「フータロー、ここ座っていい?」
いつものように昼休みに焼肉定食焼肉抜きを全速力で胃に流し込んでいるとサンドウィッチと抹茶ソーダをトレイに載せた三玖が話しかけてきた。
「おう、別にいいが…勉強のことを質問しに来たのか?」
「ううん、内緒の話をしにきた」
「内緒って言ったってここは学生でごった返しの食堂だぞ、こんなとこで内緒の話なんかできるかよ」
「食堂の方が都合の良いことがあるんだよ」
…いつも何を考えているか分からない三玖だが今日は本当に意図が読めない。
「まあ静かな図書館で話すと意外と話し声って周囲に聞こえてしまうこともあるしな。かえってこういう騒がしい場所の方が内緒の話をするには適しているのかもな…で、用件はなんだ」
「フータローは私たちをいやらしい目で見てるの?」
「ぶはっ!!!!」
三玖の発言に反射的に口に含んでいた味噌汁を吹き出してしまった。
幸い周りの学生たちの中に俺のような異端者を気に掛けるヤツはいないので俺がどれだけ取り乱しても目立つことはなかった。
…それはそれで悲しいのだが。
俺は呼吸を整えながら三玖に諭すように口を開いた。
「…昨日も言ったがそれは誤解だ。俺はお前ら五人を卒業させることしか眼中にない」
「本当?」
三玖は澄んだ瞳で俺を見つめてくる。
…大丈夫だ、俺には何もやましいことはない。
「本当だ、俺はお前らに信頼してもらえるようにこれまで以上に全力で向き合っていくつもりだ」
「そっか…じゃあこれはどういうことなの?」
三玖がおもむろにポケットからスマホを取り出し俺に画面を向ける。
「おい、これって…」
俺は一気に青ざめる。
そこに写っていたのはいつかの中間試験、中野家に泊まり込みで勉強の教えに行った時…
三玖のベッドに眠っている三玖…これは普通のことだ。
しかしその横には俺も一緒に写っている。しかも合成を疑うくらいすごいスケベな顔をしている。
(おいおい、俺あの時自分でも気づいていなかったがこんなにスケベな顔してたのか…?いや、この写真はいったい誰が撮ったんだ!?そして何故三玖が持っている!?)
「私たちのこといやらしい目で見てないなんて言ってたけどやっぱこんなもんなんだ」
足元が不安定になる感覚に陥る、そして視界が歪む。
そんな中俺は必死に弁解の言葉を紡ぐ。
「三玖…俺は…信じて…くれ、何かの間違いなんだ…」
俺は息を切らしながら三玖へ手を伸ばす。
俺は無意識のうちに黒い感情に身を任せ体力の無い三玖から力づくでスマホを奪ってデータを消去するという強行手段に出ようとしていた。
しかし…
「頭の良いフータローならなんでこの場所でこの話をしようとしたのかもう分かるよね?」
そこでハッと我に返る。
そうか…この食堂では俺が強行手段に出ようとしても周りの目がある。
いくら俺が取り乱しても誰も気にしないとはいえ流石に女子生徒に襲い掛かったら誰か止めに入るだろう。
周りの学生たちは抑止力ということか…クソッ!
「…静かなること林のごとく」
良く分からない三玖の歴史例えに突っ込む気力も起きない。
だが俺と二人きりでこの話を振ってくるということは何か目的があるはずだ。
俺を糾弾するのが目的ならば家庭教師の時に他の姉妹の前で俺を告発するはずだろうし…
とにかく、一方的な要求だろうと飲むしかない。俺の生き残る道はそれだけだ。
「何が望みだ、三玖…」
「授業終わったら下駄箱前で待っててね…絶対に逃げちゃだめだよ」
そういって三玖は俺の前から去って行った。
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「まっ、待たせたな」
「じゃあ行こっか」
いったい俺をどこに連れて行く気だ…?
