Fate/Day light   作:ラビット晴晞

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二話連続投稿って話、あれ今からでも嘘ってことになりませんか。なりませんよね。ごめんなさい。
モチベーションも凄く下がってるし、なんか最近あらゆるものに対して興味が失せている気がする。
取り敢えず投稿遅くなってすみません。
二日目はこれで最後です。
気に入ってくれたら、お気に入り登録、評価、感想心待にしております。
遠坂と桜の戦争は1日後に持ち越します。
それではどうぞ。


Day2-5 決意/“守りたい”もの

 遠坂のちょっとした“うっかり”から宿を失った俺は、偶然上条当麻と出会い、その家に泊めてもらうことになった。

 目先の問題が一気に二つ解決した俺だったが、思わぬ僥倖を喜んでいられる暇もなく、次なる問題が目の前に壁としてそびえ立っていた。

 

「はぁ、ふこうだ……」

 

「まぁなんだ。元気だせよ、な」

 

 ため息を吐いて、この状況を嘆く少年。苦笑いを浮かべながら励ます俺。

 あぁ。ちなみにあの自己紹介のあとにお互いの呼び方について話し合った結果、お互い礼節なんかを考えて接することはあまり得意ではないという結論になり、俺は『当麻』、当麻のほうは『しろう兄ちゃん』とお互いを呼び合うことになった。

 それが上手く作用したのと、お互い一人暮らしで、周りからの援助でなんとか生活できている、という共通点もあって、早めに打ち解けることができた。

 まず、何故こうなったかを説明してしまおう。

 夕飯の買い出しのために第7学区のスーパーに来た俺たちだったが、理由は分からないがそのスーパーが臨時休業になっていた。

 当麻の話によれば今日は特売日だったらしく、俺という人手もあり、一気に買い込むつもりだったらしい。確かに、俺がいれば『お一人様お一つまで』の商品を二つ買える。一つと二つは言葉だけ聞けば微々たるものだが、結構な差である。

 卵なんかは最たる例だ。なんにでも使える分、消費も速く、量が多いに越したことはない。

 買い物に毎日行くより、安く買える日に買い込んで備蓄しておけば、行く手間を省けて、その時間を別のことに充てられる。金銭的な意味でも時間的な意味でも、無駄を最大限省けてしまう主婦の処世術の一つ。わかりやすく言えば裏ワザである。

 と、主婦の生活術の一つを解説したところで、そろそろ話を本筋に戻そう。

 スーパーが休みとなれば買い出しは出来ない。他のスーパーに行こうにも、ここが上条少年の家でいて番近い店舗なようで、今から向かったのでは間に合わず、完全下校時間を過ぎてしまう。

 というわけで、今日はコンビニで総菜を買っておかずにするしかないだろうな。

 

「ところで、当麻は今日はなにを作るつもりだったんだ」

 

「え?えっと、コロッケとポテトサラダ、あとたまごスープだけど……」

 

 成程、必要な材料は大体わかった。

 では、次の質問に移ろう。

 

「で、必要な材料はいくつかあるのか」

 

「はい、ひきにくとやさいものこったものがちょっと、あとはちょうみりょうが一とおり」

 

 となると、冷蔵庫の中身も大体予測がついた。

 

「よし、今日の夕飯は俺が作るよ」

 

「いや、それはわるいよ。いちおうしろう兄ちゃんはお客さんなんだから」

 

「気にするな。料理してると気分が落ち着くんだ。それに、泊めてもらうんだから、手伝えることはできる限り手伝いたいしな」

 

「むぅ、それなら、まぁ……」

 

 当麻も渋々ながらも承諾してくれた。でも、やはり不服なのか、頬をすこし膨らましている。

 なんだろう、この既視感。俺って当麻に似た子と会ったことなんてあったかな……

 

「お兄ちゃんはなにをつくるの?」

 

「ハンバーグ。挽き肉があるなら作れると思ったんだ。昔から作ってたから、結構自信あるぞ」

 

 ハンバーグ。

 こねた挽き肉に玉ねぎや卵、パン粉なんかを加えて作った肉ダネを油をしいた中低温のフライパンで焼いた料理。おそらく、俺が和食よりも作り慣れているいるであろう料理の一つだ。

