隣のほうから来ました   作:にせラビア

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合計11人で5場面の描写……なんて手間が掛かる……(涙)



LEVEL:89 激突! 集団戦闘

ハドラーが瞬間移動呪文(ルーラ)を操り、その場から姿を消す。その光景を苛立たしく感じながらも見送る以外に出来ずに声を荒げるものの、だがアバンの使徒たちには追う術がなかった。

 

「ちっ! 貴様ら!!」

「落ち着けラーハルト」

 

眼前でハドラーを取り逃がしたことに苛立ち、そしてラーハルトの動きを邪魔した親衛騎団を目にして、すぐにでも暴発して飛び出していきそうな気配を漂わせるラーハルトであったが、ヒュンケルが諫めるように叫ぶ。

 

「オレたちの役目を忘れたか? ハドラーには逃げられたが、まずはコイツらだけでも倒しておくぞ」

 

確かにハドラーをも含めた全員の足止めが出来れば、それは理想的な動きと呼べるだろう。だが完璧を追い求めすぎて目的を思い出しては元も事も無い。自分たちの本来の役目を思い出し、ラーハルトは動きを止める。

 

「仕方あるまい……貴様ら! オレの邪魔をした報いを受けてもらうぞ!!」

 

代わりにその苛立ちを受け止めろと言わんばかりに、親衛騎団たちへ殺気の籠もった視線を投げかける。

当然、親衛騎団の面々からすればそんな行動が面白いはずもない。

 

「へっ、面白ぇ! やれると思ってるのか?」

「先ほど私に邪魔されてなお、向かってくるか……その意気やよし!」

 

先ほどヒュンケルとラーハルトの動きに対応していた二人はその殺気に即答し、浴びせられたそれに負けぬほどの闘気を漲らせる。

すぐにでも飛びかかりそうなほどの戦意を見せる二人であったが、だがそんな二人へ向けて女王(クイーン)が声を掛ける。

 

「お待ちなさいヒム、シグマ。ハドラー様も仰っていたでしょう? 侮るな、と」

 

それはなんとも冷静な言葉だった。

熱くなりつつある二人へ冷や水を浴びせるような口調に、彼らは僅かにたじろいだ。続いて、効果があったことを確認すると、トドメとばかりに特大の言葉を放つ。

 

「それともあなた達は、ハドラー様のお言葉を無視するつもりですか?」

「……確かに、そうだな」

 

味方へ向けての言葉だというのに、微かに殺気すら含んでいた。ハドラーの命令に従えぬであれば、処罰も辞さないと言外に語っていたのだ。

ハドラーの命令と言う言葉に加えて恐ろしい気配を浴びせられば、落ち着かない者はいなかった。だが何より、自らがハドラーの言葉から目を背けているという言葉が彼らには効果的であったようだ。

それまでの熱が急激に冷めたかのように、二人は冷静さを取り戻しつつあった。

 

二人の返事に納得したのか女王(クイーン)は一つ頷いてみせると、続いてもう一手布石を打たんとばかりに、ポップらアバンの使徒達へと視線を向ける。その行動に、すぐにでも襲いかかってくるのかと身構えるものの、彼ら予想は完全に裏切られることとなった。

 

「初めまして、アバンの使徒の皆さん」

 

挑発的な微笑を浮かべてこそいるものの、どこか慇懃さを感じさせる態度で彼女は挨拶を始める。

 

「尤も、私達はあなたのことはよく知っていますが……こちらが一方的に知っているだけというのも不平等というもの。短い付き合いになるとは思いますが、遅ればせながら自己紹介させていただきましょう」

 

突然自己紹介を始めた彼女の言葉に一瞬訝しむものの、だがすぐにそれも当然の事と悟る。ポップたちはチルノから親衛騎団についての情報を聞いているが、本来ならば初めて相対する相手なのだ。

ここで「挨拶など不要」と言って始めるのは相手に余計な警戒を抱かせるかもしれない。そう判断し、アバンの使徒たちは警戒こそ緩めぬものの話だけは聞く姿勢を見せる。

 

「我らは魔軍司令ハドラー様の忠実なる下僕。死の大地を守護するハドラー親衛騎団。私はその行動を統括する女王(クイーン)・アルビナス」

 

まずそうやって名乗りを上げたのは、先ほど仲間を諫めていた彼女だ。親衛騎団の中央に位置していることからも、その立場は窺える。

女王の名を冠しているだけあってか、女性然とした姿を見せている。仰々しい王冠のような頭飾り(ティアラ)を身に付けており、全身を覆い隠すマントとローブを身に纏っているような意匠のため、一見すれば手足が無いと錯覚してしまう。

