でも、最後の方は上手く纏められたのではないだろうか。
次回から普通に戦闘パート入るから、日常パートをここに詰め込むしかなかった。そのせいで、長くなりますが読んでくれれば幸いです。
あと、士郎が若干、っつかメタ発言に走ります。何故かと言えばここから先、主に二章から普通にメタネタオンパレードでいくからその片鱗でも見せちゃおうかな~とか言うノリです
あぁ、遅くなりましたが『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』見てきました。
いやぁ、いいですね。面白かったですね。
感想はいま活動報告に書き込んでいるところなので、良ければ皆さんと感動を分かち合いたいです。完成したら下にリンク張っておきます。
さて、意気揚々と当麻の家から飛び出したはいいものの、これからどこへ向かっていけばいいのだろうか、なんて思いながら、俺こと衛宮士郎は朝の公園のベンチで休んでいる。というか、暇を持て余している。
朝の公園というと、健康意識の高い老人がラジオ体操をしているイメージがあるものだけれど、その人工の八割が学生で占められている学園都市にはそれは当てはまらないらしい。
ただ、通学途中の中高生が遠くに見えることから見るに、それが学園都市の日常というものらしい。
と言っても、学生たちのぐったりしている様子と、今が春休みであることを鑑みるに補習のようだが。
俺の成績はそれなりのところに居るし、真面目に登校していたので聖杯戦争で何日か休んでも補習にはならなかったが。
話が脱線してしまって申し訳ない。話題を少し前に戻そう。今一度繰り返すが、これからどこへ向かい、なにをすればいいのだろう。
やはり、遠坂が予約した別のホテルのチェックインを済ませてしまうべきだろうか。
今日の朝、桜からメールで再予約したホテルの名前と住所が送られてきた。桜も見ながらやったと書いてあったので、大丈夫だとは思うが、昨日のことがあるので一応対応できるように備えておこう……主に心を。
住所的には昨日恥ずかしい思いをしたホテルから結構近い場所のようなので、バスに乗って当麻と出会った場所まで戻ってから向かうというのが最短の道だと思う。
となると、ここからなら昨日も乗ったバス停が一番近いようだし、そこまで歩いていくか。
「……よし、行動開始だ」
いまから数時間の行動スケジュールを組み終えた俺は、立ち上がってスーツケースを、それにつけられた通称の通りガラガラという音とともに引きずりバス停へと歩いていく───否。歩いていこうと思ったところで、俺は尻餅をついた。
「──────ッ、」
どうやら前方不注意からなにかにぶつかったようだ。なにかに意識を傾けていた訳ではなく、意識外からのなにかだった。気が回らなかった。
体感的にはそびえ立つ岩のような感触だ。もしくは、地面に強く根を張っている大樹のようなものだと思って貰っても構わない。
ただ、それは感触だけだ。本物ではない。道の真ん中にそんなものがあるわけがない。
だとすると、果たしてなににぶつかったのだろうか。
当然の思考が当然の帰結を迎えて、そして生まれた次なる疑問を解消すべく俺は顔を上に向けてぶつかったものを見上げる。
「……うん、まぁそうだよな」
普通に人だった。
別に、熊などの結構大きめの動物だと思っていた訳ではない。いや、むしろそっちのほうが困る。俺の命が危ない。なので、人のほうが有り難くはあるのだが。
人。男。体格の良い男性だった。
座りながらの目算なので、精確な値とは言えないが、身長は控えめにいっても2mくらいある。誤差があっても上下に10cmといったものだろう。
違和感を感じたのは、それだけではない。おそらく身長190~210cmの大男が科学の街に似つかわしくない和服を来ているからだ。
さらに、硬く太い筋肉を全身に纏っている。先程、男のことを岩と形容したが、本当にそれが正確だったと思う。
なんというか、筋骨隆々という言葉がそのまま人間の形になったような、そんな人だった。
