隣のほうから来ました   作:にせラビア

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新アニメ、10話でワニさん撃破ですか。
漫画だと25話くらい。旧アニメだと18話くらいでワニさん倒してます。
……はやい。



LEVEL:91 魔神倒れる

「ハドラー……」

「やはり来たか………」

 

どうやら"足止め"という一点においてのみ、マキシマムは値千金の活躍をしたようだ。

再び眼前へと立ち塞がったハドラーの姿を見ながら、二人の(ドラゴン)の騎士は忌々しげに呟いた。

速攻でバーンを討ち取ることを目的としている彼らから見れば、今のハドラーは可能な限り戦闘を避けたい相手だった。超魔生物・オリハルコン・竜闘気(ドラゴニックオーラ)という考えうる限り最悪の要素を取り揃えている敵など、倒すのにどれだけ時間が掛かるというのだろうか。マキシマムがやってきたことで既にバーンに気付かれてはいるだろうが、それでも早く挑めばその分だけ準備の時間を削ることができるのだ。決して無駄ではない。

 

理想を言えば地上のポップたちにハドラーも合わせて引き付けて貰えれば、戦わずにやり過ごすこともできたのだろうが、どうやら物事はそうそう上手くは行かないようだ。

 

「む、コレは……?」

 

対してハドラーは、ダイたちの不自然な点に気がついた。全力で大魔宮(バーンパレス)へと向かっているのであればここで足を止めているのはおかしく、また彼らの足下にはここで倒されたであろうオリハルコンの残骸が転がっている。

ハドラーにはその残骸に見覚えがあった。

 

「ヒム!? シグマ!? ブロック!? フェンブレン!? いったいどうしたというのだ!!」

 

親衛騎団とよく似た――というよりも瓜二つの破片を見て、ハドラーは思わず声を荒げる。

 

「……いや、違う。よく似ているが別人か」

 

しかしそれも一瞬のことでしかなかった。すぐに別の個体と気付き、冷静さを取り戻す。

 

「とすれば、別のオリハルコン兵……ならばコイツが親か?」

「マキシマムって言ってたけど、知らないのか? お前らの仲間だろ?」

「知らんな」

 

バラバラになった残骸を目にし、マキシマムという名を聞いても、ハドラーにとっては覚えがない相手だ。つまり、大魔王軍全体で見たとしてもマキシマムはその程度の存在でしかないということでもある。

 

――じゃあ、マキシマムが来たのは独断……少なくともハドラーに知らせたわけじゃない?

 

ハドラーの言葉を耳にしながら、チルノはなんとか戦局を探る。

なにしろ本来の歴史に存在しない局面に挑んでいるのだ。台本に頼れない以上、少しでも相手に繋がる情報を求めるのは当然のことだ。何が役に立つのか分からないのだから。

 

「だがどうやらコイツのおかげで、貴様たちと戦うことが出来たようだ。その点だけは礼を言っておこう」

 

ハドラーが口にしたことは事実であり、ダイたちにとってみれば(いたずら)に時間を浪費しただけの、得るものが無い戦いでしかなかった。

マキシマムとの戦闘で唯一利点があったとすれば、ダイたち全員が戦闘態勢を整えているということだろう。

バランは言うに及ばず、ダイですら"ダイの剣"を手にしており、チルノなど魔法剣フレアを唱えたガリアンソードを抜いている。

戦闘をしたことで軽い興奮状態ともなっており、気力は充実している。加えて肉体的なダメージは皆無である。言うなれば充分に肉体が温まった状態でハドラーと戦えるのだ。

 

――そして、オレにあいつらの心意気を改めて感じさせてくれたこともな!!

