AFTER LORD   作:フリーマスタード

19 / 20
Dark Angel's Tragedy③

「クソッ!なんて事だっ!あの、化け物め!」

 

 テーブルをガシャン!と怒りに任せて叩いているのはマウントウェザー・アンダーグランドアーコロジーで定期集会中の世界を陰から支配する者達――ワールドイーターである。

 

「我々は喧嘩を売る相手を間違えたのかも知れませんね。死者を数億人蘇らせた上に地形まで変える様な相手に戦争をした所で勝てる見込みは極めて薄いでしょう。ここは一つ、取り返しがつかなくなる前に適当な国に責任を押し付けて手を引くのが賢い選択であるかと」

「しかし、どの国に責任を押し付けるのだ?既に都合が良いロシアと中国は魔導国に抑えられておるしのぉ……しかも、石油の産地である中東まで抑えられて……これも全て奴の思惑通りという事か。何と言う恐ろしい智謀じゃ。見余ったワシ等の完敗だわ」

 

 ワールドイーター達の意見は2つに分かれており、何としても異世界の土地と資源を独占したい”タカ派”と神を相手に喧嘩を売って勝てる筈が無いから手を引こうと言う”講和派”に分裂していた。

 

「ちょっと待ってください。私が手に入れた日本政府からの情報によりますと、魔導王と呼ばれる人物はユグドラシルと呼ばれたゲームのプレイヤーで、鈴木悟と言う小学校卒業後に営業職で働いていた凡人との事なのですが……」

「は?何を寝ぼけた事を言っている?あんな化け物がサラリーマンなわけが無いだろう!くそう、日本め。適当な事を言いおって。今後、我々に手を貸すつもりは無いという事か」

「これは不味いですね……これ以上、魔導国に国を奪われる前に手を打たねば。正直、レアメタルの産地である中国が寝返ったのはかなりの痛手です。日本の半導体と中国のレアメタルを同時に失うとなると、ハイテク産業への大打撃は不可避です」

「どうつもこいつも負け方ばかり話し合ってふざけるな!」

 

 ガタン!と勢いよく立ち上がるのは件のトライセンデンス社――巨大財閥の娘で、アメリカ合衆国大統領を兼任しているエリザベス会長。以前にも『核戦争でも起こして地上の劣性人類を綺麗に掃除すれば良いのに』と発言したり、民間諜報組織N17を経由して香港マフィアを動かし暗殺を企んだり、内部でもかなりのタカ派として悪名が高い。

 当然、彼女はトライセンデンス社日本支部をラナー達に潰され、信用と株もガタ落ちでワールドイーター達の中で最も被害を受けている。

 

「裏切った日本に制裁を加える必要がある様ね。当然、あの国はテロ支援国家としてG7加盟国から除名する。日米安保条約の破棄をチラつかせて、禁輸措置をした上で海軍を動かし全ての航路を塞いでやれば、アメリカとの経済的・軍事的衝突を恐れて日本国民の世論は反魔導国に動くでしょう」

 

 ここで中国やロシアに対する前哨基地でもあり、天然の壁ともなっている日本がアメリカから離れて魔導国寄りになってしまうのは困るエリザベス会長。ほとんど脅迫に近い強引な方法ではあるが、中露が魔導国に接近している今のタイミングで日本まで失うのは、アメリカとしても相当に痛いのだ。

 仮に日本が中露と同じく魔導国側になった場合、一番最寄りの米軍基地がハワイまで後退してしまい、アジア圏における優位性が損なわれてしまう。

 それにただでさえ、魔導国から大量の資源を得て大幅に国力が増大する恐れがある中露の太平洋進出を許す事になりかねない。

 

「……フン、魔導王が何を企んでいるかは明白じゃない。中露を合衆国にぶつけて私達の身動きを封じるつもりなんでしょうけど、そんな事を許して堪るか!それにこんな小賢しい手を討って来る事自体が、神では無い事の証明よ。恐らく、真正面から戦えば私達に勝てない故に中露を利用している筈。数億人蘇生させた『神の御業』とやらも、何度も行使出来ない可能性が高い。あのレベルの技を何度も使えるのなら、力ずくで征服してしまえば良い。それを”行わない”のでは無く”出来ない”のよ」

