じゃあもうタイトルから開き直ろうって……(その結果が回文である)
ダイとバラン――二人の
「この揺れは……!?」
「おそらくは、魔宮の門が砕かれたんじゃないかな?」
ミストバーンの呟いた言葉に、キルバーンが推論を述べた。信じられないと言った反応を見せるが、完全に当てずっぽうというわけでもない。
「さっきのハドラー君の反応と勇者様御一行の言葉を信じるなら、可能性は決して低くないだろうね。それに、今この
ポップたちとハドラー親衛騎団の会話は、悪魔の目玉による中継を通して彼らも耳にしている。囮として目立つことで戦力を引き付けておき、本命の戦力が魔王を狙っているということも聞いていた。
「だが、どうやって魔宮の門の場所を知ったというのだ!? それにあの門はバーン様によって封じられている! 破壊することなど不可能だ!!」
「落ち着きなよミスト」
幾つもの有り得ないことを突き付けられ、激昂したようにミストバーンは叫ぶ。だがキルバーンはそんな親友の姿を見ながらクスクスとからかうように笑う。
「確かにあの門は封じられているけれど、絶対に開かないわけじゃない。ましてや相手には伝説の
そこまで口にするとミストバーンはバーンの方へと視線を投げかけた。バーンは玉座に座したまま微動だにせず、ただ黙って二人のやりとりを見ていただけだ。沈黙を持って肯定の返事としているのか、それとも何か別の事を考えているのか、それはキルバーンにも伺い知ることは出来なかった。
「なんにせよ、まずは事実確認を急いだ方が良いと思いますよ。ボクの心配が取り越し苦労なら、それに超したことはありませんから」
だが、キルバーンはそのような事を気にすることはなかった。ただ淡々と、当たり前のようにバーンへ次の一手を求める。その言葉はどうやらバーンにとっても頷けるものだったようだ。
「すぐに悪魔の目玉を向かわせろ」
「ははあッ!」
バーンの命を聞き、ザボエラは低頭しながら叫ぶ。
魔軍司令補佐としてこの場に同席することを許され、当初はハドラーたちと勇者たちとの激戦を見物できるものだとばかり楽観視していた。それがまさかこのような状況になるとは思ってもみなかったことだ。
仮にキルバーンの言葉が事実だったとすれば、ザボエラ本人が迎撃に出向く可能性すら出てくる。そんなことになれば、確実に生きては帰れないだろう。
寿命の縮まるような思いに肝を潰しながら、妖魔士団配下である悪魔の目玉たちへ命令を下して魔宮の門方面の調査を厳命する。
一秒でも速くダイたちの居場所を見つけることを祈りながら配下からの応答を待てば、あっさりと反応が返ってきた。
「見つかりましたですじゃ!!」
すぐさま悪魔の目玉を介した映像を映し出す。
「……まさか」
ミストバーンが思わず声を漏らした。そこに映っていたのは、前部ドームから
「おやびっくり……予想が大当たりしちゃったね」
「キルバーン、スゴイスゴイ!!」
使い魔ピロロが場違いに明るい声を上げ、手を叩く。そんな脳天気な雰囲気とは対照的に、ミストバーンは焦りの色を浮かべていた。
「バーン様、ここは私にご命令を!! ダイ共に
「じゃあボクも一緒に行きましょうか? 何しろ相手の戦力を考えたら、戦力は多い方が良いハズ」
今すぐにでも飛び出したいという衝動を抑えながら、ミストバーンが進言する。するとキルバーンも乗ってきた。何か考えがあるのかと怪しさを抱えつつも、ミストバーンは主の言葉を待つ。
「……いや、ここはハドラーの本懐を遂げさせてやろう。その身を超魔生物へ堕としてまで、勝利を求めたヤツの執念……これは余からの手向けよ……叶う叶わぬはともかく、な」
バーンが下したのは、あくまでハドラーに任せるという結論だった。彼の忠誠心と決意を汲み取っているようだが、だが最後に付け足すようにして小さく呟かれた一言が本心を端的に表していた。
「だが、ハドラーはあの通路を直接訪れたことはあるまい。辿り着くまで時間が掛かる……そうなれば、ハドラーが到着するまでダイたちはこの主城目掛けて寄ってくることになる。それはいささか面白くない」
