隣のほうから来ました   作:にせラビア

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時期的にTV放送もう来週くらいか……どうなることやら……



LEVEL:83 真実のヴェールを剥ぐ時

「ダイ君! チルノ!! みんな!!」

 

遠く、街中の方向から声が響いてくる。そちらを見れば、レオナが兵士達や三賢者を伴ってダイたちの元へと駆け寄ってくる姿が確認できた。

兵士達は全員が完全武装をしており、来襲したハドラーを相手に戦おうとしていたことが分かる。

 

「ごめんなさい、遅れちゃって……」

 

相当急いでやってきたのだろう、やってきた兵士たちは微かな疲労の色を見せていた。何しろハドラーとの激闘は、その内容こそ激しい物であったが実時間としてはそれほどでもない。

ハドラーがパプニカの地にやってきてという知らせを受けてからの僅かな時間で考えれば、十分すぎるほどに即応していると断言できる。

 

「すごい闘気を感じたのだけれど、あれはまさか……」

 

マァムもまた、レオナと同じタイミングで姿を現していた。彼女の場合、都市から少し離れた位置にいたのが災いしたようだ。移動呪文も持たない彼女からすればこれでも充分破格の速度といえるだろう。

 

「すまねぇ、気付くのが遅れた!!」

 

そして二人の登場に遅れること数秒ほど。瞬間移動呪文(ルーラ)によってポップが姿を現した。尤も彼の場合は、この中で目的地から一番遠くにいたことに加えて、戦士でもないため闘気の高まりを察知するのに時間が掛かっていた。むしろダイたちが放った大呪文の連発のおかげでようやく気づけた。

 

「ううん、来てくれてありがとう。レオナ、マァム、ポップ」

 

確かに戦闘には間に合わなかったが、今回は突発的な物だ。ついでに言うならば、チルノが事前知識を渡したために、こんなことになるとは考えにくかったというのも一因かもしれない。

何よりもやってきてくれたことが単純に嬉しいのだ。救援にやってきた仲間達へ向けて、チルノは痛みを押して笑顔で礼を述べる。

 

「……ってチルノ! あなた怪我してるじゃない!!」

 

だがその傷はすぐにレオナが気付くこととなった。というより、頬から血を流している時点で気付かない筈もない。加えて斜め振り下ろすように走った剣筋が彼女の右腕を切り裂いており、こちらも出血している。今は止血するように左手で押さえているのだが、流れ出る鮮血が少女の服を後から後から赤く染め上げている。

こうなっては気付かない方がおかしい。

 

「ああ、大丈夫よ。このくらいならすぐに治せるから……」

「ダメダメ!! 闘いに間に合わなかったんだから、せめて怪我の治療くらいはさせて!!」

 

大げさなほどに大きな反応を見せる親友の態度を見て、それを落ち着かせるようにチルノは回復魔法を唱えようとする。だがそれは他ならぬレオナ自身の手によって止められることとなった。

彼女はそう言うが早いかすぐさま患部へと手をかざし、呪文を唱える。

 

回復呪文(ベホマ)

 

使われた呪文にチルノは軽く息を呑んだ。

何しろベホマといえば、顔面に負った火傷の傷すら瞬く間に治癒させるほど強力な回復呪文である。確かに彼女も顔に傷がつけられてはいるが、さすがにベホマを使うほどの大怪我ではない。

単純にレオナの厚意と、闘いに間に合わなかった事に対するせめてものお詫びというところか。そこまで推し量ると、もはや口を出す方が失礼と考えてチルノは大人しく彼女の治療を受ける。

 

「忘れるところだったわ。ノヴァ、ありがとう」

 

治療を受けながら、チルノは思い出したようにノヴァへと礼を言う。

 

「あなたが飛び込んで助けてくれなかったら、下手したら今頃キルバーンにやられていたかもしれないもの。本当にありがとう」

「い、いやそれは、当然のことをしたまでで! そ、それよりも、傷の具合は……?」

 

チルノの言葉に慌てて返事をしながら、慣れぬ様子で返事をする。そう尋ねたところで丁度レオナの治療が終了したらしく、彼女は満足そうな表情で手を離した。傷自体はそれほど大したわけでもなし、短時間で完治させることができたようだ。

 

