AFTER LORD   作:フリーマスタード

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公安第一特務課②

 時間は10分程進み、薄暗く、コンクリートが剥き出しでマジックミラーが付いている部屋の真ん中に拘束具付きの椅子が鎮座しているだけのそっけない場所に響き渡る悲鳴。

 

「お、おねがいじましゅう。なんでもはなじまず。たすけてくだしゃいぃぃ」

「え……もう吐いちゃうの?……まあまあ、そんなに焦らなくても良いから……ね?一度頭を冷やしてから冷静になってゆっくり考えようよ。そこは弁護士を呼ばないと何も話さないとか言うべきだよ、君」

 

 ニューロニストを見た瞬間に叫び声を上げて泣きじゃくり、まだ何もやっていないのに全てを白状しようとしている香港マフィアに拍子抜けしているウルベルトさん。

 

「あらやだん、バッチイ。失礼な奴ね、人の顔を見て叫び声を上げるだなんて。嫌になっちゃうわん」

 

 涙やら鼻水やら体中のあらゆる液体が出ていて見るに堪えない状態な上、アンモニアの臭いまで漂ってきたので流石に距離を取る。

 

「……あー、ま、こうなるのも仕方ないか。いやぁ、悪いねソリュシャンにエントマ。見苦しい物を見せちまって。普段はもっとCIAみたいな感じでカッコよく事が進むんだけどね」

「そんな!ウルベルト様が謝る事はございません。この不肖な輩が全ていけないのです」

 

 流石に白状すると言っている相手を尋問するわけにも行かず、少し悲しそうな顔をしているウルベルトさん。NPC達の前で良い所を見せたかったという節があったりなかったり。

 

「そういえば、お聞きしたいのですが、我々が日本に来てから魔導国では何年経ちましたか?」

「大体300年ですぅ。モモ様も成長してご立派になられてますよぉ」

 

 普段は冷静な第一席次も、予想していたとは言え驚きを隠せない。ある意味では相対性理論の『ウラシマ効果』と同じような疑似的なタイムトラベルを経験したとも言えるのだから。

 近年はマルチバース或いは多元宇宙論と呼ばれ、我々の住む宇宙以外にも複数の宇宙が存在するという説が注目されるようになってきているが、別宇宙において物理法則や時間の流れる速さが同じとは限らないのだ。

 変な話が仮にもしも、ナザリックの転移した世界が『物質が存在できない宇宙』だった場合、転移と同時に素粒子レベルで分解されて蒸発していたかもしれないのだ。

 当然、日本の生中継を見ている世界中の物理学者達は異世界から来た魔導国の存在=多元宇宙論の説が正しいと立証されて量子力学の分野、とりわけヒュー・エヴェレットの多世界解釈において革命が起きたと、ハチの巣を突いた様なてんやわんやの大騒ぎになっていたりするのだが……

 

「つまり、モモンガさんは1300年も魔王をやってるのか……でも、ちょっとおかしくないかい?モモンガさんが消えた数秒間で千年経って番ちゃん達がこっちの世界に来たんだろ?あれから10年も経っているんだから、魔導国の方ではそれこそ何十億年、何十兆年も時間が過ぎている筈じゃないか」

「うーん、ちょっと私には難しくてわからないですぅ」

 

 触覚が『しゅん……』と垂れ下がっているエントマを見て、そうか表情の代わりにこれで感情表現しているのかと理解する。

 ウルベルトさんも映画や小説などで素人ながらも多少は知識が有る故に、まだ異世界、所謂『別宇宙』が存在してもおかしくは無い事は理解できる……のだが、ただの二進法の数字が集まっているに過ぎないデータだった物が、何故異世界で物質化したのだろうか?と疑問が残る。

 他にも明らかに物理法則を無視している魔法の存在に然り。

 

(もしかして、向こう側の物理法則に浸食されてる?)

