因果を断つ刃 無垢なる翼   作:ユニコーン

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お待たせいたしました。
やっと投稿です。
今回は主人公初登場です。
それでは、どうぞ!


第一話

 全てを闇に包み込むように展開する暗闇の中でキラキラと輝きを放つ星々。

 その星と張り合うように輝きを放つ月。

 そして、その様子を愛おしく眺める様に淡い蒼い輝きを放つ地球…

 しかし、蒼い地球の一点…日本を始めに濁りが地球全体を覆い尽くし、蒼い地球は混沌の星と化した。

 その様子を全て見納める位置に、一体の巨人が混沌と化した地球を見下ろしていた。

 

 

『我が直に干渉すれば 世界は形を保つことは出来ぬ』

 

 

 巨人が発しているのであろうか、その声は宇宙空間で反響するように響いた。

 その巨人の呟きを皮切りに、胸元から碧い輝きを放つ球体が生まれた。

 

 

『ならば 我が断章に干渉させよう』

 

 

 追随して白い輝きを放つ色褪せた紙が碧い輝きを分子の様に纏まる様に不規則に動き回り、一つの球体を作る。

 

 

『されど 我が断章が自我を持つには人と同じ時を必要とする』

 

 

 その球体は、巨人の目線に合わせるように上昇する。

 

 

『頼んだぞ 我が魂の化身よ』

 

 

 巨人の言葉に肯定するかのように輝きを一度だけ強くし、そして、地球へと落ちていった。

 その後、地球で一度だけ大きな輝きが発生し、地球の濁りは一瞬にして消え去り、蒼い地球へと戻った…

 

 

『成長せし我が断章よ 少女達の切実なる叫びを胸に 少女達の救済を』

 

 

 

 

―――

 

 

 

 ――ジリリリリッ! バシッ!

 

 

「…何だったんだ、あの夢…」

 

 

 夜遅くまでネットサーフィンをして目に止まった神話を見ていたからか、少年はなんとも厨二病な夢を見ていた。

 タオルケットから抜け出した少年は台所にあるコーヒーサーバーに水を入れてスイッチを押し、湯を沸かす。

 その後、寝ぼけた頭を覚ます為に洗面所へと向かい、歯磨きを始めた。

 いつもの様に歯磨きをしながら寝癖を整え、うがいをし、顔を洗い、制服に着替える。

 ある程度目が覚めた少年は、サーバーにカップを乗せてスイッチを押してコーヒーを入れる。

 ある程度スプーンでかき混ぜた後に冷蔵庫から牛乳を取り出し、コーヒーに入れてミルクコーヒーにする。

 椅子に座って一口啜って大きなため息を一つ吐いた。

 ふと時計を見ると、そろそろ家を出る時間だ。

 少年はコーヒーを一気に飲み干し、カップを水に浸けて冷蔵庫から朝食を抱えて(・・・)玄関まで向かう。

 靴を履き替えた後、少年は視線を横に向けて寂しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「父さん、母さん、行ってきます」

 

 

 靴を履き替えた後、靴箱の上に飾ってある写真立てに挨拶をして、少年は家を出た。

 少年のカバンの名札には、『黒崎 賢治』と書かれていた。

 

 

――――

 

 

 

 少年の通っている約8割がガラス張りの校舎『見滝原中学校』は、徒歩20分の距離にある。

 少年はその間に歩きながら朝食を済ませるのが登校日の習慣になっていた。

 学校に辿り着くには、途中にある噴水公園を通らなければ正門には着かない。

 故にこの噴水公園の通りは登下校時は見滝原中学校の生徒でごった返す。

 裏門は作らないのかと思ったこともあったが、春になれば桜並木の花が咲き誇り、学生達の理想の入学式・卒業式が満喫出来るので、生徒達からの不満は一度も出なかった。

 さて、ある程度噴水公園の通りを中盤に差し掛かったところで、少年の幼馴染達が見えて来た。

 物語は、ここから始まる―――

 