「そんなに深く斬られていないし、レオナが過保護にベホマを使ってくれたから。ほら、もうすっかり元通りに――」

 

渡りに舟とばかりに少女は何でもないことをアピールすべく、左手を離し右腕を元気よく振るって見せる。すると――

 

――はらり。

 

実際には決して聞こえることのない。けれども、この場にいた全員の耳には間違いなく届く。そんな音が響いた。それと同時にチルノは胸元に微かな違和感を感じていた。まるで今まであった物が突然なくなったような、心許ない喪失感とでも言えばいいのだろうか。

 

少女は感覚の赴くまま視線を下へと向け――

 

「~~~ッ!?!?!?!?」

 

声にならない悲鳴を上げた。

いつの間にかチルノが纏っていたローブが大きく切り裂かれており、彼女の胸元が露出していたからだ。ぱっくりと開いた裂け目からは褐色の肌が覗き、それどころかチルノの胸の膨らみまでが丸見えだった。となれば当然、その膨らみの頂点もだ。

 

今まで何ともなかったのは、チルノが左手で押さえていたことで偶然にもはだけることがなかっただけであり、完治したことをアピールしようとした結果がこのような事故を招いていた。

 

「こらぁっ!! 男どもは見るなぁっ!! 黙って後ろを向く!!」

 

さすがに同性、レオナの反応は早かった。居並ぶ男達に向けて有無を言わさぬ迫力で命じると、チルノの身体を隠すように彼女の正面に立つ。その場の男性全員が後ろを向いたことを確認すると、彼女は次の行動に移る。

 

「とりあえず布で隠せば良いのよね!?」

「姫様! だからといってご自身のお召し物を破るのはおやめください!! それならば私が!!」

「落ち着きなさいエイミ! あなた、その格好のどこを破る気!?」

「マントか何かがあれば……私、取ってくる!」

「待ってマァム! マントだったら私もマリン達も付けているから!!」

 

……どうやら、現場はほどよく混乱しているようだ。

 

とはいえ、一番混乱しているのはチルノだろう。彼女は座り込み膝を抱えるように身を小さくして、顔を真っ赤にしていた。

普段ならば彼女の持つ生産技能を使ってこの程度はすぐに直せるのだが、そうすることに思い当たらない辺り彼女の受けた衝撃は大きかったようだ。

――まあ、仲間たちを含めて、さらには大勢のパプニカ兵士達にも見られたとなればその反応は至極当然というものだろう。

 

「み、見ら……見られ……!?」

「大丈夫! 事故だから!! すぐに後ろを向かせたから!!」

 

マリンから奪い取るように引っ剥がしたマントを手にしながら、彼女を落ち着かせるように強く言う。そう断言してから、レオナは思い出したように呟いた。

 

「……あ、でもダイ君は見てもいいのか」

「ええっ!?」

「いやいやいや! ちょっと待ちたまえ!! いくら姉弟であっても、それはどうなんだい!?」

「こっちを見ない!!」

 

聞き捨てならない言葉とばかりにノヴァが反応を見せるが、レオナが即応して怒鳴ることで事なきを得る。

 

「なぁなぁ、今さら聞くのも間抜けな話なんだけどよ……」

 

一方、そんなやりとりを見聞きしながら、ポップが遠慮がちに口を開いた。

 

「コイツ誰なんだ??」

 

そう言いながらノヴァを指さす。それは、至極尤もな疑問だった。

何故か横一列に並んだまま、所在なさげに後ろを向いた男達の間ではノヴァの自己紹介が行われ、続いて何故ダイだけが例外なのか。その理由説明会が開催された。

 

 

 

 

「ふーん、北の勇者ねぇ」

「そんな……二人がまさか……」

 

ノヴァの出自についてはチルノから多少なりとも事前に聞いていたこともあり、ポップたちは特に不信感を持つことなく受け入れていた。それと対象的に、ダイとチルノの現在の関係を聞いたノヴァは落ち込んだ様子を見せる。

まあ、淡い想いを抱いた相手が既に婚約していたと知らされれば感情の処理が追いつかなくても仕方ないだろう。

 

「ノヴァ、姉ちゃんを助けてくれてありがとう! おれじゃ、きっと間に合わなかった……もしもノヴァがいなかったら……」

「いや、気にしないでくれ……」

 