 

 ウルベルトさんはデミウルゴス程では無いが、それなりに頭の回転が良く勘は鋭かったりする。

 しかしながら、今回の件は仕事には関係が無いので、都内某有名国立大学で物理学の教授をしている死獣天朱雀さんに頼んでみようと決める。

 

(それにしても……)

 

 彼は思う。一度も戦争や内戦も無く1300年も存在した国家など、この地球世界の歴史において一度も無い。そんな誰も成し遂げた事の無い偉業をやってのけたモモンガさんの手腕に『なんて計り知れない智謀の持ち主なんだ……』と戦慄する。

 確かにモモンガさんがギルド長を務めていなければアインズ・ウール・ゴウンは二つに割れていたと言われる程だったが、まさかこれ程のカリスマ性と内政手腕を隠し持っていたとは、と。

 能ある鷹は爪を隠すと言うコトワザがある様に、言われてみればPVPで二度目は負けなかったり『実は頭が良いのでは?』と思われる事が多々あったし、そもそも、凡人にナザリックのNPC達を纏め上げたり、国家の内政などできないだろう。凡人が身の丈に合わない力を手にした場合は墓穴を掘って自滅すると大体相場は決まっている。

 きっと生まれた時代が悪かっただけで、実は自分では足元にも及ばない様な凄い人であり、ローマ帝国を築き上げたガイウス・ユリウス・カエサルやフランス革命で有名なナポレオンでも成し遂げる事が出来なかった『千年王国』を実現させたモモンガさんに対する脳内評価を超上方修正する。

 

(……あの頃の俺が、ウルベルト・アレイン・オードルとして異世界に転移していたら、力に酔いしれて好き放題暴れて最後は自滅していただろうからな……モモンガさん、あんたはすげぇよ)

 

 あのアドルフ・ヒトラーも最初は冴えない画家だった様に、人間どんな才能を隠し持っていて、いつ化けるか分からないものである。

 千年王国を築き上げたカリスマ性と智謀に溢れるモモンガさんには敵わないが、自分もあの頃よりは少しは成長したかな?とノスタルジックな気分になる。

 NPC達が尊敬の眼差しでこちらを見つめて来るのも、きっとモモンガさんの求心力が桁外れに凄過ぎる所為でギルドメンバー全員が凄い人だと誤解しているからなんだろうなと察する。

 

(やれやれ、モモンガさんには分らんかもしれんが、NPC達の期待を裏切らないようにするの大変だぞ、こりゃ。ハードルを爆上げしやがって……下手をしてモモンガさんの面子を汚すのもアレだしよ……参ったな……)

 

 彼自身、10年前カウラウ課長に拾われてなければ、日の目を見る事無く今も底辺で彷徨っていた人間だと自覚しているので自分には荷が重過ぎると溜息をつく。

 カウラウ課長を日本に送ったのはモモンガさんであり、すなわち、モモンガさんのお陰で今の人生があると言っても良く、恩を仇で返すような事は彼としても避けたいのだ。

 

「……って、しまった、やっちまった」

 

 深く考えている内に拘束椅子に座っているマフィアが恐怖の余り失神しまっていた。というよりも、むしろ息をしていないし口から変な色の液体が出ている。ニューロニストやエントマを見たショックでパニック性の心臓発作を起こして死亡したらしい。

 

「心肺停止しても5分程は脳の活動が続いていると海外ドラマで聞きましたから、ニューロニストに脳を吸って記憶を抽出してもらうのは如何でしょう?」

「よし、時間との勝負だ。じゃあそれで早速頼めるかい?申し訳ないけど隊長さんは検死解剖の事務手続きをやっておいてもらえないかな。この際後出しでいいから」

「死因はどうしますか?」

「うーん、薬物中毒の幻覚に伴うパニック発作により死亡ってところかな?どうせLSDやコカインでもやってるだろうから誤魔化しが利くでしょ」

 

 番外ちゃんが仲間を惨殺する地獄絵図を見て、ニューロニストやエントマと言ったこの世の物とは思えない怪物に囲まれた恐怖でショック死した挙句に、薬物中毒で死亡した事にされ『検死解剖』で脳を吸われるマフィアが哀れである。

