大魔王軍との最終決戦に向けて、各々ができる限りの準備を行っていた。ある者は新たな呪文を修め、またある者は己の更なる実力向上に精を出す。
だがその準備は、最前線で戦う者たちだけが行う物ではない。矢面に立たない者達もまた、限られた時間の中で戦士たちの力となるべく、それぞれが辣腕を振るっていた。
ある者は資金面で。
ある者は技術面で。
またある者は皆を取り纏めることで、できうる限りの助力を見せる。
そして時は瞬く間に流れ、ついに死の大地へと乗り込む当日となった。
パプニカ王国には勇者ダイとその仲間たちが、各々の修行を終えて最後の戦いに向かうべく集結していた。大魔王バーンとその配下たちの強さはチルノから聞いており、鍛え上げた力と技が通用するのかと一抹の不安さを見せるようにそれぞれが厳しい表情を見せている。
そんな彼らの出立を見送るべくパプニカの兵士たちや、各国の代表者たちが集まっていた。
「ダイ君、いよいよ決戦よ。準備はいいかしら?」
「ああ、時間内で出来るだけのことはやったよ!」
まず口を開いたのはレオナだった。その問いかけにダイは、力一杯にそう答える。
本心を言えば、準備の時間などどれだけあっても不足することはあっても余ることはないだろう。相手は数千年の時を生きた魔族であり、それだけの実力を持っているのだ。
だが時間は有限であり、決して待ってはくれない。
それでも現時点のベストに持ってくることが出来たとダイは自負していた。
勇者の力強い言葉に、それを聞いた兵士たちは歓喜の表情を見せる。勇者が諦めずにそう言うのだから、なんとかなるかもしれない。ましてダイは奇跡の勇者なのだ。その発言力はパプニカでは大きい。
湧き上がる兵士たちの様子に息子がこれまで歩んできた人生の足跡を感じとり、バランは顔にこそ出さぬものの胸中では感涙していた。
「勇者ダイ、それに皆さん。本当に良く来てくれました」
続いて出迎えたのはフローラだった。いや、彼女だけではない。
同じくカールからホルキンスが。リンガイアからはバウスンとノヴァが。ベンガーナからは戦車隊隊長のアキームが参加している。
「もう既に聞き及んでいるとは思いますが、最後にもう一度この作戦の大まかな流れを確認します」
そう前置きしてから、彼女は一度ダイたちが聞いた作戦の内容を再び説明し始める。
とはいっても、作戦というほど難しい物では無い。
本来の歴史では、大型船を建造してダイたちと世界中から集めた勇者たちで死の大地に向かい、バーンの居城へと乗り込む。というものだった。
だがチルノの説明を受けたことでその方針は転換されており、大型船の建造は目立つということで中止となった。その代わり、移動手段としてダイたちを運ぶ特製の船を作成して死の大地まで直接運び、大魔王軍との決着を付ける。
……そのはずだったのだが。
バランの加入がその予定を良い意味で裏切ってくれた。彼は死の大地に訪れたことがあり、
「本当なら、護衛として多くの兵士達を連れて送ってあげたいところなのだけど」
それらの説明を終えると、フローラは申し訳なさそうに頭を下げた。
同じ大魔王軍に刃向かう仲間として、ダイたちにばかり重荷を背負わせることに重責と不甲斐なさを痛感しているのだ。
「せめてもの助けとして、あなたたちが死の大地へ向かうのと連携してサババから船団を動かします。大魔王軍との決戦に参加するための強豪たちと、怪我の治療や援護に長けた者達を送り込む予定です」
とはいえ、ダイたちを死の大地に送ってそれで「ハイ、オシマイ」というわけではない。ダイたちが死の大地へ向かった時の後援はしっかりと準備されていた。ダイたちが最初に上陸してある程度の安全を確保した後に、後詰めの船団が上陸して支援活動を行う予定である。
そして――士気が下がりかねないためフローラが直接口に出す事は無かったが――同時に彼らには、ダイたちの撤退を支援する役目も兼ねている。
本来の歴史では、バーンに挑んだ初戦は敗退しているのだから、同じ轍を踏まないとも限らない。備えをしておくことは決して無駄ではないだろう。
「なぁに、心配いりませんって。おれたちの戦いは大体が不利な場面の連続でしたから」
そんなフローラの心の裡を知ってか知らずか、ポップが安請け合いをするように答えた。だがそのおどけた軽い調子は、不甲斐なさを感じていた彼女にとって多少なりとも清涼剤となりえた。
一方チルノは三賢者の一人――アポロへと頭を下げる。
「あの時はご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、なんのこれしき。直接の戦闘で力になれない以上、この程度のことはお安いご用ですよ」
彼女たちが話し合っているのは、バランが加入して
前述の通り、当初は船で運ぶ予定であったはずが、決行数日前にして急遽その事実を知り、チルノは慌ててレオナと共に腹案を考え直すこととなった。とはいえ、利用しない手はないのだからそれも仕方ないことだ。直前の計画変更と打ち合わせのやり直し。