相手のそんなの内心に気付くこともなく、ダイは命の恩人たる相手へと邪気のない礼を述べる。すっかりと消沈しながら、ノヴァはなんとか返事をするのが精一杯であった。

ちょっと前まであれだけ元気だったのに何があったのかと首を捻る者が散見されるなか、ポップだけは「ああ、なるほど。挑戦する前に失恋したのか……」と彼の内心を慮ってこっそり同情の涙を流していたりするが。

 

そして、ダイとチルノの関係を聞いて戸惑っている者はもう一人いた。

 

「ううむ……」

 

誰であろう、パーティにようやく合流したバランである。

彼からしてみればその報告はまさに寝耳に水。少し別行動をしていた間に息子が生涯の相手を決めていたとなれば、絶句するのも当然と言う物だ。

 

「まさか、そのような事になっていたとは……」

「申し訳ございません。最初にご報告しておくべきでしたでしょうか?」

 

思わず口から零れ出た言葉を耳ざとく拾い上げ、ラーハルトがバランの方へ視線を向けながら頭を下げた。その動作の間ずっと、背後のチルノを視界に捉えないよう気を遣っている辺りは流石の忠誠心といえた……間違った努力のような気もするが。

 

「い、いや、構わん。そもそもあの状況ではそんなことを話すことなど不可能だろう」

 

そんな忠臣の苦労を労るように、バランもまた声を掛ける。

仮に、ダイとハドラーが戦っている最中に割り込み、久しぶりに再開したかつての部下から開口一番聞かされたのが息子の婚約報告だったならば、果たしてその後の戦闘へのモチベーションは保てただろうか。

 

「はい。もう終わったから、こっちを向いてもいいわよ」

 

そんな意味不明な仮定を頭の中で真剣に考えていたところで、レオナの声が聞こえてきた。その言葉に従い彼らは再び振り返る。そこにはマリンが付けていた空色のマントをバスタオルで身体を隠すように身に纏っているチルノの姿があった。

既に混乱や羞恥の感情は鳴りを潜めたらしく、真剣な表情でバランを見ている。

 

「バラン、遅くなったけれどダイを助けに来てくれてありがとう」

「……礼には及ばん。そもそもやるべき事をやるだけの時間が欲しいと言ったのはこちらだ。それを考えれば、お前らに責められたとて文句は言えん」

 

突き放すような程に禁欲的(ストイック)なバランの態度を見て、チルノは一つ悪戯を思いついた。にっこりとした笑顔を浮かべながら次の句を口にする。

 

「父親らしく、ダイにカッコいいところも見せられたみたいだしね」

「むっ!?」

 

それはかつて、テランにてバランとの別れ際にチルノが口にした言葉だ。父親ならば息子にカッコ良い姿の一つでも見せてみろという言葉に対し、バランはダイの窮地に颯爽と登場して敵を追い払うという活躍を見せた。

父親の面目躍如と言う意味では、これほどのこともないだろう。

 

「あれは別に、そう言う意味の行動では……」

「照れなくてもいいじゃない」

 

そう言いながらくすくすと笑うチルノの姿に、ヒュンケルらも釣られるように笑顔を見せ始めた。ラーハルトも満足そうに笑い、けれどもダイだけは少し複雑な表情を浮かべている。

周囲からの反応に当惑するバランへ向けて、チルノは危惧していたことを伝えるべく口を開く。

 

「でも、ハドラーとはまた戦う事になるはず。だから、忘れないうちに話をしておくことがあるわ」

 

そう前置きしてから、ハドラーの肉体の秘密について述べていく。

超魔生物という存在とその強さと恐ろしさについて。

そして、バーンの手によってハドラーの胸に埋め込まれた恐ろしき爆弾の存在について。

 

「馬鹿な!! 黒の核晶(コア)だと!? それがハドラーに!?」

 

そこまで話を聞いた途端、バランは目を見開き叫んでいた。

かつて自身も体験したことのある悪夢の兵器の名を耳にして、それだけで思わず冷や汗を流すほどだ。

 

「ええ、そうよ。ハドラーの胸にあるのは拳大(こぶしだい)くらいの大きさの物。それも、超魔生物の魔法力を限界近くまで吸っているはずの物が……」

「ありえん!! そんなことがありえるはずがない!! ライデインストラッシュにギガブレイク、そしてハドラー自身の極大閃熱呪文(ベギラゴン)が激突したのだぞ!!」

 

