「アンタ私たちのことをいやらしい目で見てない?」
「はっ…?」
いつものようにリビングでの勉強会の最中、あまりにも突拍子もない二乃の発言に俺は言葉を詰まらせた。
…俺をからかっているのか?
「小テストに私たちが問題に夢中になってる間にアンタからのいやらしい視線を感じるのよ」
「あーそれ私も思ってた、まぁ私が上杉君の立場でもこんな美少女5人に囲まれたら意識しちゃうよね~」
二乃に乗っかる形で一花がニヤニヤと笑いながらからかってくる。当然ではあるが俺とこいつらは家庭教師という仕事上、先生と生徒という関係だ。
やましい気持ちなど一切ない…が、それは俺の一方的な解釈でしかない。もしかしたら俺が何気なく行う目配せや普段の行動がこいつらにとっては不快に感じている可能性もある。
家庭教師において大事なのは信頼関係を構築することだ。こんな下らないいいがかりでこれまで築き上げてきた信頼を壊してなるものか、ここはムキになって感情的に否定するよりも引き下がりつつ取り繕った方が良いだろう。
「そんなつもりは無かったんだがお前らがそう感じているなら本当にすまなかった。これからは誤解を招かないように態度を改める」
こう言っておけば角が立たないだろう、さて次の課題に取り組ませるとするか…と思った矢先に四葉が口を開いた
「上杉さん…私たちをそういう目で見ていたんですか!?」
「おい四葉!だから違うって言ってるだろ!」
自分の中で既に終わった話を直後に掘り返されたことでつい感情的に否定をしてしまった、しかし後悔するにはもう遅い。
「何ムキになってるのよ、やっぱりそうだったの?アンタってどうしようもない変態ね」
「フータロー…」
「取り乱して否定するなんて何か怪しいですね」
さすが五つ子といったところだろうか、二乃から始まった疑心暗鬼が瞬く間に三玖と五月にも伝播してしまった。
今日の勉強会はお開きにしよう。時間が空けば次に会う時までにはみんながこのことを完全に忘れるとはいかないまでも改めて掘り返す可能性は低くなるだろう。
「…あー、変な流れになっちまったな。今日はここら辺にして切り上げるか、みんなお疲れ様。課題は後でメールで送っとくからな。ちゃんとやっておくように」
五人の疑惑の視線を感じながらそう言って荷物をまとめてそそくさと立ち去ろうとする。しかし…
「ちょっと待ちなさいよ!さっき小テストの時に机の下でケータイを弄ってたわよね?」
「もしかして二乃のスカートの中を盗撮…?お姉さん流石にそれはよくないと思うな」
確かに俺は小テスト中にケータイを操作していた。しかしそれは妹のらいはにメールを送信するためだった。
小テスト中はこいつらが解き終わって俺が採点するまでは手持ち無沙汰になるからってケータイを操作したのがまずかったな…
しかも気を使って机の下で使っていたのが運の尽きだった。そうか、俺の対面に座っていた二乃はこのことで俺に突っかかって来たワケか。なら話は早い。
「おいおい、誤解しないでくれ。俺はらいはにメールを送るためにケータイを使用していたんだ。証拠はここにある」
そう言ってメールの送信ボックスを見せようとした刹那、二乃が俺のケータイをひったくってきた。
「お前らに気を使って俺に目移りしないように机の下でケータイを使ってたんだ。とはいえ誤解を招く行動をしたことは変わりない、本当にすまなかった。これからケータイは休憩中のみ使用することにするからそれで許してくれ」
「ふーん、メールを送ってただけね…ふふっ」
二乃は疑惑に満ちた瞳で俺のケータイを調べている。しかしなんだ…?こいつ一瞬笑った気がしたぞ…?
「もちろんこれが偽装だと思うなららいはに確認してもいいぞ。俺としてはそうして貰った方が潔白を証明できて助かるしな」
「まああなたがそこまで言うならきっと二乃の勘違いでしょう。【決定的な証拠】があるわけではないですし…」
「ふん、じゃあそう言うなら五月はこいつの妹に裏を取っておいてよね。私はそれを確認するまでは許さないんだから!」
ふう、これで一件落着だな。らいはには少し迷惑をかけてしまうが致し方無い。手痛い出費ではあるが迷惑料として後でアイスでも買っていこう…
「じゃあまたな」
これ以上何かを言われる前に俺はダッシュで玄関を目指す。
変な言いがかりで無駄に疲れちまったぜ…二乃のやつまだ風呂上がりの姿を見られたことを根に持っているのか?
あっ、ケータイを二乃から返してもらってなかったな…まあ状況が状況だ、また今度会う時に返してもらえばよいか…
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「決定的な証拠…」
風太郎の去った部屋で誰かがそう呟いた。
この時の俺はまだこいつらの【決定的な証拠】に振り回されるなんて想像していなかったんだ…