Fate/Day light   作:ラビット晴晞

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ちょっと今回はどうしても場面を引き伸ばせずに6000文字ちょっとしか書けなかった。期待してくれた人が居るなら申し訳ないです。ごめんなさい。
それと次回は二話同時投稿を目指すのでかなり期間が空くと思う。
気に入ってくれたらお気に入り登録、評価、感想大歓迎です。では、第六話かな?どうぞ。


Day2-3 邂逅/二人の少年

 上条少年は第13学区を適当に散歩していた。

 洗濯なんかは春休み初日の金曜日に済ませてしまったので、午前に部屋の掃除を済ませ、昼食を食べ終わって食器を洗い終われば、夕食の買い物まで暇潰しの散歩がてらいつも登校している第13学区の道をなぞっているという訳だ。

 一年生のときは、始めての一人暮らし、始めての家事、始めての学校、そんな初めて尽くしな生活でそんな余裕なんてどこにもなかった。

 だが、そこから一年も経てばそろそろ慣れてくるものがある。

 さて、ここまで散歩に続く経緯を説明し終えたところで、次は現状のことを説明しよう。

 

「よるごはん、なににしようかな」

 

 頭の後ろに手を置いて歩きながら、少年は呑気に呟く。

 もはや台詞が完全に主婦のそれである。

 彼は座って考え事をするよりも、身体を動かしながら考えるほうが頭が冴えるのだ。散歩の理由も暇潰しの他に、夕飯の献立を決めるためというのもある。

 まずはいまの手持ちを確認しなくては……

 少年の思考は、まずは冷蔵庫の現状の確認から始まった。

 余った牛挽き肉が少々、野菜は玉ねぎが少しとサラダに使えるものが一通り、他には卵に豆腐やカットわかめと調味料も一通りある。

 

「となると、コロッケかな」

 

 コロッケ。

 少年の言っているコロッケは、茹でたジャガイモを潰してに挽き肉を混ぜてものに小麦粉、卵、パン粉をまぶして油で揚げた、所謂ポテトコロッケと呼ばれるものだろう。

 ジャガイモが足りないので買う必要が出てきた。

 あとは、有り合わせでサラダと味噌汁でも作れるかな。

 少年が依然として後頭部に手を置きながら、ぶらぶら歩きながら今日の献立が決まったところで、ふと気付く。

 

「あ。でも、どうせ行くなら明日の分も買っちゃおうかな」

 

 これもまた、主婦の台詞のそれである。

 買い溜めなんて一人暮らしの始めたばかりの大学生なんて殆ど思い付かない主婦の処世術の一つだ。

 少年は『じゃあ、明日と明後日の献立も考えないとな』と続けて呟いていた。

 

「オムライスにからあげ、トンカツ。さかなだとやきざかな。むしざかな。チャーハン、パスタにグラタン、シチュー、カレー…………」

 

 ブツブツとおかずを次々に挙げていく。

 まず当たり前の前提だが、これらすべて上条少年が作れるものである。

 そして次の絞り込む条件。手間があまりかからないこと。シチューとグラタンなんかはともかく、その他は簡単なレシピを使えば、ものの数十分で作れるものが多い。

 まぁ、家庭料理とは等しくそういうものなのだが、そこはひとまず置いておくとしよう。

 あとは、挙げているメニューが子供に大人気なものばかりなのはご愛敬だ。少し見方が大人びているといっても、彼もまだ小学二年生、育ち盛りの男の子だ。ここら辺、食の好みなんかは子供のようで同然だ。

 時刻は四時を回ってきた。

 この季節なら、あと三十分も待てば夕日が見られる筈だ。上条少年も15時半から散歩してきたので、さすがに疲れたのか、近くの公園で休むために入った。

 

 

ドスッ。ドゴッ。ドンッ

 

 

「──────え?」 

 

 何気なしに入った公園には、まさしく血の世界が広がっていた。

 集団で一人を殴って、蹴って、押し飛ばして、叩いて、よってたかってそれを繰り返す。

 無邪気ゆえの残虐。

 無知ゆえの暴虐。

 そんな残酷な世界が広がっていた。

 殴る度に二つの声が聞こえる。ひとつは痛そうな声、もうひとつは笑い声。不愉快な音が耳に響く。聞きたくもないものが頭のなかで繰り返し繰り返し再生される。

 

