二話連続投稿すると言っていました。
理由が二つくらいあって。
平成最後の日に投稿したいのと、このはなしの続きを二話連続投稿にすると、話の区切りが悪いな、って勝手に思い今回は一つの投稿に落ち着きました。
楽しみにしてくれていた人がいるなら本当に申し訳ないです。
あと、ランキング81位に載ることが出来ました。
応援、本当にありがとうございました。
それではどうぞ。
あれから数十分が経ち、上条少年は第3学区に来ていた。
今日は両親からの仕送りが来る日なので、それを受け取りに来ているのだ。そういうものは本来なら郵送で送って貰えるのだが、今月は何故か取りに行かなくてはならないらしい。
少年には、いつもの不幸の一つのようなものだし、今日は酷いほうの不幸があったので、今更それを嘆く気にはなれない。今はただただ疲れている。
「あの人、ちゃんとお礼とか言えてないなぁ」
言いながら、少年は少し前の記憶を呼び起こす。
赤と形容できる程深い茶髪と童顔が特徴的な青年が自分を助けてくれたことを思い出していた。
いままで両親や祖父以外の誰かに助けてもらったことなんて一度だってなかった。
幼い上条にとって周りの大人とは、自分を蔑み、罵り、否定するものでしかなかった。それはそこに厳格にそびえ立っていた事実であり、発言する権利すら剥奪されていた上条には覆しようのないことだった。
それが現実ということを思い知らされ、同時に上条は幼くして自分が“不幸”であることも思い知らされた。
そんななかで上条を助けたのは今日出会ったあの青年唯一人だった。
勿論、家族は自分を庇ってくれているし、それをありがたいとも思っているが、それは家族だからだ。家族だから上条は守られている。
そういった家族ではない、見ず知らずの他人に救われたのは初めてだった。衝撃的だったのは当たり前である。前提が崩れるとき、人は誰だって衝撃を受ける。
窮地に駆けつけて、弱いものを救うヒーロー。
青年は上条にはそう見えた。まぁ、それでは自分が弱いものになってしまうので、なんともできない感情が生まれているのは内緒だ。
さて、一旦両親からの仕送りという話題に戻らせて貰うが、今日渡されたのはお小遣いという名の生活費であり、食材なんかは遅れないため、その他の本やら両親が上条のために集めているお守りやらの雑貨品がたまに郵送で送られてくるだけなのである。
「というか、こんなものでボクのふこうがなおるとは思えないんだよなぁ」
ぶら下がった犬の形をしたお守りを手にとって見ながら、何気なく呟く。
運気上昇が謳われているなんて父の刀夜は言うが、科学の街にいる身としては少し理解できないというか、領域外の知識だ。
そんな曖昧なものに縋るしかない現状を、上条は少しの歯痒さを感じながら、生活費を受け取った上条は早速夕飯の買い物に向かっている。
夕飯の献立はあれから色々考えて、ポテトコロッケと卵スープ、マカロニサラダになった。
今日が丁度特売日だったので、一気に買い込んですうじつの買い物に行く手間を省いてしまおうという考えだ。買い溜めなんて一介の主婦の処世術である。
「いちばんはやいバスがくるのはあと20ぷんもあるし、じかんをつぶそうかな」
お誂え向きに公園があったので、そこのベンチでも少し借りてバスの時間まで待とう。今日は色々あったし、少しくらい罰は当たらないだろ、と少年は思った。
だが、彼は良くも悪くも“運気”というものに導かれるらしい。見つけたベンチには知っているような、知らない人影があった。
近付いてみると、知っている人だった。そちらも気が付いたらしく、少年のほうを見る。
「……え?」
「……へ?」
お互いに視線を交わしながら、二人は奇妙な声をあげた。
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場所は第7学区のファミレス。
そこには“異質”が広がっていた。
いや、正確ではないな。訂正しよう。
“異質”というよりは、“異端”だ。“異端”が“異質”に繋がっている。
その場にいる全員が彼らに意識を向けていた。
今更説明するまでもないが、学園都市とは最先端の科学が集結する科学の街である。そこに、“異端”が広がっているとはどういうことを意味するのか。
「がっはっはっは。それで、まだ上条当麻とかいうガキは見つからねぇってか」
周りを気にすることなく豪快に笑う男。
