だから、こっちでなきゃ書けないことを二つをば。
最後の方は凄く雑になっております。だから、たぶん訂正入るかも。
もう一つ。タイトルの意味は士郎と白土さんのどちらも自分の勝利条件を達成できなかったからです。
お互いに秘策を用意していたことは分かっていた。
でも、敗北寸前まで追い詰められて策の用意が終わるというところまで同じなのは素直に驚いた。
俺は敗北寸前まで追い詰められて、ようやく策の用意が済んだのだが。
白土さんの場合、追い詰められることすら策に含めていたのだろう。
少しずつ、少しずつ。
俺が気付けない程微量の魔力で何度も、地面を持ち上げながら待っていたのだろう。
そのときが来るまで────。
そのとき、俺が勝ちを確信して気を緩める瞬間に、残っていた魔力を全て使い、一気にここまで隆起させて俺を攻撃した。
完全に意識外からの、俺にとっては不可避の奇襲だった。
おかげで視界も呼吸も覚束ない。
途切れそうな意識を意地で繋ぎ止めているような状態だ。
「でもそのおかげで……」
掴みかけていた最後のピースを手を入れてた。
ずっと、剣から目を離さなかった。
剣が交わる度に構造に手を伸ばした。
俺が追い詰められる寸前、剣に大量の魔力が流された瞬間に、その剣の全てを掴んだ。
構造も、用途も、それを扱うのに必要な要素を全て。
そして今、白土さんの目の前で、白土さんの筋力ごと大剣を投影した。
「意表は突けたかよ」
白土さんの驚愕の表情を見て、こちらの秘策も成功したことを確信する。
しかし、拮抗したのは一瞬だけ。
すぐに剣には亀裂が走り、砕け散る。
当然だ。
贋作。出来合い。
そんな粗悪品が、数多の戦いを潜り抜けた真作と張り合える要素などは1つもない。
砕け散り、霧散する大剣に構うことなく振り抜く。
分かりきっていたことに構っている暇などない。
すぐに夫婦剣を投影して、続く二太刀目を斬り返す。
白土さんは、すんでのところでそれを回避して全力で後ろに跳躍した。
「お前……どういうことだ」
夫婦剣で構える俺に、白土さんは問いかける。
白土さんの目と言葉には、強い警戒の色があった。
突然目の前の敵が自分の得物が使っているのだ。
驚き、警戒するのが道理だ。
「ありゃ間違いなく……」
「そんな筈はないよ」
────ありゃ間違いなく俺の剣だ
恐らくはそう言おうとしたであろう白土さんの言葉を遮って答える。
「そんなに自分の低く見積もらないでくれ。アンタの剣は、決してあんな粗悪品の贋作なんかじゃない」
続けた言葉は偽りのない本心だ。
白土さんの剣には、数多くの研鑽があった。
銘などはないが、その研鑽と輝きは、あの男を通して見た名剣達にも劣るものじゃない。
未熟者の俺が、即興で、形だけ取り繕ったハリボテなどとは決して比べられる筈はない。
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だよ。俺が見せたのは贋作だ」
「贋作……っ。お前、そいつはまさか……だとして、んなことがあり得るのかよ」
俺の魔術についてなにか理解したみたいだけど、俺はアンタみたく優しくないし、一々細かく教えていられる余裕はない。
せっかく状況がこちらに傾きつつあるのに、この流れを手放してたまるか。
「なにを言ってるのかはよく分からないから、ご想像にお任せするよ」
「……お前、よく今日まで生きてこられたな」
俺の投影について、どこまで掴んだのかは分からないけど、異質なものであることは見抜いたようだ。
そういえば、聖杯戦争が終わってから最初に遠坂に釘を刺されたんだよな。
真っ当な魔術師に、投影を見られればどんなに良くてホルマリン漬けにされるって。
その事実に戦慄している俺に、遠坂は続けて言ってくれた。
これから使いこなせるようにはさするけど、使いどころは考えるように、出来ることなら一生使うなと。
きっと切嗣もそうなることを危惧して、俺に魔術を教えることを渋っていたんだろう。
そういう意味じゃ、良い師と良い父に巡り会えた俺は運が恵まれたんだろう。
「いや、運じゃなくて縁に恵まれたんだよな」
