ただ、士郎の心理描写をもっと上手くやりたい。
三日目突入です。それと同時にあと四日もあるのかと憂鬱になったりならなかったり
もう無理矢理仕上げたので出来とか最悪かもしれませんがごめんなさい。
「……はぁ」
月曜日。
一週間の始まり。
その日を清々しく思う者も居れば、気怠い気持ちになる者も居るだろう。
人によって全く反対の印象を与える月曜日という日の朝に、穂村原学園の制服を着用し、登校の支度をしている遠坂凛はため息をついていた。
どうやら彼女は後者の人間らしい。だが、彼女のため息の要因はその他に二つほどある。
それを説明するためには時間をおよそ昨日の夜にまで戻す必要がある。
夜の衛宮邸にて。
遠坂凛。間桐桜。藤村大河。
三人の女性のあいだに一触即発の空気が流れていた。
といっても、その空気の原因は二人の姉妹であり、あと一人漂っている雰囲気に野生動物の本能が反応して警戒しているだけなのだが。
一言でも話せばそれだけで戦争が始まる一歩手前の膠着状態が、もう30分も続いている。
このような事態になっている理由は、ひとえに衛宮士郎の不在によるものだ。
この家の会話の中間点として、この家の住人の会話を上手く回していた衛宮士郎の不在によって、それなりに個性の尖っている三人の女性の会話が噛み合う訳もなく、こうした気まずい雰囲気が漂う事態となった。
「……」
「……」
まぁ、それだけではこんなピリピリした緊張感が出るわけない。それなりに個性が尖っているとはいえ、妥協や空気を読む術は心得ているので、ここまで無言にはならないだろう。
ではさっさと本題に入り、この緊張感の正体についての説明をさせてもらおう。
というか、こっちのほうがこの場面にとっては重要なので語らざるを得ないのだが。
今更語ることでもない周知の事実だが、遠坂凛と間桐桜の二人は衛宮士郎に好意を寄せている。そして、衛宮士郎が学園都市に行っている間、毎日午後9時に定時報告として電話が掛かってくる。
それは、互いに士郎と話すことのできる数少ないチャンスなのだ。
凛はその時間を誰にも譲りたくない。
桜をその時間を奪い取りたい。
ならば当然。姉妹は戦う運命にある。
同じ男に好意を寄せる二人の女として。
ただ、二人の少女は賢く強かなため、すぐに事態は動かない。
如何にして相手を出し抜き、先に電話に出るか。
いま二人の間には高度な心理戦が繰り広げられているに違いない。
9時まであと10分と差し迫ったところで、沈黙が崩れる。
その沈黙を打ち破ったのは桜の方からだった。
「姉さん、今日は帰らないんですか?」
「今日は泊まるわ。夜も遅いし、もうすぐ士郎から電話掛かってくるしね。桜のほうこそ帰らないの?」
「そうですね。明日も早いですし、それも良いかもしれませんね」
桜の追及と牽制のジャブを軽くいなしてそのままカウンタージャブを放つ。桜もそれを想定していたのか軽いフットワークで回避する。
こうした刹那の攻防の後、お互いに愛想笑いを浮かべながら緑茶を啜る。
「さ、さーて、私はテレビでも見ようかね」
こうした雰囲気に耐えかねたのか、大河は逃げるようにリモコンを手にしてテレビの電源をつける。といっても、放送されているのはバラエティー番組。それも本当に終盤のゲスト俳優によるにドラマの番宣なので、気まずさが増すだけだった。
引くに引けなくなった大河はテレビに視線を向けたまま、姉妹の様子を伺う。
そのまま時間は過ぎ、九時まで二分に迫ってきているところで姉妹の間の雰囲気は戦争一歩手前を通り越して冷戦状態に突入した。
どちらも同じような意味で、冷戦の使い方を間違えているが、この際気にしないでほしい。
それより、大河のほうに意識を向けてほしい。姉妹から発せられる凍てつく吹雪にさらされ、身体に悪寒が走り、全身に鳥肌が立ち、産毛という産毛が逆立っている。大河の第六感、即ち野生の勘が、今すぐここから逃げ出せと訴えかけている。
しかし、ここで立ち上がったのは大河ではなく、凛だった。
「姉さん、どこに行くんですか」
