AFTER LORD   作:フリーマスタード

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第一章「日本国と魔導国」
公安第一特務課①


 かれこれ、1936年に国会議事堂が建設されてから212年。

 この長い歴史の中で、裸足でジーパンとタンクトップ一枚で足を踏み入れたのは、一般市民でも無料見学できるとは言え、流石に獣王メコン川さんが初めての人物だろう。

 

 しかしながら、一般人から一足飛びに大使とは凄まじいワープである。普通はハードルが非常に高いのだが、世の中は努力以上に運や出会いと言った不確定要素も必要であり、何の縁で急に話が舞い込んで来るか分からないので、人との繋がりを持っている事は大事なのだ。

 

 この何が起こるか予測できない不確定要素の事を人はこう呼ぶ―――『運命』と。

 

 時にそれは突然舞い込んで来た幸運にもなれば、不条理で耐え難い現実にもなる。

 ある意味では、歴史に登場する偉人達も、彼等の意思には関係なく『運命』という物語の役者を演じさせられていただけなのかもしれない。

 

 そして、物語の歯車が動き出し、変わり行く世界で再び嘗ての仲間達の運命が交わる時、世界の境界を越えてNPC達と再会する時、その先にはどんな『運命』が待ち受けているのだろう?

 

 しかし、決して悪い運命では無い筈だ。途中で困難が待ち受けていようとも、それらが彼等の絆を深めて本当の意味で掛け替えの無い仲間や家族になって行くのだから。

 

「うぅ、ぐすん。獣王メコン川様ぁ、ずっと会いたかったっすー!」

「ルプ―――ガハッ」

 

 レベル60台のダイレクトアタックを喰らってからの大好きホールドでガッチリ決められて白目を剥いて泡を吹いているメコン川さん。肋骨が数本折れただけで済むとは一体どんな体をしているのだろうか。

 

「……わ、我が人生に一遍の悔いな―――グホァ!」

「そ、そんな……ようやく会えたのに御隠れにならないでくださいっす!」

 

 ルプスレギナも異変に気付き『あわわ』と顔面蒼白になり慌てて大治癒(ヒール)を掛ける。

 流石に嬉しさの余り、力加減が必要な事を何度も言われていたのだが失念していた。

 

「メコン川さん、お熱いのも良いけど程々にな。それじゃあたっちさん、ウチらは帰りますんで後はよろしくお願いします」

 

 この調子だとベッドはチタン製にした方だ良さそうだな、と一人ごちるウルベルトさん。

 

 彼はこの後、公安第一特務課にインターンシップに来る予定のプルチネッラとニューロニスト、ソリュシャンとエントマに仕事のやり方の実演を含め『旧横浜中華街跡』で逮捕した香港マフィアを尋問して武器の出所や犯行の動機等を調べないといけないので、『今日は水責めか爪剥ぎかどちらにしようかな?』なんて仕事の事を熱心に考えながら、取り合えず帰る前にホームセンターに寄って歯を抜く為のペンチかスパナでも買っていこうと決める。

 この世から悪を根絶せんと一切妥協を許さないウルベルトさんは正に正義の鑑である。

 

 ……もっとも、所謂この非人道的とされる拷問は国際社会では『拷問等禁止条約』で禁止されているのだが、CIA等の表舞台に出てこない組織では過去にもイスラム系テロ組織の構成員に尋問・拷問を行っては揉み消して無かった事にしていたりするので、当然、公安第一特務課や中央情報統括官組織でもその辺りの裏事情は一緒である。

 

 家族、愛する茶釜さんや生まれて来る娘が安心して暮らせる平和な社会を実現する為にはいくらでも泥を被ってやると決意したウルベルトさんの戦いは続くのだ。

 

 話は逸れるが、番外ちゃんがテロリストを尋問する時にトイレの便器に顔面を叩きつけて、便器と共にテロリストの顔面も割れるという事態になったりしてウルベルトさんしか尋問を熟せる人がいないので、インターンで情報担当としてニューロニストやプルチネッラが来るのは助け船である。

 

 ……エリュエンティウがヘドロの海と化した東京湾上に浮いていたり、ドラゴン達がビザ無しで勝手に浅草観光を満喫している時点で今更隠すのも不可能故。ニューロニストやエントマ等、明らかに人間じゃないNPCが公安第一特務課の新メンバーになっても問題ないだろうと思うウルベルトさん。

 