些細な違いだが、履き違えてはならないところだ。
そのことを忘れない為に、言い聞かせるように言霊にして吐き出す。
「そうかい……そいつは良かったな」
「ごめん。独り言だから、答えなくていいよ」
「じゃあ、俺の答えも独り言だ」
言いながら、白土はもう一度構える。
狙いはさっきと変わらない。
俺の一撃に合わせたカウンター。
「さて、どうする……」
相手がカウンターを画策している以上、無闇に突っ込むのは得策とは言えない。
かといって狙撃しようにも、まだ砂埃が晴れていない。
当たらないということはないだろうが、そうすれば白土さんはカウンターの選択肢は一旦保留にして回避に徹するだろう。
それを利用して、こっちも時間稼ぎに徹して消耗戦に持ち込む選択肢は一見最善に見える。
しかし万が一、白土さんに万が一道連れなどの手段があるなら、その使用を決断させる後押しになるかもしれない。
今挙げた3つは白土さんは通用しない。
しかし、全てまったく使い物にならない訳でもない。
「とくれば!」
右の剣を逆手に回して振りかぶる。
「ハッ、そう簡単に思いどおりにはならねぇなぁ!!」
投げられた剣を弾きながら、白土が吠える。
もうそろそろ聞き飽きた咆哮に構うことなく、すぐさま新しい陽剣を投影して袈裟に斬りかかる。
1つの矢が届かないなら、複数の矢を絶え間なく。
時として中途半端が一番役に立つ。
右の剣が斬り返された大剣と激突し、続けて左の剣を加え、斬撃は拮抗した。
「ここまでしても互角が精一杯かよ!?」
大剣、というより腕の可動域に関係する背中。
踏み込みに必要な左の太もも、右脚。
膂力の半分を担う左腕。
一つ一つが白土佐薙の動きを少しずつ削いで、確実に追い詰めている筈なのに。
やっと。
それで互角なんだ。
でも、だからこそ、ようやく勝算がまともな輪郭を帯びてきた。
「……お前っ!?」
余力など残すな。
次を考えるな。
それが許される相手じゃない。
持てる力の全てを乗せて、白土さんを上回れ───!!
「お互い捨て身だな!!」
「まさか、俺はただ全力なだけだ」
捨て身なもんか。
勝機が見えたから、あとは突き進むだけだ。
全ての一太刀を、これで決着を着ける覚悟で放つ。
そう踏み切れる程、俺が得た光明は眩い。
「ただ驚かせる為に、アンタの剣を見せた訳じゃない……」
俺の秘策は先程の大剣の投影で終わった訳ではない。
アレは欲しかったものを手に入れたが故にもたらされた副産物。
とはいえ、手札になったのなら有効活用するまで。
きっと白土さんは、俺の剣を予めどこかに閉まっておいたものを引き出していたもので、俺の魔術もそういうものだと思っていた筈だ。
それがさっきので、単に剣を引き出すだけだと思われていた魔術が、出来の悪い粗悪品でも自分の得物を作り出した魔術に認識が変わる。
一気に俺は得体の知れない奴になった筈だ。
「分からないものは怖いよな白土さん」
「あぁ。今マジに冷や汗かいてるよ」
俺もそうだった。
聖杯戦争に巻き込まれたあの夜に、赤と青の英霊の戦いに俺は恐怖した。
なにが起こっているか分からなかったから。
そんなものを見た人間の反応はシンプルだ。
恐怖する。逃げる。
分からないないもの。
即ち危険。
危険ならば近付くな。
それは、生物ならば持っていて当然の生存本能。
「まぁ、最後まで上手くいくものでもないか……」
けれど、恐怖で身体が凍るのは普通の人間だけだ。
戦場で生きるうえで、まず最初に克服しなければならないもの。
戦歴が多くあるであろう白土さんは、恐怖を捩じ伏せることが出来る人だということは分かっている。
だけど、僅かに生まれる躊躇いが動きを遅らせる。
「……ぐっ」
白土さんが呻き声とともに後退する。
まともな踏み込みも出来ない白土さんならば、遠慮なく鍔迫り合いに持ち込める。
当然ながら、それが俺が白土さんの力に勝れる理由にはならない。
先程も言った通り、白土さんの負傷でやっと互角。
痛みで鈍った動き。
恐怖が生む僅かな躊躇い。
俺が競り勝つ為にはさらにあともう一押し。
「おわっ!?」