「おっと悪い。怪我とかしてねぇか?」
男は俺の存在にやっと気付いたのか、腰を屈めて俺に手を差し出す。
かなり屈めないと、俺に手が届かないところを見るに、本当に身長は高いらしい。
「はい、大丈夫です」
男の手を取って立ち上がりながら言う。立ち上がってもまだ、顔を傾けないと男の顔を見ることが出来ない。
「悪りぃな。よそ見しちまってた」
「いえ、俺の方こそ前をよく見ていなくて……すみません」
お互いに謝罪し、バスの時間までもうちょっとなので、俺が尻餅をついた時に一緒に倒れたスーツケースを立たせて、その場を後にしようとする。
「おい、ちょっと待ってくんねぇか?」
すると、何故だか男が俺のことを引き止めてきた。
呼ばれたので、身体を捻って男のほうを振り返り、疑問を返す。
「なんですか?」
「もしかして、お前さん。旅行者なのかい?」
お前さん、なんてきょうび聞かない時代錯誤な少し江戸っ子の混じった喋り方で、男は俺に旅行者かと訪ねる。
質問の意図はよく分からないし、多分答えなくてもいいだろうけど────
「えぇ、まぁ、はい。そうですけど……」
考える間もなく、即答していた。
名前も知らない相手の、個人情報を探るような質問に答えてしまった。
とは言っても、答えないというのも後味は悪いので、反省こそすれど、後悔はしていないが。
「そうなのか。実はよ、俺も旅行者なんだよ。ヘヘッ」
「へ、へぇ」
俺が旅行者だと分かった瞬間、男は急に馴れ馴れしく話し掛けてきた。
しかし、馴れ馴れしいと言ったら、若干ながら鬱陶しさが含まれているような表現なので、一応訂正しておこう。
男はフランクに話しかけてきた。
「暇か?なら、少し話さねぇか」
見ず知らずの人間にここまでグイグイ来られたのって、初めてではないだろうか。
藤ねえだって、初対面のときは面倒見の良いお姉さんって印象だったし……どちらかと言うと、あとからあの性格が露見した形だ。
しかし、何故だろう。俺、この人と初対面な気がしない。どこかでこんな雰囲気の奴と会っていたような、遭っていたような──────
「う~ん、良いですよ。別に急ぎの用事もないし」
ホテルの件も、そこまで急いでやらなければいけないことという訳でもないのし、この際なので、いっそこのまま男の勢いに流されてしまおう。
「よし。そうと決まれば歩こうぜ」
「え、歩くんですか」
「おう。見たところ兄ちゃんにも予定はあんだろ。なら、歩きながらのほうが良いんじゃねぇのか?」
「─────」
思わず嘆息した。
ただ、勢いのままに周りを引っ張っていくような人なのかと思ったけど、意外に気配りが出来るようだ。
「この先のバス停に向かっているので、出来ればこっちの方向でお願いします」
「おぉ、任された」
向かおうとしていた方向を指し示して、男のちょっとした気遣いも一緒に受け取ることにする。
男はゆったりと歩いている。これほどの体躯があれば、そんなゆっくりとしたスピードでも、俺の歩くスピードに合わせて歩くことが出来るようだ。
だが、話をするとは言っても、同じ旅行者同士、話題なんて一つしかなく、要は学園都市にて驚いたことの挙げ合いだった。
「リニアモーターカーに掃除ロボットに電子ロックとやらを使ったロッカー、と兄ちゃんも中々面白えもんを見てるんだな」
「いや、それを言うなら貴方だって、飛行船に四つ足の装甲ロボットってそんなものがあったんですね」
意外なことに会話は結構盛り上がった。
いかにもな和装で、学園都市の技術には興味がないものと思っていたが(だったら何故ここに来たんだ、みたいな疑問は遠慮したい)、結構興味津々らしい。
「でも、そんなものがあるならもっと治安が良くてもいいんじゃないかな」
「ん。どういうことだい?兄ちゃん」
「いや、ニュースを見てたら、なんでも路地裏で通り魔事件が多発してるみたいなんですよ。警備ロボットみたいのが居るなら、そういうのって最初から起きそうにないから、少し不思議で……」
「……ヘ、へぇ、そういうのがあんのか。わりぃな、ニュースとかあんま見ねぇから、そういうのには疎くてよ」
