Fate/Day light   作:ラビット晴晞

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どうも、明日から高校生のラビット晴晞です。
無事(というか、なんとかギリギリ)進学できてよかったなぁ。
さて、今回から上条当麻少年とオリキャラその一がフワッと話に参加していきます。あと、次回から少し文字数を増やして8000~9000文字を目安にして投稿していこうと思います。
それに伴い、投稿ペースもさらに落ちると思います。それでも読んでくれる人がいると嬉しい。
出来ればお気に入り、感想、評価、どしどし待っています。


Day2-1 出発/いざ、科学の街へ

 パチパチパチパチ。

 

 ベーコンの油の弾ける音と香ばしさが少年の部屋を満たす。

 あともう少しで朝食が出来る。といっても、少年の朝食はオーブントースターで焼いたトーストに焼いたベーコン、そして牛乳と、現代の朝食を絵に書いたような普遍的で簡素な朝食だった。

 少年の年齢は7歳と非常に幼く、小学校ニ年生である。少年の家は学園都市の第7学区であり、そこのマンションの一室で一人暮らしをしている。

 通常、この街の小学生は第13学区の寮に入ることになっているが、彼が断固としてそれを拒否した為、少年の祖父が学園都市の教員で、尚且つ警備員(アンチスキル)として働いていたことも手伝い、特例として彼の一人暮らしが認められた。

 家事などは祖父に教えてもらっているし、この街は比較的に生活手段のない小学生には支給金が多く、両親の仕送りや時々貰う少年の祖父からのお小遣いもあり、なんとか生活できる状況ではあるのだ。

 ただ、早く大人になりたい。早く生活手段を手に入れて、誰かに、具体的には両親と祖父に世話をかけたくないという親孝行に焦る気持ちが少年にはある。

 だから家事は自分でやっているし、誰にも世話をかけたくないからこその一人暮らしなのだ。

 

「よし、できた」

 

 と、ここまで長く語っていたうちに朝食が出来たらしい。そして、少年の名前をまだ紹介してはいなかったのでここで説明するとしよう。

 少年の名前は上条当麻。

 その右手にあらゆる異能を無効化する力を持つ幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿し、まだその力を自覚していない無垢なる少年である。

 少年はそのまま、焼いたベーコンとトーストを皿に盛り、机へと運んでいく。だが、机には二人分の皿が用意してある。

 その理由は……

 

 ピンポーン。

 

 インターホンが鳴る。

 どうやら、その理由が来たらしい。上条はトテトテとフローリングの床を蹴りながら玄関に向かう。

 玄関の扉を開けると、そこに居たのはスーツを、といっても、シワだらけのYシャツにズボンを履いただけの白髪の老人だった。

 

「おはよう、おじいちゃん。朝ごはんはできてるよ」

 

「おぉ、そうかそうか。楽しみだなぁ」

 

 その老人とは上条の祖父、上条良三郎だった。

 今日、つまり日曜日は当麻と良三郎は一緒に朝食を食べることにしている。それは、当麻の近況を知るために良三郎が設けたものだった。

 部屋に入ると、良三郎はコーヒーメーカーを起動してコーヒーを淹れてから朝食を食べ始めた。

 

「うんうん、日に日に美味くなってるな。こりゃ、儂なんてすぐ抜かれてしまうな」

 

「まだまだだよ。もっと上手くなって、早くおじいちゃんに頼らないでも一人で暮らしていけるようになりたいから……」

 

「う~む。頼ってほしいのが祖父心なんだが……それと最近学校での調子はどうだ」

 

「別に普通だよ。たまに喧嘩になったりするけど」

 

 このような、普通の家庭で親子が行う会話を親を飛ばして孫と祖父が週末に行うというのが、上条当麻と良三郎の日常だった

 そして、ニュース番組を見ながら当麻がトーストを齧っていると、良三郎が新聞を片手に当麻に呼び掛けた。

 

「なぁ、当麻」

 

「なに?おじいちゃん」

 

