晴天、丁度人が混みかう空港前。タクシー乗り場より少しは慣れた場所に一目見れば忘れられないひどく印象に残る少女がいた。しかし、少女と言うには幼いわけでなく、かといって、女性と言うにはまだ未成熟な彼女。日に照されて輝く腰まで伸びた金髪に、女子学生の改造され、胸元が大胆にも開いた制服。そこから伺える15歳にしては発達したふっくらした胸が女としての色香を漂わせる。短いスカートからのぞく肉付きの良い太股。通行人たちがチラチラと輝かしい容姿のジョルノに注目しているのがよく分かる。
今日に至るまでのジョルノの生活はそれなりに充実していた。義父と結局折り合いがつかず、寮生活になったときは清々した。何故か黒髪から金髪に変わってしまった時には鏡を見て悲鳴をあげてしまったが。気に入ってたのにな。と残念に思ったが変わってしまったものは仕方ないと前向きに考えるようにした。
現在のジョルノは最近新たにバイトをし始めていた。それはイタリアに訪れた観光客の足になるタクシーだ。勿論無免許である。未成年ながら何故運転できるのかという疑問は割愛する。
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その頃、空港に到着した飛行機から降機した一際背の低い制服を着た男がトランクを片手に降りた。
名を広瀬康一。とある目的のためにイタリアを訪れ、「スタンド使い」同士によって引かれ会い、ジョルノに振り回される運命をもつ少年である。
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「ジョルノちゃ~~ん」
ジョルノが呼ばれた方に目を向ければ二人組の警備員がのろのろと歩いて来ていた。シワのよった制服に三十代後半の中年男性。ジョルノは笑みを深めた。所詮、愛想笑いである。
「あら、警備員さん方」
「相変わらず綺麗なだね~。今度デートでもどぉ~?おじさんジョルノちゃんのためになんでも買ってあげるよ」
「ほんと?」
嬉しい、と笑みを浮かべるジョルノだが、内心一ミリも思っていない。そんなことは時間の無駄だ。どうせ、どこなに連れ込んでヤるつもりなのだろう。警備員のジョルノを見る目がそう物語っている。言葉は悪いがそういうことだ。一人の警備員がジョルノの肩を抱いてこようとするタイミングに合わせ、もう一人の警備員に自然に用意したシャバ代入りタバコをそっと渡す。一人の警備員の腕が空振り様子を横目で見た。
「じゃあ、デート楽しみにしてるわ警備員さん」
「ま、ここでのバイトあんまりハデにやるなよ」
諦めたようで肩をすくめる警備員とタバコをさっとポケットにしまい込む警備員の背が少しずつ遠くなっていく。視線を二人の警備員から離す。今まで気がつかなかったが、ジョルノをじっと見つめる視線と目が合った。慌てて去っていこうとする康一に待ったをかける。
「タクシー、必要?」
こてん、と首をかしげる。市内までなら8000円よ。と言えば康一は可笑しそうに笑った。
「いえ、けっこうです。タクシー乗り場でちゃんと乗りたいですから」
「あなた、日本人?言葉すごいペラペラなのね。イタリアに住んだことあるの?」
「え?それはですねーーっ。露伴先生に喋れるようにしてもらっ………」
ジョルノは獲物は逃がさないという思いを持って距離を縮め康一に話し掛ける。なにか引っ掛かる物言いに疑問を持ったが、急にしどろもどろになる康一。どうしたのだろうか。
「それよりね。君が運転するの?中学か高校生っぽくに見えるんだけど。この国何歳から運転できるの?」
どうやらタバコの件もバッチリ見ていたらしい。駐車場の料金、と適当に答える。随分と質問の多い日本人だなぁ、とため息をつきたくなった。
「どちらも気にしないで。じゃあ、1000円でどう?チップもいらないわ。ピッタシ1000円で市内まで、どう?」
