Fate/Day light   作:ラビット晴晞

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ハイ。タイトルも新たに変わり心機一転頑張っていきたい所存です!!

まぁ、ハイ。
リメイクは済みました。
つーか、リメイク(上書き)ってより、リライト(書き換え)に近いです。
って訳で、プロローグと1話は丸々差し替え。
あとは時系列の変更に合わせて時間の表記を見つけられた限りそれに沿うように変えました。
あと要らないなと思ったDay1-3は削除しました。
いるかは分からないですが好きだった方はすみません。
それで変更点ですが、タイトルと時系列だけです。
春休みにしました。ただそれだけです。
なんで、別に差し替えたプロローグや1話は別に読まなくてもちっとも変わりません。でも、多分出来は差し替えたあとのほうがいいから読んでくれると嬉しい。
って訳で、長かった3日目が終わって、次は4日目です。
最初からブッコみますがよろしくです


Day4-1 病院/思わぬ再会

 壁も床も白一色の世界。

 そこで俺は頭を抱えながら、自販機で買ったお茶を喉に流し込み、項垂れる。

 

「収穫なしか……」

 

 護衛の指令を受け、学園都市に来て3日目。

 俺は昨日、小萌さんに頼み込んで貰った情報を頼りに病院を訪れていた。

 無論、当麻を狙う魔術結社の特徴を探る為だ。

 このところ学園都市では、武装無能力集団(スキルアウト)と呼ばれるチンピラ集団が襲撃される事件が相次いでいる。

 俺はそれが魔術結社の仕業ではないかと考えた訳だ。

 もしかすればいい収穫がとれるかもしれない、と。

 そこで以前知り合った教育実習生の小萌さんを頼り、被害者の名前と入院している病院を教えて貰い、花を買って見舞いついでに情報収集をしようと試みた。

 実際、事件が魔術結社によるものであることは昨日確証がとれている。

 なにか有益な情報が得られると意気込んでみたはいいんだが……。

 

「まぁ当たり前と言えば当たり前か」

 

 結論から言えば、結果は芳しいものではなかった。

 受付で病室の番号を聞き、その近くまでやってきたところで気付いた。

 病室の前に数人の大人達が立っていた。

 年の頃はバラバラだが、全員服装は紺色で統一されていて、Yシャツと、ソレより少し濃く袖のない紺のジャケットを上に着ている。

 そして、その出で立ちには見覚えがあった。

 昨日チンピラとやりあっていた教師達だ。

 確か警備員(アンチスキル)ってヤツだったよな。

 学園都市のガイドパンフレット曰く、学園都市の治安維持を目的に、教師達が志願してなるボランティアのようなものらしい。

 要は外での警察に相当する組織で、あの服はその制服のようなものなんだろう。

 病室の前で立っていた理由は、おそらく俺と同じ。

 いや、もっとしっかりとした事情聴取が目的だろう。

 当然だ。

 ここが学園都市である以上、治安維持機構の彼らが動くのは明白である。

 本来この件は彼らの管轄で、俺は部外者なのだ。

 しかし、こちらとしてはまずい事態になった。

 これでは、とてもじゃないが病室には入れない。

 正式な組織に出てこられたとあっては、もう俺にはどうすることもない。

 見舞いだと言っても、俺と被害者達は他人。被害者の人達が俺を知らないと言えば、面会すら許可して貰えないだろう。

 しょうがなく踵を返した俺は、こうして待合室で緑色の席を1つ占領して骨折り損を嘆いている訳だ。

 

「こんなことなら、遠坂に脳から情報を抜き出せるような魔術教わっておくべきだったかな」

 

 徒労に対してちょっとした後悔を吐く。

 早い話が情報を引き出す魔術とかあったら良かった。

 そんな器用な魔術は今の俺には扱えないかもしれない。だか、もし習得できていたら、あの人から。

 

「……ハァ」

 