 

だが利点があったのはダイたちだけではない。

前述の通りハドラーが彼らと戦うだけの時間を稼げた点もあり、そして親衛騎団に酷似した姿を持つオリハルコン兵を見たことで、彼の中に元々存在していた感情が更に気炎を上げていた。

決して口には出さないが、ハドラーはマキシマムへ向けて僅かに感謝の念を贈る。

 

「もはやオレは負けられん! 生か死か、二つに一つよ!!」

 

不退転の覚悟を叫びながら、両手にバスケットボール程の光球を生み出した。それを見た途端、三人の警戒心が一気に跳ね上がる。

 

極大爆裂呪文(イオナズン)!!」

 

先手とばかりに両手の光球をダイとバランのそれぞれへ向けて放つ。以前の戦いと同じく先手をとり続けることで流れを作り上げ、戦況を支配しようという考えからだ。

迫り来るイオナズンの呪文を、けれども二人はまるで申し合わせたように左右それぞれ別々に動くことで回避していた。彼らの耳に背後から届くのは、蛇が這いずる姿をイメージさせるような微かな音。それを聞きつけた途端、事前打ち合わせもなしにそう動けたのはやはり親子だからだろうか。

誰もいなくなった場所に光球が着弾し、虚しく爆発を起こす。

 

「そこっ!!」

 

二人が開けた道を通すようチルノはガリアンソードを振るう。呪文を放ったハドラーの隙を狙っての攻撃だ。鞭状に変化させたガリアンソードは爆煙を切り裂き、さながら無人の野を行くように猛然とした勢いでハドラーへと襲いかかっていた。

加えて左右に分かれたダイとバランの存在が注意力を分散させるのに一役買っている。二人とも避けたと同時に敵を挟み込んで攻撃することを狙っているのだ。

三点に意識を向けねばならず、どれだけの強者であっても動きに迷いが生じるであろう。

 

「甘いわっ!」

 

だがその期待は儚く消える。

ダイとバランには目もくれず、ハドラーは竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏うと迫り来るガリアンソードを真っ向から迎え撃つように進み、強引に蹴り返して見せた。それも先端部分をだ。

幾つかの節に分割しているために威力は少ない事に加え、竜闘気(ドラゴニックオーラ)でカバーしているものの、それでもオリハルコン製の刃を相手に肉体で弾き返すとは誰しも考えていなかった。機先を制するためのトリッキーな行動を利用され、反対に驚かされる結果となる。

 

「うそっ!? くぅ……!!」

 

幾らチルノの意志に従い自由自在にその姿を変えるガリアンソードといえど、強烈な蹴りで弾き返されてはたまらない。満足に操ることもできず、加えてこの中では小柄で最も非力であることが災いして、チルノは逆に剣に振り回されてしまう。

 

「姉ちゃん!?」

「大丈夫! ダイはハドラーに集中して!」

 

姉の悲鳴に思わず反応してしまうのは仕方のないことだろう。動きを鈍らせたダイを集中させるべくチルノは叫ぶ。

だがダイは見てしまった。

剣を力ずくで無理矢理に制御した影響か、膝を付いてどこか苦しげな表情を浮かべる少女の姿を。それまで見たことのない苦しんだ様子に、弟の動きが鈍る。

 

一方バランはそのような動揺は一切見せない。

いや、決して心配してない訳ではないのだが、今バランが心配したとて事態が好転するわけでもないことを彼はよく理解していた。この辺りは積み上げた経験の差だろう。

今できる最善の行動はハドラーを倒すことと信じ、真魔剛竜剣を振り下ろす。

 

「二対一……いや、三対一だが文句を言うな! こちらにも事情があるのだ!!!」

「当然だ! 文句も怨みも無い!!」

 

右腕から地獄の爪(ヘルズ・クロー)を生み出すと、その攻撃を受け止めて見せた。ハドラーのその行動に、バランは明確な理由こそないものの不可思議な疑問を覚える。

オリハルコンが埋め込まれており、ハドラーの操る武器も同材質であることはバランも周知の事実である。

だが何かが違う。パプニカでハドラーと戦ったときと何かが違うのだ。

疑問そのものを切り裂くように二発目の斬撃を放ち、それをハドラーが回避した瞬間にバランは違和感の正体に気付いた。

 

「馬鹿な、これは……!!」

「貰ったぁ!!」

 

気付きに驚かされ、バランの動きが止まる。それは一呼吸するよりもずっと短い時間でしかなかったが、今のハドラーには十分すぎる隙だ。絶好の好機と確信してバランへと攻撃を繰り出す。

 

「マ、【マイティガード】!」

 

