隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:97 籠の鳥

「いやぁ、さすがに肝を冷やしましたよ。一張羅がボロボロだ」

「バーン様! ご無事ですか!?」

 

チルノを見下ろす大魔王の元へ、ミストバーンとキルバーンの二人が参じた。

 

あの極限状態の最中、二人は正面から迫り来るメガフレアを止めるべく動いていた。

ミストバーンはバーンを庇うように迫り来るブレスの真正面にその身を投げ出すと、超高速の掌撃(フェニックスウィング)を用いて上空へ向けて弾き飛ばしてみせた。尾を引くようにして襲いかかる攻撃であることと、背後にバーンが控えている状態であることから角度を変えて影響を無くすことを選んだようだ。

そしてキルバーンはといえば、ちゃっかりミストバーンの背後に隠れるようにしてはいるものの、完全に弾くことが出来ずに漏れ出たエネルギーを、自らの魔法力にて吹き飛ばすことで背後を守っていた。

つまり、ミストバーンが大雑把に方向を変え、キルバーンが細かな部分をフォローすることでなんとかメガフレアを防ぐことに成功していた。

 

とはいえ被害がゼロだったわけではない。

その身を以てバーンを庇うように動いたたため、身に纏っていた衣は上半身の部分が殆ど吹き飛んでおり、素顔を晒したまま隠せぬ状態だ。凍れる時の秘法によって外部からの影響を受けぬ身となっていても、その顔は土埃によって若干の汚れが目立つ。

対してキルバーンの方はといえば、自身の言葉通りに身に纏う衣装は熱線の影響であちこち焼け焦げていた。ただ、その顔を覆う仮面だけはまるで何事もなかったかのように綺麗なままだった。

 

「ふむ、無事であったか」

 

二人の部下が無事な姿を見せたことに、バーンは少しだけ安堵していた。

仮にキルバーンは失ったとしても痛くはないが、ミストバーンを失うことだけは絶対に避けねばならない。尤も如何に竜闘気砲呪文(ドルオーラ)やメガフレアと言えども凍れる時の秘法を解呪することも、打ち貫いて影響を与えることも不可能だろうが、それでも実際に無事な姿を見るまでは安心できない。

 

「余も問題はない」

 

少なからず手傷を負ったように見える二人の部下の一方、バーンは無傷であった。

二人が前面を防ぐために動いたのであれば、バーンは後方――つまり竜闘気砲呪文(ドルオーラ)を防ぐために動いていた。彼は光魔の杖から生み出される光の刃を全開して放つことで完全に防いでみせた。無理に指摘するのであれば、巻き上がった砂埃によって法衣が若干汚れた程度だ。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)で逃げられなかったんですかね?」

「それも可能であったが、せっかくの余興よ。付き合ってやらねば無礼というものであろう?」

 

キルバーンの言葉に、バーンは淡々と答えてみせる。

 

「何より、ここは大魔宮(バーンパレス)に少々近すぎる。余の主城をこれ以上破壊されてはかなわん」

「なるほど……確かにそうですねぇ……」

 

命よりも建物が壊れることを心配してみせるその態度は、自身とその部下の強さに絶対の自信を持ち、必ず防ぎきることが出来るという傲慢さの現れのようでもあった。

 

それにバーンの言うことも一理ある。

瞬間移動呪文(ルーラ)で逃げ出せば竜闘気砲呪文(ドルオーラ)とメガフレアの激突でどれだけの被害が出ていたかは想像もつかない。下手をすれば地中の大魔宮(バーンパレス)にまで被害がおよび、無視できない被害が出ていただろう。最悪の場合は大魔宮(バーンパレス)が抱える黒の核晶(コア)が誘爆して大惨事になりかねない。

 

その秘密を知る者であれば、防ぐという選択肢を選ぶのは間違いではないだろう。最悪の事態を想像し、思わず身震いしながらキルバーンが頷いたときだ。瞬間移動呪文(ルーラ)にて彼らの元へやってくる影があった。

 

「バ、バーン様!! ご無事でしょうか!!」

「ザボエラか……」

 

そう呟いたのはバーンではなくミストバーンであった。

 

「誠に! 誠に申し訳ありませなんだ!! ですがワシの力では、あのような戦いに参加しても実力は発揮できず……ぐええっ!?!?」

 

姿を見せるやいなや、全力で土下座をしながら口早に弁明の言葉を並べ立てていく。だがそんなものには一切の聞く耳を持たず、ミストバーンはザボエラの頭を掴み引き起こすと、そのまま片手で首を釣り上げた。

