あと、この作品を書くうえでの自分のスタンスなのですが、『基本は設定は守るが、時々踏み込んじゃダメなところまで踏み込もう』という少し危ないスタンスで行こうと思ってます。
“衛宮士郎”になる前の士郎のこととか。
自然にそうできるような展開を考えているので、ご了承頂きたい。
気に入ってくれたら、お気に入り、感想、じゃんじゃんお願いします。
「────士郎、学園都市って知ってる?」
その言葉に俺は少しだけ目を見開く。
驚いた。
予想外だった。
言葉自体もそうだが、遠坂の口からその言葉が出てきたことに俺は驚いたのだ。
──学園都市。
世界最先端の科学技術と教育・研究機関を併せ持った計画都市。
学園都市の名の通り、総人口230万人のうちの約8割を学生が占めており、世界最先端の科学技術は、壁一枚を隔てた俺達の居る外の世界とは、もはや数十年の差を隔てていると言われる。
そしてなにより、科学の最先端をいく学園都市を象徴するものといえば、やはり“超能力”の分野だろう。
なんでも、様々な方法で脳に刺激を与えることによって超能力者を人工的に作り出すことができるのだそうだ。
そんな科学の街のことを、まさか科学の道とは対極に位置する魔導の道を歩む生粋の魔術師である遠坂凛の口から聞くことになるとは思わなかった。
閑話休題。さて、そろそろ遠坂の質問にそろそろ答えなければ。
「そりゃまぁ、勿論。知ってる。夏の終わり頃には大覇聖祭とかで盛り上がるからな」
「え、なにそれ?」
「───」
遠坂が疑問に首をかしげるのを見て、あれ、知らないのか、と続けてしようとした質問を慌てて口にしまい込んだ。
ただ、挙動までは押さえ込むことができず、首をかしげたままになってしまった。
それを見た遠坂は疑問符を浮かべながらさらに首をかしげるおかしな状況。
気まずい雰囲気がこの部屋を包み込む。
どうやら遠坂は、学園都市について十分に把握できている訳ではないようだ。まぁ、前世の因縁レベルで科学と相性の悪い遠坂に、この手の話題を理解しろというのは無茶が過ぎる話ではあるが。
しかしこの空気どうしたものか。
このままにしておけば、肝心なことも聞けずじまいだ。
遠坂が俺を呼んだのだから、俺にも関係があることは間違いないし、こんなことで時間を無駄にしたくない。
「あー、えっとな……要は規模が大きい体育祭だよ」
「規模が大きい?」
「うん。学園都市の生徒が全学校対抗になって競い合うんだ。
研究成果を発表するような機会も兼ねてて、普段は情報を公開することが少ない学園都市なんだけどそのときばかりは一般解放してる。
テレビでも結構報道されたりするから、結構盛り上がるんだぞ」
「へぇー、な、なるほどね」
テレビで報道といえば、藤ねえが教育実習生だった頃に大覇星祭のテレビ中継をやっていて、一緒に見ていたな。
確か種目は棒倒しで、怪獣総進撃としか形容できない程の爆発があちこちで起きてた。
これ本当に棒倒しかと思ったし、藤ねえのテンションが上がっているのも見て、コイツ本当に教師志望かとも思ったっけ。
そんな回想も交えながら、大覇聖祭についての軽い説明を遠坂にする。
普段は俺が遠坂に教わる立場にあるので、遠坂からなるほど、なんて言葉を言われると中々むずがゆいものがある。
俺はそんな困った感情を苦笑に変えてから、遠坂に改めて聞く。
「で、その学園都市がなんなんだ?わざわざその単語を出すってことは今回の用事ってのはそこが関係してるってことでいいのか?」
「……そうね」
そのあと何度目とも知れぬ静寂が遠坂の部屋に満ちる。
遠坂の次の言葉に備えて喉を鳴らす俺を見据えながら、遠坂の鋭い言葉が静寂を切り裂く。
「魔術協会から衛宮くんに直々の指名、学園都市に行って人を守ってこいって」
「……は?」
俺の意思とは無関係に、反射に近い形ですっとんきょうな声が漏れた。
いましがた。
遠坂の口から学園都市という単語に出てきたことについて驚いたと語ったが、これはその比ではない。
まるでフリーズしたパソコンのように、言葉の理解が遅れている。
遠坂の放った情報に俺の処理速度が追いついて来ない。
少しして、ようやく情報を整理して理解できるところまで回復したところで、また新たな問題が発生する。
「ど、どういうことなんだ、遠坂!?なんで魔術協会から俺への直接の指名なんだ?というか、なんで魔術協会が魔術とは正反対の位置にある学園都市の人間を守らなくちゃならないんだ!?」
次から次へととめどなく疑問が溢れる。
何故?何故?何故?
