GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
ソウさんが医療フロアに戻った後、またぼんやりとする。
今度の基礎訓練は何を主体にしようか。
緊急回避時の軸足も甘かったような気もするし。衝撃を殺す、もしくはいなす訓練も、しておいて損はないだろう。
それとも、体づくりの基本となる体幹を鍛えるのが無難なところだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えていると、にわかに上が騒がしくなった。
おそらく、先輩たちがミッションから戻ってきたんだろう。
予想通り、緩くカーブした階段を下りて、まずロミオ先輩が姿を見せる。続いてナナさん、最後にジュリウス隊長だ。
「お帰りなさい、みなさん」
「よっ、ただいまデイト」
元気なロミオ先輩の挨拶を最初に、ナナさん、ジュリウス隊長も、「ただいま」と返してくれる。
「怪我も無いようで、何よりです」
本心からそう返すけれど、まだナナさんを直視はできない。
我ながら、子供っぽいと思わざるをえない行動だ。
けれど、ナナさんの方はそれを気にした風もなく、今まで通り接してくる。
それを嬉しいと思う反面、少しばかり放っておいて欲しいとも思ってしまう。
極東に居た頃は抱くことの無かった感情に戸惑いつつ、そのままみんなで、少しばかり早い夕食に向かった。
*
「嘘つきは泥棒の始まり…これは確か、極東の言い回しだったかしら?」
薄暗い研究室に、ラケル博士の鈴のような声が吸い込まれていく。
「そして、蛙の子は蛙…とも。…あぁ、でも、鳶が鷹を生む…という言葉も、あるのだったわね…」
口元に手をあてて、どこか歌うように口ずさむ。
「…あなたは、蛙かしら。それとも、鷹になるのかしら?」
視線の先には、白髪の少年と話す、黒髪の男が居た。
「けれどね。どちらにしても、信頼というものは、立ち去ったところには二度と戻らないものなのよ?」
*
次の日、朝食を食べ、午前中のミッションに向かったみんなを見送ってから、僕はラケル博士の研究室に呼び出された。
また、バイタル情報をスキャンした結果。今度こそ、完全に定着したとの結果がでた。
これで、復帰に大きく近づいた事になる。
けれど、昨日ソウさんが言っていた事もある。ラケル博士はどんな判断をするだろうか。
緊張しながら言葉を待つ。
「ミッションに出ることに、支障は無いでしょう。けれど念のため、専門の先生にメンタルケアをお願いしておきました」
「あ…ソウ先生ですか?」
「ええ。もう会っていたの?」
「昨日、ロビーで」
僕の答えに、ラケル博士は「そう」と穏やかにほほえむ。
それでも僅かに眉を曇らせると。
「ごめんなさいね。本当なら私が解決できたらいいのだけれど…。専門の知識のない私が対応して何かあったらと思うと…」
「いいえ、そんな。寧ろ、真剣に考えて頂いて、ありがたいくらいです」
慌ててそういうと、ラケル博士は愁眉を解いて微笑む。その笑顔に顔が赤くなるのが、自分でもわかった。
どうにも、極東に居るときから女性には弱い。
特に、年上の女性には。
「そう言ってもらえて、私も嬉しいわ。それじゃあ、データを送っておきますから、この後、ソウ先生の所へ向かってちょうだい」
「はい。了解しました」
研究室を後にして、教えられたソウ先生のいる医療フロアへ向かう。
医療フロアは、フライアの中でもまた変わった雰囲気の場所だった。
ロビーなどに居ると聞こえる低い駆動音も、神機保管庫からの整備音も聞こえない。
ひたすら静かな、けれど人の気配は感じる。そんな空間だった。
「えっと…」
ドアの前にかけられたネームプレートを順に見て回る。
