AFTER LORD   作:フリーマスタード

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ファーストコンタクト①

 社会の変化とは徐々に時と共に変容していくものと、ある日を境に突如として変わってしまう物の2種類がある。

 例えば良い例は幕末の日本にふらりと黒船に乗ったペリーさんが現れ『Hi! What's up?(やあ、最近調子どう?) :D』と鎖国をしていた江戸幕府を無理やり開国させて、明治維新と言う急激なイノベーションが起こり着物を着た人々が歩く街の中を鉄道が走ったりと一足飛びに産業時代に突入した事が想像しやすいだろう。

 この場合は技術が進んでいる国と技術が遅れている国が出会った事により起こるべくして必然的に発生した変化だったのだが、もしも、全く異なる体系で進歩した国同士が出会った場合は何が起こるのだろう?

 水と油の様に相容れぬ物として反発し合うのか、それとも、互いに混ざり合って一つの物へと収束していくのか。

 まさに今の世界は歴史上類を観ない程の劇的な変化の岐路に立っているのであった。

 

 たっち・みーと呼ばれた嘗てはユグドラシルでワールドチャンピオンの座に就き、リアルでは警察をしていた彼は今では地方議員から政治家を始めて外務大臣にまで出世していた。

 ライバルでもあるウルベルトさんが公安第一特務課で次々とマフィアや巨大複合企業の悪事を暴いて逮捕していく快挙を挙げているので『これは頑張らなくては』と一心不乱に努力した成果でもある。

 あのウルベルトさんが悪をガンガン倒しまくってネットの記事に載りまくっている中で、今のポジションを必死に守ろうとする保守的な政治家になってしまったら合わせる顔が無いと必死に彼との約束を守る為に頑張ってきたのだ。

 

 現在高校への進学を控え日夜受験勉強で寝不足気味の娘を『こら!早く起きないと遅刻するわよ!』と起こしに行っている妻や、『あと5分だけ~。ふぁあ~』なんてやり取りをしているミノムシ状態の娘のいつもの会話に苦笑しつつ、湯気の出てるホットコーヒーを『ズズズ』と啜りながらタブレット端末で今日のニュースの記事を読んでいるたっちさん。

 現在は世田谷区にある国会議員専用のアーコロジーに家族で住んでいるので、職場の外務省も目と鼻の先でゆっくりと家族の時間を大切にできるのだ。

 

「おー、またウルベルトさんが海外マフィアの拠点を検挙したのか。どれどれ……逮捕者1名、死傷者43名……これは内外で揉めそうですね。頑張らなくては」

 

 この公安第一特務課。わりと内閣でも賛否両論であり、特に日本国籍を持たない外国人をマフィアとは言え拘束尋問したり、ましてや殺傷してしまうと国際問題にも時として発展する非常にセンセーショナルで扱いが難しい物なのだ。

 野党やリベラル派議員から戦時中の秘密警察だの、軍国主義への回帰だのと色々ブーイングが出るのは22世紀になっても変わらない。とはいえ、それは建前であり、詰まるところは背後にいる巨大複合企業の()()()()()()()()()に取って都合が悪いから止めさせたいというのが本音である。

 本音を『建前』という『外装』で綺麗に包んでリボンを付けたりし、てんやわんやとするのが政治の世界である。こればっかりは何処の世界や時代でも変わらないし、未来になっても変わらない。

 

 だからこそ、そんな事お構いなしにガンガン容赦なく悪に裁きを下しまくっている『誰かが困っていたら助けるのは当たり前!』を地で行く正義のヒーローを体現しているウルベルトさんを見て、嬉しく思っていたりする。

 

 ……流石に『ヒャッハー!正当防衛だぜぇー!』とPKKのノリで派手に暴れているとは知らないが。

 

「ほら!あなたもニュースばかり見てないで未来にガツンと言ってください!」

 

 たっちさん、流れ弾に当たる。家庭は無慈悲な戦場なのだ。年頃の気が難しい娘にどう接すればいいのか判らず遠くから見守る姿勢を貫いていたりする。風呂場からブツブツとウルベルトさんを思い出すような独り言が聞こえてきたりして最近困っている。

 娘が毎日何やらせっせと書き込んでいる禁断のノートを見てしまい、そっと閉じたりなど。

 

「そろそろ起きなさい未来。勉強を頑張るのは良いけど、ちゃんと生活リズムは守らないと」

「わかった、わかったからぁ。もう起きるよぉ」

 

