第一話:英霊降臨
時は2010年。この時代に、カノンスフィール・フォン・アインツベルンなる少女は、小さくて大きい島国の冬木という町で生活を営んでいた。
「かのーん!入るよー!」
純和風建築の屋敷の外から女子の叫び声が聞こえてくる。
「分かった!」
カノンは寝癖のついた白銀の髪の毛を整えながらそう叫んだ。
叫んだ相手は
「待たせたな」
居間には朝ごはんが二人分並んでいた。美凪が作ってくれたのだ。
「私ここに住んだ方がいいんじゃないかな?わざわざ毎日ここに来てご飯作るの面倒なんだけど」
「そ、そんなこと言うなよ…。私もしっかりするからさ…」
「はいはい、泣くな泣くな。冗談だよ。あと、聞いて欲しかったのは前半のことなんだけどな」
「い、いやそれは悪いよ。あーいやでも…。…美凪がそうしたいなら、どっちでもいい」
「じゃあ今日はお試しで泊まろっかな」
そんな他愛もない話をしながら2人は食事を共にした。
時刻は7時30分。清々しい朝の陽気に包まれながら、カノンは美凪と共に、家を出た。
「そうだ。そういえば、凛ちゃんは留学から帰ってきたのか?」
美凪の従姉の遠坂
「つい先日ね。魔術の訓練のためにイギリスの時計塔に行ってエルメロイ…?だったか何だかって言う魔術師の講義を受けに行ってたんだけど、帰ってきて第一声が「科学と魔術を融合させるなんて出来るはずないじゃない!あの人本当に魔術師なの?!」とかなんとかだったんだよね。自分から行きたいって言って留学したんだから文句言うなって感じだよね」
確かロード・エルメロイと言えば世界に名を馳せる大魔術師だ。そんな人をそのように言えるとは、やっぱり凛ちゃんは凄いな…。肝が据わってるというかなんというか…。
「そんなこんなで、この一ヶ月はずっと家にいるらしいから、なにか教わりたいなら来た方がいいよ。まあ、言ってもかのんには士郎くんやイリヤちゃん達がいるだろうけどね」
「士郎は当てにならないな。アインツベルンの家の血を引いてないし、父さんとも血が繋がってないらしいから、正当な魔術師とは言えないからな。聞くにしてもイリヤだろうなぁ」
でもイリヤは今祖国に帰省してるからどっちにせよ聞くことは出来ない。
「あはは、そうなんだ。士郎くんってどうやって魔術行使してるんだろう…?まあいいや、その話はまたあとにしよっか。そろそろ学校着くから」
歩いて10分程の距離に学校はある。どんなに遅く起きても走れば数分で着く故に、遅刻することなどほぼありえないのだが、先程のは美凪が早くに学校に行きたいからそう言って急かしているのである。
校門をくぐってまず目に入るのは巨大な校舎。一つの建物で普通教室から特別教室まで全てが設置されている。体育館やプールも然りだ。
反対側にはグラウンドがある。こちらも巨大だ。広大な敷地面積をほとんどグラウンドが占めている。
グラウンドでは陸上部が活動をしていた。
「
「あ、あそこで高跳びやってるの、そうじゃないか?」
間桐
「間桐くん、運動部に入っててよくあんなに勉強できるよな。時間あるのかな?」
「頭がインターネットに繋がってて〜みたいな?」
そんなはずなかろうに。もしそれならちょっとしたチートだろうよ。
「まあ、間桐の家だ。なんか変なことでもしてるんだろうな」
「…
間桐桜。美凪の2人目の従姉であり、凛の妹である遠坂家の次女。一時期、間桐家に養子に出されていた時期があり、そこでおぞましいほどの虐待を受けていた。
「桜ちゃんは…。いや、この話はやめにしよう。桜ちゃんも間桐くんもかわいそうだし」
「…そうだね」
キーンコーンカーンコーン…
ちょうどチャイムがなった。
「教室行こうか」
「うん。そうだね」
2人は踵を返し、教室がある校舎へと向かって行った。
「おらお前らチャイムなってんぞー。早く座れー。今日は少し大切な話があるからなー」