 番外ちゃんは夏場になると能力向上や能力超向上等の武技をいくつも重ね掛けして全力で『蚊』を叩いた衝撃波で窓ガラスが割れたり規格外過ぎて困っていたのだ。

 寝ている時や仕事中に耳元に『プ~ン』とやって来る『蚊』は、難度300の番外ちゃんでも苦戦する地球最強の恐ろしい敵である。彼女は強過ぎる力の所為で人並み以上に叩く時に風圧が発生するので、一般人なら簡単に倒せる様な小さな敵程苦手である事が初めて露呈した……力を加減するだけで解決する問題なのだが……

 

 彼女は公安第一特務課においては『人間戦車』的なポジションであり、尋問等の繊細な仕事には向いていない。

 ちなみに、地球世界の危険生物ランキングのトップはマラリア等の病気を媒介する蚊であり、蚊が地球で最も恐ろしい生物である点は間違っていなかったりする。

 蚊は今までの人類同士の戦争犠牲者など可愛く思える程の人数を殺戮してきた恐ろしい敵である。

 WHO等の統計では蛇が年間5万人、人間が年間47万5千人、蚊が年間72万人の人間を殺戮しておりダントツで一位の座に輝いている危険生物だ。

 

 毎年、モモンガさんが王国との戦争で召喚した山羊の3倍の犠牲者を安定して叩き出している『蚊』が如何に恐ろしい生物かわかるだろう。スレイン法国の人が知ったら卒倒しそうな数字で、間違いなく人類の敵に認定される。

 例え自然が破壊され多くの生物が絶滅しようとも、人類にとって都合の悪い生物ほど突然変異したりして中々滅んでくれないのが『悪いヤツほど長生きする』という世の理である。

 

 

 

 

 署に戻り、今日は朝から色々と起こる日だなと思いつつもラウンジの自動販売機でコーヒーを買って一息つくウルベルトさん……缶コーヒー1本で1500円もするので一般人は中々おいそれと購入できない贅沢品である。

 例えばピザはMサイズで3万円~5万円だったり、鰻重は20万円前後ぐらいで固形栄養食以外の飲食物は非常に高価なのだ。一般的には固形栄養食か、少し贅沢してタンパク質を再合成した人工肉等が主流だ。

 

「それにしても、NPCに命が宿るとは……やっぱり実際に目にすると腰を抜かすな。絶対にタブラさんが作ったNPC大変な事になってそうだ……いや、待てよ……ペロロンチーノさんが作ったNPCも相当ヤバいんじゃないか……」

 

 設定魔なタブラさんに引けを取らない程の膨大な設定(ペロロンチーノの業)の数々が盛り込まれたシャルティアを思い出す。

 

「そうえば、デミウルゴスってどんな感じになっているんだろうか?……ルプスレギナを見た限りは大丈夫だとは思うけど……あ、そういや、ベルリバーさんを殺した連中にメコン川さんも狙われるかも知れないから警護付けないとな」

「それなら彼女一人で大丈夫だと思いますよ。影の悪魔(シャドウデーモン)も護衛に付いている様ですからね……あなたの影の中にも潜んでいますよ?」

 

 休憩にやってきた第一席次も自動販売機でコーヒーを買い、ウルベルトさんと同じテーブルに着く。彼は今まで番外ちゃんが旧横浜中華街跡で壊した自動販売機と道路標識の後始末の為に書類を書いていたのだ。

 

「え!……はぁ、慣れたつもりだったんだけどねぇ。現実になると影の悪魔(シャドウデーモン)って完全にホラーだな……ところで、例の奴らは動くと思うかい?なんでもナザリックに喧嘩を売ったらしいじゃないか」

「ええ、日本と魔導国が国交を結ぶのを妨害、或いは日本が世界の敵に仕立て上げられる可能性も覚悟した方がいいでしょう」

「……とすると、やはり魔導国大使をやるメコン川さんや賛成派の磯野総理達も危険か。流石に影の悪魔(シャドウデーモン)が警護に付いていても自動車に爆弾が仕掛けられていたら不味いな」

 

 これは相当厄介な事になったなと思うウルベルトさん。毎日暗殺を警戒しながら生活しないといけなくなるし、何よりも妻の茶釜さんの事が心配になる。

 まるで中東の紛争地帯の様に何処に仕掛けられていて、何時爆発するかわからない爆弾を毎日警戒しながら茶釜さんに生活してもらうのは無理がある。

 

「俺が狙われる分には職業柄慣れてるから良いんだけどね……妻が心配だな」

「それなら、ソリュシャンやエントマに相談してみてはどうでしょうか?あなたのお願いならきっと喜んで聞いてくれる筈ですよ……今の内に伝えておきますが、向こうではあなた達は神として扱われているので覚悟しておいてくださいね。特にスレイン法国に観光に行くのは止めておいた方が無難です」

