隣のほうから来ました   作:にせラビア

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放送始まっちゃいましたね……(2020年10月03日並感)

……ずるぼんのくすぐりシーンが無いってどういうことですか!?



LEVEL:84 竜騎士の決意

「黒の核晶(コア)が……!?」

「どういうことだ!? チルノ、お前の話じゃ、ハドラーの胸に埋まっているのではなかったのか!?」

 

――今のハドラーには、黒の核晶(コア)が埋まっていない。

 

そう結論を口にした途端、仲間たちから口々に驚きや根拠を求める声が上がっていく。それは、最初にハドラーの相手をした三人も同じ気持ちだった。

 

「事前に知っていたからこそ、オレたちの手でなんとか爆弾を取り除こうと考えていたのだがな」

「ああ、オレたちの技は呪文を使わない。ならば、誘爆の危険性が一番低く戦えるオレたちこそが適任だと思ったのだが……」

 

戦士として強大な力を持つ彼らは、自分たちこそがハドラーの相手をしようと考えていた。

自らの言葉通り、誘爆の危険性が最も低く戦えるからこそ適任だろうと。ダイに戦わせて――実力で敗れるならばまだしも――爆弾によって決着をつけられるくらいならば、自分たちが戦う相手だろうと考えていた。

 

「ですが、まさかハドラーがあれだけの強さになっていたとは……いえ、それ以上に竜闘気(ドラゴニックオーラ)までもを使えるようになっていたとは……オレたちの落ち度でした」

 

口惜しそうにそう告げるラーハルトであったが、誰も彼らを責めることなど出来なかった。

三対一でありながら彼らを圧倒するほどの強さをハドラーが持つとは、ましてや誰も知り得なかった力まで使うなど、まさに想定外というものだ。

事実、彼らでなければ早々に圧倒されていただろう。

 

「なんだ、お前らもか」

 

弟弟子(おとうとでし)の意外な言葉に、ヒュンケルは思わず顔を見上げた。

 

「ポップ……お前もか?」

「ああ。おれも似たようなことを考えててな……っても、おれの場合は黒の核晶(コア)対策の方だけどよ」

 

そう口にすると、得意げな表情を見せながら彼は左手から火炎呪文(メラ)を、右手から氷系呪文(ヒャド)を、別々の呪文を同時に発動させて見せる。

 

「その呪文って……まさか!?」

「へへ、ようやくなんとか覚えたんだ。黒の核晶(コア)がどれだけ強力な爆弾だろうと、爆発する前に消し飛ばしちまえば問題ないだろ? 師匠のお墨付きだぜ」

 

――いつの間に極大消滅呪文(メドローア)を……?

 

喉まで出かかったその呪文の名を、チルノは必死で抑える。

彼女は知らないことだが、ガリアンソードを作って貰いにロン・ベルクの所へ出向いていた頃、彼もまたマトリフに願い出て極大消滅呪文(メドローア)の修行を行っていた。

本来の歴史同様、マトリフが放った極大消滅呪文(メドローア)に対してポップもまた極大消滅呪文(メドローア)を放って相殺させるという、文字通り命懸け且つ効率的な修行方法であった。

とはいえ、事前に別々の魔法を操る修行と魔法力を精密にコントロールする修行を行わせられていたおかげで、本来の歴史よりも苦労せずに習得することは出来たが。

 

そして「師匠のお墨付き」という言葉から推察出来る通り、極大消滅呪文(メドローア)で黒の核晶(コア)を破壊可能かどうかも事前に聞いていた。

流石にマトリフ本人も試したことはないだろうが、呪文の特性と黒の核晶(コア)も機械仕掛けという点から判断すれば、充分可能だろうと言うのが彼の出した結論であった。

 

「そっか、みんなも色々考えてくれてたんだ……」

 

仲間たちもまた、自分たちの力で困難を打破しようと色々と方策を持ち出してくれていたのだと知り、チルノは思わず胸を熱くする。

 

「当然だろう?」

「まっ、結局その準備は無駄になっちまったみたいだけどな……で、どういうことだ?」

「ごめんなさい。その話だったわね」

 