 

 

―噴水公園―

 

 

 

 今日も天気は晴れ、気温は今だ冬服を着ていても汗を流さない適度な暖かさ。

 この時期はよく眠れる気候だ。

 一人暮らしをして二度寝せずに起きて登校している自分を褒め称えたい。

 夏ならば身体が自由に動くが、今はまだ夏ではない為時々寒さを感じる。

 寒さは朝のコーヒーを美味しく感じさせてくれるが、寝起きからの行動がどうしても鈍くなる為、中々ネックだ。

 

 

「生意気なことを言うのは~この口か~~!」

 

「や、やふぇふぇふぉ~~」

 

「あらあら、お二人は本当に仲がよろしいのですね」

 

 

 いつも通りの登校風景の中に、目の前の緑と青とピンクの頭をしてる奴等がはしゃいでいた。

 俺は袋から新しく取り出したサンドイッチの風を開けてかぶりつく。

 寝起きは体全体が覚醒していない為、咀嚼もゆっくりだ。

 数回噛んだ後に、コーヒーを飲んでサンドイッチを喉に通す。

 うん、やっぱり登校時の朝飯はベジタブルサンドイッチとコーヒー微糖に限る…

 

 

「お~っす~…」

 

「あ、おはよう賢治く…って、またすごい量食べてるね…」

 

「まぁ…」

 

「かぁ~~…」

 

 

 朝っぱらから目の前のハイテンションな三人は俺の幼馴染だ。

 緑髪長髪のウェーブがかかっているのお嬢様は『志筑 仁美』

 見た目通り金持ちのお嬢様で、習い事が毎日ギッシリと詰まっている。

 同じ中学だからとはいえ、普通ならこんなお嬢様との接点は無いが、俺の男の幼馴染の紹介で知り合った。

 お嬢様だから勝手な妄想が暴走していらぬ誤解を撒き散らしたりしているが、勘はかなり鋭く相手が隠している事を的確に当てる。

 

 青髪ショートの奴が『美樹 さやか』

 こいつは幼稚園からの腐れ縁で明るい性格から周りを巻き込んで笑顔にする。

 しかしこいつの性格上、あっちこっちで不和が起こり、毎回俺が後始末をして疲れさせられるおてんば娘だ。

 両親は共働きで帰りも遅い為、暇つぶしでよく俺の家に上がったり俺を家に拉致ったりする。

 

 最後にピンクの髪をリボンで両サイド留めをしているのが『鹿目 まどか』だ。

 喧嘩の『け』の字もしたことがないこいつも幼稚園からの付き合いで、見た目同様のオドオドとした性格で昔はイジメに遭っていた。

 大体は俺とさやかが介入していじめっ子を散らしていたが、当然年を重ねるに連れてイジメのレベルは高くなる。

 中には物理的に行使しようとした輩もいたので、俺が裏でそいつらをボコボコにしていた。

 今ではまどかは学校のマスコット的存在になっている為、不貞な輩が現れたら学校中の殆どがリンチをお見舞いする勢いだ。

 

閑話休題

 

 そんな三人は呆れた様にして俺の左手に抱えている物に視線を向けていた

 手にしてる袋に入っているのは前夜の内に大手食料品倉庫で大量に買ったサンドイッチとコーヒー数本。

 二種類を入れてる袋は学校指定のカバンよりもこんもりと大きくなっている。

 

 

「こんだけ食ってるのに太って吹き出物が出ることなく成長に向かってるんだから超ムカつくわ…糖尿病にでもなればいいのに…」

 

「妬んでんじゃねぇよさやか、俺はお前等と違って疲労感が違うんだよ。っておい俺のサンドイッチ取ってんじゃねぇ!」

 

 

 さやかはブツブツ文句を言いながら毎朝俺の朝飯をかっぱらって三人で分けて食う。

 ってこの野郎、今度はコーヒーも分捕って行きやがった!