それらには、三賢者の
「……そういえば、ベンガーナ王は?」
「あれ、いねぇのか?」
フローラの話を聞きながら参列者を見ていたマァムがふと口を開いた。彼女の言葉に追従するように、ポップもキョロキョロと周囲を見回す。
「クルテマッカ王は今も後方で指揮を執っているわ。なんでも『自分が前線に出ても大した活躍は見込めない。ならば後方で補給を担当する』だそうよ」
その疑問に答えるべく、レオナが言う。
どうやら
「でも、ベンガーナ騎士団と戦車隊はこっちに振り分けてくれたわ。それに後詰めの船団の用意と武装に、私たちのための装備。それらの資材や資金も出してくれたの」
「へぇ……大したもんだ……」
桁と規模が大きすぎるのが原因か、ポップもマァムも「なるほど……」とただ呆然と頷くだけであった。だがそれを口にしたレオナは、その裏のことを考えてしまう。
如何に大国だとしても、暴挙と呼んで差し支えないほどの大盤振る舞いである。世界の危機という尻に火が付いた状態であり、私財と国費をつぎ込んでいるにしても、これだけの消費は馬鹿に出来ない。下手をすれば没落も避けられないだろう。
王女として国の運営に携わる位置にいる彼女にとってみれば、ただただ頭の下がる思いだった。
「メルル、申し訳ないんだけれど……ゴメちゃんとスラリンを預かって貰えるかしら?」
――少し前の
そんなことを思い出しながら、チルノは自身のことを慕ってくれる少女に大切な相棒をお願いをしていた。
メルルはここにいるが、死の大地に直接向かうメンバーではない。その予知能力を買われ、後詰め部隊の一人として参加することが決定していた。彼女に預ければ、当面の危険性は回避できるだろうと思ったからだ。
「ピィィッ!!」
「ごめんね、でも今度ばかりはダメ。スラリンが無事でいられる保証はないし、守れる余裕もあるとは思えないの」
「ピィ~!」
離れたくないと抗議の声を上げるがチルノの意志は固かった。逃がさぬとばかりに二匹のスライムを両手でそれぞれ掴むと、それでも貴重品を手にしたように丁寧に扱ってメルルへと渡す。
受け取る側のメルルもまた、二匹がどれだけ大切にされているかは知っている。万が一にも取り落とす事のないように慎重に手にして見せた。
「ゴメちゃんもいい? ダイが心配なのは分かるけれど、置いていくわけじゃないの。あなたたちが待っていてくれるって思えるから、私もダイも頑張れるのよ」
「ピ~ッ……」
もう一匹――ゴメちゃんの方にも忘れることなく、理と情の二つを用いた説得を行う。彼女の本心からすれば、勝利だけを考えるのならばゴメちゃんが来てくれた良いと思っていた。
何しろ彼の正体は伝説のマジックアイテム"神の涙"だ。所有者の願いを叶えるというその奇跡の力があれば、大魔王討伐には間違いなく有利に働くだろう。
だが力を使えば使うほど、代償としてその存在は小さくなっていく。それに生きたアイテムである以上は誰かに倒されることも考えられる。
ダイの友達を失わせたくはないという、過保護な親心だった。
「そういうことなら……わかりました。スラリンさん、短い間ですがまたよろしくお願いしますね。それにゴメちゃんさんも」
その説得はメルルにも効果があったようだ。
ゴメちゃんやスラリンが待っているからということ同じように、彼女も待っている人間に入るということを直感的に感じ取っていたのだろう。自分が信じて待つことで間接的にチルノの力になれると信じ、与えられた役目をしっかりと果たして見せようと内心奮起する。
「でしたら、お守りはボクに任せてください!」
二人と二匹の会話を近くで聞いていたのだろう。わざとらしくマントをたなびかせ、チウが割り込んできた。
「なぁに、このスライムたちとはロモス武術大会以来の仲ですから! ボクの言うことなら間違いなく聞きますよ!! なっ!?」
彼もまた、メルルと同じく後詰めの部隊である。戦闘経験もあるが、何よりその根性と精神性を認められたと言う方が正しい。物語の英雄のように振る舞う彼の姿は、少しずつではあるが確実に良い影響を与えていた。
そんな彼が、その契機になったとも言えるロモスでの出来事――すなわちスラリンたちのお守りというイベントを見逃すことはなかったようだ。
大船に乗ったつもりで任せてくれ、と言わんばかりに大きく胸を張り、スラリンたちに声を掛ける。
「「…………」」
「……ってコラ!! どうしてボクを無視するんだ!!」
だが二匹から返ってきたのは沈黙だった。特にスラリンに到っては、露骨に視線を逸らせて「異議あり!」と全身で訴えているようにしか見えない。
想像していたのと違うその反応にチウは顔を赤くしながら文句を言い、それを見た周りの人間たちに「決戦前の緊張感はどこへ行った?」と思わせる笑いを提供していた。
――これでついて来ちゃったら、その時はその時かしら?
