AFTER LORD   作:フリーマスタード

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日出ずる国の陽光②

 場所は現実世界に戻り2148年の成田国際空港。

 今話題の時の人が来日するという事もあり空港のロビーには各メディアの報道関係者やファンが殺到していて早朝から非常に騒が―――賑やかである。

 

『今、成田国際空港前から中継しています。本日はあのNASAと提携して自然環境を蘇らせている事で有名なEGHのラナー会長来日で朝早くから一目見ようと彼女に希望を与えられた多くのファンの方々が集まっているのですが、ご覧ください!凄い人だかりです!あ、今ラナー会長が乗っていると思われる大型プライベートジェット機が見えてきましたが、何という事でしょう!今の時代ではほとんど見かけない物凄く巨大な飛行機です!』

 

 ラナー会長程の大物の人物が一般の航空便に乗って来るわけもなく、万が一、空で犯罪に巻き込まれたら逃げ場がないので保安的な意味合いも兼ねて重要人物がプライベート機を使うのは当たり前なのではあるのだが、これがまた非常にデカい。

 なんと250t(安全基準値であり実際には300t以上)の積載能力を持つ6基もの大型ジェットエンジンを積んだ『アントノフ An-225』超大型輸送機をベースにプライベート機仕様及び近代化改修して魔改造された『エアフォースワン』も顔負けの『空飛ぶ宮殿』でド派手なご登場である。

 これではアメリカ合衆国の面目が丸潰れなのだが、今は巨大複合企業が国家よりも力を持つ時代なので問題ないだろう。

 この無駄にでか―――英気を養う為の快適さが隈無く追求されたラナー専用超大型プライベート機は王国のロ・レンテ城にちなんだ『EGH-1 ロ・レンテ』という名前である。ラナー会長は意外と遊び心のあるお茶目さんだったりする。

 まるでとある派出所のお巡りさんと愉快な仲間達に出てくるあの人並みの経済力である。

 

 この時代では燃料価格の高騰で一般の旅客機ですらアーコロジーで暮らす様な一部上場企業のエリートでなければ乗れず、唯一この世界で『夜空』を堪能できる手段でもある。

 当然利用者も限られているのでこの時代に運用されている旅客機は小型から中型が主流で大型機は姿を消している。

 比較的安い料金(ジェット機に比べれば)で利用できる電気プロペラ旅客機も存在しているが、こちらは速度と航続距離に難があり国内線のみである。

 

 ちなみに先程出てきた『一部上場企業』の『上場』とは証券取引所で株式の売買が出来る様になる事であり、『上場企業』は厳しい審査を通ってその株式を発行できるようになった企業の事を言う。さらにランクが『一部』『二部』などあり、『一部』はとても審査基準が厳しい為、それだけ社会的信用のある企業であり知名度も必然的に高くなるわけである。

 要は『一部上場企業』とは高い信用と責任が生じる『アダマンタイト級冒険者チーム』みたいな物であり、株式を購入して投資してくれる投資家=難度の高いクエストを指名依頼してくれる依頼者と同じような物である。

 3か月毎にやってくる『四半期決算リレー耐久マラソン』を延々と走り続けながら、株主総会では株主の我がま―――大変有難い貴重なご意見を頂いて運営方針を決めて行ったりと色々大変なのだが。

 ちなみにこのマラソン中に力尽きる事を通称『倒産』と呼ぶ。

 

 ともあれ、そんな限られた一部の上流階級しか一般の航空便が利用できないこのご時世にエアフォースワンよりも巨大な個人所有のプライベートジェット機を持つとは、上流階級を突き破って最早『天上の人』である。

 それでも、全く違和感が無くそれが自然体に見えてしまうのだから流石は元王族さんである。さらにその容姿も相まって非常にファンも多い。

 

 ……のだが、今まで散々人々から搾取して好き放題やってきた巨大複合企業の悪事の黒幕である『株主』達は当然、四半期決算の配当金額よりも投資額の方が一方的に遥かに上回っている今の状態、所謂(いわゆる)『超大赤字』を現在進行形でもたらす原因となっているEGHのラナー会長に対してそれはもう、秘密を知ってしまったベルリバーさんの時の比ではない程、ものすごーく大変に怒っていらっしゃるのである。

