五等分の証拠   作:N・E・O

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中野一花の決定的な証拠

「……」

 

違うんだ三玖、俺はそんな不誠実な男じゃない!

何かの間違いだ、何か言ってくれ…三玖…

 

「……」

 

四葉、信じてくれ…俺は決してそんなことは…

お前は俺に最初から心を開いてくれていたじゃないか…

どうして…どうしてこんなことに…

 

 

どうして……

 

 

「うわぁ!!」

 

「お兄ちゃんうなされてたけど大丈夫…?」

 

俺は寝ていたのか…ということは今までの出来事は夢…?

ということはもちろん無く服装は忌まわしいあのジャージだ。

思い出したとたんに脂汗が大量ににじみ出る。

 

「お兄ちゃん夜遅くに帰ってきたと思ったら急に倒れこむんだもん、びっくりしちゃったよ」

 

家に着いたとたん安心して気を失ってしまったようだ。

思い出したかのように両足に筋肉痛が襲ってくる。

 

「いつつ…」

 

「顔色悪いけれど大丈夫?学校お休みする?」

 

「いや、心配しないでくれ。学校にはちゃんと行く…」

 

重い体を起こしシャワーを浴びて準備をする。

今日は土曜日の特別授業で午後からの登校だったので助かった。

平日だったら間違いなく遅刻の時間に目を覚ましてしまったからな…

それにしてもあの夢は…いや、今は考えないでおこう。

 

「らいは、すまないがこのジャージを早急に洗濯しておいてくれないか?借り物なんだ…」

 

「分かったよ!」

 

…何か大事なことを忘れている気もするがまあいいか。

学校に向かおう。

 

________________________________________________________

 

 

筋肉痛のせいで学校までの道のりが遠く感じる。

今三玖か四葉に見つかったら間違いなく逃げ切れない。

…だがどちらにせよ三玖も四葉との問題も向き合わなければいけない課題だ。

俺は五人を笑顔で卒業させると決めた。その気持ちは本心だ。

とにかく全ては誤解だと信じて解決に向かって行くしかない。

そのためには他の三人の協力を得ることが先決だ。

そしていつも通りならその内の一人がここに…

 

「フータロー君おはよう…って時間じゃないか。このサンドイッチ一人で食べるには多いから食べる?」

 

「一花…」

 

中野一花、五つ子の長女で彼女たちのリーダー的存在だ。

俺も妹を持つ身として共感できることが多く個人的には信頼を置いている。

勉強と女優を両立できていることから五つ子の中で一番要領が良いと思う。

何故かいつも一人でコンビニの前で俺の登校を待っている…

普段なら煩わしく感じてしまうが今は一対一で会話できるという絶好のチャンスだ。

まず長女である一花から事情を説明すれば三玖と四葉の問題も解決に向かうはず…

 

「フータロー君どうしたの?思いつめた表情してるけど…」

 

「一花…お前に話したいことがある。とても大事な話だ、人目に付かない場所に移動しても良いか?」

 

「えっ…いっ、いいけど…急にどうしたの?」

 

やはり突然こんなこと言われたら警戒するよな…

だが多少強引でもここは引くワケにはいかない。

 

「すまない、デリケートな問題なんだ。お前と二人で話したい」

 

「それって…」

 

一花の手を引っ張り裏路地に連れて行く。

前もこんなことあったな…夏祭りの時だったかな。

一花を壁側に誘導し大通りにつながる道からは俺の背で見えないように気を遣う。

 

「一花…!俺は…」

 

そこで言葉が詰まってしまう。

顔を近くで見ると本当に彼女たちは似ている…

一花の顔に三玖と四葉が重なって心臓が締め付けられる。

一花を説得できれば上手く行くと思っていたが…

逆に考えるとここでの説明でまた誤解が生じれば事態はさらに悪化してしまう。

この土壇場に来て急に気持ちがもたげてしまった。

 

「フータロー…君…?」

 

一花も不思議そうに俺を見ている。

やばいな、これ以上不信感を抱かれる前にここは一時撤退だ。

 

「…いやすまない、今日のことは忘れてくれ。また決心が着いたら話させてくれ…うぉっ!」

 

一花を隠すためにやや不安定な姿勢だったことと両足の筋肉痛が災いし体制を崩す。

そしてあろうことか一花の胸の中へ飛び込んでしまった。

 

「ちょっと…誰も見てないからってこんな…!」

 

「すっ、すまない!!!この償いは必ずする!!何でも言ってくれ!!お前のためならできることならなんでもしてやる…!」

 