「……お手洗いよ」
桜の追撃も素知らぬ素振りで受け流し、トイレのほうの廊下の襖を開ける。それに思い過ごしかとひとまず桜も安心して警戒を解く。
しかし、凛は部屋を出る直前。
桜は見た。凛が悪魔のような笑みを溢したのを。
襖が閉まると、戦慄。桜の身体にも鳥肌が立つ。桜が察知したのは魔力の流れ。すぐさま立ち上がり、凛の後を追おうとするが、襖は開かない。
「くっ、開かない。魔力の流れの正体って!?」
思わず声に出して動揺する。
そういえば桜は、いつ士郎から電話が掛かってくるかという肝心な情報を知らなかった。かといって、その話題を深く追及してしまえば桜の意図を凛が看破してしまうから。
なので、凛の様子を伺い、怪しいと思ったタイミングで彼女を追い、電話を奪い取る。それが桜の狙いだった。
だが浅はかだった。凛にそんな軽率な思考を見透かせない訳がない。だからといって、魔術まで行使してくるのか、姉よ、と桜は思う。
そして、その姉は玄関の少し先の廊下に置いてある電話の前で勝利を確信した笑みを浮かべ、胸を張って立っていた。
「施錠の魔術。しばらくはそこから出てこれないわよ、桜」
……命が惜しいなら大人げないなんて言ってはいけない。
彼女はそれだけ士郎と話しがしたいだけなのだ。
プルルルル。プルルルル。
勝ち誇る彼女に、いよいよ勝者の景品が舞い降りる。しかしながら、凛はすぐには受話器を取らない。
『遠坂は常に優雅たれ』
遠坂家の家訓に従い、常に余裕をもって行動しなくてはいけない、と凛は自分を戒めている。それは当然、恋人と話すときも適用される。
……というのは建前で、単にすぐに出てしまうと電話の前で待機していたのかと思われかもしれないと、それが恥ずかしいだけである。
取り敢えず5コールくらい待ってから受話器をとることにした。
「もしもし」
『もしもし。遠坂、俺だ』
「どちら様でしょうか?」
『たった数時間話さなかっただけで忘れ去られるほど存在感薄いのか俺はっ!?』
凛のボケに的確なツッコミを入れる士郎。
「うそうそ、冗談よ。だってアンタって欲しいところに欲しいツッコミをくれるんだもの。こっちもボケがいがあるってものよ」
『まぁ、家にはいつもボケ倒してる人が居たからな……誰とは言わないが』
「あぁ、成る程……」
先程とは打って変わって、楽しそうな声で士郎と話をする少女。
どれだけ心待ちにしていたのだろうか。
「それで、今日の収穫は?」
ただ、この電話の本来の目的は定時報告。学園都市での上条当麻捜索の状況を聞かなくてはならないのだ。
『えっと、その事なんだが……』
士郎が困ったような声で答える。
「なによ、1日やそこらで成果があるわけないのは分かってるわよ」
それを、なにも収穫がないと判断した凛は呆れた口調で言う。
『いや、収穫はあったんだけど……どう説明するべきが分からなくて』
「えっ、本当に!?」
驚きの感情をそのまま言葉にする。だが、凛も少し息を吐いて感情を落ち着かせてから続けて質問する。
「それで、どんな収穫なのよ?」
『いや、収穫があったことであんなに驚いてたなら、もっと驚くことになると思うぞ』
「大丈夫よ。さっきは不意を突かれただけだから、然程のことなら驚かないわよ」
『わ、わかった。じゃあ、言うぞ』
士郎は前置きをして、さらに一呼吸の間を置く。
おそらく、凛の心の準備をする時間を用意しているのだろう。凛もそれに報いるべく、できるだけ多くのパターンを想定し、驚きに対する免疫を即席で作り上げる。
『上条当麻に会ったんだ。それで、いま当麻の家に泊めて貰ってる』
「────────────」
一瞬で凛の思考は止まる。
あらゆる思考が白く塗り潰され、脳がフリーズする。
そして。
数秒後、脳が色を取り戻し、士郎の言葉を理解しようと働き出す。
そして。
さらに数秒後、言葉の意味を咀嚼し、理解して飲み込む。
「はぁ──────」
ため息をひとつ挟んで、思索の熱を冷やす。
そこまでの沈黙に痺れを切らしたのか、士郎が受話器の向こう側から声を出す。