Sovels Soll Sorentius
そう表示された扉をノックすると、中から彼の穏やかな声で入室を促された。
「ブラッド第2期候補生、日暮デイト入ります」
「そんなに堅苦しくなくていいよ。楽にして」
「あ…はい」
苦笑するソウさん。
イスに座った彼を中心に室内を眺めるけれど、想像していたような、いかにも病室、といったような内装では無かった。
作り付けの本棚におかれている書籍が、僅かにそれらしさを感じさせる程度で、壁も白と言うよりは暖かみのあるベージュだし、薬品の臭いも薄い。
「そこに座って、待っていてくれるかな」
「あ、はい」
イスに示されたイスに座って、更にきょろきょろと部屋を見回す。
照明一つをとっても、リラックスさせることを目的として作られているのがよくわかる。
まあ、先生の専攻を考えれば、それも当然なのだろうけれど。
「おまたせ」
と、戻ってきた先生の手には二つのカップ。
湯気をたてるそれらの中身は、とろみのある茶色の液体だった。
「ココア、飲んだことある?」
「いえ、ココアは初めてです」
「おいしいよ」と手渡され、一口飲む。
甘みの後に、仄かに残る苦み。見た目よりずっと美味しい。
「本当だ、美味しいですね」
「でしょ?ここに少しお酒を混ぜても美味しいよ。…とと、君はまだお酒が飲める年齢じゃなかったね」
そんな取り留めのない会話が続く。
いったいどんな検査をされるのかと身構えていただけに、拍子抜けしてしまう展開だ。
「…あの、何か検査のような事はしないんですか?」
「ん?ああ、そうだね。たぶんラケル博士の所でしてきたような検査というものならやらないよ。それでは把握出来ない所を把握するのが、私の仕事だからね」
まるで謎かけのような言葉だ。
やはり、医者や科学者といった人たちの言葉は難しい。
「どのみち、身構えられては私としてもやりづらい。時間をかけて、ゆっくりと、でも確実に問題を解いていこうじゃないか」
「はあ…」
曖昧な返事をする僕に、ソウ先生は優しく微笑みかけた。
結局その日は、昨日と同じように雑談で終わった。
質問責めにされるわけでもなく、変な機械を付けられるでもなく。
…というか、そういう検査をするものなのかも、僕は知らないのだけれど。
今回の成果はといえば、念のためミッション前に飲んでおくように、と渡された錠剤だけだ。
瓶に入れられたそれをポケットに仕舞い、エレベーターの中で一人俯く。
先生の言い分は理解できる。
定期検査を受けるのも、万全を期すという意味では当然だ。
けれど、完全に不安を拭うのは難しい。
「…はあ…」
どうして、いきなりあんな風になってしまったのだろう。
赤い血を見た気がして、ナナさんが襲われたと思った。
そこまでは、何とか覚えている。
けれど、そこから先の記憶は、今も戻っていない。
ひょっとして記憶を失う前の自分は、そういう好戦的な性格だったのだろうか。
そう思い至ると、何となく、記憶を取り戻さなくてもいいかな、という気になってしまう。
そろそろミッションも終了しているだろうか、とロビーへ寄ると、そこには予想通り、ロミオ先輩とナナさんの姿があった。
けれど、どうやら何か揉めているみたいだ。
「どうかしたんですか、二人とも」
「お、デイトお疲れー」
「お疲れさま、デイト」
「あ、お疲れさまです。…それで、何かあったんですか?揉めているみたいに見えましたけど」
僕の質問に、待ってましたと言わんばかりにロミオ先輩が身を乗り出す。
その様子に、ナナさんは方を竦めているだけだ。
「昨日もなんだけどさ、こいつガンガンアラガミに向かっていくんだ」
「はあ…」
それだけだと、ある意味当然の事に聞こえる。