────────嫌だ。この場にいたくない。

 

 その光景に背を向け、その場を立ち去ろうとする。

 あとは一歩を踏み出して、この公園から離れればそれで済む。それだけで、普通の日常に戻れる……筈だ。

 

「はぁ……ふこうだ───────」

 

 少年は踏み出せなかった。

 見捨てられなかった。

 傍観者に甘んじることができなかった。

 それを自嘲しながら、少年はそれを『不幸』だと嘆いた。

 少年は諦観に包まれながら呼吸を整え、そしてもう一度身体を向ける。

 逃げるために踏み出せなかった一歩を、助けるためなら踏み出せてしまうことに自己嫌悪を抱きながら、確かな一歩を踏み出す。

 そのまま、二歩、三歩と足を進めていく。暴虐の中心へと近付いていく。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

 上条少年の言葉に、暴力を振るっていた少年たちが一斉に振り向いた。

 疑問と困惑のこもった瞳は、上条の姿を捉えた瞬間、そのすべての感情を敵意に変換して上条を睨み付ける。上条もその視線に怯むが、意を決して言う。

 

「こういうの、やめなよ……泣いてるだろ、その子」

 

「うるせぇな。疫病神が、絡んでくんじゃねぇよ」

 

「……っ」

 

 少年たちのリーダー各が上条のことをそう言った。

 それは“外”の世界で少年が大人たちに呼ばれた蔑称だった。

 なぜそれを少年が知っているのかといえば上条とその少年には面識があるからだ。

 その根を辿れば学園都市に入る前からの付き合いだ。彼らは“外”では家が近所にあった。だからかどうかは分からないが、幼い頃から、今もまだ幼いが、具体的な時期を挙げるなら幼稚園の年少の頃からだろうか。

 元々仲が良かった訳ではない。相性はむしろ最悪、親の付き合いがあったからそこで交流があっただけの関係だ。

 片やリーダ気質の暴君ガキ大将。

 片や気弱で泣き虫で弱虫で不幸な疫病神。

 噛み合うわけがない。まともな関係を築けるわけがないのだ。水と油って程でもないが、少なくとも溶け合うことは不可能。弾き合うのが目に見えている。

 そんな関係なのだ。上条とこの少年の関係は。

 

「……それとこれとははなしがべつだろ。人を殴るのは良くないことだよ」

 

「はなしがべつなら、てめぇには関係ねぇだろうが」

 

「それこそ関係ないじゃないか。ぼくが言ってるのは、やりすぎだってことで……」

 

「へぇ、じゃあお前が代わりになってくれるんだな!!」

 

「……へ?」

 

 一瞬遅れて痛みが走った。

 殴られた痛みの他に、皮膚に熱さによる痛みが走る。その勢いのまま尻餅をつく。そして、見上げた上条の目に映ったのは、拳を合わせ、文字通り火花を散らして獰猛に笑う少年だった。

 そういえば、なぜ二人が学園都市に来たのかの説明をまだしていなかった。こんな状況だが、どうか聞いてほしい。

 まずは上条から説明しよう。上条はとにかく『不幸』だった。そのせいで、周りの人間に『疫病神』と呼ばれている。それは上条の右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)の副作用のようなものが原因と仮説が立てられているが、本当のところはまだ分かっていない。でも、学園都市ならその『不幸』の原因を解明し、克服することが出来るのでは、という期待から上条は学園都市へと送り出された。

 次は少年だ。これに関しては特に理由はない。

 単に少年が学園都市に行きたいと言い、ソレを親が許した。ただ、それだけの話だ。きっと能力が欲しかったんだろう。

 僕は失敗して彼は成功した。

 それだけだ。

 

ドゴッ。ボスッ。バキッ。

 

 

「ハッ、痛ッ、ガハッ」

 

 どうやら、標的は上条に変わってしまったらしい。

 最初に殴られていた少年も、その場からさっさと逃げていた。

 上条は、この行動を自重し自己嫌悪を陥る理由はここにある。この状況を覆す力もないのに、それでも首を突っ込んで、自分だけが『不幸』を被る。それが上条少年が自身の行動を嫌う理由である。