 

「ハドラー様の忠実なる兵士(ポーン)・ヒムだ」

 

兵士の駒を連想させる男が続いて口を開いた。

先ほどから親衛騎団の中で人一倍口数が多く、そしてその言動の殆どが荒々しいそれであることから、彼が最も好戦的かつ感情的であろうことは誰の目にも明らかだった。

五名の親衛騎団の中では最も人間に近しい造形をしており、丸みを帯びた身体は単純というよりも一切の無駄な装飾を削ぎ落とし兵士として戦いにのみ集中するという意志の現れのようにも見える。

 

「私は戦場を駆ける疾風の騎士(ナイト)・シグマ」

 

騎士の駒を元に生み出されただけあってか、シグマの格好はまさに騎士と言った格好であった。だが彼の顔は――これもまた騎士の駒から生み出されたためであろうか――馬であった。手は人間と同じく五指がしっかりと存在しており、"疾風の槍"と呼ばれる馬上槍(ランス)に似た形状の槍を握りしめている。

下半身も人間と同じく二本の足ではあるが、その足下には馬の蹄に似ていることから、両脚は馬のそれに近しいであろうことは想像に難くないだろう。

騎士という役割を得ている為であろうか、彼の言動はどこか武人のように正々堂々とした威風を感じられる。

 

「我が名はフェンブレン! 親衛騎団の僧正(ビショップ)にして完全無欠の狩人よ!」

 

僧正の駒から生み出されたフェンブレンは、ヒムとは対照的に鋭角の多い姿をしていた。まるで無数の刃を組み合わせて作られたような身体からは刃のような寒々しさを感じる。彼が動くだけで空気すら裂けているようだ。

刀身にパーツを貼り付けたような顔をしており、その表情はどこか偏屈に思える。

 

「ブローム」

「彼の名は城兵(ルック)・ブロック。残念ながら言葉を喋れないので私が代わって紹介します」

 

そして最後に、無骨な全身鎧を身に纏ったような姿の大男が、名乗りとも鳴き声とも判別の付かない声を上げた。すかさずアルビナスが部下の言葉を補完するように言う。

彼は他のメンバーと比べても頭二つは上回るほどの上背があり、両肩に円形大盾を装着しているためか横幅もかなりのものだ。横に並べればクロコダインすら小さく見えるだろう。

ブロックは城兵の名を冠するだけあって、まさに砦が人型になって動いているような圧倒的な力強さを誇っている。

 

「そして、ご覧になっておわかりとは思いますが、私達はハドラー様の禁呪法によって生み出された金属生命体です。私たちは皆、オリハルコンの駒から生まれました。すなわち、この身体は全てオリハルコン出来ている……いかなる攻撃も呪文も、この身を傷つけるには至りません」

 

一通りの自己紹介が終わると、再びアルビナスが口を開いた。

相手への揺さぶりのつもりなのか、自分たちには勝てないと遠回しに語っているようだ。だがアルビナスの言葉も言外に嘘や誇張というわけでもない。神の金属たるオリハルコンの肉体を持つのであれば、それだけでも大きすぎるアドバンテージだ。

チルノから事前に聞かされているとはいえ、アバンの使徒らは微かに表情を曇らせる。

 

「ついでだ、もう一つ教えてやるよ」

 

自信満々に口を開いたのはヒムだった。

 

「禁呪法で生まれた以上、どこかに(コア)があるはず。それを破壊すればオレたちを倒せる。お前らはそう考えているってところだろう?」

 

そこまで口にすると、彼は自らの左胸を右手で軽く叩いて見せた。

 

「オレたちの(コア)はここ、お前ら人間と同じ位置よっ!」

「あいつ、自分で弱点をバラした!?」

 

そんな行動を取るとまでは聞いていなかったのだろう。ポップが驚きの声を上げる。ポップだけでなく、ヒュンケルらも大なり小なり差異はあれど表情を変化させていた。

 

「ここに弱点があると知っていれば勝てる程、戦いは甘いもんじゃねぇよ。なにせ当てられなければ効果が無いんだからな」

 

それは、弱点を教えたところで決して不利になどならないという絶対の自信の表れからの行動だ。それだけ自分たちの強さを信じているといえる。

 

とはいえそれが面白くないと感じる者もいた。

 