筋骨隆々の逞しい身体に和装。そして男の半生の熾烈さをものがたるかのような傷だらけの顔。すべての要素が男の存在そのものを際立たせていた。
「うるさいわね。機密事項をそんな大声で喋ってんじゃないわよ」
男の一言にその向かいに座っている少女は不機嫌な表情と声で悪態をつく。
「お前は細かいことを気にしすぎだ。大きくなれんぞ」
「アンタがガサツすぎるだけでしょ」
少女の罵りを気にすることなく、尚も豪快に答える男。
それに対抗するように、少女も続けて男を罵る。
少女の服装は男に比べると幾分か常識的なものだった。ととのった顔立ちをしており、まだ“美しい”というより“可愛い”といった印象だが、総合すると見目麗しい容姿をしている。ただ、その言動で彼女の人物像をおおよそ理解出来ただろう。俗にいう“黙っていれば美人”というヤツだ。
「こんな会話、誰も聞いちゃいねぇよ」
「イヤでも耳に入るわよ。アンタの声はただでさえ響くんだから」
「おい、俺がうるさいみてぇじゃねぇかよ」
「そう言ってんのよ。ようやく気付いたの。アンタってもしかしなくてもバカだったりする?」
「……テメェ、俺に喧嘩売ってのか」
「売るどころかタダで配ってんのよ。ようやく気付いたの?」
いつのまにか一触即発の雰囲気が漂ってきたところで、男の隣で静観に徹していた青年が会話に参加する。
「やめろ二人とも。騒々しいことこの上ないぞ。ほかの方々に迷惑がかかるだろ、静かにしていろ」
大雑把な男と、気の強い女の喧嘩を止めるのは、眼鏡をかけた堅物な風紀委員長と古来より決まっているのだ。
青年の咎める言葉に、二人は一瞬怯みながらもすぐに反撃に転じる。
「だけどよぉ、イアン。こいつには一度礼儀ってヤツを教えてやんねぇと気が済まねぇ」
「そうよ。私もこいつには常識ってものを教えてやる必要があるわ」
「どっちもどっちだッ!!」
イアンと呼ばれた青年は迷惑だという意思を表情で示しながら、二人の主張を払いのける。
そうやって二人を牽制し、ため息を吐いて上がっているんだか下がっているんだか分からない微妙なテンションに整理を付ける。
気分を落ち着かせたイアンは、向かいの少女の隣に座っている顎に手を当てて、なにやら考え事をしている少年に話しかける。
「おい、ハルバート。お前からも二人になにか言ってやれ」
「……ん?ごめん、よく聞いてなかった。もう一回言ってもらっていい?」
暢気に答える少年に、イアンはもう一度ため息をつく。
どうやら、先程までの会話はハルバートと呼ばれた少年の耳には届いていなかったらしい。それほどまでに意識を水底まで沈み落として思考を巡らせていたのか、それとも頭を空っぽにして時間を浪費していただけなのか、真相はハルバート自身にしか分からない。
「……アイツらほどではないが、お前ももう少し人の話を聞くべきだな」
「ごめんごめん、それでなんの話だっけ?」
「二人が喧嘩を始めそうだから、注意してくれってことだ」
「イアンで駄目なら、僕がなにを言ったって無駄じゃないのか」
イアンの説明を受けたハルバートは自分には無理だと反論する。
「一応お前は俺たちのリーダーだ。命令でもすればアイツらも止まるだろ」
「そこまで言うなら……って、二人は?」
イアンの説得にやむなく引き受けたハルバートはさらにヒートアップして手を付けにくくなっているであろう二人のほうを見ると、そこには人影すら見当たらかった。
「ッ、まさか。すみません、ちょっといいですか?」
「は、はい。ど、どうなさいましたか?」
イアンはかなり焦りの表情を見せて店員を呼び出す。
店員は怯えている様子を見せて、躊躇いながらテーブルに来た。
その様子に、ハルバートは疑問を浮かべながら質問する。
「僕らの隣にいた二人ってどこに行きましたか?」
「あの方達でしたら、たったいま出ていかれましたけど……」
二人はイアンとハルバートが話している間にさらにヒートアップしていき、店の外に出て行ってしまったようだ。おそらく口喧嘩がエスカレートしていき、口論では決着がつかず、売り言葉に買い言葉で実力行使に移行しようとしている。
「そ、そうですか……ご迷惑をおかけしてすみません」
「……え?あ、謝らないでください」
「いえ、あの二人が迷惑をかけたでしょうし……謝るだけじゃ足りないくらいです」
ハルバートの謝罪を店員は戸惑いながらも対応する。どうやら責任の所在はあの二人にあるため、ハルバートに謝られたことの違和感を感じてしまったらしい。