 

「じゃあ、一応コンビニに寄って行くか」

 

「おかしもすこしかおうかな」

 

 こんな会話があって、コンビニで総菜のサラダを買うことになった。

 そこから3分くらい歩いて、見つけたコンビニに入る。俺は総菜コーナーに、当麻はお菓子売り場に行き、そこで買うものを吟味する。

 陳列された惣菜を見て、思わず感心してしまった。

 俺はいままで惣菜やレトルト食品のことを『ちょっと美味しい即席食品』くらいにしか思っていなかった。はっきり言って軽視していた。

 栄養価なんてまるで考えられていない、添加物満載の身体にあまり良くはないものだと思っていた。

 だが、原材料表示と栄養成分表示を見てみると、結構考え込まれているようだ。少し値段の張るものなら、無添加のものもあった。これは案外、コンビニ惣菜も捨てたものではないかもしれない。

 少なくとも、俺がいま適当に野菜を和えてサラダを作るよりかは断然仕上がりは良くなるはずだ。

 

「よし、こんなもんかな」

 

 ハンバーグに合いそうな副菜をいくつかカゴに入れて、当麻が選んだ駄菓子も加えてレジに通して会計を済ませた。

 

「しろう兄ちゃんはさ、ひとりぐらしなの?」

 

「そうだな、毎日飯を食いにくる姉みたいな人がいるけど、基本的には一人で暮らしてるな」

 

「ってことは、おかあさんとかからしおくりとかくるの?」

 

「──────いや、親はもういないんだ。事故で死んじゃってさ……」

 

「……ごめんなさい」

 

「いいよ。気にしてないから」

 

 空気が悪くなっていくのを感じて、すぐさま話題を変える。

 

「話を変えるけど、当麻はなにか趣味とかないのか?」

 

「しゅみかぁ、一人で生活するのでせいいっぱいでそんなよゆうないな。そういうしろう兄ちゃんこそしゅみとかないの?」

 

「俺か?俺は、そうだなぁ。ガラクタいじりとか、家に来る半居候が置いてくのを直したりとか、それを遡っていくと模型作りがあったから、趣味といえばこの二つかな」

 

「もけいかぁ、ぼくそんなこまかいことするのにがてだよ」

 

「やってみたら意外と楽しいぞ。やってる間、雑音が消えて、作業のみに没頭できるし……いい気分転換になる」

 

「そこまでうちこめるものがあるって、なんかいいね」

 

 しばらくこんな会話をしながら歩いて、当麻が一人暮らしをしているというマンションについた。

 そこに広がる視界に俺は驚嘆した。

 

「すごいな。こんなところに一人に住んでるのか」

 

 目の前に高々とそびえ立っていたのは、いくつもの層が積み重なった建造物だった。

 首をかなり傾けないことには、その全貌を把握することもままならない。無表情な灰色の外装は、シャープというか、厳然とした印象があり、風格のようなものすら感じる。ただ、それとは裏腹に趣きや伝統などといった要素は一切感じさせず、あらゆる無駄を排した近代的なデザイン。

 これもまた、学園都市の技術が成せるものなのだろうか。

 

「うん。じいちゃんが警備員(アンチスキル)で、それとおかあさんとおとうさんのおかげで、なんとかね」

 

 ためいきを挟みながら気弱に答える少年。

 その様子から見るに、本当にギリギリ生活できている状態らしい。特売日の臨時休業からの落胆ぶりはそういう理由からか。

 

「まぁ、ともかく入ろうよ。完全下校時刻まであと数分だし……」

 

「……それもそうだな」

 

 お互いに苦笑に顔を少し歪めながら、当麻の家へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食の献立という目先の問題をなんとかクリアした俺たちはマンションに入り、そこから当麻の部屋である401号室まで案内された。

 

「お邪魔します……へぇ、よく片付けられてるな」

 

「ありがとう。しろう兄ちゃん」

 

 小学生の部屋にしては手入れが行き届いた部屋だ。

 目立った埃も塵も見当たらない。丁寧に清掃されている証拠だ。

 和風建築にすんでいる俺は、洋式の溝のあるフローリングの掃除をやったことはあまりないので、こういうのは素直に勉強になる。

 

