隣のほうから来ました   作:にせラビア

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関・子安・岩田・奈良・速水・土師……なんというメンツだ……(時事ネタ)


LEVEL:80 魔神襲来

――どうやら自分はつくづくこの大陸に縁があるようだ。

 

ホルキア大陸に降り立ったハドラーは、知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。

かつて地上世界を征服すべく侵攻に乗り出した際には根拠地として、自らの居城たる地底魔城を建てた。だがその結果は、勇者アバンの剣の前に敗れている。

それから十五年の時を経て再びこの地を訪れた時には、自身が禁呪法によって生み出したフレイザードの策に乗りダイたちへと奇襲を仕掛け、そして返り討ちにあった地だ。

三度(みたび)この地に降り立った今回は、ダイたちを打ち倒すべくこの地へと赴いている。だが過去のどの瞬間よりも、ハドラーの心は昂ぶっていた。

 

彼が立っているのは小高い丘の上であり、眼下にはパプニカの街並みがある。

一度不死騎団に滅ぼされたにも関わらず、僅かな期間でこれだけ復興してみせる人間に強さと恐ろしさを同時に感じていた。この底力の源泉は、かつてアバンやその使徒らが口にしていた互いに協力するということなのだろうと、朧気ながら理解していた。

仮に大魔王バーン配下の者達が、彼らの半分でも協力するということを学んでいれば……

そこまで考えてから、ハドラーはその思考を捨てた。これからすることと比較すれば、そんなことはもはや取るに足らない些事に他ならない。

 

「さて、まずは挨拶代わりとするか……」

 

自嘲するように口の端をつり上げると、彼は空中へと身を躍らせた。着地先は街の最外周部であり、狙いを外すことなくその姿を見せる。

 

「なんだ……!?」

 

文字通り空から降って湧いてきた魔族の存在に、近場にいた者たちは理解が追いつかずぽかんと硬直した様にハドラーを見つめるだけだった。

 

「イオラッ!!」

 

そんな人々の反応に構わず、彼は右の手中に光球を生み出すと、間髪入れずにそれを放つ。

 

「う、うわあああぁぁっ!!」

「きゃあああああ!!」

「魔王軍だああぁぁっ!!」

 

光球が大爆発を引き起こし、爆音に気付いた人々が悲鳴を上げながら混乱した様子を見せ始めた。人々もここに来てようやくハドラーが敵だと確信したのだろう。一目散に逃げ出し、近くにいた兵士へと助けを訴える。

 

「みなさん、落ち着いて!! 避難をお願いします!!」

「おい! 城へ緊急連絡だ!! 勇者様たちを呼べ!!」

 

兵士達も恐怖と混乱に襲われながらも、それぞれの役目を必死で果たすべく動いていた。良く訓練されたものだと敵ながらもその働きに感心しつつ、ハドラーは口を開いた。

 

「出てこい、勇者ダイ!! そのためにオレは帰ってきた!!」

 

かつての、魔王ハドラーと呼ばれた頃を彷彿とさせるような威圧感を持って語る。

だが彼自身ですら気付くことがなかった。自らが放ったイオラは街の上空で爆発し、屋根をある程度焦がした以外にまるで被害を出していないことに。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「これは!!」

「ハドラー……!」

「こうして直接相まみえるのは初めて、か……?」

「ほう、前座はお前達か?」

 

ハドラーによる混乱が生まれてから、時間にしておよそ数分と言ったところだろうか。真っ先にやってきたのは、ヒュンケル・ラーハルト・クロコダインの三人だった。逃げ惑う人々の流れとは真逆の方向に歩を進めているが、その流れに動きを阻害されることなく寄ってくるその姿に、ハドラーは彼らの実力の一端を推察する。

 

「前座だと?」

「ああ、そうだ。かつて魔軍司令と呼ばれていた頃のオレでは、貴様ら一人を相手にしても勝利するのは難しいだろう」

 

その物言いに苛立ちを見せるが、ハドラーは気にした素振りも見せずに続ける。

 

「だが、オレが理解しているように、貴様らもまた理解しているはずだ。今のオレに、貴様らでは勝てんとな。故に前座と言ったのだ」

「……なるほどな。確かに、以前のお前とは比較にならんほどの圧を感じる」

 