あれ。いまこの人、一瞬言い淀んだような……
いや、気のせいだな。いけないな。護衛任務ってこともあって、疑心暗鬼が働きすぎているみたいだ。
「えぇ。だからできるだけ路地裏には近づかないほうがいいですよ」
「おう。ありがとな、兄ちゃん」
「お礼なんていいですよ。好きでやってるんだし」
言いながら、空を見上げる。
空には、男の言っていた飛行船が飛んでいた。いや、この場合は浮いていたと言ったほうが正しいか。
側面に設置された液晶には、天気予報が映し出されていた。
空には、男の言っていた飛行船が飛んでいた。いや、浮いていたと言ったほうが正しいか。
側面に設置された液晶には、天気予報が映し出されていた。
「明日、雨が降るのか……」
「みてぇだな。兄ちゃん、傘とか持ってきてるかい?」
「一応、折り畳みのものを持ってきてます」
「用意が良いねぇ、感心感心」
俺の視線を追って、同じように天気予報を見ていた男も俺の言葉に反応する。
そのままゆったりと歩く男の姿を盗み見る。
見たところ、男はそれらしい荷物を持っていなかった。そりゃ、宿に置いてきているのだろうが、旅行に来ているのだし、カメラなんかは持っているものではないだろうか。
いや、旅行の目的なんて人それぞれなんだし、俺だって観光目的で来たわけではない。これは決め付けで、押し付けだな。
「そろそろバス停じゃねぇのか」
「そうですね。じゃあ、ここで……」
少しだけ名残惜しさを感じるのは、男の人柄に俺が好感を抱いたからだろう。
男はそのまま後ろに身体を180°回転させ、俺から離れていくように歩き始める。
「あぁ、ちょっといいか?」
男はなにを思ったのか数歩歩いたところで、上半身だけを俺のほうに向ける。
「もうこれで、お前さんに会うこともねぇだろうし、名前を聞いて置きてぇんだけど……いいか?」
総人口280万人、旅行客を含めればさらに2~3千人水増しされる大都市で、偶然出会った人ともう一回会う確率なんて0%に限りなく近いと云うのは、確かにそうだよな。
それに、俺も話した人の名前を知らないままに別れると云うのは心残りになると思うし。
「……衛宮士郎です」
「俺は白土佐薙だ。まぁ、適当に覚えといてくれや」
豪快に笑いながら、自己紹介を返してくれた。
「──久々に
続けて男がなにか変なことを言っていた。そのまま手を振りながら、再び歩き出す。
男の……いや、白土さんの言葉になにか、違和感というか、しっくりこないというか、そんな感じがしたのだけれど、深く考え始めると、終わりのない底無し沼に足を取られる気がして────
──俺は、思考を放棄した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「小萌ちゃん、なにかあった?」
「へ、なにかあったってなにがですか?」
「あぁ、悪かったね。小萌先生」
「昼休みなのでいいのです」
見た目小学生の教育実習生、月詠小萌は昼休みを応対室で過ごしていた。
高等学校の教育実習における昼休みというのは、昼食をとりながら、教師との雑談をするのが良いとされており、彼女もその半分はその教師との雑談に使っていた。
なぜ大切かといえば、教師の経験が生きた声で聞くことが出来るから。それは、いずれ自身が教師となるうえで、貴重な経験値に成り得るものだ。
という訳で、小萌は持ってきていたコンビニ弁当を食べながら、実習先の学校で自分の指導を担当して貰っている教師との雑談を交わしていた。
「では改めて、小萌ちゃん、なにかあったのかね?」
「いえ、特になにもないですが……どうしてですか?」
「いや、心ここにあらずというか、上の空というかな。だからなにかあったのかと……」
そう言った後に緑茶を啜って、一息つく初老の男性。
そんな呑気な様子を見て、呆れ笑いを浮かべながら割り箸でご飯を口に入れる小萌。
「そういう上条先生はいつも通りですね」
「そうだなぁ、いつも通りというのは良いことだぞ」
シワだらけのYシャツを着た老人は、年寄りとは思えない若々しい口調で話す指導教論に、小萌は思わず困ったような笑みを溢す。
