神崎蘭子(偽)が逝く戦車道   作:みほ杏という沼に嵌りそうな人

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まほチョビは至高!
※出ません。


第4話 偽蘭子、見学する

HRが終わり、放課後となった。日直が黒板を消している様子を横目に筆記用具等を鞄へと片付けていく。

 

俺は帰り行くクラスメイトにお疲れ様(自動翻訳済)と挨拶を告げて西住さんの方へと足を運ぶ。蘭子ムーブは今なお続行中。ゴムの上履きで無理やりカツカツと足音を立てる。

 

「──さぁ、我が手を取り、共に闇の世界へ」

「……」

 

やがて足を止めてカッと言い放つと、右手を腰に左手は彼女へと差し伸べた。しかし西住さんはぼーっと俺の手を見つめるだけだった。

 

何故(なにゆえ)我が手を取らぬ……もしや! 新世界への入り口が開かれたか!」

「その、言ってる意味が分からなくて……」

「む、其方は“瞳”を持つ者だとばかり……」

 

さっきまでちゃんと伝わってた筈なんだけど、まぁ熊本弁の難易度の高低差は激しいからね。しょうがないね。

 

今の言葉は翻訳すると「放課後遊ぼうぜ」って言っただけなんだが、どうにもやはり熊本弁になってしまう。翻訳を翻訳って、これもう分かんねぇな? 直接的な言葉で誘うからダメなんだろうか。もっと遠回しに誘ってみるか……。

 

「脳に安息を与えるのならば甘味が必要であろう。なれば我に随従せよ」

「……あ! うん、私も神崎さんと一緒に行きたいな」

 

西住さんが嬉しそうに柔らかく微笑む。そしてその様子を見て俺もまた微笑みを返す。

 

ムブってる(蘭子ムーブの意)時はともかく、いつも会話の時はこれくらいマイルドに伝えることが出来れば良いのだが、そうもいかないのが熊本弁が熊本弁たる所以だ。稀によく訛りの酷い言葉が出てくるから油断出来ない。

 

それにしても少し言葉を交わしただけなのに、もうこんなにも楽しい! 友達がいるってだけでこんなにも心が軽やかになるもんなんだな……! まるで俺が初めてゴスロリの服を着た時のような昂りを感じている。いや、あれは単に興奮してただけか? まぁいい。

 

前世では仲の良い友人は多くはないが存在はしていたのであまり有り難みは感じなかったが、今世では西住さんは謂わば生まれて初めての友達。嬉しくて嬉しくて昼休みが終わって授業が始まってもルンルン気分が抜けなかったくらいだ。お陰で内容が全く頭に入ってこなかった。

 

「あ、でもその前に一回お姉ちゃんの所に行かないと……」

「そうか。では我は綺羅星の如き輝きを放つ栄光のロードを見定めてくるとしよう」

「……」

「我等は数多ある“道”のただ一つを選択せねばならぬ! それは誰一人として例外ではないッ!」

「道……あ、分かった! 必修科目の見学だね! 何処を見に行くの?」

「我が本能の赴くがままに!」

「分かった。じゃあ終わったら電話するよ」

「うむ、疾く馳せ参じよ」

「あはは、じゃあ行ってくるね」

 

西住さんが小さく手をフリフリしながら教室を出る。可愛い。

 

さて、先程はああ言ったが、今日行く場所は実は既に決めていたりする。昨日までに粗方の必修科目の見学は終えていたのだ。いやぁ、色々と凄かったなぁあれは。忍道はNARUT○とまでは言わないけど、ハッ○リくんが出来ることなら大体出来そうな雰囲気だった。正直いま一番心が惹かれている。

 

仙道はね、なんだかよく分からなかったわ。なんかずっと瞑想してたし。合宿に行くとしたら崑崙山とかその辺りだろう。……あ、偶に大きく空気吸ってたのはもしかして霞を食ってたのか!? 霞がこの辺に出てる訳ないだろいい加減にしろ!