 そこまで考えて、また別の意味で後悔する。

 こんな発想をしてしまう自分が恥ずかしくなった。

 あの人から情報を抜き出すなんて、これ程名誉を傷つけることがあるだろうか。

 白土佐薙。

 昨日相対した当麻を狙う魔術結社の一員。

 気持ちの良い人で、敵ながら尊敬できる人だった。出会う場所と状況が違っていたら、もっとゆっくり話してみたいと思える程に。

 そして、得難い強敵だった。

 彼との戦いに勝利して、俺はこの場に立っている。

 いま思い返してみても、どちらが勝ってもおかしくない……いや、白土さんのほうが勝つ可能性の高い勝負だったろう。

 針の穴に糸を通すように、手のひらに収まる小さな勝機をいくつも重ね、それら全てが噛み合って奇跡のような勝利だった。

 

「殺さなかったの……やっぱり怒ってるかな」

 

 ……結局、俺は白土さんを殺さなかった。

 致命傷を負わせたが、あのあと止血はしたし救急車も呼んだ。白土さん自身の驚異的な生命力と学園都市の最先端の医療なら、きっと助かると信じて。

 あれだけ覚悟の無さを責められて。

 けれど、殺す必要を感じなかった。

 誰がどう見ても重傷だ。俺が最後の一撃を喰らわせなければ、いずれは出血多量で死は免れなかった。

 いくら助かったとて戦線に復帰できる身体ではない。

 暗示の魔術も施した。

 さすがに俺の痕跡全部とまではいかないまでも、あの戦いの記憶は消え去っているはずだ。

 得体の知れないヤツが自分達の仲間を倒した。

 そっちの事実のほうがいい牽制になると判断した。

 なら怒っている訳ないか。そもそも俺との戦いなんて覚えてないんだから。

 

「いや、そんなものは後付けだ」

 

 本当は、単にあの人を殺したくなかっただけだ。

 でも、それでいいと思う。

 どんなことがあろうと理想を捨てないと誓った。

 白土さんには甘いだと吐き捨てられたが、そんな甘さを手放さないと決めている。

 答えは既に出した。

 今更揺らぐものではない。迷う余地はない。

 

「よし!!。迷っていたってしょうがない……切り換えよう!!」

 

 敵の特徴を知っておきたかったというのが本音だけど、失敗したことをうじうじ気に病んでは後の事にまで支障をきたす。

 ミスは忘れ、ミスの原因だけ覚えておく。

 仕事ができる人間はそうするらしい。

 俺もそうしていこう。

 今は出来ることを全力で、だ。

 幸い、仲間が一人やられてる。そのうえ、白土さんを倒した俺の特徴は分かっていない。他に仲間がいるのかどうかすらも。

 すぐに仕掛けてくることはおそらくないだろう。

 

「とはいえ、目下どうするかな……」

 

 当麻の護衛が任務である以上、当麻のある程度近くには居ないといけない。

 かといって、当麻と片時も離れずにいることは不可能に近い。当麻は俺が護衛であることを知らないし、小学生を見に行く為に第13学区に行こうものなら、それこそいい職質の的だ。

 そうやっているうちに、向こうが仕掛けて日には笑いものにすらならない。

 だからこそ、俺は刺客を排除する方向で動いてる。

 

「せめてもう一人くらい人手が居ればな」

 

 遠坂に応援を頼んでみるか────?。

 駄目だ。

 手続きして、派遣できる人間を探して、また手続きして、実際来るのはいつ頃だ。

 既に事が済んだあとかもしれない。

 白土さんと一戦やった時点で、俺が一人で最後までやらなきゃならないことは決まってしまった。

 

「あっ」

 

 そうこうして考えてるうちに、冷たいお茶を飲み干してしまった。

 飲みきれずに持て余すよりかはいいが、ここまでガブガブ飲んでいると、今の自分にどれだけ余裕がないかを思い知る。

 ここに来てから、狙ったことが上手く行った試しがない。病院の件もそうだが、白土さんのときも彼の潔白を願った結果がアレだ。

 当麻と出会えるなど、思わぬ幸運もある為に素直に嘆く気にもなれない。

 