『凄いな、遠坂。本当に驚かないなんて。少しは驚くかなと期待していたんだけど』
「いや、凄く驚いてる。驚きすぎてリアクションが取れいくらい驚いてるわ」
『そ、そうなのか?』
「人間、本当に驚いたらこんなものよ……」
『俺も初めて当麻に会ったときには同じ事になったよ』
まさか1日目からここまで事態が動くとは凛にも想定外だった。
「で、どんな子だった?」
『いい子だよ……ただ、どこか違和感みたいなものを感じたな』
「違和感?」
『────ごめん、これも上手く言葉にできない』
凛は士郎の声色とともに感情が低く沈んだのを感じ取り、深くは追及しないことにした。
さてと、本題を済ませてしまえばあとは自由時間。話せるだけ話して士郎成分を補給してしまおう。まずは手始めに、と話題を振ろうと思ったところで、士郎の会話で見落とした点に気付く。
「って、その子の家に泊まってるってホテルはどうしたのよ」
ピキリッ。
その一言で空気が変わった。
『はぁ……遠坂』
「な、なによ」
士郎はため息を吐いて、気怠げに凛を呼んだ。それに肩を少し竦めながらも聞き返す
『遠坂、ホテルに行ったら予約されてないって言われたぞ。お前、ちゃんと予約したんだろうな』
「……え?」
そう言われて、凛は記憶を探り出す。つまりは回想だ。回想のなかで回想を語るのだ。なんともまどろっこしいが、今回は了承して欲しい。
昨日は確か、桜に前もって教わっていたパソコンで宿の予約をやっとの思いで最後の予約確定を押すところまで行って、そのあとは────あ、士郎に夕飯が出来たと言われて押さないまま行ってしまったのだった。それで、戻ってきたときには忘れてしまっていた。
「そういえば……してなかった」
『やっぱり』
今度は呆れた様子で答える士郎。
なんとも言えない気まずさが漂う。イメージとしては部屋に隠しておいた筈の大人な本を目の前に突き出された息子のような感覚だ。心なしか士郎の口調も、娘を叱る父親のようなものになっているような気がする。
「ご、ごめん」
『……いいよ。明日までに予約をもう一度取ってくれれば』
自分の“うっかり”を指摘された凛は、後ろめたそうな声で謝罪の言葉を口にする。。
士郎は本当に困った調子で答える。
「怒ってないの?」
『正直なところ、少し怒ってる』
凛の質問に、素直に答える士郎。そのまま続ける。
『でも、遠坂の“うっかり”は始まったことじゃないしな。それに、あのおかげで当麻に会えたんだし、結果オーライだったんじゃないかなとも思ってる』
「……ありがとね、士郎」
『いいよ。けど、本当に明日までには予約を取ってくれると助かる』
「うん、わかった。やっておくわ」
何気ない士郎の優しさを再確認し、胸をときめかせる乙女こと凛。
では改めて、士郎成分を補給しよう。
「で、士郎。どうだったの、学園都市─────」
瞬間。
手から電話がヒョイ、と奪い取られるのを凛は察知した。凛は後ろを振り返ると、魔術で居間に閉じ込めた筈の桜が黒い笑顔を凛に向けていた。
しかし、一瞬で満面な笑顔で受話器を顔に近付ける。
「先輩、元気ですか。ご飯ちゃんと食べてますか?」
『え、桜か……あぁ、ちゃんと夕飯は食べたよ』
「それでですね先輩……あっ」
「あぁ、士郎。どう、学園都市は」
『藤ねえ!?な、なんでさ!?』
桜が受話器を野性動物に奪われ、硬直した隙に凛が桜に飛びかかる。
勢いのままに姉妹が揃って倒れる。上にいる凛のほうが一瞬早く立ち上がり、マウントポジションをとりながら問い質す。
「桜、アンタ、どうしてここに!!」
「姉さんは日本家屋を舐めすぎです。日本家屋は襖と障子で出来ているので、どこからだって出てこれるんです。少し遠回りすることになりましたけど」
「なっ、しまった……」
押し倒されながらも不敵に笑う桜。
毎度の如くうっかりを爆発させた凛はマウントポジションをとったまま力なく頭を垂れる。
しかし、桜にも“遠坂”の血は流れている。即ち、彼女も少なからず“うっかり”の特性を持っているのだ。