続いてチルノが魔法を唱えた。かつての戦いでも使った防御魔法である。

だがいささか遅かったようだ。

直撃こそ避けたもののハドラーの一撃はバランの腕を掠め、左腕から出血する。続いて、まるでそれを確認するまで待っていたかのようにバランの身体に防御膜が張り巡らされる。

 

「父さん! くそっ!!」

「遅いぞダイ!!」

 

父がダメージを受けたことで迷いが晴れたのだろう。ダイが遅ればせながらハドラーへと挑みかかろうとするが、ハドラーの攻撃の方が早かった。

左腕に仕込まれた地獄の鎖(ヘルズ・チェーン)を伸ばすと、ダイを縛り上げるように操る。とはいえこの武器の存在を知っており、チルノを相手に似たような経験を積んでいるダイならばそれほど不安になることもない。

 

「なんの!」

 

迫り来る鎖を振り払うべく"ダイの剣"を打ち合わせた。それを見た途端、ハドラーの顔が邪悪に歪む。

 

「そこだぁっ!!」

「う、ぐああああぁぁっ……!!」

「馬鹿な! あれは雷撃呪文(ライデイン)か!?」

 

その瞬間を逃すことなく、ハドラーは電撃(・・)を放った。地獄の鎖(ヘルズ・チェーン)を伝わって走るそれは一瞬でダイの元へと届き、肉体を焦がす。それに驚かされたのはもうバランであった。

予期せぬ一撃を、それも電撃による攻撃を受けてダイの動きが止まってしまう。ハドラーからすれば絶好の好機だ。

 

「ダイ! ……うっ!」

「…………」

 

ダイを救おうと動こうとするチルノであったが、思わず動きを止めてしまった。

原因はハドラーに睨み付けられたためだ。それもただの睨みではなく、鋭利な刃で貫かれた方がまだマシと思わせるほどに鋭く、凍てついたハドラーの視線である。

 

――ううん、それだけじゃない……これは一体……?

 

それだけで射竦められるほど今のチルノは脆弱ではない。ならばどうして? とチルノは自問する。

思えば、先ほどマイティガードの魔法を唱えようとした時もそうだった。本来ならばもっと早く完成させられたはずのそれだったが、普段の状態と比べると今はどうにも集中できずにいた。

ただ、その原因が分からない。もしも病気などであれば、もっと早くに影響がでてもおかしくはないはずだが……

 

「ま、まだっ!!」

 

原因不明の不調に悩まされながらも、チルノは止めた手を再び動かした。

 

「【ファイラ】!」

 

集中しきれないため高位の魔法は操りきれないと判断し、中位の火炎魔法を操って炎の壁を作り出す。

 

「ほう……」

 

射線が遮られたにも関わらず何か思うところがあるのか、ハドラーは無反応であった。

 

「無事か、ディーノ?」

「大丈夫……驚かされたけれど、ダメージはそんなには……」

 

復活したダイの元へとバランが近寄る。軽く目で見るが、その言葉通りにダメージそのものは軽微らしい。それは喜ばしいことだが、バランにはどうしても捨て置けない事実があった。ハドラーに視線を飛ばしながら口を開く。

 

「あの時よりも強くなっているな……ハドラー! 一体、何をした!?」

「何をした、か……強いて言えば、人間ならば……いや、生物ならば当然のことをしたまでよ」

 

以前、パプニカで戦った時と比較してもハドラーは明らかに強くなっていた。戦闘技術が更に向上しており、至近距離で見たことで竜闘気(ドラゴニックオーラ)の質と量とが明らかに洗練されていることにも気付けた。だがどうしてそうなったのかが分からない。

 

「修練と、成長だ!」

 

訝しげに尋ねるバランに対し、ハドラーは事もなさげに答えた。

 

ダイたちが死の大地へと攻め込むまでの間に装備を調えたり、修行を重ねることで強さの底上げをしていたように、ハドラーもまた同じ事を行っていた。

超魔生物と化す前のハドラーであればガーゴイルやアークデーモンといった怪物(モンスター)を相手にするしかなかったが、今は違う。オリハルコン親衛騎団という、最高の特訓相手たちがいる。

