳥の世界の常識を適用するようなものだろうか。ましてやその常識が現実に通用するなど、よく知っているからこそ逆に考えにくい。
「確かにそうね……」
「じゃあ、なんで使えるんだ?」
多分、会社が合併したからじゃないですかね? と言えればどれだけ楽だろうか。多分、口が裂けてもこれは言えない。
「……ここから先は推測だけよ。確証は何にもない、ただ私が知っている知識から推測しただけで、実際には絵空事かもしれない理由」
そもそもそんな不確かな理由で使えるようになるなど、信じられない。だから彼女は、自分の知り得る知識と現在の状況から、とある仮説を生み出していた。
「まず、私がこの世界に来た理由――それは多分、天界の精霊の仕業だと思うの」
そう言いながらチルノは少しだけ上を向く。とはいえ室内のため見えるのは天井だけしかないのだが、彼女が見ようとしているのはその先――天空に存在すると言われている天界だった。
天界には精霊たちが住まい、彼らは武力を持たない代わりに不思議な力を使うと言われている。かつてバランが魔界で冥竜王ヴェルザーを倒した際に魂を封じることで復活を阻止するなどを行っている。
「精霊が神に交渉して私を、正確には私の魂を連れてきたんじゃないかって思っているわ」
といっても、この世界とチルノの魂が元々存在していた世界は同一ではない。となれば、直接この世界に呼び寄せたというよりも、それぞれの世界の神々が何らかの交渉など行って連れてきたと考える方が自然だろうが。
「でも、何のために?」
「さっきも言った通り、バーンが強くなりすぎたから。それが原因だと思う」
本来の歴史でも
「おそらくだけど、この世界だけではバーンよりも強力な存在を生み出すことはできなかった――いえ、たっぷりと時間を掛ければ不可能ではないかもしれないけれど、それだけの時間を使えばバーンもより厄介になる」
だが
「だから、それを解決する方法を私に求めたんだと思う。この世界の本来の歴史という知識を持っていて、異世界の力という禁忌の操れる存在を」
だから、自分たちで解決できないので他者の力を借りる。そんな当たり前の行動を取ったのではないかと考えた。
「でも異なる世界の力を使う存在を招き入れるなんて、普通は許されることじゃない。逆に言うならば、それすら許容するだけの理由があった」
「だからそれは、バーンの力が強くなったからだろ?」
至極真っ当な意見のように聞こえるが、チルノはそれを否定する。その理由が正しければもっと早くに。バランがヴェルザーを討伐した頃にはバーンの恐ろしさもとっくに気付いていたはずだ。
「ううん、そうじゃないと思う。強くなったと感じても、実害は出ていないんだもの。極端な話、この地上世界に大魔王が姿を現したときに、バーンが何もしなかったらどうだったかしら?」
世界各地に大きなキズを受けて、ようやく人間たちは一丸となることを学んだ。だが危険な相手でも手を出してこなければ、果たしてどうだっただろうか。
「圧倒的な力を持っていても、何もしない。そりゃあ、何時かはその力が自分たちに向けられるかもしれないから、警戒と対策は行うでしょう? 何かチャンスがあれば動くかもしれないけれど、積極的に抗おうと思うかしら? 天界も同じだったんじゃなかと思うの」
例えば
「どこか油断していたんでしょうね。自分たちの所に攻め込んでくるはずがないって……でも大魔王バーンの力が実際に自分たちの喉元まで突き付けられた。多分バーンが天界に攻め込んで、精霊も神をも倒そうとしたんでしょう」
だがその狡猾さも、
「いわゆる手段を選んでいられない状態になった……手段を選んでいたら、自分たちまで滅んでしまう。だから、禁忌の力に頼った。そしてもう一つ」
天界から見れば魔界は地底の奥深く。そして間には地上世界がある。地上という住みやすい環境を得て、魔族も安心するだろうと。遠く空の上に存在する天界にまでちょっかいを掛けるようなことはないだろうと。
ましてや野心的な動きを見せるヴェルザーは既に封印済みだ。バーンの力は強大なれど、天界が危機になる可能性は低いはずと、そう考えたのではないだろうか。
だがその予想は裏切られ、尻に火が付いてようやく精霊たちはどの様な手段を使おうとも抗わなければならないと気付いたのではないか。
どうして自分が異世界の力を使えるのかの推論を終え、そしてもう一つの謎に対する推論を少女は口にする。
「その禁忌の力の持ち主といえど、すぐにこの世界に呼ぶことは出来なかった。強力な存在を召喚するには手間と時間が掛かり過ぎて、直前に迫る驚異には使えない。だから禁忌の力を扱える程度の存在を、バーンを倒しうるギリギリのタイミングに送り込んだ」
それは何故、赤子の時分にデルムリン島にいたのかという問題だ。