 

 そしてまさに今、ラナーが10年間経済界で派手に無双したおかげで、今まで陰から巨大複合企業や傀儡政治家を通して間接的に世界や歴史を思い通りに操り、この世界の全てを貪り食ってきた黒幕、公安第一特務課では便宜上『ワールドイーター』と呼んでいる投資家集団であること以外は謎に包まれている世界の歴史の裏で暗躍してきた超巨大組織が動き出し、『陰と陽』の本格的な長い戦いが始まろうとしていたのである。

 

 ……当然、早朝からの警護任務で黒塗りセダン2台を滑走路敷地内に停めて只今すごーく眠そうに缶コーヒーを飲みながら車内で待機中のウルベルトさんはカウラウ課長とラナー会長が裏で繋がっている事を知る由もなく。

 ……むしろ公安第一特務課の中でその事を知らないのはウルベルトさんだけであったりする。

 

 なぜならば、公安第一特務課のメンバーはカウラウ課長、ウルベルトさん、漆黒聖典第一席次『隊長』、漆黒聖典番外席次『絶死絶命』の4名しかいない故。

 人手不足に悩んでいて絶賛入隊希望者募集中である。

 

「ふぁあ~。あー眠い……イテッ」

「今、寝ようとしたでしょ?ただでさえウチは人手不足なんだから。ほら、もう飛行機が滑走路に入ってきてる」

 

 運転席に座っている番外席次こと『番外ちゃん』に肘で小突かれているウルベルトさん。

 ちなみに番外ちゃんは3か月前に教習所で普通自動車免許を取ってきたばかりである。

 担当教官が気を失うような素晴らしい運転を披露してきたとか。そしてその担当教官は番外ちゃんに職務中の居眠りで訴えられて減給処分を受けたそうだ。

 ……何ともはやである。

 

「は?なんじゃありゃ!?マジかよ!?資源が無いこのご時世にアントノフで飛んでくるとかどんだけ金があるんだよ!?」

 

 流石に生で初めて見たAn-225の迫力ですっかり目が覚めたウルベルト。

 この時代では化石燃料がほとんど枯渇しているのでAn-225を一回飛ばすのに掛かる燃料費は高級車が何台も買えるような金額になる。

 当然、電気プロペラ機や電気自動車みたいに電気でジェット機を飛ばすわけにも行かず、ラナー会長は海洋上に点在する複数の石油プラットフォーム(海上油田採掘施設)を所有する企業ごと買い取って自社専用の燃料をしっかり確保しているのだが。

 

「さあ、飛行機が止まったら直接近くまで迎えに行くんだから早くシートベルト締めて。もう車出すよ」

「はいはい。解ってますって。それじゃあ、今日のお勤めと行きましょうかね」

 

 なんだか物凄くこちらの世界に馴染んで板に付いている番外ちゃん。

 本日はテロ行為を警戒してロビーを通らず直接滑走路上でラナー会長を拾う事になっている。後続のもう一台の黒塗りセダンの方に乗っているのはカウラウ課長と第一席次。

 

 滑走路上に堂々と鎮座するAn-225の前に公安の黒塗りセダン2台がやってくると、機首の部分が油圧の力で折れる様に持ち上がりハッチが開くと同時に続いてスロープも降りてくる。この光景がこれはまた凄く圧巻なのである。

 貨物室だった部分は魔改造されて中世ヨーロッパに出てくる王室の様な内装になっており、所謂リ・エスティーゼ王国のヴァイセルフ宮殿の様な内装になっている。

 ラナー専用のこの『EGH-1 ロ・レンテ』の機体は貨物室が王室の様になっているが、もしも仮に座席を敷き詰めて『旅客仕様』に改造した場合は2000人は収容できる広さである。

 

 当然、今まで映画やネットでしか見たことが無かったあまりにも規格外過ぎる巨大な飛行機に一人だけ感動しているウルベルトさん。いつの時代も巨大な物は男のロマンなのである。