「最近、武装無能力集団(スキルアウト)が襲撃される事件が多発してるだろ」

 

「うん、というか、いまこのニュースやってるしね」

 

 いま、ニュースがやっている

 内容は至ってシンプル。武装無能力集団(スキルアウト)というただの不良が次々に襲撃されて重症を負い、病院に搬送されているという事件。

 全員命に別状はないみたいだし、単に不良同士のいざこざだっていうのが自称専門家達の見解らしい。

 正直、そういうものとはあまり関係のない上条少年にはこんなことがあったのかー、と友達と話の話題にするくらいの関心しかない。

 ただ、警備員(アンチスキル)の祖父がその話題をする理由は、少年の考えつく限り一つしかない。

 

「爺さんもその事件の捜査に当たるから、しばらくはここに来れそうにないんだ」

 

「ふーん、そうなんだ~」

 

 少年は特に反応を見せず、手に持ったフォークでベーコンを食べていた。

 強いていうなら、一瞬少し寂しそうな表情を見せたということぐらいだ。

 良三郎は警備員(アンチスキル)という外の街での警察のような機構なので、今までだってそんなことは何回かあったので、当麻も馴れてきている。

 

「こんどのは、いつまでなの?」

 

「そうだなぁ、長くて三週間くらいかなぁ?」

 

 記憶を探るような口調で良三郎は当麻の問いに答える。

 それを聞いて当麻も牛乳を飲みながら、またも『ふーん』と反応を示す。良三郎も『質問しておいてその態度か』と苦笑いをする。

 そのまま当麻の近況も聞きながら、朝食を済ませてしまった。そのまま良三郎も玄関まで行き、当麻もそれに着いていった。

 

「当麻。もし用事があるんなら、いつもみたいに夜の7時に電話を掛けるんだぞ」

 

「わかってるよ、だいじょうぶ。まったく、おじいちゃんは心配性なんだから」

 

「よし、じゃあ行ってくる」

 

「おじいちゃんの家は別にあるでしょ」

 

「ははは。ここはもう儂の家だよ当麻、老人の一人暮らしほどつまらんものはないからな」

 

「おじいちゃんって色々若いのに、変なところでおじさんだよね」

 

「当然だ。儂はお前のじいちゃんだからな」

 

 がはは、と豪快に笑いながら胸を誇る老人。

 それを見て、当麻も自然と笑いだす。

 

「じゃあ、行ってらっしゃい」

 

 それを聞いて、良三郎も笑顔で一回当麻の頭を撫でてから玄関の扉を開けて出ていった。

 当麻は良三郎を見送ったあと、食器を洗うためにそのまま台所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は土曜日である。

 平日が終わり、明日に備えなければならない日曜と違い、存分に楽しめる休日である。

 多分、これだけではあまり俺の言いたいことは分からないだろう。重ねて言おう。今日は土曜日である。

 つまり、今日は遠坂の魔術講座の日である。

 順を追って説明しよう。まず遠坂の魔術講座はかなりスパルタ式である。

 一度失敗すればため息を吐いて呆れられ、二度失敗すれば凄まじい怒号を浴びせられ、三度失敗しようものならガンドの嵐が吹き荒れる。

 まぁ、そこまでいけば大体は桜が仲裁に入ってくれるので、まだそんな大きい怪我を負ったことはない。

 それに、今日は俺が学園都市に行く日なので、いつもよりかなり控えめで行ってくれている。

 俺は12時半くらいにこの家を出るので、あと15分もすれば今日の鍛練は終わる。

 そして、講師である遠坂は鉛筆を走らせながら術式を書き込んでいる。その間に、俺は渡された魔導書で遠坂が書いている術式を使った魔術の起動の仕方を頭に叩き込んでいる。

 今日は珍しく、こんなことを考え込んでいるのに術式の内容がスルッと頭に流れ込んでくる。

 

「ちょっと、ちゃんと集中してるの?」

 

 術式を書いている鉛筆を一旦止めて俺に質問してくる。

 言えない。言えるわけがない。まったく関係のないことを考えていたなんて言えるわけがない。

 