そこまで口にすると、バーンはニヤリと不敵に笑う。
ハドラーの願いを叶えてやりたいという理由は決して嘘ではない。そして、ダイたちに攻め込まれるが面白くないというのも真実だ。
「考えてみれば、今は
バーンは虚空へ向けてそう投げ掛ける。
ミストバーン達は一瞬その行動が理解できず疑問符を浮かべるが、だがすぐに合点が行ったようだ。ローブの下に素顔を隠した者と仮面で顔を覆う者、共に表情は分からないがどうやら愉悦のような表情をしていた。
そして、明後日の方向からは焦ったような気配が漂ってくる。
「どうした、本来ならば率先して出向くべきではないのか? それとも、余が手ずから尻を叩かねば動けぬか? 余の鞭は、少々キツいぞ……身を焦がさんばかりに」
ダメ押しとばかりに火球を生み出して見せる。それは
だが効果は抜群だったようだ。
気配は更に焦りを帯び、同時にその場から大急ぎで離れていった。
「あいつに相手が務まるとは思えませんが……」
「かまわん。常日頃、自らを
ミストバーンの言葉にバーンは皮肉の混じった表現を添えて答える。本心では、期待などしていないことが言葉の端々に現れていた。
「なに、耐えておればいずれハドラーもやってくる。ならば、案外粘るやもしれんぞ」
「なるほど……バーン様はお優しいようで……」
大魔王の気遣いを垣間見て、死神はつられたように哄笑を上げる。三名のやりとりを見ながら、自分が選ばれなかったことにザボエラは心の底から安堵していた。
「ここから先、貴様らを通すわけにはいかんのだぁ!!!」
一言で表すならば、
「コイツは……?」
「姉ちゃん!?」
「あー……忘れていた、ってわけじゃないんだけど……」
ダイとバランは少し遅れて着いて来ていた少女へと目をやり、その視線を受けたチルノは思わず頭を抱えていた。だが目の前の相手はそんなことなどお構いなしに続ける。
「我輩こそが
「キング……」
「マキシマム、それがお前の名か」
オリハルコンで出来た肉体を持った人型の金属生命体である。その姿はチェスの
同じオリハルコンの金属生命体であることと、チェスの駒をモチーフとしていることからハドラー親衛騎団を連想するかもしれないが、彼の場合は少々事情が異なる。
親衛騎団の面々は駒を元にハドラーが禁呪法によって命を与えた存在だが、マキシマムは
「まさかここで出てくるなんて……ありえないってタカを括っていたわ……」
本来の歴史から敵の性格も知るため、まさか出てくるハズがないだろうと思い込んでいた自分をチルノは恥じていた。
マキシマムはバーンの所有する十六個のオリハルコン製のチェス駒のうち、
だがその性格は良く言えば狡猾、悪く言えば下劣にして姑息。
戦いで消耗しきっていたり弱った者を狙って刈るという、いうなれば「安全確実に勝てる場合のみ出陣する」戦法をとるのだ。
確かにそれもある意味では合理的な戦術の一つであり、弱った相手から潰すことで敵方の士気を挫く効果があるのも認めよう。チェスの戦術にも「弱い味方を囮に強い敵を潰す」「敢えて急所を見せることで逆に全体を操作する」といった手段は確かに存在するのだが……
この男の場合は別である。
どう考えても「味方の防衛」よりも「自尊心を満たすために勝利する」という闘い方を主眼に置いているとしかチルノには思えなかった。
そのため、
「ダイとバランがここにいることを知れば怖くなって絶対に近寄ってこないと思っていたのに、どういう風の吹き回しかしら?」
「ムウゥゥ? そ、そのようなことを思っているとは心外な!! 我輩は常にこの城を守護することを考えておる!! 強敵が強くて逃げるなどあ、あ、ありえんわ!!」
などと偉そうなことを言ってはいるものの、内心は真逆である。
――ここで退けば、その先に待ち受けているのはバーン様による制裁!! そうなれば我輩は確実に死ぬ!! ここはなんとしてでも、どんな手を使ってでも生き延びねば!!