先ほどの闘いを頭の中で繰り返しながら、バランは叫び続ける。

なるほど、ギガブレイクを使おうとした際にダイが戸惑っていたのはそういう理由かと今になってようやく合点がいった。

同時に、黒の核晶(コア)を平然と使用し、あまつさえそれを部下へと埋め込むというバーンの所業。なによりその爆発に自分とダイが巻き込まれる可能性があったという事実に抑えがたいほどの憤りを感じながら。

 

「私もダイも、爆発で軽くはないダメージを受けた。中心部にいたハドラーのダメージはそれ以上だ! それだけのことがあっては、限界間際の黒の核晶(コア)は間違いなく誘爆する!!」

「間違いない?」

「無論だ」

「やっぱり、そうなのね」

 

念を押すように尋ねると、バランは自信を持って首肯してみせた。それを見たチルノもまた、得心がいったとばかりに嘆息する。

 

「どういうことだ?」

「私達の中で一番詳しいバランが、あの闘いで誘爆しないのは有り得ないと断言している。となれば、結論は一つだけ」

 

勿体ぶるように指を一本立てると、チルノは自身の推論を口にする。

 

「ハドラーには、黒の核晶(コア)が埋め込まれていない。ということよ」

 

 

 

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ここで一旦画面は変わり、時計の針は僅かに進む。

 

傷を癒やし身なりを整え直したハドラーは、大魔王バーンへ目通りと申し開きをすべく、ザボエラを伴って謁見の間へと出向いた。処罰もやむなしとすら考えていたハドラーであったが、事態は彼がまったく考えなかった方向へと動く。

それは、大魔王バーンとの直接の目通りであった。

 

それまでカーテンによって仕切られその影と威圧感程度しか感じることが出来ず、果たしてあの薄布の向こうにはどの様な化け物が潜んでいるのかと戦慄していたハドラーであったが、意外にも正体は、年老いた老人だった。

豪華だが華美にはならぬ仕立ての良いローブとマントを纏い、頭部からは左右に大きな角を生やしている。だが髪も髭もが白く染まっており、衣服の下から覗く肌には加齢による深い皺が刻まれている。

 

どれだけの年月を生き抜いてきたのだろうか、その姿から漂ってくる存在感は凄まじい。瞳の奥にはまるで老獪さの影に若々しさが見え隠れしており、なんとも恐ろしい物だとハドラーは感じていた。

だがそれほどの迫力と畏怖を感じてなお、ハドラーは大魔王の実力に疑問を感じずにはいられなかった。魔界の神と呼ばれるだけの力を持っているようにはとても考えられない。

超魔生物となった彼からすれば、バーンの肉体は枯れ木のように細く、頼りないものにしか見えない。

 

バーンは大理石の椅子へと腰掛け、その前には同じ素材で出来たテーブルにてチェスを嗜んでいる。駒を手に持ち、しばし思考すると手を進める。だが対面に指し手はいない。仮想の相手と対決でもしているのだろうか、ハドラーへの注意などまるで向けていないようにしか見えない。

対してハドラーは、膝を付き臣下の礼の姿勢を取っているものの、その意識はバーンへ過剰なまでに注がれている。距離も一足飛びすれば届く程しか離れていない。

 

その気になれば、今すぐにでもへし折ることができるのではないか。そんな考えが頭を過り、彼は思わずマントの下の拳に力を込める。

 

「……試してみるか? ハドラー……」

「……ッ!!」

 

ほんの僅かに殺気が漏れ出たのか、ハドラーの微かな変化をバーンは即座に見抜くと相手の反応を窺うようにニヤリと不敵な笑みを浮かべる。たったそれだけで、ハドラーの全身からドッと汗が噴き出した。

 

「は……はははああーッ!! ごっ、ご無礼を……!!」

「ふふふっ、よいよい……」

 

深々と頭を下げるハドラーであったが、もはやバーンはハドラーへと視線を向けてすらいなかった。まるで何事もなかったかのように再びチェスの駒を掴む。

 

「余はかねてより、お前のそういう所を気に入っておったのだ。その尽きることを知らぬ覇気と強さのみを信じる心をだ。最近少々、お前らしからぬ態度が目立っていたゆえ、そのように覇気があるところも見られて、余も安心しておる……」

 

――か、勝てぬわ……このお方には……器が違い過ぎる!