そして、老紳士は緑茶をもう一度啜りながら真剣な顔つきになる。
「このところ、色々と物騒だしな」
「……あの襲撃事件のことですか?」
その話題になると、雰囲気が深く重く沈み込んだ。
老年教師が投げ掛けた話題というのは、言うまでもなく
「うちのクラスからもう三人も入院になってるしな。こりゃ、早めに解決しないと本当にマズイことになりかねない」
老人は眉間に少し皺を寄せ、事態の深刻さをそのまま表したような表情で言う。
それを聞いた小萌もまた、怒りと不快感から顔をしかめる。その表情は感情の変化とともに憂い顔へと変わる。
「解決するんでしょうか……」
「その為のわしら
老人は小萌を鼓舞するように笑う。
「という訳で小萌ちゃん。儂は今日、
「……へ?」
ピシッ、と老人は小萌を指差して力強く言い放つ。指差された小萌は気まぐれな指導員の言葉の意味を理解できず、変な声を出す。
しかし、すぐに指導員の意図に気付き、間髪入れずに抗議に入る。
「ちょ、ちょっと待ってください。いくらなんでも無茶振りが過ぎるのですよ!!」
「小萌ちゃんなら大丈夫!!」
「根拠はなんですか!?何処にあるんですか!?」
「そんなものはないっ!!」
「そんな無茶が通れば道理が引っ込んでしまいます!!」
「学園都市に道理を求めるなら、まだ小萌ちゃんも半人前だな」
「……その言葉に説得力を感じてしまった自分が情けないのです」
勢いのままに言い負かされてしまい、ため息を吐きながら力なくうなだれる教育実習生。
確かに、あまり常識の通用しない場所はあるけれど、こういうことではないのではないか、と思う小萌である。そんな小萌を見て、老人は白髪を掻きつつ苦笑いを溢しながら言う。
「まぁ、補習といってもプリントをやらせて間違ったところの解説をしてやってくれるだけでいいから今の小萌ちゃんならできると思うぞ」
「そっちのほうの根拠も一応聞いておきたいのです」
「まぁ、そんなものはやっぱりないんだがなぁ……」
キッパリと言い切る指導教論のまったく理屈が通らない、根拠なんて何処にもない理論に、今度は小萌の苦笑を浮かべる。
「やっぱりないんですか……」
「強いて言うなら、わしの勘だ」
「根拠としては弱いですね」
「いや、勘というのも案外馬鹿にならんものだぞ」
理論や法則を教える教師が、それも最先端の科学の街に住む人間が、勘なんて曖昧で非科学的なものを誇らしげに語っていた。
小萌はその姿を見て、なんとなく少し遠い未来に漠然とした不安に感じた。
「お孫さん、ちゃんと育ってくれることを祈ってるのです」
「あぁ、心配するな。わしとは似ても似つかぬ良い子だからな」
「具体的にどんなところがですか」
「わしみたいに行き当たりばったりみたいな行動はしないなぁ」
「自覚はあるんですね……」
ここまで来れば、この教育実習生と指導教論の関係性について理解できた人も多いと思う。
実のところ、指導教論の突拍子のない行動に付き合わされ、やらかしたことの後始末を手伝わされるというのが、教育実習における小萌の仕事のほとんどを占めていた。なにしろ、小萌がこの教育実習から得た最大の教訓は『上条先生のようにはならない』なところからして、彼女が指導教論のことをどれだけ反面教師としてみているかがわかる。
それでも(表面上は)愚痴を言わずに付き合うあたり、彼女の元々のお人好しが垣間見えるというものである。
「そいじゃ小萌ちゃん。わしは授業の準備があるんで先に行ってるぞ」
「わかりました」
さて。さっきまでの雑談というか、茶番のせいで昼食が食べ終わってないので、何はともあれ、まずはこのコンビニ弁当をすべて食べてしまおう。
プルルルルル。プルルルルル。プルルルル。
白米を口に入れたところで、電話が振動する。
なにかと思い、ポケットら携帯電話を取り出して確認する。番号の上に名前が書いてあった。どうやら電話帳に登録された知り合いからの電話らしい。
名前はなんと書かれているのだろうか────
「あ」