黒い髪を整えたイケメン眼鏡の担任は、そう言いながら教室に入室してきた。
「せんせー!大切な話ってなんですかぁ?」
クラスの俗に言う陽キャの女子が担任に向かっていつもはしないような猫なで声で質問する。
「それは今から話すからちゃんと聞いてろ
驚きと期待で教室がざわめいた。
担任が入室を促すと、1人の男子が入ってきた。髪は青く、眼も蒼い。澄んだ海や青空のような綺麗なイメージを抱かせる好青年だった。
「自己紹介を」
「はい。
先程のギャル、菊池やその周りの女子共が再びざわめき出した。
「そこ黙ってろよー、話すならSHRが終わってからにしろ。さて、黒鋼はロンドンにいたこともあって、転入前に行わせてもらった試験では英語が98点だった。実力者が入ってきたということはさらに頑張らなきゃならないってことだからな。お前らも負けないように精進しろよ」
うわぁ…嫌なことを言ってきたなぁ…。教師たるもの奮い立たせなきゃならないんだろうけど、気分は悪くなるよなぁ…。
「黒鋼。窓側から数えて2列目後ろから1番目の空いているあの席あるだろ?あそこの席に座れ。
衛宮と言ったのはカノンの事だ。学校には衛宮
「了解した。よろしくな、黒鋼くん」
そうカノンが声をかけると、白空は少しギョッとしたような表情を見せたが、すぐに顔を微笑ませ、挨拶を返した。
「うん。よろしく衛宮さん、それから遠坂さん」
おそらく、カノンの口調についてだろう。あまりにも女の子らしくない。
「さ、1時限目は俺の授業だ。遅れないように準備しとけよ。これでSHRは終わりにする。間桐。号令を」
「起立、気をつけー、礼」
と、いつも通りの朝の流れが終わった。イレギュラーなことと言えば彼が来たということくらいか。
「
自らのサーヴァントを呼び出す。
「もちろんだ。いつも主君のそばにいる」
音も立てず現れたのは華奢な容姿のくノ一姿の少女。
「他の英霊の気配はあったか?」
「いや、私の方では感知できなかった。恐らくこの学校にはいないのだろう」
「そうか。アインツベルンも遠坂も間桐もいるから一騎くらい見つかると思ったのだが…。…わかった。お前は学校から町中へと索敵の範囲を広げてくれ。校内は僕がやる」
「了解した」
再び音も立てずに少女は消えた。
「さて。聖杯戦争はすでに始まっているぞ。早く呼び出さないと死んじゃうよ。御三家のマスター候補達」
ピリッ――
「…っ。…なんだ?」
「どうしたの?間桐くん」
昼休み。校舎の4階にある屋上のような所で食事をとっていたカノン、美凪、清隆。そのうち清隆の右手に軽い痛みが走った。
「いや……。なんでもない…。っ!!!」
右手の痛みは突然強くなった。絶叫発狂する程の痛みではなかったが、普通に暮らしている分には経験し得ない痛みに清隆は驚いていた。
「この…痛みは…!」
「まさか!」
キィィィン…
「令呪!」
赤い紋章が現れた。かつて人理を修復した男のマスターの令呪を反対にした形のもの。
「なんで?まだサーヴァントは呼び出してないわよね?」
「分からない。が、俺に
「っ!」
今度はカノンに痛みが走った。
「いっ!口…?」
口の端に紋章が現れた。口端を囲う3つの火の粉のようなもの。
「口に令呪が…?」
「有り得なくはない。イリヤちゃんもそうだったろう。彼女は全身に現れていた。あれは極端だったけど、体のどこに現れてもいいということを最も表現している事象だろう」
「そ、そうだな。自分で確認できないのが厄介だが…」
「あとは私ね…。いつ来るのかな」
「こういうことを言うのは良くないだろうが、凛ちゃんという可能性も無くはない。昨日、帰ってきてただろ?もしかしたら彼女かも」
清隆が美凪にそう言った。
「そうね。その可能性もあるよね。気長に待つとしますか」
5時限目の皆が眠くなるような時間にそれは来た。
(よりにもよってこの時間に…!眠気覚めたけど…!)
