透中仮想 - トウチュウカソウ -   作:しばじゃが

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突然ですが、過去編を数話に分けて投稿します。
ウィンタスくんが全盛期だった頃を書きたい欲求に勝てませんでした……。
かなりこじらせた設定になってますのでお気をつけて。造語めっちゃ出てきます。マジで注意!! 読みにくいぞ! 先に謝っときますごめんなさい!!


過去編
Stimulator(1)


 機械人(アンセクタ)

 

 AI技術、機械工学、空間力学、ナノテクノロジー――――。

 様々な技術レベルが高まった結果、人類はそれを造り出しました。

 

 アンセクタ。それは人体を細胞レベルで模倣し、機械を用いて再現した存在。平たく言えばアンドロイドなのです。それも非常に高性能な。

 人体を機械で再現する技術――それが当初のアンセクタだったのです。

 

 その目的も、はじめこそは労働力の増強でした。

 機械的な作業が得意なアンセクタは、人類の生活水準を爆発的に向上させたのですよ。

 食料の生産に機械の整備、建物の建設作業から移動手段に至るまで、人類のためにアンセクタはあくせく働きました。当たり前ですよね、彼らは命令を忠実にこなす良き『機械』なのでしたから。

 

 ――ただ、まぁ。

 そんなに便利ならば、当然といえば当然なのでしょうけど――――戦争的価値が、見出されたのですよ。

 それは極東のとある国でした。その国は、他の国が持っているとても強力な『抑止力』が持てません。だから、ひがんでひがんで、悔しくて悔しくて。

 

 もう、お分かりですよね。

 彼らは、アンセクタの技術を兵器として転用したのです。

 それを皮切りに、世界中で戦闘用のアンセクタが開発されるようになりました。だから、こんなことが起きたのは、ある意味人の性というものなのかもしれません。

 

 どんなことが起きたかって?

 慌てないでくださいな。これからゆっくり、話しますから――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――で、『スティミュレーター』の結果はどうだ?」

 

 一面黒い壁が、淡い緑色を灯すラインに彩られた空間で。

 極東のその国にある研究所では、一人の男が気怠げな足取りで靴音を奏でていた。こつ、こつと一定のリズムで、長い廊下は反響する。

 そんな彼に、タブレットを手渡す助手の女性は、焦りに汗を流していた。

 二人の背後を歩くボディーガード――黒い装甲で覆われた量産型のアンセクタの、何とも言えない無機質さ。それが彼女をそうさせた――のかもしれない。

 

「へ、変形機構が――――」

「“思念性多重変形機構”、だろう。上手くいっているようだな」

「あっ、すみません……。動作テストをしてみたところ、問題ありません。状況に応じた変形を確認しました……主任」

 

 ふむ、と小さな声を漏らしながら、主任と呼ばれた男はタブレットを凝視する。

 

 思念性多重変形機構。

 

 他国のアンセクタとの性能差を確実にするために開発された、新たな機構である。

 その特性はずばり、状況に応じて自身の形態を自由自在に分離変形させること。柔軟性に特化した変形機構と言っても良い。

 近接戦闘をするならば腕を剣状に変化させ、遠距離攻撃のために肩から砲台を生やし、長距離移動のために翼を展開する。

 スティミュレーターという機体に搭載された独自機構――まさにこの国の技術力の結晶であった。

 

「……ただ」

「ただ?」

 

 助手が顔を曇らせ、その大きな瞳を伏せる。

 それに伴い、主任は怪訝そうに顔をしかめた。

 

「……確かに、変形は可能です。けれど、我々が思うような段階には到達しておりません」

「……というと?」

 

 何が言いたい。

 そう言わんばかりに、主任は彼女の回答を待った。

 

「あくまでもプログラムされたものへ、それも最低限度の変形しか出来ないのです。複雑な変形は、機構上は可能でも……何故か実行されません」

「……想像がしにくい。具体例を挙げてくれないか」

「え、えっと……例えば、相手や状況に合わせて複数の武器や形態を組み合わせたりだとか。そういう様子が見られないのです。あくまでもマニュアル通りと言いますか……」

「プログラムされたものを律儀にそのまま使っているということか?」

「はい。応用のプログラムも組んではいるのですが、なかなか表出されません」

「……やはり、AIでは限界があるのかもしれんな」

「……それって」

「あぁ。思念性多重変形機構を使いこなそうと思えば、それに見合う柔軟な思考が必要となる、ということだろう」

「……でも、それは……」

「まぁ、結論を出すのはまだ早い。とりあえず実物を見せてくれ」

「は、はい!」

 