 

「……戦えずとも、バーン様の盾になるくらいは出来るだろう? それとも今この場で、その失態を贖うか?」

「が!! あがぐぎげががががががああぁぁっ!!」

「やめなよミスト」

 

重ねて言うが、今のミストバーンは闇の衣を纏っておらず、全盛期のバーンの肉体を操っている状態だ。そんな状態の彼がザボエラの首を掴めばどうなるか。

少しでも強く力を込めれば、首の骨を折るどころではない。喉ごと握り潰すことすら容易にやってのけるだろう。

持ち上げられたことで首に全体重が掛かり、指先から伝わってくる底知れぬほどの殺気と恐ろしさを肌で感じ、ザボエラは意味不明な悲鳴を上げながらなんとか逃れようとしてみせる。無論その程度ではミストバーンの腕はびくともせず、だが意外なことに彼の腕をキルバーンが掴んだ。

 

「今や少なくなった大魔王軍の仲間じゃないか。無闇に減らすのは良くないと思うよ」

 

手首を掴み、力を抜くように促しながらそう口にすると、続く言葉をザボエラには聞こえぬよう、キルバーンは耳元で囁く。

 

「それに、キミだってザボエラ君の戦闘能力には期待していたわけじゃないだろう? 本当に使い道がなくなれば、バーン様のお言葉もあるはずさ」

「……フン」

 

説明に一応は納得が行ったのだろう。ミストバーンは乱暴に手を離す。

 

「ザボエラ。次はないと思え」

「がっ、ば……ご……ば、ばびっ! ぼうじわげございまぜん!!」

 

唐突に手を離されたことで受け身も取れずに尻餅を着き、さらには喉の痛みからまともに声を出すこともできない。だが刺すような恐ろしい気配を感じ、ザボエラは汚い声を上げながら再び平伏してみせた。

 

「おやおや? この()、まだ生きているんですね」

 

一方、キルバーンはもう興味の対象を移したのだろうか、解放されたザボエラには目もくれずに地に伏したままのチルノを見やる。

未だ意識は戻らず、それどころか力尽きたのだろうバーンが確認したときには上げていた手がいつの間にか落ちている。ただ、微かな呼吸音と胸元が上下していることから死んではいないことは確認出来た。

 

「どうします? ボクたちにこれだけ被害を与えたんですから……殺しちゃいますか?」

「よさんかキルバーン」

 

まだ生存していることが分かると、死神はこれ見よがしに大鎌を取り出すとその刃を彼女の喉元へと当てる。後は少し力を入れるだけで喉は切り裂かれ、大量の鮮血を吹き出しながらチルノは息絶えるだろう。

だがバーンはそれをよしとすることはなかった。

 

「そもそもその(むすめ)は捕獲すると言っておいたはずだ。ましてやこやつは、その身を未知の竜へと変貌させ、この大魔王バーンにこれだけの被害を与えるだけの力を持つ。この(むすめ)には何か秘密があるようだ。余は、その秘密を是非とも突き止めたい」

「で、でしたらその役目はこのワシに是非ともお任せを!!」

 

大魔王がそこまで口にしたところで「売り込むのは今だ!」と言わんばかりにザボエラが口を開く。

 

「妖魔士団の研究の一環として、人間相手に口を割らせる術には長けております!! ましてやバーン様は先ほどの戦いでお疲れでしょう? ごゆっくりお休みくだされ!! その間にこのワシが、必ずや! 必ずや秘密を突き止め、吉報をお届けしますぞ!!」

 

さながら立て板に水。淀みなく口を回し、自身が如何に有能かをここぞとばかりに強烈にアピールする。それもこれも先ほどのミストバーンの脅しが効いているのだろう。自ら率先して意欲を見せるその姿は、どこか哀愁すら漂う。

 

「いや、その必要はない」

 

だが、大魔王はその提案を一言で切って捨てる。そしてチルノへ向けて片手を向けると、呪文を唱えた。

 

精神混乱呪文(メダパニ)

「う……あ……」

 

それはかつてロモス城での戦いの際に、ブラスが使ったのと同じ呪文。神経を侵すことで対象を幻影に捕らえるものだ。だがそれは普通の術者が使った場合。

同じ呪文であっても、バーンが唱えれば効果はその程度に留まるはずもない。

 

「"立て"」

 