近づかなければ攻撃を当てることができない。
「そのくせ、スタミナ切れでアラガミのそばで動けなくなるんだぜ?あぶなっかしてくて見てらんないよ」
「えぇー?ロミオ先輩は遠すぎだよー」
どうやら、二人の戦闘スタイルは真逆らしい。
僕としては、ナナさんの事を言えないので黙っておいた。
息切れはともかく、結構前に出ている自覚はある。
「お前からも何か言ってやれよ、前に一緒に訓練行ったんだろ?」
「え?えーと……。…あはは…」
笑ってごまかす。その瞬間突き刺さる「お前もか」という瞳。
「あー、解った!」
「ナナさん?」
いきなり声を上げたナナさんを見ると、ニヤリと音がしそうな、猫みたいな笑顔で、のぞき込むようにロミオ先輩ににじり寄る。
「ロミオ先輩、怖いんだー?」
「ちょ、ナ、ナナ。近い、近いって!」
ナナさんの挑発的な台詞より、その距離にたじろいでしまう先輩。
その気持ちは、よく解ってしまう。
以前も思ったけれど、ナナさんは自然にパーソナルスペースに入り込んでくる。
おそらく本人は無自覚で、特に何かを考えている訳ではないのだろうけれど。…私服の布面積と相まって、その破壊力は抜群だ。彼女の持つ神機のように。
「…なるほど。だからあの神機に適合を…」
「何言ってるかわかんないけど、お前からもなんかーっとぉ!」
「!」
助けを求めようと無理に体をひねったロミオ先輩がバランスを崩し、僕に向かって倒れ込む。
転倒こそ防いだものの、ちょうど後ろを通っていた人にぶつかってしまった。
「す、すいません…うあ!?」
「ご、ごめんなさいっ、大丈夫でしたか?…あれ?」
ロミオ先輩の驚いたような声。僕も、謝った相手の顔を見て、疑問の声を上げてしまった。
どこかで見たような気がする。
「いやあ、すみませんねユノさん、不躾な奴らで」
「いえ…」
低い猫なで声で名前を呼ばれた彼女が相手を見る。
猫なで声の人は、たしかここの局長でもある人だ、確か名前は…そう、グレム局長。
こんな事を言っては失礼だけど、何かを企んでいる用にしか見えない目つきが苦手な人だ。
そして、局長が彼女の名前を呼んだことで思い出した。
葦原ユノ。
極東支部で時折見かけたことがある。
会話をしたことは無いけれど、彼女の歌は何度か聞いたことがあった。
柔らかくて、とても落ち着く歌だった。
猫なで声を再会してユノさんに謝罪している局長。
二人の後ろから、それまで静観していた女性が、僕たちに近づいてきた。
「ロビーでは、あまりはしゃがないでね。大切なお客様に迷惑でしょう?」
そう、綺麗な青い目を細めてレア博士に注意されては、僕たちは謝るしかない。
口々に「ごめんなさい」と言うと、博士はよろしい、と言うように頷き、また二人の後ろへ戻った。
またエレベーターに向かう三人を見送るロミオ先輩。
その視線は、正確にはたった一人を見ている。
「ロミオ先輩?」
「どうかしました?」
僕とナナさんが声をかけても、言葉にならないのか口を開閉させているだけだ。
それに併せてパタパタと動いていた腕が、ユノさんを示す。
「あれ、ユノ!ユノ・アシハラ。超有名人!」
何故かいきなり片言で喋り始める先輩。先輩にとってはそれほどの衝撃だったらしい。
「知ってる?」
「ええ。極東支部にも、たまに来ていましたから」
「えぇぇ!?マジで?前から生ユノ見てたのかよお前っ」
僕の発言に、更に興奮した先輩が詰め寄ってくる。ちょっと、これ以上は危険な距離だ。
けれど、先輩の様子を見るに、そんな事を言っても効果はなさそうだった。
「見ていた、と言っても。遠くからとかですよ?ちょっとした資料を運んで支部長室に行くときに、すれ違っただけとか…」