「まぁ、いまから行く学園都市のほうに意識が向くのは分かるけど、今はこっちに集中しなさいよ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「……よし、こんなもんかな。じゃあやってみて」

 

「あぁ、分かった」

 

 遠坂に手渡された術式に魔力を流し込む。

 俺の魔力は神秘となり、その神秘は閃光となって駆け巡った。

 そして、こんなときに限って順調にこなせてしまう自分が憎らしい。こんなに順調だと、なんか不安になってきてしまう。

 嵐の前の静けさ、というやつだ。順調すぎてなにかを見落としてないだろうか、遠坂の“うっかり”が発動するのではないかと、ついつい考え込んでしまう。

 

「どうしたの?遠い顔して……」

 

 そんな俺を不思議そうに見ていた遠坂が沈黙を破って質問してくる。別に隠すことでもないので、普通に打ち明けることにした。

 

「え、いや、少し不安になってきて……」

 

「今更なに言ってんのよ、アンタってそんなに慎重だったけ?」

 

「順調に進み過ぎてるだろ、だからなにかとてつもないことを見落としてるんじゃないかって……」

 

「なによ、私の“うっかり”を疑ってるの?」

 

「うん、まぁ、そうなるな」

 

 遠坂の“うっかり”は少しのミスでありながら、そのミスが決定的に深刻なところが非常に厄介なのだ。

 あれ、遠坂。なんでそんな満面の笑みで拳握り締めてるんだ……?しかも、すっごい怖い笑顔なんだけど。なんで無言で近付いてくるんだ。え、嘘。まさか……

 

「おい。嘘だろ、遠坂。少し待ってくれ。俺、いまから学園都市に─────」

 

「フンッ」

 

「ぐえっ」

 

 瞬間、あかいあくまの拳が俺の鳩尾に衝撃を与えていた。肺の空気が俺の外へと逃げ出す。

 しかし、悲鳴をあげるにしてももっと見栄を張れるような悲鳴を上げたかった。ぐえっ、なんて締まらない悲鳴ではなんとも格好がつかない。

 まぁ、彼女に鳩尾を喰らってつけられる格好も、張れるような見栄もないのだが……

 暫く呼吸が出来なくなった。

 

「ガハッ、ハッ、ハ、ハァ、ハァ」

 

 なんとか呼吸出来るようになってきてから、彼女は意地悪に微笑みながら俺に聞いてきた。

 この振る舞いこそ、俺に“あかいあくま”といわしめる所以の一つでもある

 

「なに、衛宮くん。生まれたての小鹿のように足を震わせながら這いつくばってどうしたの?」

 

「あ、あぁ、なんともない。大丈夫だ」

 

「あらそう。じゃあ話を戻すけど、衛宮くんは順調過ぎるのが逆に不安だって言っていたわよね」

 

「ん、そうだな」

 

 あくまで何事もなかったかのように話を進めるつもりなのか、遠坂。

 まぁ、なにもないことにするならそれで一番だし、ここは遠坂に乗っかってしまおう。

 

「確かに、順調過ぎると気が緩みがちになるわよね。大丈夫よ、不安に思ってさえいれば対応は出来るわ」

 

 ……それが出来たら遠阪の“うっかり”は起きないんじゃないのかな、心の中で思う。無論口には出さない。そんなことしたら今度こそ本当に死ぬことになる。

 

「あぁ、善処するよ」

 

「よろしい、じゃあこれで魔術講座は終了よ。一週間の帳尻はどこかで合わせるから、そのつもりでいて」

 

「了解。じゃあ、桜のことを手伝ってくる」

 

「私はこれを片付けてるから、昼食出来たら呼んで。あと、昼食のあと、もう一度ここに来れる?」

 

「いいけど、なんでだ?」

 

 そこには、“魔術師”としての遠坂の顔も、“あかいあくま”としての遠坂の顔もなかった。そこにあったのは“普通の女の子”の顔になっていた。

 