 橘 未来(たちばな みらい)。たっち・みーさんの娘であり、見た目はラキュースを黒髪にしたような感じで非常に顔立ちが整っている。なんだか凄くルーズに見えるかもしれないが、これでも中学で連続して委員長や生徒会長を務めている。父親のたっちさんに似て責任感が強く、優しくて強い子だったりする。

 普通の人は小学校を卒業するだけでも経済的に大変なのだが、そこはたっちさん達が夫婦で頑張って働いて大学までは進学させて良い人生を歩んでほしいという親の愛に支えられている。

 

 彼女が中学一年の時にウルベルトさんが遊びに来て『いいかい未来ちゃん。数学ってのはなぁ、弾が6発。悪党は20人。これをどうやって全員殺すかってのをよぉ、計算するのが数学なんだ』なんて実銃や実弾やナイフを見せながら変な事を教えたりするもんだから『ウルベルトおじさんカッケー!』と目を星にして禁断の病に目覚めてしまい、たっちさんは少し怒である。

 未来ちゃんの将来の夢は警察になって刑事か公安に出世する事で、その日の為に日夜決めセリフを考えて禁断のノートに書き記している。

 カウラウ課長なら『ラキュースを思い出して懐かしい』と即採用すると思われるので公安第一特務課ならいつでも門が開かれている。最早内定を手に入れた様な物で彼女の人生は安泰だ。

 

「お父さんはそろそろ仕事に行ってくるから、ちゃんと着替えて早く朝ごはんを食べなさい。それじゃあ少し早いけど行ってきます」

「いってらっしゃーい」

 

 寝起きでボサボサの頭をボリボリと掻きつつ手をピラピラ振る未来ちゃんに見送られて家を出るたっちさんだが、逃げた訳では無い。戦術的後退である。妻と娘の板挟みになっている全国のお父さんが唯一安らげる安息の地は職場だけなのだ。

 

 

 

 

 たっちさんが外務省に辿り着くや否や、派手に転んでいる人がいたり、何だか凄く早朝から慌ただしい感じだ。

 で、早速部下の秘書が大慌てでたっちさんの方に走って来るので『これは只事じゃないな』と覚悟を決めて身構える。外務省がここまで大荒れになるのは余程の国際情勢で大きな事件があった時だけである。

 というか、恐らく初めてである。まさか戦争じゃないよな?と危惧するが、ロシアや中国は最近静かなのであり得ない。

 

「橘外務大臣!良かった、今ちょうど電話をしようと思っていたところなので来てくれて助かりました!」

「一体何があったんだ?まさかどこかの国が宣戦布告してきたとかじゃないよな?」

「いえ、たぶんそれよりもっと酷い前代未聞の大事件なんですよ!詳しいことは磯野(いその)総理から伺うと思いますが、国連で主要国首脳会議を開いて別世界のアインズ・ウール・ゴウン魔導国に国連軍を派遣して開戦する可能性があるとか、転送ポータルだとか映画みたいな白金のドラゴンとの戦闘シーンとか情報がいきなり開示されて全部署が朝から大パニックなんですよ!」

「はっ?ちょっと待ってくれ、今なんて言った?」

 

 流石のたっちさんも破壊力の半端ない名前が出て来て耳を疑う。もう完全に目が覚めた。

 

「ですから、もう映画みたいな凄い迫力のドラゴンとの戦闘シーンとか―――」

「いやいや、それより前の奴」

「別世界のアインズ・ウール・ゴウン魔導国ですか?」

 

 まさかとは思うが、偶然同じ名前の国が異世界にありました!なんてことも流石に無いだろう。

 と、言うよりも色々と他にもツッコミどころ満載な情報が一度に雪崩の様に押し寄せて来る所為で理解が追い付かない。

 流石に外務省全部署挙げてのドッキリ企画なんてことはあり得ないし、ノリの良いアメリカですら流石にそんな事はやらない。本当なのは確かなのだろう、と諦めて受け入れる。

 これがまだ、異世界の知らない国だったら多少はマシなのだろう。きっと他のメンバーがニュースで見たら一人ぐらいショック死する人が出るかもしれん、と心の中で乾いた笑いをあげる。

 

 他国は実際には日本程はパニックになっていなかったりする。特に日本との関係が薄いところ程。

 日本側がどうしてここまで大パニックになっているのか?

