マッチ売りの少女が過激だったら?   作:駆華野 志想之介

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一応r15内には納めましたが、読んで少しでも苦手だと思った方は、ブラウザバックをお勧めします。


二話——First Tuesday

 ベッドに力つきるように倒れ込んだ後、クローヴィスはそのまま眠り込んでしまった。

 頬に青いアザが残るものの、——いや、生々しい傷ですら、彼女の魅力を引き出すものとなっていた。手入れもろくにされてはいないが、豊かな輝きを持つ砂色の髪。白磁のような肌に浮かぶ美しい顔は、時折青アザの痛みに眉根を寄せられ、見る者の嗜虐心を煽るだろう。首から下、開けられたシャツの間から覗く下着で支えられた豊かな谷間は、クローヴィスが横向きに寝ていることで、男を魅了するように形を変えている。普段はロングスカートによって太腿から足首までが隠されているが、寝ている間に捲れたのか、足は大胆にも大腿まで晒されて、その艶かしい足とそこかしこに浮かぶアザが見えていた。

 アザを見れば、誰もが痛ましいと言うことだろう。けれどクローヴィスの肢体は、そのアザの群れをものともしないほどの魅力を持っていた。

 そのクローヴィスの自室のドアが、僅かな軋みを立てて数センチ開いた。暗闇の中で、窓から差し込む月明かりがクローヴィスの体を仄かに照らしている。ドアを開けた何者かは、ほんの少しだけ開いた隙間から、クローヴィスが寝ているかどうかを覗き込んでいた。ゆっくり、じっくりと。

 完全に寝ていると判断したのか、ドアがさらに開かれる。

 コツ、コツ。

 しんと静まり返った夜中の室内に響く靴の音。暗い室内には、靴の音と、二人分の呼吸音のみがしていた。片方はすやすやと眠るクローヴィスの規則的な寝息。もう一方は、部屋に入ってきた人物の荒い鼻息だった。

 ベッドの脇に侵入した人物が立ち、その姿が月明かりに照らされる。この場でクローヴィスが起きているか、彼女の母親がいれば、その人物が誰かわかっただろう。くたびれた衣服に、酒臭さの匂う男。クローヴィスの母親の愛人だった。

 男は寝息を立てているクローヴィスの顎に手を添えた。

 

「……ん」

 

 くすぐったかったのか、クローヴィスが身をよじる。男はごくりと唾を飲み込み、ボタンの留められていないシャツの中に手を伸ばし、背中をまさぐる。背中に這わせた右手を動かし、目当ての部分を探し出し、手を掛けた。

 胸を支える下着を外し、ベッドの脇に落とす。用意しておいたロープでもってクローヴィスの両腕を縛り、それをベッドの足にも縛る。

 こうして、無抵抗の少女を縛り付けた男——クローヴィスの母親の愛人——は口を三日月型に歪ませ、薄汚れた歯を舌舐めずりした。

 

「ああ、あああ……綺麗なクローヴィス。本当に、ああ、美しい。俺を…………受け入れてくれ」

 

 身勝手な、人の尊厳を崩す大罪を犯す男には気付かずに、クローヴィスは未だ眠りの中。彼女がこのことに気づくのは、散々に体を蹂躙され、まさに男のモノが入れられる直前だった。

 

「——ッ!? ぁ……あなた、なに——ギッ」

 

 気丈に抵抗したクローヴィスだが、それは新たなアザを作る要因になってしまう。反抗すれば殴られ、声を上げようとすれば喉を掴まれた。

 

「かっ、ひゅ……ひゅ」

 

組み敷かれたクローヴィスの心には、一つの感情が、まるでグツグツと煮えたぎっているかのごときだった。

 

——悔しい。

 

 抵抗できず、なすがままにされる。

 

——悔しい。

 

 女だからと見下され、男のいいように扱われる。

 

——悔しい。

 

 唇を強く噛み締め、指を、爪が手のひらに食い込むほどに握りしめる。彼女の股座に、自分の腰を打ち付ける男は、心底楽しそうに嗤っている。クローヴィスを貶し、辱め、罵倒する。

 

——悔しい。

 

 涙が流れる。男達が憎い。自分を組み敷き、物のように扱われる。拒絶しても、誰一人としてやめてはくれなかった。いつも、何度でも、この家に来た男達はクローヴィスをいたぶって楽しんだ。

 一度だけ、優しくしてくれた人がいた。母に打たれ、詰られる自分を慰めてくれた。けれど、そんなものは嘘だった。安心しきったわたしを、嘲笑いながらあの男は犯した。信じていたのに。そう吼えれば、あの男の笑みは一層深まった。この家にいるときは、誰も信じられなくなった。

 全てが悔しい。母も、愛人の男達も。自分の境遇も。けれど、あらゆるものよりさらに、クローヴィスにとって自分自身の弱さが、なによりも——

 

——悔しいッ!