「……宿に戻って情報の整理だな」

 

 いかんいかん────さっき切り換えると決めたばかりではないか。

 そもそもここは病院だ。病人の為の施設だし、至って健康……とは言えないものの、目立った外傷は……ないこともないが、誤魔化せるぐらいに治っている俺が長居していい場所ではない。

 まぁ、昨日は白土さんに手酷くやられたので、応急処置をしたあとも寝るまで苦労した。

 幸い。自分に解析を掛けた結果、ほとんどが軽い打撲で済んで良かったが。

 そんな俺にやれることといえば帰って遠坂に現状を伝えて知恵を借りる他ない。

 今が春休みで良かった。

 ちなみに遠坂には、ホテルに帰ってからすぐに電話を掛けて現状を説明している。魔術刻印通して繋がっている遠坂にも俺の異変は伝わったらしく、そりゃもう大目玉だ。

 幸運なことに、痛みと眠気に負け、すぐに眠りについたことで被害は微々たるもので済んだんだが……うん、後が怖い。

 そうと決まれば行動だ。席から立ち上がり、ゴミ箱にコロンと空のペットボトルを放り込んで病院から去る。

 

「くそ。上の段に届かねぇな……」

 

 その途中。

 隣から声がした。

 そこには自販機がある。もしかすると車椅子とかに座っていて上の段に届かないのかもしれない。

 少し荒っぽい色でよく通る声だ。本人にその気はないのだろうが、嫌でも注目を集めている。

 野次馬根性ではないが、俺もチラッと視線をやる。

 

「え?」

 

「あ?」

 

 そこには見慣れた大男が居た。

 

「おぉ坊主じゃねぇか!!」

 

「し、白土さん?!」

 

 思わず飛び退く。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………   

 え!?。白土さん!?。なんで!?。なんでここに居る?。居るんですか!?

 そっか。ここが病院だからですか。

 怪我してますもんね──────ってアホか!?。

 俺が白土に瀕死の重症を与えてこんなところに追いやったんだろうが!!。

 でもなんで!!。なんでこの病院!?。なんだってこんなところで鉢合わせ!?。

 

「ん。なんでぇその花……ひょっとして俺の見舞いかい!?」

 

「あ~、えっとぉ……」

 

 危ない危ない。

 白土さんのおかげで目が覚めた。

 止めどなく疑問が溢れて脳が塗りつぶされる感覚から解放された。

 ありがとうございます……敵だけど。

 そうだよ、クールになれ。冷静に物事を整理するんだ。

 俺は白土さんを倒したあとに暗示を掛けて、戦闘の顛末は丸ごと記憶の闇の彼方だ。

 つまり白土さんにとって今の俺は、昨日の朝に意気投合した旅行者という認識の筈。

 本音を隠して平静を装えば、ここは上手くやり過ごせるだろう。

 

「んな訳ねぇか。俺が入院してることなんて知る訳ねぇわな坊主」

 

「えぇまぁ、でもニュースになってましたよ。まさか白土さんとは思わなかったけど……」

 

「待ちな坊主。ニュースじゃ旅行者としか言ってなかっただろうが、なんで俺が通り魔事件の被害者だと分かったんだ」

 

「いや、別件で複数人出てたらそれこそ別々に取り上げられますって」

 

「あぁ、それもそうか」

 

 これは本当の話だ。

 今朝……といっても、眠りに入るのが遅かったせいで起きるのも遅くなり、正確には9時頃の話だ。

 その時間やっていたニュース番組では早速、昨日の件が取り上げられていた。

 ついに通り魔が旅行者にも牙を向いた。

 という見出しのもと、新たな犯人像みたいものを討論していた。

 その旅行者が通り魔事件の犯人グループの一人なのを知る俺は何とも言えない気持ちになった。具体的に言うと少しだけ笑いをこらえる羽目になった。

 只今。絶賛筋肉痛だ。今の俺は笑ったら腹筋にクるわけである。

 

