「…………」
「…………」
無言のまま二人の男女が向き合っている。
一人は伝説の名工と言われた男ロン・ベルク。そしてもう一人はチルノであった。互いに向き合ってはいるものの、その様相は対照的だ。
ロン・ベルクはダイの剣を作った時のように黙ったままチルノの手を見つめているものの、対してチルノは少々困惑の色を見せている。どうしたものかと乾いた笑いにも似た笑みを浮かべていた。
ただ黙って手を見続けられるというのは知識としては知っていたものの、実際に体験する側になるとこうも居心地が悪い物かとチルノは心の中でこっそり嘆息する。
そしてもう一つ、姉の手を取り見続けるという行為に複雑な胸中を見せる弟の姿も、彼女が落ち着けなくなる原因の一つだ。自身も体験しており、頭では必要なことと理解しているものの、頭と心はまた別だ。大切な――それもこれまで以上に意味合いが重くなった――大切な姉を独占されているのは、まだ少年のダイには受け入れがたいものがあったらしい。
――どうしてこうなった? と思わず叫びたくなるのを必死で我慢しながら、彼女は朝のことを思い出していた。
事の起こりは今朝――ダイとチルノが結ばれた翌日の朝のことに端を発する。
前日の約束通り、チルノはダイと共に相手の気持ちも考えずに行き過ぎたことを口にしてしまったことをそれぞれへ頭を下げながら謝罪して回ったのだ。
幸いにも、というべきか、姉弟が揃って頭を下げたことと、前日にダイがチルノへ何かを言ったこと。そして一晩という一人でじっくりと考える時間があったこともあってか、二人の謝罪は素直に受け入れられた。
……そこまでは良い。
「そういや、ロン・ベルクがチルノに会いたがってたんだけど、どうする? 今すぐにでも会いに行くか?」
その後の会話中に、なんとなく発したポップの言葉が引き金であった。
ロン・ベルクがチルノに会いたがるというのは、彼女の知る本来の歴史から判断しても有り得ないことだった。どういうことかと聞けば、覇者の冠が力になりたがっているという予想もしなかった返事が返ってくる。
チルノの予想としては、覇者の冠はロン・ベルクの星皇剣を完成させる素材となると思い込んでいただけに、その言葉は驚かされると同時に、覇者の冠にそれだけ力になりたいと思われているという事実に対する戸惑いもあった。
「……わかったわ。それなら早いほうが良いだろうし、すぐに行きましょう」
だが、この場でオリハルコンの武器が増えることは戦力の底上げにも繋がり、そして覇者の冠の期待に応えたいという気持ちもある。完成まで時間が掛かることを考慮すれば、一刻も早く作って貰った方がいいだろう。
そう考えたチルノは、当然のようにポップへ返事をする。
「おっしゃ、まかせとけ! 早速、おれのルーラで……」
「えっ……! ま、待ってよポップ!!」
だが乗り気となったところへ水を差すように、ダイが慌てて声を上げた。突然不自然に言葉を遮られ、見知った相手の不可解な行動にポップは首を捻る。
「……ん? どうしたんだよダイ?」
「それなら、おれが連れて行くからさ。ポップは休んでてよ。ほら、おれだってロン・ベルクさんの場所は知ってるし、ルーラも使えるから問題ないでしょ?」
そう言いながらチルノの移動手段となるのを自ら買って出ようとする。
確かに理屈の上では、ダイの言葉も間違ってはいないだろう。というよりもロン・ベルクの家に行ったことがあってルーラが使える人間は、この二人だけだ。ダイが連れて行こうとポップが連れて行こうと、大差があるわけではない。
……普通の場合であれば。
「けどよ、チルノの話じゃハドラーが襲ってくる可能性もあるって言ってたじゃねぇか? もしも来る場合、居場所が分かっているパプニカの方が確率としては高いはずだぜ?」