少し話題が逸れていたが、ようやく本題に戻ることができたようだ。目頭が熱くなり、涙腺が緩みかけたことを隠すように少女は小さく頭を振ってから、口を開く。

 

「事前に断っておくけれど、これはあくまでも推測……本当に、本当に推測よ」

 

本当に、という言葉をわざと二回使うことで、それが彼女の知る本来の歴史の知識から逸脱した情報なのだということを暗に伝える。仲間達もその意図が伝わったらしく、表情が一段引き締まり、より真剣に話に聞こうと耳を傾ける。

 

「まず確定情報としては、もうハドラーに黒の核晶(コア)は埋め込まれていない。これは間違いないでしょう。バランにも確認したし、あれだけの大呪文が激突した中心にいても、それでも爆発していないことがその証明でもある……間違いないわよね?」

 

一度確認したことであるが、それでもなお念を押すようにバランへと水を向ける。その言葉にバランは再び、力強く頷く事で肯定の意を示して見せた。

 

「……最初っから埋め込まれていなかった、とかは?」

「それは、多分有り得ないでしょうね」

 

おずおずと手を上げながら可能性の一つを口にしたレオナであったが、チルノはその意見を捨てる。

 

「例えば――そうね、レオナがデルムリン島に最初に来たとき、あれはテムジンとバロンがいて王位の簒奪を計画していた、仕組まれたものでしょう?」

「ええ、今となっては懐かしいわね……それがどうかしたの?」

「この世界に私がいなくても、私がいてもそれは起きた。つまり、影響を及ぼすだけの何かが起こらなければ、変化はまず起きないはずなの」

 

テムジンの発言力がもっと低くなるような事件が起きたならば。

バロンがもっと真面目で王家に忠誠を誓う性格になるような出会いがあれば。

もし、キラーマシンを他の誰かが見つけて手に入れていれば。

あの計画は実現されなかっただろう。

 

「でも、その仮定が起こるとすれば、起こせる可能性が一番高いのは私関連だと思うの。でも当時の私は島にずっといて、パプニカに渡る手段も力もない。だから変わらなかった」

 

そういった仮定の事象を例に出しながら、チルノは理由を説明する。

 

「バーンのことも、それと同じ。ちょっかいを掛けたり、バーンの価値観を変えるような出来事なんて起こしていない。だから、そのまま同じように黒の核晶(コア)は埋め込まれていると考えていいでしょうね」

「なるほど……普通なら、世界を二つ作って比較するくらいしないと無理な考えだろうけれど、チルノだったら……」

 

本来の歴史を知り、この世界の歴史を作ってきた少女だからこそ出来る反則的な根拠の提示である。

 

「それじゃあ、元々埋め込んでいた物を誰かが取り出したってことになるの?」

「そういうことになるでしょうね。でも、埋め込んだ張本人のバーンはそれを取り外す理由がないの」

「……まさか!」

 

そこまで口にしたところで、思い当たったようにマァムが口を開いた。やはり、その出来事に直接触れた者だけあって気付くのも早いようだ。

 

「……超魔生物?」

 

今度はチルノが首肯する。

 

「ハドラーを超魔生物に改造したのは、ザボエラよ。そしてザボエラ本人も、爆弾の存在には気付いている。これは間違いのない情報なの」

「じゃあ、ザボエラが取ったんだろ? ……ん?」

 

気楽にそう発言してから、ポップは自分で自分の発言に疑問を浮かべる。

 

「いや、だったらこうして話題にしたり、深刻に話し合ったりしてねぇよな?」

「ザボエラのことだ。気付いた上で、放置しておいたのだろう。ハドラーを体の良い爆弾扱いでもしていた、といったところか……違うか?」

「ええ。その通りよ」

 

チルノの言葉に思わずクロコダインは苦虫を噛み潰したような表情を覗かせる。隠しきれないその表情は、かつての苦々しい経験に裏打ちされたものからだ。

 

