FLOWER KNIGHT GIRL -運命の赤き翼- 作:シビリアン
相変わらず拙い文章力ですが、読んで頂けたなら幸いです。
それではどうぞ!
スプリングガーデン、それは命の根源である世界花によって支えられた人間達の母なる大地が広がる世界。
この世界にはそれぞれの方角に世界花が存在し、そこを中心に国家が出来上がっていた。
――気候が安定し、スプリングガーデンの中で最も栄えており、原初の花騎士であるフォスが生まれたとされる国家ブロッサムヒル。
――自然と共存するという思想を掲げ、森を切り拓いてではなく、森の中に街が造られている、スプリングガーデンの中でもっとも歴史が長い国家リリィウッド。
――三方の海に囲まれ、とても活気に溢れており、他国の人間も容易に受け入れ、観光地としてもかなり有名な常夏の国家、バナナオーシャン。
――急な渓谷に囲まれ、生活するのにそのままではとても厳しい為、その為に生まれた高度な技術を使い、発展させていった国家、ベルガモットバレー。
――どの国家よりも過酷な気候で、人が暮らすにはそれなりの覚悟を試させる、スプリングガーデンの最北端に位置する常冬の国家、ウィンターローズ。
――国土の殆どが水で覆われ、世界花の加護によって水上と水中に国が分けられ、資源の供給が厳しいが害虫の被害が少ない為に他国の力を借りる必要もないと判断し、近年まで厳しい鎖国政策を敷いていた国家、ロータスレイク。
それぞれ人々の長年の知恵を絞り、発展させていった世界。世界があり、そこに人がいるから、世界の均衡は保たれている。だが、それを崩すかのように現れたのが、害虫である。
元々害虫はかつて益虫と呼ばれ、人間と共生する家畜やペットといった種族が違う良き友のような存在だったが、スプリングガーデンの外側からやって来たとされる、"死にゆく世界の支配者"という存在の呪いによって変貌し、人々を襲う存在へと化してしまった。
死にゆく世界の支配者は原初の花騎士たちによって既に討ち倒されているが、それが残した呪いは強力で、今でもなお存在し続けている。
そして、その害虫の犠牲となった国家が1つだけ存在した。
それはかつてどの国家よりも先に害虫が発生し、害虫によって成す術もなく滅ぼされ、世界花も害虫によって汚染されて枯れ果て、人が住める環境でなくなった国家、コダイバナだ。
その国のように世界花が害虫によって汚染されてしまえば、人間の居場所は潰され、滅亡の一途を辿ってしまう。
それを防ぐために花騎士、そしてそれを統べる団長の存在は必要不可欠だった。
その花騎士の団長の一人である青年、シン・アスカはブロッサムヒルにある騎士団の団長執務室で書類整理に追われていた。
「えっと、これはこの前の任務の結果報告で、これがあの時の探索の結果、これが他の騎士団との合同演習の時の報告で…だぁーっ!くそっ!いくらなんでも書類多すぎだろっ!」
「仕方ないだろう。組織が大きくなればなるほど以前よりも仕事が増える、それはどの職務でも同じことだ」
シンが整理する書類の多さに毒づいていると、隣で彼と同じく書類整理をしている彼の補佐であり親友でもある金髪の青年、レイが手を止めずに淡々とそう口にする。
「いや、それは分かってるけどさぁ…。…議長や艦長もこれを何度も経験してたってことだよな。今になってその大変さが分かったよ…」
「そうだな、俺達は元々は戦士として戦っているだけだったから、こう言ったものには縁がなかったも当然だった。まあ書類を書くことは前からもあったが、せいぜいレポートぐらいだな」
そう言いながらも書類整理を着実に進めているレイを見て、やっぱり凄いよなレイは、とシンは感心する。
こんなこと考えてて手を止めてたらいつまで経っても終わんなくなってしまうと思ったシンは再び山のようにある書類と向き合って書類整理を再開する。
―――――――――――――――――
「や…やっと終わった…」
