話変わるけどサイバー・エンド・ドラゴンって格好良いよね。一番右の顔が特に好き。
そもそも、何だこいつはと彼は困惑した。突然飛来し、唐突に自分を撥ね飛ばし、脈絡もなく姿を現した。奇妙な物体に乗り、見たこともない武装で、高圧的に自らを見下ろす人間。あまりにも異様だった。
だが、人は人だ。殲滅対象だ。頭の中で鳴り響く音声アシストに従うように、彼はそう言い聞かせる。
――――じっくり話も出来ない、か。
言葉にするのはやめて、ただ構える。両手の装甲に、彼はただ光を灯した。
「させるか……!」
瞬時に迫る、その人間。明らかに人間を超越した速度で、彼は迫った。
「……ッ!?」
機竜から飛び出して、一秒と経たず肉迫。黒い機体の首を握り締め、彼はそのまま加速する。
首を絞められる瞬間に、その人間を後押しする炎の噴射をスティミュレーターは見た。なるほどどうして、そのアーマーが彼の体を補助しているのか、と。レーダーの分析からそう判断する。
判断するが――――その勢いは止められなかった。
「……ぐ……ッ!」
エルヴントを包む強化アーマー。その背中に取り付けられたスラスターによって、彼はさらに加速する。
スティミュレーターの首を掴んで、なお前進する。その機体が大地に引きずられ、大量の瓦礫を巻き上げようとも止まらない。そのままビルへと突っ込まんと、炎を激しく噴き続けた。
「くぅ……っ!」
とはいえ、それは人体にかなりの負担をかける動き。試作段階であるこの強化アーマーは、人体をアンセクタに匹敵するレベルで強化させるものなのだが、そのデメリットもまた大きかった。
故に、エルヴントが痛みに一瞬の隙を見せるのも致し方ないことだ。それをスティミュレーターが突くのも、当然のことだった。
振り上げた右脚。足首あたりに展開されたスラスターに火を吹かせ、黒い鈍器を人間へと叩き込む。
それによって、形成は逆転した。勢いに乗って彼が上をとり、そのまま蹴り飛ばされたエルヴントはビルへと叩き付けられる。
「……チィ……っ!」
今度は自らが背中に罅を描くものの、パワードスーツが彼の体を守っていた。故に彼は無傷。即座に起き上がり、再び飛び立とうとするものの――――。
「――――お返しするよ」
スティミュレーターは、腕を振った。
掲げた腕を、振り払うように。
腕から放出される大量の機械を、撒き散らすように。
「お前らの戦車」
撒き散らされたガラクタから、砲身が伸びる。
かつて人類が派遣し、そして行方不明となったあの戦車の砲台が姿を現した。
「……なっ……!」
無人の砲身だ。ガラクタの山から顔を出した、ズタボロになった砲身だ。
されど、それが火を吹く。スパークが生じ、青白い火花が舞い上がる。
スティミュレーターが遠隔操作しているのは、火を見るより明らかだった。
「……くっ、あれは連絡が途絶えた戦車部隊の……! コイツが『喰って』いたのか……ッ!」
直後、一斉に発射。
轟音を響かせながら、砲身を抉る弾が射出される。それが一直線に、エルヴントへと牙を剥く。
背後の機器から火を吹かせ、彼は飛ぶように駆ける。その勢いに乗って砲弾を避け、そのまま飛び上がった。火を吹くだけだった機械を展開させる。まるでジェット機のような、火を吹く翼が展開した。
「……『粒子変換収納機構』、とは聞いていたが。まるでホイポイカプセルだな。それとも四次元ポケットか?」
空中に飛び上がって、彼はガンブレードに光を灯す。直後、青白い光が解き放たれた。それはレーザー状になって、地上を覆うガラクタを切り裂いていく。
砲身は未だ彼を捉え、太い砲弾を放つものの――そのほとんどが、青白い光にガラクタにされた。
「……人間って飛ぶのか……」