親衛騎団の面々は皆、チェスの駒から生み出された存在。王の命令に従い恐れることなく戦闘を続ける、言うなれば生まれながらにして戦闘の天才ばかりだ。

実力そのものはハドラーの方が強いものの、生まれ持っての戦闘センスの塊を相手にすれば学ぶ部分は多かった。

ましてや今のハドラーは超魔生物だ。損傷をたちどころに修復するその肉体は、再生と同時に成長を行う。つまり、鍛えれば鍛えるほど強くなっていく。

ただそれは成長の前借り――言うなれば、寿命と引き換えに力を得ているに過ぎない。

 

そして、先ほどハドラーが放った電撃も雷撃呪文(ライデイン)などではない。

そもそも如何に竜闘気(ドラゴニックオーラ)を操れたとしても操れる呪文は生来決まっているので、後天的に増やすことなど出来ないのだ。

彼が操った電撃の正体は、いわゆる生体電流だった。魔物の中には体内で電撃を発生させることで稲妻を呼び寄せる者がいるが、これはそれに近い。

体内で電撃を生み出して相手を直接攻撃する。そのため雷撃呪文(ライデイン)よりもダメージは低いが、これもまた超魔生物としての能力と肉体の使い方をより詳しく覚えたことで生み出された結果の一つだ。

 

「見ろ! もはや貴様ら(ドラゴン)の騎士と遜色のない竜闘気(ドラゴニックオーラ)の輝きを!!」

「ぐ……なんと!」

「……っ!」

 

ハドラーと親衛騎団は互いに互いを研鑽させていき、その中で竜闘気(ドラゴニックオーラ)の扱い方をも進歩させていた。鍛錬の成果を見せつけるように竜闘気(ドラゴニックオーラ)を放ってみせると、(ドラゴン)の騎士たちは声を上げる。

言葉の数は少ないものの深い驚嘆の反応が、逆に言い様のない反応をよく表していた。

 

「う……こ、これって……」

 

同じく竜闘気(ドラゴニックオーラ)を見せつけられたチルノだけは、少しだけ違った反応をしていた。感覚としては立ちくらみというところだろうか? それを何倍も何倍も強烈なものへとすれば、今のチルノの状態に近いだろう。身体の内側から滾々(こんこん)と湧き上がってくる感触は、気持ち悪いを通り越して辛く苦しいものだった。

 

――ううん、それならバランとの戦いの時に同じ感覚になっているはず……そういえば、最近もこんな感覚を味わったような……いつだっけ?

 

ハドラーの闘気の影響を受けての、いわゆる悪酔いのようなものかと思ったが、すぐにその考えを自分で否定する。ヒントに繋がりそうな何かに思い当たりそうだったが、頭は正常な思考をしてくれない。ついにはまともに立っていることすら叶わず、膝を付いてしまう。

 

「メラミ!」

 

そんな明確な隙を狙われないはずもない。ハドラーは火炎呪文を唱えるとすぐさまチルノへ向けて放つ。片手で持つことは不可能なほどの火球が高速で襲いかかっていく。

 

「姉ちゃん!!」

 

隠しきれないほどの不調を見せている今のチルノでは、メラミの呪文に気付くことはできたもののそれを避ける素振りも防ぐ素振りすら見せることはなかった。先ほどから続く変調のせいで、思うように動く事が出来ずにいる。

 

迫り来る火球がチルノに激突よりもはやく、その射線上にダイが割り込んできた。姉が狙われたことで超反応を見せて、彼女を庇うために飛び出したのだ。メラミの直撃によって炎に包まれるものの、すぐに竜闘気(ドラゴニックオーラ)を放って防御したおかげでダメージは皆無だった。

 

「一体どうしたのさ!?」

「わ、わかんない……ただ、気を抜いたら変になりそうで……」

 

姉に――ついでに自分にも――ダメージがなかったことに一旦安堵するものの、だが原因不明の不調を目の当たりにして心配そうに声を上げる。しかし、チルノは弟の言葉に一言返すのが精一杯であった。

 

「卑怯だ、とでも言うか? だが弱っている者から狙うのは戦いの基本よ」

「ああ、そうだな。怨みも文句もない」

 