 不思議と痛みは感じない。だが、少年は諦めに満ちた目で空を見ていた。

 

 

 

──────やっぱり、ぼくはふこうなんだな……

 

 

 

 

 

 

 言って、少年は目を閉じた。

 先程の諦めすら生ぬるい諦観の水底へと沈みながら、浸りながら、少年は世界を塞いだ。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 あれから20分経って、うち10分は小萌さんの生徒の捜索に使われた。小萌さんが見つけたので、俺が手伝う意味なんてなかったのかもしれないけど、役立たずもいいとこだったけど、まぁ、見つかって良かった。

 あとで改めてお礼したいと言われたので、交換した連絡先は電話帳に保存してある。

 そして、小萌さんの助言を受けた俺はバスを使って小学生や幼稚園、それに関係する施設が集中している第13学区を訪れていた。

 小萌さん曰く、『わたしはその子のことを知らないけど、小学生なら13学区に居ると思うのです』だそうだ。

 着いてみて気付いたことだが、一つ難題があるような気がしてきた。

 遠坂に電話して相談してみるか。

 

プルルルル。プルルルル。

 

ガチャッ

 

『はい、衛宮です』

 

「あぁ、ごめん。俺だけど……」

 

 今回はコールが二回で出てくれた。

 

「あのさ、行くことだけに気を取られてまったく目を向けてなかったんだけどさ……」

 

『なに?』

 

「小学生相手に聞き込みなんて出来ないよな?」

 

 多少疑問形にして、遠坂に切り出す。

 そう。考えてみれば、小学生に聞き込みなど実行したら、“子供に危害を加えようとする怪しい大人”に見えなくもない。

 子供は素直だからとはいうが、逆にその純粋さが俺に対する“怪しい大人”フィルターが働く可能性がある。

 もしそうなって通報でもされようものなら、警備員(アンチスキル)と呼ばれる治安維持組織に連行され、学園都市から締め出されてしまうかもしれない。

 そういうことなら、迂闊に聞き込みなんて出来ない。

 だったら、『上条当麻の写真を見ながら探せばいい』なんて言う人もいるかもしれないが、それこそ“変態”扱いされるだろう。

 それにそもそもの問題、俺は上条当麻の顔写真を渡されていない。遠坂が言うには、魔術協会もまだ事実の全容を把握できていないということなのだそうだ。上条当麻の情報すら掴めないとはなんだろうか。って思ったりもするのだ。

 結論に言うと、上条当麻の顔も知らない。だからといって、誰かに聞くことも出来ない。早くも八方塞がりだということだ。難易度高いことこの上ないとは思わないだろうか。

 

『ふーん、そういうこと』

 

「いや。魔術協会、俺が見つけることを期待してないんじゃないのか」

 

『まぁ、難易度はとてつもなく高いでしょうけど、出来ないこともないんじゃない。指名してきたからには士郎なら出来るだろうって判断があったんでしょ』

 

「そんなこと言われてもなぁ……」

 

『大丈夫。魔術協会も情報が手に入り次第貴方に送るって言っているから……多分』

 

 その最後は言わなくて良かったよ、遠坂。

 でも、最後に多分遠坂つける辺り、遠坂も少なからず不安に思っているんだろうな。

 

『それで、なんかあったの?』

 

「え。なにがって、なにが?」

 

 なにかあったといえば、あったが(小萌さんと迷子探しとか)、遠坂はその事を言っているのだろうか。

 

『いや、声が心なしか浮わついてたから、なにがあったのかと思っただけど……私の気のせいかしら?』

 

「そういうことか。いや、学園都市の技術力に圧倒されてな……少し興奮気味だったのかもしれない」

 

『なに、そんな凄い所なの。学園都市って?』

 

 何故だろう。受話器も向こう側でキョトンとしている遠坂が目に浮かぶ。

 

「まぁ、漠然とした想像とは大分違ってたけど、だからこそ現実的な驚きだったというか、俺の常識が当てにならないことだけは分かったよ」

 