「ご苦労だったな、シン」
「ああ、レイこそお疲れ」
あれから3時間程経っただろうか、書類に向き合って集中しながら整理をし、間違いやミスがないことも二人で確認して、何とか書類整理を終わらせることができた。
もし自分一人だけだったら、絶対長々と持ち越しになっていただろうから、正直レイがいてくれて助かった。
「よし、ではこの書類は俺が上に出しておこう。お前はここでゆっくり休んでおけ」
「えっ、いいよそこまで。この騎士団の団長は俺なんだから俺が持って行くよ」
そんなことを考えているとレイが纏め終わった書類を持ちそう言うが、それをするのは俺の役目だからとレイを止めようとする。だけどレイは首を横に降った。
「いや、俺が持っていこう。お前は団長として戦場で花騎士達を指揮するだけでなく、自らも戦うんだろう?ならいつでも備えれるよう万全な状態でなくてはならない」
「いや、確かにそうだし、レイの厚意はありがたいけどさ、でも流石にそこまでしてもらうのは…」
「気にするな、俺がしたくてやるだけだ。…俺がお前のためにできることはこれくらいだからな」
こうも言うということは意地でも自分で持っていくつもりなんだろう。変なとこに頑なになっているレイに俺は溜め息をついてしまう。
レイは昔から良い奴で、アカデミー時代にもわからない教科があるとき、呆れられながらも何度も教えてくれたりもした。時には俺が起こしてしまった厄介事も庇ってくれたり、自分は関係ないはずなのに、負担してくれたときもあった。
それ以外にもいろいろ迷惑を掛けてしまったレイには申し訳ない気持ちしかないから、レイにあまり負担を掛けないようにしているんだけど、レイがこの通りだから俺は苦笑いを浮かべてしまう。
「…分かったよ。じゃあお願いしてもいいか?」
「ああ、任せろ。お前はゆっくり休んでいるんだ」
「ありがとな、レイ。でもお前もちゃんと休めよ?お前だって自分の仕事があるんだし、あまり俺の仕事取りすぎて体調不良なんてされたら困るからな?」
「大丈夫だ。少なくともお前よりは無茶はしてないし、体調管理もちゃんとできているつもりだ」
「なっ…」
「では失礼する」
書類を持って退室するレイから皮肉げにそう言われ、俺はカッとなったが、レイから言われた事に思い当たる節しかなかったから言い返すことができなかった。
「…やっぱりレイには敵わないな」
レイが出ていった執務室の扉を見て、俺はそう呟くしかなかった。
――――――――――――――――
「…て言ったものの、何もすることなくて暇だ…。やっぱり俺が持っていけば良かったかな…」
レイに言われた通り休んでいたシンだったが、忙しかった先程とは打って変わって何もすることがなくなった為、暇を持て余していた。
先程は仕事の多さに毒づいていたというのに今は退屈と言うもんだから、全く持って贅沢な青年である。
「…何かすげーメタクソ言われたような気がするんだけど」
恐らく気のせいだ。きっとまだ疲れが残っているのだろう。
シンが執務室で暇を持て余していると、部屋の扉がノックされ、シンは中に入って良いと許可すると、開かれた扉の先には紫色の髪をした少女、アネモネが立っていた。
「仕事お疲れ様、貴方」
「ああ、ありがとう。…それで、どうしたんだ?」
「今レイさんが書類持っていくのを見たから仕事終わったのかなって思って、ケーキ用意したんだけど…一緒にどうかな?勿論、手作りだよ」
そう言うアネモネの手にはケーキが入っていると思わしきバスケットがあった。
彼女が持ってきたケーキは店で売っているものではなく、手作りだとのことだ。
「ケーキか、丁度今甘い物食べたかったんだ。サンキューな、アネモネ。じゃあ俺紅茶用意するからそこの席に座っててくれるか?」
シンはわざわざケーキを持ってきてくれた彼女に感謝して空いている席にアネモネを座るよう言うと、シンは棚からティーポット、茶葉、ティーカップを用意し、手慣れた手つきでポットに茶葉、お湯を注ぎ、二人分のティーカップに紅茶を淹れ、カップの1つをアネモネの前に置く。