一方で、スティミュレーターは感嘆の声を上げる。
目の前で、人間が飛んでいた。
飛んで、自らが展開した武装を全て破壊された。
とても、今まででは見られなかった光景だった。
『粒子変換収納機構』。
それは、スティミュレーターに備えられたもう一つの機構。
スティミュレーターは何も、ゼロから武装を生み出しているのではない。武装を展開するには、それだけの素材が必要になる。この機構は、そのためのものだった。
物体を粒子に変換し、機体の内部に収納。そして、必要な際に適宜展開する。エルヴントがホイポイカプセルと揶揄するのも、まさに必然と言える機構なのである。
とはいえ、展開された砲台は、旧軍の武装でしかない。最先端の技術に身を包むエルヴントにとっては、大した脅威に成り得ないのだ。
「はぁっ!!」
エルヴントは、声を張った。
声を張って、再び猛加速した。
「……ッ……!」
スティミュレーターは、その体格と重さ故に、咄嗟の素早い動きに難点があった。
故に彼は、そこを突く。自身の身軽さを利用して、再び彼へと突進した。今度は、そのガンブレードの刃を突き出して。
青白い火花が舞い上がる。同時に焼けつくような音が響き、廃ビルの壁に穴の開く音が轟いた。
突進によって弾き飛ばされて、ビルへと埋め込まれたスティミュレーター。それに追撃を仕掛けようとする、エルヴントの加速。埃と粉塵が舞い、それが両者の視界を埋め尽くす――――。
「――――っっうあッ!?」
ことはなかった。
橙色の極太の光が、その埃を全て焼き尽くしたのだった。
エルヴントは、間一髪でそれを躱す。躱すものの、翼の片翼を失った。焼け焦げた臭いが、彼の鼻を穿っていく。
「……ちっ」
焼けた片側を
奴が一体何をしたのか。それは見当つかなかったものの、今の奴は隙だらけ。放熱に忙しいのか、全身から煙を噴き上げている。
故に、エルヴントは止まらなかった。ガンブレードを、大きく振り被った。
青白い刃と、橙色の刃。
それらが交差し合って、甲高い音が鳴り響く。
「……くっ!」
「……ッッ!」
その反動を、エルヴントは大きく後方へと受け流す。バックステップをするように、その身を翻した。
スティミュレーターは、その反動に真っ向から対抗する。コンクリートの床を大きく抉りながら、その脚を大地に擦り付けた。
一瞬の静寂。されど、再び火花が舞い上がる。
連打。青と橙の火花が散って、廃ビルの灰色に灯りを燈す。それはまるで、花火のようだ。
続け様に、耳障りな音が鳴り響く。
剣と剣の鍔迫り合い。弾き合っていたそれが、拮抗するように身を重ねたのだ。片側は粒子を放出した剣だというのに、両者とも一歩も引かず刃を擦り合わせる。
「……く……この……っ!」
とはいえ、腕力の差は圧倒的だった。
いくらパワードスーツを着ていても、性能の差は歴然。スティミュレーターの腕力は、とても人間が対抗出来るものではなかった。徐々に、徐々に、エルヴントの刃は押されていく。
「……馬鹿力が……っ!」
するりと、彼は肩の力を抜く。そのまま受け流すように、橙色の刃を滑らせた。唐突に押し合う力を失って、スティミュレーターはそのまま腕を振り抜いてしまう。右手の先の刃は、固いコンクリートを焼き砕いた。
真正面では対抗出来ない。ならば、そうならない状況を作ればいい。
そんな思いを胸に、エルヴントは再び剣を振り被った。剣を埋めて隙を晒す黒いアンセクタに向けて、青白い光を瞬かせる――――。
「はっ、馬鹿め」
そんな声が、装甲の奥から響いてきて。
そうかと思えば、エルヴントは反射的に背後へと飛ぶ。
そう、スティミュレーターの橙色の剣は、ただ粒子を放出したもの。故に実体はない。その放出を止めれば、その剣は途端に存在を失う。つまり、コンクリートに埋まっていようと、大した影響などないのだ。