大魔王はただ一言、チルノに向けてそう命令する。

途端にチルノは、それまでが嘘のように勢いよく立ち上がって見せた。だが決して元気になったわけではなく、むしろ状態は悪化している。瞳は焦点が合わずに虚ろな影を映したまま、立ち上がった姿勢のまま微動だにすることもない。口は半開きのまま、閉じようとも開こうともする気配がなかった。

 

「これでよい」

「あ……ああ、こ、これはまさか……!!」

 

まるで人形のような立ち振る舞いを見せるチルノの様子に、バーンはさも当然だというように頷く。それだけで、ザボエラは何が起こったのかを理解していた。

 

これこそが、大魔王が放ったメダパニの効果である。その強大な魔力によって、術中に落ちた者を意のままに操ってしまう呪文となっていた。

ましてや今のチルノは精根尽き果て気を失っている。メダパニの効果は遮るものなく彼女の精神を侵し、その効力を更に高めていた。仮にバーンが「呼吸をするな」と命令すれば、チルノは躊躇うことなくそれを実行し、疑うことなく死んでいくだろう。

 

ザボエラが感づけたのは、彼もまた調合した毒によって人間を同じような状態に陥れていた経験があったからに過ぎない。

だがその毒とて面倒な調合の末にようやく生み出したものだ。それを呪文一つであっけなくやってしまう大魔王の恐ろしさに、ザボエラは改めて恐怖する。そして同時に、自らの申し出がまるで意味を為さなかったことも理解して、更に顔を青ざめる。

 

だが、意外なところから援護がやってきた。

 

「まあまあバーン様、ザボエラ君もさっきの失点を取り返したくて必死なんですよ。その気持ちも汲んであげたらいかがですかね?」

 

キルバーンは、チルノの喉元から外した大鎌を肩に担ぎながらそう提案する。

 

「それに、もしかしたらバーン様の呪文も打ち破るかもしれないですよ。そうなったら暴れられて、予期せぬ手間が掛かるかもしれない。だったら、まだ安全な場所に閉じ込めて部下に任せても良いんじゃありません?」

「ふむ……」

 

バーンは顎に手を当て逡巡する。

今のチルノの状態ならば、もはや脅威はない。メダパニの影響下に落ちた今となっては、暴れ回る危険性は皆無だと断言できる。だがキルバーンの言うように、ザボエラに失地回復の機会を与えても良いだろう。

自身の知りたいことを引き出せればよし。足らなかったとしても大魔王自ら幾らでも情報は引き出せるのだから、少々手間が増える以外に問題はない。

 

「よかろう。キルバーン、そなたの考えに乗ってやる」

「ありがたき幸せ……だってさ、ザボエラ君」

「ははーっ!! 必ず、必ずやり遂げてご覧にいれます!!」

 

キルバーンは恭しく、ザボエラは勢いよく頭を下げた。そして大魔王は、チルノへと追加の命令を下す。

 

「"この三名の命令にも従え"、そして、"問われたことには答えよ"」

「は……い……」

 

機械的に返事をするチルノ。だがこれで彼女は大魔王以外の言葉であっても従順に実行するようになった。尋問を任せたザボエラに対する、大魔王からのサービスのようなのだ。

 

「キル、お前があのような口添えをするとは……何を企んでいる?」

「心外だなぁ……ミスト、キミに脅されてザボエラ君は完全に萎縮しちゃってるよ? 一応キミの直下の立場なんだから、少しは気を遣ってあげなきゃ」

 

大魔王が新たな命令を植え付けている頃、ミストバーンはキルバーンの行動に少々驚かされていた。長い付き合いである二人だが、そのようなことを口にしたところなど見た記憶がない。不信の念を抱くが、真っ当そうな意見で返された。

とはいえ、キルバーンがそのような真っ当なことを述べることそのものが異常であり、ミストバーンの中の不信感が更に増すものの、それ以上口に出すことはなかった。

 

「もう良かろう。大魔宮(バーンパレス)へと戻るぞ」

「はっ……はぁっ!?」

「承知いたしました」

「は……い……」

大魔宮(バーンパレス)へ……? はいはい、なるほど。アレ(・・)を使うわけですか。ですが、計画には少々早いような」

 

突如として告げられた「戻る」という言葉に、ザボエラだけが頷きかけて疑問の声を上げる。だが大魔王本来の計画を知る者たちは素直に頷く。

 

「仕方あるまい。大魔宮(バーンパレス)の位置は人間たちにも知られておる。勇者たちもバランの奴もまだ生きていよう。ならばこのままでは、なんらかの邪魔をされんとも限らん」