数えだしたらキリがないくらいの疑問が一瞬にして俺の思考を染め上げる。
「そうなるのは分かるけど、衛宮くん。少し落ち着いて。順を追って説明するから」
「そうだよな。悪い、話の腰を折って……」
「それが言えるだけで上出来よ。よし、じゃあまずはどこから話すべきかしら……」
自分の中で生まれた疑問を一旦蓋をして、遠坂の言葉に耳を澄ます。疑問の答えは全て遠坂が持っている。
黒縁の眼鏡をかけ、顎に手を当てて、なにやら思案顔でなにかを考えている遠坂。
しばらくして、遠坂は俺の正面に向き直る。
「学園都市がどんな場所かについては、衛宮くんのほうが知ってるみたいだから、説明する必要はないわね」
俺をまっすぐ見る遠坂は確認をとる。
それに頷き、まずは最初の質問だ。
「それで遠坂。誰を守ればいいんだ?」
「……衛宮くん。既に引き受ける気満々ってわけ」
色々疑問があるなかで、まず一番気になったことについて質問すると、遠坂はジト眼で俺を睨む。
呆れたという様子をそのまま言の葉に乗せている。
あぁえっと、多分これ愚痴だな。
どうしよう。勿論とか言ったら、呆れから怒りに変わり即ガンドの刑に処されそうな雰囲気で候。
「ま、まずは魔術協会から誰を守れって言われたのかについて教えて貰えるか?」
だがまずは、質問に答えてもらえると……
こう言えば律儀な遠坂はそっちを優先してくれる。
俺も伊達にこの一ヶ月間、遠坂の怒りを買ってきてはいないのだ……言ってて悲しくなってきた。
というより、最初にこっちの質問をするべきでした。
そうしておけば初めから死を覚悟することなかったのに……。
遠坂は一瞬予想外の言葉に、返答を詰まらせながら、本題に戻って最初の問いに答える。
「小学二年生の男の子だって……」
「待て。尚更意味が分からないぞ。そういうのって、普通上のほうのお偉いさんとかじゃないのか?」
科学の街とはいえ、ある程度上の立場の人間であるのなら、正反対の魔術側の人間とも付き合いがあるかもしれない。
言い方は悪くなるが、賄賂や暗い取引なんかの欲にまみれた悪い大人の関係だったりする可能性もある。
まぁ、その可能性はかなり低い。
遠坂曰く、魔術師は基本的に神秘を秘匿したがる。
現代科学でさえも忌避しているだろうし、同じ魔術師ならいざ知らず。科学の街の住人と関係を持つなんてかなり無理な話だとは思うが、そう言われるほうがまだ説得力はある。
だが、そうではないとなると疑問が増える一方だ。
それも、この春小学2年生になる少年と聞けば尚のことだ。
「……分からない」
遠坂は暗い顔をしながら答える。
それ答えを理解するには俺はまだなにも知らなすぎる。その思いをそのまま怪訝な顔で表し、質問を重ねる。
「分からないって、魔術協会はそこを教えてくれなかったのかよ。普通そこは教えくれてもいいんじゃないのか?」
「それはおいおい説明するわ。簡潔にいうと、科学の街で起きていることだからかしらね」
「なるほど、大体わかった……まぁ、あそこ滅多なことがない限りは外に情報漏らさないからな」
本当はその滅多なことさえないんだけれど……。
正確には“ない”のでなく“あってはならない”。
学園都市の情報が外に漏れたとなれば、それが新たな戦争の引き金にさえなり得る。
学園都市の科学技術というのは、それだけの力を持っている。世界中が喉から手が出るほど欲しているものだ
だからこそ、学園都市は徹底した情報統制を行わなければいけない。
「でも、魔術協会が科学の街の問題にわざわざ介入するのはどういう了見なんだ?」
「そうね。単純に科学の街だけの問題なら、魔術協会も手を出そうとは思わなかったでしょうね」