 

 

「しかもやたらケンカに強いしさ~、言葉も巧みに大人をはぐらかしたりするし、何であんたはそんなに能力高いのよ?」

 

 

 ―――あぁ?

 

 

「…そりゃぁお前の後始末をしてたらなぁ~…」

 

 

 俺の呟きにさやかは身体を大きく跳ね上げた。

 仁美とまどかは「あっちゃ~」な表情をして俺を見ている。

 

 

「お前が出しゃばって目ェ付けられてるのを俺が常に対処してるからな~、格闘技なんて覚えざる負えないし~、実戦経験は一般の道場通いよりもダントツあるしな~」

 

 

 次第にさやかは顔を青くして身体を震わせる。

 他二人は一歩下がったところで身を寄せ合って見ていた。

 さやかは思ったことをどストレートに相手にぶつける為、衝突がよく発生していた。

 特に新しい環境では必ずある。

 幼稚園から中学2年までのクラス替えで必ず衝突が起こっていた。

 俺は幼稚園の頃から仲裁を繰り返したり報復を返り討ちしたりしていたので、必然的に強くなっていった。

 しかし…ある時、さやかに対して他校の連中に報復をさせようと企てた奴がいた。

 さやかが拉致されそうになったところで俺が介入して持ち前の体術で蹴散らし、企てた奴はボコボコにした後警察に突き出した。

 その後、そいつの噂が街中に広がり、引越して行ったが…

 その度に俺はさやかに説教をしているのだが、さやかは全くブレる事なくGoing my wayを貫いている。

 さやかの両親は事の顛末を知って最初は説教していたが、共働きで帰りが遅いからロクに相手をしてあげれないと言って『娘を任せたよ』と肩を叩かれ保護者化を促す始末…

 何で俺ばっかこんな役目を…

 あぁ…思い出しただけで怒りがフツフツと…

 

 

「ひ、ヒィィィ、スチール缶がリンゴの芯みたいに凹んでるーー!」

 

「うぉぉ、またアイツの逆鱗に触れたのか美樹の奴!?」

 

 

 遠巻きが何か言っているが今の俺には無意味だ…

 やはりこの怒り、今ここでハラサデオクベキカ…?

 

 

「お、おぉぉぉぉ…っ」

 

「あ゛?」

 

「お先にぃぃぃぃーーーーー!!」

 

「逃げんなクルァァァァァァァ!!」

 

 

 ブルブル震えていたさやかは砂煙を上げながら猛ダッシュで後ろを振り返らず学校へと逃走したが、俺はそのスピードと砂煙を上回る走りをしてさやかを追った。

 

 

「朝から元気ですわねぇ、あのお二人は」

 

「あはは…そ、そうだね」

 

「ですが、喧嘩を起こしても直ぐに元通りの関係に戻れる、ああいう幼馴染…憧れますわぁ」

 

「うん、楽しそうだもんね、あの二人」

 

 

 

 二人がサンドイッチを食べながら見つめる先には、さやかをアームロックして雄叫びを上げている賢治と、持ち上げられて足をジタバタと暴れさせながら悲鳴を上げているさやかがいた。

 コレは、小学生の頃から続いている日常風景である。

 

 

 

 

―賢治side―

 

 

 

 

 校門ではしゃいでいた俺達は予鈴を聞いて急いで教室へ向かった。

 この時、まどかと志保は走りが俺とさやかよりも遅いので、俺が二人を肩に抱えて教室まで走って運んだ。

 普通なら女を担ぐこと自体男共の夢のひとつでもあるので睨まれたりするのだが…俺の場合はこいつ等の保護者と認識されているのか、今では普通に『おはよう』『遅かったな』で片付けられている。