 

そして結局残ったのは一番謎が多い戦車道なるものだ。ここ黒森峰女学園が一番力を入れている競技。俺も男の子(女の子?)なのでそういった兵器について少し興味があったりする。といっても俺の知識は英国面もといお紅茶のキマッた優雅な兵器に偏ってるので知ってるのは少ししかないんだけどな。それでも知ってる方が楽しいだろうし、少しは調べて来たんだけど。

 

それにここはドイツ風の学校だし、英国面な戦車はきっと置いてないから多分知ってても意味はない。西住さんの用事がいつ終わるかは知らないけど、来るまでは楽しませてもらおう。さて、何処にいけばいいんだ?

 

取り敢えず外に出る。そして日傘で紫外線から身を守る。戦車を使うんだから屋内なんて事は有り得ないし、適当に歩いていればいずれ着くだろう。

 

……あ、人だ。ちょっと聞いてみるか。

 

「其方、我が進むべき道はいずこか?」

 

おい、戦車道って言えよ。そんなんで伝わる訳ねーだろ。って、ああ! ……逃げられてしまった。確かに怪しい人から逃げる。それは正しい。でも同じ学校の生徒相手にそんなに露骨に逃げなくてもよくない?

 

……ふん! まぁいいさ。黒森峰は戦車道で有名なんだ。きっとすぐそこにある!

 

そう思った瞬間、大きく響き渡るエンジン音が聞こえてきた。この音はもしかして戦車か?

 

音のする方へと歩いていく。するとそこにはどデカイ鉄の塊達がズラッといくつかの列を成して走行している姿があった。車間距離と速度を一定に保ちながら車輪と履帯を回転させる戦車達は正に統率のとれた軍隊のようであり、素人の俺を圧倒させるのには十分であった。

 

……てか、デカくね? なんでこんな鉄の塊が動いてるの? しかも確か戦車道って第二次世界大戦頃までの戦車しか使ったらいけないんだろ? もはや骨董品レベルじゃん。

 

未だに綺麗に現存……というか現役で使用できる程丁寧に整備できる技術力にも脱帽だし、そんな戦車を年端もいかぬ少女達が手足のように操っているという事実にも驚愕を禁じ得ない。

 

何よりその無骨なまでの力強さを感じさせる戦車という兵器に、男である俺は二の句も告げられずに惹かれたのだった。

 

「はぇ〜すっごいおっきい」

「すごく……大きいです……」

「いいカラダしてんねぇ!」

 

近くから感嘆の声が聞こえる。やはり皆考える事は同じか。

 

周りにはいつのまにか俺と同じ新入生らしき人達がずらずらと集まっている。誰もが雄々しく駆ける戦車に夢中になっており、その視線はまるで恋する乙女のようだった。さっきも言ったが黒森峰は戦車道で有名な学園だ。戦車道をやるために黒森峰に受験入学した生徒もきっと多いのだろう。知らんけど。

 

やがて周りより一際大きな真ん中の戦車のキューポラから隊長らしき人とその愉快な仲間達が出てくると、高等部では6連覇云々、全国大会云々と演説の様なものが始まった。

 

話に興味がなかった俺は戦車を眺めてみる。なんだかよく分からないけど、どれもこれもめちゃんこ強そうだ。

 

……あ! あった! 俺が調べてきたやつ! くぅ、カッコいい! 一目見た時から俺はこいつに惹かれたよ。確か、名前はそう……ヤークトティーガーだ! 駆逐戦車って言うんだっけ? 自走砲だったか? ともかく俺はアレのどデカイ主砲と見た目に惚れたのだ。主砲ってのは大きければ大きい程良いのだ(脳筋)

 

後はシンプルさ故のカッコよさってやつ? エレファントってやつもカッコよかったが俺はヤークトティーガーの方が好きだ。装甲も分厚いらしいけど、そこまでは調べきれなかった。帰ったらもう一回検索してみるか。

 

 

「──そうだな、そこの銀髪のツインテールの子。君はどうだ?」

 

 

「……ん?」

 

お、俺か……? もしかして俺のことか!? いやでも他に銀髪の女子なんて……あ、いたわ。けど残念ながらツインテールじゃないし、やっぱり俺のことなのか?

 

しまった……。戦車に夢中で全く話を聞いてなかった。どんな話をしていたんだっけ? と、取り敢えず返事だけでもしとかないと……。

 

 

「──ほう、この我に意見を乞うか」

 

 

「なに?」

 

い、いかん! めちゃくちゃ偉そうな口調になってしまった! 軌道修正! 面舵一杯! ハイホー!

