AFTER LORD   作:フリーマスタード

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ファーストコンタクト③

 場面は変わり、徹夜で文明を育てて利権やイデオロギーの違いで争い合いながら楽しく過ごす某ストラテジーゲームで遊んでいる獣王メコン川さん。当然、最高難易度の一番広いマップである。

 ぷにっと萌えさんのお勧めで7割引きセール中にDLC込みで購入してダウンロードしたのだが、やり始めてから久しぶりに時間を忘れる程嵌っている。21世紀から続いているゲームで、この手の物が好きな人には生活に支障を来すレベルで嵌るゲームとして有名だ。

 彼はユグドラシル以外にも弐式炎雷さんとアーベラージという自作パワーアーマーで戦うゲームで遊んだ事があったり、色々と幅広く手を出している所謂ハードコアゲーマーだ。

 最近はこの二人からアインズ・ウール・ゴウンの元ギルメン達が出世したり、結婚したり、子供が出来た等の話を聞き『そんな!ウルベルトさんとペロロンチーノさんの事を信じてたのに!』と流石に焦っていた。

 

「うーん、かと言って、探そうにも野郎しかいないし、まあ男なら選り取り見取り……あれ?……これって詰んでないっすか?あぁー、俺も結婚してぇー」

 

 獣王メコン川さんは元から体を動かしたりするのが好きで体力には自信があったので、EGHが進めている自然環境再生事業関連の仕事の給料の良さと待遇の良さで直ぐに飛びついて今に至る。

 『一日中ゲームで遊べる日があるなんて……きっとこれが最高の人生に違いない!』と信じて疑わなかった……そう、周りの話を知るまでは……

 

 やはり、人間という生き物は良い方向にも悪い方向にも慣れていく生き物で有る故に、10年前には想像できなかった生活も、いずれは『普通』となり、より良い生活を送っている人を羨ましく思ってしまうのだ。

 当然、結婚すれば幸せなのか?と言えば、一概に『はい』と言えるものでは無い。互いに自分の時間を犠牲にして支え合ったりしていく中で育まれていく『絆』の様な物が相手への信頼や愛情になっていく、所謂『結婚した後にどういった生活を送って行くのか?』次第であり、結婚すれば幸せになるわけでは無い。

 世間でも似たような話で『就職がゴールでは無い』なんて言われているが、それと同じである。

 

 獣王メコン川さんはそんな事を考えて悟りの境地を開くわけでも無く、まるでエデンで蛇に化けたサタンに誘惑されて知恵の実を食べてしまったアダムとイブが『やべえ、素っ裸で野原に寝そべって歌ってる場合じゃねぇ』と現実を知ってしまったが如く、偽りの楽園の真実が見えてしまって焦っているのだ。

 

「あぁ、もう朝か。いやぁ徹夜で遊んじゃったなあ。寝る前にビール一本飲んで、昼に起きればいいかな」

 

 一人暮らしの男性にとって、冷蔵庫とはビールとおつまみを冷やす為だけに存在すると言っても過言では無い。案の定、獣王メコン川さんの冷蔵庫の中身は某人型決戦兵器に出て来るペンギンを飼ってるあの人並みにビールしか入っていない。

 せっかく『黄金のラナー好景気』でお金にゆとりが出来たのに、全て自作PCや酒に消えて行ってしまうメコン川さん。彼にとっての貯金とはハイスペックな最新モデルのグラフィックボードに乗り換えたり、それに伴いマザーボードやCPU諸々を交換する為に貯めている物であり、決して老後やら結婚の為に貯めているわけでは無い。

 

 冷蔵庫からビールを取り出して『プシュッ』と音と共に開けると、一気に3分の1程豪快に飲み干す。

 

「カハアァ!朝に飲むビールは格別っすなー!まさにこの瞬間の為に生きてるって感じだよねえ」

 

 世の極楽を堪能しているメコン川さんだが、容赦なく運命の魔の手が彼の元に訪れた事を告げる様に『ピンポン』と鳴り、『なんじゃらほい?』とドア開けると、修羅場を潜ってきた独自の雰囲気のある男性と長髪の若い男性、そしてオッドアイで髪が左右で白黒に別れている女性のスーツ姿の3人組が立っていてビビるメコン川さん。

 

「獣王メコン川さんで宜しいでしょうか?申し訳ありませんが、御同行をお願いします」

 

 言うまでもなく、公安第一特務課の皆様方なのだが、公安は基本的には自分の身分を明かさない。第一席次や番外ちゃんにとっても漆黒聖典とそこは同じなので慣れたものである……もっとも、ウルベルトさんは殺す予定の相手には特例で名乗ったりしているが。