「まったく……わざわざ言う必要もあるまい……」

「ですがこれで条件は互角。正々堂々に戦い、勝利してこそ、ハドラー様も喜ばれることでしょう」

「……フン」

 

フェンブレンが思わず溜息する。

仲間であるヒムの行動は彼の目には愚策としか捉えられなかったのだ。誰に向けたわけでもなく、思わず口からこぼれ落ちただけの言葉だった。偶然にもシグマがそれを拾い、彼もまた自身の想いを口にする。

仲間の言葉を聞きながら、僧正はつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

 

 

 

 

「みんな、事前の打ち合わせ通り頼むぜ。おれがまず一発かまして、やっかいな鏡の有無を確認するからよ」

 

一方、親衛騎団の絶対の自信を目にしながらも、アバンの使徒たちは小声で事前に打ち合わせた内容の再確認を行っていた。

 

ポップにはマトリフから直伝された極大消滅呪文(メドローア)がある。直撃すればオリハルコンであろうが大魔王であろうが一瞬にして消滅させられるという最強の呪文だ。

だがこの呪文は唯一、呪文返し(マホカンタ)にだけは無力である。術者の周りにあらゆる呪文を跳ね返す光の壁を生み出すこの呪文だけは、極大消滅呪文(メドローア)をも弾き返してしまう。

 

そして、親衛騎団のシグマは"シャハルの鏡"と呼ばれる呪文返し(マホカンタ)の効果を備えた伝説の盾を持っている。この鏡があるおかげで、極大消滅呪文(メドローア)はおろか迂闊に呪文を使うことすらできない。

 

そのため彼らの打ち合わせた行動は、まず「本当に鏡を持っているか?」を確認するところからだった。

鏡を確認できれば、それを引き剥がす。反対に鏡が無いと分かれば、その時点で極大消滅呪文(メドローア)を使ってまとめて片付けるように動く。それが大まかな内容である。

 

ポップの言葉に仲間達は小さく頷き、それを見たポップは作戦開始の合図とばかりに呪文を放つ。

 

「ヒャダルコ!」

 

中級の氷系呪文とはいえ、鍛え上げられたポップの魔法力によって放たれたそれは下手な術者の上級呪文を凌駕するほどだ。呪文によって生み出された吹雪が極低温の冷気を伴って親衛騎団へと襲いかかる。

 

「残念だが……」

「いえ、ここは全員回避を!」

「む……!?」

 

視界の半分以上が白に染まるほどの吹雪を目にしながら、シグマが親衛騎団を庇うように一歩前へ出た。シャハルの鏡を使うつもりなのだろう。

だがそれと時を同じくしてアルビナスが叫んだ。

回避しろという命令に訝しげな声を上げつつも、女王の言葉である。親衛騎団は全員がそれに従い、散開して呪文の効果範囲から逃れる。

 

「避けたっ!?」

 

この行動に予想外だったのはポップの方である。

オリハルコンで出来ているため――極一部の例外を除き――あらゆる呪文を無効化する親衛騎団だ。彼らにとってこの程度の呪文は避ける必要すらないだろうし、相手の出方を窺う為にも弱すぎず強すぎない中途半端な威力に抑えてある。

仮に鏡を持っていれば跳ね返すだろうし、鏡がなければ無視するだろう、という程度だ。

そのため回避を選ぶという選択肢は、想定していなかった。

 

「ちっ! 仕方ねぇ、当初の予定通り頼むぜ!」

 

作戦の練り直しをしたいところだが、既に戦端は開かれている。散開した親衛騎団はそれぞれがアバンの使徒たち目掛けて迫って来ていた。仕方なし、鏡があると仮定した上でそれぞれの相手と戦うようポップは伝える。

 

「オオオオッ!!」

 

その言葉を耳にし、クロコダインは雄叫びを上げながらシグマへと向かった。

親衛騎団との戦闘が予定通りならば、シグマを相手にシャハルの鏡を剥がす役目を担っていたのは彼であった。少々予定と違ってはいるものの、その役割は変わらない。自身に期待された役目を果たすべく、先陣を切って躍り出ていく。

 

「元百獣魔団の軍団長、獣王クロコダイン……私の相手は貴様か」

 

自身を狙い、向かってくることを察知しシグマは呟いた。

敵の持つ力は確かに強力そのものであり、真っ向からぶつかり合えば力負けすることは目に見えていた。

だがそれを理解していれば、わざわざ正面からぶつかり合うことはない。シグマは素早く飛び上がると、易々とクロコダインの上を取ってみせる。

 

