隣のほうから来ました   作:にせラビア

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色々考え中……やりたいネタはあるが、どうやって持って行こう……



LEVEL:86 決戦に備えて

「まさか、こんなことになるとは……思いもよらなかったぜ」

 

目の前に並んだ二振りの剣を見つめながら、誰に向けてでもなくロン・ベルクはそう呟くと溜息を吐いた。彼にしては珍しい反応だが、とはいえ仮に同じ立場に立てば誰もが同じ反応をしていたことだろう。

 

「百年前の自分に言っても、信じないだろうな……」

 

もう一度呟き、彼の憂鬱の種になっている二振りのうちの一本を手に取るとその名を呼ぶ。

 

「……真魔剛竜剣。まさか、オレが手入れをすることになるとは」

 

その剣はロン・ベルクが鍛冶屋として目指した頂点の物だ。神の金属オリハルコンを素材に作られた、代々の(ドラゴン)の騎士が手にする史上最強の剣。彼自身が追い求め、そして追い抜く指標としていた存在だ。

名と存在は知っていたが、まさか自ら手に取ることが出来るとは思ってもみなかった。ましてや、それを直すことになるとは。

仮に触れる機会があったとすれば、それは自ら戦場に立ち(ドラゴン)の騎士と敵対した時くらいだろうとロン・ベルクは思っていたのだが――

 

――まったく、あいつらは次から次へと面白い事ばかり持ってきやがる……

 

満更でもない感情を味わいながら、彼は少し前の出来事を思い返す。

 

 

 

 

「いきなり尋ねてきたと思ったら、まさか、こんな客を連れてくるとはな……」

 

作業場にいたロン・ベルクは、急に押しかけてきた相手を前にしてそう零した。彼の前にいるのはダイとチルノの見知った二人。そして――

 

「初めましてだな、(ドラゴン)の騎士バラン」

「魔界の名工ロン・ベルク……まさか実際に会えるとは思わなかったぞ」

 

バランを前にロン・ベルクはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、バランもまた険しい表情でロン・ベルクのことを凝視していた。互いに名を耳にしたことはあれど、直接顔を会わせたことはない。

ましてやロン・ベルクにとってバランは、少々複雑な感情――それは一方的な物であると理解しているが――を抱く相手だ。いや、バランその者というよりも、真魔剛竜剣を持つ者という意味でだが。

とあれ素直に歓迎することも出来ず、どうにも挑発めいた物言いとなっていた。

尤もそれはバランも同じであり、傍で見ているダイたちからすれば徒に精神をすり減すような状況となっており、かといって漂う重苦しい空気によって口を開くのもなんとなく憚られ、それがまた悪循環を生み出す。

 

「それで、今日は何の用だ?」

 

そんな姉弟の内心の苦労など露知らず、ロン・ベルクの方からダイに尋ねてきた。彼はこれ幸いとばかりに、本日の目的を言う。

 

「剣を直して欲しいんだ」

「何……っ?」

 

その言葉を聞き、彼は少しばかり不機嫌そうな表情となった。

まあ、つい先日「地上最強の剣だ」と太鼓判を押して武器を渡した相手がやってきて「剣を直して欲しい」と言えば、どこか壊したのだろうと考えるのは当然だ。そういう反応を見せるのもしかたないだろう。

ましてや鍛冶師としての腕に自信を持つロン・ベルクともなれば、自分の作った剣が他人の剣に負けるなど許容できることではない。

今この瞬間にでも怒りを露わにしてもおかしくないだろう。

 

「待って待って! 違うから、そういうのじゃないから!!」

 

その雰囲気を敏感に察知し、チルノが慌てて口を挟む。

本来の歴史でも、超魔生物と化したハドラーにダイの剣を傷つけられて彼に修理を依頼しに行くことがあったのだが、そのときも深い怒りを見せていた。それを知っているため、彼女は二の舞とならぬように気遣っていた。

 

「本命はそっちじゃないの! ……ダイの剣も見て欲しいのも事実だけど」

「……本命は? どういうことだ?」

 