白土さんが俺の力に負けまいと、傷を負った身体に鞭打って力を込めたタイミングで夫婦剣を引き、残さなかった余力をかき集めて後ろへ跳ぶ。
込めた力は標的を失う。
その結果、大剣はコンクリートを砕き、体勢が砕く。
自身を窮地に追いやった動作にゾッとしながら、もう一度白土さんの懐へ飛び込む。
「ハァッ!!」
首筋を狙って右の剣を斬り上げる。
白土さんは地面に突き刺さった大剣から片手を離して、身体を逸らせて躱す。
すかさず左の剣で大剣を掴み、右腕を斬りつける。
致命の一撃を囮にする。
このビルに入る前、弓でやってみせた手だ。
「くそっ」
さらに負傷を重ねた白土さんは左半身を逸らしたせいで体勢を崩す。
追撃に移りたいが、まだ決めきれないだろう。
後ろに跳んで距離をとる。
「……なんだよ。随分と慎重なんだなオイ」
「あぁ。これ以上細い綱は渡れないだろ」
全ての一撃を決着を着ける覚悟で放つ。
逆を言えば、決めきれないと判断したなら無茶はしない。
現状でも十分細い綱を渡っている自覚はあるが、これ以上細くなれば飛び乗った時点で引きちぎれるだろう。
今するべきなのは、手元にある細い綱を束ねて太く強くすることだから。
「でも、息つく暇は与えないっ!!」
「休憩なんざ、てめぇをぶっ倒していくらでもしてやるよぉ!!」
俺は言葉とともに駆け出し、男の雄叫びが終わる頃にはその懐に飛び込んでいた。
右の剣で水平に振るう。
広い胴を狙った一撃。
対する白土さんは大剣を地面に突き刺し、刀身を横にして受け止めた。
これも大剣の強みだ。
その広い刀身は攻撃にも防御にも一定の効果を発揮する。
「おらよ!!」
大剣を力一杯に引き抜いて、次の攻撃に転ずる。
このまま振り下ろすつもりだろう。
恐らくこれで決める気はない。
狙いは胴というより脚か。
まずは俺の機動力を削ぐつもりだ。
こちらが手負いになったなら、あちらの手負いにしなければ勝負は成立しないから。
「なら……くれてやるよ」
無造作に右足を差し出す。
白土は一瞬止まるが、それだけではもう止まらない。
狙っていた獲物が、狙っていた部位を差し出したんだ。もう止められる訳はない。
大剣は俺に向かって振り下ろされる───────。
「なっ!?」
だが、白土さんの一太刀が俺に届くことはなかった。
代わりに差し出した右足になにかがぶつかる感触と、大剣が何度目かの地面を砕く音が届く。
狙っていたものとはいえ、ここまで耳障りな音だとは思わなかった。
そんなことに気を回せる余裕がなかったから、今まで気にならなかったみたいだ。
痛みのせいか、勝利が近づいているお陰か。
さっきより視界が開けてきた。
「どうしたんだよ。せっかく狙いやすくしたのにな!!」
「ガッ!?」
白土さんが剣をまた引き抜く一瞬の隙。
左の剣で、右の手首を斬る。
大男は痛みに顔を歪めるが、それをすぐに激情で打ち消して大剣を俺目掛けて斬り上げる。
身を捻って回避し、そのまま後ろに跳ぶ。
「くそっ。ちょこまかと」
白土さんの文句には答えない。
「俺の魔術は投影だ。そして武具を投影するとき、その使い手の技量まで再現する」
これが白土さんの剣を投影したかった理由にして、そのなかで最優先で欲しかった情報。
憑依経験の共感。
俺の投影魔術は、その武具の使い手がなにを重ね、なにを得たかさえも解析し
だから、初めて投影した武具もある程度は使いこなすことが出来る。
「なんの話だよ?」
「それはこれから話すさ。なぁ、知ってたか?」
技量まで解析する。
基本的な体捌きから、僅かな癖まで。そのほとんど全てを把握できる。
そう、例えば──────。
「アンタは唐竹に振るとき、必ず左足で踏み込むんだ」
「っ!?」
唐竹割りはあらゆる斬撃の基礎であり、一番威力のある斬撃。
加えて白土さんの獲物は大剣だ。
白土さんの膂力も加えて放たれる唐竹は、脅威以外のなんでもない。
基礎であるがゆえに対策はしやすい。
高い威力をもたらす為に、強く踏み込まなくてはならないことだ。それはまともな踏み込みが出来なくなったであろう現状でも変わらない。
どんなに不完全でも踏み込みがなくては斬撃は成立しない。