「ありがとう。…この紅茶、いい香りだね」
「それは良かった。この前買い物に行った時にたまたま買った茶葉だったから、俺は好きな香りだけどアネモネにはどうかなって少し不安になってたんだ」
「そうなんだ。…あ、じゃあケーキ用意するね」
そう言うとアネモネは持ってきたバスケットから二人分のチーズケーキを取り出し、シンが紅茶セットと一緒に用意した皿の上に崩れないよう綺麗に乗せていく。
「うわぁ、凄いなこのチーズケーキ。手作りなんだろ?…あれ、でもアネモネって甘いの苦手じゃなかったっけ?」
「あ…うん、そうだね。私は甘い物は好きな方じゃないけど…貴方に、その…食べてもらいたかったから…」
「え、あ、ありがとう…じゃあ頂こうかな」
「うん、召し上がれ」
自分の為に、そう言われたシンは気恥ずかしくなりながらもアネモネが作ったチーズケーキをフォークで一口サイズに切り、口に運ぶ。
「…美味い」
「…本当?」
「うん、美味いよ。このチーズケーキ、凄く美味い!」
シンの心からの感想にアネモネは安心すると同時に、嬉しい気持ちで心が満たされた。
「良かった。パウンドケーキは何度も作ってるから慣れてるんだけど、チーズケーキは初の試みだったの。だから上手く作れてるかどうか不安だったから…」
「えっ、これ初めて作ったのか!?」
アネモネの言葉にシンは驚く。初めて作ったにしてはとても美味しく、ケーキの形もしっかりしていたからシンは信じられないといった感じだった。
「そうだよ。だから気に入ってもらえて良かった。もしまた食べたかったら作るよ?」
「じゃあまた機会があったらお願いしようかな。…と、紅茶の方も飲まなきゃな、冷めちまう」
「うん、頂きます」
そう言って二人はティーカップの紅茶を口にする。紅茶特有の仄かに甘い香りが鼻孔を擽り、お湯の程よい温度と紅茶のほろ苦く、甘い風味が心を穏やかにさせる。
「…あ、この紅茶美味しい。私の好みかも」
「そりゃ良かった。紅茶って色んな種類があるから、口に合わなかったらどうしようかって思ってたからさ」
「私は好きだよ、この味。…貴方が選んだ、って言うのもあるから」
不意打ちに少し頬を染めながら笑顔で言うアネモネにシンの頬も赤くなってしまう。
シンから見てアネモネは美人の類に入り、そんな彼女に真正面からそんな事を言われてしまったらどんなに鈍くても意識してしまうのだ。
「団長とアネモネさんが何やらいい雰囲気っぽくなっててエノテラ、嫉妬の炎でメラメラ燃やし尽くしてしまいそうです」
「エ、エノテラ!?」
「エノテラさん?」
お互い何やら気恥ずかしくなっていると突然執務室の入り口から声がし、振り向いてみるとそこには薄い桃色の髪を長く伸ばしているスレンダーな体型の少女、エノテラが面白くないような顔をしてそこに立っていた。
「入るのは別に構わないけど、せめてノックくらいしろって!」
「おや、そう言えば忘れてました。ですがもう過ぎたことなのでどうしようもありません。それにそんなに対して重要なことでもありません」
「いきなり入ってくるのはどうかと思うけど…」
相変わらずフリーダム思考なエノテラにシンとアネモネは呆れたような感じになる。だがそんなこと関係なしにとエノテラは執務室の中に入り、団長席、正しくはシンがいる席に近づいていく。
「団長、エノテラを放っておいてアネモネさんと優雅にティータイムですか。一番付き合いが長いのはエノテラだというのに。シクシク、エノテラは悲しいです。この気持ちをどうしてくれましょう」
エノテラはそう言いながらもシンに顔を近づけてくる。
エノテラの言うとおり、シンとエノテラは傭兵団の頃からの知り合いで、他の花騎士よりも付き合いが長いのだ。
「いや、別に放っておいたって訳じゃないんだけど…ってか顔近い!顔近いぞエノテラ!」