それを見誤ったエルヴントに向けて、彼は銃口を突き付ける。先程の塵を全て燃やし尽くした、あの銃口を。
「――――灰になれ」
伸ばした右手は、大口径の銃口に。背後へ掲げた左手は、大きな排熱器に。
右手から左手を一直線に伸ばした、巨大な砲身。変貌した両腕の出で立ちは、その一言に尽きる。それは先程の極太の光を放ったものだと、エルヴントは本能で察知した。
彼は、急いで胸ポケットへと手を伸ばす。
同時に、銃口の奥から色の濃い光が溢れ出して。全てを埋め尽くすような橙色が、再び解き放たれた。
融けるコンクリート。
崩れ落ちる壁。
焼け付く大気。
轟く、空気の振動音。
あまりの衝撃に、ビルは轟音を上げながら崩れ始める。罅が加速し、土埃が舞い上がり、壁が少しずつ斜めにずれていく。
そんな中で、あの高熱の塊をもろに受けたエルヴントは――――。
「……?」
両腕を振り払い、展開した砲身を投げ捨てる。そうしていつもの機械腕へと姿を戻したスティミュレーターの前で、やたらと光を反射する白い何かが瞬いた。
「……これは」
白銀の体躯。
高熱をものともせずに、ただ煙だけを噴かす物体。
先程、彼を撥ね飛ばしたあの飛来物だ。
「――――機竜は、大気圏をも行き来する機動アーマーだ。貴様の高熱砲は効かない」
「……なるほど」
その背後から響く、エルヴントの声。
仕留めた、と判断しかけたスティミュレーター。しかしその声が、彼の判断を見送らせる。
「今度は、僕の番だ……!」
そんな、強かな人間の声が響いたと思ったら。その白い機体が、青白い紋様を浮かび上がらせた。
スティミュレーターの砲撃の直前に、エルヴントが遠隔操作して。間一髪で滑り込み、彼を庇うようにビルを貫いたその機体は。彼の体をそのまま収納して、その体躯を変貌させる。
立ち並ぶ、白い牙。白銀の装甲に包まれた、太い首。ビーム状に描かれる爪と翼に、サイバーチックなシルエット。
「……何だ、こりゃ」
何故それは機竜と呼ばれるか。
答えは簡単だ。その機動アーマーは、戦闘形態へ移行すると竜を模した姿になる。人の体躯を圧倒的に超える、巨大な機動竜型兵器に。
故にそれは、機竜なのである。
竜の四肢が、ビルを抉った。壊れかけのビルに爪痕を残しつつ、青い翼を羽ばたかせる。その直後、それは再び駆け出した。その機竜に搭乗したエルヴントは、もう一度スティミュレーターに向けて猛進した。
「……ッッ!!」
あの衝突と同等か、はたまたそれ以上か。巨大なものに弾き飛ばされ、スティミュレーターはコンクリートを砕く。崩壊寸前のビルを突き抜け、そのままガラクタの山へと落下した。
階層都市の、下層。瓦礫とガラクタを掃き溜めたダウンタウン。もはや灰色の廃墟に、黒い鎧が色を差す。
「逃がすかッ!」
機竜を繰るエルヴントは、すかさずそれを走らせた。
太い爪が三叉に分かれ、それが固い地面に深い爪痕を残す。そうして、崩れる瓦礫の中から飛び出して、ガラクタに埋もれるアンセクタに向けて牙を剥いた。
「……ッ!」
瞬時に、右手をブースターへと換装。そこから橙色の炎を噴かせては、スティミュレーターは真横に飛んだ。
弾ける瓦礫。散らばるスクラップ。錆びついた破片の中で、機竜の装甲がやけに輝いて見えた。
「凄いな、それ」
「ふん。それはどうも」
「……そいつは、一体何だ? 乗り物なのか? それとも兵器?」
「貴様らアンセクタを滅ぼす新兵器さ」
「……変形する機動兵器? 内部エネルギーは……」
「分析か? 無駄なことを!」
機竜の翼が大きく展開され、そこから大量の光がばら撒かれる。エネルギーを円柱状に留め、それを熱源を追うように射出する。それは俗にいう――――。