「勇者ダイの存在こそが、大魔王バーンを倒せるかどうかの最後の分水嶺。そのタイミングと合わせるように、送る時間を操作する。
物語の中ではバーンは倒された。勇者ダイを中心とした仲間たちの活躍によって。だが、物語の通りに全てが転がるという保証はない。
「――私の知る物語の中では大魔王バーンは倒された。けれども実際はバーンを倒すことが出来ず、世界は闇に包まれた……そんな未来こそが正史。その世界の天界の住人から、時を遡って送り込まれた存在が、自分なんじゃないか……私が出した仮説はこれよ。とはいえどうして私が選ばれたのか、そこまではわからなかったけれどね」
突拍子もなさ過ぎる推論に、全員が絶句する以外の反応ができなかった。
特に実はバーンによって地上は滅びていたのではないか、と言う考えは彼らの心を震え上がらせるのに十分な力を持っていたようだ。
「でも、これはあくまで想像よ。事実である証拠なんてどこにもない。もしかしたら、世界のどこかでミスがあって偶然ポロッと生まれてきただけかもしれなんだから」
そんな彼らを安心させるように、チルノはカラカラと笑いながらふざけた態度を取って見せる。口にすることの出来なかった最後の推論を胸中に浮かべながら。
――本当にこの推論が正しいのなら、バーンを倒せば私はお払い箱。異世界の力を使うのは、世界の理を乱す行為に繋がるのかもしれず、下手すれば世界そのものの法則が乱れ、崩壊する可能性すらあるのかもしれない。
バーンを倒した後に果たして自分が無事でいられるのか? その疑問をチルノは口には出せず、飲み込むことしか出来なかった。
「私が鬼岩城を相手に降り注がせた隕石も、異世界の力です。私が扱える力には、あれ以上に強力な力も存在しています。悪用すれば他国を簡単に制圧することも出来ます」
そして飲み込んだ言葉とはまた違う、もう一つの懸念点をチルノは口に出す。
「悪用を、するつもりなのかの……?」
シナナの言葉に、チルノはきっぱりと首を横に振る。
「そんなつもりは毛頭ありませんよ。ですが、どうにかしてこの力を利用してやろうと考える人間は必ず出てくるはずですし、そもそもそんな力の持ち主が存在しているだけでも人々は強すぎる力に恐怖を感じるはずです…そこで、諸王の皆様にお願いがあるのですが……」
再び会議場へと戻ってきた一同。
そこにいるのは各国代表者とチルノだけであり、それ以外の人々は全て外で待機している。いわゆる
「すみません、ワガママを言ってしまって」
まずは開口一番チルノが頭を下げる。
「内密の話がしたい。ただ、とてもワガママな話なので各国代表だけにまずは話を通しておきたい」と告げられ、彼らはこの場所へと移動していた。ここならば話が誰かに漏れる可能性も低く、そして少々傲慢が過ぎるお願いのために、
「いやいや、構わんよ」
「そもそも
「あなたの言葉を聞いて私達は皆、色々と考えることが出来ました。その重大な情報を齎してくれたチルノの願いなのですよ? 全力で実現することを約束しましょう」
フローラの言葉にチルノは破顔しつつも再度頭を下げる。
「ありがとうございます。ただ、これから話すことは戦後――つまり、バーンを倒した後の懸念なんです。気が早いと思うかもしれませんが、必要になるはずなんです。そして、そのためには皆様の協力が必要不可欠……だから、まずは皆様に話を通しておきたかったんです」
「その懸念とは?」
「ダイのこと、です」
ダイ本人には決して聞かせられない、聞かせたくはない内容のことだ。
「私の知る物語の中で、ダイはバーンに配下になれと勧誘されました。自分を倒しても人間はダイのことを間違いなく迫害すると。人間は最低だと。苦しい時だけ泣いてすがり、平和に慣れればすぐに不平不満を言い始めると。純粋な人間でないダイを英雄の座から追い落とすと」
「そんなっ! 私たちはそんなこと絶対に……!!」
「ええ、勿論。ダイはバーンの誘いを断ったわ。でも、レオナのその言葉は私たちがダイのことをよく知っているから。でも相手となるのは"国"や"人々"という不特定多数の存在。目に見えにくい相手にどう立ち向かえば良いのかしら?」
まるでダイとバーンが語り合っているシーンを再現しているかのようだった。
「バランがソアラさんを失った時とよく似た事になりかねない。ましてやパプニカで国賓となったはずのマトリフさんも、今では嫌気が差して隠遁生活しているの。同じ事が起こらないと断言できる?」
そう問われてレオナは言葉に詰まる。
特にマトリフのことは自国の臣下たちの行動であるため、本人に責は無いものの強く出られないのもまた事実だった。
「でもね、バーンの言葉を聞いてダイはこう答えたわ……『バーンの言うことも正しいけれど、それでも自分は人間が好きだ。もし本当に地上の人々がそれを望むのならば、自分はバーンを倒して地上から去る』って」