 毎回ショック死される度に脳を吸ってもらうのも流石に無理があるので、これは一度考えないといけないとごちる。

 

 

 

 

 オフィスに戻りネット配信されているニュースの中継を見守っているウルベルトさんだが、やはり世界中で多かれ少なかれ混乱が発生している。歴史上、地球で最も長い一日となるだろう。

 

 バチカン市国では終末の世界に再臨したイエス・キリストだと大騒ぎになり、遂に聖書の『ヨハネの黙示録』に書かれている最後の予言が成熟する時が来たとローマ教皇や国民が一丸となりモモンガさんに祈りを捧げていたり。

 当然、エルサレムでも同じような状況になっており、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教の人々が混在した状態で一心不乱に祈りを捧げていたり珍しい光景を生み出している。

 サウジアラビアのメッカは言うまでもなく。

 モモンガさんが骨だと知ったらどうするのだろうか?それでも歯止めが外れて濁流の如く溢れ出る信仰心の力で前向きに解釈しそうではあるが……

 

 この状況には流石のたっちさんも今頃頭を抱えて悩んでるだろうなと思うウルベルトさん。

 これは完全にモモンガさんを神として信仰する一派と、偽りの神とする一派に2分されて『聖戦』とか起こりそうである……特に中東方面が。外国人労働者が増えて国際的な国となった日本でも他人事とは言えない問題なので要注意しなければいけない。

 東京湾上に浮いているエリュエンティウは神々しく、知らない人が見ればそれこそ神の居城に見えるだろうし、カウラウ課長達が不老不死化して永遠の命を与えられている事なんて神の御業として映るだろう。

 それに誰もが多元宇宙論の概念、所謂『異世界』を知っているわけでは無く、それこそ緑豊かな魔導国は『天にある神の国』そのものだろう。

 

『ニュースの途中ですが只今入った情報によりますと、アインズ・ウール・ゴウン魔導国のアルベド魔導王夫人が記者会見の場で日本国民に向けた公式声明を発表するとの事です……国内でも各地で突如大量発生したゴキブリにより死者・行方不明者が1500人出るなど大混乱が続いており、パニックになった人々がドラッグストアに押し寄せて全国的に殺虫剤が不足する事態となっています。一体、今この世界で何が起こっているのでしょうか?』

 

「ブーッ!ゲホッゲホッ……ちょっと待って。それは不味い。お願いですから俺達の仕事をこれ以上増やさないでモモンガさん。これは絶対に俺を過労死に見せかけて暗殺するつもりだろ」

 

 このままでは40代になる前に白髪になってしまうと危機感を覚える。

 もうこれ、茶釜さんやヘロヘロさんにペロロンチーノさんも今頃大パニックになってるわと思うウルベルトさん。お願いだから妊婦の茶釜さんに多大なストレスを与えないでくれと冷や汗を滝の様に流す。

 

「ねえ……もしかして、あの1500人って……やっぱりアレだよね?」

「はい。以前愚かにもナザリックに侵攻した不肖な輩は我々の手で全て始末致しましたので、どうぞご安心ください。ウルベルト様」

 

 もの凄く良い顔をして、さも当然の事をしたまでと言わんばかりのソリュシャン。

 

(やっぱり確信犯だったー!これバレたら外交問題に発展するぞ!)

 

 これ、注意しないといけないのがユグドラシルプレイヤー達にとっては唯の遊びであった事も、生命が宿ったNPC達にとってはリアルなのである。当然あの時に殺されたシャルティア、アウラ、マーレ、コキュートス、デミウルゴスは全て現実の出来事として覚えているわけで……

 

 額の冷や汗をハンカチで拭いているウルベルトさんの横では、ソリュシャンとエントマが『至高の御方のお役に立つことが出来た』と満足そうな顔をしている。

 

 まだこの時のウルベルトさんは知る由も無いのだが、支配者層が意図的に被支配者層に余計な知恵を与えない為に義務教育制度を取っ払った事が今後日本も含めて世界規模で思わぬ副作用を生むことになる。