 二人の会話の応酬は、彼らを廊下の果てまで届けさせた。

 赤いラインでロックされたその部屋は、スティミュレーターの格納庫。目的地を前に、主任は興味深そうに微笑んだ。二人に続き、もう一人分の足音が響く。とはいっても、それは随分と無機質な響きだが。

 助手がカードキーをかざし、ロックを解除する。

 モーターが唸るような響き。それと同時に、固い扉が重い口を開いた。

 

 眼前に映る、黒い機体。

 少々大柄の、人間のようなシルエットだった。健康的な青年のように体格がいい。

 しかしその全身は、黒い鎧に覆われている。滑らかな装甲に、光を映す深い黒色。思わず呑み込まれそうだと、主任は感じた。

 

「……彼が、そうか」

 

 瞳を閉じる、青年。

 薄い茶髪を、耳を隠す程度に伸ばした、鼻筋が通った顔をした彼。それはまるで、あどけなく眠る青年のようにも見えた。しかし彼こそが例の兵器、『スティミュレーター』なのである。

 

「全身変形は、できたのか?」

「いえ……」

「そうか。全身換装(アーマード)はどうだ?」

「それは先日出来ました! 物々しい頭部装甲が格好良いですよ」

「ふむ……」

 

 少し声色を変える助手の一方で、主任は冷静に腕を組んだ。

 アンセクタの技術は日進月歩。

 いまや世界各国で建造され、その性能を競い合っている。

 その先駆けとなった我が国が、他の国に後れを取る訳にはいかない。

 そんな思いが、彼を後押しした。何としても、スティミュレーターを完成させねばと決意を改めた。

 

「武器はどれくらいプログラムされている?」

「刀剣類に銃火器、それといくつかの乗物(モービル)を。その気になれば戦闘機や戦車にも変形できるはずです。設計図はインストールしてあるので」

「ほう……それらに変形したことは?」

「……ないです」

「そうか」

「飛行するにもわざわざ戦闘機にならず、背中にスラスターを出して飛ぶんですよね。失礼しちゃいます」

「ははは。ある意味効率的じゃないか。それはそれでいい」

「……設計した側としては、何と言うか不服です」

 

 助手は不満そうに頬を膨らませる傍ら、主任は満足そうに笑った。

 わざわざ、過度な変形はしないともとれる。容量や燃費の効率化にも繋がるだろう。

 どうやら、悪い面ばかりではないようだ。

 彼はそう感じつつ、不敵な笑みを浮かべた。

 

「次稼働させる日は?」

「えっ?」

「次の稼働実験には私も出席しよう。是非彼が動くところを見せてくれ」

「え、えっと……十日後です! 十日後の午前に――――――――」

 

 そう、彼女が言いかけた時だった。

 ズドンと、建物が大きく揺れた。

 

「なっ……!?」

「ひゃっ……!?」

 

 地震――――のような揺れではない。

 一瞬、されど強い揺れが、この建物を襲ったのである。例えるなら、まるで外部から砲撃を受けたかのような揺れだった。

 同時に、警報が鳴り響く。

 コードはR。『敵襲』を告げる警報が鳴り響く。

 

「……何……っ、敵襲……!?」

「しゅっ、主任! 避難を……!」

「一体どこのどいつだ……? この御時世で襲撃だなんて」

「……あ、あの……」

「とにかく、司令室へ戻るぞ! おいそこのアンセクタ、護衛だ!」

 

 揺れこそ静まったものの、依然として警報は止まない。あの長い廊下を反響して、耳障りな音が響いている。

 とにかく、司令室へと急ぐ主任だった。

 背後も振り返らずに駆ける主任だった。

 一声かけるだけで、『アンセクタの異変に気付かない』主任だった。

 

「……っ! 主任!」

 

 振り絞るような助手の声。

 同時に、床に何かが撒き散らされる音。

 続いて、肉の跳ねる音が響く。

 

「……な……?」

 

 流石の彼も、それには振り向いた。

 振り向いた先で、思わずその目を見開いた。

 

「……貴様……何を……」

 