「でも、あのハドラーにはそれがない。そして取り除けるのは、ザボエラ以外にまずありえない……だとすると、ザボエラが取り除いたとしか考えられないの」

「ヤツが……一体どういう風の吹き回しだ?」

「多分、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を操れるのが原因ね」

 

ハドラーに生じた、もう一つの想定外。そこから逆算すれば、答えは自ずと見えていた。

 

「普通の超魔生物だったら、失っても痛くはない。ほぼ完成された技術だからね。でも、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を使えるのなら話は別。貴重なサンプルとして出来るだけ長く生かしておいて、そのデータを隅々まで取れば、後々実用化も出来るはず! そう考えた結果、爆弾を取り外した……そんな所でしょうね」

「じゃあ、ハドラーが竜闘気(ドラゴニックオーラ)を使えたのは……!!」

「以前、テランでダイとバランが戦ったでしょう? 血やら皮膚やらは取り放題だったでしょうね。それを、超魔生物の技術を応用して組み込んだ。そんなところだと思うわ」

「そんな、おれたちのせいで……」

「お前達のおかげ……ハドラーがそう言っていたが、そういうことか」

 

バイオテクノロジーと言う言葉を耳にしたことがあり、表層程度でもその技術について知っていれば、(ドラゴン)の騎士の細胞を利用したと考えるのは容易だった。

そしてチルノの言葉に、ダイとバラン――(ドラゴン)の騎士たちは対照的な反応を見せる。

ダイは自分が原因でハドラーを強化させてしまった事を悔やみ、バランはハドラーの言葉の真意をようやく掴み、新たな怒りを燃えさせていた。なまじ正当なる(ドラゴン)の騎士という自負があるだけに、その力を利用されていることは耐えがたい屈辱なのだろう。

 

「それと、言いにくいんだけど……この考えが正解だった場合、別の問題も出てくるの」

「別の?」

「何かあるのか?」

「ハドラーから黒の核晶(コア)が取り除かれたんだろ? それの何が問題なんだ?」

「じゃあ質問、取り除いた黒の核晶(コア)はどこに行ったと思う?」

「……ッ!?」

「ザボエラが隠し持っているのか、それともバーンに返したのか。もう処分されているのか、はたまたどこかに放置されたのか……」

 

そこまで説明すれば、誰もがその危険性に気付いたのだろう。バランですら、先ほどまで見せていた怒りが即座に冷え込み、冷静さな顔を覗かせている。

 

「ハドラーっていう分かり易い目印が無くなった分だけ、もしかしたら今の方がやっかいかもしれないの。いつ、どこに仕掛けられているかも分からないから、常に気を配っておく必要が出てくるかもしれない……」

 

明確な危険性は低くなったかも知れないが、場所が分からないというのは非常にやっかいなことである。本来ならばそういった事前知識など皆無なのが当然であり、今までの方がおかしかったのだが――

 

「まったく、黒の核晶(コア)問題だけでも厄介なのに……キルバーンが、まさか私を狙ってくるなんて……想定外のことが起こりすぎてて、頭が痛くなってきたわ……」

 

――予測の付かない未来という存在を相手に、思わず愚痴を吐かずにはいられなかった。それは、つい先ほど自身の命を狙ってきたキルバーンにも波及する。

もしもあの場で襲ってくると分かっていれば手の打ちようもあったのだろうが、あいにくと本来の歴史ではキルバーンはバランの命を狙って動いていた。その考えが邪魔をしてしまい、まさか自分が狙われるはずがないとチルノはどこかでタカを括っていたようだ。

 

そこまで考え、バランに襲われなかったのかを問いただそうとするが、それよりも前にノヴァから声を掛けられた。

 

「ねえチルノ、少しいいかい?」

「どうかしたの?」

「さっきからキミたちの言っていることがボクには今ひとつ理解できないんだけど……黒の核晶(コア)とか可能性がどうとか……説明してもらえるかい? いや、なんとなくは分かるんだけどね」

 

遠慮がちにそう言うノヴァに追従するように、バランも口を開いた。

 