 

含み笑いを上げるバーンの言葉を耳にしながら、自身と大魔王との間の圧倒的な格差をハドラーは痛感せずにはいられなかった。

 

「それにその望み、叶えてやらんでもない」

「な……っ!?」

「おやおや?」

 

今度はミストバーンとキルバーンまでもが驚かされる。特にミストバーンに到っては、そうそう許容出来る言葉ではない。今のハドラーが相手では万が一がないとも言い切れないからだ。

思わず動こうとするが、彼の心配は杞憂に終わる。

 

「……ハドラーよ、一局どうだ?」

「は……?」

「なに、ほんの戯れにすぎん。もはや指す相手もいなくなって久しくてな。無論、勝敗に文句を付けるつもりもない。よもやルールを知らぬというわけでもあるまい?」

 

そう言いながら対面へと座るよう視線で促すが、ハドラーは突然のことに理解が及ばず呆けた顔を見せたかと思えば、すぐさま伏した。

 

「た、嗜む程度には存じておりますが、バーン様を満足させられるほどのお相手にはとてもとても! どうかご勘弁ください!!」

「そうか、残念だ。そなたが持つ(ドラゴン)の騎士の力……ならば闘いの遺伝子も持ち合わせていると思っていたのだが」

「た、闘いの遺伝子……ですか?」

「どうやら、その様子では知らぬと見えるな」

 

いささか落胆したような口調だった。

 

「闘いの遺伝子とは、歴代の(ドラゴン)の騎士が蓄積した戦闘経験を引き継ぎ、次代の(ドラゴン)の騎士へと継承させる能力のことだ。この能力があれば、どの様な強者であろうともいずれは対処法を編み出されかねん。それに加え、過去の経験と類似した攻撃などは即座に対応される。どのような手を繰り出してくるか、常に未知の物となるのだ。これと比べれば、竜闘気(ドラゴニックオーラ)竜闘気砲呪文(ドルオーラ)もかわいいものよ」

「そ、それとチェスがどのような関係が?」

「そもそもチェスは、六種類の駒を動かす盤上の戦争のようなもの。ならば受け継いできた経験の中を、遊戯にも活かせぬかと思ってな」

 

冗談とも本気とも取れる、なんとも判断の難しい様子だった。付き合いの長いミストバーンですら、その言葉が戯れなのか、それとも何らかの隠喩なのか判断が出来ないほどに。

 

「今になって思えば、失敗したな。まさかバランが余の元を去るとは……こうなる前に一局くらいは対局しておくべきだったか……」

 

そう呟かれ、ハドラーは一瞬ビクリと身体を震わせた。

なるほど、これを言いたかったのかと判断した彼は、一度は上げた顔を再び地へと擦りつける。

 

「も、申し訳ございません!! 我が失態が原因で」

「よいよい、気にするな。確かにバランは失ったが、お前は余の狙い通り殻を破って――」

 

そこまで言いかけて、バーンは言葉を止めた。

 

「――いや、余の予想すら超えて見せた。竜闘気(ドラゴニックオーラ)を操り、(ドラゴン)の騎士二人を相手にあれほどの闘いを見せたのだ……先の通告はこの際破棄する。そして、お前の魔軍司令の座もな」

 

先の通告とは、これ以上失態を重ねるようであれば必罰を与えるというものである。圧倒的な成長を見せた今のハドラーの姿を見てそれを破棄したのは理解できる。だが立場をも奪うとはどういうことか。

問いただそうとするよりも先に、バーンは言葉を続ける。

 

「六大軍団も今や形骸のようなもの……ならば、その総指揮はあえてお前が取らずともよかろう? ハドラーとその親衛隊には、今後はこの死の大地の守護を命じる……いずれ勇者どもは、余の首を取りにこの地へ来る。ならば何の問題もないはずだ。お前の目的にも違わぬはずだ。違うか?」

「ご温情、誠にありがとうございます!! ダイを、アバンの使徒を倒すのは私に残された最後の望み!! それが叶えば、もはや悔いはありませぬ!! ……仰せのままに」

 