「うん、うん、りょうかーい。それじゃ、また明日ね~」
「「あっ!!」」
虎は二人が争っている間に少し話して、電話を切ってしまった。二人の少女は保護者を見る。視線に気付いた虎は悪戯に笑いながら二人に言う。
「んー、まだ話すことあったの?」
衛宮家の家庭内ヒエラルキーが垣間見えた瞬間である。
そして、時間は現在へと戻り、さらに夜まで凛と桜は周りにも分かるほど陰鬱な雰囲気を漂わせていたのであった。
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不思議な人。
それが、少年が赤毛の青年に抱いた印象だった。優しそうに笑うのに、どこか悲しそうというか、辛そうというか、苦しそうな感じがしてしまうから。
なんとなく、青年のことが知りたくなって、宿がなくなってしまってたと言っていたというのもあり、家に泊めると言った。
彼は悪いと断るが、少年が泊めさせてくれと何度も言われたのに根負けして、青年は少年の提案を受け入れた。少年は、あとから何故あんなに強情だったんだろう、と疑問に思うくらいあの時の少年は頑固だった。
青年について知れば知るほど、少年も悲しい気持ちになった。それは同情で、青年の心に踏み込む失礼な行為なのかもしれない。
──それでも、少年は青年は儚げに見えた
「──────ん、」
目を覚ますと、見馴れた白い天井が少年の視界に飛び込む。半分寝惚けている意識を呼び覚ますために、洗面台に向かう。
部屋の扉を開けて居間に出ると、美味しそうな匂いが鼻先に触れる。匂いを辿って台所まで歩いていくと、赤毛の青年がフライパンで魚を焼いていた。
数秒後、少年の存在に気付いた青年────衛宮士郎は、少年のほうに優しい微笑みを向ける。
「あぁ、当麻。おはよう」
「おはよう、しろう兄ちゃん」
目を離していても作業が続いている。やり方が手に染み付いているのだ。その主夫力に、尊敬の念を抱いていると、少し遅れて士郎が言う。
「悪い。台所勝手に使っちゃって、早く起きちゃってさ。なにかしてないと落ち着かなくて……」
「いや、ありがとう。それに、ボクのほうこそごめん」
本来士郎は客人で、その役目も自分のするべきことであると少年は考えている。それも、一週間ずっと士郎に任せてしまうというのはあまりにも申し訳ない。
昨日は士郎がそう言ってきてくれたのが嬉しくて二つ返事で了承してしまったが、今になって考えてみれば、士郎に対していらぬ苦労を掛けているかもしれない。
「止めてくれ。そういう意味で言ったんじゃない」
士郎は苦笑いをしながら、口調の優しさだけは変えずに少年に言う。言葉を受け取った少年は、逆に申し訳なさが大きくなり、反射的に謝ってしまう。
「う。ごめんなさい」
「いや、謝らないでくれ。好きでやってることなんだから。それに、顔でも洗ってきたらどうだ。朝飯は運んどくから」
「あ、そうだった。それで出てきたんだった」
依然として、困ったように笑う士郎は焼き上がった魚を皿に移す。少年はそれを見ると、そのままテクテクと、洗面所まで向かっていく。
顔に冷たい水をパシャッ、パシャッ、と顔に張り付け意識を呼び覚ます。タオルで顔を拭き、居間に戻ると机の上には本格的な和食が並べられていた。
「しろう兄ちゃん、朝からこれをつくったの?」
「ん。あぁ、有り合わせのもので適当にだけどな」
そういえば、誰かの朝ごはんを食べるのは、半年振りなのではないだろうか。それも、こんなに手の込んだものとなると、そんな条件をもとに絞り込むと初めてだと思う。
なにが凄いかと言えば、まずは鮭の塩焼きである。橙色の身が照り輝いている。他にも卵焼きも白身と黄身がまざった優しい色、見るだけでも分かるふわふわした外見。味噌汁からも、出汁の深く豊かな香りが鼻孔をくすぐる。
つまり、全て美味しそうだ。
「……てきとうのレベルをこえてるよ」
「ごめん、やり出したら止まんなくて」
「どうしよう。これぜんぶ食べられるかな」