「強烈なパワーが持ち味だそうですが、それも当たらなければ意味がない!」

 

どうやら相手は速度を活かして相手を撹乱し、スピード勝負に持ち込むことでパワーを封殺する腹積もりのようだ。

想定通りの行動に、クロコダインは思わず口の端を上げて笑う。

そう来るであろうと予想していただけに、迎え撃つのも難しいことではなかった。迫り来るシグマの相手をすべく力を込めたところで――

 

「悪いが選手交代だ」

 

という声が聞こえてきた。

その言葉に思わず身をすくめ、そしてクロコダインは見た。

 

「オレの邪魔をした報いは受けてもらう、そう言ったはずだ」

「貴様は!?」

 

そこには、目にも止まらぬ早さでシグマへと突撃していくラーハルトの姿があった。

跳躍したシグマに劣らぬ程の速度で飛びかかると、そのまま槍を振るう。突然の襲撃者に意表を突かれこそしたものの、シグマは超反応を見せて迫り来る槍を止めて見せる。

だがラーハルトは衝突の勢いそのまま、さらに押し込むようにしてクロコダインの近くから戦場を引き離してしまう。

 

 

 

 

 

「ええいっ、まったく!! ラーハルトの奴め!!」

 

突如として横槍を入れられ獲物をかっ攫われた形となり、クロコダインは思わず怒鳴り悪態を吐く。何の打ち合わせも断りの言葉一つすらなくこんなことをされては、文句の一つも言いたくなるだろう。

だが文句を言いつつも、クロコダインの顔はどこか愉快であった。

 

「仕方あるまい、ではオレの相手はコイツだ!!」

「ブローム!?」

 

偶然にも手近にいたブロック目掛け、クロコダインは勢いよく体当たりする。突如として真横から大質量が激突してきた衝撃にブロックは思わず足を止めるが、それだけだ。

吹き飛ばされるわけでもなければ、蹈鞴(たたら)を踏むわけでもない。ただ足を止めただけの敵の姿を見て、クロコダインは更に笑う。

 

「オレも武人の端くれ、かなわんと言われて素直に引き下がるほど聞き分けは良くないのでな!!」

 

そう叫びながら敵の顔面目掛けて拳を放つクロコダインの表情は、実に愉しそうだった。

 

 

 

 

 

ヒュンケルは当初の打ち合わせ通りにヒムと対峙していた。猛然と殴りかかってくるヒムの拳を剣で受け流し、切り結ぶ。そこへクロコダインの怒声が響き渡り、ヒムは手を攻めの手を一旦止める。

 

「おいおい、お仲間がもめてる様だが良いのか?」

「問題は無いな。こうなるだろうことは、予想できたことだ」

 

挑発するようなヒムの言葉に、けれどもヒュンケルは一切表情を変えぬまま言い放つ。

 

シグマを相手に戦いたいというラーハルトの気持ちも、ブロックを相手に戦いたいというクロコダインの気持ちも、ヒュンケルには理解できた。

そもそも彼らは皆、チルノから事前に「個々の能力では自分達より上であり、同じ能力で対抗しても勝てない」と教えられており、戦う相手もその前提を元に割り当てたものだ。

だが、そう言われて素直に従うほど彼らの気性は穏やかではない。ましてや彼らは、チルノが知る本来の歴史よりもずっと強くなっている。

 

――試してみたい。

 

その欲求が心のどこかで疼き続け、親衛騎団が呪文を躱したことでそれが爆発したのだ。

そう考えれば、ヒュンケルは割り当てられた相手がヒム――兵士で幸運だった。

チェスにおける兵士(ポーン)とは、退くことを知らず前進し続ける存在だ。それはどこか過去の自分と重なり、チルノの事前知識がなくとも戦ってみたい相手であった。そんな相手と、身勝手なワガママを見せることなくこうして戦えるのだから。

 

「それより、自分の心配をした方がいいぞ!」

 

ヒュンケルが剣を振るうと、オリハルコンのヒムの胴へ僅かに傷が刻まれた。かすり傷にも満たない程度の小さな傷だが、ヒムからすれば腹立たしい事この上ない。

 

「ちっ! テメェ!!」

 

中断していた戦いが再び開始された。

 

 

 

 

 

「ラーハルト! おっさんもかよ!?」

 

当初の段取りを無視して打ち合わせと違う動きを見せる二人の仲間の姿に、戦闘中だというのにポップは思わず頭を抱えてまう。

 

「事前の作戦が滅茶苦茶だぜ……」

 