「なるほど確かに。すぐにでもリターンマッチを挑んできそうですね」

「そういうことだ……余とて本意ではない」

 

それは大魔王としては珍しく――本当に珍しく、言葉の端に苛立ちが乗せられていた。その言葉通り、彼とて本意であるはずがない。バーンの想定では、全ての敵を片付けた後で行う予定だったのだ。

だが予定外のことは起こるもの。このまま座していては計画が潰されるかもしれないとバーンは危惧し、予定を早めた。ダイたちが余計な手出しを出来ないようにするために。

 

「え……えっ!? えっ!?」

 

今だ困惑し続けるザボエラのことを誰も気にとめることもなく、大魔王たちは大魔宮(バーンパレス)へと踵を返してく。そこまでで彼もまたようやく気付き、慌てて続く。

 

そして、大魔宮(バーンパレス)は天へと飛び立った。

 

 

 

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「キィ~ッヒッヒッヒッ!!」

 

天空を舞う大魔宮(バーンパレス)――その一角、重要な区画からは最も離れた場所に位置する牢獄にて、ザボエラは歓喜の笑いを上げていた。

手にした司教の杖を折らんばかりほどに強く握りしめながら、鎖に繋がれたチルノを嬉しそうに眺める。

 

「小娘め!! 貴様にやられた怨みをワシは忘れてはおらん!! よもやこうして、あの時の怨みを晴らす機会が訪れようとはのぉ!!」

「……………………」

 

彼女は竜の姿へと変じた際に衣服を全て吹き飛ばしており、そしてそのまま着替えるタイミングもなくここまで連れてこられた。

つまり、全裸のまま吊されている。

だが文句の言葉など出るはずもなかった。

未だバーンの術中に落ちているチルノは、何を言われようとも無言のまま。どれだけ罵詈雑言を浴びせられようとも、鎖に繋がれ強制的に立たされたままでいようとも、不満を口にするという考え自体がない。

 

「キエエエエェェェッ!! どうじゃ! 痛いかろう!! 悔しかろう!! ワシはもっと痛かったわ!! もっと腹立たしかったわ!! そら、なんとか言うてみい!! キィ~ッヒッヒッヒッ!!!!」

「は、い……いたい、です……」

 

かつてザボエラは、チルノから"はりせんぼん"という魔法によって手痛い怪我を負わされていた。

とはいえそれも過去のこと。既に怪我は完治しており、傷跡が残っている訳でもなければ生死の境を彷徨ったわけでもない。戦っている以上はこの程度の傷は当然のことであり、恨むのは筋違いというものだ。

だがそんな理屈はザボエラには通用しない。

 

狂気と呼んで良い程の絶叫を上げながら、ザボエラは杖でチルノの身体を殴りつける。胸、

腹、足、腕、顔、どこだろうとお構いなし。ただ衝動の赴くまま、かつての痛みを逆恨みし続けていた。己に手傷を負わせた以上、こうなるのが当たり前と本気で思い込んでいた。

 

固い杖が叩きつけられるたびに、彼女の柔肌に赤い傷跡が刻まれていく。当たり所が悪ければ、打撲では済まずに皮膚が破れ血が流れ出る。

だがそうなってもなおチルノは何も言うこともなく、無言のままだ。

痛みについて口にしたが、ただザボエラの「何か言ってみろ」という言葉を命令と解釈して返事をしただけだ。そんなものは彼が望むものではない。彼が望むのは、苦痛と絶望に満ちた反応なのだ。

せっかく怨みを晴らす機会が与えられたというのに無反応では、愉快なはずもない。

 

「ええい、面白みのない!! 操り人形となった分際で、ワシをイラつかせるとは!!」

「その辺にしておきなよ」

 

反応が無いことに理不尽な怒りを覚え、更に嬲ろうとしたところで、背後から声が掛かった。誰もここへは来るはずがないと思っていたため、ザボエラは思わず動きを止めて背後をそっと確認する。

 

「はひぃぃっ!! キ、キルバーン……様……!!」

 

そこにいたのは予期せぬ客であった。静止の言葉の内容から、ザボエラが何をしていたかも分かっているはずだ。

ばつの悪さから反射的に様付けで呼びながらも、ザボエラは必死で笑顔を浮かべ揉み手をして機嫌を伺い始める。

 