そう思いながら、チルノはスラリンとゴメちゃんのことを見つめる。
「ちょっといいか?」
チウとスラリンたちの漫才が始まるよりも少し早い頃、別の場所にて。会話が途切れた頃を見計らい口を開くロン・ベルクの姿があった。
「あんたか。ダイたちの剣はもう直したんだろ? おれたちに何の用だい?」
その声の主に、ポップは意外そうな顔をしながら返事をする。なにしろ彼が声を掛けていたのはポップとマァムだからだ。
二人の職業は魔法使いと武闘家――呪文を操り戦う者と己の五体を武器として戦う者だ。
極端な話、どちらも素手でも戦える。武器造りを主とする彼からすれば、ダイの仲間たちで最も縁遠い相手だろうと思っていた。
「お前たちに、コレを渡しておこうと思ってな」
そう言うと彼は懐から布に包まれた二つの道具を取り出すと、ポップとマァムの二人へそれぞれ手渡す。
「なんだ、こりゃ……っ!?」
「えっ!?」
包みを手にした途端、二人はズシリとした重さを感じる。
それは直接的な重みというよりも、その道具そのものが持つ存在感からだ。稀少な宝石などを扱う際には誰しもが自然と慎重になるのと同じように、無意識に粗末には扱えないと二人の肉体が反応していた。
「"ブラックロッド"に"魔甲拳"と名付けた。チルノから依頼された、お前たち用の武器だ」
手にした小さな反応を見て微かに口角を上げると、ロン・ベルクは二人に渡した物の正体を語り、続いて二枚の紙を取り出す。
「使い方が少々特殊でな、詳しくはこの紙に書いてある。すぐに読んでおけ」
「チルノが?」
「聞いてないわ……」
開いた方の手で説明書きを受け取りながらも、ポップたちの心は突然渡された武器のこと――しかもそれがチルノからの依頼だということに更に衝撃を受けていた。
言葉通りに初耳だったのだ。事前説明が全く無いのにそんなことを告げられれば、驚くなと言う方が無茶だろう。
「文句ならチルノに言え。もう少し余裕があれば、事前に渡すこともできたんだ」
憮然としてそう言い放つが、ある意味では仕方の無いことでもあった。
元々ポップたちの武器は出来るかどうかも、それ以前に作ってくれるかどうかも不明だったのだ。
ダイの剣と真魔剛竜剣の修復が完了し、バラン達がそれを受け取りに行った時にも「武器は作るが、出来て杖と小手まで。それも完成するかどうかはわからん」という言伝はされていた。
されていたのだが、完成するかどうかが未定ということは、下手に伝えればぬか喜びにしかならないだろうと踏んだ少女が伝えなかったのだ。
「それに、未完成の分もある。オレとしては少々屈辱だ……」
「まあまあロン・ベルク殿、そう文句は言いなさるな。足らなかった分は、我々がちゃんと担当しましたぞ」
仕事を完遂できず愚痴を吐くロン・ベルクであったが、バダックが大きな箱を兵士たちと力を合わせて運びながら現れた。
「そもそも、ロン・ベルク殿がクロコダイン用の武器は間に合わないかもしれないと伝えてくれたからワシらが動けたんじゃ。それに期間も短い、お互い出来ないところは補い合う、持ちつ持たれつじゃよ」
魔族であるロン・ベルクよりも実年齢という意味でバダックは年下であるが、寿命が短いために精神的な成長は人間の方が上ということだろうか。円熟した言葉を口にしながら運んでいたそれを地面へ置き、腰を軽く叩いた。
そしてクロコダインは――ポップたちの会話を一応は聞いていたが自分には関わりがないので口を閉ざしていた――自分の名前が出てきたので、意識をそちらへと向ける。
「む、オレの武器か?」
「そうじゃとも! ほれ、開けてみい!!」
促されるまま箱を開ける。そこには彼が見慣れた真空の斧によく似た物が収められていた。
「どうじゃ!? 名付けて"帰ってきた真空の斧
バダックの言葉通り、クロコダインが手にしている斧と比較して一回り以上巨大になっている。当然その分だけ重量も嵩んでいるのだが、ヒュンケルらと共に自らを鍛え上げた彼の今の腕力ならば存分に豪腕を発揮できるはずだ。