格別の配慮をされたことを感じ、ハドラーは激しい感謝の念を見せる。そして、改めて忠誠を誓うかのごとく深く頭を下げた。その堂に入った態度は、バーンの心を満足させるに充分に足り得るものだ。

 

「そうそう、忘れるところであった。余の期待を上回ってみせたのだ、褒美の一つも与えてやらねばな……色々と考えたのだが、こういうのはどうだ?」

 

その姿を満足したように眺めながら、さも今思い出したかのように言うと、バーンはハドラーへ向けてチェスの駒を投げる。兵士(ポーン)騎士(ナイト)城兵(ルック)僧正(ビショップ)女王(クイーン)の五種類がまるでハドラーを(キング)と認め守護するように並び立つ。

突然目の前へと現れた五つの駒は、不思議な輝きを放っていた。下手な宝石など足下にも及ばぬ程の目映い光沢にハドラーは一瞬目を奪われ、だが次の瞬間にその正体に気付いた。

 

「これはまさか……オリハルコン!?」

「その通り……さすがに見抜いたな……」

 

それもまた、バーンの期待通りの反応であった。

 

「その五つの駒は、お前にくれてやろう。かつてフレイザードを生んだ禁呪法を使い、その駒からお前を(キング)と仰ぐ最強の軍団を生み出せたら……面白いとは思わんか? ん?」

「よ、宜しいのですか!?」

「余がやって見せよと申しているのだ。その言葉が分からぬわけではあるまい?」

「ははあぁーーっ!!」

 

身に余るほどの期待に加え、オリハルコンを与えるという望外の配慮である。神の金属と呼ばれ、絶対数に限りあるオリハルコンをチェスの駒へと加工し、かと思えば惜しげも無く部下へと与える。バーンのスケールの大きさを改めて感じ取っていた。

 

(ドラゴン)の騎士の力を持ったお前と、オリハルコンより生み出された最強の親衛隊。そなたらが勇者どもを打ち倒したという吉報を、楽しみにさせてもらうぞ……その時には、余のチェスの相手でもしてもらうとするか」

「畏まりました! どうかその日をお待ちください!!」

 

意気揚々とした返事をし、ハドラーは五つの駒を持って退出しようとする。

 

「あ、え……お……?」

 

その行動に驚かされたのは、背後にいたザボエラである。

超魔生物へと改造し、(ドラゴン)の騎士の細胞をも付け加えた、いわばハドラー強化の立役者だ。その自分のことを何故話題に出さないのか。ハドラーもバーンも、まるで自分がそこにいなかったかのような扱いを見せたことに腹の中では憤慨するものの、だがそれを口に出す度量など彼にはあるはずもない。

 

「で、ではワシもこれで……」

 

まるで場違いな道化師のようにその場に残され、バーンはおろかミストバーンとキルバーンからも冷たい視線を向けられる。その空気に耐えきれず、そそくさとその場を後にしようとした時だ。

 

「ザボエラよ、お主は残れ」

「ひょ……!?」

 

不意に投げかけられたバーンの言葉に、ザボエラはその身を硬直させた。

 

「お主には、少々聞きたいことがある」

「い、一体……なんのお話でございましょうか……?」

 

慌ててその場に伏し、声を震わせながらなんとか声を絞り出す。既に機会を失している以上、これ以上は碌な事を言われる物ではないだろうという判断からだ。

 

「まずは、先の話の続きからだ」

「先の話と……仰られますと……?」

「そう緊張せずともよい。余はお前のことを買っておるのだ。短期間で超魔生物へと改造し、(ドラゴン)の騎士の力をも操らせてみせた。ハドラーの胆力あってこそのものだが、それだけの技術力を持つお前も誇って良いだろう」

「ありがとうございます!」

「だがな……」

 

予想外のお褒めの言葉に、ハドラーとは別枠での報償も期待できるのかとザボエラは心を躍らせた。だがそれも、次のバーンの言葉によって凍り付かされる。

 

「黒の核晶(コア)……」

「ッッ!!!!」

「ザボエラよ、余が気付かんと思っていたのか?」

「バーン様、一体なんのお話でしょうか……?」

 

会話の意味が分からず、ミストバーンが口を挟む。だがバーンは僅かに笑みを浮かべる。

 