「私にも頼めるだろうか? 先ほどまでは話の流れを断ち切るのもどうかと思い黙っていたが、何故ハドラーに黒の核晶(コア)が埋め込まれた事を知っているのだ? あの闘いで、そんなことに気付く余裕などなかったはずだ!?」

「……あ」

 

その言葉で、二人が今まで蚊帳の外だったということにようやく気付いたらしい。それはある意味ではチルノの事が全員に自然と浸透していたという証拠でもあるのだが……

とあれ彼らは、慌てて説明を開始した。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「なるほど、理由は分かった」

「そんな……」

 

説明を終えると、バランは複雑な表情でそう答えた。ノヴァはどう反応して良いのか分からず、絶句したままだったが。

とはいえ全てを話したわけではなく、かいつまんでチルノについての説明を行っただけだだが、それでも彼女がいわゆるこの世界の歴史を知っているということは間違いなく伝わっていた。

 

「前にラーハルトにも尋ねたけれど……私が貴方に言った言葉は、未来を知っていたからこそ言えた言葉でもあるの。だから……」

「それ以上口にするな!」

 

だが伝えようとした言葉はその途中で他ならぬバラン自身の手によって遮られた。

 

「たとえ未来を知っていたとしても、お前に言われた言葉は決して間違いではない。そして、お前の言葉、それはソアラの願いでもあったはずだ……今さら考えを変えるつもりもない」

 

断言するような強い口調でそこまで語ると、バランは、チルノに向けて深く礼をする。

 

「ディーノを……いや、ダイを育ててくれたことをもう一度感謝する」

「バラン……ううん、こちらこそ、ありがとう」

 

感謝の態度を見せるバランに対し、チルノもまた受け入れてくれたことに対しての礼の言葉を述べる。意固地となっていた本来の歴史のバランと比べれば、今の状況はきっととても歴史的な事なのだろう。

 

「それと、ノヴァだったか?」

「は、はいっ!!」

 

やがてバランは顔を上げると、今度はノヴァへと視線を移した。差し向けられた視線に、ノヴァは萎縮したように声をうわずらせた。

かつて見習いとしての修行中、戦士団の先輩や父バウスンにしごかれた時ですら、初めて実戦に参加して怪物(モンスター)と戦ったときですら、これほど緊張したことはなかっただろう。

それほどの何かが、ノヴァに襲いかかっていた。

 

「お前のおかげで、息子の愛する人物を失わずに済んだ。改めて礼を言わせてくれ」

「息子……? それってまさか、ダイのことか……!?」

「そう恐れずともよい。今の私は……」

 

そんな相手の緊張は、すぐにバランへと伝わった。とはいえ、自身の素性が素性である。緊張されるのも無理はないと知りつつも、敵ではないということをアピールしようとして、バランははたと気付いた。

 

「いや、そうか……お前は確か、リンガイアの戦士だったな」

 

少し前にノヴァが自ら名乗っていたことを、バランはようやく思い出したように口にする。

もっと早く気付くべきであったのだろうが、何しろあの時は親の知らぬ間にダイとチルノの関係性が大きく前進していたり義娘(チルノ)の服が破れたりで、さながら蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。冷静な精神状態ではなかったために、取りこぼしがあっても無理もないだろう。

眼前のノヴァを射貫くような視線で見つめながら、やがてバランは意を決した。

 

「では改めて名乗らせてもらおう。知らぬ者も聞くがいい。我が名はバラン。かつては大魔王軍にて超竜軍団を率い、リンガイアとカールを滅ぼした者だ!」

 

それは、低いながらも良く響く声だった。たとえ喧噪の中で発せられたとしても、誰の耳にも一言一句違えることなく伝わるだろう。だが、その内容は衝撃的なものだ。

 

「やはり……やはりそうだったのか!!」

 

リンガイアの戦士団に属していたノヴァにとって、それは特に響くものだった。先ほどまでの戸惑いの表情は瞬く間にナリを潜め、彼は反射的に剣を引き抜いていた。刀身が光を反射して輝き、その冷たい光が周囲を一瞬だけ照らす。