「いや、しかしな。それを考慮したとしても、たったの数日で我々の世界の政治や経済や文化を把握して効果的な手を討って来る、底の知れない智謀を持った相手だぞ……?」

 

 意見が対立している中、黙して聞いていたリーダー格と思われる雰囲気の男性が口を開く。

 

「ところで、ポータルで向こう側に第二陣として送った米国の巡洋艦や空母の艦隊はどうなったのだエリザベス」

「……残念ながら、ジェラルド・R・フォード級航空母艦のエンタープライズを含む20隻とも通信が途絶えて行方不明になりました。捜索に送った哨戒機も『天使は本当にいた。我々は天国を侵略しようとしたのか……』の一言を最後に通信途絶した為に詳しい事は何も分りません」

「そうか……奥の手を隠し持っている可能性が高い。そして、お前の財閥に損害を与えたラナーと呼ばれる人物だが、魔導国側の人間と考えて良いだろう……恐らく、ネズミだ」

「は?……いえ、申し訳ございません。つまり、我々が異世界を発見する()()()()から既に魔導国からの刺客が送られていたと?」

「そうだ」

 

 彼は財界や政界の著名人やイギリスで貴族位を持つ大物が揃っているワールドイーターの総裁とも呼べる人物であり、各国の通貨発行権を握る全ての中央銀行を束ね、スイスに本部を持つBIS(Bank for International Settlements、国際決済銀行)の理事会会長である。

 22世紀現在、世界中の国家がどれだけ紙幣を印刷するかを決められる、世界に流通する『お金の総量』をコントロール出来るが故に全ての資本主義国家や巨大複合企業を束ねている地球の支配者とも呼べる人物で、流石のエリザベスも大きくは出れなかった。アメリカでさえ、彼に首根っこを掴まれているのだから。

 

「ま、待ってください……それでは、初めから彼等は我々の文明に精通していたという事ですか!?つまり、EGHは魔導国……なんと言う事……」

「待て。そもそも、我々がポータルを起動する前から、どうやって此方に送ったのだ?……まあ、それは良い。問題なのはEGHの創始者であるラナーが魔導国の人間ならば、合衆国の主要な企業が奴の支配下にあるという事ではないのか?」

「ああ、そうだ……そして、東京湾に現れた”エリュエンティウ”とやらは、我々の世界を侵略する為の前哨基地として見て良いだろう」

 

 と、冷静に答えるワールドイーターの総裁。

 

「日本政府の内通者によれば、魔導国のルプスレギナと呼ばれる人物が貧困層のアパートで生活をしている。彼女を拉致して徹底的に尋問しろ。同居人の一般人男性は口封じで殺せ。我々は既に出遅れており、情報を得る事が先決だ……彼女は人狼で”銀”が弱点であるそうだ」

「人狼ですか……わかりました。直ちにCIAに通達致します。して、国連サミットはどの様に?」

「お前が先程述べた通りに進めれば良い……そして、次は無いぞ。エリザベス大統領」

「ならば、我が英国からもMI6を派遣してCIAに協力させよう。人狼(ライカン)に現代文明の恐ろしさを見せてやろうぞ」

 

 頬を引き攣らせながらも、了承するエリザベス。こいつを必ず支配者の座から引きずり降ろす為に謀反を起こすと心に決めて。そして、名案を思い付く。

 

(そうだ、魔導国を逆に利用してぶつけてやれば良い。どうせ、中国とロシアも同じ腹積もりでしょうし、目には目を、だ。世界の王者だった古き良き『強いアメリカ』を取り戻す。一つの楽園に蛇は二匹も必要ない)

 

 ワールドイーターを裏切り、彼等を壊滅させる事で通貨発行権をアメリカ政府に取り戻して世界の覇権を再び握る計画を思い付いたエリザベス大統領は心の中でほくそ笑む。

 

(EGHのラナーに連絡を送ろう。敵ながらも奴の手法は嫌いでは無い。それに彼女は理性で動く人物だからこそ信用できる。敵の敵は味方と言う奴だ)

 

 

 

 

「……と、言う様な具合で彼等は内部分裂するでしょう。アインズ様にお仕えする喜びを知る私達からすれば哀れにも思いますが、彼等の弱点を見抜き、私が10年程慎重に時間を掛けるつもりでいた計画をたったの一日で進めてしまったアインズ様の一手には恐縮するばかりです。本当に彼等には相手が悪かったと心から同情致します」