愕然とそう呟いてしまうが、それも無理のないことだった。

そもそも対戦相手の組み合わせは、チルノの知る本来の歴史の知識を参考に決めたもの。言うなれば、面白みはないかもしれないが堅実な組み合わせだ。

それが他ならぬ仲間の手で崩されたとなれば、恨み言の一つでも言いたくなるというものだろう。

 

「……ホウ、今事前(・・)と言ったか?」

「ポ、ポップ君……」

「その言葉の意味を、ワシに教えてくれんか?」

 

だがどうやらのんびりと落ち込んでいる時間はなかったらしい。レオナの焦った声が響き、そして耳慣れないもう一人分の声が聞こえてくる。

その声の主を確認するために顔を上げ、ポップは微かに焦りの色を浮かべた。

 

「あんたはフェンブレン、だったよな?」

 

そこには親衛騎団の僧正(ビショップ)の姿があった。

直接戦闘能力を有する四人が飛び出していったため、現在残っているのはポップとレオナだけだ。そして親衛騎団は総勢五名。四人が一人一人の相手をしても一人残る、子供でも解ける簡単な計算だ。つまり、ポップも最低一人は相手をする必要があった。

その順番が回ってきただけのことと自分に言い聞かせながら、それでも僅かでも時間を稼げれば幸いと考えて、とりあえず口を開く。

 

「左様。魔法使いのポップと賢者のレオナ……どちらもオリハルコンの身体を持つワシらとの相性は最悪だな」

 

すると意外にも相手は乗ってきたようだ。脅しのつもりなのか両手の指をカチカチと打ち鳴らしている。

 

「素直に降伏すれば、楽に逝かせてやるぞ? ああ、その前に先ほどの言葉の意味も教えて貰おうか」

「へへっ。ありがたい申し出だけど、そういうわけにもいかねぇのが、正義の味方の辛いところでね……」

 

呪文を無効化する者と、呪文を得意とする者の戦い。

一見すればこれほど不利な事もないだろう。

だがポップは意地とばかりにレオナを庇うように前に立ち、フェンブレンと対峙する。

 

 

 

 

 

「みんな!?」

 

マァムもまた、当初の予定と異なる戦場に困惑していた。

本来の予定ならば彼女はブロックの相手をしていた筈なのだが、いつの間にかクロコダインが相手をしている。今からでも向かいクロコダインと共闘するべきかと一瞬思い悩むが、すぐにそれは不可能と悟る。

 

「私の相手は貴女ということですか……僧侶、いえ武闘家マァム」

「……アルビナス」

 

いつの間にか、すぐに近くに女王(クイーン)が姿を現していた。恐ろしいまでの殺気が突き刺さり、マァムは無意識のうちに構えを取る。だが構えを取るだけで、それ以上動き出すことが出来ずにいた。

アルビナスから感じる殺気に呑まれていると気付き、マァムは小さく息を吐く。

 

「奇しくも女性同士の戦い――とでもお考えですか? もしそうならば、全くの見当違いです。私は女王(クイーン)の役目を背負ったただの駒。駒に性別はありません。情けを期待しているのならば、そんな甘い考えは今すぐに捨てることです」

 

攻めずにいることを勘違いしたのか、アルビナスはそう口にし始める。

 

「チェスにおいて女王(クイーン)は迂闊に動かぬのが定石。ですが、数の上では我々が不利……睨みを利かせているほど暇はありません、早々に倒させて貰いますよ」

「ッ!?」

 

そこまで口にすると、それまでも恐ろしく感じていたアルビナスからの殺気が更に膨れ上がった。思わず息を呑み、マァムは僅かに距離を取る。

 

 

 

 

 

「竜騎衆ラーハルト……スピードに自信があるとのことだが、私にも意地がある。跳躍と速度でこのシグマに勝つのは天馬とて無理なこと!!」

 

戦線を強引に引き剥がされ、一対一の状態に無理矢理持ち込まれたことにシグマはいささか驚かされたが、すぐに気持ちを切り返る。

彼は――もとい、親衛騎団全員に共通していえることだが――戦場とは思い通りにならないものと本能で理解している。盤上の戦いを生業としてきた駒より生み出されたため、そういったことは基本として身についている。

そして騎士(ナイト)たるシグマは親衛騎団において速度に長けている。如何にラーハルトが噂に名高い相手であろうとも、一歩たりとて退くつもりはなかった。

 

「気が合うな。オレも、天馬ごときに劣っていると思われるのはいささか不愉快だ」

「むっ!?」

 