「じゃあ授業終わったらまたこの場所に来てね、約束だから…」

 

___________________________________________________

 

授業が終わり全速力で約束の場所を目指す。

 

「…一花?」

 

一花の姿はまだ見えない。

早く到着してしまった様だ、まあその方が誠実さをアピールできて良いだろう。

授業中に一花への誤解の無いような説明の筋道を立ててきた。そして想定されるであろう質問の応対もシミュレートしてきた。

今度こそ本当のことを伝えるんだ…そして長女の協力を仰ぐ…

 

「お待たせ」

 

「一花…今度こそ話させてくれ」

 

「その前に場所移動しよっか、秘密の話をするのに良い場所知ってるの」

 

「えっ、あぁ…分かった」

 

この場所でまた落ち合うと決めていたのに移動をするのか…

どういうことなんだ?まあいいか。今は下手に出るしかない。

 

_______________________________________________________________

 

「よいしょっと、ここなら二人きりで話せるね」

 

「わざわざマイクを使って話さないでくれ…耳が痛い」

 

カラオケボックスか、これなら外で誰かに気を遣うより気兼ねなく密談ができる。

なるほど、俺は普段カラオケなんか行くことが無いから思いもよらなかった。

 

 

 

「それで話したいことって?最近三玖と上手く行ってないこと?それとも四葉に無理矢理押さえつけられたこと?」

 

 

 

…!!!!

知っていたのか…!?というか姉妹で話を共有しているのか…?

そうだとしたらもう何もかも手遅れだ…俺は…俺は…

 

「あはは、そんなに絶望した顔しないでよ。まだ二乃と五月ちゃんには話してないから」

 

「一花…お前どこまで知って…!?」

 

「私は三玖と四葉に相談されたの、みんなのお姉ちゃんとしてね…四葉にはきつく叱っておいたから安心して」

 

「そっ、それで三玖は…?」

 

「それに関しては自分から三玖に聞いてみないとね~ほら、デリケートな問題なんでしょ?」

 

俺を小馬鹿にした態度で一花はおちょくってくる。

…不安な反面なんだか無性に腹が立ってきた。

 

「おい!頼むから教えてくれ!!俺はやったのか!?やってないのか!?」

 

「フータロー君、人に物をお願いするときはどういう態度を取るんだっけ…?これを見てよ」

 

一花はカバンからスマホを取り出し俺に画面を突き出す。

そこに写っていたのは…

 

「んな…!?それは裏路地の…!」

 

「たまたま私のファンの同級生が通りかかったみたいでね~撮影してくれたんだ。私の胸に顔を埋める瞬間のフータロー君の写真をね。【決定的な証拠】だよね」

 

そんな馬鹿な…一花に気を取られて通行人に気づかなかっただと…!?

表通りに背を向けていたのが運の尽きだったということか…

 

「その同級生に今は黙っているように指示しているけど私のメール一本でこの事実はバラまかれるんだよ?態度には気を付けた方が良いね~」

 

「ぐっ…!すっ、すまなかった…」

 

「ん~?」

 

「…すみませんでした」

 

俺はもう一花の言いなりになるしかないのか…

ただでさえ三玖と四葉に頭を悩ませているのにさらに一花との問題まで抱えるなんて!

 

「ふふふ。私からの要求はね…今後何があっても家庭教師を辞めないってこととあと…三玖を泣かせたら絶対に許さないから」

 

普段の柔和な態度からは想像できない剣幕で俺を見つめながら話す。

…前までは五つ子と俺だけの問題だったのがいつの間にか俺の社会的な死をかけた問題にまで発展してしまった。

駆け出しとは言え女優に手を出したとなれば学校に居場所はない…最悪退学だろうな。

そしたら親父…はどうでもいいが、らいはが学校で犯罪者の妹として疎外されてしまうかもしれない。

 

「分かった…いや、分かりました…お願いですから写真をばらまくのは辞めてください…」

 

「うんうん、だんだん君も自分の立場が分かってきたようだね!…いつでも君を見ているからね」

 

一花は不敵に笑う。

いつでも俺を見てるってどういうことだ…?

 

 

 

「このあと時間あるよね?…まあ無いって言っても来てもらうんだけどさ。二乃と五月が話したい事があるんだって」

 

 

 

俺は今自分のいる場所を地獄の底だと思っていた。

だが、さらに底の底に突き落とされるなんてこの時は思っていなかったんだ…

 

 


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