 人の慣れとは怖いなぁ…担任の和子先生からは目撃された時、毎回すっげぇ目で睨まれてるけどな。

 さて、今日はもう一人の幼馴染の見舞いの約束をしている日だ。

 午後から職員会議がある為、昼一限までで終わった放課後、俺はチャイムが鳴ったのと同時にカバンを持って教室を飛び出した。

 後ろでさやかとまどかが何か叫んでいた気がしたが、俺はショッピングモールにて限定品の食料を大量に調達した後、見滝原病院に来ていた。

 全面ガラス張りの100階以上建てと言う耐久性と言う言葉に真っ向から喧嘩売っている病院だが、見滝原市一のマンモス病院だ。

 見たからにワックスをバリバリ効かせたかのような光沢を放つ長い廊下を歩き、50階以上はあるフロアをダッシュで駆け上がり、目的の階で止まってある病室の前に行く。

 表札には『上条 恭介』と書いてあった。

 手荷物を確認してノックをすると、中からどうぞと言う言葉が帰って来た。

 俺はその言葉を聞いてからドアを開けて中に入った。

 

 

《ガチャ》

 

 

「よぉ恭介」

 

「やあ、賢治」

 

 

 ベッドの上で上半身を起こしているのは『上条 恭介』

 俺の小学生からの男の幼馴染であり、天才バイオリニストだ。

 聞くに幼稚園の頃からバイオリンを習っていて今では鈍感バイオリンバカになってるが、弾かせればピカイチだ。

 今は事故で身体を強くぶつけてしまい、身体全体の損傷が大きく、特に左腕が深刻で今だ回復の目処は立たないと聞いている。

 

 

「いつも悪いね、賢治」

 

「いつもじゃねぇよ、週に3回ぐらいしか会えてねぇんだしよ」

 

 

 俺とこいつは数少ない本心を語れる男仲間で、こいつが事故る前は恭介のレッスンが空いた時間を使ってよくこいつの家で遊んだりしていた。

 だが時が経つに連れてこいつはコンクール等で学校にすら中々顔を出せない位に忙しくなり、お互いにゆっくり遊びたいと言っていたが…まさかそれが事故で叶ってしまい、互いに複雑な思いだ。

 しかしいつまでも辛気臭い空気は出したくない。

 それに折角ゆっくりと話が出来るんだ。

 ならば今を十分に活かそうじゃないか。

 

 

「ほらよ、土産のWナック新商品『照り焼きハチミツキングバーガー』だ」

 

「え゛、何そのずっしりとした名前のバーガー…」

 

「病院食といってもお前の場合は糖尿とかそんなんじゃねぇから普通に飯食ってもいいんだろ? 病院食じゃおかわりも出来ないって聞いたから、腹が持つ物持ってきたんだよ」

 

「あ、ありがとう…」

 

 

 某ピエロのビッグバーガーを優に超える大きさに加え、緑の野菜が見えないバーガー。

 僅かに動ける左手も使って深く掴んでいるのにバーガーの四分の三も掴めない。

 あまりの大きさに冷や汗を掻いてる様子がマルマルと見えるぜ恭介。

 だが意を決してそのバーガーを恭介は恐る恐ると齧りついた。

 

 

「あ、でも美味い…」

 

「だろう?」

 

 

 といって俺も照り焼きはちみつバーガーを取り出してかぶりついた。

 俺の場合は一口で四分の一を食ったけどな。

 4口で食い終わった後、俺は見舞い用のテーブルの上に乗せた袋からキングサイズのポテトにケチャップ、ドリンクも取り出してムガムガと食い始めた。

 いや~うめ~。

 

 

「相変わらずすごい食欲だね…君が入院したら病院の食材が底をつきそうだよ」

 

「いやそこまで食えてねぇよお前よ…」

 

 

 お互いに他愛もない話をしてると、ドアをノックする音が聞こえた。

 あれ、この時間はまだ検診の時間じゃないんだけど…?