「……ホーミングフレア……ッ!」
「弾け飛べ!」
音声アシストの警告音が、スティミュレーターの頭部をけたたましく叩いていた。それに促されるように、彼は両腕と胸からスラスターを展開。激しい炎を噴いて、後方へ飛び出した。
しかしそれに食い付くように、光の塊は彼を追う。大量の筋が流星のように瞬いて、この廃墟を砕く衝撃波となった。
「…………」
舞い上がる埃。
倒壊する柱。
ミシミシと廃墟は悲鳴を上げる。上に連なった都市の重みに耐え切れないかのように、細かな砂の雨を降らせ始めた。
しかし、それに目もくれず、エルヴントは粉塵の奥を凝視する。スティミュレーターがどうなったのか、凝視――――。
『アウターモード、起動シマス』
そんな無機質な声が流れたのは、彼ではなくスティミュレーターの中だった。
同時に、大量のスクラップが吸い込まれるように撒き上がる。
「……何っ!?」
突然周囲のガラクタが浮き上がり、エルヴントは驚きの声を上げた。
同時に、奇妙な力を感じ取る。自らの体を覆うパワードスーツが、うっすらと熱を灯すのだ。
「……磁力? まさか、こいつ……!」
ネジやチューブ。車の一部から、一体何に使われていたのかも分からない鉄製品。それらが舞い上がり、粉塵の奥の黒点――スティミュレーターへと吸い寄せられていく。
同時に、その装甲の隙間から橙色の粒子が飛び出した。淡い光の粒子が舞い上がり、それが彼の体を包んでいく。大量のスクラップで
「待たせたな」
そう溢すスティミュレーターに、先程までの面影はない。
機竜と遜色のないほど体格に変貌した巨大なアンセクタが、そこに立っていた。
「周りのガラクタと溜め込んだ部品で外殻を為したのか……っ! 大型化? それに、その腕……」
「さぁ、殴り合おうぜ……!」
鉄柱の如く太い両腕を掲げて、巨大兵器は走り出す。足裏に仕込まれたローラーが、埃を立てながら巨体を前へ前へと押しやった。
黒ずくめの装甲に、橙色のラインが脈動するその姿。アウターモード――スティミュレーターの変形の一種。平たく言えば、全身装甲の上に大型武装を重ね着するのである。
音を立てて、その巨体が踏み込んで。太い拳を、機竜の胸部へと叩き込んだ。
「……ぐっ……!」
ただ巨大な物体が叩き付けられただけ。
ただ、その威力が尋常じゃないだけだ。
「はぁっ!」
怯む機竜に向け、スティミュレーターは止まらず腕を振るい続ける。拳の後部からスラスターが顔を出し、さらに威力を増した物体が肉迫する。
白い装甲は、大きく凹んだ。
フレアを放つ翼には、
三発、四発と機竜の胸を殴りつけ、五発目は竜の腹を下から突き上げる形となった。火を吹く鈍器に押し上げられて、機竜の体は宙に浮く。
「……調子に乗るな……ッッ!」
危険を知らせるブザーが鳴り響く中、エルヴントは歯軋りした。
同時に、機竜が牙を軋ませる。牙の奥から、青白い光が瞬き始める。
「……?」
「これならどうだっ!!」
そう、人間の叫びが響いたと思ったら。
竜の咆哮が轟いた。
ノイズのような、無機質で粗雑な反響音が。
「なっ……ッ!?」
もたげられた竜の首が青白く輝いて。
その光に押し上げられるように、口腔から眩い塊が膨れ上がった。
圧縮粒子砲。機竜に備えられたメインウェポン。荷電粒子を亜高速まで加速させて射出する、まさに必殺兵器だった。
照準は、竜の首。狙いは、スティミュレーターそのもの。
青白い光が、巨大な光線となって放射される。
「こんなもの……っ!」
スティミュレーターは、右肩から腕を