「本当に綺麗だ。掃除機だけじゃなくて、モップもかけてるよな。小学生ができる掃除のレベルじゃないぞ、これは」

 

「まぁ、じいちゃんに教えられながらやってるし、手伝ってももらってるから」

 

 う~む。誉めてるのにあまり喜ばないな。藤ねえは論外として、桜だったら満面の笑顔で喜んでくれるし、遠坂や一成だって表情には出さないが、ちょっとそわそわした反応をしてくれる。慎二は『当然のこと』なんて言いながら威張るのに。

 さっきだって、お礼を言って微笑んでくれたが、どこか引け目みたいなものを感じた。

 まるで、自分には誉められるようなものなんてなにもないし、誉められるような価値なんてない、みたいな────────

 

「……いや、いまはそんなこと考えたって仕方ないか」

 

「ん。なんか言った?」

 

「ん。あぁ、ただの独り言だ。気にするな」

 

 小さな声でボソッと呟いたつもりだったが、当麻に聞こえてしまったらしい。

 

「それより、そろそろ夕飯作らないとな。台所はどこだ?」

 

 そう言うと、当麻はうん、と相槌を打って俺を台所まで案内してくれた。

 

「ほうちょうはここ。フライパンとかなべはここ。しょうゆなんかはここにあるよ」

 

「分かった。ありがとな」

 

 フライパンは最低でも二個くらい必要だが、あるな。じゃあ、調味料は醤油にみりん、料理酒に塩と胡椒、七味唐辛子と、一通り揃ってるな。ナツメグなんかはさすがにないが、それは携帯用ミニ調味料ケースのなかにあるから、まぁ大丈夫だろ。

 さて、キャリーケースからエプロンと調味料ケースを取り出す。

 

「ねぇ、しろう兄ちゃん。いつもそれ持ち歩いてるの?」

 

 エプロンを身に付けると、俺が取り出した調味料ケースを見た当麻が質問してきた。

 

「まぁな。これがないと落ち着かないんだ」

 

 なかには辛子やナツメグ、わさびが入っている。他にも、時間があるときに作ってみたバジルソースなんかも入れている。というか、使うには微妙に残った調味料をそのまま捨てるのが勿体ないので、小さな容器に移して、再利用しているだけなのなだが。

 

「さて、そろそろ始めるか」

 

 米を研いで炊飯器の早炊きのスイッチを入れるまな板と包丁、冷蔵庫の野菜室から玉ねぎを取り出して、みじん切りにする。

 

「なぁ、当麻」

 

「なに?しろう兄ちゃん」

 

 居間でテレビを見ている当麻に呼び掛ける。

 その間に弱火に熱したフライパンに油を敷き、みじん切りにした玉ねぎを入れて炒める。

 

「なんで俺を泊めてくれたんだ?」

 

「そりゃ、たすけてもらったし、おれいみたいものだよ」

 

「そんな大したことじゃないだろ。見返りが欲しくてヤったわけじゃないし……」

 

「まぁ、おれいがしたかったってだけじゃないけどね」

 

「なんだよ。他にも理由があるのか?」

 

 玉ねぎが甘い香りを放ち始めている。

 コンビニで買った駄菓子の一つをつまみながら、難しい顔をしている。どうやって言葉にするかを迷っているようだ。

 

「しろう兄ちゃんがぼくににてる気がしたから」

 

「俺とお前が?」

 

 昨日遠坂にも言われたことを、当麻も口にした。

 それと同時に玉ねぎもあめ色になったので、塩を振って皿に移して冷ましながら、当麻の言葉を聞き返す。

 

「うん。でも、気のせいだったけどね」

 

 相槌を打って、すぐさまその可能性を否定する。

 それを追求するつもりはない。いまはあまり深くは踏み込めそうにない。

 冷蔵庫から合挽き肉をボウルに入れて、こね始める。

 

「……そうか。じゃあ、もう一つだけ質問してもいいか?」

 

 では、別の方法で切り込もう。

 上条当麻という年端のいかない少年を知るために。

 俺にはその義務がある。

 

「うん、いいよ」

 