ハドラーとバランは、互いににらみ合ったまま動くことはなかった。交わされた短い会話は、まるで多対一の戦いを繰り広げていたことに対する皮肉のようだ。

敵からの言葉を当然のように受け止めると、バランは声を張り上げた。

 

「ディーノ! お前はそこにいろ!! この戦いにはこれ以上は手を出すな!!」

「ええっ!! ど、どうしてさ!?」

「今のお前では足手まといだからだ!!」

 

父親からの突然の戦力外通告にダイは動揺の色を隠しきれなかった。複数で戦った方が圧倒的に有利であることは誰しもが知っている常識だ。ならばバランの中の(ドラゴン)の騎士の誇りが、不平等な戦いをこれ以上続けることを嫌がったのだろうか?

一瞬そう考えるものの、真実は違った。

 

「……大切な者を失わぬように守ってやれ。私には出来なかったことだ」

 

先ほどの有無を言わさぬ強い口調から一転した、強さこそ変わらぬものの静かで優しげな言葉だった。それはかつてのバランの苦い経験をダイにさせたくないという気持ちの現れからの言葉だった。

何が原因なのかチルノはまともに戦力として数えられなくなっており、ダイはそれを気にしすぎて集中力が散漫になっている。先ほどのハドラーのようにチルノを狙って攻撃をされればダイがすぐに反応してしまい、そこから逆転されるという可能性は十二分にありえる。ならば、数の有利を捨ててでも一対一の方がまだマシだろうという戦略的判断の結果でもあった。

付け加えれば、チルノのすぐ傍にいさせてやることでダイの精神も安定するだろうという配慮もある。

 

「それは親子愛というやつか?」

「ああ、半分はそれだ。息子に同じ想いをさせたくない」

 

魔王軍時代のバランからすれば有り得ないほどの行動に、ハドラーは思わず声を掛けていた。とはいえ、今のハドラーならばバランの気持ちも分からなくはなかった。親衛騎団という部下との交流経験を得たことで、子を大事に思う親の気持ちが擬似的に理解できたのだ。

 

「……半分?」

 

自身の変化に気付いたことで微かな驚きを感じながら、だがハドラーはもう一つの事実に気付く。今バランは半分と言った。ならば、もう半分の感情は一体なんだというのだ。

彼が問い質そうとするよりも早く、バランは動いていた。

まるで消えたかのような速度で動き間合いを詰めると、相手の腹部目掛けて強烈な一撃を叩き込んだ。あまりにも目まぐるしい速度の攻撃を防ぎきれず直撃を受けてしまい、強烈な衝撃でハドラーの身体が僅かに浮かび上がった。

 

「がっ!!」

「もう半分は、貴様が知る必要はないことだ」

 

苦しげな声を零すハドラーに向けて、バランはそう呟いた。

尤も、ハドラーには――いや、世界中の誰であったとしても、バランがもう半分の理由を教えることはないだろう。おそらくこれは、一生胸の裡にしまっておくであろう理由。男の意地と見栄がせめぎ合った結果の行動だ。

 

――息子に良いところを見せたいからだ。など、口には出来んな。

 

そこまで考えかけて、彼は自身の思考を自ら打ち消した。

もしかしたら、この世界にたった一人だけ語れる相手がいるかもしれない。そう思い直したからだ。

鬼面道士ブラスである。

息子たちの親代わりとして育ててくれたという彼が相手ならば、自然と話すことができるかもしれない。一度で良いから、会って話をしてみたい。

それを叶えるためにも、是が非でもこの戦いに負けるわけにはいかないだろう。

未来を夢想し微かに唇を歪めると、バランは追撃を放った。

 

「ぐぅっ、おのれ!」

 

重い一撃を喰らいハドラーはうめき声を上げるが、それだけだ。追撃するバランを迎え撃つべく、右手を振るう。地獄の爪(ヘルズ・クロー)と真魔剛竜剣とが激突しあい、甲高い金属音が響き渡る。

 

「ふんっ!」

 

互いの攻撃同士の衝突によって、一瞬の拮抗状態が生まれた。そのまま力比べへと展開するかと思えばさにあらず。バランは絶妙な力加減で上手く捌くと、僅かに体勢を崩したハドラー目掛けて跳び膝蹴りを放った。

 