 

「くくく、では我の忌憚なき識見を拝聴するが良い。其方らのそれは、まるで幼子が親に言われるがまま購いに赴くが如し! 購いは出来ども目的の物が無ければ狼狽し、平静さを失するのが其方らよ!」

 

急に何言っちゃってんの俺!? 狼狽えてんのは俺の方なんだけど!?

 

2ちゃんねるで知った黒森峰の浅く狭い情報でそれっぽく褒め称えようとしただけなのに、なんで煽ってんだこのクソ翻訳は!? しかも全然言いたかった事じゃねーし!

 

“型にハマるとエゲツないほどエグい”か“稀にパニクるとザコザコのザコ”じゃ断然前の方を選んで褒めて褒めて褒めちぎるに決まってんだろーが! い、いや、まだ慌てるような時間じゃない! うへへへ、クツでも舐めやしょうか? それとも肩揉みですかい?(ゲスの極み)

 

「なっ!? き、貴様!!」

「言葉を慎みなさい!」

「西住流を侮辱するつもりか!?」

 

俺のあからさまな挑発に怒髪天を衝く勢いの上級生ら。そんな彼女らに俺は悠然と構える事しか出来ない。

 

ひィッ!? めちゃくちゃ怒ってる! 顔が虎の形相になってるぅ!? すみませんすみません! 俺の意思じゃないんですぅ! 見学者多いのに敢えて俺に意見を求める貴方達が悪いんですぅ!(責任転嫁)

 

くそッ、でも悪いのは本当に俺じゃなくて自動翻訳なのに……。よし、もう一度だけチャンスを与えてやる。次でどうにかしてこの事態を解決しろ! お前が蒔いた種なんだから自分でどうにかするのが道理というもの!

 

「侮辱? 忌憚なき識見だと述べた筈だが? 侮辱と捉えるのは其方らが心底では自覚しているからだッ! 其方らの戦闘教義(ドクトリン)の根本的な──隙間というものを!」

 

ああああああああああ!!! 誰か俺の口を閉じてくれえええええええ!!! これ以上言ったら(社会的に)死ぬ!(物理的に)死ぬ! 戦車で集中砲火されちゃうううううう!!!

 

 

「──いったい何の騒ぎだ」

 

 

その瞬間隊長らしき人が話していた隣の戦車から一人の女性がキューポラから出てきた。サイドの長いショートカットの髪を揺らしながら睨むように俺へ視線を向けると何故かびっくりしたような顔になっていた。

 

んん? よく見えないが、なんだか見た事があるような……。

 

「隊長!? あんな礼儀知らず私が──」

「いい、私に任せろ」

 

その人は声を荒げている人を言い含めると再び俺へと視線を戻した。というか隊長ってあの人じゃなかったのか。さっきからずっと偉そうに演説してたからてっきり隊長かと思ってた。あの人顔真っ赤にしてめちゃくちゃおこだったから弁解の余地も無いかなと思ったけど、本当の隊長は不機嫌な顔こそしてはいるがまだ冷静そうだ。まだ舞える!

 

少し落ち着いた俺は同じように彼女へと目を向けて観察を行う。しかしその顔はやっぱり既視感を感じ……。

 

「──半月ぶりだな、蘭子」

「其方は……」

 

半月ぶりって……え? ……あ、あぁあ!? あ、貴女は、犬の散歩仲間のお姉さん!? ど、どうしてそんなところに!? ま、まさか! まさかまさかまさか、戦車道の履修者だったのか!? う、うわああああああ!!!!

 

お、恐れていた事態が起こってしまった……! 以前から交流がある、つまり俺が標準語で話していた頃からの知り合いに熊本弁を聞かれるという事態が……! 黒森峰は受験入学方式だから大抵の人は受験せずに入学出来る学校を選ぶため、同級生に知り合いはいない筈なんだ。

 

しかし、この人だけは例外だ。この人は学校外での知り合いであり小学校低学年の頃から交流のある人なのだ。毎日ではないが散歩のルートが同じで割と頻繁に出会う為、自然と会話もする仲となっていた。友達のいない俺にとっては唯一と言っても良い心が安らぐ時間だ。少し表情に乏しくて口数も多い人ではないが、穏やかで物腰も柔らかくて、俺はその空気感が大好きだった。

 

そんな人に熊本弁を聞かれてしまった!