 

 信じようとした自分が馬鹿だった。いつまで経っても母は男ともつれ合うことを止めず、クローヴィスを手酷く扱う。

 クローヴィスは唇を強く噛み締め、一筋の血が、顎を伝って首へと一本の筋を成した。

 うっすらと涙を浮かべ、呆けたようにわずかに口を開いたまま。だんだんとクローヴィスの意識は薄れていく。暗くなっていく頭の中で、ある青年の背中が意識を掠めた。

 

 

 

「……マッチはいかが、マッチを買ってください」

 いつも通りに、クローヴィスは街頭でマッチを売っていた。今日も雪が降り続け、人々は足早に通りぎていく。

 体全体に残るけだるさや、縛られていた腕や乱暴に扱われた膣内に痛みが残ってはいたが、少女は今日を生き抜くためにもマッチを売り続けなければならなかった。

 しかしマッチはなかなか売れず、今日はまだ一つ売れただけだった。連日寒い日が続き、道行く人の足並みは総じて早い。そんな中で道の端に立ってマッチを売る少女を気にする人は少ないことと、道端で売られるマッチは質が悪いということで、買い手は少ない。

 けれど同じ場所で売り続けるクローヴィスの下には常連ともいえる客が数人できた。その中の一人が、人ごみの隙間をわざとジグザグに縫うようにして、あちこちで人とぶつかりながらこちらに近づいてくる。

 それを目にしたクローヴィスは不機嫌さを醸し出しながら、そっぽを向いた。

 

「一箱くれ」

「銅貨一枚よ」

 

 せっかくマッチが売れるというのに、クローヴィスはあまり嬉しそうには反応しない。人混みを抜けて、まっすぐ彼女の側へと近づいてきたのは、歳の近い見た目の青年だった。

 クローヴィスのそっけない対応を面白そうに笑いながら、差し出された手に銅貨を一枚置く。青年は差し出された手に、生々しく残る青いアザを発見したことで顔をしかめた。

 青年の表情の変化を捉えたクローヴィスは、何か小言でも言われるのかと考え、より不機嫌さを出す。しかし青年は言葉を発することもなく、クローヴィスを通り越し、彼女がマッチを売る後ろの路地に背中を預けた。

 不審に思いながらも、よく知った人間であることから、それ以上気にはしなかった。

——否。気にならないくらいに、今のクローヴィスの思考は別な方向に傾いていた。

 

「……やけに殺気立ってるな」

 

 ぼそり。と、青年が呟いた。薄暗い路地に、その声は驚くほど響いたように聞こえ、クローヴィスのマッチを売る手が止まる。道行く人にマッチを売り込むための笑みは消え去り、口元は真っ直ぐ結ばれ、瞳は冷たさを帯びていた。

 背後の青年には隠せないのだと悟ると、クローヴィスはくるりと振り向いた。

 

「ねぇ、カイ」

 

 カイ。そう呼ばれた青年は、買ったばかりのマッチでもって、煙草に火をつけようとしているところだった。頭薬と側薬が擦れ合わせた瞬間に、粗悪品のマッチは折れてしまった。悪態をつきながらも、カイは一度火をつけるのを諦め、クローヴィスの話を聞こうと顔を上げる。

 しかし目の前のクローヴィスは話をするどころか、新しいマッチの小箱を取り出していた。やがてシュッ、という音がしてマッチに火が灯る。差し出された火に、カイは煙草を近づけて息を吸う。

 暗い路地の中で二人の人間の顔を照らし出す火を見つめながら、クローヴィスは口を開いた。

 

「そう……そうよね」

「なんだ?」

 

 消えそうになる火を見つめながら、クローヴィスはどこか遠いところを見ているかのようだったが、それもすぐに収まった。

 そして、カイからしてとても魅力的な、蠱惑的な微笑みを浮かべた。知らず知らずのうちにカイの息が静かになり、彼女から目が離せなくなっていく。そんな彼を愛おしそうに見つめて、クローヴィスは意を決したような、毅然とした表情になる。

 

「わたしはそろそろ、良い子を辞めることにするわ」

「それは、いったい……?」

 

 まるで小さい子が、これからイタズラでも仕掛けに行くような、そんな無邪気な笑みだ。

 誰が予想できるだろうか。こんなにも美しく、それでいて儚く笑う少女が、これから何をするのかを。

 いったい誰が、予想しうるというのか。

 

「復讐するのよ」

 

 少女がこれから何をするのかを…………




r18用に描いてた時は一万時超えてました。
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