 ちゃんとした教育を受けてしっかりとした教養を身に着けた人々ならば物事を冷静にかつ客観的に捉えようとするのだが、教育を受けられなかった人々は事実上、中世時代の村人とメンタリティ(心の在り方)の面で然程変わりが無く、これが中東で何時までも宗教戦争やテロが続いている要因の一つでもある。

 21世紀の時代に『子供たちに教育を受けさせる事が世界から紛争や内戦を無くす唯一の方法』と言われていた物を何故、巨大複合企業が取っ払ってしまったのかと言えば、その巨大複合企業を操っているのはワールドイーター達であり、彼等はそもそも120億まで膨れ上がった世界人口を自足可能なレベルまで減らす事を目的として意図的にそうしている。

 

 故にこの時代では日本国内にも当然、誘拐や殺人に人身売買と言った犯罪が多発する貧困街が数多く存在しており、ウルベルトさんも元は貧困街出身で若い頃に散々社会の闇を見てきた人間だ。当然、子供時代はその日を生きる為に万引きや窃盗で食い繋ぐストリートだった。彼が昔たっちさんと犬猿の仲だったり富裕層を憎んでいたのはこれが所以(ゆえん)である。

 とはいえ、ウルベルトさんの暗い過去も今では彼ならではの『長所』として、貧困街にいる裏の世界の情報屋などと言った知り合いのコネが公安第一特務課の仕事で役に立っており決して無駄では無かったのだ。

 

「……隊長さんよ。ちょいとソリュシャンとエントマを連れて貧困街に出かけて来るから、プルチネッラとニューロニストにパソコンの使い方を教えておいて欲しい」

「わかりました……しかし、彼女達の服装では幾分と目立ち過ぎると思うのですが……」

「ん?それが狙いだから気にしなくても良いよ」

 

 

 

 

「ウ、ウルベルト様……大変申し訳ございません。本来ならば私達シモベが運転するべき所を至高の御方に……」

「まあ、とは言っても運転の仕方が分からないだろうし、免許も無いから仕方ないでしょ?……()()()()も3カ月前に免許取ったばかりだし。それに民間用は無人自動車が主流だから気にしなくていいよ。ウチらは何時でも不測の事態に対応できる様に手動運転してるだけだから」

「あのぉ、ウルベルト様。無人自動車って何ですかぁ?」

 

 まだこちらの世界に慣れてなくてポカンと頭の上に『?』と浮かべているエントマちゃん。10年間こちらで過ごして株式市場を銀行と勘違いしている節のあるラナーや映画オタクになってしまった第一席次など、すっかりと板に付いている彼等とは圧倒的な差がある。

 

「人工知能、機械が一人で考えて走る車って言えば分かるかな?」

「そんな!まさか……この国の馬車は全てシズと同じ自動人形(オートマトン)なのですか!?」

「ん?うん、そう……だね?」

「流石は至高の御方々の住まわれている国ですねぇ。凄いですぅ!それに乗り心地もナザリックの馬車より快適ですよぉ」

 

 うむ、と少し考え込む。どうやらNPC達の忠誠心が半端ない程高い事が解ってきて、第一席次が『あなた達は向こうでは神として扱われているので覚悟しておいてくださいね』と言った言葉の真意がようやく理解できてきた。

 親と子という関係よりも、神と創造物という関係の方が近いらしいと。これはこれで色々と問題が起こりそうであり、よくもまあモモンガさん一人で頑張ったわと感心する。

 

「よし、じゃあこの辺から歩くから付いてきて」

「ウルベルト様!外は毒の霧で満ち溢れており、大変申し上げ難いのですが今の御身では危険です!」

 

 さっとカウラウ課長から貰った毒無効の指輪をソリュシャン達に見せるとそそくさと車から降りる。

 