取りなしが功を奏したらしく、ひとまず落ち着いたらしい。興味を惹くような言い回しに反応を見せる姿に心の中で安堵して、チルノは言葉を続ける。

 

「見て欲しいのはダイの剣じゃなくて、真魔剛竜剣の方なの」

「……ッ!?」

 

その言葉を聞き、ロン・ベルクは思わず絶句していた。有り得ない言葉を聞き、思わず自分の耳を疑う。

 

「真魔剛竜剣を見ろ、と言ったのか?」

 

オウム返しの質問をチルノは首肯し、ダイも遅れて首を縦に振る。

 

「だが、真魔剛竜剣は自らの傷を復元できるはずだ。オレの出番があるとは思えんが?」

「それじゃあ間に合わないかもしれないから、こうしてお願いに来ているの」

「なにがあった?」

「一言で言うなら――魔界のマグマに剣を(くぐ)らせた、ってところかしら?」

「……見せてみろ」

 

魔界のマグマについては、彼も知っている。強い酸性を持ち、金属を容易く腐食させるそれを、だが地上で一体何があればそんな事が起きたというのか。理解の外の説明に軽く頭を抱えながら、だが鍛冶師としての好奇心に負けたのかロン・ベルクはそう切り出す。

 

「…………」

 

促されたものの、バランはすぐに動くことはなかった。

先ほどの焼き直しのように険しい瞳でロン・ベルクを凝視する。その視線を彼もまた真っ正面から受け止める。鍛冶師としての顔の影に隠れた、かつての魔界最強の剣士としての顔がバランの気配に呼応するかのように微かにその姿を見せる。

 

「バラン?」

「父さん?」

「いや、なんでもない」

 

それは時間にすれば僅か数秒のことだった。ダイたちの声が聞こえた瞬間、二人は探り合いを止めると何事もなかったかのように動き出した。

バランは真魔剛竜剣を抜くと作業台へと置き、ロン・ベルクはすぐさまその刀身へと視線を走らせ、食い入るように見つめていく。

 

「なるほど、言い得て妙だな」

 

ややあってからそう感想を述べる。だが彼の分析はこれで終わりではない。

 

「だがこれは、魔界のマグマよりも厄介だぞ」

「ッ!?」

「ええっ! そうなの!?」

 

続く言葉に、ダイだけでなくバランですら予想外とばかりに反応を見せる。

 

「普通にマグマに浸したのならば、もっと激しく腐食するはずだ。だがこれは見た目には殆ど影響がない。持ち主でも、実際に剣を振るわねば気付かないほどの巧妙な腐食……オレでも事前知識がなかったら、気付けたかどうか……」

 

ロン・ベルクの知識からすれば、これは異常と呼ぶ他なかった。

 

「もう一度聞くぞ……何があった?」

「……キルバーンは知っているかしら?」

「キルバーン……?」

 

原因を突き止めるべく尋ねたところ、聞き覚えのあるような無いような名を聞かされて彼は少しの間記憶を探り、使い魔を連れた黒づくめの道化師のような男の姿を思い出す。

 

「ああ、アイツか。一度くらいは顔を合わせたことがあったはずだが……それがどうかしたのか?」

「キルバーンの血液は、魔界のマグマと成分が一緒なの。それを斬ったのが原因なの」

「は……? どういうことだ?」

 

その説明で理解出来る筈がないことは、口にした本人がよく分かっていた。

チルノは改めて説明するようにキルバーンが実は人形であり、本体は使い魔の方であることを伝え、そして大魔王との決戦が間近に迫っているため剣の修復を依頼しにきたことを告げる。

 

「なるほど、よくわかった」

 

説明を聞き終え、ロン・ベルクは納得したように頷く。

 

「だが、肝心の当人はどうなんだ?」

「え?」

「ダイに連れられてここに来たってことは、剣を直す気はあるだろうよ。だが、初対面のオレに本当に預けられるのか?」

 

今度はロン・ベルクがバランに試すような視線を向ける番となった。

(ドラゴン)の騎士のために作られた真魔剛竜剣を本当に預け、修復するまでの間を待つだけの意志と覚悟があるのかと、ワザと挑発するような物言いをしてみせる。

 