冷静なハドラーの言葉に、ヒュンケルは自身の内の警戒度合いを更に強めた。

相手の格好は、かつて魔軍司令と名乗っていた頃と殆ど変化がない。いつぞやも纏っていたマントに身を包んでおり、全身のシルエットを判別しがたい物にしている。唯一違いがあるとすれば、大仰な角のついた兜をかぶっている程度だ。

だが、格好ではなく見た目という視点でハドラーを見た場合は、大きく異なっていた。

かつて(まみ)えたときとはまるで違う鋭い眼光と、別人のように大きく成長した精神が、この僅かな邂逅だけでも手に取るようにわかってしまう。

ハドラーの強化については、チルノから事前に聞いていた。だが、その強大さは話で聞くのと実際に体験するとでは想定以上の差があった。

 

「だが、それがどうした!」

 

己を奮い立たせるように勢いよく剣を抜き放ち、正眼に構える。

 

「確かに、今のオレたちでは勝てんのかもしれんな。だが、相手が圧倒的な強者というだけでは、引く理由にはならん!!」

「ここに来た以上、ダイ様たちを倒すのが目的なのだろう? ならば、貴様はオレの敵だ!!」

 

残る二人も同じ気持ちを抱いていたのだろう。各々が自身の獲物を構え、内面の不安を吹き飛ばすように叫ぶと闘気を高まらせる。

 

「仕方あるまい……目的は勇者ダイだけだが、降りかかる火の粉は払わせてもらうぞ!」

 

彼らに呼応するようにハドラーもまた闘気を高め、迎え撃つ体勢を整える。その瞬間、三人は弾かれたように駆け出していた。

 

「おおおおぉっ!!」

 

先陣を切るのは、重戦士たるクロコダインである。自身の頑強さと剛力を最も生かすべく、戦斧による大ぶりな一撃を放つ。この一撃だけならば、躱すのはそう難しくはない。問題となるのは脇を固める二人の戦士の存在だ。

クロコダインの攻撃を避ければ、二の矢としてヒュンケルの一撃が襲いかかる。なんとかそれをやり過ごしたとしても、回避を続けた不安定な状態で最速を誇るラーハルトの攻撃を受ける羽目になる。

加えて三人の速度にバラつきがあることが却って対処を困難にしていた。別々のスピードによって生み出される攻撃の差が、相手のリズムを狂わせるのだ。

それぞれが異なったタイプの三人戦士だからこそ生まれ、共に修行をしていた相手同士だからこそ成立する、無意識の連携技と言っていいだろう。

格上であろうとも、充分に通用する攻撃のはずだった。

 

「ふんっ!」

「なっ!?」

 

ハドラーは一歩大きく踏み込むと、攻撃に移ろうとするクロコダインの腕を片手でつかみ取った。丁度相手の手首を強く掴まれたような状態となり、そしてそれだけで斧の動きが完全に静止する。

 

「ちっ!」

 

動きを止められたことに僅かに驚かされるものの、ヒュンケルは戸惑うことなくハドラーへと剣を振るう。その一撃は、クロコダインによって足を止めたハドラーの胴体へと吸い込まれていくはずだった。

だが相手は、迫り来るヒュンケルの剣を素手で掴み止める。

 

「どうした?」

 

片手でクロコダインの巨体を制したまま、もう片方の手では鋭利な刃を素手で掴み取り攻撃そのものを受け止める。だが流石に無傷とまではいかず、その掌からは青い血が流れ出ていた。

 

「そら! 返すぞ!!」

「ぐわっ!?」

「うおおっ!!」

 

さらにハドラーは大きく踏み込むと、傍目には無造作に両の手を振るう。それだけでクロコダインの肉体ごと吹き飛ばされ、ヒュンケルも吹き飛ばされるもののなんとか受け身を取って着地する。

 

「そして」

「なにっ!?」

 

ついでとばかりに視線を上へと飛ばす。そこには上空より刺突を放ったラーハルトの姿があった。もう一瞬ほどの時間があれば、その槍は間違いなくハドラーの肉体を貫いていただろう。

まさか気付かれるとは思わず、ラーハルトの攻め手がほんの一瞬だけ鈍る。そして今のハドラーはそれを見逃す程甘くはない。

 

「いい攻撃だ」

 

僅かに身体を捻りながら、伸び迫る槍の口金を掴んで止めてみせた。落下の勢いも含んだ重い一撃にもかかわらず、それを苦も無く受け止められたことはラーハルトに少なくない衝撃を与えていた。