衛宮士郎。
昨日の課外修業で、はぐれてしまった生徒を探しに行った際に手伝いを買って出てくれた旅行者のことだ。
そして、その迷子探しの時に士郎の提案で、一時的に電話番号を交換したのを、お礼がしたいと言う小萌からのお願いで、そのままにしておいたのだ。今日の夜にでも電話するつもりでいたのだが、まさか彼のほうから電話を掛けてくるとは思わなかった。
今は少し急いでいるが、恩人からの電話を断るほど切羽詰まった状況でもないので、電話にでることにした。
「もしもし」
『あぁ、小萌さん。昨日振りだな』
「えぇ、昨日振りなのです。はむ、それで、はむ、士郎ちゃん、何か用ですか?」
『小萌さん、食事の最中だったのか。悪い、なら後でまた掛け直すよ』
「いや、大丈夫なのです。これも礼ですし、できる限りの話は聞くのです」
士郎の細やかな気配りに内心感心しつつ、弁当を少し早めのペースで口に運んでいく。
『実はな。少し頼みたいことがあって……』
「いいですよ。なにをすればいいのですか?」
『それが、昨日出会ったばかりの人にあまり頼みたくはないものなんだけど……』
「気にしないのです。任せてください」
『……よし、学園都市で襲撃事件ってのがあるって聞いてさ』
次に電話の向こう側から流れてくる言葉は、衝撃的なものだった。
話題自体は先程、指導経論と話した内容ではあったが、その話題が仮にも旅行者である士郎の口から出てくるのは、想定外だったのである。小萌は、驚きの感情をそのまま声に乗せて少年の言葉に答える。
「はい。でも、どこで知ったのですか?」
『ニュースで……』
「そういうことですか」
『いや、教育実習である小萌さんに対してこういうことを聞くのは大変不謹慎だし、個人情報の漏洩にもなってしまうし、断れることを前提に頼むんだけど……』
続けて、士郎は申し訳なさそうな、少し後ろめたそうな声で様々な前置きをする。
その前置きで、小萌には士郎が自分に何をしてほしいのかが概ねわかってしまった。
『もし小萌さんが教育実習に出ている学校でその襲撃事件の被害者が居るなら、出来れば入院先の病院と病室を教えて欲しいということなんですが……』
「はぁ、そこは予想を裏切って欲しかったのです」
『え、なんの予想を裏切ればよかったんだ?』
「……その話はひとまず置いておくとして、その情報がなにに必要なのですか?」
『ん。えっと、その……なんていうか……』
そこも小萌の予想通り、言い淀んだ。
なにか説明しにくい、入り組んだ事情があるようだが、こればかりは二つ返事で承諾するわけにはいかない。
教育実習生とはいっても、現在の小萌は教師である。そう易々と大切な生徒の情報を渡すわけがないのだ。せめて、何故それが必要なのかを聞かなくてはいけない。それが最低条件だ。
まぁ、渡すという選択肢が思考のなかにある時点で、彼女もまだ甘さが隠しきれていないが。
「じゃあ、質問を変えます。なんで、その情報が必要なのですか」
『……守らなきゃいけない奴がいるんだ』
先程とは打って変わり、強い覚悟のこもった口調で士郎は小萌の質問に答える。それに少し驚いているが、それとは裏腹に少し納得している自分に疑問を覚える。
そのあとはまた歯切れが悪くなった。その隙に、小萌は急いでコンビニ弁当を食べてしまう。ついでに買っておいた麦茶のペットボトルで喉を潤してから、士郎にもう一度質問する。
「もうちょっと詳しく説明してもらってもいいですか?」
『ごめん、詳しくは言えない。話したとしても、多分信じてもらえないと思うし……だからさっきも言ったように無理にとは言わない』
「でも、少しでも事情を話してくれないと、判断のしようがありませんよ」
『これは小萌さんの知らなくていい世界なんだ。ただでさえ、現在進行形で巻き込もうとしてるのにこれ以上危険に晒す訳にはいかないだろ』
士郎は強い言葉で続ける。
情報が断片的且つ少なすぎるので、断言はできない。ただ、危険の伴う事情ということらしい。おそらく士郎のほうも本当は巻き込みたくないが、それでも知りたいからこそ、こうして小萌に頼みに来ているのだろう。