とっ、とにかく今は従うしかない。三玖の機嫌を損なわないように慎重に…
「フータロー、私に何か言うことは?」
「えっ、えーっと…今日も三玖さんは可愛いなあ!!僕とっても尊敬しちゃう!!」
「…ふんっ」
ヤバい、見え見えの太鼓持ちでいきなり三玖の期限を損ねちまった…
「まあいいよ、じゃあ私と勝負ね。家に帰るまでにフータローが私の本心を当てられたら写真のことはみんなに内緒にしてあげる」
さっき俺は食堂で三玖からスマホを奪おうとしたがここまで堂々としているところを見ると
間違いなくバックアップを取ってるはずだよな…ここは素直に勝負を受けるしかない。
「タイムリミットは帰宅までか…家って三玖の家でいいんだよな」
三玖はコクリと頷く。
ということは普通に歩いたら20分くらいの猶予ということか。
それにしても本心って…取り付く島もないぞ。まずは情報を引き出さなくては…
「三玖は俺に不満がある…んだよな?」
…コクリ
「そしてその不満はあの夜の出来事に関係している…?」
…コクリ
「…一つ心にずっと引っかかっていることがあったんだ。俺が五月と和解するためにマンションに向かった際に三玖とすれ違った時だ」
「その時俺は三玖にベッドではなく床で寝たと嘘をついた。お前に気を使っての嘘だったがそれに対して怒ってるんだよな?まさか写真を撮られているとは思わなかった。五月が撮ったのか?」
…三玖は頷かない
「嘘をついて本当にすまなかった。俺が嘘をついたことに対しての怒り…それがお前の本心だ」
「…おしいけどブー、あとチャンスは一回だけだよ」
ちょっ、違うのかよ…!
しかもあとチャンスは一回だって!?
もうこれ以上心当たりなんか無いぞ…
「三玖!お前パフェ食いたくないか?…良い店を知ってるんだが」
…コクリ
時間稼ぎのための買収はOKなんだな…
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パフェ代金は手痛い出費だが俺の未来のためだ、致し方がない。
三玖が抹茶パフェを食べている間に考えを巡らせないとな…
「フータロー、もっと時間欲しい?」
「あっ、ああ…正直まだ考えがまとまってなくてな。できることなら欲しいが…」
「じゃあこのパフェ私に食べさせて」
「…勝手に自分で食えば良いだろ。そのつもりで注文したんだし」
「違う。フータローが私にあーんして食べさせる」
何を考えているんだ…?
普段ならそんな恥ずかしいことできるかって一蹴したいところだが弱みを握られている今俺は指示に従うしかない。
「…分かったよ」
俺はアイスクリーム部分を掬って三玖の口元に運ぶ。
それを三玖は口に含む。傍から見たら俺たちは恋人に勘違いするだろうな…
「フータロー、顔赤くなってるよ」
「はっ、恥ずかしいに決まってるからだろ!…らいは以外にこうやって食べさせるの初めてだし…」
「私も家族以外でこうやって食べるの初めて。じゃあお返し」
今度は三玖がパフェをスプーンで掬い俺の口元へ…
これって間接キスじゃ…と思ったがこいつはそういうの気にしない奴だったな。
恥ずかしいと思うから恥ずかしいんだ、さっさと食べてしまおう。
「…あの時と同じ顔だね」
あの時?あの写真のスケベ顔のことじゃないよな…
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結局パフェで稼いだ時間はアイスクリームの様に溶けて行った…
しかし謎は解けないままだ。
三玖の本心に迫れる様なヒントは一向に得られないし心当たりがない。
「あと家までもう少ししかないよ」
ヤバいぞ…あの曲がり角を曲がったらもうマンションだ…
なんでも良い…何か閃きを…!
三玖の仕草に何かヒントはないか!?
…サスサス
そういえば三玖のヤツさっきからしきりに腹をさすっているのが気になるな。
腹が痛いのか?…と聞きたいところだがノーデリカシー野郎だと思われてまた怒らせてしまうかもしれない。
もしかしたら何か俺にヒントを与えているのかもしれないが…
ここまで考えて俺の脳内に電撃が走る。
えっ、マジで…そんなワケが…だって記憶に無いし…でも三玖が俺に不満を持つと言えばこれしか…
「三玖、これから俺が言うことが間違っていたら秒で指摘してくれ、そうしたら俺は潔くペナルティを受け敗北を認める」
…コクリ
「俺は…俺は三玖とあの夜…内なる欲望を解放させてお前を襲ってしまった…」
「…」
「そしてそのことを何事も無かったように振舞う俺の態度にお前は怒っているんだ…よな」
頼む、違うと言ってくれ。違わないと俺は生徒と一線を越えたことになる。
しかもそれが記憶に全くないなんてとんだクズ野郎だ。
違うなら俺はこいつらの家庭教師を辞めれば良いだけだが…そうじゃなきゃ色んな意味でヤバい。
そして…
「…責任取ってよね」
その言葉を聞いた瞬間に俺は行く当てもなく走り出した。
これは夢だ…悪い夢だ…と自分に言い聞かせながら…
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