その結果、ハルバートと店員の謝り合戦が始まってしまった。
その状況を見ていたイアンは本日三度目のため息を吐いて、二人の意識を向けてからハルバートに対して提案する。
「とりあえずお前はあのバカ共を止めてこい。こっちの後始末は俺がしておこう」
「わかった。そっちは任せるよ、イアン」
イアンの『任された』という返答を聞いたハルバートは、二人を追って店を出ていく。
店を出ると、漂うだけだった一触即発の空気がその場を支配していた。その空気を形づくっている二人の間にハルバートが割って入る。
「二人とも、こんな往来の場で喧嘩なんてやめてよ」
「止めてくれるな、大将。こいつには一度教育をしてやんねぇといけねぇんだ」
「コイツと意見が合うのはなんか癪だけど、私もコイツに常識を教えてやるから少し待ってなさい」
二人の主張にハルバートは呆然とする。
ハルバートは数秒後、なにかを決心したように眼を閉じる。
「二人とも、本当にここで喧嘩するつもりで居るなら、まずは僕と戦うことになるけど……いいの?」
瞬間。
その場の支配権が二人からハルバートに移動する。
静かな殺気を放つハルバートの威圧に、二人は取り出そうとしていた得物をしまう。
それを確認したハルバートは放っていた殺気をシュン、と閉まう。
「分かればよろしい!!貴重な戦力をここで失うわけにはいかないからね」
「「はい……」」
「ようやく大人しくなったか」
借りてきた猫のように大人しくなった二人は、殺気をしまったハルバートの言葉にすら相槌をうつしかない。
それを見て、嘲笑の混じった微笑を浮かべながら、面倒そうに呟く。
「イアン、それって俺達がいつも騒がしいみたいじゃねぇか。こいつはともかく俺は違うからな」
「はぁ。うるさいのはアンタでしょ、馬鹿じゃないの。それとイアン、こいつと一緒にくくらいで貰える」
「あぁ、戦んのか?コラ?」
「受けて立とうじゃない」
「二人とも!!」
「うっ……ごめんなさい」
二人が一瞬でしんなりする。
余程ハルバートのことが恐怖を抱いているようだ。二人を見ながら、イアンがなにかを閃いた仕草を取りながら、二人を睨んでいるハルバートに話しかける。
「そういえば、ハルバート。本土に残っている奴等の情報なんだが……我々の目的を察知したどこかの組織が刺客を送り込んできたらしい」
「へぇ、どこから?」
「そこまではまだ掴めていない。だが、刺客は魔術師だ。なんでも、マイナーな儀式に巻き込まれて魔術の道に入ったらしい」
「なら、大したことないじゃない。そんなへっぽこ寄越すなんて、私たちを止める気があんの?」
「油断は禁物だ。どんな可能性をも潰せ、いいな」
「はいはい、わかってますわよ」
ハルバートは組んでいた腕をほどき、男のほうを向きながら言う。
「喧嘩しようとした罰。今日の捜索は君に任せます」
「了解、大将。もし刺客と出会ったらどうすればいい?」
「君に任せるよ」
「御意」
一言答えて男は豪快に笑う。
そのまま、他の三人に背を向けて男は街ごみへと消えていった。
「いいのか?アイツ一人で」
「まぁ、今日明日で見つかるとは思ってないよ。でも……」
「でも?」
ハルバートは優しさと決意の合わさった表情を見せながら、ハルバートは二人の質問に答える。
「誰にも邪魔させない。僕たちが世界を救うんだから」
そう言った。
世界を救う。ハルバートは確かにそう言った。
それは、間違いなく『英雄』の言葉だった。
そのまま三人も歩き出す。世界を救うための道を──────
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突然だが、俺こと衛宮士郎は宿を失った。
残念なことに、野宿道具はない。セーブポイントなんてあるわけがない。
何故こうなったかを一言で言うなら、“遠坂のうっかり”というところだろうか。
いまの言葉とこの状況、勘のいい人ならもう察してくれたことだろう。
詳しく説明しても、三行ぐらいで済んでしまうくらい些細で他愛ない、本当に微々たる出来事だ。
前置きはこのくらいにして、いい加減この状況の説明をしなくてはな。簡単にいえば、遠坂がホテルの予約を取っていなかった。
ほら、こんなものなんだ。本当に三行で説明できてしまった。
五時にホテルに着いてチェックインしようとしたら、受付の人に『そのようなご予約はなされておりません』とバッサリ切り捨てられてしまった。