「問題は無い」

 

だが、問いかけに対するバランの返答は早かった。

 

「お前がディーノのために作った剣の出来は見事だった。私が見ても、真魔剛竜剣に比肩しうるほど……いや、ディーノ専用という意味では真魔剛竜剣を上回ると言っても差し支えないだろう」

 

ダイの剣を、そしてチルノが持つガリアンソードを実際の目で見た時点で、腕前という意味ではバランは既にある程度の信頼をしていた。そもそもが彼は名工ロン・ベルクの名を知っているのだ。受け入れる下地は充分に出来ていた。

 

「それほどの腕前を持っているのだ。剣の修復はお前以外にはありえん」

「なるほど、お前がオレの腕前を信用してくれるのはわかった」

 

しかしバランの答えを聞いても、ロン・ベルクは態度を崩すことはなかった。むしろここからが本番と呼んで良いだろう。

 

「だが、人格はどうするつもりだ? オリハルコンは貴重だ。それにオレ自身、オリハルコン製の剣を求めているんでな。この剣を持って逃げるかもしれんぞ?」

 

そう言いながら不敵に笑ってみせる。だが、そうまでしてもなおバランの態度が変わることはない。

 

「それこそ問題はない。真魔剛竜剣は、(ドラゴン)の騎士が振るわねば真価を発揮できん。剣に主人と認められねば無意味だ。仮に打ち直したとしても、出来上がるのは目も当てられないナマクラが関の山だ。お前の程の腕を持つ者が、それを知らんとは言わせん。それに――」

 

どこかで聞いたような――それこそロン・ベルク自身がかつて口にし、本人もよく知っている――話を聞かされ、思わず笑い出したくなった。だが、彼が本当に驚かされるのはバランの次の言葉だった。

 

「何より、ディーノがお前の事を信頼しているのだ。ならば、これ以上の問答は無意味だろう?」

「……!!」

 

それは、息子が信じている相手なのだから親である自分も信じるという、なんとも人間クサい言葉だった。今まで子を為すことのなかった(ドラゴン)の騎士が口にしたとはとても思えない言葉だ。

ダイとバランが親子であるということは知っていたが、まさか(ドラゴン)の騎士がこうも変わるとは、彼にはにわかには信じられなかった。

 

「やれやれ、まったく可愛げが無いな」

 

珍しいものが見られたとばかりに肩をすくめると、バランへと視線を向ける。

 

「これなら直すのに一日ってところだ。明日、取りに来い」

「わかった、明日だな」

 

その言葉を聞き、必要な事は全て済ませたとばかりにバランは振り返る。だが、すぐに小屋を出るのかと思いきや彼は途中で足を止めた。

 

「……なるほど、そこそこ良い剣だ」

 

そう呟いた視線の先には、一本の剣が飾ってあった。この場にある以上、当然ロン・ベルク謹製の武器である。バランは手に取りしげしげと眺めたかと思えば、その剣を(おもむろ)に背負う。

 

「一応聞くが、何をしている?」

「我が身の分身とも言える愛剣を、一時的とはいえ手放すのだ。代わりの剣として貰っていくぞ」

 

悪びれもせずにそう言うと、先ほどと同じ要領で再び剣に手を出し始めた。それも複数本である。

 

「おいおい、そんなに必要なのか!?」

「次の予定に必要なのでな。ディーノの分と含めても、二本では足りん」

 

慌ててロン・ベルクがたしなめるが、当然とばかりにそう言ってのける。

 

「剣は明日取りに来る。戻るぞディーノ!」

「父さん!?」

「ちょっとバラン!?」

 

そのまま何本かの剣を担ぎ上げると、さっさと小屋から出て行く。ダイたちが声を掛けるが、止まる気配はなかった。

 

「ああもう!」

 

我が親の傍若無人な振る舞いに頭を抱えたくなる気持ちを必死で抑え、ダイもまた背負った剣を鞘ごと外す。

 