マキシマムの心の中では、恐怖と恐怖がせめぎ合っていった。まあ、バーンに「挑め。退けば我が手で殺す」と脅されれば、大魔王軍に所属する者は否応なく出撃せざるを得ないだろう。
進んでも死、退いても死であるが、退けば確実な死である。前者はまだハドラーが来るかもしれないという希望的観測があるだけ、生き延びる可能性はあった。
そのためマキシマムはこの場を無事に切り抜ける方策を必死で模索し続ける。
「えっと、姉ちゃん……コイツって強いんだっけ……?」
「い、一応はオリハルコンの身体を持っているし、部下を操る能力もあるんだけど……」
「馬鹿馬鹿しい、時間も惜しいのだ。さっさと倒して先へ進むぞ」
強がっているのを隠そうともしない、戦う覚悟すら決まっていないような相手がまさかこのような場に出てくるとは思ってもみなかった。ダイの呆れたような声にチルノはそれでも警告を促そうとするが、バランは必要ないと切って捨てた。
真魔剛竜剣を抜き放つと八相に構え、それを見たダイも背中から剣を抜こうとして――抜けなかったため、慌てて短剣を装備する。
「な、舐めるな!! 来い、我が最強の軍団よ!!」
敵が今にも襲いかかって来そうな様子に、そう叫びながら指先をパチンと鳴らす。それを合図として、マキシマムの影からは
彼らの姿は皆、地上でポップたちが戦っているハドラー親衛騎団とほぼ同じ姿をしていた。
唯一違う点があるとすれば、親衛騎団の面々はそれぞれが
突然敵が増えたことに、ダイたちは僅かに警戒色を強める。
「アレはマキシマムの命に従うだけの人形よ。融通も利かず、自発的に動くことはないけれど、命令には絶対服従だからそれだけは気をつけて!」
「なるほど、まさに盤上の王そのものの能力ということか」
だがその警戒もチルノの言葉ですぐに解かれた。
特に正式な
「小娘! どこでそれを知った!? ええい、者どもかかれ!!」
「バカが! その程度で勝てると思ったか!?」
再びマキシマムが指を打ち鳴らすと、七体の
機首通路は横にも広く、ダイとバランの二人が並び立ってもまだ余裕で戦えるほどの幅を誇っていたが、それでも八体の敵が同時に襲いかかってきては話は別だ。八対二という目まぐるしい乱戦が繰り広げられた。
「チェスって確か一度に動かせる駒は一つだけだろ!? インチキだ!!」
そう叫ぶものの、ダイの顔色はまだまだ余裕そのものだ。一度に複数を相手にするものの、敵の攻撃はどれも教科書通り――言ってしまえば基本ばかりで応用がない。馬鹿正直な一撃ばかりなのだ。
加えて、一度に襲いかかってくるものの連携というものも皆無である。数の利点を活かせず、言うなれば一対一の戦闘を幾つか同時に行っているようなものでしかない。
個々の能力で負け、補い合って戦うことすら出来ぬようでは、如何にオリハルコンの戦士といえども敵ではなかった。
ダイが短剣を振るうたびに
バランの戦いに至っては一方的という言葉すら生ぬるい。同じオリハルコン製の真魔剛竜剣では防ぐことも出来ずに
――待って、確かマキシマムは……!!