「当麻はさ、なんでこんなところに住んでるんだ?」

 こんな立派なマンションに当麻が一人で住んでいる。

 俺もそうだったが、それでも俺には当麻の状況が極めて歪に思えた。

 ここは立派な家ではあるが、ここで住むには色々な弊害が伴うはずだ。

 まずは家事だ。小学生の当麻が毎日家事をやらなくてはいけない。料理から洗濯、掃除まで何から何まで全てやらなくてはいけない。小学生としての勉強や課題をこなしながらそれをやるには、小学生には酷というものだろう。

 次に通学の問題もある。

 このマンションは第7学区で小学校は第13学区。隣街と言えるぐらいの距離はある。毎日遠い学校に通っているのか。俺も家からは遠いほうだとは思っていたが、それとは比較にならない。

 マンション単体でみれば確かに便利だろうが、小学生が生活するには、逆に不便ではないだろうか。

 これが全てという訳ではない。むしろ本来の質問の意図のうちの半分といったところだろう。

 俺の質問に当麻が優しい微笑みで答える。

 

「ぼくが一人ぐらしがいいって言ったんだ。おかあさんとおとうさんにめいわくをかけたくないし……」

 

「いや、そういう意味ではなくてだな。でもまぁ、そういう意味でもあるかな。ここからだと学校へ行くための交通費も嵩むだろうし、食費だって発生する。小学生が住むには色々と不便だろ。それに──────

 

「それに?」

 

 現実的で金銭的な前置きはもう十分だ。

 さっさと本題に入ろう。

 

「─────それにさ、寂しくないのか?」

 

 ギシリッ、という乾いた音がなった気がした。

 この場を包む空気が変わる。そして、それを感じた当麻の表情も変わる。

 しかし、秘密を暴かれたときの苦痛の感情ではない。

 ただただ驚いている。多分、こんなことを見ず知らずの誰かに質問されたのは初めてなんだろう。

 当然、ここで止まるつもりはない。

 

「ほら、友達とかと遊び辛いだろ。それで寂しくとかないのかなって────」

 

 続けて質問の意図を伝えると、当麻もそれを理解したのかなにやら思案しているような様子のまま手探りの口調で答える。

 

「う~ん、ともだちはいるし、かじもしなくちゃいけないから、たまにしかあそべないけどね。うん、さびしくはないかな……」

 

「本当に?」

 

「……ごめん、すこしだけうそついた」

 

 別に問い詰めていた訳ではないが、確認を取ると、意外にあっさり嘘を認めた。

 苦笑いで頭を掻く当麻に、少しだけ笑みが溢れる。

 挽き肉から粘り気が出てきたところで、生の玉ねぎ、炒めた玉ねぎ、卵、パン粉、塩、胡椒、ナツメグを加えてさらにこねる。

 

「ほんとうのことを言うと、やっぱりすこしさびしい。みんなともっといっぱいあそびたい」

 

「だったら、なんで一人暮らしなんてしてるんだ。寮に入るって選択肢だってあったんだろ?」

 

「それは……めいわくかけたくないから」

 

 当麻はさっきの“迷惑”という言葉を改めて告げた。

 多分、俺は困惑と怪訝の混ざった表情で当麻を見ていたと思う。

 すぐにその感情を静める。そして、冷静に努めて質問する。

 

「迷惑って?」

 

「ほら、ぼくってふこうだから。きょうみたいなことがまいにちあって……だから、それでまわりの人にめいわくをかけたくないんだ」

 

「──────」

 

 当麻は言った。

 それが当たり前だと、それが前提だと、そう言った。

 多分、当麻はそうあるべし、と自分を戒めているのだろう。でも、それはとても悲しいことだと俺は知っている。その生き方がどれ程報われないものか俺はその身をもって経験している。

 先程までの怪訝な表情は気鬱なものへと変わり、心も同じようにどろどろした重苦しいものが纏わりつき、それを聞いてしまった、聞く選択をしたことを後悔した。

 どう返していいかが分からなかった。当麻のおかれている状況は、俺には到底許容しがたいものだった。しかし、それを真っ向から当麻に「違う」と言うこともなにか違う気がした。

 かといって、違う話題に切り換える気も起きず、それからしばらく会話が途切れた。

 肉ダネは完成した。

 あとは肉ダネを叩いて空気を抜き、ハンバーグの形に形成してフライパンで焼くだけだ。

 ……よし。ここで途切れた会話をやり直そう。

 