「ロン・ベルクさん、おれの剣も一応見て貰ってもいいかな? 父さんほどじゃないけれど、強敵と戦って傷ついているかもしれないから」

「ああ、構わんぞ」

 

ダイの言い方から実際に剣の様子を見たわけではないがそれほど酷い状態ではないだろうと推察し、二つ返事でそう答える。

 

「それと、私からもお願いしてもいい?」

「お前も剣を壊したのか?」

「違います!! そうじゃなくて――」

 

顔を紅潮させて力強く否定してから、彼女は改めて考えていたお願いを伝える。

 

「出来たらで良いんです。仲間のポップとマァムとクロコダイン……魔法使い用の杖と武闘家用の小手、それと戦士用の大斧を作って欲しいんです」

 

それは本来の歴史で彼らが身に付けていた新装備の発注だ。死の大地から大魔宮(バーンパレス)へと突入し、そのままバーンを倒すつもりでいるチルノからすれば、仲間の戦力を向上させる新装備は出来れば欲しい物だった。

 

「間に合わなかったらそれでも良いですし、タダのお願いだから無視しても問題ありません。それじゃあ、失礼します!」

 

だが、急な願いというのも理解している。そのため「可能であれば」という但し書きを付けて置くことも忘れなかった。本来の目的は真魔剛竜剣の修復であり、優先順位を間違えるわけにはいかない。

 

一方的な依頼をすると返事を聞くことすらなく、チルノとダイはバランを追うようにして外へと出て行った。続いてルーラの呪文が外から聞こえ、移動したのだろうやがて静寂が訪れた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

ロン・ベルクにそれぞれの剣の修復を依頼した後、二人の(ドラゴン)の騎士はパプニカへと戻ってきていた。

 

大魔王軍の本拠地への攻撃まで、残るは数日。

 

「はあああぁっ!!」

 

その僅かな時間を無駄にせぬように。

そして誰一人欠けることなく望む未来を迎えられるように。彼らは、各々の腕前を更に高めるべく修行に明け暮れていた。

 

「むんっ!!」

 

ダイの繰り出した渾身の攻撃を、バランは易々と受け止めて見せる。だがそれはダイも想定内だった。すぐさま連撃へと切り替えて、相手の反撃を封じる。

剣と剣とがぶつかり合う音はしばらくの間鳴り響いたが、いつしかそれも終わりを迎えた。バランは受けに回りながらも、反撃の機会を伺い続けていたのだ。

ダイの攻撃と攻撃の切れ目の一瞬の隙を突いて、剣を走らせる。攻撃しかけていたダイは反応できてもそれを防ぐことは出来なかった。

バランの持つ剣がダイに当たる寸前でピタリと止められる。

それを見て、降参の合図代わりにダイは剣を下ろした。

 

「今のは中々良い動きだったぞ」

 

それを見たバランも剣を下ろすと、そう口にする。それを聞いたダイは、苦笑するように答えた。

 

「けど完全に防がれてるんじゃ、父さんにそう言われても――」

「ディーノ!」

 

だがその言葉は最後まで紡がれるよりも前にバランの怒声が響き、ダイは思わず身を竦ませる。

 

「先ほども伝えたが、修行の最中は私のことを父と呼ぶな。私もお前のことを息子とは思わん」

「……わかった、バラン」

 

息子とは思わない。

厳しい言葉を耳にして、ダイは甘えを消したように表情を引き締め直し、再び剣を構える。

 

「それでいい。二つの技を同時にぶつけるというお前の考えは、悪くはない。だが実現させるのは至難の業だ。成功させるには、さらに地力を上げる他はないのだからな」

 

そう告げると、バランもまた剣を構え直す。

再び剣戟の音が響き始めた。

 

 

 

 

「そんなに気になるのならば、もっと堂々と見たらどうだ?」

 

修練相手が時折、心ここにあらずといった様子を見せたのはこれで何度目だろうか?