「な、なんと……」
「新たな
実際に聞いたわけではない、言うなれば伝聞のような言葉。ましてやダイが口にしたわけでもなく、これから口にする保証もない。だがチルノの語りに、諸王たちは絶句していた。
ダイの人柄を良く知る者ほど、強く信じてしまう。それだけの説得力があった。
「でも私はそんなのは絶対に嫌。だから、一つだけ考えたの。とってもとってもズルい作戦を――」
そしてチルノはその作戦を語り始めた。
とても単純な、けれども効果は間違いなくあるであろうと確信出来る。何しろその効果の程も恐ろしさもチルノはよく知っているのだから。
「なるほどね」
「確かに、ズルいと言うのもよくわかるのぉ」
話を聞き終え、諸王たちは一斉に頷く。
「ですが、有効な手ではあるでしょう」
「ええ、私もそう思います」
「ワシも同意見じゃな。よし! ならば実現に必要な資金もベンガーナが出そう!!」
「あの……発案者の自分が言うのも憚られますが、本当に良いのですか?」
「構わん! 世界を救った大英雄にそのような非業の未来が待っているなどあんまりではないか!! なあ、皆の衆よ!!」
芝居がかったクルテマッカの言葉に、だが一同は迷うことなく了承の意を示して見せた――いや、前言を一部撤回させていただこう。
ただ一人だけ、思案顔をしている人物がいた。
「でも、まだ弱いんじゃない?」
レオナが異を唱える。
先ほどマトリフの例を挙げられたためか、どうやら考えが慎重になっているようだった。とはいえ概ねは賛成であるのだが。
「現状でもダイ君たちとパプニカの仲が良すぎるのよ。そうなれば当然、不要なことを勘ぐる人間が出てきてもおかしくはない。念には念を入れる位で丁度いいはずよ。だから――」
それ以上の事態に備える意味でも、レオナは自身の考えを述べた。
このまま上手く交渉すればパプニカにダイとチルノという二人の英雄を招くことも不可能ではないだろう。
その可能性を全て捨ててでも、ダイたちの役に立ちたいという想いの方が強かった。
「それ……本当にいいの……??」
「あくまで案だけれど、問題はないはずよ。条件も満たしているはずだしね。とはいえ私の一存だけじゃなくてダイ君の意志も確認しなきゃだし、何より各国の王様の許可も必要だろうけれど……」
急に湧いて出たレオナの考えのため、色々と荒く問題を抱えていることも事実である。だがレオナの言葉を聞いてなお、諸王たちは難色を示すことは無かった。むしろ諸手を挙げて賛同しそうな勢いである。
「だったら、そこに更にもう一つだけいい?」
レオナの案に刺激を受け、チルノが手を上げながら考えを述べ始める。
「各国から、監視の役目を持った人間を用意して貰いたいのです」
「どういうこと?」
「ダイも私も、名誉は要らない。人間の敵になるつもりもなければ、危害を加えるつもりもない。私達の力は人々の危機のためにだけ使う。そう盟約を結んだ上で、各国の監査役が問題なく実行されているかを見張る。力を使うのにもその人たちの許可が必要だし、もしも違反していれば国元に報告をする。そんな役目を持った人たちを」
幾ら自分たちが「安全だ」と言っても、それが正しく行われているかを目に見える形で証明するのは難しい。ならばそれを外部の人間に頼れば良いのだ。
信用されていないと声高に喧伝しているようにも見えるが、だからこそ正常に機能しているとも言える。
「なるほど。分かり易く抑止力を見せるわけか。おまけに各国の人間が集まる以上、護衛なども必要になる。人が集まれば交流も生まれるはず。ならば発展していくこともそう難しくはないだろうな」
「ええ、最初のうちはちょっと辛い暮らしをさせてしまうかもしれないけれどね。でも、良い案だわ」
「さすがはチルノですね。抜け目が無いようです」
「え……あの、そこまでは考えていなくて……」
考えていた以上の効果があると指摘され、チルノは慌てて否定する。だが少女のその言葉を信じる者はどうやらいなかったようだ。
そのまま
話し合いは夜遅くまで続けられた。
――全部話すから。
そう言っておきながら、所々を伏せるチルノさんは悪女(断言)
だって黙っていた方が絶対面白いんですもの(下衆)
色んな所に遺恨が生まれているからその辺は抑えた……つもりです(自信なし)
事実、何を書けば良いのかすっごく困ってしまって……(当惑)
(実際、ラハに竜騎衆を救えず謝る予定でした。でもバランに言われたとしてもガルは離脱(最悪敵に回りそう)で、ボラは役立たず(ワニの下位互換)になりそう)
どこかミスや変な部分があったら、見逃してください(低頭)
さて次話は、某今回殆ど喋らなかった子と1対1でしっかり会話(する予定)
登場するのも二人と二匹だけで短い(だったらいいなぁ)