「先ほどはどうもありがとうございます……おかげで助かりましたですじゃ……」

「ん? ああ、ミストのことかい? そのくらいは当然だよ。キミにはまだまだ活躍してもらわなきゃいけないんだから」

「か、活躍ですか……?」

「そうだよ。せっかくバーン様からお仕事を任されたんだ。自分の趣味を愉しむのも良いけれど、ちゃんとお仕事をしないと怒られちゃうよ? そうなったら……」

 

活躍という耳慣れない言葉に疑問を浮かべるが、キルバーンは返事の代わりに死神の鎌をザボエラへと向ける。

 

「もうボクでも庇いきれなくなっちゃうからさ……」

「ひいいぃぃぃっ!!」

「そんなに怖がらないでよ、ザボエラ君。念を押すようだけど、ボクはキミの活躍に期待しているのさ……といっても、戦闘能力のことじゃない。キミの技術力についてだけどね」

 

その行動はキルバーンなりのおふざけだったのだろう。怯えるザボエラを落ち着かせるように鎌を担ぎ直すと、真摯な口調で語り始める。

 

「ねえ、ザボエラ君。この地上の王になりたくはないかい?」

「は……ち、地上の王、ですか……?」

 

技術力に期待している――そう言われれば、おそらくは超魔生物のことだろうとザボエラは推察する。だが、そこからどうやって地上の王へと話が繋がるのか? 死神の真意を計りかね、疑問に疑問を返す。

 

「キミたちには秘密にしているけれど、バーン様の真の目的は地上の征服じゃない。地上に大穴を開けて、魔界に太陽の光を届かせることさ」

「なんとっ!? いやいや、不可能ですじゃ。魔界へと繋がる大穴となれば、どれだけの手間が掛かることか……」

「それが出来るんだよ、地上の各所に黒の核晶(コア)を六芒星を描くように配置する。あとはそれに火をつければ……ドカン! って寸法さ」

 

そう言いながら、キルバーンは握っていた手を勢いよく開いた。それは爆発を表す手振りでしかない。だがそれを見た瞬間、ザボエラの脳裏にそのもしもの光景が浮かぶ。

なまじ知識に長けているだけにキルバーンが言っていたことを実行すればどうなるのか、実現可能かどうかを簡単に試算できてしまう。

そして、そんなことをすれば魔界がどうなるのかという、恐ろしい想像も。

 

「でも我が主、ヴェルザー様はそれが面白くない。どうやらあのお方は魔界も地上も、それに天界も手に入れたいみたいでね。」

「いや待て! 我が主……じゃと……!?」

「うんうん、ちゃんと聞いていたみたいで偉いよ」

「つ、つまりキルバーン、お主は……」

「そういうこと。ボクはヴェルザー様の部下にして大魔王の計画への協力を命じられた者であり、そしてバーン様の命を狙う獅子身中の虫でもあるのさ」

 

うっかり聞き逃しかけたそれを、聞き間違いだとばかりに問い返す。

だがキルバーンはザボエラの疑問をあっさりと肯定してみせた。あまつさえ自身の立場を獅子身中の虫だと平然と言ってのける。その胆力に、ザボエラは心底恐怖した。

同時に、嫌な想像も膨らむ。

 

「……はっ! ま、まさか……秘密を知った以上、従わなければこのワシを消すとでも……!?!?」

「ウフフ、流石はザボエラ君。自らの保身については勘がいいねぇ……でも心配しすぎさ。バーン様もミストも、ボクがヴェルザー様の陣営だということはずっと前から知っているからね」

「なんじゃ、それなら安心……できんわい!! なぜバーン様はそのことを知った上でお主を配下としておるのじゃ!!」

「そこがバーン様の器の大きさだよ。ボクが初めてご挨拶に向かい、素性を説明したときでさえも、全てを理解した上で"そんな物騒な死神を飼っておくのもまた一興かもしれない"って言うくらいだからねぇ」

 

そう口にし続けるキルバーンの話に、もはやザボエラは目を回しそうだった。キルバーンの立場もバーンの取った行動も、そのいずれもが彼の考えからすればありえない。理解の範疇を遠く外れている。

 

「さて、ボクの立場は理解して貰えたかな? それじゃあお話の続きだ」

「そういえば……そうじゃったな……」

 

原因不明の頭痛に頭を抱えながら弱々しく返事をする。だがここからが話の本番だとばかりに、心の底ではこっそりと気合いを入れ直す。

 

「ボクが注目したのは、超魔生物と(ドラゴン)の騎士の技術だよ」

「ほぉ」

 