「それと、お主たち全員のために防具もあるぞい!」
「へ?」
「これもパプニカの特殊な布と法術で編んである。さらにコイツにも一部にキラーメタルも使っておるのじゃ!!」
さらに兵士達がそれぞれ宝箱を運んできた。そこには一見すればただの服や法衣でしかないような防具があった。
だが見た目とは裏腹に、特殊な製法で作られたこれらの装備は高い防御力と対呪文性能を誇るのだ。薄手にも関わらず下手な鎧など顔負けの性能を誇るそれは、パプニカの技術力の結晶と呼べる。
「たしかキラーマシンの装甲を利用したってあれだろ?」
キラーメタルはチルノがキラーマシンの装甲をなんとか利用できないかと説得した結果、パプニカで生み出された新素材だ。ポップも見たことはあるが、かつて見たそれは鎧などの厚手にしか利用されておらず、これほど薄く加工できるようにまでなっていたとは知らなかった。
「うむ、まだ以前は完成品とは呼べなかったのじゃがな。状況が変わったことでようやく日の目を見せることができたわい……これを実現できたのもベンガーナの豊富な資金力と技術力のおかげじゃよ」
「まあ、あの国なら不思議じゃねぇよな」
かつて訪れたベンガーナのデパートでも驚きの連続だったのだ。
そして先ほど聞かされた資金提供の話もあって、ベンガーナならばと出来るだろうとポップは単純な感想を漏らしていた。
仲間たちが新装備の話題に花を咲かせている頃、別の一角では触れれば怪我をするのではないかと思う程に冷ややかな雰囲気が漂っていた。
「竜騎将、バランだな」
「お前は?」
「カール王国騎士団長ホルキンスだ」
「カール王国……そうか」
手短な、自己紹介と呼べる必要最低限の情報だったが、それを耳にしただけでバランはホルキンスが何を言いたいのか、その大凡を察していた。
「お前の発言はオレも耳にした。ならば、どうするかはわかるな?」
そう口にすると彼は拳を力強く握りしめ、バランへ見せつけるように大きく振りかぶる。まるで野球の投手のようなその姿勢を見ながら、だがバランは微動だにすることはなかった。
むしろ当然だと考え、堂々と受け止めるべくそれまで組んでいた腕を解く。
「良い覚悟……だなっ!!」
相手の様子にホルキンスもまた感心したように呟きながらも、手を止めることはなかった。振りかぶった腕を大きく振り抜く。彼の拳は狙い違わずバランの頬へと直撃し、そのまま止まることはなく殴り抜いていた。
「ぐっ……!」
バランは思わず声を漏らす。
強烈な一撃を、
口の中も切ったのだろう、舌に感じる血の味でそれを理解する。外から見ればバランの口からは鮮血が一滴漏れていることで理解できた。
だがホルキンスのこの一撃に対して、バランが非難の声を上げることはない。
バランは「全ての人間は自分を攻撃する権利があり、その権利をいつ使っても良い」と宣言したばかりなのだ。文句を言えばそれは自ら口にした約束を違えることになる。
主人が殴られたことにはラーハルトも気付いていたが、彼もまたバランの言葉を知っているため必死で奥歯を噛み締めながら黙ってそれを見守り続ける。
「……まだ色々と言いたいことはあるが、オレの分はそれでチャラにしてやる」
だが意外にも、バランへの追撃はなかった。彼は自らの予想が外れたことに驚き眉をひそめる。
相手からすれば自らの祖国を滅ぼした憎き相手なのだ。たった一発の拳で怨みが晴れることなどありえない。むしろその両拳が赤く染まるまで殴っても足りることはないだろうとさえ思っていた。
「お前はこれから大魔王を倒しに行くのだろう? なら、これ以上は不粋だ。それに先ほどの一撃は、オレの思い切りを込めていた……仲間の無念の分も含めてな」
だがホルキンスからすれば、バーンとの戦いに向かうバランをこれ以上傷付けることは愚策以外の何でもない。バランをどれだけ殴っても、失われた命たちは戻ってこないのだ。
ならば必要なのは、冥界に向かった仲間たちが納得するような一撃。彼らが誇り、無念を晴らせるだけの一撃でよいのだ。
死んだ仲間たちの分はそれで問題ない。次は、まだ生きている者たちの分だ。