故に、その踏み込みさえ封じてしまえば、斬撃というものは簡単に逸れてくれる。
「てめぇ……性格悪いな」
全て理解したであろう白土さんは苦笑いで言う。
しかし、性格が悪いか。
まぁ、戦い方を選り好みしていられる余裕がないだけなんだが、性格が悪いと言われればそうかもしれない。
そこまで考えたところで、あの赤い弓兵の姿が浮かぶ。
「……これから悪くなるみたいだよ」
「は?」
「いつか追い付く未来だよっ!!」
三度。突撃。
「ハァ!!」
「ぐっ……」
今まで以上の渾身の一撃。
激突の火花が散る。
俺の夫婦剣を通じて、白土さんの大剣の力が腕に伝わって腕が痺れる。今まで以上に捨て身になっている。
種明かしをしたからか、もう躊躇はなくなっている。
恐怖とは完全に区切りをつけたみたいだ。
このまま鍔競り合いに持ち込んで、癖などの駆け引きが入る余地のない力に勝負をするつもりだ。
「させるか!?」
もとから膂力に差がありすぎて、それを負傷と躊躇いで互角に持ち込んでいた。
捨て身の白土さんに勝てる保証はどこにもない。
敵の思惑に付き合う気はない。むしろ俺の策に最後まで付いてきて貰う。
「成程な……確かに今の俺は性格悪いよ」
自嘲気味に吐き捨てる。
性格悪いなら、とことんまで意地汚く振る舞ってやる
夫婦剣を滑らせ、白土さんの斬撃をいなす。さらに白土さんが振り抜くタイミングで目一杯に後ろに跳躍。
そのあとも夫婦剣を投げ、白土さんの動きを止めながら後ろに下がる。
「今だっ……!!」
十分に距離が稼げたところで、直剣と弓を投影する。
「
「─────っ!」
剣が矢へと変え、弓を引いて狙いを定める俺を白土さんは最大限警戒する。
けどもう遅い。
「これで、終わりだ……」
「ハッ、しゃらくせぇ!!」
まともに動けない白土さんは、俺がどんな
そして、これは──────────。
「
───────当たれば勝ちの、必殺の一矢。
白土さんの大剣が矢を叩き墜とそうと横一文字に薙ぎ払われ、矢に触れた瞬間。
その矢の中に秘められた莫大な力が一気に解放される。
ゴォォォオオオオン、と轟音が鼓膜とその奥にある三半規管を揺らし、同時に閃光と衝撃が広がる。
「ハァ……ハァ……ハァ」
閃光で目が眩み、轟音で身体が揺れ、止めに衝撃。
白土さん程ではないが、ただでさえあちこちガタがキテる身体にこれは堪える。
加えて、先程の一撃。
勝利を確信したうえで放ったものだ。
魔力の詰まった宝具を、文字通り爆弾にして破裂させる技能。
これ自体は下で白土さんを撒くときに使った。恐らく白土さんも警戒していただろう。
けれど、三度の突撃とそのとき受けた負傷で白土さんの意識は近接の方へと傾いた。カウンターを画策していたのもあって、それは決定的なものだった筈だ。
そこに来て、急に飛んできた矢だ。
反応も遅れ、もうまともに走ることすら出来ない白土さんは迎撃しかとる道がない。
けど飛んできた矢は爆弾。
俺にはこれ以上望めないほどに磐石のタイミングだった。
「思い返せば、なんて脆い策だったんだろうな」
全力で戦って、全力を引き出して、そのうえで自分が届かないことに賭ける。
白土さんの最後の意地と同じで、こっちも策と呼ぶにはあまりに相手に依存していた。成功したのは、紛れもない奇跡だ。
とはいえ、勝ちはまだ確定していない。
「これで倒れてないのはさすがに考えたくないけど……」
至近距離でモロに炸裂させた。
勿論、狙いは白土さんそのものではない。その獲物だ。
白土さんの大剣は、そのうちに秘められたルーン魔術も含めて厄介すぎるほどに厄介だった。
裏を返せば、大剣さえ破壊すれば、残るのは重体の身体のみ。
それに、いくら大剣が盾になったとしても、あの爆発をほぼ0距離を受けて少ない怪我でいられる筈はない。
順当に考えれば、その筈だ。
「けど、これは想定外だ」
爆発が砂塵を巻き上げたのか。
砂煙に隠れて矢が爆発した位置が見えない。
これでは、本当に白土さんが倒れてくれたかだって確認できない。
残りの魔力も少ない。
もし今の一撃で倒れていなければ、いよいよ八方塞がりだ。
これ以上のことをするなら、魔術刻印を使って遠坂の魔力まで使わなきゃならなくなる。