 

 と、凄く嬉しそうにウルベルトさん達に説明するデミウルゴス。

 

「うわー。モモンガさんってそんなに凄い人だったんだ……でも、酷いし許せないよね。一生懸命に働いて生きてるアタシ達を何だと思ってるのさ。虫か?容赦なくやっちゃってデミウルゴス。うん、全面的に許可する」

 

 と、ワールドイーターの存在を知って怒な茶釜さん。暗にそいつ等を殺せと言っている様な物で、隣のペロロンチーノさんが蒼褪めていたり。

 

「ご安心ください!ぶくぶく茶釜様!アタシがこてんぱんにしてやります!」

「ボ、ボクも……ぶくぶく茶釜様を虫扱いする人達を許せないので一人残らず殺します」

 

 アウラとマーレがそう言うや否や、世話係のエルフ王国の側近達の目付きが変わる。アウラとマーレは1300年前にスレイン法国にゲリラ戦を仕掛けていたエルフ王国の王を兼任しているのだ。

 ちなみに本来のエルフ王は娘である番外ちゃんにズタズタにされる家族間のトラブルに巻き込まれて死亡した。

 

「アウラ、マーレ。そんなに無理をしなくて良いからね……私が今更言える事では無いけど、出来れば……いえ、気にしないで。何でもない」

 

 首を傾げるアウラとマーレを見て、出来れば平穏に生活して欲しいのだが、自分にはとやかく言う権利は無いだろうと心の奥にしまう茶釜さん。

 1300年の長い時を生きて、最早自分以上の人生経験を積んだ立派な個人なのだから。

 

 最早、立派に自立しているアウラやマーレよりも、今一番心配なのがこれから生まれて来る子供の為にどうするべきか?と言う事である。

 一見、華々しく見える声優業は多忙を極めてヘロヘロさん並にブラックだったりするのだ。事務所やプロダクションの『商品』として扱われて奴隷と変わらなかったり。

 番組なんかを下で支えるアニメ―ションやCGのクリエイター達等の制作人は『エンドクレジットに名前が載るから』と入社当時は仕事量の割にアルバイトよりも給料が低かったりするので、もっと過酷な環境ではあるが。

 

 とはいえ、好きだからこそ辛くても今まで頑張って来たのだが、今のこのご時世では前世紀の様に長期休養なぞ事務所が二つ返事で許してくれる筈もなく、相当に揉めた上で茶釜さんは休養を取っていたりする。

 子供が生まれるからと言っているのに、事務所のマネージャーが勝手に仕事を取ってきた時は『は?』とキレた茶釜さん。

 で、休むのなら番組制作が遅れる事によって生じる損失額を賠償しろと言ってくるもんで揉めたところである。

 これに関しては最終的にウルベルトさんが『訴訟を起こすつもりなら、御宅の社長が左翼団体から接待を受けた事を白日の元に晒しますけど、どうします?』と公安から圧力を掛けてくれたので丸く収まった次第ではある。

 後はフル装備の番外ちゃんが茶釜さんのマネージャーが営業回りで運転中の自動車を真っ二つに切断した脅しも効果があり……

 番外ちゃん曰く『私の親みたいに妊婦を相手にパワハラをする奴は許さない。もしもここが魔導国なら殺していた……そして、階層守護者では無く、私が相手である事を感謝するべき』との事。

 そのマネージャーは真っ二つに割れた自動車の中で、外れたハンドルを握りしめて鼻水を垂らしてガタガタ震えながら番外ちゃんの説教を1時間程聞いたらしい。

 彼女も日本の社会を良くするために、弱い立場の人を守る為に公安第一特務課で仕事に勤しんでいたりする。そして、この件は日本の事情を知っているのでアウラやマーレに黙ってくれていたり。

 

 しかしながら、今後の育児を考えると収録やら出演依頼やらイベントやら色々と多忙を極めてスケジュールが常に埋まっている状態で子育てが出来るのだろうか?と不安になる茶釜さん。

 ウルベルトさんは『もしあれだったら職場に連れて行ってソリュシャンやエントマ達と一緒に面倒をみるよ。カウラウ課長もその辺は融通利かせてくれるし』と言ってくれてはいるが、捕らえたテロリストや犯罪者やらニューロニストの拷問器具が溢れかえってる職場なだけに色々と不安があったりする。