「エノテラ的にはまだ遠いです。という訳で団長、エノテラは団長との時間を所望します。今すぐです」
「ちょ、いいから離れろって!」
「エノテラさん、その辺にした方が…」
アネモネの制止を無視してシンに顔を更に近づけるエノテラに、エノテラの整った容姿で迫られるシンは必死になっていると言うのもあり、顔を赤くしながら離れるよう言いながら、後ろに体を下げようとする。
「う、うわぁっ!?」
「あ、貴方!?」
すると突然、椅子のバランスが崩れ、そのまま椅子と共に後ろに倒れそうになる。それを止めようとアネモネが動いて支えようとするが時既に遅し、椅子は壊れこそしなかったがひっくり返り、シンは床に倒され、側に来たアネモネも巻き添え食らってシンと共に倒れる。
「いてて…ったくもう…」
「だ…大丈夫…?」
「あ、ああ…俺は大丈夫だ…。アネモネこそ大丈夫か?何か巻き込んじゃって…」
「あ…うん、大丈夫だけど、その…」
「?」
シンが床に倒れ、アネモネがその上に被さるように倒れてしまった為、無事かどうかの確認をシンはするが、アネモネのどぎまぎしたような答えが帰って来た為、シンは頭に疑問符を浮かべる。
「…ん、何だ、これ…何か柔らかいものが…」
「あっ…ん…っ」
「えっ?」
手に触れている物を確認するため深く考えず本能的に動かしてしまうシンだったが、アネモネのどこか艶っぽい声を聞いて何故か嫌な予感がして、まさかと思い手元を見るとシンの片方の手がアネモネの豊富な胸に触れていたのだ。
「うわあああああっ!?ご、ごめんアネモネ!」
自分が何をやってしまったかに気づいて慌てふためいたシンは直ぐ様アネモネの胸元から手を退ける。
「…いやらしい…」
「うっ…」
倒れた状態から元の姿勢に戻ったアネモネは胸を隠すよう両腕を抱き、顔を赤くしながらそう言う。
それを終始見ていたエノテラはつい耐えられなくなり、突然シンを床に押し倒した。
「ぐあっ!今度は何なんだよ!?」
「エノテラの目の前で他の花騎士にラッキースケベとは、いい度胸です団長。そんな団長にはエノテラ流の修正をしなければならないようです」
「な、何だよエノテラ流の修正って!?」
「それはエノテラのみが知っています。…さあ団長、お覚悟を」
「ちょっ、おま、何するんだ!やめろよこの馬鹿っ!」
そう言ってエノテラはシンの服に手を掛けようとし、嫌な予感がしたシンはエノテラを止めようとするが、そこはエノテラ、変なところで計算済みで腕を動かせないよう床に押し倒した時から既に足で押さえつけ、力もそれならに入っているため動かそうにも動かせない。
エノテラとは長い付き合いの為これから何をしようとするのかシンは何となく察し、やめるよう言うがそれで止まるエノテラではない。
シンの服にエノテラの手が掛かったその時だった。
「…何をしている?お前たち」
書類の提出から帰って来たレイが、シンとエノテラをどこか冷めたような視線で見下ろしていた。
――――――――――――――――――
「散々な目にあった…」
あの後、書類の提出から帰って来たレイに俺とエノテラはこっぴどく叱られた。
アネモネは巻き込まれたって感じだったから不問にされた。
…アネモネが執務室から出ていくまで目を合わせる度にお互い顔赤くして気恥ずかしそうにしてしまった。
エノテラに関してはレイの説教で反省はしていたが、あの様子だと後で何かされそうだな…。全く持って不幸だ…。
「…団長?」
そんなこんなで俺は外の広い庭で溜め息をつきながらゆっくりしていると、後ろから不意に声を掛けられる。
誰だろうと振り向いてみると、水色のショートヘアーに深い青色の瞳をした小柄な少女が立っていた。
「こんなところでそんな無防備な状態にしてたら、以前のわたしなら後ろから刺してたよ?」
「ははっ、そうだな。…でも今は違う、だろ?イフェイオン」
その少女…イフェイオンに返事をすると彼女は頷く。