「そうだな。チルノの武器が完成するまでの間に襲われる可能性が皆無とは言い切れんだろう。ならば、有事に備えるためにもダイは残っていた方が良いと思うが?」
ポップはそう反論し、ヒュンケルもまた当然のように頷く。
前日にチルノが不安要素として口にしていたように、ハドラーがどう動くか分からない。そうでなくとも、何が起こるのかは未知のままなのだ。
人間側の最大戦力であるダイが下手に動いて即応できなくなる状況を生み出すのは、非合理的だろう。
「けどさ、そこはほら……ポップがおれたちに知らせに来るとかすれば……」
「…………ッ」
ダイも無茶を言っているのが自分で理解している。だがそれでもなお、どうにかして食い下がろうとしている姿に、チルノはダイが何故そんな行動を取ったのかをなんとなく察した。
幼心の可愛らしい独占欲を感じながら、さてどうしたものかと考えを巡らせようとするよりも早く――
「……ははぁーん、さてはダイ君」
レオナが口を開く。
その表情はとびっきりの獲物を見つけた子猫のような活き活きとした輝きを見せていた。唐突に場違いな雰囲気を見せつけられ、無意識のうちのダイの心が萎縮する。
「な、なにさ……」
「チルノと何かあったでしょ!」
「ッ!?!?」
何の脈絡も無く繰り出された、あまりにも正鵠を得た言葉にダイどころかチルノまでもがその動きを完全に止める。恐れるべくは乙女の勘というものだろうか。
そして僅かでも反応してしまったのが運の尽きだ。それは「あなたの言う通りです」と肯定したのに等しい行為である。
「ふふふ……隠しても無駄よ! 二人のことは、あたしが一番よく知ってるんだから!! さあ、キリキリ素直に白状なさい!!」
「ダイ……」
「うん、実は……」
もはや言い繕うのは不可能だと観念し、チルノは弟の顔を見ながら頷く。ダイは姉のその様子を見て同じく観念すると、恥ずかしそうに夕べの事を語った。
「「「「「「「……えええええっっ!?!?」」」」」」」
何があったのか話を聞いた途端、一行は驚きの声を上げた。なんだったらば、昨日のチルノの告白よりも大声が響いていただろう。
――なお夕べのことと言っても、全てを事細かに説明しているわけではない。ただ、二人が夫婦となる約束をしたということを伝えただけ。昨日、二人がどの様な一夜を過ごしたのかを知っているのは、二人と二匹のみである。
「驚いたわ……まさかそんなことになっていたなんて……」
「ダイに先を越されるとは……なぁマァム?」
「わ、私に振らないでよっ!!」
「そうか」
「おめでとうございます! ダイ様!! チルノ様!!」
「ワハハハ! いつの間にか、そんなことになっていたとはな!!」
「チルノさん……よかった……」
各人各様の反応を見せながらも、概ね祝福の言葉を投げかけられる。そんな初めての体験に、ダイたちは顔を真っ赤にしながら精一杯の返事をしていた。
「あ……ありがと……」
「あんまり
言葉少ないその言葉も、ワタワタとどこか言い訳がましいようなその言葉も、外野から見ればなんとも微笑ましいものだ。初々しい反応に見ている方が笑顔にさせられる。
とはいえ――
「お、お祝いとかしなきゃ! 結婚式!? プレゼント!? 名付け親!?」
「そういうのは多分、大魔王を倒した後でいいんじゃないかしら……? ほら、ダイたちも言ってるし……」
この事態を引き起こした主犯とも言えるレオナだけは予想外の事に混乱しており、目を丸くしたまま先の先の先くらいまで考えを巡らせ、ツッコミを入れられていた。
「ん……? じゃあ、ダイがさっき意固地になってたのって……」
やがて、少し冷静になって気付いたポップはニヤニヤとした笑みを浮かべる。結婚したことを合わせて考えれば、ダイがなぜ渋っていたのか。その理由は一つしかない。
「なーんだ!