「くっ!」

 

猛烈な勢いで迫り来る膝をハドラーは大きく仰け反って躱し、その勢いを利用して距離を離そうとする。だが、そうはさせじとバランは更に距離を詰めてきた。

互いの呼吸音すらはっきりと聞こえそうなほどの超接近戦を挑むと、バランは連続で剣を振るっていく。

 

「おおおおおぉぉぉっっ!!」

「ぬっ! くううぅ……!!」

 

息もつかせぬ連撃に負けじと、ハドラーもまた拳を振るう。両手に地獄の爪(ヘルズ・クロー)を生み出すと、手数で勝負とばかりに高速で殴っていく。距離が近すぎるがためか、剣は当たれども致命傷にはほど遠く、爪の攻撃は剣の鋭さに押されてかバランの身体を掠めはすれども決定打とはならない。

だがそれでも両者は確実にダメージを受けていた。

竜闘気(ドラゴニックオーラ)による防御を上回る攻撃が互いに襲いかかり、少しずつ怪我が増えていく。バランから流れ出る赤い血とハドラーから流れ出る青い血が、霧のように戦場を少しずつ彩っていく。

 

そして――

チルノを守るべく戦線を離れたダイは、二人の戦いを見ながら首を傾げていた。超接近戦を繰り広げる二人の姿は、彼の目からすればおかしなものであった。

拳と爪を武器とするハドラーならばともかく、剣が最大威力を発揮するのはもう少し離れた位置のはずだ。あのような闘い方を見せるバランが不可解で仕方なかった。

それでも、姉をこれ以上の攻撃に巻き込ませないよう背中で庇いながらダイは二人の戦いに細心の注意を払っていた。

 

「ダ、ダイ……」

「姉ちゃん! 喋らないで安静にしてて!!」

「だいじょうぶ、それより……バランをよく見ていて……」

 

だが突然背後投げかけられた姉の言葉に彼は思わず視線を切り、振り返ってしまう。チルノは苦しそうな様子を我慢してそれを咎めるようにダイの視線を促した。

 

「父さんを?」

 

姉の言葉にダイは素直に従い、視線を不承不承(ふしょうぶしょう)に戻す。

 

「たぶん、バランは私たちから注意をそらすために無理をしていると思うの……」

「え……!?」

 

自分たちから注意を逸らすため。

そう言われて改めて見てみれば、なるほど確かにそう思えた。下手に距離を開ければ、ハドラーに呪文を使うだけの暇を与えてしまうかもしれな。そうなればダイは庇いに動いて余計な傷を負うかも知れない。

そういった可能性を極力排除するために、あえて不利な戦いを選んでいるように見える。

 

「でも、どこかで無理がでてくるかもしれない……だから、そのときは……私にかまわずにバランに加勢してあげて……」

 

生命力ならば、再生能力のある超魔生物が有利。バランにはチルノが張った防御結界があるため、防御力とならば良い勝負になるはずだ。だが超魔生物相手に良い勝負ではいずれは押し負けるのは想像に難くない。

それはバラン本人も分かっているだろう。どこかで勝負を仕掛けるはず。

 

「私はだいじょうぶだから……ね?」

 

そう考え、チルノはダイを援護に向かわせるべく自らの苦痛を押し隠すと促してみせる。返事の代わりに小さく頷くと、ダイは戦闘に目をやる。まだ姉を心配する気持ちは残っているものの、そこには先ほどとは比べものにならないほど鋭い眼を備えていた。

 

 

 

 

 

「ちっ!」

 

我慢比べに限界が来たのだろう。先に根負けしたのはなんとハドラーだった。吐き捨てるような舌打ちと共に、大きく下がって距離を取る。しかしバランはチルノの見立て通り、息つく暇すら与えないつもりで戦っているのだ。

離れたハドラーに二の矢を放たせまいとすぐさま接近してみせるが、それでも先に動いたハドラーの方が早い。二人の間に、剣一本以上の距離が開いた。

 

「今だッ!」

 

離れた瞬間を狙い済まして、地獄の鎖(ヘルズ・チェーン)が放たされた。その動きはまるで生き物のようだ。蛇が身をくねらせるような巧みな軌道を描きながらバランへと襲いかかっていく。