 何度かウルベルトさんの上司であるリグリットが遊びに来たりして、気さくで話しやすく部下思いな良い人だから、子供を職場に預けても大丈夫だろうとは思うのだが……

 

 それに、今はもう一つの選択肢が存在するのだ。仕事を辞めて、自然が綺麗な魔導国で子供を育てると言う選択肢が。子供の為を思えば、それがきっと最善の選択であると思う茶釜さん。

 大気汚染の霧や(もや)で年中どんよりとしている灰色の世界よりも、青空や緑が広がっているこの世界で生きる喜びを謳歌して欲しいと親としては思うのだ。

 もちろん、それには問題点もあり、日本の学校で教育を受けないとなると色々と問題が生じるだろう。日本人でありながら日本の文化に馴染めないと言う。完全に魔導国の人間として育つことになるのだ。

 しかし、今の日本で育つことが子供にとって幸せであるか?と問われれば首を捻らざるを得ない。

 子供を育てると言う事は母親にとっては人生の一大プロジェクトであり、日本か魔導国か、で悩んでいる茶釜さん。子供の為ならば声優を辞めて魔導国で暮らす事も吝かでは無いのだが、ウルベルトさんと家族会議をして慎重に決めるべきだろうと、後で時間を取ってもらう事にする。

 

 そんな事を考えている茶釜さんの顔を見て察したデミウルゴスが口を開く。

 

「……恐れながら、ぶくぶく茶釜様。もしも、魔導国に移住する事をお考えになられているのでしたら、基礎的な教育はユリ・アルファが担当し、更に発展的な政治や経済等に関する学問はこの私が責任を持って教育致します。ですので、ナザリック内はもちろんの事、お気に召された土地で自由に暮らして頂ければと思います。至高の御方に仕える事が私達シモベの役目であり、金銭的な問題は何もご心配には及びません。日本よりも良い暮らしを命に掛けてお約束致します……お望みの場合は永遠の命や種族の変更及び専属のメイドを派遣する事も可能でございます」

 

 デミウルゴスも私情は表には出さないが、実はモモちゃんの爺となったコキュートスみたいに、妹とも呼べる存在に自分が持つ全ての知識を教える事を楽しみに想像していたりする。

 ウルベルトさんの娘でもある妹と、政治的な戦略を語り合ったり、木工大工をしたり色々と将来のビジョンを想像して楽しみにしているのだ。その点はアウラとマーレも同じく楽しみにして待っている。

 

「あ、ありがとう……旦那と相談してから決めるよ……」

「うーん、でもなぁ。通勤の度に異界門(ゲート)を開いてもらうのも悪いし……」

 

 と、割と今の仕事が好きではあるが、毎日二つの世界を次元の壁を越えて通勤するのも抵抗がありーので悩むウルベルトさん。まるでエリートビジネスマンみたく、毎日飛行機に乗って世界を飛び回るイメージ或いは、リニア新幹線で毎日大阪や名古屋から東京に通勤する金持ちみたいで抵抗を感じるのだ。

 

「いや、でもね。これは一度真剣に考えるべき問題だと思う。私が今の仕事を続けていたら子供の世話がほとんど出来ないし……この子の為に仕事を辞めようか考えていたんだ。ちゃんと母親として育ててあげたい……ファンよりも我が子の方が大事だから」

「わかった、今度は俺が支えるよ」

 

 

 

 

「ズドラーストビチェ、コワルスキー大統領」

『ズドラーストビチェ!ラナー会長。今日はどの様な御用ですかな?……背後の景色から察するに、魔導国ですかな?美しい世界だ』

「ええ、私の故郷であるリ・エスティーゼ王国ですわ。一度お越しになられてはどうでしょう?歓迎いたしますよ?……さて、実はご存知のG7サミットですが、急遽G20サミットも並行して行われる可能性が高く……その理由は説明せずともあなたならばご理解頂けると存じます」

『なるほど……つまり、魔導国への包囲網を築く為のG7サミットでは上手くいかないので、G20サミットで我がロシアや中国に追従する国家をこれ以上出さない為に釘を刺すと』