今しがたも述べたことを繰り返すことになるが、士郎には頼み事をしようとしている以上、彼には説明する義務があるし、小萌にはそれを知る権利がある。士郎は、その在るべき過程を飛ばして結果だけを得ようとしている。自分からは何も言えないけど、貴女は教えてくださいなんて、はっきり言って欲張りすぎる。
そんなもの、本来なら交渉として成立していない。
無論。それは士郎のほうだって十分理解して、自分がどれほど馬鹿か自覚していることだろう。だから、断ってくれてもいい、と言っている。
馬鹿馬鹿しい。そう言ってしまえばそれまでだけれど、それが出来ない自分の性格に小萌は辟易する。
「はぁ、士郎ちゃんもですけど、お互い馬鹿ですよね」
ペットボトルを飲んで、呼吸を1つ挟む。
間を作ってから、小萌は呆れたように言った。
「取り敢えず、夜頃にメールで記載して送ります」
小萌の言葉のあとに、また沈黙が数秒間空間を支配する。
沈黙を破ったのは、少年の驚愕と困惑の二つが交ざった言葉だった。
『──え、いいのか?』
「仕方ありませんからね。ただし、教えるのは名前と入院先の病室だけです。それでいいですね」
『あぁ、それだけで充分だ』
さて、そろそろ昼休みが終わる。
教室へと戻らねば。
「じゃあ、もう切りますよ」
『あぁ、ありがとな。小萌さん』
「出来れば巻き込んで欲しくなかったのです」
『……仰る通りです』
まぁ、この場合、断れなかったこっちの責任だと内心思う小萌である。
『じゃあな、小萌さん』
「はい。またなのです」
こうして、教育実習生の長い長い30分間が終わった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「もう一度聞くぞ、当麻。今日なにがあった」
「えっと……かえりみちに空き缶ふんでころんで、また空き缶があったからそれをよけたら、こんどは犬のしっぽをふんでおいかけられて、あとそれから……」
「いや、もういい。もうお腹いっぱいだ」
どうやったら、そんなギャグ漫画のキャラのようなことになるのだ。
「あ、べつにギャグって言ってもらっていいよ。ギャグみたいなものだし」
「いいわけあるか。お前怪我してるだろ。実害伴ってるじゃないか」
俺が言った通り、当麻は身体のあちこちに傷を負っていた。
当麻が言っていた、転んでできたであろう擦り傷や、犬に噛みつかれたあろう牙の跡、他にも切り傷に火傷、小さめの打撲傷なんかもある。
取り敢えず、昨日と同じように、消毒液と絆創膏、ガーゼや湿布で応急手当をする。その昨日の殴られたことによる目の腫れは引いてきたようだが、同じような傷も見受けられる。
ということは、やっぱり────
「一応聞くけど、それだけじゃないよな?」
「うん、そうだよ」
「全部転んだりでついた傷じゃないよな?」
「────」
昨日の傷は転んで出来た傷ではなかった。
思い出せないという方は、少し遡ってDay2-3くらいに詳しく書いてあるので、そちらのほうをもう一度読んでもらえればわかると思うが、おそらく面倒だと思うので、こちらのほうで多くを省略させてなにがあったかということだけ書かせてもらおう。
まぁ、俺も詳しい事情は知らないので、当麻の話を聞いて憶測と俺が見た結果が絡み合っていると思うので、混ざりっけない情報を知りたいという方は、やはりDay2-3まで遡って読んでもらったほうが早いと思う。
昨日、夕食を考えるついでに13学区を散歩していた当麻は、偶然通りかかった公園で殴る蹴るの暴行に及んでいる少年達を止めようとしたら、今度は当麻のほうに暴力の矛先が飛んできたらしい。
そこに、こちらも半分偶然で通りすがった俺が介入したことで少年達が逃げていった。
当麻が言うには、俺のことを
「今日も殴られたのか?」
「……うん」
当麻は小さく頷いて肯定した。
思った通り、昨日の少年達に殴られたようだ。
ここまで来ると、学園都市は能力者に力の使い方についての教育を怠っているのでは、と思ってしまう。