「げ!マジですか……それにしてもよぉ()()()()、今回のが無かったらずっと黙ってるつもりだったんだろう?何年も一緒に働いて来た仲なのに酷くないかい?……番ちゃんが超人みてぇだし、歳を取らねぇから薄々勘付いてはいたけどな。俺以外全員が超人とか肩身が狭いねぇ」

 

 ワザとらしく『やれやれ』と両手を広げるウルベルトさん。

 

「この世界では私達はイレギュラーですから、気にしなくても良いですよ。あなたは銃の腕前も一流で良くやっていると思います。では、そろそろ新メンバーが来る時間なので戻りましょう」

「これで8人か。なんで突然来る事になったのか知らんけど有り難いな。超人でも手の数には限りがあるしよ」

「はい、これで私も現場に出られるので嬉しいですね」

 

 この時、ウルベルトさんと第一席次は同じ事を考えていた。ニューロニストとプルチネッラを情報担当の後方支援にして残りのメンバーが現場に出れば同時に複数の事件を扱えると。取り合えず、4人にパソコンの使い方を教えるのが急務である。

 

 そんな事を考えつつ公安第一特務課のオフィスに戻ると、既にソリュシャンやエントマにニューロニストやプルチネッラがシャルティアの異界門(ゲート)で直接やってきていた。

 

「これわこれわ!ウルベルト様!再びまたお会いする事が出来てこのわたしわ、感極まる思いで御座います!あぁ……なんて素晴らしいのでしょう。悪の頂点を極められたウルベルト様が正義の御心にお目覚めになられて人々を幸せにする……デミウルゴス様も感動して泣いておられました。ぶくぶく茶釜様とのご結婚、心よりお祝い申し上げます!」

「ありがとうプルチネッラ。デミウルゴスも元気な様で良かったよ……ところで、やまいこさんが働いている小学校にバレットM82という対物ライフルで狙撃して子供達の目の前で教師を殺害した一味を捕えていてね……ベルリバーさんを殺害した連中が裏で手を引いている可能性が高いんだけど証拠がないんだ。連中は俺やたっちさん、メコン川さんに茶釜さんも狙うかもしれない。そこで、情報を引き出す為に尋問するから今日はそれを見て公安第一特務課の仕事を覚えて欲しい」

 

 ウルベルトさんは『あれ?』と4人の雰囲気が急に変わったのに気付く。エントマなんかは表情こそ解らないがプルプル震えている。怒ったりショックは受けたりするだろうけど、まさか特大の地雷だったとは知る由も無く。

 何故ならばウルベルトさんはナザリックの僕達の忠誠心メーターがいくつあっても足りない程天井知らずだなんて知らない故に。

 いずれにしても、遅かれ早かれ知る事になるだろうから仕方ないのだが。

 

「で、そういった事情があるから申し訳ないけど……メコン川さんはワイルドな上にルプスレギナがいるから別に良いとして、たっちさんの娘の未来ちゃんや俺の妻の茶釜さんがテロに遭わないように警護を魔導国の方で付けて欲しい」

「……至高の御方々のぉ、御命を狙うなんてぇ!余りにも罪深過ぎて言葉も出ないですぅ!」

「エントマ、耐え難いけど今はウルベルト様を信じて我慢するのよ……はい、直ちに連絡して手配致します」

「連中以外にも、欧州でアーコロジー戦争をやらかしたネオナチ親衛隊や中東のイスラム過激派組織も心配だな。特にネオナチに至っては異世界の富を独占する日本に裁きを下すとかなんか言って絶対に騒ぎを起こすぞ……」

 

 このネオナチ親衛隊はモモンガさんがパンドラズ・アクターを作る時に参考にした連中で、パンドラと同じような服装をしている。ネオナチなんて名乗ってはいるが、全くナチズムとは関係が無いアーコロジーに住めない搾取に苦しんでいる人達が集まった集団である。

 欧州方面は歴史的にも難民問題で間接的に滅びたローマ帝国を始めとしてフランス革命などの様々問題が起きてきた場所だ。移民や格差社会の問題で今までもテロやストライキと言った様々な問題が発生してきたのだが、22世紀に入るといよいよ国内紛争にまで発展するようになった。

 

 一度連鎖反応が起きてしまえば、例えワールドイーターの雁首を倒しても暴走は決して止まらない。何故ならば、日本だけが魔導国と交流するのが気に入らない者、異世界の利権を独占したい者、宗教上の理由で異世界の存在自体が気に入らない者など様々な思惑のある連中が同じ方向に動き出すからだ。

 ある意味では人類の『嫉妬・欲望・傲慢・虚栄心』など負の側面そのもの自体が敵と言っても良く、誰かを倒せば終わりという状態では無くなるのだ。イスラム過激派組織の様に例え組織を潰しても、また別の組織が誕生して再びテロを起こすのと同じように終わりが無い。