 

「はっ!」

 

続いて口金を持つ手を横に振るう。それとほぼ同じ瞬間にラーハルトは槍から手を離すと、柄を蹴ってハドラーから距離を取る。主のいなくなった槍が振るわれ、空気を切り裂く音が虚しく響いた。

 

「どうした? 忘れ物だ」

 

着地した先を一瞥だけすると、ハドラーは掴んだ槍を無造作に投げる。槍を投擲して相手に攻撃しようなどとは微塵も考えていない、本当にただ相手に槍を投げ返しただけの軽い物だった。

ラーハルトはそれを受け取りながらも、忌々しげな表情を隠そうともせずにいた。戦闘中に自ら槍を手放したことは業腹だが、そうしなければ地面に叩きつけられて軽くはないダメージを負っていただろう。

 

「くっ!! これが、今のハドラーの実力!?」

「傷が……!」

 

吹き飛ばされた身体を起こしながら、クロコダインが叫んだ。それぞれが指折りの実力者だというのに、まるで赤子の手を捻るようにあしらわれるそれは悪夢にも近い。

そしてヒュンケルは、想像していた通りの光景に軽く舌打ちをする。剣を掴んだときの傷は重くはないが、すぐに止まるほど軽くもない。少なくともたった数秒程度でどうにかなるものでは絶対にないのだ。それを確認したことで、現在のハドラーの状態が事前に聞かされていた通りだという確信する。だが――

 

「これが、超魔生物の力か……!!」

「……ッ!」

 

口を突いて出来たラーハルトの言葉に、ヒュンケルは思わず身を硬直させた。彼だけではなくクロコダインもまた同じ事を考えていたのだろう、視線を声の主へと投げかける。

 

「ほぉ……耳が早いな?」

 

ハドラー本人もまた、たったこの程度で見抜かれる――それも、実際に超魔生物との戦闘経験があるダイたちならばともかく、初めて戦う相手に看破される――とは思っていなかったらしく、初めてその表情を僅かに変化させていた。

口にした本人自身、失言だったと自覚しつつも平然を装って口を開いた。

 

「ダイ様たちから聞いていたからな。事前に知っていれば、そのくらいの推測はつく」

「なるほど、奴らはロモスでザムザを倒していた。ならば伝わっていても不思議ではないか」

 

同じ考えを持っていながらも、チルノに懸念されていたことを口を滑らせてしまったことに対して、ラーハルトは臍を噛む。だが、一度口に出してしまった以上はもう取り返しが付かない。

幸いにもハドラーは特に気にした様子もなく、納得した様子を見せている。そして、ダイたちとの関係を考えれば充分にあり得ることだ。

 

――果たして今ので誤魔化すことができただろうか?

 

思わず生唾を飲み込みながら、真相に気付くことはないはずだと自身へ必死に言い聞かせ、彼らは平静を保とうとする。そこへ、三人分の足音が新たに近づいてきた。

 

 

 

 

 

「みんなっ!!」

「な、なんだコイツは……!?」

 

まず現れたのはダイだった。続き、戦士として鍛えられているノヴァがほぼ同時に姿を見せる。

ダイはヒュンケルらが苦戦していることを少し前から闘気を探ることで察知しており、現状では大きな怪我などを受けていないことに一応の安堵を見せた。ノヴァは、初めて見る魔王軍の大幹部に戸惑っていた。なまじ高い実力を持っているだけに、ただそこにいるだけでハドラーの恐ろしさを感じ取ってしまい、その身を僅かに震えさせる。

 

「ハァ……やっと追いつ……ハ、ハドラー!?」

 

そして少し遅れて、チルノが姿を見せる。純粋な身体能力でも二人に劣り、闘気を察知する能力にも未熟な彼女は――予想こそしていたものの――自身の目で見てようやく相手が誰なのかを悟った。

 

「現れたかダイ! この日が来るのを待ちわびたぞ!!」

 

待ち望んでいた相手との邂逅に、ハドラーは歓喜の叫びを上げる。なにしろ自らの身命を賭し、全ての誇りを捨ててでも勝ちたいと願った相手がようやく目の前に現れたのだ。これが喜ばずにはいられようか。口角が自然とつり上がることを抑えきれなかった。

 