内容というか、遠坂がそんなミスをした背景は大体想像がつく。おそらく機械音痴の遠坂は血の滲むような想いで、ホテルの予約をしようとして、なんとか予約のボタンを押すところまで辿り着いた。そこで、なんらかのアクシデントに見舞われ、帰ってきた頃にはもう予約は済ませたと記憶の置換が働いたのだろう。
まぁ、延々と益体のない憶測に耽っていてもなにも始まらないので、そろそろこれからどうするかについて考えよう。
さっきも言ったが、旅行者として来ているので、野宿用具なんか持ってきているわけがない。というか、それ以前にこんなところで野宿なんてしたら、
それに、学園都市には完全下校時間なるものがあるらしく、六時まで学生は家に帰らなくてはならない。簡単にいえば門限を極限まで突き詰めたものだ。
旅行者として来ているとはいえ、一応自分も学生なので門限は出来る限り守りたい。
「といっても、もうどこか代わりの宿をとる気にはなれないしなぁ」
なんとなく呟いた独り言が虚空に消えていく。
まぁ、そんなこといったって野宿しなくなければ、ここに知り合いのいない俺はどこかの宿を取らなくてはいけないのだが……
あ。でも、一人居るかな……?連絡先も知っているし、泊めてもらうって手も、駄目だな。そんな迷惑は掛けられない。
となると、今日はやっぱりどこかの宿を借りて一晩を凌ぐしかないのか。
こりゃ、遠坂にはあとで文句の一つでも言ってやらないとな。気が済まないというより、こういうことは絶叫とはいかなくても注意ぐらいはしなくてはならないだろう。遠坂のことだ、きっと素直に反省して次に活かしてくれるだろう。
そして、行動を起こそうとベンチから腰を上げて、立ち上がると───────
「……え?」
「……へ?」
お互いにすっとんきょうな声を上げる。
きっと彼も俺と同様に驚いたのだろう。
そう、驚いた。これは本当に予想外だ。
ちょこん、と独特の存在感で俺の前に立っていたのは、さっき第13学区で助けた少年だった。
「お、おう。さっき振りだな」
「そ、そうですね……」
俺も彼も、まだ状況を理解できていないのか、苦笑を浮かべながら場違いな挨拶を交わす。
「どうしたんですか?そんなにへこんで」
挨拶のあと、話しかけてきたのは少年からだった。
嘘だろ。子供から見て分かるほど浮かない表情だったのか、俺は。軽くショックだ。
「あぁ、色々あってな……ハハッ……」
やっぱり隠せてござらんかった。
苦笑いが無意識が溢れてしまっている。やっぱりロビーの人に、バッサリ切り捨てられてしまったことが相当堪えているらしい。
「いや、なにかこまってるみたいなかおしてたし、そうなのかなって……」
「う~ん。困ってるといえば困ってるかな……」
「なら話してもらってもいいですか?ほら、話すだけでも少しはスッキリするかもしれないし」
「いや、いいよ。そろそろ完全下校時間なんだろ。君は早く家に帰ったほうがいいんじゃないのか?」
見たところ俺より十歳ぐらい年下の少年に気を使われていることに若干のダメージと申し訳なさを覚えつつ丁重に断る。
なんていうか、俺の問題でこんな幼い小年を巻き込みたくない。小萌さんみたく中身が大人なんてことはないだろう……多分。おそらく。きっと。
俺の回答に少年は不機嫌そうな顔をしながら言った。
「じゃあ、こうしましょう。さっきたすけてもらったおれいに話をきく、それでかしかりナシってことで」
「貸し借りって、随分難しい言葉知ってるんだな」
「で、どうなんですか」
少年は依然として不機嫌な顔で続けて言う。
「そこまで言われちゃ、断るほうが失礼だよな。よし、分かった。話すよ」
「うんっ!!」
少年は先程までとは正反対の満面の笑みで相槌を相槌を打って、俺のとなりに座る。そして、一度立ち上がった腰を再び下ろし、どこから話すべきかを思案する。
一切合切全てを話す気にはなれないし、さすがに話せない。ここは適度にはぐらかしながら、というより、不要な部分を省いて説明するのが最善だろう。
「俺はある人の頼みで外から来たんだけど、どうもそいつが宿の準備を忘れてたみたいでな。それでこれからどうしようか悩んでた訳なんだが……」
出来るだけ端的に削れるところは全て削って、説明した。
「へぇ、その人うっかりさんなんだね」
「うん。まぁ、否定は出来ないな……」