そこまで口にすると、ラーハルトの姿が消えた。いや、実際に消えたわけではなく、超速で動いたために常人の目では追い切れなくなっただけだ。

高速で動く音だけが響く中、シグマは手にした槍を振るう。

 

「そして、貴様にも劣るつもりはない!!」

「甘い!」

 

するとそこにラーハルトの槍がぶつかった。閃光のような槍の一撃を視認し、シグマが先んじて攻撃を防いだのだ。だが槍の振るわれた速度は凄まじく、オリハルコンで出来た身体をたじろがせる。

 

「くっ……!」

 

受け止めた勢いに押され、それを立て直すべくシグマは駆け出した。ラーハルトへ容易に攻められぬと思わせ、速度での勝負に持ち込むためだ。

 

「どうした、その程度か?」

「なっ!?」

 

全力で駆けているはずだが、ラーハルトは一瞬にしてシグマへと追いついてみせた。これほどの速度で動くとは思わずにシグマの手が僅かに緩み、そこへラーハルトの槍が容赦なく叩き込まれていく。

再び迫る槍をどうにか掻い潜るものの完全には防ぎきれず、シグマはオリハルコンの肉体に細かな傷を付けることとなった。

 

「そこだ!」

「なんのっ!!」

 

敵が受けに回ったのを攻めの好機と睨んだのだろう、ラーハルトは得意技たるハーケンディストールを放つべく大きく跳躍する。だが敵の動きを見た途端、シグマもまた飛んでいた。

 

「ハーケンディ……!?」

 

ラーハルトは一瞬、己の目を疑った。気付けば先に飛んだ彼よりも速く、そして高い位置へとシグマが移動していたからだ。空中でより高い位置を取られたことに気付き、ラーハルトは慌てて守勢に回る。

 

「ぐっ!?」

 

その切り替えはギリギリ間に合ったようだ。シグマから放たれた上空から降り注ぐ槍を彼はどうにか受け止める事に成功する。

 

「……あの一撃を受けていたら、危ないところだったよ」

 

空中戦は一瞬で終わり、二人とも地上へと降り立っていた。だがラーハルトは少し体勢を崩しながらも着地し、対するシグマは天馬のごとく舞い降りる。

 

「だが、跳躍力と速度には自信がある。そう教えたはずだが?」

 

シニカルな笑みを浮かべる騎士(ナイト)の姿に苛立ちを覚えたが、その感情を自制しながらラーハルトは口を開いた。

 

「速度はオレ、跳躍は貴様が上というところか……」

 

腹立たしくはあるが、証明された以上は認めねばならない。手強い相手の存在に、ラーハルトの心は躍っていた。

 

 

 

 

 

――どうする……いや、まだ駄目だ!

 

フェンブレンと向かい合うポップの脳裏に一瞬、極大消滅呪文(メドローア)を使って目の前の敵だけでも確実に倒しておくべきではないか、という誘惑が生まれた。

だが彼はそれを懸命に振り払う。

極大消滅呪文(メドローア)の存在は秘中の秘であり、迂闊に見せて良い呪文ではない。そもそも二発も放てば魔法力が枯渇するほどに消費する呪文のため、安易に使う事は自らの選択肢を狭めることになる。

加えて、何度も見せれば対策方法の一つや二つは考え出されてしまうだろう。極大消滅呪文(メドローア)の特性上、何度も見せるのは下策でしかない。

 

「とくれば、これしかねぇよな……」

 

そこまで考えると、覚悟を決めたように呪文を放つ。

 

閃熱呪文(ギラ)!」

「無駄なことを……」

 

ポップが放ったのはギラの呪文だ。威力は高く扱いは難しいものの閃熱呪文の中では下級であり、ましてやオリハルコンを相手にするとなれば心許ないことこの上ない。

対戦相手たるフェンブレンですら呆れたような様子を見せている。

そんなことは術者であるポップが一番よくわかっている。理解していたからこそ呪文を調整し、威力は弱くとも面のように広い範囲へ放っていた。

高熱エネルギーによって敵の視界が遮られた瞬間を狙い、ポップは出発直前に渡された杖を取り出すと、ギラの呪文を放つ手とは逆の手でそれを握りしめる。

そしてフェンブレンの胸元目掛けて、槍のように一気に伸びるようにイメージした。

 

「ぬおっ!?」

 

それだけで杖は持ち主の意志に従い、生き物のように伸びていく。ギラによって視界を遮られていたフェンブレンはその一撃をまともに食らい、大きく吹き飛ばされた。

 