 

「ほぇー。こりゃあまた、近くで見ると一段とデカいねー」

「はい、マスク。これが無いと息ができないんでしょ?……いい加減にそろそろ人工肺にしたらどうなの?」

「お、悪いね。いやぁー、体の一部を機械にするのって、どうもね。やっぱり生身の身体が一番ですわ」

「ふーん……まあ、別に良いけど」

 

 魔導国勢の皆様方はこっそりと毒無効の魔法道具(マジックアイテム)やら疲労無効の魔法道具(マジックアイテム)やら色々と身に着けていらっしゃるのだが。

 誰にも悟られてはいけないとはいえ、何も知らないウルベルトさんが少し可哀そうである。

 

 An-225からラナー会長とクライムが降りて来ると、公安第一特務課の皆様で出迎える。カウラウ課長がラナー会長と挨拶を交わしている間、残りのメンバーは後方で周囲を警戒しながら待機中だ。

 

「久方ぶりじゃのう!ラナー会長。合衆国の方はどうじゃった?」

「あら、カウラウ課長もお元気そうで何よりです。自然環境再生事業も軌道に乗ってきましたので、今度はエネルギー開発事業の方にも本腰を入れて行こうと思い月面資源開発計画の打ち合わせをしてきました。月には”ヘリウム3”という資源がいっぱい眠っているんですよ?これからは宇宙の時代ですね」

 

 ウフフ(*´艸`*)と可愛らしい笑顔でスケールの違い過ぎる世界をお話になられるラナー様。

 

「はっはっは!この世界ではお主が”プレイヤー”みたいなもんじゃのう」

「ええ、こちらの世界は素晴らしいですね。大変気に入りました。特に”インターネット”があればこの世界の全てが手に取るように解りますからね。そうは思いませんか、クライム?」

「は、はぁ……流石はラナー様ですね。私はどうしても未だに慣れませんが」

 

 ラナー会長は王国時代にメイド達の噂話から情報を組み立てて点と点を線で繋いで正解を導き出してしまう様な規格外の洞察力を発揮していたわけであるからして、彼女にインターネットを与えるのは火薬に火を着ける様な物である。

 

「最近はクライムにパソコンの使い方を教えるのが一日の楽しみなんですよ?この世界では情報が”剣”に成りますからね。私がクライムの先生になって訓練ができるのでとても幸せです」

「それは充実した生活を送っている様で何よりじゃ。インベルンの嬢ちゃんにもこの世界を見せてやりたかったわ!きっと借りてきた猫の様に怯えて縮こまるじゃろうからのう、はっはっは!さ、あまりここで長話するのも後ろで待っている彼らに悪いからのう」

「彼のお友達も元気そうですね。そうそう、これを欲しがるだろうと思って用意しておきましたので後で彼に渡しておいてくださいね」

 

 ラナー会長がリグリットに手渡したのは『クライムのサインが書かれた写真』である。彼女も『ぶくぶく茶釜』さんが声優をやっている事は知っており、見事に思考パターンを見抜かれているので恐ろしい物である。

 

「ほぉう、あれだけ独占欲の強かった主が随分と丸くなったもんじゃのう」

「彼のお友達には色々とお世話になりましたからね。これぐらいならお安い御用ですよ?」

「はっはっは!王国でメイドを事故死に見せかけて手に掛けたお主が良く言うわ」

「あら、そんな事もありましたね。忘れてました。でも、千年も昔の事なんて流石にもう時効ですよ?」

「お主も相変わらずじゃのう。話しとると楽しいわ!」

 

 だんだん話の流れがどす黒くなっていくお二人方。

 ちなみに『リ・エスティーゼ王国語』で話しているので後ろにいるウルベルトさんは頭の上に『?』と浮かんでいたり。バイリンガル(二言語を使い分ける事)は便利である。

 

 そして、ウルベルトさん達にエスコートされながらラナー会長とクライムはカウラウ課長と第一席次の乗る後続車両に乗り込み、ウルベルトさんと番外ちゃんは先頭車両に乗り込み空港から出発する。