大切な女性を、たとえ仲間といえども一時的に目の届かない場所で二人っきりにさせたくない。ダイのそんな可愛らしい嫉妬心からついつい出てしまった言葉である。
重い運命を背負っていても、根本はまだ子供だということに改めて気付かされ、ポップは大笑いをしながら喜んでダイに移動役を任せる。
「みんなもそれでいいだろ?」
そう尋ねれば、仲間たちは程度の差こそあれダイの気持ちを慮ってか、異論を口にする者はいなかった。特にラーハルトなどは「ダイ様、ご安心ください。留守中に何かあろうとも、このオレが微塵の被害もなく食い止めて見せます」と、太鼓判を押すほどだ。
「ごめん、みんな……おれのワガママで……」
「すぐに戻ってくるつもりだから。何かあったら、頼むわね」
そこまで告げるとダイはルーラを唱え、空の彼方へと瞬く間に消えていった。一瞬で見えない所まで飛んでいった二人の影を追うように視線を向けていたポップたちであったが、一人だけ別の動きをする。
「ねぇ……二人のことなんだけど……」
「ん? どうかしたの?」
仲間たちから二歩ほど離れた位置に立っていたレオナに気付いたマァムが、心配そうに声を掛ける。
「その……レオナは……へ、平気なの?」
マァムの目から見ても、レオナがダイのことを憎からず思っているように感じていた。その相手が突然結婚したと言われれば、心中穏やかであるはずもないだろう。
とはいえ年若い彼女ではどう切り出したものか分からず、悩んだ挙げ句このように非常に抽象的な尋ね方となっていた。
「……ああ! それなら大丈夫だってば」
だが同じ若い女性同士、通じるところがあったのだろう。マァムの大雑把な質問から何を言いたいのかを直感的に理解した彼女は、気にしてないと訴えるように平然とした態度を見せていた。
「ダイ君はチルノしか見ていないし、チルノは満更でも無いくせにどこか遠慮してたのよねぇ……デルムリン島からパプニカに戻った頃には、なんとなくそうじゃないかって思ってたのよ」
最初にデルムリン島で二人と出会った時から、陳腐な表現ではあるが運命のような何かをレオナは感じていた。だが二人と交流を深め、二人について知れば知るほど、互いがどう思っているのかが彼女には分かってしまった。
それにマァムは知らないが、テランでダイが記憶を失った時にもレオナはワザと憎まれ役を演じてでも二人のことを後押ししている。思い返せば、あの頃にはもう吹っ切ろうと努力をしていたのだろう。
「未練はないわよ、ええ全く、これっぽっちもないわね」
だが、どれだけ言葉を並べようとも簡単に割り切れるほど達観しているわけでも人生の経験値があるわけでもない。未練はないと訴えるレオナの言葉は、精一杯の強がりのようにマァムには見えた。
「それに……」
だが、それが早計だったこともマァムは気付かされる。
「あの二人は今や、付き合い始めたばっかりの初々しい恋人同士よ? こんな面白そうなオモチャがあるのに、落ち込んでなんていられないわ!」
落ち込んでいないと言えば、嘘になるだろう。だがそれと同時に、二人を祝福したいという気持ちと、切ない思いを味わった分だけからかって遊んでやろうという遊戯心が彼女の中にはあった。
それぞれがレオナの偽らざる本心であり、おそらくはそうやって発散することで、レオナは今の気持ちを乗り越えていけるのだろう。
自分よりも年下の女性が愛というものを自分なりに必死で受け止めようとしている姿に、マァムは微かな疎外感を覚えていた。
「はぁ……」
場面は再びロン・ベルクの小屋へと戻る。
いつまでも続くと思われていた手を見つめ続ける行為は、彼の嘆息と共に終わりを告げた。
「オレも、多少なりとも色んな人間を見てきたつもりだったんだがな……」
彼は信じられないものを見るような目つきで、眼前の少女をもう一度眺める。
そもそも鍛冶というのは重労働である。素材となる金属を熱して打ち鍛えるだけでも、ひとかたならぬ苦労だ。その上、金属というのは重い。そんなものを扱うには相応の筋力というものも必要になってくる。必然、並の戦士に負けぬほどの腕力を備えることになるのだが――