「で、実際は誰の見舞いなんだ?」

 

「……学園都市の知り合いです。この街にいる間、ソイツの寮に泊めてもらってて、ソイツが通り魔事件の被害にあったっていうので。

 警備員(アンチスキル)の人にすげなく返されましたけどね……」

 

 こっちはウソだ。

 とはいえ、全てがウソという訳ではない。

 実際に当麻の家に泊めて貰っていたし、見舞いという目的も、それが叶わなかったというのもまた事実だ。

 少しだけ事実を混ぜるのが、効果的なウソのつき方だと切嗣が言っていたっけ。

 その頃はウソなんかつかないし、そんなこと教えられても、と思っていたが、今となってはその教えを実践することになっているから、人生は分からないものだ。

 

「そりゃまた難儀なこったな坊主」

 

「はい。この花どうするかな……そうだ。白土さん貰ってくれます?」

 

「勿論。ここの病室は寂しくていけねぇ……丁度そんくらいの花を探してたとこよ」

 

「病室が賑やかなのも、それはそれでいけないような気がしますけど」

 

「それもそうか」

 

 うん。誤魔化せてる気がする。

 このまま白土さんに見舞いの花を手渡してここから離れれば、この状況を上手く切り抜けられる筈だ。

 

「あぁ、そうだ。坊主、その花お前が生けてくれねぇか」

 

「……はい?」

 

「いやよ。なにぶんこんな容態なんで、うまく生けられそうにねぇんだ」

 

 ……どうしよう。

 話が予想外の方向に広がった。

 この場合は、どうするのが正解なんだろう。

 本来なら、先程のまま花を渡してこの場から立ち去りたいところだが、断ったら間違いなく用事について聞かれるだろう。

 生憎そこまででっち上げられる程、機転が利く頭脳は持っていない。むしろ頑固さに定評があるくらいだ。

 ついて行くほうが懸命かもしれないが、それはそれで問題がある。

 暗示の問題だ。

 成功したとはいえ、へっぽこの俺の暗示はそこまで強くない。付いていってボロが出れば、白土さんの記憶を刺激してしまえば簡単に解けてしまう可能性すらある。

 どっちを選んでもそれなりにリスクがある。

 ならば────────。

 

「分かりました。せっかくなんで俺が押しますね」

 

 俺は後者を選んだ。

 後者で上げた不安は、いくらか少ないにしても前者にも当て嵌まるものだし、なにより近くに居ればもしボロが出ても挽回のしようがある。

 一番最悪なのが、無理に言い訳をして退散したあとで、白土さんに不信感を与えて預かり知らぬ暗示が解けるパターンだ。

 そうなってしまえば、もう俺にはどうしようもない。

 白土さんには本名を教えてしまっているし、容姿からどういう人間かが割れれば詰みだ。

 白土さんがそこまで深く考え込む人間には見えないが、勘は鋭いのは昨日の件で嫌というほど知っているし、用心に越したことはないだろう。

 

「重いですね」

 

「ひとえに筋肉だな。まぁ、筋トレだと思ってくれりゃいいさ」

 

 車輪が着いてて重いって相当だな。

 確かに、これは腕力と足腰が同時に鍛えられそうだ。

 

「……怪我、酷いんですか?」

 

「ここが学園都市じゃなきゃヤバかったらしいな。でも、あと1週間もすれば後遺症も残らねぇってよ」

 

「そうですか……よかったです」

 

 車椅子を押しながら白土さんを見下ろす。

 首筋を全て覆う包帯は、入院着で見えないが、おそらくは全身に渡って巻かれている筈だ。

 言うまでもなく、昨夜の戦いによる傷だ。

 その戦いに俺は勝った。おそらく、白土さんの矜持をもっとも傷つけるやり方で。

 俺たちが魔術師として出会ってしまった以上、避けられる筈もない戦いだったし、なんであれ事態は動いてしまった。

 前哨戦は終わって、ここからが本番。

 仲間がこれほどの重症だ。魔術結社は本格的に俺の排除に動いてくる筈だ。

 せめて、白土さんの他に敵が何人居るかが今後の動き方も決められるんだが。

 