「だいじょうぶだよ。よくあることだから」
「よくあったほうが駄目なんだよ」
当麻の的外れな言葉を一蹴しながら、眉間に軽いデコピンを喰らわせる。
デコピンを喰らった当麻は、痛そうに眉間を押さえる。
「こっちのほうがいたいよ……」
「馬鹿言うな。ここの火傷よりかはマシだろ」
「そりゃそうだけど……はぁ、ふこうだ」
さて、あとはここに湿布を貼って手当ては終わりだな。
「ちょっと待ってろ。すぐに飯の用意をするから」
「あ、てつだうよ」
「いいよ。当麻は少し休んでろ」
「だいじょうぶ。ぼく、体だけはじょうぶだから」
安心させるために頭を撫でて、少し微笑みながら言う。
「だからいいって。もしまた怪我でもしたら二度手間だよ。いいから休んでろ」
「むぅ」
不機嫌そうに頬を膨らませる当麻。
さっきまで話題が少しシリアスだったから、なんていうか、和むなぁ。
「……アイツさ」
「ん。なんだ、当麻」
米を研いで炊飯器のスイッチを入れる。そして、本格的に調理を開始しようと思ったところで当麻がなにかを言った。ほとんど聞き取れなかったが、言葉のニュアンスからして、誰かを指す言葉だと思う。
「ほら、きのう……ときょうぼくをなぐってきたやつのこと。きんぱつがいたでしょ」
「……あぁ、いたな。異様に目付き悪い奴」
そういえば、薄い金髪に、赤い目の三白眼が特徴的で、どうやったらあんなに悪人面になるんだろって、疑問を出るくらいの悪人面の少年が一人居た気がする。
「アイツ、ぼくのおさななじみなんだよ」
「幼馴染って、どういうことだ?」
「言葉どおりのいみだよ。学園都市の外ではいえがちかくてさ。よくいっしょにあそんでたの」
当麻は窓の外をなにかを振り返る見ながら言う。
「それで、よくあそんでたんだけどね。アイツ、なんでもできたんだよね。ようちえんのときからかん字とかできてたし……」
「それはすごいな」
まぁ、それは素直に感心ものだが、やはりそれは人を殴っていいなんて理由にはならない。当たり前のことだ。でもまぁ、その“当たり前”が機能していないからこそのこの状況とも言えるけれど……
「まぁ、自信があって、どうどうとしてるところはやっぱりすごいと思うんだけど、やっぱり四さいのときに変わったのかな……」
「変わったって、どういうことだ?」
聞きながら、汁物と副菜に使う具材を切る。
キャベツは千切り。これは水にさらしてシャキッ、とさせたらザルで水気を取る。
かいわれ大根は根本を切る。トマトはくし切り
干しワカメを水で柔らかくもどしてから絞る。長いものはざく切りに。
……いや、誰かさんに見えるのは、スルーしておこう。もしここで触れると、遠い未来のどこかでネタにされる気がする。
豚のロース肉は片面のスジは、1~2cmの感覚で切り、両面に薄く小麦粉をまぶす。
そしてここで、さっきの言葉の続きが始まる。
「四さいのとき、手から火花がちったの」
「ん。つまり、どういうことだ?」
悪い当麻、俺にはお前が言っている意味がよく分からない。
「学園都市って、ちょうのうりょくしゃをつくることもできるけど、そういうかんきょうがそろってるなら、しぜんにできるのうりょくもあるみたいなんだ」
「そいつがそうだっていうのか?」
「うん。学園都市では『原石』って言われてるみたい。いみはわからないけど……」
『原石』。
まぁ、自然に力を身に付けた、天然の能力者って意味ならかなり的確ではあると思う。
「それで、ボクはふこうをなおせるかもしれないからここに、アイツは力のつかいかたみたいなものを学ぶためにここに来たの」
成る程な。
なんで当麻が学園都市みたいなところに来たのかは少し疑問だったけど、そういう理由か。確かにここなら、『不幸』とか、それこそ『魔術』なんかの非科学的なものも、科学的に理論をつけられそうな気もする。
まぁ、見たところ成果は……
「まぁ、おたがいにせいかはないけどね」
うん。分かってた。
当麻もこんな傷を負っているということは、不幸は改善されていないようだし、その幼馴染の子も、躊躇いなくその力で他者を傷つけている。