 

「ノヴァ! 待って!!」

「止めないでくれ!!」

 

思わずチルノが悲痛な声を上げるが、それでもノヴァは止まることがなかった。手にした剣を正眼に構え、その切っ先をバランへと向ける。

 

「名前を聞いた時は、もしやと思った……けれどチルノやダイの仲間のようだったから、違うとボクはずっと自分に言い聞かせていた……」

 

苦悩するように呟く言葉は誰かに対して向けられた言葉というよりも、自分自身への言い訳の言葉のようにも聞こえた。

 

「でも、それでもダメだ!! お前は……お前だけは許すことが出来ない!!」

「……そうか」

 

強い意志と感情を込めた瞳でバランを睨みつけ、その身に纏う雰囲気は一触即発今すぐにでも爆発して襲いかからんほどに緊迫したものだった。

だが、それほど剣呑な空気を放ちつつもノヴァが次の手をなかなか繰り出そうとはしない。

バランに剣を向けた相手と認識して、ラーハルトが何かあればすぐさま飛びかかるべく身構えるが、相手が動かない以上、彼もまた動かずにいた。

 

剣を構えた相手に対して、バランは棒立ちのまま無防備な姿を晒したままだ。いつでも斬りかかれることは、相対しているノヴァがよく分かっている。

だがそれを理解した上でも、彼は攻め込めずにいた。

それはノヴァの戦士としての本能に近いものが原因だ。少し前にダイを相手に格の違いを思い知らされ、かと思えばそのダイが苦戦するほどの相手(ハドラー)が現れる。そのハドラーと戦って見せたバランが相手である。

襲いかかった瞬間、瞬く間に反撃されて命を落とすのではないか。

なまじ剣士としての技量を持つが故に、そんな未来が手に取るように見えてしまい、最初の一歩を踏み出すことすら躊躇してしまう。

 

「どうした? 斬らんのか?」

「なんだとっ!?」

 

やがて、にらみ合っていることに飽きたかのようにバランが口を開いた。挑発としか取れないその言葉に、ノヴァは声を荒げて威嚇してみせる。

だがそれだけだ。

声を上げることは出来ても、身体を動かすことが出来ない。

 

「私が憎くはないのか!? お前の目の前にいるのは、祖国を滅ぼし大勢の人間を殺した男だ。多くの竜を率い、国土を灰燼にした相手が憎くはないのか!? お前が手に持つその剣で、私に代価を払わせたいとは思わんのかッ!?」

 

そう言いながらバランは一歩ずつノヴァへと近寄って行く。バランが歩みを進めれどもノヴァは蛇に睨まれた蛙のように動かず、まるで構えられた剣の切っ先に向けてバランが歩いているようにしか見えない。

遂には、少し腕を伸ばすだけで剣が届くまでバランは接近する。上背があるため、ノヴァはバランを見上げる状態となっていた。恐るべき相手を見上げることとなり、内なる恐怖は更に増大していく。

 

「斬れッ!!」

「う、うわああああぁぁっっ!!」

 

ガチガチに身体が硬直したところへ怒鳴るような強い口調で命じられ、ノヴァは身体が爆発したような衝撃を受ける。それは緊張していた肉体が反射的に動いたことの証だった。

戦士として鍛練を積んだ肉体は恐怖の根源を根絶するかのように、彼に剣を振るわせることを選ばせた。

 

「ぐ……っ!」

 

緊張と恐怖で本来の実力の半分も発揮できていないような(つたな)い剣筋であったが、だがノヴァの剣はバランを切り裂いていた。

彼の顔面の右上から左下に掛けて剣閃が走ったかと思えば、瞬時にして赤い線が浮かび上がり、そこから鮮血が吹き出していく。鋭い痛みと斬撃を受けた衝撃にバランは小さくうめき声を上げながら、よろめきながら彼に一歩下がらせる。

 

「……ッ!!??」

「バラン様!?」

 