ダイたちの圧倒的な戦いを前にして、チルノはあることを思い出す。
本来の歴史でもマキシマムは似たような危機に瀕していたことがある。ならば、取る手段も当然似通ってくるはずだ。
「……【魔法剣フレア】」
そこまで判断するとチルノは誰にも気付かれない用にガリアンソードを引き抜くと、魔法剣を発動させた。フレアの魔法を込められた剣は、その膨大な熱と爆発力をひっそりとその内に秘める。
時を同じくして、ダイたちが敵兵たちを全て倒していた。
「ふははははっ!! よくやったぞ
部下達が全滅してもマキシマムは気にした様子も見せなかった。
それも当然だろう。チェスとは王を取らぬ限り負けではない。
「やれい
「やっぱり……」
王の命令に従い、通路の下から
今までの行動は全て囮でしかなく、本命はこの奇襲攻撃だった。親衛騎団のフェンブレンと同じく、
「何んだと!?」
「姉ちゃん!! コイツ、また!!」
さすがにこの動きにはダイたちも少々肝を冷やしていた。特にダイからすれば、今すぐにでも援護に飛び出したいところだろう。
だがそれが予期できないほどマキシマムもバカではなかった。
チルノを人質にすることでダイとバランの動きを封殺し、確実な勝利を得る。倫理を無視すれば悪くない一手だろう。事実、チルノはどちらにとっても代えがたい存在になっている。彼女を抑えられては二人とも間違いなく攻めあぐねていたはずだ。
――計算通りにいけば。
「黙れ!! これはインチキなどではなく策略だ!! 二人とも、その小娘の命が惜しければばばばばばああぁ!?!?」
勝利を確信し、勝ち誇ったような叫び声はその途中で驚愕の声へと変わる。
誰にも気付かれぬ様に駒を動かし、密かに進めていた必勝の策。だがその希望はあっけなく打ち砕かれていた。
攻撃と同時に込められていた高熱が切断面を溶かし、一拍遅れて猛烈な爆発が巻き起こる。
「ど、どどどどどどういうことだこれは!?!?!?」
「やることは同じ、か……」
両断され、融解し、爆発四散していく
だが、彼の災難がこれだけで終わるはずもない。
「……あ」
「今のは多少驚かされたぞ」
「覚悟しろ!!」
少し目を離した隙に、
しかも――持ち主の怒りに呼応したのだろう――いつの間にやらダイは背中からダイの剣を引き抜いている。
真魔剛竜剣とダイの剣。二振りの剣に挟まれた恐怖からマキシマムは怯えたように一歩下がろうとして――盛大にすっ転ぶ。
「
チルノがにっこり微笑んだ。
いつの間にか彼の足にはガリアンソードが絡みついていた。
敵の前で転び、無防備な姿を晒す。
現状、彼にとって考え得る限りの最悪な展開であった。部下を全て失い、満足に抵抗することも出来ない。裸の王となった今のマキシマムに出来ることは、もはやたった一つ。
「ま、待て待て待て!!! 違う!! 違うのだああぁぁぁっ!!」
――謝罪と弁明の言葉を並べることだけだった。
余談ながら、どうやら金属生命体も恐怖で泣くということが証明された。
「無駄な時間を取ったな」
「そうだね、早く先に進まなきゃ……」
時間にすれば、ほんの数分の戦い。だがそれでも足止めは足止めであり、その効果は決して無駄ではなかった。
「待てっ!!」
再び彼らの向かおうとする先から聞こえてくる声。どうやらバーンの取った策は妙手と呼んで良いようだ。
「まさか本当にここにいるとは、思わなかったぞ」
通路の先からハドラーが現れる。
ということで、出オチの王様マキシマムさんの登場&退場です。
原作からしてコイツの扱いは踏み台ですから。即退場させても誰も困らないですね。
能力的には弱くないはずなのに、345歳児はこれだから……
バーン様に脅されなかったら、間違いなくコイツは出撃しなかったでしょう。
しかし今回の話、読む必要も書く必要も本気で無いですね。
(ヒキが変わってないので)