だが複雑な動きを見せる地獄の鎖(ヘルズ・チェーン)を、バランは片手で余裕を持って捕まえていた。その動きにハドラーは思わず破顔する。

 

「この程度など!」

「甘いわっ! もう忘れたか!!」

 

バランが鎖を掴んだ瞬間、ハドラーは電撃を放った。

先ほどもダイにダメージを与えた確実な攻撃手段である。逆転の一手とはならずとも、流れを変えるだけの価値はあるはず、少なくともそう信じていた。

 

「バカめが! 甘いのは貴様だッ!!」

「うおおっ!? なんだと!?」

 

鎖に触れれば電撃が襲いかかる。

その程度のことを忘れるほど、バランは甘い相手ではない。ハドラーの放った電撃をその身に受けながらも眉一つ動かすことなく、逆に掴んだ鎖を自らの方へ向けて思い切り引っ張った。

ダメージを無視して動いてくるのは流石に予想外だったらしく、ふんばりが間に合わずにハドラーはバランスを崩してバランの元へと引き寄せられる。その視線の先にはバランの膝が再び迫っていた。

 

「……っぅ!!」

 

咄嗟に顔を捻って鼻先に膝蹴りを叩き込まれるのこそ回避できたが、それでもダメージは大きかった。蹴りの勢いに加えて引き寄せる勢いが加わった一撃は、声すら漏らすのを許さなかった。頭部を揺らされながら、ハドラーはなすすべも無く吹き飛ばされる。

 

「雷を操る(ドラゴン)の騎士が、こんな児戯に等しい電撃で動きを止めると思ったか!? 来ると分かっていればこの程度はものの数ではない!!」

 

距離が離れたことで呪文を使うだけの余裕が出来るのは、なにもハドラーだけではない。

 

「見せてやろう! 貴様のまがい物とは違う、本物の雷を!!」

 

真魔剛竜剣を天へと掲げるように構えながらバランは呪文を唱える。

 

雷撃呪文(ギガデイン)!!」

 

(ドラゴン)の騎士が最も得意とする雷撃を操る呪文だ。目も眩まんばかりの輝きと轟音を伴いながら降り注いだ一条の稲妻は、大地の岩盤を突き破り大魔宮(バーンパレス)の天井すら砕き、バランの剣へと落ちる。

 

「ギガブレイクか! くっ……極大閃熱呪文(ベギラゴン)!」

 

勝負を賭けに来たと理解したハドラーもまた、自身の最強呪文を唱えると地獄の爪(ヘルズ・クロー)へ閃熱を纏わせる。

しかしハドラーが呪文を唱え終えたときには、既にバランは動き出していた。ギガデインの超エネルギーが込められた剣を構え、ハドラーの命を奪うべく大上段から剣を振り下ろす寸前だ。ここからの反撃は絶対に間に合わない。

 

「ならば!」

「ギガブレイク!!」

 

一か八かの賭けとばかりに、ハドラーは両腕を十字に重ね合わせてギガブレイクの刃を受け止めた。反撃も回避も不可能ならば、出来ることは防御のみ。己の肉体でギガブレイクを受け止めてみせる腹積もりだった。

 

「ぐうううぅぅぅっ!!!!」

 

だがハドラーはすぐに、自らの決定がどれだけか細い道だったのかを思い知る。

真魔剛竜剣は地上最強の攻撃力を誇る剣だ。その鋭い刃は超魔生物の肉体を易々と切り裂いていく。加えてギガデインのエネルギーが剣から敵の肉体へ伝わり、細胞全てを焼き付くさんばかりの雷撃が体内を縦横無尽に走り抜ける。

まともな生物ならば、一秒と持たずに絶命するだろう。

 

「馬鹿な!?」

 

だがハドラーは耐え抜いた。

オリハルコンの骨があるにも関わらず片腕は半ば以上まで切断されており、切断面はギガデインの雷撃をまともに受けたために焼き尽くされて炭化していた。これではもはや超魔生物の再生能力があっても復元は不可能だ。

 

「ぐ、ふぅ……だ、が!」

 