8000円からの破格の値段に驚いたようだが、信用には値しないらしい。まあ、それが当たり前だが。タクシー乗り場に急ぐ康一は他の観光客やビジネスマンによって行列が出来てるのを目撃していた。
「ねぇねえ!どうしてあの行列の客にタクシー乗らないって声かけないの?」
「あなたが断るならこれからかけるつもりだけど…」
本当に1000円?と聞いてくる彼は警戒心が強いらしい。しかし、あの行列を見て迷っていることが手に取るように分かった。あと一押し。
「1000円!そのかわり荷物は自分で車の助手席に入れてねチップないんだから」
強く念を押すようにいえば、渋々といった所だ。停めていた車のドアをあけ、ジョルノが運転席に座る。
「よし決まりね!荷物は前の座席。お客様は後ろの座席に」
「あのね!ひとつ言っておくけど。ぼくを旅なれていない日本人のお人好しだと甘く見ないでほしいんだ。ちゃんとホテルまで正直に送りとどけてよ」
「はい。正直に送りとどけます。」
ふわり、と笑った。ジョルノは素早く助手席のドアを閉め、エンジンをかけ、彼を置いて車を出発させる。
ーーーーただし、空っぽのバックだけですけどね。
最後の一言は、空に消えた。
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「ちょっと?ぼく……まだ乗ってないけど」
颯爽と走り去っていく車。展開が飲み込めず、自分の立場を理解出来なかった康一は呆然と眺める事しか出来なかった。プッと吹き出す声に先程の彼女と話していた二人組の警備員の片方がこちらを見て笑い、もう片方に小突かれているのを見た。
「あっ。まっまさか!ま、待て!」
彼女に騙されたのだと。自分が走り去る車に追い付くすべはない。だが、最悪の展開に康一はそれほど焦る思いはなかった。自分には「スタンド」があるのだから。自身から「ACT3」を発現させる。康一の背後から緑がベースの、自我を持つ「スタンド」が形作られる。車に重力をかける。発動した能力によって車はそれ以上前進することはなかった。
「言ったろ?ぼくを甘く見るなって」
ゆっくりと車に近付く。運転席のドアが開き、長い金髪が印象の彼女が車から降り、康一を見つめる。宝石のような澄んだ翡翠の瞳と目があった瞬間。どきり、と胸が高鳴った。思わず、ぼくには由花子さんがいるんだ!と自分を叱責した。
「別に逃げてもいいよ。荷物さえ無事ならそれでいいもん…」
彼女は微笑んでいた。名前も知らない彼女に、一瞬気をとられた。不思議だ。普通ならこういうとき計画に失敗してパニックと敗北で最悪の表情をするだろうと、思っていた。彼女はどれにも当てはまらなかった。微笑んでいる。まるでこの状況を楽しんでいるかのように。何も言わず、去っていく背を眺めた。あの瞳ともう一度見てみたいと望む自分がいた。
二人組の警備員がヒソヒソと話している。日本人だからとイタリア語が分からないと侮っている二人の話に耳をすませた。
ーージョルノ・ジョバァーナ。
ーー半分は日本人。
ーー黒髪から金髪に。
ーーエジプトで死んだ父親の遺伝子。
「ジョバァーナ…?」
何か繋がったような気がした。懐から条太郎から預かった例の写真を取り出した。写真には長い黒髪の明らかに東洋人の秀麗な顔立ちの女の子が。目線が合っておらず、盗撮でもしたのだろう。黒髪の部分を手で遮り、顔を比べてみる。
「ジョルノ・ジョバァーナ…?「汐華初流乃」…しお…ばな…「初」…「るの」……ジョルノ。似ているような気がするけど…空港をでていきなりなんて…」
まさかな。偶然にしては重なり過ぎていた。写真をしまい、奪われかけていた大切な荷物を取り返そうと助手席のドアを開けた。
「あっ…あれっ!?どうして!?ぼくの荷物なっ………ない!?」
あるはずの荷物がない。ジョルノって子は何も持っていなかったはずなのに。車内のどこにも荷物はなかった。