 

ぐおおお……!! は、恥ずかしい……! 可能ならば蘭子に抱きしめられながら安楽死したい……。い、いや、逆に考えるんだ俺! 聞かれちゃってもいいさと考えるんだ! そうだ! 知り合いだからって何を恥ずかしがる必要があるんだ? ……何もないだろう!? 恥ずかしがるって事は本気で出来ていない証拠だろうがッ! 俺の蘭子に賭ける気持ちってこんなもんだったのかよッッ!? もっと、熱くなれよ!!!

 

それに俺はもう事故紹介の時点で蘭子ムーブに人生を賭けてんだ! 今ここでやめてしまったら何もかもが中途半端に終わってしまう。やるんだったら最後まで決め通せ! 今更取り繕うんじゃねぇよ!!

 

「おお、先生! 壮健そうだな!」

「? ああ、蘭子も元気そうだな」

 

ただし先程の煽りを誤魔化さないとは言ってない。

 

俺は今年度(現在四月上旬)一番の笑顔でお姉さんに話しかける。1000年に一人の超絶怒涛の美少女である蘭子ちゃんのHHEM! これで落ちないやつは人間じゃねぇ! 向こうも少し嬉しそうに柔らかく微笑んでくれた。落ちろ! ……落ちたな(確信)

 

「ところで、先程の言葉はどういう意味だ?」

 

落ちなかった。なんで?(純粋な疑問)

 

「さ、さて、我には見当も付かぬが……」

「その口調もだ。一体どうしたんだ? もしかして蘭子……不良になってしまったのか?」

 

ふぐぅ! そんな悲痛そうな目で俺を見ないでくれ! 俺だってお姉さんにはこの口調あんまり聞かれたくなかったんだよ! こ、今後どう接していけばいいんだ……!

 

「隊長があんなにも親身に……!」

「私、隊長のあんなお顔初めて見たわ……」

「もしかしてあの子、西住流に連なるやんごとなきお人なんじゃ……」

「ま、まさか、単に隊長の知り合いなだけでしょ……?」

「き、聞いたことがあるわ……」

「「「知っているのか雷電!?」」」

 

隊員や一年の方からもざわざわと俺に向けての声が聞こえる。いかんな、目立つつもりなんて全く無かったのに、どうしたものか……。

 

「蘭子、どうなんだと聞いている」

「う、うぅ……」

 

俺は真剣にこちらを見てくるお姉さんにたじろぎながらもこの場をどう収めるか考える。お姉さんが俺の知り合いだという事で雰囲気がほんの少しマイルドになったのがせめてもの救いか。

 

自動翻訳についての説明はする気もない。寧ろ頭がおかしい奴だと勘違いされてしまうのが末だ。そんなことあるはずもないのに。俺ほどの常識人なんて上から数えた方が早いに決まっている。こうなったら、一か八かの賭けだ!

 

「先生よ! 我が曇りなき眼を見よ!」

「……!」

 

特技、大きな目! いま俺は、先程までの言葉が本心じゃない事を「言葉」でなく「心」で訴えているのだッ! 今までの付き合いから俺がそんな事を言うやつじゃないのは分かってくれている筈だ! お姉さん信じて! おれ、わるいらんこじゃないよ!

 

「……そうか。蘭子、そんなにも……」

 

お姉さんが目を伏せながら小さく呟く。

 

お? も、もしかして伝わった? ぶっちゃけそこまで期待してなかったんだけど……本当に俺の熱く激しいこの想いが伝わったのか?

 

「なんと、我が真意を見抜いたか!」

「ああ、蘭子。お前の言いたい事は伝わった。だが、それは茨の道よりも険しい。そこだけは肝に免じておけ」

「ふ、ふむ……?」

「……そうか、分かった。ならば受け入れよう。お前を、黒森峰戦車道の隊員として認める」

 

……ゑ?

 

「だが今日のところは帰れ。明日については……また後で連絡しよう」

 

言い終えるとお姉さんと戦車道の人達は中へと戻り、戦車を走らせて来た方向へと戻って行った。

 

ゑ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゑ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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