手が紅く光り輝いている。
「せ、先生。トイレ行ってきます…」
「腹痛?良いですよ。行ってきても」
「失礼します…」
令呪の出現を見られないようにトイレの個室へと駆け込む。
(右手の甲…。…って場所は関係ないか。形は凛やお父様のような円2つに短い線がひとつ)
魔術師として適正があるほど令呪の形は円に近くなる。美凪やカノンは適性があるようだ。
(そろそろ戻るかな)
便座から立ち上がり、扉を開けると、そこには黒髪の忍者のような格好をした少女が立っていた。
「…ッ!?」
「その手…。お前はマスターか?」
「なんの…こと…?あはは、マスターってなに?」
必死に誤魔化しているのは目に見えてわかる事だ。少女にもわかっているだろう。
「と言うかあなたどこから来たの?勝手に入ってきちゃダメでしょ?さ、早くお家へお帰り」
そう少女に言うと、突然膝蹴りをされた。
「ぐはっ」
「子供扱いするな。無礼者」
「えぇ…?だってどう見たって小がk…ッは!」
再び膝蹴り。今度は
「子供扱いするな。バカ直継…バカ継と同じだな。こう見えても私は大学生なのだ」
大学生って見た目じゃないけど…?
いや、そんなことを言っている場合じゃない。ここにいる間ずっと気を張っていた。なのにこの少女の気配を察知することが出来なかったのだ。恐らく気配遮断スキルを発動している。
(アサシンのサーヴァント…?御三家である私たちより早くに召喚するなんて…)
いや、それは関係ないことだ。
「で、話が逸れてしまったが、マスターということで良いな?遠坂美凪」
(私の名前を…!!?)
「主君に伝えさせてもらう」
そう言って少女は音もなく消え去った。
(いずれは対峙する相手だと言っても、事前にバレるとは…!マズイことになった…。あとで間桐くんとかのんには言わないとな…)
急いで教室に戻った。授業終了5分前だった。
「別に大丈夫でしょ」
授業が終わり、帰りのSHRが終わったあと、美凪は教室に残っていたカノンと清隆に相談しに行った。が、清隆から返ってきた言葉はそのようなものだった。
「遠坂の者となれば、マスターになるのは当然のようなものだし、俺らだって敵同士だろ?いずれ分かる事だ。今バレたところでどうということは無い」
「そうだ。それに、サーヴァントを見られた訳でもないんだし。な?」
「でも…」
「さ、この話はおしまいにしようか。そうだ、良いものを見せてあげよう。俺についてこい」
そう言って会話を終了させた清隆は席から腰を上げ、教室の外へ出るよう言った。
「どこに行くの?」
「場所としては校舎の地下だ。何があるかは着いてからのお楽しみってことで」
カノンと美凪の2人は促されるまま清隆の背中についていった。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――」
夜の深い森の中で男は
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
地面に人間の血で描いた魔法陣が反応する。
「
魔法陣を中心とした強風が巻き起こる。
「―――――
魔法陣に光の粒子が集合する。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
光の粒子が複数の玉の形になり、魔法陣の周囲を高速で回転する。
「
光の柱が天に伸び、英霊を呼び寄せる。
「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
光の柱の直径が広がり、森を覆い尽くさんとする。
「さあこい、俺の英霊!僕に力を与えろ!アハハ、アーハッハッハッハ」
男の哄笑する声が森に響き渡る。
光が収まるとそこには華奢な体の少し女のような顔をした少年がいた。
「ようバーサーカー!お前は誰だ?名前を教えろ」
「俺はツァラトゥストラ。察するに、お前は俺のマスターなんだな」
「ああ、そうだ。扱き倒してやるから覚悟してろよ、ツァラトゥストラ」
マスターが差し伸べた手を彼は握らなかった。
「ん?どうしたんだよ」
「いや…ちょっと、な。多分、今の俺には
呪い?触れない呪いって酷いものだな。
「どんな呪いなんだ?」
「…人に触れると…その人の首が飛ぶってやつだ」
「マジで…?」
「ああ」
そんなの…。そんなの…。
「あはは!すげえなお前!」
「は?」
「触れれば殺せるって、それだけで勝てるってことじゃないか!」
バーサーカーのマスターは歓喜する。
「相手が隙を見せたら殺せる…。隙を見せるにはこっちが強い必要があるか…。じゃあ今から人殺しに行くか」