小年のズバッ、とした感想に苦笑いを浮かべながら答える。
遠坂、お前はいま小学校低学年くらいの子に“うっかりさん”と呼ばれているぞ……
「なら、今日はぼくのいえにとまっていきませんか?」
俺が悟ったような表情で遠坂に思いを馳せていると、その間になにやら考え込んでいた少年から一つの提案を提示してきた。
「そこまでして貰うのはさすがに悪いよ。話だけでも聞いてもらっただけを十分だ。俺は別の宿を探すからさ」
じゃあこれで、と付け加えてその場を立ち去ろうとすると、少年からの一言が降りかかる。
「でも、いまからホテルをとるの難しいと思いますよ」
「……どういうことだ?」
振り返りながら少年に質問する。
困ったような顔をして少年は、俺の質問に対する返答を続ける。
「学園都市って結構観光客来るから、どのホテルも満員だと思います。せめて明日の朝までとかじゃないと」
「それって、本当か?」
「おかあさんたちのしおくりをうけとりにいにたまにここにくるけど、いつも賑やかだからそうだと思う」
まぁ、ちょっと考えてみれば確かに俺でさえこんなに興奮している場所に、誰も来ていないなんてあり得ないか。これだけ気密性高けりゃ、会社の商談なんかにもうってつけだろうし。
「成る程。こりゃ、宿探すのも手間がかかるかもな」
「でしょ。人のこういはすなおにうけとるべきだと思います」
「……そうだな。うん、今日は君の厚意に預かるよ」
顎に手を当ててしばらく考える。人の善意は素直に受け取っておくべきだよな、という結論に達した。
どうやら俺は押されることにも弱いようだ。まぁ、人の厚意を無下にすることなんて出来ないし、それが当たり前のことなんだろうが、若干流されやすい自分が恥ずかしい。
「ホントに、やったー!!じゃあ、いまからばんごはんの買い物があるのでつきあってください」
だが、こんな嬉しそうな顔が見れたなら、損ばかりじゃないかもな。というか、泊めて貰える時点で俺には得しかないのだが……
「夕飯、もうそんな時間か。もしよければ俺も手伝うよ。こう見えても料理の腕には多少の自信がある」
これに関しては藤ねえに桜、藤村組に一成と慎二、遠坂等といった人達からのお墨付きがあるので、これだけは自信を持って言える。
それに無償で泊めてもらうのだから、俺に出来る限りのことは手伝わないとな。
泊めてもらうといえば、そうさせてもらううえで確認させてもらわなくてはならないことがあるよな。
「君の名前をまだ聞いてなかったな」
「そういえばそうだね」
少年は俺のほうを振り返りながら自分の名を告げる。
「ボクの名前は、上条当麻です」
多分、この瞬間は数秒しかなかったはずだ。
だが俺には、この瞬間が永遠のように感じられた。まるで聖杯戦争において俺のサーヴァントとの邂逅のときのように、自分のなかの時間という概念が吹き飛んで、それだけ鮮やかで色濃く鮮烈に頭に焼き付けてる感覚。
そのまま、固まる。
人が本当に驚いているときにする行動は、硬直であることを俺は知っている。
予想外で、完全に理解の許容を越えているときには人の頭は思考を止めてフリーズした機械のように身体が硬直して動かなくなる。
「────したの?どうしたの?お兄ちゃん」
「え、あ、いや、なんでもない、なんでもない、大丈夫だ」
耳に飛び込んできた小年の一言で、意識がやっと再起動して表層に浮上してくる。
少年は動かなくなった俺を心配そうに見つめている。
……優しい子なんだな。
いまの一言だけで、それが分かった。いや、ここで出会ったばかりの俺を心配してくれてるんだ。優しくない訳がない。
出会ってまだ短いので、それだけで全てを分かったつもりにはなっていない。そもそも俺は、遠坂や一成のように人を見る目なんて持ち合わせていない。だから俺が少年と関わって得た少ない情報をもとに判断するしかないが、“それだけ”の情報でも、見ず知らずの他人に手を差し伸べることができる思いやりが少年にあることは分かる。
「悪いな。君に名乗らせたんだ、俺も名乗らないとな」
さて、思わぬ収穫を喜んでいられる暇はないみたいなので、早く自己紹介を済ませてしまおう。
一呼吸置いて目を閉じる。
数秒後、ゆっくりと目を開いく。そして、続けて自分の名を告げる──────
そんな彼らの決意を祝福するように、夕暮れは優しく揺らめいていた。
「俺の名前は衛宮士郎だ、よろしくな」
これが、衛宮士郎と上条当麻の出会いだった。