「わたしは団長を殺さない。…団長が両親の本当の仇じゃないって分かったから。でもこの気持ちが…復讐するって気持ちが消えた訳じゃない…」
「…」
淡々とそう言うイフェイオンに俺は何も答えられなかった。
イフェイオンはごく普通に平穏に暮らしていた少女だったが、自分達の住んでいる町に害虫が押し寄せ、その時に両親を失ったそうだ。
しかもその害虫は何処かの団長が害虫討伐の作戦中に逃がしてしまった害虫だったらしく、彼女はその作戦の指揮をしていた団長を憎み、あらゆる手段を使って花騎士になり、復讐を果たそうとしていたのだ。
当初イフェイオンからその団長が俺だと聞いたときは雷が打たれたような衝撃を受けた。
自分のせいで平穏に暮らしていた一人の少女を巻き込んでしまったことに俺はどうすればいいか分からなかった。
『もしもあの時力があったなら、誰だってそう思うときはあるさ、多分…。でも、力を手にしたその日から、今度は自分が誰かを傷つけることになる。それだけは、忘れるなよ』
『組織の正義が通用するのは組織の中だけだ。奪われた悲しみの前では、自分のやったことは全て自分自身にのしかかってくる。それが銃の重みだ。お前は強い、だから絶対に忘れるなよ…』
かつてアスランが俺に言った言葉が深く突き刺さる。力を振るうということはそういうことなんだと、その時に初めて思い知らされた。
だから俺は彼女のその想いを否定せず、もし殺されても自分はそれだけのことをしてしまったのだから俺はそれを受け止めようとした。
けど後日になって書類を調べたとき、偶々イフェイオンの家族が巻き込まれた時の作戦の報告書が見つかり、その時の作戦を受けたのが自分ではないことを知り、それをイフェイオンが知ったとき、彼女は酷く困惑していた。
『そんな…だって、わたし、今まで貴方に復讐するために今まで生きていたのに、今更そんなこと言われたって…』
『イフェイオン…』
『どうして…わたしは、貴方に酷いこと言って、今まで貴方を殺すことばかり考えていた筈なのに、仇じゃないってわかって、安心している自分がいるの…』
『でも、それじゃわたしは今まで何のために…わたしは…わたしは…あ、うああああああっ!!』
ぐちゃぐちゃになった感情をどうすればいいか分からなくなったイフェイオンは遂にその場で泣き出してしまい、俺はそんな彼女を放っておけず、優しく抱きしめた。
俺には彼女のその気持ちが痛いほど分かる。俺もかつて戦争で家族を失い、力を求めて軍に入り、誰かを守れる力を手に入れたと思った。
だけど力を手に入れたのに、大切な一人の女の子…ステラを守れず奪われ、奪われた悲しみを怒りと憎しみに変え、ステラを殺した奴…フリーダムへの復讐を心に決め、如何なる手段を使ってでも奴を撃つと思っていた時期があった。
もし自分がイフェイオンと同じ立場だったら、彼女のように感情が複雑になってどうすればいいか分からなくなっていたかもしれない。
イフェイオンとは和解はできたが、それでも彼女を不幸にしてしまったのは俺達騎士団長にあるも当然だから、彼女のような人間をこれ以上出さないために、俺は戦い続け、平穏に暮らしている人々を守って見せると改めて心に誓った。
「それでどうしたの?こんな所で溜め息ついて、何かあったの?」
「ん、ああそうだな…」
イフェイオンの質問に答えるように俺は先程の事をそのまま話すとイフェイオンは途中ジト目で俺を睨み付け、話を終えた後呆れた顔で溜め息をついた。
「…何やってるの団長…。それはレイさんに怒られて当然だよ」
「う…俺もそう思ってるよ…」
「それにアネモネさんにそんなことして…わたしにだって、前にあったことあるのに…」
「あ、あの時は悪かったってホントに!」
そう言いながら顔を若干赤くするイフェイオンに俺は改めて謝罪をする。