「まさかお前のような小娘が剣を作ったとは、とても信じられん」
チルノの姿はどう見ても、そういった技術に通じているようには思えない。以前ポップたちが彼女を「鍛冶屋ではない」と悩みながら言っていた理由はこういうことかと、ロン・ベルクは遅まきながら理解していた。
「嘘じゃないってば! 姉ちゃんは本当に――」
「ああ、わかっている。その話はもう既に聞いているからな」
自分のことのようにムキになった姿勢を見せるダイへ向けて、ロン・ベルクは面倒くさそうに答える。
なにしろ似たようなやりとりは既に一度行っているのだ。
ダイがチルノを連れて彼の元へとやってきた時に、一通りの紹介は済ませてある。だが疑念を完全に拭いきれないロン・ベルクは、手近な鉄鉱石を渡して「これで何でもいい、剣を作ってみせろ」と言った。受け取ったチルノが自身の技能にて簡素な剣へと加工してみせると、彼は目を丸くして驚いていた。
とはいえ、ダイという顔見知りの相手――それもオリハルコンの剣という非常に満足のいく仕上がりの仕事をした相手――からの紹介もあって、ようやくある程度は信じてもらうことができた。
「あれは鍛冶というよりも、錬金術に近いようだ。専門外だから詳しくは知らんが、そうでも思わんと、オレの頭がどうにかなりそうだ」
武器職人としてのプライドのあるロン・ベルクにしてみれば、このような訳の分からない方法で武器を作られるというのは理外のことだったようだ。どうやら専門外の技術を使っていると考えて納得することにしたらしい。
「まあ、いい。それよりも剣のことだ」
チルノの使う技術については些事とばかりに作業を開始しようとする。炉には既に覇者の冠が入っており、作業を開始するのはもはや秒読み段階というところか。
これから行われるのは、彼女の知る本来の歴史の知識にすら有り得ない、言い換えれば全く未知の事だ。誰もが感じる当然の不安感にチルノは軽く身を強ばらせる。
「どんな剣になるんですか……?」
「そう構える必要はない。コイツの場合は、こう生まれ変わりたいという感情が強く出ているんだ。オレの目にも見えるくらいにはっきりとな」
重圧感からつい尋ねれば、返ってきたのは気負いなど微塵も感じない言葉だった。一度ダイの剣を打ったことで加工できると自負しているのか。
「おそらくだが、お前さんが心の底で望んでいた形になろうとしているんだろう。明確な形になろうと望んでいるのだから、ダイの剣を作った時よりもよっぽど楽な作業だ……なにより、オレも似たような剣を作った経験がある。失敗することはありえねえよ」
「大丈夫だよ姉ちゃん。おれもついてるからさ」
既に経験している人間の余裕からか、それとも少しでも
「さて、始めるぞ」
この世で二本目となるロン・ベルク謹製オリハルコンの剣の製造が始まった。
「――これで、完成だ」
額に浮かんだ大粒の汗を拭いながらのロン・ベルクの言葉にチルノは拍子抜けしていた。
なにしろ時間こそ掛かったものの、懸念していた妨害の類いは一切なかったのだ。これでは有事に備えて何時でも動けるようにと気を張っていたチルノの方が馬鹿みたいである。彼女がしていたことと言えば、ただ信じて待っていただけだが、それでも
「これが……」
とあれ自分専用の武器の完成には心躍る物があり、チルノは作業台へ置かれたそれを手に取る。流石はロン・ベルクの作った剣だけあって、持った瞬間からまるで腕の延長線に存在しているかのような感覚を味わいながらも、じっくりと観察を始めた。
出来上がったのは、片手用の
覇者の冠を素材に打ち直したために絶対量が足りなかったらしく、オリハルコンが使われているのは刀身部分のみ。柄頭から鍔までの部分は別の金属が使われているらしく、一瞥しただけで輝きが違う。
鍔はダイの剣と比較してもやや大きめであり、まるで二等辺三角形のように根元へ行くほど太い。中心部には、元々の覇者の冠にも存在していた真紅の宝玉が埋め込まれている。