「少なからず魔術にも関係があるってことか?」
遠坂は小さく肯首する。
「ある魔術結社がその小学生を狙ってるみたいなの……」
「────っ」
学園都市で人を守れって言われた時点でなんとなく予想はできていたが、こうして改めて口に出されて、ようやくその事実に自分の理解が追い付いたらしい。
学園都市にいる少年を魔術結社が狙っている。俺の役目は少年の護衛、可能なら少年を狙う魔術結社の撃退ってところか。
朧気ながら、俺のなかの認識が輪郭を帯び始めた。
「……俺には荷が重くないか?」
理解して真っ先に感じたこと。
普通こういうのって、魔術協会から派遣されるものではないのだろうか。それがどうして魔術として半人前ですらない俺に……?。
他にも色々聞きたいことはあるが、まずはそこから。
「なんで俺なんだ?」
「……」
「……遠坂?」
遠坂は言い淀む。
なにか言いにくいことでもあるのか。
あり得ない話でない。
人の良い遠坂のことだ。俺に変な重荷を背負わせないように……とか、色々思い付く。
「ほら、貴方って聖杯戦争を生き残ったじゃない?」
「ん。あぁ、そうだな」
「報告書に貴方のこと書かざるを得なかったのよ。そこにお誂え向きに魔術結社の企み……まぁそういうことね」
なるほど。確認を挟んだ遠坂の説明で合点がいった。
極東の島国でのマイナーなものとはいえ、大規模な魔術儀式を生き残ったほぼ一般人。それが俺だ。
魔術協会からすれば余程不気味な存在だろう。
要するに、俺を単独でその護衛任務とやらに向かわせて全容を知りたいんだ。
ただの一般人なら、任務を魔術協会の誰かを派遣して引き継ぎされるし、一定以上の実力をもっているならそのまま任務を継続させる。
どちらに転んでもメリットがあるって訳か。
「これ、俺あまり自由に動けないな」
「そうでもないわ。単独で派遣する以上、証人は衛宮くん自身しか居ない訳だし。その気になればいくらでもでっちあげられるわよ」
「いいのか……それ?」
「なにを今更。もう聖杯戦争の報告書だって色々誤魔化してるし……アーチャーの真名とか、貴方の固有結界とかね」
「……ありがとうございます」
取り敢えず手を合わせて拝むように感謝する。
気持ち的には神様仏様遠坂様だ。
遠坂が俺の師匠でよかった。心からそう思う。
そしてまずは、なぜ俺かという疑問は解消できた。次の疑問に移ろう。
「なんでその子を守らなきゃいけないんだ?」
次の疑問とは言いつつも、どちらかというと最初の疑問の続きだ。
護衛対象は小学2年生の男の子。
年端のいかない少年だが、魔術協会が絡む以上はなんらかの魔術に関係があるってことは確かだ。
「もう一度言うけど、分からないわ」
「なんで守らなきゃいけないのか教えずに守ってこいっていうか。それはいくら何でも─────」
「ストップ」
強引すぎる、と言おうとした俺を遠坂が言葉で止める。
「きっと魔術協会もことの全容を把握できていないのよ。じゃなきゃ魔術協会だってこんな礼儀知らずなことはしないわ」
おいおい話していくと言ったのがこれか。
まだ起こってない事件の舞台は、魔術社会以上の気密性を擁する学園都市。
対する探偵役は表の社会と隔絶され過ぎて、現代社会そのものを忌避する魔術協会。
相性が悪すぎる。
これは情報が不足するのも納得だ。
「にしたって」
無茶な任務に一般人(あっちは俺をそう思っているであろう)を単独で向かわせ、なにが起こるのかさえ教えてくれない。
なぜ守らなくちゃいけなくて、守れなかったらどうなるのかくらいは知っておきたい。
本音を言えば、推測でもいいから教えて欲しい。
引き受けるかそうでないかはそのあとの問題だ。