出来るなら遠坂の許可をとってから使いたいし、それだって長くはもたない。
「
今は、自分に出来る最善を。
弓を捨て、ある直剣を投影する。
シャルルマーニュ伝説の英雄ローランが用いた剣。その原典を投影したものだ。
所有者の魔力が尽きようと切れ味が落ちない。
魔力が尽きかけている現状にはうってつけの宝具だ。
俺が剣を構えると同時に、爆発した一帯を覆った砂煙が晴れる───────。
「……射程の差か」
そう俺に問いかけるのは、剣は折れ、身体のあらゆる箇所から血を流し、それでも殺気と闘志を宿した眼でこちらを睨む白土さんだった。
「……武器は破壊した。これで終わりだよ、白土さん」
怯まず事実を突きつける。
魔力は尽き、身体は瀕死。心が折れていなくたって、相手も折れないのならそれも意味を為さない。
もう白土さんに戦う術は残されていない。
だというのに……。
「意外と甘ぇんだな坊主。これは戦いじゃねぇ、殺し合いだぜ……」
「っ!?」
目の前の男が、それでも向かってくることがわかっていたから……辛くなる。
「止めてくれ、もう戦えるような状態じゃないだろ!!」
死を待つだけの身体を引き摺って、折れた剣を振り回す。
こっちもこっちで重体だが、歩くより遅い速さで、棒を振るより鈍い一太刀。そんなものを避けるのなんて造作もない。
もう折れたっていい。
そのほうがずっと楽だ。
分かっている筈だ。もう戦線に復帰できない白土さんを、俺が殺す気がないことくらい。
白土さんが気絶したあとでなら、未熟な俺でも基本的な暗示くらいはかけられる。
今日戦ったのが俺ではないと暗示をかけるだけで、俺の痕跡は消え失せる。
元々そのつもりだった。得体の知れない敵が仲間を打ち負かしたんだ。少しは牽制になる。
「それがどうした。剣が折れりゃ拳で、拳が折れれば骨で、骨が折れりゃ命で、敵の命を奪う。それが殺し合いだろうが」
「そんなの意地だろ、意地の為に死ぬつもりか?!」
否定しきれない心意気を、無理矢理否定する。
だってそれは、自身の否定だ。かつて意地だけで未来を打ち負かした自身の、あのときの選択に泥を塗るようなものだ。
けれど、あのときと今は違う。
俺は折れない。勝利を目前にして、白土さんを気遣う余裕さえ生まれている。
そんなヤツに意地を通したところで、虚しいだけだ。
「じゃあ意地も折れってか、こいつは意地の張り合いだったろうが、この期に及んで怖じ気づいてんじゃねぇぞ!!」
「だけど!?」
「優しいのは美徳だがな。今のお前は甘いだけだぞ」
分かっている。
その通りだ。今回ばかりは白土さんが正しい。
俺は自分で手を下すことになって怯えているだけだ。
それでも、甘えを捨てないと捨てないと決めている。捨てないように頑張ると己が理想と未来に二度誓った。
そして、無情にも白土さんの意地は通らない。
通されるのはいつだって勝った人間の道理だ。
「勝ったのは俺だ、勝った俺が負けたアンタをどうしようが自由の筈だ!?」
「勝ったなら勝ったなりのけじめをつけろ!!」
冒涜だと言っている。
俺の甘えは、死力を尽くした自分への侮辱だと。
「それにてめぇ、自分に出来ないことを他人にしろって言うのかい?」
続く言葉に眼を見開く。
知っている。
折れないと知っている。
止まれないことを知っている。
俺がそうだから。これは、互いに譲れないものを賭けた戦いであったのだから。
依然として、白土さんは俺に迫る。言葉と身体の両方で。
だとすれば、俺の答えは─────────。
「ハァ……」
眼を閉じるだけの猶予はあった。
息と心を整えるだけの余裕はあった。
覚悟を決めるだけの時間は……あった。
「これで、終わりだ……」
剣を構える。
向かってくる姿に、記憶のなかの英雄達が重なる。
その神速に圧倒されたことを覚えている。
だから、虚しいだけだとしても、止まれないと向かってくるその姿に向かって叫ぶ。
「遅い!!」
白土さんの胴に会心の一撃を叩き込んだ。
ハハッ、と乾いた笑いを残して、男は倒れる。
─────こうして、勝者のいない戦いは終わった。