やはりその技術だったか、ある意味では予測できたことにとりあえず頷いておく。

 

「キミも知っているだろうけれど、ヴェルザー様はバラン君に倒された。そしてその魂は天界の精霊に封印されて石化してしまい、復活することも叶わなくなってしまった」

「ふむふむ……む?」

 

その話ならば、ザボエラも概要程度だが知っていた。

石化したという細かなことは知らないが、そういうこともあるだろうと考えたところで、何かが引っかかる。

そしてその予感は正しかったことは、すぐに証明される。

 

「そして(ドラゴン)の騎士は神が生み出した生物兵器……天界は神に最も近い存在。なら、竜闘気(ドラゴニックオーラ)で封印を壊せるかもしれないと考えたんだ」

「なんじゃと!?」

「そうなればヴェルザー様の復活だ。それだけじゃない、ハドラー君への口ぶりから、(ドラゴン)の騎士は増やすことも可能みたいだからね」

「増やす……たしかにそれは……いや、ま、まさかキルバーン、お主は……!!!」

 

そこまで言葉を並べられれば、ザボエラでなくとも狙いに気付く。

 

「その通り、バーン様を倒すのさ」

「…………ッ!!」

 

自らが裏切り者だと言った時のように平然と、キルバーンは言ってのけた。

 

「ダイ君やバラン君――本家より多少劣ったとしても、(ドラゴン)の騎士を量産できれば大魔王といえども数で押しつぶせる。しかも素体に超魔生物も使えば、性能は折り紙付きさ。実績だってハドラー君で証明された。あんな状態になってもなお、あれだけ動けるんだ。捨て置く手はないよねぇ」

 

あまりにも当たり前に言ってのける姿に、ザボエラは息を呑む。

 

「そうやってバーン様を倒せば、魔界と地上が手に入る。なら次は天界だろうね。なにしろヴェルザー様は強欲で執念深いから、受けた屈辱を晴らすはずさ。そこでも量産した兵士たちが活躍する。そうして三界を征服した暁には、キミはヴェルザー様を救い出して、無敵の兵を作り出した最大の貢献者だ。地上の王にだってしてもらえるさ」

「む、むぅ……」

 

提示された未来に、思わず頬が緩みかける。確かに全てがキルバーンの言葉通りに進めば、このままバーンの部下でいるよりものし上がれるだろう。

だが、だからといって全てを信じてホイホイと尻尾を振るほどザボエラは阿呆ではない。

 

「それは、確かに魅力的な話じゃ……だが、もはやバーン様の計画は進んでおる!! 今さらどうやって止める!? まさか勇者どもに手を貸すとでも言うのか!? そもそもバーン様を裏切る腹積もりならば、どうしてハドラーに手を貸した!? 答えよキルバーン!!」

「あらら……それを言われると弱いなぁ……じゃあまずは二つ目の疑問から」

 

指を二本立てながら、キルバーンは続ける。

 

「あの時点では、まだバーン様に協力し続けるつもりだったんだよ。それがちょっと、計画変更の必要が出てきてさ」

「変更……?」

「それはね、その()の存在だよ」

 

そう言う視線の先には、吊られたままのチルノの姿があった。

 

「この小娘が? それは一体……」

「わからないのかい? さっきまで――」

 

そこまで言いかけて、キルバーンは口を噤む。

 

「――いや、なんでもないよ。とにかく、この()も必要だと思ってね。だから、無用な傷を付けられたり実験材料にされて殺されるのは困っちゃうのさ」

 

現在の状況でザボエラに考えの全てを話すのは得策ではないと考えたのだ。そのため死神は、チルノの身を出来るだけ大事に扱うよう促すだけに留める。

 

「そして第一の質問だけど、ボクとしてはバーン様とダイ君たちに相打ちになってもらうのが一番だって思ってる。勿論、どっちかが勝ってもいいけど、その時は命を削るような接戦になって、美味しいところを横から掻っ攫えれば最高なんだけどね」

 

第一の質問の答え、それは答えというよりも願望でしかなかった。耳にしたザボエラは開いた口が塞がらないとばかりに絶句しつつも、どうにか言葉を紡ぐ。

 

「ば……馬鹿なことを言うでないわ! そんなものは計画とは言わん!! 第一、今や大魔宮(バーンパレス)は空を飛んでおる! 手の届かん天空から攻撃を続ければ、彼奴らといえどもいずれは力尽きるわ!!」