 こんなことは少し前のデパートでも言ったが、俺もここに来るまでチューブの中をタイヤのない車が走っているとか、空飛ぶスケボーとか、そんなありきたりな未来都市を想像していた。

 多分、某有名な22世紀から来たネコ型子守りロボットのアニメとか、これまた某有名な10万馬力の元素の名を冠したロボットのアニメなんかを見ていた影響だと思う。特に後者はこないだまでアニメ最新作をやっていたので見ていて、面白かったので柄にもなく嵌まっていた。個人的に好きなのはプルートウが出始めた辺りで……

 げふんげふん、悪い。脱線してしまった。 

 とにかく、そんなので未来都市のイメージを固定されていたので、ここに来たときは多少の落胆を覚えた。

 だが、よくよく見てみれば、“外”の世界では考えられない技術が山程あった。

 リニアモーターカーや電子ロックなる技術を使ったコインロッカー、巡回する掃除ロボット、疑似五次元万華鏡に見た目幼稚園の大学生……最後のは違うかもしれない。さっきまで乗っていたバスも無人運転で動いていた。なんでも、AIと呼ばれるプログラムを内蔵していて、ちゃんと信号を守りながら運転していた。

 

「うん、色んな凄い技術があってさ」

 

『……士郎、私少しイライラしてきたんだけど』

 

「え、なんで?」

 

『だぁー、もういいから教えなさい!!一切合切、アンタが学園都市で見たものすべて!!』

 

「え、なんで遠坂そんなに怒ってるんだ!?」

 

『っ、そりゃ……その……』

 

 今度は急にもじもじしだしたぞ……?くそ、可愛いな、遠坂はやっぱり……

 

『彼氏の趣味趣向を知りたいって……そんなに可笑しいことかしら?』

 

「……可笑しくないです」

 

 なんというか、こう、幸せだ。

 ……なんて可愛いんだ、遠坂凛という人間は。

 笑みが溢れる。もう抑えきれそうにないな、これは。

 さて、日頃の労いも込めて、可愛い彼女の要望に答えなくてはなるまい。

 

「でも、どこから話そうかな。自分のなかでまだ整理しきれてなくて……」

 

 一瞬だった。

 不意に目をやった公園に地獄が広がっていた。

 小年たちが、もう一人の少年をいたぶっている光景。

 頭では理解できず、それでも身体が勝手に動いてくれた。脊髄が停滞よりも行動を選んでくれた。

 そこから数瞬遅れて、脳が状況を理解した。急いで携帯電話の向こうに居る遠坂に伝える。

 

「悪い、遠坂。その話はまたあとで……」

 

『え、ちょっ───────』

 

 ブツッ。

 通信が切れる音を確認した俺は、腹に息を溜めて大越で叫ぶ。

 

「お前ら、なにやってんだっ!!!!」

 

 感情の従って浴びせた怒声。

 それはすぐに少年達に届いて、少年達は本能的な危険を感じたように走り去って逃げていく。

 その勢いのまま俺は倒れていた小年のもとに駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

 

「……ん?」

 

 少年は無気力な目で、ギョロリ、と面倒そうに俺を見据える。

 そして、傷だらけの身体を起こして少年は続けて言う。

 

「大丈夫です。ありがとうございました」

 

 そのまま立ち去ろうとする傷だらけの小年を引き留めて言う。

 

「待て、傷だらけじゃないか。手当てぐらいさせろ。丁度簡易救急箱あるから」

 

 何故引き留めたかはよく分からない。

 ただ、考えてる暇はない。この子の怪我の応急処置をしなくてならない、という現状を勝手に理由だということにする。すり替えることにする。

 少年は手を引いて、近くのベンチに座らせる。キャリーケースから簡易救急箱を取り出して、包帯やら消毒液やらで患部に処置を施していく。

 

「これで良し、っと。もう大丈夫だ」

 

「……すみません。ありがとうございました」

 

「好きでやってることだ、気にするな。それじゃあな」

 

「あっ、ちょっ─────」

 

 応急処置を済ませていると、時刻は16時20分を回っていた。そろそろここを出て、ホテルにチェックインしないといけないので、最低限の挨拶を交わしてその場をあとにした。

 だが、この直後に俺たちは再開することになることになる────────

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