なんというか、こちらが断ることを前提に依頼してきたという可能性すら感じる。
「魔術協会って、そんな緩い感じなのか?」
「悪しき風習ってヤツね。魔術師は秘密主義で基本的に工房に篭って研究って連中が多いし、緩い仕組みでもやってこれたのよ」
軽く笑いながら遠坂は言う。
曲がりなりにも自分が関わっていた世界なのに、どうして俺は基本的なことをなにも知らないのだろう。
理由は分かる。
切嗣がそもそも教える気がなかったからだ。そもそも魔術を教えるのだって渋っていたくらいだし。俺の身を案じてのことだから文句は言えないが、こういう瞬間が増えていくと考えると頭が重たくなる。
「ただ、その子について一つだけ教えられたわね」
「1つだけ?」
「元々普通に生活してたみたいで、その頃を調べて得た情報よ」
そう前置きして、遠坂は続ける。
「その子、凄く運が悪いそうなの」
「運が、悪い?」
言葉を切り取って繰り返す。
運が悪いときたか。
これはまた、予想外の方向で来たな。しかしそうなると、問題は程度だろうか。
「でも、情報として入ってくるくらいだし、遠坂が凄いと言うくらいだから相当ってことは分かる」
聖杯戦争という濃密な時間のなかで、短い付き合いながら遠坂のことはまだ僅かだが分かっているつもりだ。
遠坂凛という人間は、才能に溢れながら、才能にかまけずに努力を重ねて結果を出してきた人間だ。
だからか、基本的に遠坂は言い訳というものを嫌う。
無論。それを人に押し付けるような嫌な性格もしていないが、他人の失敗を不幸という言葉で片付けるようなことは絶対にしない。
遠坂にとっての不幸とは、才能でも努力でもどうにもならない不条理のことを言う。
そんな人間が不幸という言葉を口にした。
不幸という言葉を重たく扱う人間が、それでも不幸と形容するしかないのだから、それはかなりのものだ。
「……そうね。聞いたときは気持ち悪さで吐き気がしたわ」
続ける遠坂の言葉には、微かながら怒りが感じられた。
不幸と称する少年に向けたものではない。
だとすれば、その憤りは……いったい誰に向けられたものだろうか。
「周りの大人はその子を“疫病神”扱いで、子供達にも虐められて、見ず知らずの男に包丁で刺されたり、テレビ局の心霊番組に撮られたり……他にも、色々と」
「それは……酷いな」
遠坂から聞かされたものは、まさしく不条理と呼べるものだった。
いままで生きてこれたことが奇跡と呼べるほどに。
少なくとも、子供の力でどうにかできる範疇を遥かに越えている。いや、大人だとしても解決できるか怪しいところだ。
なにせ自分にまったく原因がないのだ。
全て周りの人間が勝手に“疫病神”だのと指を差して祭り上げるのだから、自分の力ではどうしようもない。
遠坂が憤るのも無理はない。
「だから、その子は学園都市に送られたのかもな」
「ご両親も学園都市の科学に一縷の望みをかけたって訳か……魔術結社が狙ってるからあまり成果はなかったみたいだけど」
魔術結社とやらは、その子の不幸になにかを求めているってことか。
確かに、こうして聞いただけでも誰かに呪われているのか疑いたくなるほどの不幸だ。なんらかの魔術や異能が関わっていても不思議ではないし、むしろ納得できる。
「なぁ遠坂。その子の家族は魔術師の家系だったりするのか?」
「いえ、それはないわ。個人的にも調べてみたし間違いない」
個人的にも、と言っていることは魔術協会から送られてきた情報と、それを受けて遠坂が裏を取ったってことになるのか。
それなら、遠坂のうっかりが入り込む予知はないし信憑性をあるな。
「ならその子がなんらかの異能をもっている可能性か」