 詰まるところ、まあ、言ってみれば一時は日本のポップカルチャーとして有名な程流行っていた『ユグドラシル』であるわけであるからして、当然、知っている人は知っているのである。

 やっぱり政府で働く若手職員の中にも十数年前にプレイしていて『アインズ・ウール・ゴウン』を知っている人は少なくない。

 本来ならば無かった事にして世間には一切公表せずに内輪で解決できれば良いのだが、世界で勝手に事態が進んでいるので、例え日本政府が公表しなくても、いずれ海外のメディアを通して国民は知る事になるだろう。

 記者会見でこんな奇天烈な事を報道関係者に説明しないといけない磯野総理が可哀そうである。

 それを記事にしないといけない報道関係者も可哀そうなのだが。こうなれば旅は道連れ。

 こういう時に外部からの全情報をシャットアウトできる中国を羨ましく思うたっちさんであった。

 

「それが橘外務大臣、それだけでは無いのです」

「……あー、なんとなく、予想は出来るけど、まだあるの?」

「そのアインズ・ウール・ゴウン魔導国から先程、アルベド守護者統括兼特命全権大使が異世界から来日しました……なんでも日本国と正式に国交を樹立したいとの事です。また、工業製品と引き換えに食料や資源を提供する用意があると申し出ています……」

「……」

 

(紛れもなくウチのギルドのNPC来ちゃってる。モモンガさん、お元気そうで何よりです。私はついさっきあなたの所為で仕事への自信を失いました)

 

 と、現実逃避し始めるたっちさん。

 流石に光速を超えてワープしちゃってる急展開についていけない。

 なるほど、それは流石に外務省も大パニックになるわなと。モモンガさんに会ったら一言苦情を言うと心に決めるのであった。

 

「……それで、その、アルベド守護者統括兼特命全権大使はどうやって来日を?」

「それが、東京湾上に、彼らが『浮遊都市エリュエンティウ』と呼ぶ天空都市みたいな物が突如現れまして、そのまま魔導国大使館として使いたい様です」

 

 もうこれ、隠すの不可能である。これはメディアも大パニックになってますわ、と。

 ちなみにこの『浮遊都市エリュエンティウ』は大陸中央部の砂漠にあった八欲王の嘗ての首都である。

 

「……で、大使殿は今どちらに?」

「……あの、それが、今ウチの外務省にお越しになられています」

「ハハハ……」

 

 もう、成る様に成れば良いやと投げやりになるたっちさんこと橘外務大臣。厳密には魔導国の皆様方、領空侵犯や不法入国やらになるのだが、政府の皆様方は衝撃が強すぎて頭からすっかり抜け落ちているのであった。

 

 外務省の控室に入ると一際目立っているアルベド。対応している外務省職員が凄く困惑していて可哀そうである。

 他にセバス・チャン、ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ソリュシャン・イプシロン。

 そして漆黒聖典のクアイエッセや占星千里、陽光聖典のニグン。

 

 アルベドは落ち着いた余裕のある態度をしているが、セバスやプレアデス達がたっちさんに気付くや否や、凄く嬉しそうである。かれこれ千年ぶりの再会だ。

 

「たっち・みー様、いえ、橘外務大臣。お会いできて光栄でございます。初めての方もいらっしゃいますので、改めまして、私が魔導王夫人兼守護者統括兼特命全権大使のアルベドと申します。お噂の方は僕達からの報告で存じておりますが、とても素晴らしい吉報に我々一同大変喜んでおります」

 

 つまりこれ、元ギルドメンバー同士の結婚を知ってモモンガさんやナザリックはお祭り騒ぎの様に皆喜んでいるのだ。日本の外務大臣になっているたっちさんを見てセバスは嬉しさの余り男泣きしそうになっている。

 

「私達の暮らす世界にナザリック地下大墳墓がユグドラシルの終焉と共に転移し、既に千年の時が経過しました。今まで私達はその世界で平和に暮らしていたのですが、先日、あなた方の世界からやってきた強力な兵器により、私の愛しい夫である魔導王陛下を信仰する数千の罪の無い民が虐殺されました。そして、その侵略者達が使用した世界を引き裂く道具の影響で、我々の世界とあなた方の世界が部分的に繋り、時の流れが同じになってしまったのです」

 