奇妙なことに、高電圧によって全身を内側から焼き尽くされたにしてはハドラー本体のダメージは思った以上に少なかった。直撃を受け止めた本人ですら、耐えきれたことが予想外であったほどだ。

誰しもが驚かされた光景であったが、唯一ハドラーの肉体だけはこうなることを予期していた。生体電流を操り敵を攻撃できるようになったことで肉体は自然と絶縁体の役割を果たす細胞を生み出しており、本人すら知らない間に肉体は新たに電撃の耐性を獲得していた。

(ドラゴン)の騎士を超えんとする執念が生んだ奇跡だ。

 

「た……耐えた、だと……!?」

 

ギガブレイクをまともに受け止めたことに驚き、どちらもが無防備な姿を晒す。だが驚きの具合はバランの方が大きかった。片腕こそ破壊したもののハドラーの腕はもう一本残っており、そちらはほとんど無傷のままだ。動きを止めたバランを貫くべく、凶爪を振るわんとする。

 

「まだだっ!!」

 

ハドラーが片腕を残していたならば、バラン側にはダイが残っている。チルノの言葉を聞き入れた彼が今の窮地に黙っているはずもなかった。矢のような勢いで飛び出すと、剣を逆手に持ち構える。

 

「アバンストラッシュ!!」

 

魔法剣を使っているだけの余裕はなかった。即座に放てる最強の技であるアバンストラッシュを選び、ハドラーへと叩きつけた。

 

「ぐ……ぐあああっ!!」

 

狙うは残ったもう片方の腕だ。万全の状態ならば充分に受け止めきれるが、ギガブレイクのダメージが残る肉体ではそれも叶わない。アバンストラッシュの一撃はハドラーの左腕へと突き刺さり、半ば以上まで食い込んだところで止まる。埋め込まれたオリハルコンが最後の意地とばかりに刃を食い止めていた。

 

「拳を!!」

「!」

 

それを見ていたチルノが本能的に叫ぶ。それが何を言いたいのか理解したダイは、姉の言葉に導かれるまま左拳を自身の持つ剣――その背へと叩きつけた。

 

「ぐわっ!!」

 

背中を押されるように力を加えられた"ダイの剣"はその勢いを取り戻した。それもただ殴っただけではない。かつて素手でアバンストラッシュを放った時と同じように、力と早さと闘気を込めて放ったのだ。

ストラッシュを重ね合わせた一撃に匹敵する破壊力を込められた剣は、ハドラーの腕を容易く切断するだけでは飽き足らず、その刃はハドラーの胴を切り裂いた。

そして、この瞬間を逃すバランではない。

息子に負けじと剣を振るい、重ね合わせるように剣閃を走らせる。

 

「がああああああああぁぁっっ!!!!」

 

両腕を失い胴体を切り裂かれる激痛に耐えきれず、ハドラーは断末魔の悲鳴を上げる。だが頭の中では別のことを考えていた。

 

――まるであの時の焼き直し……確かにそう思った……だが、結末まで同じとはな……

 

パプニカで戦った時には、デルムリン島でダイたちと初めて戦ったときを思い出した。そしてデルムリン島での戦いは両腕を失い、同じように斜めの傷を負わされた。

歴史の神というものがいるならば、その者はどうやら相当な皮肉屋なのだろう。

 

そんな腹立たしさと、けれどもどこか満足感を味わいながら、ハドラーはついに倒れた。

 

 




ダイたち対ハドラーの戦いはこれにて終わり。
ご都合主義の戦いの中で、ハドラー様は超頑張ったと思います。

デンキウナギ状態にされるハドラー様。超魔生物って便利ですね……

そしてチルノさん。
唐突に体調不良になってるように見えますが……一応、81話や82話で伏線らしきものは張ってるんです。
「内側から湧き出る感覚を振り払うべく~」(81)
「余波によるものか奇妙な痛みを感じるが~」(81)
「大魔法を操ったことによる影響か、肉体が僅かに不調を訴えているが~」(82)
の辺りです。
(気付くかこんなもん。もっと分かり易くしろよ私。ホント伏線張るの下手ですね)

――多分、何をやりたいかはバレてますよねぇ……


--ちょっと追記--

おそらく、12月中の更新は絶望的です。
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