「この日のためにつまらぬ誇りを捨て、魔族の身体すら捨て、この地に赴いたのだ! さあ、オレと勝負してもらおう!!」

「気をつけろダイ! ハドラーは、その身を超魔生物へと変えている!!」

「えっ!?」

 

ヒュンケルの叫びを聞き、そしてダイは初耳というように反応を見せる。

 

「フフフ……その通り! お前を打ち倒すことだけを願い、全てを捨てることで、オレは(ドラゴン)の騎士すら超える力を手に入れた!!」

 

ハドラーは叫びと共に、堪えきれなくなったかのように闘気を噴出させた。それを見て真っ先に反応したのはダイの背負う剣だった。意志を持つように宝玉を光り輝かせ、微かな金属音を響かせながら、ダイの剣は自らの戒めを解き放つ。

 

「剣が、勝手に!?」

「封印が……解けた!」

 

剣の持ち主たるダイと、そしてヒュンケルらダイの剣の事情を知っている者達は、その光景に驚きと歓喜の混じった視線を向ける。話としては耳にしているが、この世界では持ち主たるダイを含めてまだ誰も剣の力を見た者はいない。それを目にする機会に恵まれたとなれば、その反応も仕方ないだろう。

 

「ど、どういうことなんだ?」

 

ただ一人、剣が抜けたことがどういう意味を持つのか知らないノヴァだけが取り残されたような表情を見せる。そんな彼を見かねて、チルノは小声でその理由を伝える。

 

「(ダイの剣は魂を持っているの。自分が力を貸さなければ勝てないくらいの強者が相手でない限りは、決して抜けることはないわ)」

「(そうなのかい!? ……なるほど。じゃあ、次に会う時にはあの剣を抜かせるくらいにはならないと!)」

「(え……が、頑張って!)」

 

てっきり、手合わせ中に自分の力は剣を抜かせる事の出来なかった事に対する不満や落ち込んだ態度を取りそうなものだと思っていただけに、予想外に前向きな言葉を耳にしてどうしていいのか困り、とりあえずのエールを送る。

それを聞いたノヴァが心の中でこっそり闘志を燃やしていたりするのだが――それは置いておこう。

 

「それがお前の手に入れた新たな力か……ならばこちらも見せてやろう! オレの力を!!」

 

封が開いたことで漂い始めた剣の力をうっすらと感じながら、ハドラーは今まで潜めていた力を解放する。兜が内側から爆発したようにはじけ飛び、同じようにマントも内圧に耐えきれずに吹き飛んだ。

 

「ううっ!!」

「なんという力だ、あれは……!!」

 

その下から現れたのは、異形の肉体だった。

兜の装飾に見えていた角はハドラー自身の額に生える本物の角。同じ超魔生物であったザムザと比較しても、ハドラーはより洗練された姿となっていた。大きさだけでも、かつてはクロコダインよりも巨大であったはずの肉体は元の姿とそれほど変わらない。つまりそれだけ効率的に詰め込まれているということだろう。腕と脚部、そして胸部にはどこか鎧を思わせる造りをしているが、超魔生物はすべて生体部品が基本だ。何の怪物(モンスター)を取り込んだのかは知らないが、決して見かけ倒しではないだろう。

 

ハドラーの姿を見た二人の勇者は驚愕にも似た声を上げる。その力の一端をようやく目にしたのだ。これだけの驚きも当然だろう。

 

「オレたちを相手にしていたのは、文字通り前座でしかなかったということか!!」

 

そして先ほどハドラーと戦っていた者たちは、自身の体験と目の前の強さとの落差に憤りを隠せなかった。眼前の相手より感じる闘気は先に経験したそれよりもずっと強く、仮に加勢したとしてもどれだけの働きができるのかと戦士の矜持を微かに揺るがされていた。

 

「さあ、抜け!! 何も遠慮することはない!!」

「…………ッ!」

 

ハドラーに促されるまま、背からダイの剣を抜き放つ。白日の下に晒された刀身を初めて目にし、その輝きの強さに頼もしさすら感じる。ならば今の自分に出来ることは、地上最強の剣に恥じぬよう己を力を全て注ぎ込むだけだ。

 

「わかった、おれが相手をするよ……でも、もしもの時は頼む!」

 

決闘の宣言をする同時に仲間達へそう告げながら、ダイは姉から聞いていたことを頭の中で再度反芻する。

 