 NPC達に生命が宿り、自我を持ちこうやって目の前で喋っている事に度肝を抜かれるが、後で総理に報告する為に事の詳細を静かに聞き続ける。たっちさんの後ろでは部下の秘書が必死にメモしている。

 

「私達はあなた方の事情を存じておりますので驚く気持ちは理解できますが、折り入って我々魔導国から日本国の皆様方にお願いがございます。どうか、我々の世界を侵略者から守る為に手を貸して頂けないでしょうか?正式に国交が樹立した際には日本国の工業製品やノウハウと引き換えに、我々の世界の食料や各種資源を日本国に提供させて頂きます」

「……」

「また、日本国の民が望んだ場合は我々の世界に移住者として受け入れる事も可能です。私達の世界では科学ではなく魔法が発達しておりますので生活様式や文化の違いで戸惑われる方も出てくると思いますが、緑豊かで自然と調和した世界です。もちろん、我々の魔法で日本国の自然を数年で蘇らせる事も可能ですので、その件も踏まえて日本国の総理大臣殿にお伝えください。あなた方日本国の皆様と手を取り合い、共に良き世界を築き上げていく事を魔導王陛下はお望みになっておられます」

 

(魔導王陛下って、たぶんモモンガさんだよね?アルベドと結婚したんですね。おめでとうございます。ついに本物の魔王になりましたか。凄い大出世した様で何よりです。今日はもう帰っても良いですか?そうだ、帰ったら朝から一日中飲んで深酒でもしよう。明日には普通の日常に戻っているはず)

 

「あの……橘外務大臣?たっち・みー様?如何なされましたか?」

「ハッ……ゴホンッ。いえ、あまりにも急な話で少し意識が遠くに行っていまして、ハハハ。モモンガさんとのご結婚おめでとうございます。もしよろしければ、お飲み物でも如何ですか?……そこの君、彼等に人数分のお飲み物を」

「橘外務大臣、お気遣い恐れ入ります。敬語を使われてしまうと私達も何分と話し辛いので昔の様に接して頂いて構いません」

「流石に一国のファーストレディ相手に外務大臣の立場でそうするわけにも行きませんので、そこは何卒ご勘弁を。正直に申しますと、恥ずかしながらしばらく国が大パニックになると思われますので手続きに色々と遅れが生じると思いますが、私の外務大臣の立場としましては、貴国の提案は大変魅力的であり、是非国交を結ぶ事を前向きに検討したいと思います。しかしながら……」

「国際連合が主要国首脳会議を開き、我々の世界に本格的に侵攻しようとしている事……でしょうか?その件でしたら既に存じています。ですので参加国である日本国には反対を表明して頂きたいのです」

 

 主要国首脳会議、またはG7サミットとも呼ばれG7参加国は日本・アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・カナダ。昔はロシアも参加していたのだが活動停止中である。

 

「しかし、日本国には国連加盟国と対立した場合に自国を守る手段が無く……」

 

 たっちさんが『どうしたものか』と悩んでいると、勢いよくドアを開けて息を切らしている職員が入って来る。

 

「橘外務大臣大変です!ロシアと中国とイスラエルが国連から脱退しました!」

「……は?」

 

 アルベドが『ウフフ』と不敵な笑みを浮かべている。実はこれ、魔導国が来たことに気付いたEGHのラナー会長がコネを使ってロシアと中国とイスラエルを動かしたのである。特にロシアやイスラエルはラナー会長がPMCを持っている事もあり、大統領と仲が良かったりする。

 

「あら、これは大変ですわね。きっと何かを企んでいるのではないか?と国連加盟国の国々も気が気でないでしょうね。このような不安定な国際情勢に巻き込まれてしまった我々としましては、自国を守る為に日本国が持つ『イージスシステム』と呼ばれる物を輸入したいのです」

「つまり、イージス艦やイージス・アショア等でしょうか?」

「はい、もしもご提供して頂けるのなら、魔導国からはルーン魔法で量産された『毒無効の指輪』など日本国民の生活に役立つ魔法道具(マジック・アイテム)をご提供します」

「……わかりました。一度話を持ち帰り検討させて頂きます。しかしながら、日本国としましても魔導国の一般市民を虐殺した行為は容認できる物では無く、我々日本国で力になれるのであれば、自衛隊を派遣して復興活動に手を貸すことも出来ますが如何でしょうか?」

「それはきっと魔導王陛下もお喜びになるでしょう。早速私達の方でもご提案を検討致します」

 




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