「おっと坊主、行き過ぎだ。俺の病室過ぎちまってんぞ」

 

「……え?。あ、すみません」

 

「考え事かい……そういうのはもっと足元見てからするもんだぜ」

 

 そう言って、白土さんはニヒルに笑ってみせる。

 この人は、感覚で動いてるように見えて────いや、感覚で動いているからこそ、本質を言い当てることが出来るのか。

 事実。白土さんの言葉は的を射ている。

 足元も覚束ないなかでなにかを考えても、思考は泥沼に嵌まっていく一方だ。

 覚えていないとはいえ、敵に的確な助言をする白土さん……なんとも気前がいい。あと駄洒落は言っていない。

 

「白土さん、ありがとうございます」

 

「……ん。なんのことだか知らねぇが、どいたしましてってヤツだ」

 

 車椅子を回転させ、二つ前の病室に入る。

 

「個室なんですね」

 

 廊下と同じ、白い世界が広がっている。

 いや、患者に安心感を与えるためだろうか。棚などは暖かみのある木の色をしている。

 

「おうよ。予算を多く持っててよかったぜ。備えあればなんとやらってな」

 

「花瓶はどこですか?」

 

 俺の質問に白土さんはそこだよ、とぶっきらぼうに言いながら窓際の棚を指差す。

 白土さんをベッドまで連れて行き、花束を持って花瓶に向かう。当然ながら水は入っていないので、どこかの給湯室で水をもらってこないといけないか。

 

「……悪ぃな、昨日からの付き合いにこんな事させてよ」

 

 聞いたことのない声色だ。

 白土さんの言う通り、つい昨日知り合った人間に知らない顔があるのは当然だ。

 

「いえ、いくら付き合いが浅くても、包帯でぐるぐる巻きされた人の頼みを断るほど冷血な人間じゃないですよ俺」

 

「そりゃそうだ」

 

 このとき、俺は油断していた。

 いや、自惚れていたといったほうが正しいか。

 そう。俺は自惚れていた。

 そもそも前提から間違えていたことに気付かず、楽観してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……昨日戦った敵の頼みさえ聞いちまうんだからな」

 

 瞬間。

 意識が凍った。

 次いで、雷のような衝撃が走る。

 続いて、止まった意識をよそに、思考が思い付く限りの可能性を探る。

 暗示が解けた────────?。

 ここまででなにか不審な態度を見せたか。

 いや、ならば何故俺を自分の病室まで案内した。

 どうしてそんな意味のないことを。仲間がいるなら別だが、少なくとも病室のなかは無人だし、病院で害意のようなものは感じなかった。

 病院には居るのかもしれないが、白土の仲間はこの近くには居ない。居ないなら、なんで俺を戦えない自分の病室に招いたのか。

 違和感はそれだけじゃない。たった今暗示が解けたにしては、落ち着いた声色だった。

 暗示が解けた。つまり、知らない記憶が溢れ出すのだ。

 いくらなんでも、動揺しないだなんてあり得ない。

 違うのか。暗示が解けたのではなく。

 

「解けたんじゃなく、解けていた……?」

 

 解けていた───もしくは、最初から暗示になど掛かっていなかった。

 確かに暗示の魔術は正常に作動した。

 その手応えはあったのだ。

 なんて誤認だ。

 魔術が正常に作動したからといって、それが正しく働くことにはならないということを今更ながらに気付いた。

 

「……っ」

 

 ゆっくりと、振り返る。

 これまでの行動のすべてが崩れ去る音とともに。

 自らの思い上がりを悟りながら。

 ゆっくりとは言いつつ、きっと数秒もかからなかった。

 そうして、身体が男のほうへと向く。

 視線が向かう先には、昨夜……あの路地裏と同じく獰猛に笑う男の姿があった。

 

「───────さぁ、あの夜の続きを話そうか」


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