まさに、ロケットパンチ。切り放たれ、宙吊りにされたそれは、先程と比べ物にならないほど挙動が速い。そして何より、リーチが伸びた。竜の首に拳が届くまでに、それは伸びていた。
光の帯と、ガラクタの塊。
一瞬で消滅するクズ鉄の拳だが、それで十分だった。機竜の頭を殴り付けるには。
「ち……!」
口の中を殴り付けられるような形で、吹き飛んだ頭部。軌道を逸らされ、その光はスティミュレーターを呑み込むことは出来なかった。右半身だけの半壊で済んだ目の前のガラクタに向けて、エルヴントは舌を打つ。
メインウェポンを無効化された今、どのような手を打つか。それを考えようにも、左手を振り上げる機体を前には熟考など出来やしなかった。
「僕に近付くなッ!」
「うぉ……ッ!?」
青白い光の壁が解き放たれる。頭部を失った竜の、凹んだ胸部から。六角形を繋ぎ合わせたような、光の壁が押し出された。
それに触れたガラクタの腕は、白い煙を上げながら融け始める。あの光線とまではいかなくとも、同じ現象だとスティミュレーターは感じ、そっと腕を引いて大きく後退する。
距離にして、百メートルほどまでに及んだ。
それほどまでに拡大した光の壁は、徐々に収縮を始める。そうして、機竜の体を覆うほどで収まった。
「……バリア? 凄いな、人間って……」
機竜に備えられた、もう一つの機能。それすなわち、バリアである。
スティミュレーターの作るシールドとは違い、全方位を対消滅させる非常に高性能なバリアだ。思わぬ武装を前に、彼は感嘆した。人間の意志の強さを、実感していた。
バリアの膜に迂闊に触れれば、問答無用で消滅させられる。手痛い反撃を受けるのは目に見えているだろう。故に彼は動けない。この壁がなくなるのを、待つしかない――――。
「今度こそ消えろ!」
「……おいおい、まさか」
頭を失った機竜の首から、再び眩い光が溢れ始める。
照準器を失ったというのに、エルヴントはそれを放とうとしていた。
『圧縮粒子砲、再ビ充填サレテイマス。退避ヲ推奨シマス』
「……うるさいな」
バリアによって、かなりの距離を開けられた。
今ここで左手を切り放しても、先程のようにはいかないだろう。
頭を失って精度が落ちているとはいえ、光線に触れた時点でアウト。極めて、スティミュレーターが不利であると。そう言わざるを得ない状況だった。
『退避シテクダサイ。防御不可能ナレベルデス。退避、退避ヲ――――』
「うるさいって言ってるだろ!」
鳴り響く音声アシストに、彼はそう吠えて――あの機動兵器の中にいる青年を見た。
人間だ。
無機質な返答ではない、意思を込めた返事をくれる人間だ。
誰かの声を聞きたいと思っていた彼の前に現れた、願ってやまない存在だった。
しかし彼は人間で。スティミュレーターは、彼らの敵であるアンセクタで。
故にここに、対話など発生しない。
「……虚しいよ」
相変わらず、何故そう感じるのか、彼には分からなかった。
人間を、これまで数え切れないほど殺してきたはずなのに。それでも、言葉を返してくれる人間を探しているだなんて。バグが、故障かと彼は自嘲する。
自嘲して、再び全身から橙色の光を瞬かせた。巨体を走る光の筋は脈動し、それが侵食するかのように黒い装甲を暖色で包み始める。そうかと思えば、それは再び、粒子状に彼の体を包み始めた。
「……何で戦わないといけないんだろうな」
彼の意識を侵食する、
目の前の敵を倒せ。
人間を滅ぼせ。
そんな、無機質な声が彼の変形を加速させる。
嫌な痛みだ。まるで頭の奥をちくりと刺すような、偏頭痛のような感覚だ。
そんな、どこか不自然な感覚を覚えながらも、スティミュレーターは飛び出した。
「……ジェット?」
エルヴントは、目を見開いた。
目の前に瞬く、橙色の光。