 

極端な話、上空からバーンがイオナズン辺りの呪文を連発していれば、いずれはダイたちを倒すことも可能だろう。確実な方法を取るならば、黒の核晶(コア)を落として全滅させるという手もある。

 

「さらに周囲には大魔王様の結界が張られておる!! 瞬間移動呪文(ルーラ)は無論、直接乗り込むことも不可能! 攻め込むことも不可能となれば、どうやって大魔宮(バーンパレス)まで来られるというのじゃ!? 答えてみぃ!!」

「ミナカ、トールの……呪文ならば、可能です……」

 

列挙せよと言われれば、おそらく際限なく挙げられるであろう問題点を口にしたところで、不意に別の声が割り込んできた。唐突に横槍を刺された形となり、ザボエラは再び心臓を跳ね上げながら周囲をキョロキョロと見渡し始める。

 

「ッ!? な、なんじゃ今のは……!?」

「まさかチルノ、今の言葉はキミかな?」

「はい……」

 

一方キルバーンは、声の主を見抜いていた。確信を持って尋ねた言葉に、チルノは朧気な口調のまま、けれどもしっかりとした言葉で返す。

 

「ザボエラ、様が……大魔宮(バーンパレス)に乗り込む方法を答えろ、と質問なされました……なので、私は、それに答えました……」

「ふむ」

 

確かにバーンがメダパニの呪文を唱えた際に、そのような命令を下していた。それがこのような形で影響を及ぼすとは思わず、キルバーンは思わず唸る。

同時に、これは何かとっておきに繋がるのだろうと直感的に感じていた。かねてよりチルノのことを怪しいと感じ続けていたのは、間違いではなかったと思いながら。

 

「では続けて質問しよう。ミナカトールの呪文とは何か?」

「ミナカトールは、破邪の洞窟……地下二十五階で契約する呪文……光の五芒星を描き、広範囲に対して邪悪なる力を退ける聖なる光を放ちます……最大に効果を発揮するには、正しく強い心を持った五名が魔方陣の頂点に立ち、術者に協力する必要があります……」

「なるほど、勇者たちにはそんな隠し球があったわけだ」

 

話を聞き、それならば確かに大魔宮(バーンパレス)に乗り込むことも可能だろうと死神は納得する。

 

「し、信じるつもりなのか? このような話を……!?」

「信じるも何も、彼女はバーン様の呪文で操り人形になっているんだよ。オマケにこんな呪文の秘密までペラペラ喋っている。疑う余地はないさ」

 

一方、ザボエラはチルノの話に半信半疑といった様子を隠そうともしなかった。唐突にこのような話をされれば、罠かと疑うのも至極最もだ。だが、バーンが操る超魔力の恐ろしさをよく知る者からすれば、疑問を挟む方が間違っている。

 

「他には何かあるかな? 例えばバーン様を正面から倒せるだけの力や呪文、技術とか。隠しているのなら答えてよ」

 

ならばこの好機を最大限に利用してやろうと考えていた。

 

「バーン、様を……正面から、倒すなら……双竜紋(そうりゅうもん)……です」

「それはどんなものなんだい?」

「本来の歴史で……ダイの、両手の甲に浮かんだ(ドラゴン)の紋章……死したバランから、受け継がれた……竜魔人以上の強さを持つ力、です……」

 

飛び出してきたのは、予想以上の言葉だった。理解が追いつかない説明にキルバーンは驚かされ、ザボエラとて当惑している。

 

「……本来の歴史、というのは?」

 

だがめげることなく情報を引き出すことに注力してく。

 

「私が……チルノという人物の存在しない世界の、出来事です……その世界で起こったことを、本来の歴史、と私は呼んでいます……」

「……占い師や予言者が見た、起こりえるはずだった未来の一つ、のようなものかな? その未来を予め知った上で、キミは未来を変えようと動いていた。だから今の歴史と区別するためにも、そんな呼び方をしていると?」

「はい……その認識で、構いま……せん」

「なるほど、その結果が勇者様御一行の奇跡の快進撃ってわけか」

 

――この子の行動から感じた違和感はそれが原因だったのか。

 

理解に多少の時間を要したものの、自身が到った結論との相違の有無を問い質せば、チルノは首肯する。同時にキルバーンは長らく感じていた疑問が氷解したことに納得していた。

まさかあの疑問の裏にこのような真実が隠れているなど、誰も想像できないだろう。

 