だが一番の不思議な点といえば、やはり刀身だろう。オリハルコンの輝きに隠れて見えにくいが、そこには幾重もの切れ目のような筋が入っていた。
本来ならば頑丈さを第一とするはずの部分を脆くするため、まったくの無駄としか思えないその線に、チルノは思い当たることがあった。
「これって、まさか……」
「軽く振ってみろ」
鍛錬中の動きを見ていればそうとしか考えられない。
――もしや、という思いを込めて彼女は剣を振るう。すると――
「わぁっ!!」
それまで剣だったはずが、まるで鞭のように伸びた。刀身は切れ目の部分で分割され、その一つ一つが細い鋼線のような物で接続されている。再び軽く剣を振れば、まるで彼女の意志を読み取ったかのように引き戻されて剣へと戻った。
「驚いたか?」
初めて見たであろうダイはその摩訶不思議な動きに目を丸くし、同時に魅了されたかの如く熱い眼差しを向ける。これほどの驚きと興味を見せられれば、鍛冶師としてはある意味本望なのだろう。いくらか上機嫌になりながらロン・ベルクは更に続ける。
「持ち手の意志に応じて自由自在に形状を変化させる特殊な鉱石を内部に組み込んである。基本は剣だが今使ったように鞭のようにもして操れることも可能だ。伸縮も自在だから、応用性は相当高い」
剣としての機能と鞭としての機能を同時に持つ武器――それはいわゆる、蛇腹剣や鞭剣などと呼称される物だった。一般的な剣としての形状を持つと同時に、刀身部分が数珠状に分割された刃を持つ鞭としての特性も兼ね備えている。
分割した刀身を繋ぎ操るのは――後にブラックロッドと呼ばれるポップ用に作成された杖にも使用されている――持ち主の意志でその姿を自在に変える金属線だ。本来ならば使用者に高い技術を要求するはずの武器だが、格段に扱いやすくなっている。
ロン・ベルクの言葉ではないが、似たような武器であれば過去を紐解けば事例は幾つか存在している。しかし、その両立を主目的としてここまでの完成度を誇った武器は古今例を見ないだろう。
いわばこの世界で初めて生まれた武器を見ながら、チルノは無意識に呟く。
「……ガリアン、ソード……?」
思わず口を突いて出てしまった言葉を、ロン・ベルクは聞き逃さなかった。
「ほう、良い名前だな」
「え? あ……!」
それは蛇腹剣などと同様にチルノが知っている呼称の一つだ。そしてこの世界ではまず生まれないはずの名前でもある。だがロン・ベルクからすれば当然初耳であり、同時に奇妙なほどにしっくりくる名でもあった。
「この剣の名が決まったな」
むしろそれ以外は考えられないとでも言いたげだ。そしてチルノも別にその名が嫌と言うわけではない。ただ一人、難色を示している者を除いては。
「おれが"ダイの剣"だったから、姉ちゃんのはてっきり……」
誰にも聞こえないほど小さな声で舌打ちし、ダイは異議ありとばかりに言い始めた。だがそこまで口にしたところで、ほんの僅かに言い淀む。
「チ、チルノの剣になるとばかり思ってたのに」
どうやら姉の名を呼び捨てにするのは未だ不慣れなようだ。そういえば昨日も。と、思い出してチルノは微かに目尻を下げる。
「まあ、その名でも構わんがな。コイツの場合は少々毛色が違う。持ち主が考えた相応しい名を付けるのもアリだろう」
どうやらお揃いの武器を持てるのではと密かに期待していたらしく、ロン・ベルクの説明を聞いて一応は納得した様子を見せていたものの、姉の目からすれば未練たらたらだ。後でこっそり慰めておこう。と、チルノは誓う。
「さて、チルノ。まずはそのガリアンソードを自在に操って戦えるようになってみろ」
「自在に……」
「その剣はお前が成長すればするほど、力を高めていく。そして全てを使いこなせるようになれば、ダイとはまた違った強さを得ているはずだ……お前を想う剣のことを、裏切るなよ?」
どちらかといえば後衛寄りの活躍を見せている少女である。それがどれだけ困難な道なのかは、枚挙にいとまがないだろう。だがそれを承知の上で、武器の期待を裏切るなとロン・ベルクは断じていた。