ヒュンケルはそんなことを思いながら、ラーハルトへと声を掛ける。

 

「む、すまん……だがオレとしてもバラン様としても、夢にまで見た光景なのだ……バラン様がダイ様へと、(ドラゴン)の騎士の闘い方を伝える。叶わぬと思っていた事が叶ったのだからな」

 

ラーハルトは素直に謝罪の言葉を口にするが、意識はまだダイたち親子の方へと向いていた。とはいえ事情を知るヒュンケルもそれを責める気にはなれず、ある意味では仕方ないだろうと思う気持ちでその言葉を聞いていた。

 

「親が子に教える、というには少々厳しすぎる気もするがな」

 

ヒュンケルの言葉を証明するように、彼らの周囲には折れた剣が落ちている。

何ということはない、二人の力の激突に武器の方が耐えきれなくなっただけのことだ。竜闘気(ドラゴニックオーラ)を使用せずとも、それがロン・ベルク製の剣であったとしても、普通の剣では強度が足りない。

尤もそれを見越して、バランは多めに確保してきたのだが……

彼らが使っている剣は現在二本目。まだ予備として二本控えているのだが、この調子ならば夕方まで持てば御の字だろう。逆に言えば、それほど真に迫った修練を繰り広げていることになる。

 

「当然だろう? どの様な物でもそうだが、中途半端に身に付けるのが一番怖い。となれば、肉親相手であろうとも心を鬼にして技術を叩き込まねばならない」

 

苦言のような言葉をラーハルトはむしろ当然のことだと受け止めた。

修行相手に甘さを持って接した結果、取り返しの付かない事故や失敗を引き起こす。そんな事例はよくあることだ。ましてや戦闘技術となれば、どれほどの災難を引き起こすか分かった物ではない。

非情に見えるはずのバランの態度、その裏には誰よりも熱い愛情が存在しているのだ。

 

「バラン様が自分のことを父と思うなというのも、その決意の現れだ。オレにも覚えがある……」

「……お前の時もそうだったのか?」

「昔の話だ」

 

そう呟く姿を見ただけで、似たようなことがあったというのはヒュンケルでなくとも想像がつく。ラーハルトからすれば、バランという父からの掛け替えのない思い出なのだろう。

 

「そうか……少し、羨ましいな」

 

もしも父バルトスがもう少し長く生きていたら、自分に剣を教えてくれたのだろうか? その時は、今のバランのように厳しい情愛を持って接するのだろうか?

ヒュンケルはそう呟きながら、もしもの未来に少しだけ思いを馳せた。

 

 

 

 

ダイとバラン――(ドラゴン)の騎士親子の修行を見ているのは二人だけではない。

 

「はぁ……予想通り……いや、予想以上だぜこりゃ……!!」

 

ポップは二人の稽古姿に度肝を抜かれていた。

魔法使いである彼の目には、かつてテランで見た二人の闘いの再現――いや、それ以上に激しい闘いのように映ってしまう。このレベルが修行などとは、とても信じられなかった。

 

「ポップ? 何か用か?」

「いや、休憩がてら様子を見に来たんだよ」

「休憩……? お前ほどの魔法使いがか?」

「ああ、てか今日の修行はもう終わりだよ。なんせもう魔法力が空っぽでね、これ以上は逆さに振っても出るのは鼻血しか出ねぇぜ」

 

見学姿に気付いたクロコダインが声を掛ける。

陽気にそう言うポップの姿はまだまだ余裕そうにも見えるが、言葉通り既に魔法力を使い切っており、出来ることはそう多くはない。

本人の言うように様子を見に来ていたのだが、彼はそのことを少しだけ後悔していた。

 

「しかし、ダイをバランが育てるとはね。同じ(ドラゴン)の騎士同士、教えるには最適だろうが……」

 

そこまで口にすると、そう遠くない未来を想像して思わず苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 

「魔法力もパワーアップすんだろうなぁ……うへえ、こりゃウカウカしてられねぇな!」

「そうだな。オレもせめて力くらいは、ダイに頼られるようになりたいもんだ」

 

一番年下のダイに追い抜かれることを悔しく思う半面、負けてなるものかという刺激にもなっていた。

クロコダインもまた同じ気持ちだったようだ。獣王と呼ばれ、その剛力無双を誇っていた頃を懐かしく感じてしまう。

 