「それについては、もはや余よりもザボエラの方が詳しいであろう。さあ、遠慮はいらぬ。申してみよ」

「……ハドラー様の肉体には、黒の核晶(コア)が埋め込まれておったのですじゃ。超魔生物へと改造する際に、ワシはそれに気付きました」

「な、なんとッ!?」

「へぇ……災難だねぇハドラー君も」

 

その言葉に誰よりも驚いたのもまた、ミストバーンだった。ハドラーの肉体を改造する際に気付いたということは、爆弾そのものは以前から埋め込まれていたということ。そしてミストバーンがその事実を知らないとなれば、埋め込むことが出来たのは一人しかいない。

同じ結論に達したらしく、けれどもキルバーンは文字通り他人事のような態度を見せる。

 

「ハドラーの身体に、そのような物を仕掛けられたのですか!? 一体どうして!?」

「捨て駒にする気はなかった。ただ、ヤツを死の淵から救った時、万が一のために埋めておいたもの。それだけのことだ」

 

部下からの質問に、バーンは平然と答える。だが、万が一と言い張るには少々――いや、手に余るほど強力な物だ。それを知っていながら埋め込んでいる以上、その気が無かったという言葉は無理があるだろう。

 

「そしてザボエラ。まだ余に言うことがあるのではないか?」

「……気付いたワシは……それを摘出しました……ハドラー様の肉体と結合しかけていたため、少々手間取りましたが……」

 

全てを見透かすようなバーンの視線と圧力によって、下手な弁明は逆効果と悟っていた。おかげで、ザボエラを相手にしているとは思えないほどスムーズに話が進んでいく。

 

「なるほど。骨の折れる作業だろうに、よくぞ果たした。だが、今までのお前ならば気付いたとて放置していそうなものだが……どういう心変わりだ?」

「そ、それは……!!」

 

その問いかけに言葉を詰まらせる。

本当のことをそのまま口に言うのは容易いことだ。だが、それをそのまま伝えるのはこの場ではあまりに心証が悪いのではないか。そう判断し、彼は言葉を必死で紡ぐ。

 

「ハドラー……さまが、気兼ねなく全力を出して戦えるように……ですじゃ……」

「なるほど。そういうことにしておこうか」

 

普段の態度を見ていれば、いやそもそも最初に言い淀んだ時点で、ザボエラが本心では何を考えていたかなどは自ずと見えてくるものだ。

 

「取り出してしまったものは仕方あるまい……では、摘出した黒の核晶(コア)はどこへやった?」

「そ、それは……」

「忘れたのならば、早急に思い出した方が身のためだ。あれは余が魔法力を飛ばすことで起動する」

 

そこまで口にして、バーンは右手の小指を見せつける。その指先には五芒星のような形をした黒い染みのようなものがあった。だが何の変哲にも見えぬそれこそが、ハドラーに埋め込まれた黒の核晶(コア)を爆発させる鍵なのだ。

 

「あり得ぬことだが、うっかりと発動させてしまうやもしれぬ」

「ははあああーーっ!! すぐにでもバーン様へとご返却させていただきます!!」

 

下手な脅しよりもよほど恐ろしい言葉を聞かされ、震え上がったザボエラはそう返事をする。よほど恐ろしかったのだろう、元々老人のようであった容貌が更に年老いた様に見える。

 

惚け、隙を見て何かに利用しようと考えていたのだろう。そう判断したミストバーンは、ザボエラに向ける視線を一段階強める。今回は(バーン)のおかげで大事には到らなかったが、いずれ己の欲のために裏切りかねないとも考えたからだ。黒の核晶(コア)を摘出した理由を言い淀んだのも、その考えを後押ししていた。

 

「では、話を戻そうか」

 

唐突に話を戻すと告げられ、全員が何の話かと首を捻る。

 

「ハドラーは死の大地の守護者となり、魔軍司令の席は空となった。ミストバーン、お主が指揮官となれ」

「……はっ」

「そしてザボエラ、お主には魔軍司令補佐を言い渡す。両者とも、余の為に一層の尽力を期待する」

「は、ははぁっ!」

 

だが続くその言葉で、何を言いたかったのかをようやく理解した。

 

「キルバーン、お前は現状のままだ……だが、一つ聞いておきたいことがある」

「左様で――おやおや、一体何でしょうか?」

 

嘆息と共に返そうとして、予想外の言葉にキルバーンは思わず身を乗り出す。

 