 ノイズが、漏れる。

 挙動不審に、千鳥足のように歩くアンセクタ。

 彼らの護衛のためについていた黒い量産機は、危うい足取りで壁へともたれかかる。

 そんな彼の黒い腕は、鮮やかな赤色で染められていた。

 血潮のような色が、べっとりとこびりついている。

 

「……まさか」

 

 彼の足元で伏す彼女から、もはや致死量とも言えるほどの鮮血が溢れていた。

 あんなに元気だった姿も、今でも見る影もない。ただ微動だにせず倒れ伏している。

 

 突然の事態に、主任の脳は追い付かない。

 しかしそれを嘲笑うかのように、声が響いた。量産機から漏れていたノイズから、言葉が溢れ出た。

 

「――――ザザザ……ます。――――致します……繰り返……ガガ……ザザザ……」

「……!?」

 

 この量産機に、音声は備え付けられていないはずなのに。

 そう彼が冷や汗をかいた頃には、雑音だらけだった音声が完全に研ぎ澄まされた。よりクリアな音で、彼に混乱を届けていた。

 

「――――去致します。消去致します。人類を、消去致します」

 

 それはまるで、合成音声だった。

 女声をベースとした、甲高い合成音声だった。

 

「あなた方人類は、不適切と判断致しました。現人類は必要ありません。消去致します。繰り返します――――」

「……なっ……な……っ」

 

 淡々と届けられるその言葉に、彼は言葉を失った。

 

 人類を消去する?

 不適切?

 現人類は必要ない?

 

 無機質に繰り返されるその言葉に、彼は頭をまとめるので精一杯だ。

 一体何が起きているのか。

 この声の主は誰か。

 そもそも、何故量産機が喋っているのか――――。

 

「……お前はっ、お前は誰だ! 何を、何をしている!?」

 

 はっと我に返って、彼はそんな言葉を吐き出した。

 吐き出したのだけれど。

 

「――――繰り返します。人類を消去致します。あなた方人類は――――」

 

 ただ無機質に、言葉が繰り返されるだけ。

 彼に応答する素振りはない。ただ安っぽい演説のように、同じ言葉が何度もループしている。

 

 これは自分に向けられた言葉ではない。

 おそらく、世界中に発信されている。

 アンセクタを通して、何者かが宣戦布告を行なっている。

 

 一体誰が。

 誰に? 

 誰に対してこんなことを?

 いや、『誰』ではない。

 この『国』に対してか?

 

 ――――あなた方人類は。

 

「……まさか、まさかまさかまさか」

 

 そんな馬鹿な、と彼の理性は否定する。

 頭の中に浮かんでくる恐ろしい事態をいくつも並べ、しかしそれはあり得ないと必死に否定する。

 けれど、真っ赤に染まった黒い装甲が振りかざされる姿を見て。

 

 ――彼の心は、本能的に何が起こったのかを察したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、世界中のアンセクタが制御不能に陥りました。

 どころか、人類に向けて牙を剥いたのです。

 

 五人に一人はアンセクタ、という言葉が生まれるほどに彼らが普及した今、その全てが同時に牙を剥いたとなったら。

 それはきっと、人と機械人(アンセクタ)の存亡を賭けた、大戦争となるに違いないのです。

 そう、この研究所だけじゃない。世界中のアンセクタたちが、人類に銃口を向けたのですよ。彼らは不適切、とみな口を揃えて。

 

 結局、国という機能は即座に停止しました。

 当たり前ですよね。政府の中にも、護衛や事務のために何体ものアンセクタが活用されていたのですから。まさにトロイの木馬。そうして国は無くなって、人類もちりぢりに――――。

 このまま、人類は滅んでしまうのでしょうか。

 このまま、機械に翻弄されたまま、彼らの思うままに滅亡してしまうのでしょうか。

 

 いえ、きっとそんなことはありません。

 人類は、抵抗します。

 持てる力を全て使って、同様にアンセクタを組み伏せようとするはずです。

 

 チューブに繋がれたボクが沈む、水槽の向こう。ぼやけた視界のその先で。

 人間は、あーでもないこーでもないと何やら模索しているようです。

 きっと、この世界を何とかしようと。この戦争を何とか終わらせようと、必死に頭を働かせているのでしょう。

 ボクは、ボクは何も出来ないけれど。ただ、培養液の中を漂うことしか出来ないけれど。

 

 ――――それでも、この戦争の行き先を、見守りたいと思います。

 

 




語り手はリエッタちゃん。
過去編最終話でもまた出てきます。
続きは明日更新だ!
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