 

 ラナーがタブレットパソコンをスタンドで立てている画面の向こうでは、スキンヘッドの厳ついコワルスキー大統領が映っている。ちなみに異界門(ゲート)を開きっぱなしにすることでインターネット回線を王国からロシアに繋げている。

 

「そして、ロシアや中国に日本をテロ支援国家として非難する事で各国の世論を動かすのが目的でしょう」

『月面資源開発事業をNASAでは無く、ロシアと契約してもらえるのであれば、軍事力で黙らせますぞ?SNSに文字を打つよりも、ミサイルを撃ち込んだ方がメッセージが伝わりますからな!魔導国とて一つの惑星である以上、資源には限りがある。我がロシアはその点は愚かなワールドイーターと違い大局を見ている』

 

 コミュニケーションツールとしてはSNSよりもミサイルの方が優れていると言いたいコワルスキー大統領。

 

「ウフフ、ロシアンジョークが御上手ですね。しかしながら、必要があればお願いするかも知れません。私も前々から拠点をロシアに移す事を考えていましたので。何より、宇宙の分野においてはスプートニクと呼ばれる世界初の人工衛星を打ち上げたり、ミールと呼ばれる世界初の宇宙ステーションを打ち上げたロシアの科学技術に着目しておりましたので……私の()()もAn-225アントノフなんですよ?あれは素晴らしい機体です」

『それは素晴らしい!EGHの本社をロシアに構えて頂けるのなら、我がロシアは魔導国を全面的に支援致しましょう』

「ええ、有り難うございます。それでは、ダスヴィダーニャ。大統領殿」

 

 

 

 

 各地で物騒な会話が行われている中、そんな事を知らずに時速45キロの速度で登る事で有名な横浜ランドマークタワーのエレベーターで耳が痛くなって困惑しているラキュース達。

 ちなみに東京スカイツリーのエレベーターは時速35キロの速度で上昇するので、高さでは倍以上負けていても、日本で一番速いエレベーターの地位は保持している。

 ドバイにある高さ838mのブルジュ・ハリファよりも、297mの高さしか無いのにも関わずエレベーターが世界で2番目に速い高層ビルでもある。世界のエレベーターが速いランキング一位は台湾の台北(タイペイ)101と呼ばれる501mの高層ビルである。

 

 とはいえ、純粋に高さで言えば、ドバイの『シティ・オブ・ドバイ』と呼ばれる2400mのアーコロジーが建っていたりするので、もはや333mしか無い東京タワーはその辺の田園に建つ鉄塔みたいな物である。

 当然、都内には1000m級の高層ビルもぽつぽつと建っているので、完全に街に埋もれている。

 

『100年以上の歴史がある横浜ランドマークタワーにお越しいただき誠に有り難うございます。当展望台では最新の量子カメラを使用した360度のパノラマビューで霧が無いクリアな景色をお楽しみいただけます……南東側のベイブリッジの方向に見えますのは、日本が誇る最大のアーコロジー『横浜臨海アーコロジー』でございます。環境汚染にも負けず、人類が火星やタイタン等の大気を有する星に植民する際にも転用できる最先端の科学の結晶であり、アーコロジーの技術により豊かな未来と可能性が人類に約束された希望の象徴とも言える建築物でございます』

「わー!凄い!ねえねえお父さん。日本の未来ってどうなってるの?」

「ん?宇宙船とか飛んでいて明るい未来になってるよ」

「わー!楽しみだなー!」

 

 そんな都合の良い事ばかりを並べているアナウンスや周りの客の声を聞いて、かなりムッとするラキュース。

 

「たしかに、霧を無視して見る事が出来る技術は凄いわ……でも、置かれている現実を無視するのはどうなのかしら?絶望的な未来しか無いのに、未来が輝いているかの様に子供達に説明するのが許せないわ……例え絶望的ではあっても、むしろ、だからこそ、その真実を受け入れた上で立ち向かう事が必要なのに……」

「ああ、そうだな。目を背けていては何も解決しない……確かに、子供にとって酷な現実である事は理解できるが、私達だって痛みを伴って成長してきたのだ……魔導国があっても、彼等の意識が変わらない限りは同じ過ちを繰り返すだけだ。根本的な問題を解決できるのは魔法では無く、彼等自身だ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。