驚かされたのは周囲で見守っていた者たちである。バランの実力をよく知る者たちほど、竜闘気(ドラゴニックオーラ)で防ぐか直前で避けるかすると思い込んでいただけに、この結果に度肝を抜かされることとなった。

特にラーハルトの受けた衝撃はいかほどのものだっただろう。まさかこのような結末になるとは想像もしておらず、ノヴァを押さえつけるべく動こうとする。

 

「よさんかラーハルトッ!!」

 

だがそれは誰であろうバラン本人の言葉によって静止させられた。

傷口を押さえるように片手を顔に当てながらも、手の奥から覗く相貌は変わらぬ強い意志を秘めている。

 

「で、ですが……すぐにでも手当を!」

「いらん。この痛みは、傷は私が受けて当然のものだ」

 

なおも食い下がろうとするラーハルトであったが、バランは一言で切って捨てた。その行動はラーハルトからすれば当然の事であり、チルノたちも回復呪文を使おうかと動きだそうとしていたが、バランの言葉を聞いて躊躇する。

 

「先ほど宣言したように、私はお前たち人間を滅ぼそうとしていた。憎み怨んでもまだ足りぬだろう」

 

赤い血がバランの顔をゆっくりと染めていく。その異質な光景を目にしながらもノヴァを初めとした誰もがそれ以上動く事は無かった。それだけこの雰囲気に呑まれ、バランの放つ言葉に聞き入っているのだろう。

 

「お前達人間全ては、私を攻撃する権利がある。拳で殴り、剣で切り、槍で刺し、斧で潰し、弓で穿ち、呪文で吹き飛ばす権利を、等しく持っている! その権利を何時でも! いかなる場所でも使って構わん!!」

 

そう高らかに宣言すると、バランは顔を――いや、傷口を隠していた手を退かした。真新しい傷口が白日の下に晒され、赤く染まっていく。

 

「この顔の傷こそ、その証!」

 

だがその怪我を微塵も恥じることなく、むしろ堂々と見せつけるように胸を張って見せた。むしろ、傷を付けた張本人であるノヴァの方が気遣い、恥じるような落ち着かなさを露呈させているほどだ。

 

「だが、殺す権利はない。私は自らの罪を、大魔王バーンを討つことで償うつもりだ! その悲願を成就させるまで死ぬことは出来ん!! そしてバーンを討った後に、再度お前達人間に問う。その時になお私を殺したいと望む者がいれば、我が命はそいつにくれてやることをここに誓い、宣言しよう!!」

 

そこまで口にすると、すべてを言い切ったのだろう。バランは口を噤む。

唐突すぎるバランの宣言をどう受け止めたものか測りかねて静寂の訪れる中、その混乱を引き起こした当の本人たるバランはレオナの方へと向き直る。

 

「パプニカの姫よ。お前がこの場にいてくれて、手間が省けた。我が言葉を、各国の代表たちに伝えてはくれまいか? 特に、リンガイアとカール……この二国には、大魔王討伐後に正式に謝罪をさせてもらいたい」

 

そう口にしながら頭を下げる。だが頭を下げた状態でなお、バランはぽつりと呟いた。

 

「この程度で許されるとは、毛ほども思ってはいないがな……」

 

それは自らの罪と向かい合い、そして考えて出した結論だった。

おめおめとダイたちの仲間になることは彼の誇りが許さず、亡き妻との最後の約束を違える行為にも繋がると彼は考えていた。罪には罰を、そう考え続けた彼なりの答えである。

たとえ我が身が全身傷で塗れようとも、目的を成就するためには命を捨てることは出来ない。何よりバランは、バーンを倒すためならば自らの命を引き換えにすることも辞さない覚悟である。

そしてバーンを倒した後ならば、たとえ怨みを持つ人間に殺されたとしてもそれは仕方ないのない事。言うなれば天命のようなものだろうと、そう考えていた。

 

「バラン……わかりました。貴方の決意、パプニカ王女レオナの名に賭けて必ずや伝えましょう。ですが、その後の各国の態度までは関与できません。どうなろうとも、我が国は……」

「当然だ」

 