「まぁ、そのときまで聞かないことにするよ。楽しみはあとにとっておかないとな」

 

「アンタって、そういうことを平気で口走るわよね」

 

 はは、と苦笑を浮かべながら遠坂の部屋を出ていく。

 

『痛ったぁ~、フー、フー、フー』

 

 どうやら俺へ放った鳩尾は、遠坂にもダメージを与えていたようだった。再度苦笑いをしながら、遠坂の部屋を見る。

 部屋のなかで痛がっている遠坂が目に浮かぶ。見たい気もするが、今日は昼食のあとのほうが大事なので、早く居間に戻って桜を手伝うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、昼食を食べ終わり、再び遠坂の部屋の前にいる。

 俺を半殺しにした昨日の今日なので、昨日ほど雰囲気は悪くなかった。それでも二人の間に火花が散っていたが……正直凄く気まずかった。

 結局、昼食のあとは食器を洗って、桜は部活に行ってしまった。

 さて、そろそろ家を出る時間も近付いて来たし、入るとするか。

 コンコン。二回ノックする。

 

「入るぞ、遠坂」

 

 ドアを開けて改めて遠坂の部屋に入る。

 さっきずっと2時間も居たので、さすがに変化はなにもない。ただ、さっき使っていた術式と魔術に関する資料が綺麗に整理整頓されていた。

 

「それで、なんで呼び出したんだよ?遠坂」

 

「……ちょっと渡したいものがあって」

 

 そう言いながら、遠坂は紙袋を差し出してきた。その紙袋を俺が受け取ったのを確認して、続けて遠坂が言う。

 

「ほら、最終局面のときにアンタのパーカーがボロボロになっちゃったじゃない。その代わりになればな~、なんて……」

 

 照れ隠しに笑って頭を掻く仕草が凄く可愛い。

 渡された紙袋のなかを見てみると、赤いジップパーカーが入っていた。赤というにはもう少し深いくて鮮やかな、より正確にいえば深紅の色をしたパーカーだった。

 

「ありがとう、凄く嬉しいよ」

 

「うん、こういうのを本格的に作ったのは初めてだからあまり上手くはないけど……」

 

「そうか……ん?これ、遠坂が作ったのか?」

 

 成る程。通りで色合いが赤っぽいわけだ。

 でも、遠坂が作ったパーカーだ。ただの服のはずがない。もしかしたら……

 

「遠坂、もしかしてこれ……なにかの魔術が施されていたりするのか?」

 

「えぇ、よく分かったわね」

 

 やっぱり。

 遠坂の作るものが、ただの服な訳がないのだ……いや、それは遠坂に失礼だな。反省しよう。

 

「これを作るために使った布は、この前士郎に投影してもらった聖骸布なの」

 

 聖骸布……あぁ、確か二週間前くらいの鍛練にて投影したものだ。投影する宝具に少しアレンジを加える鍛練で、アーチャーが使っていた礼装をただの布の形にして魔力が尽きるまで投影するという鍛練だった。

 他にも投影したものはガラクタから宝具まで色々と多岐に渡るが、何故か聖骸布だけ消さずに残しておけと言っていたのはそういうことだったのか。

 そんな思考で、一つの疑問に対する回答を得たことで、また新たな一つの疑問が生まれる。

 

「これって、どんな効果があったんだっけ?アーチャーが使ってたのは覚えてるけど、構造を解析しただけじゃどんな効果を持ってるかはイマイチ分からないんだけど……」

 

「それは外界に対する一級品の概念霊装なの。具体的にいえば、魔力抵抗や精神耐性がそれぞれ1ランク上がるの」

 

「へぇ、凄いな。このパーカー」

 

 遠坂が胸を張りながら説明するこの聖骸布の効果に俺は思わず感嘆の言葉を上げる。

 アーチャーの奴、いったいどこでこんなものを手に入れたんだ。

 

「それに、その聖骸布にはある3つの魔術を掛けておいたわ」

 

 3つの魔術……?