「あれ、なんで聖遺物の特性を…」
伝えてもいない蓮の身に宿っている聖遺物なるものの『人を殺した分だけ強くなる』という特性をバーサーカーのマスターは言ってみせた。
「え?ああ、なんか頭の中に知識としてあったんだ。当然のように、な」
バーサーカーを召喚した時に流れ込んできた情報だ。
「そうか…。無意味に人を殺すのは趣味じゃないんだけど、あんたの描いた魔法陣も力になった。こう言うのは不謹慎なんだろうけど、人の血で描いてくれてありがとな」
「さあここで握手をしよう。お前も抑えようと思えば抑えられるだろう?あのーなんていったか…。なんとか効果みたいなやつ」
プラシーボ効果。実際にはその効果がなくても、思い込みでそうなってしまうこと。例えば、風邪をひいている人に風邪薬だと言って小麦粉を飲ませると、風邪が治ってしまった。のような事だ。
「じゃあ…あんたがそう言うなら…」
ガシッ
お互いに強くにぎりしめた。
しかし、何も起こらなかった。
「…。抑え…られたな」
「あ、とマスター?お互いに意思疎通をしやすくするために名前知っときたいんだけど」
「俺はアーノルド・グランディアス。よろしくな」
アーノルドはそう言った。
ツァラトゥストラは、よろしくな、アーノルド。と快く言った。
「ここだ」
御三家のマスター3人は目的の場所へと到着した。
「これは…!」
そこの床には魔法陣が3つ描かれていた。
「そろそろ聖杯戦争が始まる時期だろうと思ってな。準備していた。きっとお前らと一緒に戦うことになるだろうと思ったから、まずは俺の希望を叶えてみようと思った。3人で一緒に召喚してみたかったんだ。別にいいだろ?」
「悪くない。隠れてやるようなものじゃないし、別に共闘する気はあるからな。美凪は?」
「私も別に。ただ、遠坂の家は少し詠唱が長いんだけど、大丈夫かな?」
その程度。2人は声を揃えてそう言った。
「じゃあ早速始めようか。俺は奥に行くから、花音はそこ、美凪はそっちに行ってくれ」
指示された位置に全員がつき、準備が完了した。
「さあ、行くぞ…」
手を前に差し出し、詠唱する。
「「「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――」」」
―――――――――――――――――――――――
「「「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」」」
部屋の中を眩い光が覆い尽くした。
「ッッ!」
光が収まり、目が慣れてきた。
「あ…」
3人の男女が突如そこに出現していた。
「私は
間桐清隆の目の前には白い服に身を包んだ、どこかカノンに似ている、槍を持った青年が。
「やあ、君が僕のマスターかい?」
遠坂美凪の目の前には杖を持ち、赤い宝石を頭につけた青い髪の少年が。
「おっと…俺だけか。まあいい、俺のマスターはお前か?」
カノンスフィール・フォン・アインツベルンの目の前には巨大な岩が先端に付いた剣を持った男が眩しいほどの笑みをしながら立っていた。
「俺は
「私は
「私は
それぞれ、従えるサーヴァントが確定した。
「よろしくな、ランサー」
槍兵の少女は頷き、よろしくと口にした。
「よろしくね、キャスター」
魔術師の少年は眩しいほどの笑みを浮かべ、よろしくねおねいさんと。
「セイバー、よろしく」
剣士の男はその剣を肩に担ぎ、よろしくなマスターと。
「現在、ここ冬木に限界している英霊は私が確認している中では、
今回はアサシン、バーサーカー、ランサー、キャスター、セイバーの5騎が登場しました。それぞれ、別の作品のキャラクターとなっています。多少の被りがあった方が作品としては展開しやすいのでしょうが、私が好きなキャラクターを並べてみると、このような感じになってしまいました。多少、マニアックなキャラクターも存在しますので、読者の皆さまにも原作に興味を持っていただけるととても嬉しいです。
ちなみにランサーはオリジナルのキャラクターなので、キャラクター性は安定していると思います。
真名が判明しているものはここで紹介させていただきます。
バーサーカー:Dies iraeから出典。本作品中では「ツァラトゥストラ」という名で現界しているが、中身は「ロートス・ライヒハート」、見た目は「藤井蓮」という少年のものだ。Fate/Grand Order の「諸葛孔明」や「イシュタル」といった英霊と同じく、疑似サーヴァントである。
藤井蓮は、Dies irae原作中では主人公として最大の敵であるラインハルトと
本作品中ではまだまだ秘密を隠しているようだが…?