「大丈夫だ。もし残ったら俺の昼食に回すから」
その言葉に少し疑問を覚えつつ、少年と士郎は机に座る。
三度、異口同音。
「「いただきます」」
テレビに映るニュースを見ながら、おかずを白米とともに頂く。鮭の程よい塩味が白米とよく合う。全て食べられるか不安とは言ったが、これならなんとか食べられそうである。
「なぁ、当麻」
「なに、しろう兄ちゃん」
ニュースで気になる記事を見つけたのか、箸を置いて、少年に質問する。
「
「えっと、一言で言うならただの不良集団だよ」
「不良集団?」
少年は士郎の次なる疑問に『うん』と前置きを置いて、搔い摘んだ説明を始める。
「しろう兄ちゃんは、学園都市がちょうのうりょくしゃをつくってるのは知ってる?」
「まぁ、なんとなくはな」
「でも、ボクもだけどほとんどの人は大したちからをもってないんだ。べんりなちからをもってるのなんて学園都市にすんでる人たちのほんのちょっとしかいないの」
士郎はそれを聞いて驚いていた。
当然だと思う。かくいう少年も、ここに来た頃は自分の能力に目覚めるのだろう、という期待をほんの少しは抱いていたりした。
しかし、実際に蓋を開けてみれば、少年も含めた学園都市の約6割が
「……それで、力のつよさによって
「そんな制度なのか」
「うん、それで、その
「な、成る程な」
青年は呆気にとられる。そして、少年の言葉の意味を理解すると痛そうな顔をした。
少年はそれに申し訳なさを覚え、今朝から数えて三回目の謝罪を口にする。
「ごめん、朝からするような話じゃなかったよね」
「いや、俺から始めた質問だしな。気にしないでくれ」
士郎がなんのニュースを見ていたのかが気になり、玉子焼きを口に運びながら、テレビの方を見る。
「あ、これ。きのうもあったんだ」
「え、なにがだ?」
「
少年の言葉を受けて、士郎は再びテレビを見る。
テレビには昨日に引き続いて
ここで、改めてこの襲撃事件について説明しておこう。この襲撃事件が始まったのは、いまから一週間と少し前に7名の
といっても、まだこの段階ではテレビのニュースで報道されていなかった。学園都市ではこんなことは日常茶飯事だし、いつもの不良同士のいざこざということ処理され、それは2日目や3日目、4日目まで同じだった。
だが、5日目から事態が動く。襲撃の痕跡が、一周して1日目の痕跡と合致したのだ。さらに6日目の痕跡は3日目と合致した。
つまり、集団による計画的な犯行だと言われ始めたのだ。これにメディアが食い付かない訳がなく、こうしてニュースで報道されるようになったというわけだ。
閑話休題。
暫くして朝食を食べ終わり、士郎は台所で皿を洗っていると、私服に着替えた少年はランドセルを机に置いて、士郎のところへと歩いていく。
「しろう兄ちゃん、でんわばんごうとメールアドレスおしえて」
「……別にいいけど、なんでだ」
士郎は洗った終わった皿を水切り台のうえに乗せて、掛けてあるタオルで手を拭きながら答える。
「ばんごはんをつくってくれるのは本当にうれしいんだけど、なにをつくるのかとか話しておきたいなって」
「そうか。ありがとな、当麻」
そのまま、二人の携帯番号とメールアドレスをお互いの電話帳とアドレス帳に登録する。
そのあと、少年はなにかを思い出したように居間にある引き出しを開けてなにかを取り出し青年に渡す。
「これ、合鍵。鍵がしまってたら開けて」
「これはさすがに受け取れないよ」
士郎は困ったような表情で、首を横に振る。しかし、少年の目を見て諦めた。
受け取った青年は苦笑いを浮かべながら言う。
「お前なぁ、仮にも他人にこれを渡すか」
「え、なんで。しろう兄ちゃんは他人じゃないじゃん」
満面の笑みで言う当麻に、青年も呆気にとられるしかなかった。
丁度、家を出る時間になったようで、少年はランドセルを背負い、士郎はキャリーケースを持つ。玄関を出て廊下に出る。
「じゃあ、夜にな」
「うん、いってきまーす」
──こうして、二人の奇妙な共同生活が始まった。