 

 慌ててドアを閉めようとするが、番外ちゃんがドアの内側に足を突っ込んでいてドアを閉めれない。良く刑事さんなんかがドラマでやるあの技である。メコン川さんも直ぐに気付き『やべえ、こいつらモノホンかよ……』と大いに焦る。出しているオーラが半端ないので相当ヤバい奴に違いないと野生の感が警報を鳴らす。

 この三人組、人を殺し慣れてそう。特に白黒ヘアーの女性とか絶対に楽しんで人を殺してそうと思うメコン川さん。

 細やかにゲームをして平和に過ごしていただけなのに、何処で人生が狂ってしまったのだろうか?と走馬灯の様に過去を振り返るが特に思い当たる所は無い。

 こんなトラウマになりそうな方法で連行したのを知ったら、ルプスレギナが怒りそうである。

 

 ……まあ、ウルベルトさんの細やかな悪ふざけなのだが。

 

 第一席次と番外ちゃんを部下に持ち、茶釜さんと結婚して子供がもうすぐ産まれる人生大逆転して勝ち組になったウルベルトさんは自信に満ち溢れてイケイケである。

 ルプスレギナの件でカウラウ課長にカミングアウトされて魔法道具(マジックアイテム)で身を固めている彼は呼吸用マスク不要になったり調子に乗っている。

 

「あ、あの……せめてパソコンの電源を消してからでも良いですか?」

「別に構いませんよ……ククク。こちらは特に急いでいるわけでもありませんので」

「あ、ありがとうございます。直ぐに消してきます」

 

 当然、ここで大人しくどう見ても危なそうな人達に黙って付いて行く獣王メコン川さんではなく。総合格闘技やジムに通っていて運動神経に自信のある彼は『ベランダから逃げれば行けるんじゃね?』と無茶な発想が浮かぶ。

 一応、メコン川さんの部屋は2階にあるので、下手な着地さえしなければ死にはしないだろうが無茶である。

 

「よし、丁度届きそうな所に車が止まってるな。痛いだろうけどクッション代わりになって死にはしないだろう」

 

 そうと決めれば即行動。届きそうな距離に止まってる人様の自動車目掛けて飛び降りるとメコン川さんが落下した衝撃で『ガシャーン!』と天井が凹むと共にガラスが割れ、防犯ブザーの音が鳴り響く。

 

「グハッ……痛ッテー……やっぱり映画みたいには行かないか。でも骨は折れてない」

 

 普通の人なら大怪我待ったなしなのに、軽傷で済む彼は伊達に総合格闘技はやってない。超頑丈な体である。しかしながら、マスクを着用せずに外気が肺に入ると流石に激痛と共に激しく咳き込む。

 長時間生身の肺で外気を吸うのは危険だが、この際仕方ないので短時間なら大丈夫だろうと肺の痛みを堪えながらなるべく狭い路地裏伝いに逃げる。

 

 そして、路地を抜けた先の大通りで大勢の人達が立ち尽くして空を見上げたり、写真を撮っているので『なんだ?』と思った矢先、爆音と共にヘリコプターが頭上を低空で通り過ぎていく。

 通り過ぎたヘリコプター追う様に空を見上げた時、信じ難い光景が視界に入る。

 

「そ、そんな……マジか……」

 

 300から500頭近くのドラゴンが飛んでおり、一際目立っている白金のドラゴンが飛んで来ると近くに建っているスカイツリーの第一展望台の上に着地する。

 よく見ると他にも複数のドラゴンがまるで鳥の様に超高層ビル頂上の淵に止まって翼を休めている。

 普通なら、こんな状況になったら自衛隊の戦闘機が飛んできそうな物だが、上空を飛んでいるのは報道関係のヘリコプターのみ。なぜ自衛隊が居ないのか違和感を覚える。

 よく観察してみるとドラゴン達は知能が高いのか、ヘリコプターに接触しないように気を遣って飛んでいる様に見える。

 

 ……もっとも、一部のヘリコプターはそんな気遣い関係なしに良い画を撮ろうと無茶して接近し過ぎた結果、ドラゴンが羽ばたいた時の気流の乱れに巻き込まれてふらついたりしていて危なっかしい。

 

 このドラゴン達は言うまでも無く、評議国から日本にやってきたツアーを始め他の竜王(ドラゴンロード)や通常のドラゴンの皆さん達である。エリュエンティウは大使館とは名ばかりの事実上、前哨基地になっており、評議国と法国が主体の大規模な部隊でやってきたのだ。