「あの、もしも……もしもですよ! 仮の話で良いんです」
有無を言わさぬ迫力に負けて、チルノは叫ぶ。
「私がこの剣の扱いに困ったら……いえ、もっと。ダイたちが自分の実力に悩んだ時は……武術の指南役として一肌脱いで貰えますか?」
「……どこで知った?」
鍛冶師の腕を知っている者はいても、武人としてのロン・ベルクの腕を知っている者はそれと比べて多くはないだろう。特に地上では皆無と言って良いだろう。にもかかわらず、チルノは武術を教えろと言ってきたのだ。その事実にロン・ベルクはニヤリと笑う。
「まあ、話の
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
時計の針は、しばし時を遡る。
「おやおや、追ってこないかな?」
空中を飛翔しながら後方を振り返り、キルバーンは淡々と呟いた。
ミストバーンに肩を貸したキルバーンがルーラで逃走――いや、正確には逃走したように見せかけてアバンの使徒たちを誘いだそうとしていた。だが、その目論見は外れていた。
「ボクも自分のお仕事をしようと思ったんだけど、残念だねぇ……」
そう口にするものの、身に纏う雰囲気からは悲壮感が一切感じられない。誰かが引っかかれば幸運、と言った程度のことでしかないのだろう。
「奴らもそれほど迂闊ではない、ということか」
「まあ、来ないのなら仕方ないさ。このまま二人きり、空のランデブーというのも楽しいかもしれないけれど……」
ミストバーンの言葉に頷き、諦めて帰るという選択をするのもアリだ。だが、死神がそれを選ぶことはなかった。
「それよりもミスト、ボクはあそこに行きたいなぁ……せっかくここまで来たんだし」
「あそこ?」
せっかくここまで来た。とは言えども、彼らが今いるのは死の大地と呼ばれる大陸の外周部分だ。ここからどこへ行こうと言うのかとミストバーンは首を捻った。
「勿論、彼のところだよ。ボクたちは退いたんだし、
「なるほど……お前も場所を知っていたのか、キル……」
だが続く言葉で彼は得心が行った。
その言い回しは、少し前にも同じ相手の口から聞いていたからだ。今に始まったことではない友人の得体の知れなさを感じながら、ミストバーンはルーラを唱えるとその目的地――死の大地にほど近いとある孤島へと瞬間移動した。
「お邪魔するよ」
「ぬおおっ!! ミッ、ミストバーン!! そ、それに……死神キルバーンまで!!」
気楽に声を掛けながら、孤島に拵えられた洞窟へと二人は立ち入る。そこはザボエラが潜む秘密の隠れ家の一つだ。天然の洞窟のように見せかけてはあるが、少し奥へと進めばそこには彼の研究道具や資料などが所狭しと並んでいた。
ミストバーンがここへ入るのは二度目――初回は所在の知れなくなったハドラーを探し、そして彼に時間稼ぎを頼まれていた。自身を完全なる超魔生物へと生まれ変わらせるまでの時間を稼いで欲しいという、命を賭した願いを。
その時とよく似た驚きを見せるザボエラの姿を眺めながら、彼は洞窟内の違和感を感じていた。
「まさか、ワシの命を……!?」
「それこそまさか、だよ。今日はプライベート、ハドラー君の激励に来たのさ」
死神が魔王軍幹部の前に姿を見せるというのは、凶兆でしかない。そのことを知っているザボエラは腰を抜かしたように驚いていたが、キルバーンはまるで取り合わなかった。むしろその飄々とした態度が怯えを半減させている。
「ハドラーはどこだ……?」
「お、奥におりますですじゃ……」
「いや、その必要はない」
洞窟の奥へとミストバーンたちが足を向けるよりも早く、その奥から声が聞こえてくる。声に遅れること数秒、威風堂々とした佇まいでハドラーが姿を現した。
「お久しぶりだね、ハドラー司令……いや、その姿だから初めましての方がいいかな?」
「死神か……だが先ほどの言葉を信じるならば……」