「なぁ、当麻。すこし手伝ってくれるか?」

 

「うん、わかった。なにすればいいの?」

 

「でも、この肉を形成して焼くだけなんだけな」

 

 当麻は手を洗い、隅に置いてあった台を俺の隣に持ってきて登り、ボウルのなかにある肉をとって手を平で叩いて空気を抜き始める。

 今更驚きはしないが、やはり慣れた手つきである。

 ただ、一人暮らしを始めてまだ一年しか経っていないのに、ここまでできるようになる飲み込みの速さには素直に感心する。

 

「今さらだけど随分手慣れてるな。俺なんてお前の頃にはまだまだ失敗ばかりだったのに」

 

「これもじいちゃんのおかげかな。おしえられるのはほとんどわしょくだけど」

 

 思ったことをそのまま賛辞にして伝えると、やはり当麻は謙遜を通り越した卑下した答えを返してきた。

 

「それでも凄いよ。俺なんてお前の年の頃は色々失敗ばかりしてたしな」

 

 そういえば、初めてハンバーグを作ったのも当麻と同じ小学二年生の頃だったけ。

 あのときも、藤ねえと一緒にハンバーグを形成したんだよな。

 今の状況との共通項をもとに過去の記憶を探りだして、感慨に耽った俺を、当麻は不思議そうに見ていた。

 

「どうしたの、にいちゃん」

 

「ん。あぁ、ちょっと昔のことを思い出しててな」

 

「……どんな?」

 

 当麻は俺の回答を聞くと、さらに深く追求してきた。

 さっきまで俺が質問攻めだったので、ちょっとした仕返しなのかもしれない。

 しかし、当麻は表情は依然としてキョトンとしたものだったので、単純に疑問を解消したいだけなのだと思う。

 

「いや、大したことじゃないぞ。ハンバーグを初めて作ったのって、丁度お前くらいの頃だったなって」

 

 さっきまでの回想をそのまま口頭で伝えると、当麻はへぇ、と興味深そうに目を輝かせていた。

 その期待に沿えるほど貴重な体験をした覚えは……あるな。一般人に話せるような代物ではないが。だが、それ以外は特にない山も谷もない、浮き沈みも小さい普通の人生を歩んでいるつもりなので、どちらにせよ当麻の期待に耐えうるものではないのだ。

 

「で、次はどうすればいいの?」

 

「時間があれば、しばらく肉ダネを寝かせておきたいんだけど、時間もないしあとはもう焼くだけだな」

 

「ってことは、皿を準備しないとね」

 

 当麻は手を洗い終えると、台を食器棚のほうに持っていき、食器を数枚取り出して俺の側に置いた。

「じゃあ、はこぶときにまたよんで」

 

「あぁ、わかった」

 

 さて、いよいよ最後の大詰めだ。

 弱めの中火に熱したフライパンに油を敷いて、肉ダネを投入する。

 パチパチ、と油の弾ける音が部屋全体に響き渡る。当麻も一瞬こっちを振り向き、そのあとソワソワしているのを隠しながらテレビを見ていた。

 ……ハンバーグが好物なんだろうか。

 

「なら、これを選んで正解だったかな」

 

 こちらをチラチラ見てくる当麻を見て、小さな声で呟く。

 暫くして、芳ばしい香りが漂ってきた。

 当麻は匂いに釣られたのかこちらを見て、慌てて目を逸らした。その様子に、当麻もまだ子供なのだと認識出来て、何故だかちょっと嬉しくなった。そもそもここまで打ち解けられたのだって、当麻が子供ならではの警戒心のなさで、俺の懐までするりと入ってきてしまったからだ。

 では、何故。

 俺は当麻に“子供らしさ”を感じなかったのだろうか。

 理由は単純。当麻がその“子供らしさ”というものを意図して隠していたからだ。

 では、何故。

 当麻は意図して“子供らしさ”というものを隠していたのだろうか。

 理由は単純。当麻がそんな環境に置かれているのだろうか。

 では、何故。

 当麻は“子供らしさ”を隠さなければならない状況に置かれているのだろうか。

 いままで目を逸らしてきた数々の疑問と向き合う。

 短い期間、一日にも満たない付き合いからですら感じられるほどの当麻の“異常性”。

 それは一体───────────

 