 今回ばかりは評議国のドラゴン達は流石にお怒りで、リアル世界に『今度はこちらが攻め込む番だ!』と言わんばかりにやってきたのである。

 ちなみにツアーは国連のサミットで各国首脳と平和的に『お話』するために日本に来た。一応、フールーダやパンドラズ・アクターが開発した翻訳アイテムがあるので問題ないらしい。

 

「どうよ、メコン川さん。驚いたでしょ?それにしても無茶するねぇ……マスクいる?」

「あれ?もしかして……ウルベルトさん?」

「そうだよ。上を飛んでるアレは観光を楽しんでるだけだから気にしないで。しっかし、良い運動神経してるねぇー!まさか飛び降りるとは思わなかったよ」

「え、観光?ってどういう事?」

「まあ……話せば長い話になるからさ、取り合えず国会議事堂でたっちさんとルプスレギナが待ってるから付いてきてくれない?」

 

 と、言いつつ公安の手帳を見せるウルベルトさん。

 

「あー、公安さんね。道理で。もう、絶対マフィアとかヤバい人達だと思ったじゃないっすか……」

「いやぁ、わりいわりい。まさか、あんなに驚くとは思ってなくてさ」

「……あれ?……今、ルプスレギナって言った?」

「うん、他のプレアデスやアルベド達も来てるってさ。そうそう、アルベドと言えば、モモンガさんアルベドと結婚したらしいよ?メコン川さんも良い機会だし、ルプスレギナをデートに誘えば?モモンガさんっていう先駆者がいるんだしさ……ククク」

 

 獣王メコン川さんは10年経ったとは言え、ルプスレギナは良く覚えている。流石にペロロンチーノさんのシャルティア程では無いが、理想を詰め込んで作成したNPCだった故に。

 

「マジすか……モモンガさん未来に生きてるなぁ……ところで、なんでウルベルトさん、そんなにあっけらかんとしてるの……」

「いやぁ、まあね、ウチの仕事仲間がね。全員アレでさ。前から約一名ほど凄まじい人(番外ちゃん)がいて不思議だったんだけど、今回ので腑に落ちたというか……ね?まあ、今後はこういうのが当たり前になるから、早い所慣れちまった方が良いよ」

「いやいや……早い所も何も、今初めて知ったんすけど……あなた、悪魔ですか?」

「世の為人の為に悪と戦う、清く正しい正義の味方ですけど?」

「……あなた、10年前は悪を極めるとか散々言ってましたよね?」

「結婚して子供が出来れば誰でも変わるって」

 

 どこ吹く風と言わんばかりなウルベルトさんに『クッ、リア充め』と内心ごちる。

 

「そうそう、メコン川さん。あなたが飛び降りた時に壊した自動車。あれって器物破損の現行犯になるんですけどね?まあ、今回はウチが伝手を使ってどうにでもしてやるから、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の大使を引き受けて貰えないかな?……でも、断るなら器物破損で現行犯逮捕ね……ククク」

「……やっぱり悪魔だ」

 

 ウルベルトさんは懐から手錠とスクロールを出すとそれぞれ右手と左手に持って獣王メコン川に見せる。もしかしてこの人、こうなる事を計算して嵌めたな?と脳裏を過る。

 

「さあ、孤独に豚小屋で臭い飯を食う生活をするか、それとも、異世界で魔導国大使として働きながらルプスレギナと幸せに暮らすか、好きな方を選びたまえ」

「……はあ、わかりました。大使やりますよ……というか、いつの間にこの国は異世界と自由に行き来できるようになったんすか……」

「今朝だね」

「……」

 

 まるで近所に新しい駅が出来た様な軽い感じで答えるウルベルトさん。

 

「おーい、番ちゃん!OKだって!……じゃあ、今から国会に行こうか。ルプスレギナも楽しみに待ってるよ?良かったじゃん、モテモテでさ?この色男め……ククク。心配しなくても週末は日本に帰って来られるから大丈夫」

 

 歩道に寄せて停車している2台の黒塗りセダンの一台に獣王メコン川さんが乗ると、ウルベルトさんも同じ車に乗り込みスクロールを広げる。

 

「じゃあ、ちょっと渋滞を避ける為に()()するから心の準備する間も無く着いちゃうけど、悪いね。〈異界門(ゲート)〉」

「ふぁっ!?」

 

 道路上に暗黒の空間の裂け目ができると、周りにいる通行人がギョッとして見て来るが、構わずに発進して異界門(ゲート)を通り抜けて消えていく2台の黒塗りセダン。

 これはリグリットやラナーが持ち込んだ緊急用のアイテムなのだが、今までリアル世界では補充不可能だったので使わずに温存していたのだ。

 