「へへっ! どうだ、ブラックロッドの威力は!?」

 

反対にポップは、予想以上の結果に思わず喝采していた。

ロン・ベルク謹製たるブラックロッドは、持ち主の魔法力を吸収して打撃力に変える性質と持ち主の意志に従い伸縮自在に形状を変える性質を併せ持つ。現に拳三つ程度の長さしかなかったはずの杖が一瞬にして槍よりも長く伸びたことと、魔法使いたるポップの筋力で敵を吹き飛ばしたことから、その性能は折り紙付きだ。

後ろで見ていただけのレオナですら、その威力に思わず舌を巻く。

 

「貴様ッ!! 甘い顔をしてやればつけ上がりおって!」

 

だがその一撃で倒せるほどフェンブレンは容易い相手ではない。吹き飛ばされたダメージによって胸部がへこんでいるものの動くのに支障は無いらしく、それを感じさせない動作で雪辱を果たすべくポップへ襲いかかろうとする。

 

「もう一発!!」

 

だが距離が開いており、対応するだけの時間は充分にあった。ポップは続いて伸びたブラックロッドを横に払う。

 

「フン!」

 

その一撃はフェンブレンからすれば甘いものでしかなかった。足を止め右手を掲げると、打撃力の込められたその一撃を受け止めてみせた。すぐさまブラックロッドを引き戻し、第二撃目を放とうとして気付く。

 

「しまった!」

 

戻した先、ロッドに傷が付いていることを確認して思わず舌打ちする。フェンブレンは全身の八割以上が刃物で構成されているため、迂闊な攻撃は危険。その情報も事前に教えられていたはずなのだが、武器の性能にポップは少々慢心していたらしい。

とはいえ、大きめの傷がついているものの扱うには問題なさそうだ。そこまで確認したところで、レオナが叫ぶ。

 

「ポップ君、前!」

「うおおおおぉっ!?!?」

 

声に反応して視線を戻せば、いつの間にかフェンブレンがすぐそこまで迫ってきていた。手刀――文字通り刃の手を振るい、ポップへ攻撃を仕掛けてくる。それを認識した途端、考えるよりも先に身体が動いていた。

不格好に避けながらロッドを伸ばすと、地面に思い切り突き刺ささる。だがそれでも伸ばすのは止めなかった。そのまま勢いに身を任せることで、大きく距離を取って見せる。

さながらロッドに運んで貰ったようなものだ。どこか情けなさがあるが、命には代えられない。

 

「大丈夫!?」

「へへ、姫さんに心配してもらえるたぁ嬉しいねぇ……」

 

それでも完全に回避は出来ず、頬が切られていた。ズキリとした痛みと血が流れる感覚を味わいながらもポップは気丈に笑ってみせる。

 

「けどもうちょい下がっててくれ。姫さんに何かあったら、チルノのやつに怒られちまうからな」

「わ、わかったわ……」

 

そう言うとレオナは更に下がっていく。

下がりながら遠くに目をやれば、クロコダインとブロックが派手な戦いを繰り広げているのが見えた。激突する余波によってか周囲の大地に亀裂が走っている。

ヒュンケルとヒムにしてもそうだ。戦闘そのものはヒュンケルが優勢に進めているようだが、ヒムは野性的とも言える動きでヒュンケルに食らいついている。

どちらもすぐに援軍を頼むことは出来ぬと悟り、彼女はポップが無事に乗り切れるように心の中で祈る。

 

――呪文はダメージを与えられねぇが、目眩まし程度には効果がある。なら後は武器の性能便りの根比べか……

 

流れ出た血を軽く擦ると、生き延びるための策をポップは必死で模索する。

 

 

 

 

 

鎧化(アムド)!」

 

アルビナスの殺気に押されぬように気を張りながら、マァムは叫んでいた。その言葉に従って、彼女の左手に装着された魔甲拳が変化を始める。小手全体が生き物のように伸びると、マァムの身体へと巻き付き鎧を形成していく。

やがて――時間にすれば一秒程度の間を置いて――左半身を装甲で固めたマァムの姿がそこにはあった。

小手は小型盾のように広がって左腕全体を覆っており、肩には鎧のような段差が張り出ている。上半身は胸当てのように胸部を守り、下半身は腰からつま先まで左足全体を同じく包み込んでいた。さながら全身鎧を半身だけ纏ったような姿だ。

 

「おや、それは……」

 