 パチパチパチッ

 

 意識の深層に潜ってしまいそうなところに、油の弾ける音が届く。

 

「─────あ、ヤベッ」

 

 まだそれほどの重大時にはなっていなかったが、急いで火を弱めて焼いている面をひっくり返す。

 表面だけこんがり焼けてしまった。でも、これならまだ弱火で焼く時間や蒸す時間の調整でなんとか対処できる。

「どうしたの、しろうにいちゃん」

 

「いや、考え事してたら焦がしかけたんだ。でも、まだ大丈夫だ。気にするな」

 

 当麻の心配そうな表情で台所に居た。

 多分。俺の深刻な表情をしていたのを見て、なにかあったのではないかと心配になって、台所に走って来たのだろう。

 いずれにせよ、調理中に考えることではなかった。食事中もなるべく考えないようにしなくては。

 自らの思考に反省しながら、調理を続ける。

「よし、あとはソースを作るだけだ。当麻、冷蔵庫にある惣菜を皿に盛り付けてくれないか」

 

「うん、分かった」

 

 さらに暫くして、ハンバーグの焼き上がりを確認して、余分な油を取り除き、そのまま台所で、俺の調理を見ていた当麻に頼み、用意していた皿の半分に冷蔵庫に入れておいた惣菜のサラダを盛り付けた。

 ケチャップとウスターソースとハンバーグの残りの油を交ぜて熱したお手軽ソースも出来上がった。

 皿のもう半分に盛り付けてソースを掛ける。

 丁度、炊き上がった白米を茶碗に盛り付け、ハンバーグと平行で作っていた味噌汁も出来上がった。

 

「よし、じゃあ運ぶか」

 

「うん」

 

 エプロンを脱いで、盛り付けた皿を食卓に運ぶ。

 そして椅子に座り、異口同音で揃えて合掌する。

 

「「いただきます」」

 

 当麻は早速ハンバーグを箸で割って欠片を口に入れる。そして、味わったあと満面の笑顔を俺に向けてきた。

 

「しろうにいちゃん、すっごくおいしいよ。これ」

 

「お褒めに預かり光栄だよ」

 

 当麻の賛辞を素直に受け取り、俺も当麻に倣い、ハンバーグを口を入れる。

 うん。途中、トラブルもあったけど、普通に美味く作れたな。良かった。

 当麻はハンバーグの味を気に入ったのか、物凄い勢いで全て平らげてしまった。

 

「い、一応もう二つくらい作ってあるんだが、おかわりとかいるか?」

 

「うん、おかわり!!」

 

「……はいはい」

 

 これまた満面の笑顔で、おかわりを所望する当麻は俺に皿を差し出す。

 それを受け取って、残りのハンバーグを取りに台所へ向かう。

 

「なぁ、一つ提案があるんだが……」

 

 互いに八割方食べ終わった頃、当麻に質問する。

 

「ん、なに」

 

 ハンバーグとご飯のダブルパンチを楽しんでいた当麻が箸を置いて、俺に聞き返す。

 

「いや、あと六日くらい俺はここにいるんだけど、その間、この家の夕飯は俺に作らせてくれないか」

 

「え、なんで」

 

「家事とかしてると気分が落ち着くんだ。ダメか」

 

「ううん。たすかるよ、しろうにいちゃん」

 

 当麻はそれをすんなりと受け入れてくれた。

 

────────────守りたい。

 

 そう思った。

 無論、俺が当麻の置かれている状況の全てを改善できるなんておこがましいことは思ってはいないけど、せめて俺がいる間、具体的には当麻を狙う魔術結社からは“守りたい”と思った。

 なんだか変な感じだ

 今思えば、俺は誰かを“守りたい”と思ったことなんて少ないかもしれない。

 これもまた、遠坂が言っていた俺を真人間にするという計画のちょっとした成果なのかもしれない。

 断定しきれない文言で申し訳ないが、とにかくそういうことだ。

 

 ただ、月の綺麗な夜に養父に理想を継ぐと誓ったときの決意に似た感覚があった─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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