「それと約束しろ。戻ってきたら、一度だけで良い。オレと手合わせをしてくれ」
「手合わせ……?」
「そうだ。あの時オレは確かに祖国を滅ぼされた。だがそれはお前を欠いた戦いであり、オレたち自身も抵抗よりも生き延びて再起を図ることを優先としていた」
超竜軍団の力にカール王国は人間全てが力を合わせねば、いずれは大魔王軍にすりつぶされると悟り、未来に続けるために退いていた。
「だが、最後まで抗い続けていれば……お前と一対一で戦えばカールは負けることはなかったのだと証明したい」
だがそれはあくまで続く戦いに備えるための覚悟であり、超竜軍団――ひいてはバランを相手に自分たちが劣っていたのを示すことではない。
そう証明したかったのだ。
生き恥を晒してでも従ってくれた部下達のために。そして己のためにも。
「バラン、私からもお願いできますでしょうか?」
「お前は……たしかカールの……」
「フローラと申します」
さすがに攻め込んだ国の代表者の顔は覚えていたようだ。フローラの顔を見ながら、バランは怪訝な表情を浮かべる。
「ホルキンスのために、そして我が国の兵士たちのためにも」
「……私が憎くはないのか?」
「思うところがあるのは確かです。ですが、今はそのような事にかまけて足並みを乱していられるほどの余裕はありませんよ。それに――」
そこまで口にして、彼女は頼りがいのあるような視線を騎士団長へと向けた。
「それにもう、ホルキンスが私の分も動いてくれましたから」
「そうか……強いのだな、お前たち人間は……」
「そうでもありません。先ほども言った通り、思うところはありますから」
感情を制御していることに否応なく気付かされ、バランは目の前の女王にただただ感嘆の目を向けるだけだった。だがその気持ちも、不意に崩される。
「そうそう、バウスン将軍はどうされます?」
「なっ……!? わ、私か!?」
突然水を向けられてバウスンは当惑するが、だがフローラの言葉は止まらない。
「ええ、将軍もリンガイアのことがあります。遠慮なさることはないですよ?」
「私はその……バ、バラン殿の顔の傷はノヴァが付けたのでしょう!? ならばもう充分ですよ」
ホルキンスと比べて齢を重ね、活力が落ちているのが原因だろうか。バウスンは慌てて理由を探し、それで問題ないと口にする。まるでとってつけたような言葉に聞こえるが、それはバウスンの本心の一つでもあるのは間違いではなかった。
文句の一つも言いたい気持ちもあるが、既にホルキンスが動いているために後に続きがたい。それに息子を誇りたい気持ちも嘘ではないのだから。
「と、父さん!?」
槍玉に上げられたことで、その息子もまた声を荒げる。
いつの間にか、最初の空気はどこへやらどこかしら穏やかな雰囲気へと変わっていた。
親しい者たちとの語らいを何時までも続けたいが、そうも言ってはいられない。やがて誰からともなく話を終え、決戦に出発するべく彼らは集まっていた。
「準備はいいな?」
バランが声を掛ける。
その視線の先には、新装備に身を包んだ仲間たちの姿がある。決意を込めた面々の顔つきに頷くと、呪文を唱える。
「
目にもとまらぬ早さで移動していく彼らの姿を、残った人々は祈りを込めながら見送っていた。
出発前に装備を整えました。
そして色んな人に見送られながら、最後の決戦に挑みます。
人数多いと満足に喋らせられなくて大変です。
バランが加入したので予定修正に奔走する面々。
彼なら死の大地にルーラ出来るだろうし、じゃあそれを使おう。という結論に。
(何しろこのお話の中では、ダイたちの誰も死の大地に行ってないので)
この世界でも色々因縁があるバランさん。
ホルキンスさんと顔合わせとか、外せないですよね。
一応、
ロン・ベルクの新作武器。
本当は、グレイトアックスも作りたかったんです。
でも計算すると間に合わなさそう、なので本編の形に落ち着くことに。
(なお、読まなくてもよい脳内葛藤と理由付けが活動報告ページにあります)