「……でも、だったら今日当麻が殴られたのは、俺のせいかもな」
「え、なんで?」
「だって、昨日のことで目を付けられたんだろ。聞いた印象だとソイツかなりプライド高いみたいだし、だから俺のせいかなって」
昨日は俺が介入したので、当麻はこれ以上怪我をしなくて済んだが、その事が逆に幼馴染の少年のプライドを刺激してしまったのかもしれない。
それで今日も当麻は殴られてしまったことの原因になっているかもしれないのだ。
仮にそうだとしたら、俺がやったことは結局、事態の先伸ばしにしかなっていない。俺は余計なこしかやっていない。俺のやったことは無駄だったいうことになる。
そんなことはないと信じたいが、それでもそうなのかもしれないと頭の中によぎってしまったら、考えてしまう。
俺のしていることは、やはり───────
「そんなことないよ。でも、しろうにいちゃんがいてもいなくてもなぐられてたよ。それがきょうかきのうかのちがいだったってだけで」
「ハハ。お前って、時々ズバッと言ってくれるよな」
「そ、そうかな。おかあさんから、デリカシーがないってよく言われるけど……」
「でも、俺はそこまで言ってくれると気持ちがいいけどな」
とは言っても、出会って早々、人の彼女のことを『うっかりさん』と言われたときは度肝を抜かれたけどな。まぁ、当たってるだけに言い返せないが。
でもそういえば、当麻に遠坂のことを『彼女』とは言ってないな。当麻は、遠坂のことを“しろうにいちゃんを学園都市に行くように頼んだ人”としてしか認識してないだろう。多分そうだから、尚更言いにくい。
そんなところで、調理も進み生姜をすりおろす。
ここまで来れば、俺がなにを作っているかはおおよそ把握していると思うし、今更なところはあるが、話題転換の意図も込めて、今日の献立についての説明させて貰おう。
まず主菜は豚の生姜焼き。がっつり2日続けて肉というのも、無理があると思うが、育ち盛りの小学生。それに、例の『不幸』で人より体力の消費が早いと思うので、疲労回復に良いって言われてる豚肉を選んだのは、結果的には正解だったかな。
副菜はさっき切ったキャベツなんかを添えるかたちで。
汁物は卵とワカメの中華風スープ。この前、中華が得意な遠坂に教わったメニュー初お目見えだ。
よし、そろそろ肉を焼くか。
フライパンを弱い中火で温め、油を敷いて、肉を重ならないように両面を焼く。火が通ったら肉を取り出し、そこに生姜、醤油、酒、みりんを入れ、同じように中火(今度は少し強く)で、トロミが少し出る程度煮詰め、先程すりおろした生姜を加え混ぜたら、取り出した肉をすべて戻し、強火でタレを手早く絡め火を止める。
「いいにおい。しろうにいちゃん、きょうのゆうはんは?」
さっきまでの不機嫌さが嘘のように、ワクワクという擬音を張り付けたような顔で、当麻は聞いてきた。
「豚の生姜焼き、あとは汁物を作るだけだから少し待っていてくれ」
一応昆布でとっただし汁に、粉末チキンスープの素、酒、みりん、薄口醤油、塩、片栗粉を加える。
トロミがついて煮立ってきたら、溶いた卵を加え、菜箸で円を描くように混ぜる。卵がふんわりしてきたら、ワカメを加え、ワカメが温まったら万能ネギを散らして完成。
そのまま手際よく盛り付ける。
「当麻、出来たぞ。運ぶの手伝ってくれ」
「うん。分かった」
俺の頼みを聞いた当麻は、嬉しそうに走ってこちらに駆けつけてきた。
手伝わせてくれなかったら膨れて、手伝わせてくれると喜ぶというのは、意外と珍しいのではないだろうか。普通の男の子だったら嫌がるようなものだが。
「走るなよ。また転んだら大変だぞ」
「今度は大丈夫だよ」
やはり嬉しそうに皿を運んでいく当麻。
くそ。また和む。というか、ホッコリする。自然と笑みがこぼれるな。胸の中で暖かいものが広がっていく。
こんなもの、俺は持ってちゃいけないはずなのに……
──でもまぁいまはいいか。別に悪い気分じゃないしな。
そのまま、俺も盛り付けた皿を食卓へ運ぶ。
あと数日しか囲むことの出来ない、食卓へ────