「そういうことだよ。パプニカに集まった人間たちを皆殺しにしようとしたけれど、裏切り者たちの活躍もあってそれは失敗。キミの主演舞台の出番が回って来たわけだ」
ギリリ、とミストバーンが拳を強く握り締める音が聞こえた。苛立ちや屈辱、自身への不甲斐なさといった感情を吐露しそうになるのを必死で堪えているらしい。親友のそんな姿を横目で一瞬見ると、キルバーンは更に言葉を続ける。
「こうしてハドラー君は完成したみたいだし……ミストが骨を折った甲斐はあったみたいだね」
「アハハ! 強そうだね~!!」
使い魔のピロロがハドラーを見ながら嬉しそうに呟く。
なるほど、とミストバーンはようやく違和感の原因に気付いた。以前来た時よりも洞窟内が幾分片付けられているのだ。その理由はただ一つ、ハドラーの改造が完了したことに他ならない。これから撤収を行おうと準備をしていた時と幸運にも時期が符合したようだ。
「それで? 今からパプニカに向かうのかい?」
「いや……出来れば二、三日は時間が欲しい」
その返事を聞き、キルバーンは仮面の下の瞳を意外そうに細めた。
「おやおや? キミのことだから、すぐにでもダイ君たちの元へ向かうと思っていたけれど……どういうことかな?」
超魔生物は確かに強力だが、その代価とでもいうべきか長生きは見込めない。そのことは知らぬ訳ではないだろうに、それでもなお時間をくれと言うからには、何かよほどの理由があるのだろう。
そう考え、その理由を聞き出すべく問い詰めていく。
「ロモスにあった覇者の剣の事から考えるに、勇者ダイ君はオリハルコンの剣を手に入れたと思っていいだろう。残念ながら実物は確認できなかったけれども……
「オリハルコンならば少量だがオレも持っている」
「へぇ、これは驚いた……」
かつて魔王ハドラーと呼ばれていた時代に手に入れたのか、それとも魔軍司令となった際にバーンから渡されたのか。入手経路は不明だが、神の金属を持っていることにキルバーンはほんの少しだけ評価を改める。
「でもそれが時間を欲する理由じゃあないよね……?」
「……当然だ。オレには奥の手がある……あまり手の内を晒したくはないが……」
「ハドラー様!!」
慌ててザボエラが静止の声を上げるが、ハドラーはそれに耳を貸すことなく
「お、おお……っ!!」
「なんと……」
「ええええっ!?!? すごいすごーい!!」
「これは確かに、時間が必要だろうね。何しろとんだじゃじゃ馬だ……」
それは全員の想像を遥かに超えていた。ザボエラは知っていたとはいえど実際に目にするのはこれが初めてであり、問題なく機能していることに感激すら覚えている。そして、予備知識の一切がなかったミストバーンたちは、ただただ感嘆の声を漏らすだけだ。
「これで納得できたか?」
ハドラーの言葉にキルバーンは大きく頷く。
「予定変更だね。ハドラー君の力と覚悟を評して、ボクも少しだけ手伝わせて貰うよ。いいだろう?」
「……好きにしろ。だが、オレの邪魔をすることは許さん!」
――言質は取ったよ。
最後の言葉を飲み込みながら、キルバーンは仮面に隠された顔を愉悦に歪ませた。
ガリアンソードって表現は、どのくらい通じるのですかね……?
ということで武器は蛇腹剣(鞭剣?多節剣?)です。
武器と決定した時に種類を悩み、FF各種から良さそうな物を探し、ロマン武器を選びました(以前「ソウルキャリバーを買いました」と書いたのはこのため)
昨今だと使用者は、アイヴィー(ソウルシリーズ)・天帝の剣(FE風花雪月)・甲斐姫(戦国無双)・アイリスハート(ネプテューヌV)・レギンレイズ・ジュリア(鉄血のオルフェンズ)とかですかね?
FF14に青龍蛇腹剣があり、DFFでガーランドが使用。FF零式は鞭剣カテゴリがあります。ダイ大ではヒュンケルが(剣を兜に装着時に)使ってます。
……問題ないですよね?
(作中で「使うよ」というフリが無かったので不安になっている)
一応、作中名称は"ガリアンソード"とし、固有名もそれします。
でもマズかったら(もしくはよさげな名前があったら)変えます。