「だいじょーぶ! クロコダインさんの怪力はボクが保証しますよ!!」

 

そんな気持ちを感じ取り、慮ったようにチウが自信たっぷりに言う。彼もまた修行をしていたのだ。

……活躍できるかはともかくとして。

 

 

 

 

さて、男性陣がそれぞれ最後の闘いに向けて特訓を繰り広げているのであれば、当然女性陣も厳しい修行を――

 

「それでチルノ? ダイ君とはどこまで行ったの?」

 

しているとは限らなかった。

 

「どこまでって……別にレオナが勘ぐるような真似はないってば!」

 

パプニカ王城内――その中のレオナの私室にて、チルノは軟禁されていた……いや、軟禁されているというのは語弊があるか。

扉に鍵が掛けられているわけでもなければ、見張りがいるわけでもない。一緒のテーブルに座り、人数分のお茶まで用意されているという歓待振りだ。

ただ、席から立ち上がって逃げ出すのが難しい空気の中にいるだけであり、そして話題の中心にいる少女(チルノ)が困り顔をしているだけだ。

 

「戻ってきてからの態度が全然違うのに、それはないでしょ! ほらほら、隠すとためにならないわよ?」

 

チルノの叫びも虚しく、レオナの追及の手は止まることはなかった。

まあ、バランがダイとチルノだけを連れてどこかに向かい、戻ってきたかと思えばバランの纏う雰囲気が柔らかくなっており、挙げ句の果てにはダイとバランがそれぞれ「父さん」「ディーノ」と呼んでいるのだ。

小さな子供とて、何かあったと考えるだろう。

 

「それにマァムだってメルルだって気になっているでしょう?」

「それは、まぁ……確かにそうですけど……」

「ねぇレオナ、私も付き合わなきゃダメなの? 私もダイたちと一緒に修行したいのだけど……」

「ピィ~ッ!」

「ピィピィ!!」

 

同意を促せば、メルルは消極的な肯定の言葉を。マァムは使命感が勝っているようで、窓の外を気にしながらそう答える。

そしてゴメちゃんとスラリン、バランの心情的な都合で置いて行かれた二匹のスライムたちは、何があったのか教えて欲しいと抗議の声を上げていた。

 

「ほら、ゴメちゃんたちもそう言っているわよ!? それにマァム、貴女だって気になっている相手くらいいるでしょう? だったら聞いて置いて損はないわ!」

「損って……別にそんな……」

「とにかく!! チルノ、何があったの!? はっきり白状してもらうわよ!!」

 

特に隠すようなことでもなし。その圧力に負けたように、チルノは諦め顔で何があったのか――ソアラの墓へと共に行ったことを、そしてその時に何があったのかを伝える。

 

「ほらやっぱり!!」

「うわぁ、そんなことがあったんですね! チルノさん素敵です!」

「それでそれで、どうなったの!?」

 

話が進むにつれて、彼女たちの表情が喜色へと変化していく。そして、バランが口を開いた辺りの話をする頃にはテンションがピークに達したらしい。最初の態度もどこへやら、マァムですら身を乗り出すようにしている。

 

「ど、どうって別に……」

「甘いわよ! これはもうご両親の許可も出ているの!! 冗談でした、じゃあもう済まないところまで来ているんだから」

 

ゴシップや惚れた腫れたの話というのは、いつの時代も話題の種というもの。当事者であるはずのチルノが気後れするほどに、女子会はヒートアップしていった。

 

 

 

…………あ、チルノとマァムはこの後にちゃんと修行しましたよ。レオナも忙しい間を縫って、少しでもレベルアップに勤しみました。

ええ、本当に。

 

 




決戦前の準備期間中にこんなことしてましたよ。
ってだけです。

もっと言ってしまえば、
ダイに稽古をつけるバラン(と、それを見て感涙するラーハルト)が欲しかっただけなのですが。
竜の騎士を育てるなら、竜の騎士が一番ですよね。

最後のはシーンは、そういう物ということで。
タマにはこういうノリが欲しくなるの。
(そしてゴメちゃんたちの無理矢理感)

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