 首を傾げて疑問を表現する俺に対して、遠坂は再び胸を張って答える。

 

「一つは魔術で伸縮性を付加して、士郎の成長に合わせてジャストフィットでサイズを合わせることが出来るの」

 

 成る程。俺の成長を鑑みて長く着ていられるように気を配ってくれた訳か。

 

「二つ目は自己修復機能。袖が破れたり穴が空いた程度なら1日で直ると思う。まぁ、服が半分ごっそり持っていかれたりしても、破片が残っていればそこから1ヶ月くらいで再生するから、大体のダメージなら大丈夫よ」

 

 自己修復機能。これから学園都市に行く俺がするかもしれない敵との戦いによる服のダメージまで考えているというのか。

 

「3つ目は簡易結界。士郎が魔術を使うまでと使わなくなってから三分後なら常に展開されていて、聖骸布の元々の能力で士郎の魔力のほとんどを外界と遮断して隠蔽してくれるわ」

 

 そこまでしているのか!?

 さすがは遠坂だ。余念がない。というか、俺が学園都市に行くことを予見していたみたいにうってつけの魔術を施している。

 いや、そうじゃないか。多分、妥協を許さない遠坂の性分がこのパーカーを作るときにも発揮されたみたいだ。

  魔力抵抗、精神耐性を底上げする聖骸布をさらに伸縮性、自己修復機能、簡易結界と、これでもかというほど詰め込まれたパーカーだな。

 

「──────でも、こんな凄いもののお返しなんて俺には出来ないぞ」

 

「いいわよ。お返しなんて……元々そんなものを期待していた訳じゃないし、そんなこと言われるの目に見えていたし……」

 

「うっ」

 

 図星を疲れた。

 断りを入れたつもりが、バッサリと切り捨てられてしまった。見事にカウンターK.O.を決められてしまった。

 

「まぁ、強いてお返しを挙げるなら─────」

 

 遠坂が意地悪に微笑みながら間を溜めている。

 それに釣られるように、俺もゴクリ、と唾を飲む。そのまま遠坂は結論を述べる。

 

「────結婚指輪でいいわよ」

 

「……」

 

 言葉が出てこなかった。

 いや、あまりに急な展開だったので、まだ認識が出来ていない。理解のプロセスまで進んでいない。

 鍵を掛けられ、おまけに凍りついた俺の理解が溶けて鍵が開くまでに数秒は掛かったと思う。そして、気を使うとかの回路が正常に作動してなかったために思ったことをそのまま言ってしまった。

 

「話がいきなり飛躍しすぎだと思う……」

 

「でも、士郎からプロポーズしなさいよね」

 

「……あ、あぁ、そうするつもりだ」

 

 会話が途切れる。

 もう俺のなかの時間の感覚はとっくになくなっていた。不意に時計に目をやると12時25分だった。この時間が永遠に続けばいいなんて思っていたが、どうやらもう出なくてはいけない。

 ただ、その前にやることがもう一つ……

 

「なぁ、遠坂」

 

「なに、士郎」

 

「これ、着てみてもいいか?」

 

「えぇ。っていうか、着てみせて」

 

 来ていたTシャツの上からパーカーを羽織る。

 遠坂がチャックは閉めるなと言ってきたので、チャックは閉めずにそのまま袖を通すだけの着方になった。

 ……着てみてなんだが、服にあまり頓着するような人間では俺には派手すぎる気もするが実際似合っているのだろうか。遠坂には確認しよう。

 

「……似合ってるかな?」

 

「うん、超似合ってる!!」

 

 満面の笑みでサムズアップする遠坂。

 お互いに照れ臭くなり、それを誤魔化すために笑う。大笑いする。爆笑する。暫くして気恥ずかしさも抜けて笑いも落ち着いた頃、俺達は玄関へと急いだ。

 よし、覚悟が決まった。元気も出た。決心もした。決断も済ませた。帰る場所もある。あとは一歩を踏み出すだけだ。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい、士郎」

 

 当たり前で慣れない挨拶をして、そのまま俺は玄関へと急いだ。

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