ハドラーは自身の肉体を超魔生物へと改造させた。欠点であったはずの呪文が使えないという点をも克服した、文字通り完全無欠の敵と呼んでも差し支えない。

その上、相手の胸には黒の核晶(コア)と呼ばれる史上最悪の爆弾が埋め込まれている。黒の核晶(コア)は超魔生物となったハドラーの溢れ出るほどの魔法力を吸収し、いつ爆発しても不思議ではない危険物へと変貌を遂げている。しかも、戦いの最中に呪文や魔法剣の類いを使った場合は誘爆の危険性もあるため、それらの使用は控えねばならない。

 

それだけを聞けば、どれもが絶望的なことにしか思えない。だがダイに有利な点もある。

それは本来の歴史ではハドラーが装備していたはずの覇者の剣が、今はその姿を変えて自身の手中にあるということだ。超魔生物の強さに加えてオリハルコン装備という最悪の組み合わせは避けられた。

ならば、ダイが取るべき戦術はただ一つ。

 

「ほぉ……」

 

剣を逆手に持ち、まるで駆け出すかのように構えるダイを見てハドラーは思わず低く唸る。それは彼が幾度も苦渋を舐めさせられたアバンストラッシュの構えだ。

 

――先手必勝! そして一撃必殺!! それしかない!!

 

全力のアバンストラッシュを放ち、一撃でハドラーの首を落とす。その後、すぐさまルーラを使って爆弾を可能な限り遠くまで運び、それが終われば再度のルーラで自身も安全な場所まで逃げる。

おそらくは、短時間で実現可能な手段はこれだけだろうと判断していた。敵に次の一手を悟られようともその上を行くべく、ダイは(ドラゴン)の紋章を全力で輝かせ、竜闘気(ドラゴニックオーラ)をその身に纏う。

 

「来いッ!!」

 

ダイの狙いを看破したのか知らずのままか、それを見たハドラーは楽しそうに構える。それがダイの心へ不信感を齎し、決め手を急がせた。

 

「アバンストラッシュ!!」

 

十分な溜めを用意してから放たれたダイの必殺剣は、オリハルコンの剣の威力が加わったことで天地を揺るがすほどの威力を誇っていた。威力に優れる(ブレイク)タイプの一撃に加えて、(ドラゴン)の騎士の全力が上乗せされている。如何な生物でも、生身でこの一撃を防ぐことは不可能だろうと誰もが確信する。しかし――

 

「そんな!?」

「ダイの剣を……オリハルコンを防いだだと!?」

 

その一撃がハドラーの首を刎ねることはなかった。

いつの間にか両の手には自身の得意武器である地獄の爪(ヘルズ・クロー)を生み出しており、その爪がダイの剣を受け止めている。

 

「ぬわあぁっ!!」

「うわっ!!」

 

必殺の一撃、それも絶対の自信と必勝の気迫を持って放った攻撃を受け止められ、ダイは次の動作に移るのを一瞬忘れる。その隙にハドラーは腕をなぎ払い、ダイを吹き飛ばす。

 

「狙いは良かった。そして驚いたぞダイ、まさかお前がこんな戦い方が出来るとは……特にオレの首を刎ねんとするヒリつくような殺気は実に素晴らしかったぞ!」

 

離れたダイへ向けて、ハドラーは得意げに言う。

 

「だが残念だったな。このオレも、少しはオリハルコンを持っている。そしてそれをこの地獄の爪(ヘルズ・クロー)に組み込んだのよ。これがなければ、勝負は決していただろう」

「そんな! それはたしか、自分の肉体を魔力で硬質化させる技だったはず……!?」

 

覇者の剣がハドラーの手に渡ることもなく、戦いはダイの有利に運ぶはずだと信じていたのだ。その根底が崩され、チルノは思わず叫ぶ。それも、彼女が思いもよらぬ手段を使って差を埋められればそうもなろう。

 

「ああ、その通りだ。どうやら一部がオリハルコン化したようだが……さほど問題ではない」

 

チルノの嘆きの言葉を聞きながら、子細ないといった様子を見せる。自らの肉体の一部が金属へ変質しているにも関わらず、本当に頓着がないようだ。

 

――どうしたら……

 

その反応を見ながらチルノは逡巡する。

オリハルコンの剣を右腕に埋め込んだ本来の歴史と異なり、この世界のハドラーは地獄の爪(ヘルズ・クロー)をオリハルコンにするという荒技をやってのけている。リーチこそ剣には及ばぬものの、両手から生み出すことができる。ならば両腕ともオリハルコンとなっていると考えるべきだろう。