「じゃあ、その本来の歴史ではバラン君は倒れ、バーン様は双竜紋(そうりゅうもん)を持ったダイ君たちに倒された。ということで良いのかい?」

「はい……バーン、様は、双竜紋(そうりゅうもん)を全開にしたダイに……敗れました……」

 

チルノの言葉に、今度こそ静寂が辺りを包んだ。仮にその話通りに事が運べばバーンは敗れ、ダイは大魔王をも超えた力を持つことになるのだ。そうなれば、キルバーンの計画どころの騒ぎではなくなってしまう。

 

「…………はっ! い、いやいや! 感心している場合ではない! それが事実ならば、今すぐにでも大魔王様にお伝えせねば!!」

「おや、ザボエラ君はバーン様側に着くのかい?」

「う……」

 

正気に戻り駆け出そうとしたところを、その一言で完全に動きを止める。

 

「それにキミにはボクの計画を話してしまったんだ。ここまで話を聞いて、裏切ったりはしないよねえ?」

「ぐ、ぐっぐぐ……」

 

加えて自らの命を天秤に掛けられれば、ザボエラとて迂闊な行動は取れなかった。それに、キルバーンの話を聞くにつれてバーンからヴェルザーへと心変わりしつつあるのも事実であった。

 

地上の全てを吹き飛ばしてしまっては元も子もない。その上、このままバーン陣営に協力し続けたところで、のし上がるのも難しいだろう。バーンが腹心ミストバーン以上に自分を重用することはまずありえないだろうと、ザボエラも薄々感づいていた。

ならば、選ぶべき道は一つしかない。

 

「ええい! わかったわい!! その代わり、ワシと貴様は一蓮托生じゃからな!! 裏切りは許さんぞ!!」

「勿論じゃないか。ボクたちは仲間だよ」

 

かつてこれほどまでに信用できない取り決めがあっただろうか。

獅子身中の虫と他者に寄生するダニとの間に交わされた約束。どちらも当然の様に相手を信じてなどいない。ただ、利害が一致しているために手を組むだけ。隙を見せれば即、出し抜くことしか考えていない。

 

「さて、それじゃあもっともっとお話を聞こうか。ボクらの輝かしい未来に繋がるお話をさ」

 

だがそれでも一応の同盟は成立し、キルバーンはさらに質問を続ける。チルノの知る本来の歴史の中に、そこへ到る道標が必ず存在すると確信めいた予感を感じながら。

 

「次はミストのことを――ミストバーンの秘密について何か知っているかい?」

「ミスト……バーン……その正体は、魔界に降り積もった暗黒闘気が命を持った存在……自らの肉体を持たない代わりに、他者の肉体に入り込んで操ることが出来る……」

「へぇ……」

 

親友だと思っていた相手の意外な正体に、思わず死神は声を漏らした。

 

「そして現在……ミストバーンは、大魔王バーンの全盛期の肉体を操っています……」

「どういうことかな? どうしてミストがバーン様の全盛期の肉体を操れるのさ?」

「大魔王バーンは、自らの肉体を二つに分けました……叡智と魔力、そして若さと力……その片方に凍れる時の秘法を使い、全盛期の肉体を常に保ち続けています……」

「な、なんと……そのようなことがバーン様に……!?!?」

 

盟主と仰いでいた相手の予想しえぬ秘密を聞かされ、二人は言葉を失う。

 

「ミストバーン、その正体は……大魔王の真の姿を覆い隠す霧……同時に、必要とあれば、自らの能力によってその肉体を操る魔王軍最強の存在にもなる……凍れる時の秘宝を維持したまま戦う、文字通り最強の、存在……」

「なるほどねぇ……時々ミストが素顔で戦うことがあったけれど、あの強さの秘密はそういうことだったのか……」

 

かつての出来事を思い返し、納得したように呟く。どれほどの敵を前にしても臆することもなく、傷一つ負うこともなかった親友に隠されていた事実。

 

「そうなると、また計画が狂ってきちゃったね……」

 

ままならないものだと思いながら、死神は嘆息する。

 

 




チルノ「今度は催眠術プレイとか、これが大魔王のやることなの!?」
バーン「違う違う」
チルノ「負けない! 催眠術なんかに負けないんだから!!」←なぜかノリノリ
バーン「もうコイツ捨ててきて(泣)」

書いてる最中、私の頭の中はこんな感じでした。
多分、頭パンパカパンなんだと思います。

あー今回で魔王軍パート終わらせる予定だったのに……
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