 ここはウルベルトさんが子供時代を過ごした貧困街で、放置された超高層ビル群は立体的な巨大スラムと化している。大昔は『新宿副都心』と呼ばれた煌びやかな大都市だったのだが、2060年に発生した首都直下地震で昭和後期から平成前半に建築された超高層ビルは地殻変動などが原因で耐震構造を超える修復不可能なダメージを受け、解体作業するのも危険な状態でそのまま放置された。

 

 21世紀半ばを過ぎた頃から北欧方面で政治にAIが活用される様になり、日本も完全にAIに任せっきりというわけでは無いが、方針を決める上でシステムが弾き出した予測モデルは参考にしている。

 AIが政治を行うなんて聞くと摩訶不思議な未来世界のイメージを抱くかも知れないが、そんな大層な物では無く、単に入力されたデータと統計を照らし合わせて量子演算を行い予測モデルを導き出しているだけであり、株を自動取引しているAIに毛が生えた程度の物である。

 

 つまり、その性質上『最も多くの利益を生み出す選択はどれか?』を論理的かつ自動的に選択しているだけであり、人間と言う存在は『国家』という『システム』の構成要素の一部であると同時に単にデータ上の数値でしかなく、この様な大災害が起きた場合に必要によっては簡単に切り捨ててしまうのが問題になっている。

 その結果として完全にシステムから見捨てられた人々が集まる『貧困街』が世界各地で発生しているのだ。

 彼等に待っている未来は死後に富裕層向けの野菜を育てる為の肥料だったり、一般人向けのタンパク質を再合成した人工肉として処理されたり、犯罪組織に拉致されて再利用可能な臓器や眼球といった生体パーツをブラックマーケットに流されると言った結末しか待っていない。

 

 そんな『この世界は残酷である』という光景を嫌になる程見てきた彼は、絵空事でしかない何の役にも立たない『正義』という理想が腹立たしく嫌いだった。

 そんな彼を変えたのは、10年前に経済的な格差を気にせずに接して支えてくれた茶釜さんの存在であり、正義なんて理想はどうでも良いが、少なくても大切な人を守る為に何かをしようと私立探偵で生計を立て始めた頃にリグリットに拾われて今に至るのだ。

 

 今の彼は『正義の味方』でも無ければ『悪の頂点を極めた山羊』でも無い。大切な家族を守る為に生きる一人の人間である。

 

「ここがウルベルト様が生まれ育った場所……リ・エスティーゼ王国よりも酷い場所だっただなんて……」

 

 辺りを見渡せば財布を狙って集団リンチしている者や遠くで鳴り響く銃声など殺伐とした空気が漂っている。新宿区一帯は完全に見捨てられた無法地帯で殺人や誘拐があっても警察は一切関与しない。混乱に収拾がつかない事態になった時は自衛隊が出動し無差別発砲して鎮圧するのみである。とりわけウルベルトさん達が今歩いている旧歌舞伎町エリアは自衛隊による爆撃の傷跡が残っていたり最も危険な場所だ。

 皮肉な事に戦後、自衛隊が初めて実戦を行ったのは国内であり、殺した相手は同じ日本人である。

 

「いいかい、ソリュシャンとエントマ。何があっても一切関与せずにただ黙って見ていろ。全て俺が対処するから」

 

 良い仕立てのスーツを着ているウルベルトさんやメイド服を着ていて顔立ちが良いソリュシャン達は場所が場所なだけに圧倒的に目立っており、歩き始めて僅か数分で早速人相の悪い人達に囲まれる。

 

「おいおい、オッサン。随分と良いスーツを着てるじゃねえか、おい?それに後ろに随分高く売れそうな上物を2人も連れてよぉ。ナメてんのかぁゴルァ!お前みたいなオッサンには勿体ねぇよなぁ?俺達が代わりに楽しんでやるよ」

 

 まるで未来の殺人ロボットの映画で最初に犠牲になったパンクな格好をした3人組の様な感じのモヒカンヘアーのチンピラがゾロゾロ集まって来る。オマケにご丁寧に棘付きの肩パッドを付けた革ジャン姿で完全に『絵に描いた様なやられ役』である。

 