 

 

「やっほ恭介~って、あんたも来てたの!?」

 

「あ、賢治君…」

 

 

 入ってきたのは袋を下げてる制服姿のさやかとまどかだった。

 どうやらこいつ等も放課後ここに来る予定だったんだな。

 

 

「も~賢治君、呼んだのに走って帰るなんてひどいよ~」

 

「ハッハッハ、これを買う為にダッシュで行ったまでよ」

 

「ああ! あんたそれ数量限定の『照り焼きハチミツキングバーガー』じゃない!?」

 

「あ、そういえば!?」

 

 

 相変わらず余計なところは目聡いなさやかは。

 俺の朝食を毎日貪っているだけのことはある。

 

 

「数はあるから、食うか?」

 

「食べる食べる! やったー、ここ来る前に買おうと思ってたけど売り切れで買えなかったのよ~」

 

「…賢治、もしかして買い占めたのかい?」

 

 

 なわけねぇよ、限定80食だぞ?

 買いに行ったら残り僅かだったけど、ちゃんと残るように買ったっての。

 

 

「あ、その前に…はい恭介」

 

「ああ、いつもありがとう」

 

「それは?」

 

「ああこれ? バイオリンのCDよ」

 

 

 バイオリン…さやか、いくらなんでも今の(・・)恭介にそれはねぇんじゃねぇの?

 好きなというか、音を聞けば知らずのうちに手が勝手に動くコイツら(音楽家)に聴かせるのは生き地獄だろうよ?

 左腕は全く動かないんじゃなく、ゆっくりなら動かせれると言っている。

 現にバーガーも両手で持って食ってるしな。

 ただ…楽器を弾いたり、日常生活では大きく支障が出るとのことだ。

 

 

「それってバイオリンのみのCDか?」

 

「そうだね、僕は基本的にバイオリンをソロで弾いてるから…どうしてもソロのCDを聞くね」

 

「ほぉ…確かにバイオリンもいいが、ピアノとハーモニカ、オカリナが俺は好きだなぁ。なんか癒されるんだよなぁ…BGMとかで耳にするとついつい耳で追ってしまう」

 

「あたしは今ギター弾いてるよ!」

 

「私も最近始めたんだけど、フルートを…」

 

「おお、いいねフルート」

 

 

 恭介に影響されたのか、俺達はたしなみ程度に楽器を弾くようになった。

 と言っても楽譜が最近やっと初めて見る楽譜の曲を弾けるようになった程度だが…

 それも皮肉なことに、恭介が事故に遭った後からだ、

 

 

「いつの日かみんなで演奏とか悪くねぇなぁ。俺がピアノで恭介がバイオリン、さやかがギターでまどかがフルート。バンド組めるぜ」

 

「ッ…」

 

 

 夢を語る話をしてる時、俺は恭介がバツの悪い顔をして背ける素振りを見過ごさなかった。

 俺は心の中でさやかを非難してしまったが、俺も大概だな…

 でも俺は…さやかと同じく、恭介が再びバイオリンを弾ける日が来るのを待っている。

 早く治せよ、恭介。

 

 

 

 

―恭介side―

 

 

 

 

「うわ~、素敵な曲が出来そう!」

 

「うんうん!」

 

「てなわけで恭介、さっさと腕治せよ!」

 

「っ、う、うん…」

 

 

 賢治の言葉に、僕は顔を無意識に背けてから返事をした。

 僕は、物心がついた頃からバイオリンを触っていた。

 最初は、音が鳴ることが楽しく。

 次に、音が連なって音楽になるのが楽しく。

 次に、誰かに僕の音楽を聞いてもらうのが楽しく感じていた…

 でも、次第に音楽コンクールで優勝する為にバイオリンをする様になっていった。

 いつの日か、僕はバイオリンを弾くのが楽しくではなく、義務感で弾くようになっていた。

 その時、僕が小学5年の頃に僕のバイオリンを聞いてて楽しくないと言ったのが…さやかと賢治だった。

 僕がスランプに陥り、ずっと練習してる時に遊びに来ていた二人が扉の外で聞いてたらしく、弾いてる途中で賢治が入って来て言った事を…僕は今も覚えている。

 

 

 『何か仕事でバイオリンをしてる感じがする』

 

 