光の帯を描き出し、流線形の体を押し出すその姿。
そう、それはまるでジェット機だった。小型の戦闘機が、この廃墟の中で駆け出した。
「何だ、何をする気だ……!?」
光を充填するも、超高速で飛ぶアンセクタを前に、彼は動揺を隠せなかった。
一瞬で距離を詰めて、一体何をしようというのか。
退避ではない。機竜の展開するバリアへ、一直線に飛んでいる。
触れれば、アンセクタの装甲といえど無事では済まないというのに。それでも彼は、飛んでくる。
血迷ったか。血なんて通ってない癖に。そう、エルヴントが思った頃だった。
火を吹くそのジェット機は、再び全身を変形させた。
先端部から橙色の刃を展開。それも長く鋭い、長大な刃を。
翼やジェットエンジンそのものは軒並み切り放し、胴部はただ細長さだけを追求した線を描く。
例えるなら、それは槍だ。人間大の、大きな槍だった。
「まさかっ!!」
ジェット機の超加速によって宙を滑るスティミュレーターは、その全身を槍へと変えた。速度はそのままに、物体としての限界に近い速度で廃墟を駆け抜けた。
細長い体は、バリアとの接触面積を限りなく減らす。さらに先端部の刃が、薄い粒子のバリアに、風穴を開けるのだ。
弾ける破片。青白い光の粒が、煌びやかに空に罅を入れる。
同時に、光の壁は風穴を開けた。白い竜の胸にも、同様の風穴が開いた。
「……そんな……っ」
機竜内部に、深刻なダメージと、活動の停止の旨を伝えるアナウンスが鳴り響く。バリアを打ち破られ、胴体を貫通する風穴を開けられたのだ。首から光を放つどころではなくなった。機竜は、破れたのである。
勝った、と思った。
けれど、奴の思わぬ手によって覆されてしまった。
エルヴントはその事実を前に歯を食いしばる。自身の敗北に、握り拳からは血が滴った。
スティミュレーター。
思念性多重変形機構という、非常に柔軟な変形機構を持つ機体。
こいつは、危険だ。機竜ですら仕留められない、恐ろしい難敵だと。彼は改めて実感したのだった。
「……覚えていろ。次は、次こそは……!」
ぎりっと歯を擦らせながらも、彼はコクピットのセーフティに手を回す。緊急時用の脱出ポットを射出するボタン。彼は手早くコードを入力し、慌ただしくシートベルトを身に巻いた。
直後、衝撃。恐ろしい勢いで、ディスプレイに映る景色が転換する。
「あ、逃げた」
一方のスティミュレーターは、奥で伏せる機竜から、円柱状の何かが飛ぶのを察知する。内部から感じる生体反応で、あの人間が逃げたことを感じ取った。
一瞬で空の向こうまで飛び上がるそれを前にして、彼は槍の姿を解く。黒い鎧に身を包んだあの姿で、廃墟を重々しく踏み抜いた。
――――やっぱり、人間とゆっくり話すのは無理そうだ。
ようやく弱まってきた、
「……覚えていろ、か。アンタは履歴から削除しないでおくよ」
ご丁寧に自爆装置が作動した機竜を前に、スティミュレーターは大人しく後退する。思わぬ邂逅に、少しばかり胸を弾ませながら。
その日、廃墟となった階層都市が崩落した。下層の街が全て弾き飛ばされ、それによって上層の街も崩れ落ちたのである。とはいえ、生存者など誰一人もいない。死亡者はゼロだった。
生きていない黒い機体だけが、ただ悠然とその鉄屑の山から歩み出す。
スティミュレーターは、機竜をもってしても、朽ちることはなかった。
たっくさん変形させていただきました!
もう満足!こういうのを書きたかった!全然表現できている気がしないけど!
最近昔のメカブームが帰ってきてついつい拗らせちゃうんですよね。でも、文章で表現するのは初めてなので、これはこれで面白いかもしれない。分かりにくいけど。精進します。
それでは!stimulator編は次でラストです。