 実はこれ、ナザリックで現地の人間や亜人種でも上位の魔法が込められたスクロールを使用できるようにと開発された盗賊クラスを一時的に付与する指輪を付けており、この方法なら盗賊クラスを持つソリュシャンの様にリアル世界の人間でも全てのスクロールが使用可能である。

 もっとも、あくまで『クラス』を付与するだけでスキル等が使えるわけでは無いが。単なるスクロールの使用制限を誤魔化す為だけの指輪である。

 

 ……ちなみにこの第10位階まで込められるスクロールはエリュエンティウを奪い取る時に捕獲した八欲王の(NPC)や海上都市で眠っていた(プレイヤー)をデミウルゴス牧場に送って大量生産しているのだが、今まで第3位階魔法までしか込められなかった原因が、スクロールの材料になった羊が潜在的に使用できる位階魔法に依存している事が判明し、レベル100NPCやプレイヤーの皮を材料にすれば第10位階魔法まで込められることが判明したのだ。

 

 ……将来、異界門(ゲート)を利用して月や火星行き放題になったり、人工衛星をロケットを使わずに直接宇宙空間に放出したり日本の宇宙開発に革命が起きる事になる、このスクロール一つで世界が一気に変わってしまうとんでもない代物なのだが、ウルベルトさんは知る由も無く。

 

「ほい着いた」

「……なんでスクロールとか魔法が使えるんですか、ウルベルトさん」

「ほらこれ、盗賊クラス付与の指輪。ユグドラシルには無い向こうの世界で独自に開発したアイテムだってさ。魔法に関してはMPの燃費が悪くなるけど、こっちでも使えるって課長から聞いた」

「マジすか……」

「ルプスレギナと結婚すれば医療費掛からないじゃんメコン川さん。良かったね」

「いやぁ、流石に自分で作ったNPCと結婚するのって……」

「朝から酒を飲むようなメコン川さんを喜んで受け入れてくれる女性なんてルプスレギナしかいないんだからさ。彼女に感謝しないと駄目だよ?贅沢を言える歳じゃないんだから」

「グフッ」

「今から彼女と会うけど、優しくね?その後はたっちさん、橘外務大臣に会ってもらうから」

「どうしよう、心の準備が……ところで、大使って給料どれくらい?」

「うーん、詳しくは知らんけど、正規公務員だし悪くは無いでしょ?俺は年収700万になったよ。妻の茶釜さんの分も合わせると世帯収入1500万だね」

 

 給料が良い事を聞いた瞬間に目が輝く年収200万のメコン川さん。何だかんだ言って、高額化した所得税・受信料・国民健康保険等諸々を強制的に取られて細やかな楽しみが精一杯なのだ。特に後者の2つは例え無職でも支払い義務があるので理不尽な話である。

 理不尽ではあるのだが、皆でそう言った制度を支えなければアメリカの様に大怪我した日には超高額な医療費を請求されて破産なんて事にもなるので難しい問題である。

 当然、誰も好き好んで無職になるわけではなく、失業や災害に病気だったり事故だったり様々な理由があるのだが、残念ながら22世紀では国自体に余裕が無いのが現状である。ちなみに少子高齢化に伴い年金制度や生活保護制度は破綻して日本から無くなっている。

 ラナーが頑張っているとは言え、働けなくなったら人生終了と言う根本的な問題はモモンガさんが日本にいた10年前と同じである。

 

 ……もっとも、それらは改善されて今後大きく変わり、貧困も飢えも無くなり誰もが幸福に暮らせる国になるのだが、それはまだ少し先の話。

 

「というか、メコン川さん。ウチで経歴調べたけど、良くもまあ、自然環境再生事業のアルバイトの身で一本3000円もするビール買うよね」

「いやぁ、他を切り詰めてますから。気合っすよ、気合!」

「まあ、ルプスレギナとの結婚が決まったら、結婚祝いでダブルベッドと生ビール1ダース贈りますよ」

「有り難いけどベッドは結構です」

「良い歳して恥ずかしがらなくても良いだろ?……ククク」

 

 30代半ばの獣王メコン川さんが20前後ぐらいの見た目のルプスレギナと結婚するのは犯罪臭がしない事も無いが、一応ルプスレギナは1300歳弱なので問題ない。最早、鎌倉時代の文化遺産よりも年上である。

 

 和気あいあいとした雑談を終えると車から降りて国会に入っていく一同だが、上質なフォーマルスーツを着ている政治家や職員達ばかりな場に裸足でジーパンとタンクトップ一枚のワイルド過ぎる獣王メコン川さん浮きまくりである。

 




氷餅様、誤字報告有り難うございます。
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