「超能力は基本は突然変異で生まれるものだし、ありえない話ではないわね」
少年自身には自覚はないが、実はなんらかの異能を持っていて、その弊害で人より不幸な事態に陥りやすい。
魔術結社はなんらかの目的で、その異能を狙っている。
いままでの話を聞いた感じだと、これが一番納得できるカタチだ。
「よし。概ねの事情は把握できたよ遠坂」
「そう。じゃあ、その先ね」
その先。
魔術協会からの指名を引き受けるか引き受けないか。
普通に考えれば俺は相応しくない。
俺なんかより相応しいヤツは他にいて、俺が断ればソイツがどうにかするんだろう。
魔術師として半人前以前の問題である俺が出張る理由はどこにもない。
けれど───────────。
「受けるよ。困ってるヤツのことを知ったから、ほっとく訳にはいかない」
困ってるヤツがいる。
そいつを狙う悪い奴らがいる。
できないことは引き受けない。だが、これは出来るかどうかも決まってはいない。
ならば、衛宮士郎は動かなきゃいけない。
例え相応しくなくても。
どんなにへっぽこでも。
衛宮士郎は魔術師である前に、正義の味方を志しているのだから。
「……そうね。貴方はそう答えるわよね」
「ゴメン。けど、やれるだけやってみるよ」
諦めたような呆れたような笑顔で遠坂は言う。
きっとこれから、何度もこの顔を見ることになる。俺が正義の味方を目指し続ける限り─────何度も。
「遠坂……もしかして怒ってるか?」
「当然でしょ。だから、全部終わったら覚悟しておきなさい」
今サラッととんでもないことを言われた気が……どんな恐ろしいことが待っているんでしょうか。
遠坂を怒らせてロクな目にあった覚えがない。
ガンドのガトンリングに晒されて命懸けの鬼ごっこを展開したり、セイバーも連れて新都でデートをしたり。
あれ、意外と嬉しいことも起こってるな。
そんな感じでいずれ来たる災厄から逃避しているうちに、遠坂は机の引き出しから一枚の紙を取り出して俺に手渡してきた。
「ビザは既にとってあるわ。明日には出発してもらうけどいいかしら?」
「え、明日なのか!?」
「えぇまぁ、色々大変だったのよ。その、ホテルの予約……?をホームページ……?でやったりしてたし」
「……よく一人で出来たな」
遠坂にとっては、任務が始まる前から激闘だったようだ。
とはいえ、氏名と電話番号と住所と部屋番号を打ち込むだけの比較的簡単な作業なのだが。これ俺が断ってたら、キャンセルでも一苦労だったに違いない。
早々に話して、俺や桜に頼るという発想がない辺り遠坂らしいといえば遠坂らしい。
「しかし明日か……家事はどうするんだ?」
「衛宮くんには一週間そっちに行ってもらうから、その間は私と桜で分担するってことで桜には話を通してあるわ」
桜には話してあるんだな。
なら尚更ホテルの予約は桜に任せれば良かったのに。
ビザに続けて渡れたのは最寄りまでの新幹線のチケット。魔術関連で必要な道具。さらには俺の不在時における人員の補填。
さすがは遠坂、準備が早い。
ここまで用意周到だと、遠坂家に受け継がれる“うっかり”が発動しそうでちょっと怖い。
「あとその子の名前教えてなかったわね」
「確かに、そういやずっと“その子”呼びだったな」
ここまで来て一番最初のところをすっ飛ばしていた。
「その子の名前は、上条当麻よ」
「上条……当麻」
黒髪の鈴声を聞いて、その名前を口に出して、疑問が生まれる。
初めて聞く名前の筈なのに、妙な感触があった。
この少年が、俺の運命を決定づけるような、“衛宮士郎”という人間の根幹から覆してしまうような……そんな感覚が─────────────