 次に、さやかが言った。

 

 

 『恭介のバイオリンが聞きたい』

 

 

 二人は僕が知らない内に、コンクールで賞を取る為だけに練習していることを教えてくれた。

 それから僕は、妙なシコリが取れた様に感じて練習が身について来ていた。

 コンクールの時も初めて舞台に上がって弾いた時の様な、懐かしい達成感を感じる事が出来た。

 僕は二人に感謝している。

 僕をコンクールと言う呪縛から目を覚まさせてくれたことを…

 でも、僕は事故に遭ってしまった。

 全身を強く打ち、よりによって左腕が深刻な怪我を負った。

 まだ結果はわからないけど、リハビリをしても左腕だけ成果が出ていない。

 でも…僕には、何となくわかる。

 この左手は…もう…ッ!

 これ以上は考えれない…悔しくて、涙が出てしまう…ッ!

 折角三人が見舞いに来てくれてるのに、こんな涙…見せたくない…ッ!

 

 

「ああ、こいつ等が来たからすっかり忘れてた」

 

「え?」

 

「何を?」

 

 

 唐突に賢治が話を変えて陥っていた意識が戻った気がした。

 僕は気付かれない様に涙を拭って賢治を見る。

 忘れてたって…何を?

 

 

「病院食じゃ成長期の俺達に物足りねぇだろうよ。だからもっと持ってきてるからよ、しっかり食えよ!」

 

 

《ドン!》

 

 

 テーブルの上に鈍い音をたてて置かれたのは、Wナックのマークが書かれた紙袋。

 そっと袋の口を開けて覗いて見ると…照り焼きはちみつキングバーガー4つにキングポテト5つにキングサイズドリンク5本…

 え、さっき賢治が入って来た時こんな量あったっけ?

 何処に隠してたんだよその量…

 

 

「「ええ~…」」

 

「…僕の嫌な思いが一気にすっ飛んだよ…」

 

「なんか言ったか、恭介?」

 

「ッ、い、いや、なんでもないよ…」

 

「そっか。あ~そろそろ検診の時間だろうから俺達は行くぜ、行くぞお前等」

 

「わ、ちょ、待ってよ賢治! 恭介、またね!」

 

「また来るね、恭介君」

 

 

 危うく僕の呟きを聞かれるところだったけど、賢治は二人を連れて帰った。

 でも…いつもありがとう、賢治。

 僕がこうして嫌な思いをしても、直ぐに忘れさせてくれるのは、賢治だけだ。

 だから、本当にありがとう。

 …でも、そろそろ夕食の時間なんだけど…これ、どうしよう…

 

 

 

 

―賢治side―

 

 

 

 

 病院を出て三人で他愛ない話をしながら帰宅していると、商店街へと差し掛かった。

 夕陽が世界を茜色に染め上げいる中、あっちこっちから客引きの声が飛び交っている。

 ここは、近未来が進む見滝原の中で唯一活気がある商店街。

 すぐ隣には俺達御用達のショッピングモールがある。

 ショッピングモールと商店街の間の道を歩いていた。

 

 

「ねぇねぇ、帰りに本屋に寄っていい?」

 

「は? 何しに行くんだ?」

 

「恭介がくれたキングポテトでおやつ代浮いたから欲しかった本買いたいの、だからいい?」

 

 

 歩道橋を登ろうとすると、さやかが突然本屋に行きたいと言ってきた。

 当然本屋に行くのだから本を買うのが目的なのはわかるが、こいつが本を読む姿を俺は想像出来なかった。

 精々読むとしてもファッション雑誌か漫画当たりだろう。

 

 

「いいよ、さやかちゃん」

 

「おお、んじゃ気をつけてな~」

 

「あ ん た も 行 く の よ !!」

 

「な ん で だ よ !」

 

 

 別れを告げて階段を登ろうとすると、さやかに腕を掴まれた。

 

 

 

「あんた家に帰っても暇でしょ、だから付き合いなさいよ!」

 