「先の闘い、ハドラーが逃げた後のことだ」

「あれが何か?」

「あの時、誰もの命を取る機会があったはずだ。ならば、バランやダイの命を狙うこともできたはず……それが何故、一介の小娘の命を狙ったのだ?」

「ああ、そのことですか」

 

ようやくそのことに注意が向いたかと、奥底で嘲笑しながらその理由を述べる。

 

「確かに、(ドラゴン)の騎士は目に見えて強力な戦力だ。けれども、その(ドラゴン)の騎士に認められ手傷を負わせるほどの力を持っている。意外な伏兵と呼んでも差し支えない相手ですよ。狙う理由としては充分でしょう?」

「なるほど。理には叶っているな」

「それにハドラー君は(ドラゴン)の騎士二人にご執心のようですし、お邪魔するのも悪いですからねぇ……ああ、ご心配なく。ハドラー君の許可は既に取ってありますから」

 

尤もらしい理由を耳にして、バーンは納得したように頷く。

 

「わかった。好きにするが良い」

「仰せの通りに」

 

――これで、誰にも邪魔されない大義名分が出来たね……

 

従順な態度の裏で、キルバーンは密かに笑う。

 

「それともう一つ、気になることがありましてね。先の闘い、ラーハルト君がハドラー君を超魔生物だと断じたのが少々早すぎたのが、気になったんですよ」

「それがどうかしたのか?」

「ええ、とても大事なことですよ」

 

ダイとチルノは超魔生物の前身であるザムザと刃を交えている。そこから情報を得ているのであれば、その結論に達するのも不自然ではない。だが死神の瞳は、それを見逃すことはなかった。

 

「思い返してみてくださいな。勇者ダイ御一行の活躍振りは、まさに奇跡と呼べる。襲いかかる軍団長を相手に的確な闘いを繰り広げて次々になぎ倒し、遂にはバラン君まで仲間に引き入れてしまった」

 

突然、芝居がかった様子でそう言う。その所作は、まるでダイたちを称賛しているかのようだ。

 

「的確すぎる、と思いません? まるでこちらの手の内を知られているかのようだ」

「……向こうにはヒュンケルやクロコダインがいる。奴らが教えたのであれば、おかしくはなかろう?」

 

当然の反論に、けれどもキルバーンは自信を持って返す。

 

「それも考えました。でももっと――例えば、大魔王軍に誰か内通者がいる……とかはいかがでしょう?」

「馬鹿なことを言うなキルよ。そんなことは、決してありえん」

「そうだろうねぇミスト。そんな相手がいれば、ボクが真っ先に殺しているよ」

 

仮にその説が正しければ、それはバーンに近い位置にいる者でなければ不可能だろう。その様な者がいるはずがないとミストバーンが憤慨するのも当然だ。

キルバーンも自身で理解しているからこそ、肩をすくめるようにして、そう答える。

 

「あくまで仮定の話……ただ、気をつけておくに超したことはない。死神からの忠告ですよ」

「わかった。その忠告、心にとめておこう」

 

――そう。そんな命知らずがいるはずがないんだ。

 

魔界の神たるバーンを裏切ってまで人間に取り入る。そうまでして得られる対価など、おそらくはこの世に存在しないだろう。口にしたキルバーン自身、その可能性は皆無だろうと考えていた程だ。

 

――"チルノの存在"と"裏切り者の存在"

 

一見、どう考えても結びつくはずのない二つの事柄。だがその二つが、死神の中に不思議な警鐘を鳴らし続けていた。

 

 




・遅れて合流する仲間たち
人数多いとそれだけ描写が大変で……
(今気づいたけどゴメちゃんたち……)

・ノヴァさん
今日一日でテンションが乱高下、どころか最高値と最低値を更新する。
(ごめんね、こんな扱いで……)

・はらり
無くても良いシーン。人、これを趣味という。
まあ、大魔王に剥かれたお姫様もいるわけで……

・チェス
実はちゃんと一局勝負させたかった。
「キングをd3へ」
「ポーンをf6に」
0-0(キャスリング)
「ポーンをg8=Q(クイーニング)
「ルークb1(チェックメイト)
とか描写出来たらカッコいいだろうなぁ……って思いました。
(上記はチェスの棋譜の書き方。クイーニングは昇格して女王になった。の意味)
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