あの時…まだイフェイオンが俺を憎んでたとき、書類の提出がギリギリで急いで終わらせ、提出しに向かっているとき前をよく見ていなかったんだろう、俺は通路の曲がり角の先にいたイフェイオンにぶつかり、そのままイフェイオンを押し倒すという形になって彼女のその…胸元に手を当ててしまい、彼女に思いっきり顔を赤くされながら睨まれた時があった。
「団長ってよくそんなこと起こすけど…わざとなの?」
「んなわけないだろ!?俺だって本当はそんなことしたい訳じゃないんだよ!」
「それはそれでたちが悪いね」
「うっ…」
イフェイオンのその一言で何も言えなくなってしまう。何であれしてしまったのは自分だから見苦しい弁解なんて無意味だ。
「ふふっ…冗談だよ。団長が嬉々とそんなことする人じゃないって分かってるし、何より団長は優しいから、そんな気も起こす筈もないしそんな勇気なんてないと思うから」
「褒められてんのか馬鹿にされてんのか分かんないなそれ…」
「あ、いや、別に馬鹿にしてる訳じゃないよ?ただ本当に悪くない人だって言いたくて…」
「ははっ、冗談だよ」
俺の言葉にちょっと戸惑いを見せるイフェイオン。冗談だと言うと、イフェイオンはジト目になる。さっきの仕返しだよ。
「…団長の意地悪」
「お互い様だろ?」
「…うん。…ねえ、団長」
「ん?何だ?」
イフェイオンはそう言うと俺の隣に座り、その小柄な体を俺の肩に預ける。
「わたしは本当にここにいていいのかな?ここに来るまで、わたしは私以外に花騎士になる筈だった子達を蹴落として、卑劣な手段を使って花騎士になって、団長に復讐するために酷いこと言って、命も奪おうとして、そんなわたしがこの騎士団にいる資格なんて…」
「イフェイオン」
段々と自分を責めるイフェイオンに、俺は言葉を止めさせ、イフェイオンに真正面に向かい合う。
突然の事に困惑するイフェイオンをよそに俺は言葉を続ける。
「気にするな、俺は別に気にしてなんかない。人は形がどうあれ間違いは起こしてしまうものなんだよ。俺だってそうだ、自分が正しいと思っていたことが本当は間違っていたことも今まで沢山あった。だけどその間違いは自分を変えるチャンスでもあるんだ。前がこうだったら次はこうしようって、変えれるんだよ。それが許される生き物なんだ、俺達は」
「団長…」
「間違いは間違いって認めて、変わればいいんだ、少しずつでも。それにもしお前が困っていたら俺が助ける。俺だけじゃない、レイや他の花騎士だって同じ筈だ。だからそんなことは言うな、イフェイオン」
そう言うとイフェイオンは顔を俯かせてしまった。…説教臭くなってしまったかな、俺が言える立場でもない筈なのにな…。
そんなことを考えていると急にイフェイオンが俺の胸元に顔を埋め、俺はイフェイオンに抱きしめられる形になった。
イフェイオンの急な行動に戸惑い、どうしたのかと聞こうとする。すると彼女は俺の胸元でその小柄な体を震わせていた。
「…ずるいよ団長は。そんなこと言われたらわたし、団長に縋り付いちゃうかもしれないよ…?」
「イフェイオン…」
「わたし、本当は団長から離れたくない…ずっと団長と一緒にいたいよ…!」
「…ああ、俺もだ。君を一人になんてしたくない。君にこれ以上寂しい思いはして欲しくない」
俺の胸元で絞り出すように言うイフェイオンに優しくそう語りかけながら彼女の体を抱きしめる。するとイフェイオンは抱きしめる力を先程より強め、嗚咽を漏らし始めた。
彼女は巻き込まれた少女だ。本来はきっと優しい性格で、争い事なんて好まない子だったかもしれない。
君の姿は、かつての俺に…僕に似ている。だから初めて会ったその日から、君を放っておくことができなかったんだ。
俺は願う、どうか彼女がいつか、本当に幸せになれる日が来ることを、心の底から願った――――
お疲れ様でした。
次回もいつ投稿するかは未定ですが、書く予定ですので、その時もこの花騎士×SEED DESTINYをよろしくお願いいたします!
それではまたどこかでお会いしましょう!