バランの願いを聞き、レオナもまた真摯な態度で応じる。彼の決意を辱めることのないように、そして一国の長として平等に、贔屓をすることもないことを宣言する。

だがそれはバランもまた、想定の範囲のことだった。言葉通り当たり前という態度で、レオナの言葉を聞き頷く。

 

「それにしても、考えたものね……」

 

続いてレオナは、他の誰にも聞こえない程度にバランへと近づくとそっと囁く。

 

「貴方が罪を償うために傷を付けても文句を言わないと口にしても、それを信じて実際に行動に移せる者が何人いるかしら? でも、北の勇者として名が通っているノヴァが貴方に傷を付けたとなれば、話は違う。名の通った彼が仇敵に傷を付けたとなれば、被害を受けた国の人々もある程度は矛を収めるでしょうね」

 

どれだけ傷を付けても文句は言わない。

口にするのは簡単なことだが、世界最強の(ドラゴン)の騎士を相手に――それも元魔王軍であり恐怖の対象でもあるバランを相手に、面と向かって行動を起こせる者が果たして何人いるだろうか。

どれだけ気高い決意であろうとも、実際に行動する者がいなければ有名無実となってしまい形骸化して意味を為さなくなってしまう。

つまるとこと、実績が必要なのだ。

 

「なにより、私達がどれだけ貴方が仲間になったと訴えたとしても、事情を詳しく知らない人たちからすれば、身内でかばい合っているだけの茶番にしか見えないもの。でも、彼ならば違う。ノヴァという外部から来た相手が傷を付けたとなれば、強力な証明になるもの」

 

そういう意味では、ノヴァの存在は幸運だったと言えるだろう。

ダイたちや、その勇者達と一番懇意であるパプニカ国の者達では説得力が低い。関係ない者が実行して見せたという強烈なインパクトのある出来事ならば、誰もが文句を言わないだろう。

ましてやそれが、バランに故国を滅ぼされた者の一撃ならば、話題性も充分だ。

 

「……知らんな」

 

果たして真相はいかなる物か。

バランはレオナの言葉に何も語ることはなく、興味を失ったように彼女に背を向ける。

振り向いた先には、チルノたちの姿があった。

 

「バラン……その、気持ちは分かったけれど……なんていうか、やりすぎでしょう? ノヴァが怯えてるわ……」

「フン! 誰しもが権利を持つとは言ったが、我が威圧に押し込まれ諦めてしまいような志の低い連中まで相手をする気はない。この程度で諦めてしまうならば、所詮はその程度の想いしか持たぬ、真の感情を持たぬ連中ということだ」

 

苦笑しながら止血のためにとチルノはバランにハンカチを差し出す。彼はそれを受け取ると、傷口へ包帯のように当てながら愚痴のように言葉を零した。

 

「そのような程度の低い連中にまで、一々付き合ってやるほど暇ではないのでな」

 

憤慨するような言葉だが、それはバランの求める基準が高すぎるのが原因だ。とはいえ、その程度の覚悟も無く他人を害するのは問題ということでもある。冷やかしや流されただけの者まで相手にするつもりは毛頭無いということなのだろう。

そこまで吐き出して多少なりとも気が晴れたのか、まずはダイを。そして僅かな逡巡の後にチルノへと視線を向けると、バランは思い出したように言う。

 

「すまんが、もう少しだけ付き合って貰うぞ」

 

 




バランさん正式加入です。
ご都合主義なのはわかってますが……

原作では割とあっさり目に受け入れられていますが、描写されていない裏で凄い葛藤とかあったんでしょうね。
彼を見て狼狽するノヴァとか、原作でもあってしかるべき描写だと思いますが……
まあ、あの時点で過去の因縁話を再び蒸し返しても、(少年読者が相手ですから)テンポが悪くなりそうです。
省略されたであろう原作ノヴァは泣いていい。

この世界でのノヴァは後世に
「バランに一太刀浴びせて顔に傷を付けた英雄。その心意気に打たれ、ダイたちと仲間になって世界を救うのに尽力した」
って感じで伝わりそう。
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