「オッサンじゃねえ。まだ37だ」

「あん?テメェ!今なんて言った?しゃしゃってんじゃねぇぞゴルァ!」

 

 後ろではソリュシャンとエントマから凄まじい殺気が出ており、これ以上ウルベルト様に不敬な発言をするならば絶対に楽には殺してやらないし、第七階層に送ったうえでデミウルゴス様に全て報告してやろうと決めていた。

 ソリュシャンは生かさず殺さず体内で永遠とじっくり溶かして苦しめてやると考えており、エントマも同じように回復させながら永遠に生きたまま肉を貪り喰ってやると脳内でどうやって苦しめてやろうか想像していた。

 もしも、この場にいたのがナーベラルだったら今頃青筋を浮かべて最大威力で魔法を放って相手を消し炭にしていただろう。

 

「エントマ、ちょっと上着とネクタイを預かってくれないか?シワになったり肩が崩れたら困る」

「はい、お預かり致しますぅ」

 

 ウルベルトさんの上着を丁寧に受け取ると、細心の注意を払って大切に扱うその姿は流石は本業がメイドなだけあり、その無駄のない流れるような仕草はプロである。

 

「……じゃあ、10年ぶりのP()V()P()と行こうか」

「オメェ、頭逝ってんじゃねえか?こっちは20人だぞ?数も数えられねえの―――ヒデブッ!」

 

 スクロールで補助魔法を自らに掛けて、()()()()()()をモヒカンの右目に突き刺してから、込められていた炎の魔法を発動させるとモヒカンの首から上が瞬く間に炭化し、肉だった物がボロボロ崩れ落ちて頭蓋骨が剥き出しになる。

 

「スッと行ってドスッて行ってやんよ。死にたい奴はどっからでも掛かってきな」

 

 奇しくも、スティレットの元の持ち主と同じようなセリフを言い放っているウルベルトさん。もしかすると似ている部分があるのかもしれない。

 

「アイツをぶっ殺すぞ!」

 

 モヒカン達が金属バットやパイプだったり拳銃を取り出して一斉に襲い掛かって来ると、ウルベルトさんも右手にワルサーP5、左手にスティレットを持ちクロース・クォーターズ・コンバット(近接格闘)のスタイルで刺したり撃ったりで応戦する。

 

「ぐっ!」

 

 モヒカンの撃ってきた銃弾を避けれずに胸に当たるが、防弾シャツを着ているので致命傷は免れる。身体能力が補助魔法で上がっているとは言え、やはり銃弾が当たると凄く痛くポーションを砕いて回復させる。

 

(ああ、ウルベルト様。愛する茶釜様の為に世から悪を消し去らんと人の御姿にも関わらず戦うのですね……これがウルベルト様の正義……)

 

 ウルベルトさんは目の前にいる敵にスティレットを投げナイフの様に投げつけると、後ろから迫ってきているモヒカンに銃弾を撃ち込み、スティレットが額に刺さって痙攣しているモヒカンから引き抜くと更に3人目を突き刺す。

 

 ワルサーP5の弾薬が切れると腰にぶら下げていた2本目のスティレットを取り出して、相手の金属バットを2本のスティレットでクロスするように受け止める。

 

「お、もう弾切れか?残念だったなぁ。頭をカチ割ってヤラァ」

「お前はもう死んでいる」

「は?オメェ何を言って―――グギャアア」

 

 2本目のスティレットに込められていた雷の魔法を解放すると、相手は手に持っていた金属バットを伝わってきた超高電圧の電流で感電死する。

 

「ふう、さてこれで全員片付いたか。悪いね二人共、待たせちゃって。俺の育った地元ってこんな感じで物騒な場所でね」

 

 ウルベルトさんは最初、シモベ達の忠誠心が高過ぎる所為で『自分達の身に危険が迫ったら、言う事を聞かずに暴走するのでは?』と懸念していたが、大人しく待機していたソリュシャンとエントマを見てこれなら一緒に仕事をしても大丈夫そうだと安心する。

 




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