「俺はお前達の保護者か!?」

 

「さ、さやかちゃんのご両親からもお願いされてるからそうなんじゃ…」

 

「肯定する様な事言ってんじゃねぇよまどか!」

 

 

 どうやら俺も行くことがデフォになっている様だ。

 俺は二人に腕を掴まれ仕方なくモールの本屋に行くことになった。

 さやかはともかく、まどかまで俺の腕を組むか…

 はぁ…疲れる。

 

 

「ったく…ん?」

 

 

 二人が本屋に入ったのを見送り、俺は一人モールの外のベンチに座った。

 茜色と違う光が足元を照らしていたのでふと顔を上げると、古本の露店が歩道で出ていた。

 あれ、歩道橋渡る時、露店なんてあったっけ?

 まいいや、アイツ等のことだし、中で仲良く本探してるだろうから俺はこっちの露店でも見に行こう。

 腰を上げて露店へと近付くと、店主だろうか、厚着をした無精髭だらけの爺さんが居眠り漕いていた。

 買う時に声を掛ければいいと思い、俺は本を眺めた。

 この露店、なかなかに大きい。

 棚とワゴンをザッと見て300冊はありそうだ。

 眺めていると、左端で青白い光が目に入った。

 釣られて振り向くと、1冊だけ他のホントは大きさが異なる茶色い本があった。

 

 

「あれ…この本」

 

 

 何故だろう…この分厚い本は、どこかで見たことがある気がする。

 手に取ると、中々ズッシリとした重さを感じた。

 ベルトが付いているので、外して本を開く。

 何気なく本を開いて見てみると…あれ、何も書いてない。

 ページを何枚も捲って見るも、何も書いていない色褪せた白紙…

 何だこれ?

 しかも手に取ったら違和感無く馴染む感じになるんだが…

 値札を見ようと回してみても何も貼っていないし…

 

 

「賢治ー!」

 

「お?」

 

「もう、勝手にいなくならないでよぉ!」

 

「ああ、悪い悪い」

 

 

 呼ばれた方を向くと、不満そうな顔をして二人が俺を見ていた。

 ふと空を見ると、夕陽は隠れて青黒い空が7割を占めようとしていた。

 いつの間にかこの露店で時間が経っていた様だ。

 手にしているこの本がちょっと気になるから買うか。

 

 

 

「で、あんたこんなところでつっ立って何してんのよ?」

 

「え、何って…露店見てんだよ」

 

「どこの?」

 

「どこのってお前………え?」

 

 

 あれ…露店が、消えた…?

 何で、さっきまでここで本の棚やらワゴンがあったのに、振り向いただけで無くなるわけねぇだろ!?

 

 

「ねぇ、その本何時買ったの?」

 

「え?」

 

 

 まどかに言われて気付いたが、さっき手にしたこの本だけは確かにある…

 露店が消えたのに、露店に出てたこの本だけある…どういう事だ一体?

 

 

「何それ、外国の?」

 

「あぁ? ん、ん~よくわからんけど、何か気になったから買っただけだ」

 

「なんか、すごい雰囲気の本だね…」

 

 

 まどかが若干引き攣った顔をしながら言った。

 ああ、まぁ茶色なんだけど…よく見れば何か不気味な模様が描かれていた。

 それも、よく漫画とかである死霊が描かれている様な、訳のわからん文字が羅列されている様な…

 

 

「ふ~ん、それ題名はなんて書いてあるの?」

 

「ああ、え~っと…あれ?」

 

 

 そういえば俺、さっき題名見てなかったよな?

 本の表紙を見てみると、題名が書いてあった。

 

 

「え~っと、題名は―――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――Al Azif(アル=アジフ)

 

 

 




デモンベインのアニメ版のように詰め込みすぎたか…
仕事が今だ繁忙期でロクにPCを開く時間がない…

そしてこの小説では、オリ設定をしているので、ご容赦下さい。


因みにユニコーンは、全力でさやかを救います。

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