 

 では、世界で仲良く異世界の富を分ければ良いかと言えば、そうでも無いし、むしろ異世界の住人の事なんてお構いなしで奪い合いになり余計に混沌とした状態になる。異世界の資源を巡って第三次世界大戦なんて起きたら本末転倒である。

 

 そう言った点も踏まえて、そもそも日本自体が世界では特殊な国と言っても良く、正月は神社に初詣に行ったり、親戚や家族が亡くなればお坊さんを呼んでお経を上げて貰ったり、クリスマスを祝ったりなど、神道や仏教にキリスト教等の全く異なる宗教的な行事が混在して無意識下に『文化』として根付いていたり、全く異なる文化や価値観を受け入れて自分達の物にしてしまう事に長けている国なのだ。

 歴史を振り返っても、日本は異国の文化を積極的に取り入れており、奈良時代や平安時代では中国の進んだ文明や文化を取り入れる為に『留学僧』を何人も送り、その過程で中国からもたらされた『お茶』という飲み物がこの頃の日本に初めて定着した事等、古くから違う文化を取り込んで自らの文化と融合させる事で発展してきた国なのだ。

 もちろん、明治維新は言うまでもなく。

 

 日本には『和』という言葉がある様に、日本人は元々周りの人に合わせて協調しようとする傾向が強い。例えば、身近な所では学校のクラスだったり世間の流行に合わせる事で安心感や一体感を覚える人も多いだろう。国家という規模でもやはり、禁煙の場所を増やしたりキャッシュレスの導入を急いだりなど世界の標準に合わせようとする傾向が強い。一時はサマータイムの導入まで検討していた程に。

 端的に言えば、受容的な国民気質なのだ。

 

 これが未だに肌の色の違いで人種差別が起こっている国だったり、宗派の違いで紛争や戦争を続けているイスラム原理主義な国だった場合、異世界と平和的に交流できるだろうか?

 日本にもそういった問題が完全に無いとは言わないが、少なくてもそれが原因でテロが発生する事は無い。町中を人間に混ざってエルフやビーストマンに蜥蜴人(リザードマン)が歩いていても、最初こそ混乱はあれど時間と共にそれが当たり前の光景として受け入れられる国は恐らく日本だけである。

 これが西洋だったら必ず嘗てのスレイン法国の様に人類至上主義を唱える排他集団が発生してテロに発展する。ましてや吸血鬼が町中を堂々と歩いていたら大パニックになり自警団を組織して魔女狩り紛いな事も発生しかねない。

 

 ……一方で日本は……シャルティアやイビルアイに自ら率先して献血(噛まれ)に行く人達が出そうだが、平和なので別に問題無いだろう。むしろ、イビルアイみたいな吸血鬼は西洋とは異なる理由でペロロンチーノさんみたいな人達に襲われそうではあるが……

 

 結局、世界が『日本が異世界の富を独占している』と騒ぎ立てた所で、そもそも魔導王をやっているモモンガさんがギルドメンバー達が暮らす日本としか交流する気が無いので意味が無いのだが、世界はそれで納得しないので難しい物なのだ。

 ましてやナザリックの僕目線で見れば至高の41人が暮らしている日本以外は別にどうでも良く、嘗ての王国や帝国と同じような有象無象の国に見られている。

 そもそも、ワールドイーター達が魔導国に攻め込んだり、ベルリバーさんを暗殺してしまった時点で第一印象が最悪からのスタートなのだ。

 それを理解できずに上から目線で世界各国が魔導国や日本に要求をすればどうなるかは言わずもがな。その点は至高の41人に関心が無いアルベドが大使を務めているのが唯一の救いである。

 その上、アルベドは()()を理解した上でモモンガさんと結婚した故に。ナザリックのNPCで唯一モモンガさんが凡人だと知っているNPCはアルベドだけだ。事実上、今の魔導国を陰で動かしている『女帝』はアルベドなのだ。

 

「……こりゃあ完全に鎖国して魔導国とだけ交流して身内同士でしっぽりとやるってのが一番良いんだろうけど、それをやるには世界全てに宣戦布告されても防衛できる力が無いと無理だからな。これから当分休み無しで忙しくなるから皆覚悟するように」

「はい、頑張りますですぅ」

「あらん、ウルベルト様の元で休み無しで働けるだなんて楽しみだわん!」

 

 休み無しと聞いて目が輝いている僕達を見て『ナザリックってそんなにブラックなのか……』とNPC達の為に今度モモンガさんを労働基準法違反の疑いで注意処分しようと決める。

 




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