加えて、ハドラーは元々格闘術を得意としていた。本来の歴史でも剣を操りダイたちを相手に途轍もない強さを見せていたが、それが今回は元来得意とする攻撃を行ってくるのだ。ある意味厄介さでは、覇者の剣以上かもしれない。

 

姉が頭を痛めるその一方で、ダイもまた戸惑っていた。

全ての目論見が外れ、全力の一撃を防がれたことは彼の肉体と気力を少なからず消耗させていた。たった一度攻撃しただけだというのに大きな疲労感を感じ、だがそれでもハドラーを相手にどうにか戦おうと瞳だけは闘志を燃やす。

 

「そうだ! それでいい!! 貴様の持つ力の全てを引き出せ!! あらゆる手段を試してみせろ!! それを上回らなければ、勝利の意味がない!!」

 

その目が死んでいないことを見て取り、ハドラーは歓喜と共にダイを戦いへと駆り立てるべく叫ぶ。そして焦燥感を煽るようにゆっくりと歩みを進め、ダイへと近づいていく。

 

「ぐうぅッ!?」

 

そして両者の距離が四歩ほどになったところで、突如としてハドラーは雷に撃たれた。天空より降り注いだ一条の光がその肉体を包み、高圧電流がその身を焼く。まったく意識の外からの攻撃に思わずその動きを止めた。

 

「なんだ!?」

 

予想外だったのはダイたちも同じである。

 

「今のは、雷撃呪文!!」

「まさか……!!」

「あ……っ! ああっ!!」

 

だがそれは彼らからすれば天の助けだ。そして、その原因となる人物にも心当たりがある。

急ぎ周囲を探し始め、そしてラーハルトが声にならない歓喜の声を上げた。

 

「どうやら、好機に恵まれたか……」

 

その言葉と共にバランが姿を表した。

 

「怪我はないか?」

「あ、うん……」

「ならばここからは私が代わろう」

 

おそらくはルーラを使ったのだろうが、いつ姿を現したのかはこの場にいた誰の目にも見ることはできなかった。いつの間にかダイの隣へと並んで立っていたのだ。

そしてバランは、ハドラーなど眼中にないかのようにダイへと声を掛ける。その言葉にダイは戸惑いながらも返事をするのが精一杯だった。

一方、攻撃を受けたハドラーはバランの姿を見た途端、豪快に笑いだす。

 

「バランか……クククク……ワッハッハッハ!! どうやらオレも運が向いてきたようだ!!」

「フン、下手な強がりはそのくらいにしておくのだな」

「強がりなどではない。かつて貴様が部下だった頃は、いつオレの権力の座を上回るかと日々恐々としていた……ダイと共にオレを倒しに来るのだろうと考えていた」

 

かつての日々を思い出しながら、ハドラーは言葉を紡ぐ。

 

「だが今やそれを、お前達との戦いを望んでいるのだ……これを幸運と言わずして、何と言う!?」

「戯れ言を……どうやら雷撃呪文程度では灸にもならなかったようだな!」

 

再びハドラーへ手痛い一撃を加えるべく動こうとするバランだったが、だが急にその動きを止めた。

 

「まだ早いと思っていたが、どうやらそうも言ってられんな……抑え切れん!」

 

その原因はハドラーだ。

ダイとバラン、二人の(ドラゴン)の騎士を見たことで、まるで堰を切ったように闘気が溢れ出ていたのだ。

 

「まさか……!!」

「馬鹿な、それは……!!」

 

二人の(ドラゴン)の騎士が、同時に呻く。その口から流れ出るのは、絶対に有り得ない物を見たことによる驚きに満ちた声。

 

無理もないだろう。

ハドラーの全身を、黄金色の闘気が覆っていたのだから。

 

 




ハドラー様の纏った闘気……あれは一体……
バレバレだと思いますが、正体は皆様がご想像されているであろう"アレ"でございます。

その通り、スーパーサイヤ人です(大嘘)

伏線としては――
・命を賭けたフレイザードを見た結果
・ダイとバランの戦いの途中の出来事
・バラン撤退後、改造手術を受ける際のハドラーの言葉
・ザムザが使ったダイにだけ効果を発揮する毒
・ミストとキルの反応
辺りでしょうか。
(詳細は次回)
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