敵の変化を見てアルビナスは驚いた、けれどもどこか余裕のある様子を見せる。

 

「情報にない装備――ですが、おそらくは鎧の魔剣や魔槍と同じ装備。私への対抗策というわけですね?」

「ええ、そうよ。これもロン・ベルクさんの武器。私も倒されるわけにはいかないの! 今ある全てを使ってでも、あなたに勝つ!」

「そう、その通りです」

「……?」

 

力強く言い放った言葉に対して、敵は全面肯定の言葉を返してきた。どこかかみ合わないその返事に、マァムはどこか拍子抜けするような感覚だった。

 

「どうしてあの魔法使いの少年は、ヒャダルコなどという中途半端な呪文を唱えたのでしょうか?」

 

だがアルビナスは言葉を止めない。

 

「氷系呪文はヒャダルコまでしか使えない、と言う可能性も確かにあります。ですが彼はメラゾーマのようなもう少し強力な呪文を操れることは知っています」

 

事前にアバンの使徒の情報は得ている。それらを照合するに、彼女はどうにも作為的な何かを拭えなかった。

 

「様子見とするにしても、少々不自然な選択です。オリハルコンの身体を持つということは、直前に伝えていたはず。ならば中途半端な攻撃が有効だと本気で思ったのですか? 今のあなたのように、最大の戦力を持って戦おうとは思わなかったのですか? よもや、あなたたちの目には私達は弱卒の集まりにしか見えなかったのですか?」

 

たたみかけるようなアルビナスの言葉を耳にして、マァムは顔を蒼白にしていた。その表情を見ながら、女王(クイーン)は表に出すことなくほくそ笑む。

 

――侮るな。ハドラー様のあの一言が無ければ、ここまでの考えを巡らせる事もなかったでしょうけれど。

 

女王(クイーン)であるアルビナスは、ハドラーに絶対の忠誠を誓っている。無論、親衛騎団全員がそうだが、その中でも彼女はひときわ飛び抜けており、盲信と呼んでも過言ではない。

そんな彼女が敬愛する主から「侮るな」と言われればどうなるだろうか?

敵の一挙手一投足すら疑いの目を持って挑み、それが先ほどの慧眼へと繋がっていた。

 

「その反応……どうやら当たらずとも遠からずと言ったところでしょうか? よかった、これで安心して、あなたを倒せます」

 

素直に反応を見せてしまった甘い敵に感謝しながら、アルビナスは姿を消す。そして次の瞬間には、マァムの目の前にいた。

 

「ニードルサウザンド!」

「ぐぅっ!」

 

マァムの前に姿を現すと同時に、アルビナスの全身が強く発光する。

ただの目眩ましの様にも見えるが、その光は極大閃熱呪文(ベギラゴン)のそれだ。本来ならば直線に放たれる閃熱のエネルギーを分散させ、針状にして全身から放射することで相手を焼き尽くす技である。

距離もタイミングも、どちらもほぼ完璧と言って良い出来で放たれた攻撃を、マァムは身体を横に――左半身を盾にするようにしてなんとか防いでみせた。呪文を無効化するという鎧の性能のおかげだ。

とはいえこれも、事前に聞いていたからこそなんとか反応できたようなもの。完全に初めて見る技だった場合、防御が遅れてダメージを負っていたのは間違いないだろう。

 

「ふむ、流石は鎧の魔剣と同じ装備……呪文では攻略できませんか……」

 

会心の一撃であったはずのそれを無傷でしのがれたが、アルビナスは取り立てて落胆することもなかった。ただ淡々とその結果を受け入れると、彼女はローブの下に封じていた両腕両脚を露わにする。

 

「やはり全力で行くとしましょう」

 

 




当初(超初期の「こんな感じかな?」程度)の予定では
・兵士 VS ヒュンケル
・騎士 VS クロコダイン
・城兵 VS マァム
・僧正 VS ポップ(時間稼ぎメイン。誰かが助けに来るまで耐える)
・女王 VS ラーハルト
でした。

まあ「原作で負けてたからお前コイツに勝てないぞ」と言われて「わかりました」って大人しく素直に言うこと聞くタマだったら武人なんてやってないです(偏見)
これ幸いと動き出すラーハルトさん。
クロコダインも力試しをしてみたかったんでしょうね。あれだけ鍛えていれば「ひょっとしてイケるんじゃね?」と思ってしまうのも仕方なし。

そしてこれだけやって、決定打を一切出さずに話を切るとか……
ご都合主義なんです……ごめんなさい。
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