 早速、車内に入ると本題の話に入るラナー会長達。

 

「……それで、モモンガさん、いえ、鈴木悟さんの御友人であるベルリバーさんを殺害したと思われる黒幕の『ワールドイーター』達の動きが早ければ今日中にも何かしらあるでしょうね。彼らが厄介なのは私やデミウルゴス並みに知恵が回る事です」

 

 普段は笑顔でいるラナーが珍しく、本性を出した時の歪んだ表情とも違う真剣な表情になる。

 ワールドイーターと呼んでいる世界を陰から操ってきた投資家集団はラナーやデミウルゴス並みの頭脳と王国貴族達の欲深さを足した様な集団で、流石のラナー達も今回ばかりは分が悪い。

 ラナーやデミウルゴスの様な知恵が回る連中が大量に居るわけであるからして、流石のラナーも想定外の事態で少し焦っている。何せラナーでさえ今まで存在に気付かなかったのだ。

 

「恐らく、最初の一手はいきなり直接的な手段では来ず、何かしらの”ポーン”でこちらの反応を見ようとしてくるはずです。一応、こちらには鬼札としてワールドアイテム『傾城傾国』がありますが、人工知能に使用した実験に成果はありましたか?」

「はい、通常の機械には効果がありませんでしたが『人工知能』を持つ機械には無人自動車など種類を問わずに効果がありました」

 

 第一席次の報告を聞いて『ふむ』と考えるラナー会長。

 

「……とすると、どうやらこの世界の人工知能はシズ・デルタさんと同じ『自動人形(オートマトン)』として認識される様ですね。良い結果です」

「しかし、ラナー様。こちらの世界の住人の目の前でユグドラシルのアイテムを堂々と使うわけに行きません。一体どうなさるおつもりなのですか?」

「あら、クライム。あなたはもう少し『映画』を観た方が良いですよ?今夜は一緒に未来からやってきた殺人ロボットの映画を観ましょうね」

 

 そして『ああ、なるほど、あれね』と頷いている第一席次。彼は最近洋画に嵌っている。

 

「私の読みが正しければそのうち活躍する機会もあるでしょう。敵もきっとビックリするでしょうね……それでベルリバーさんがなぜ殺されてしまったのか色々と考えたのですが、まず一つ目の仮説は巨大複合企業の悪事を調べているうちに背後にいるワールドイーターの存在に辿り着いてしまった為に消された可能性。2つ目の仮説は私達も知らないワールドイーター内部の情報を何かしら掴んだ為に消された可能性ですね」

「……しかしのお、ラナーよ。ウチには『管轄』という物があってな。連中が国外にいた場合は手が出せんぞ?」

「あら、それぐらい私が知り合いのコネを使ってどうにでもするので大丈夫ですよ?それにいざという時はロシアとイスラエルにPMC(民間傭兵会社)を持っているので手が足りなかったら遠慮なく言ってくださいね。精鋭部隊をいくらでも貸しますよ?」

「やれやれ、”八本指”も随分とデカくなったわ。よもや国と変わらんの」

 

 流石に少し呆れるカウラウ課長。戦争が始められる様な軍事力を持っていればそれもそうだろう。

 

「それで先の仮説じゃが、もしも後者だった場合が気になるの……連中が必死に隠そうとする程じゃ。良い物ではないじゃろうな、当然」

「ええ、そして、後者の場合はそもそも何故ベルリバーさんが秘密を探ろうとしていたのかの動機が非常に気がかりです。どちらにしても今の段階では偶然ワールドイーターの存在に辿り着いて消された可能性も捨てきれませんので、まだなんとも言えませんが」

「うーむ、それは困ったのう。ベルリバーの件は奴らが傀儡政治家を使って政治的圧力を掛けてきおるからウチらも手が出せんし……」

「私達には時間なんていくらでもあるのですから、根気よく気長に行きましょう。時には何もしないで相手が動くまで待ってみるのも一つの手ですからね」

 




氷餅様、猫缶ささみ様、244様、誤字報告大変有り難うございます。
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