「それが羨ましいっつってんの!……あぁー。今日は風呂入らないでおこう…」
絶叫したかと思うと、今度は恍惚の表情で自分の臭いをかぐ先輩。
少しばかり、こう…引いてしまいそうになるのを堪える。
ナナさんの「お風呂ぐらい入りなよー」という尤もな台詞も、今のロミオ先輩には通じないようだ。
呆れるようにため息を一つ吐いて、ナナさんが僕に「いこ」と促す。
僕としても、そろそろご飯を食べておきたい。
ナナさんの後ろに付いていこうと、一歩踏み出した時、後ろから掛かる力に、それを阻止された。
振り返りたくは無いけれど振り返れば、そこにはロミオ先輩。
その目が、何時になく真剣な光を宿している。
その強さが増すごとに、僕のイヤな予感は上昇していく。
「お前にミッションを命じる」
そう、重々しく宣告された。その内容とはーーー。
今、僕は上層部の奥にある重厚な扉の前にたっている。
お腹が空腹を訴えるけれど、引き返す事はできない。
「……」
こちらを力強いめで見つめるロミオ先輩が、背後に控えているからだ。
「ミッション時の連携を取るための練習」
と言われたけれど。
その内容は、僕が先に局長室に入室、その後ロミオ先輩が同室に突入。という、戦術を学んだ訳ではない僕にでも解る、ザルなものだった。
まあ、ロミオ先輩も基本的にはいい人だし、たまにならこう言うのも悪くはない…のだろうか?
とにかく、こうしてただ立っていても始まらない。
僕は、とりあえず無難に扉をノックしてみた。
極東だと、支部長の性格故かこれで大体入れる。
「なんだ」
「ブラッド所属、第2期候補生、日暮デイトです。入室してもよろしいでしょうか」
流石に、そう簡単には行かなかった。
とりあえず策があるわけではないので、真っ正面から入室許可を貰う事にする。
後ろのロミオ先輩がなにか慌ただしく動いている気がするけれど、ここからはよく見えないので気にしない事にした。
数秒があって、「入れ」という声がする。
許可がでた事を身振りで伝えると、ロミオ先輩が走り寄ってきた。
隣に立ったロミオ先輩は、緊張と興奮が入り交じった顔で扉を開けるように促す。
「失礼します」
そう言って開いた扉の向こう。
壁一面がガラス張りになっており、解放感がある。左右に続く壁には、様々な勲章が飾られていて、正確な数は直ぐには解らない位だ。
そうして、正面に設置された立派な机にふんぞりかえって…いや、威厳たっぷりに座っているのは、この部屋の主でもあるグレム局長。
その隣には、綺麗な赤毛を気だるげに弄んでいる、レア博士。ラケル博士のお姉さんだと聞いては居たけれど、目の色以外はあまり似ていないように見える。
けれど、ロミオ先輩の目的であるユノさんは居ない。
「あれ…?ユノさんは?」
「今は、極東へ向かって、ヘリで空の上…という処かしら」
思わず漏れてしまったロミオ先輩の本音に、博士がイタズラっぽく答える。
今ので、少なくとも彼女には、僕たちがここへ来た目的が解ってしまっただろう。
「それで、一体何のようだ?」
そんなやり取りには興味がないのか、グレム局長が不機嫌さを隠さずに聞いてくる。
ロミオ先輩は、ユノさんが居なかった事でもう頭が真っ白になってしまったらしく、「えーと…」なんて目を泳がせている。
それを見て、元から寄っている眉間の皺を更に深くする局長。
ああ、どうやら局長は、無駄を嫌うタイプの人間らしい。
巻き込まれて、更に叱責を頂くのは、少しばかり遠慮したい。
僕は一歩踏み出すと、胸の前に腕を持ってくる簡易な型の敬礼をし、口を開いた。
「失礼しました、局長。こちらに配属されてからご挨拶に伺っていませんでしたので、急かとは思いましたが本日、こうして伺わせて頂きました次第です。以後、よろしくお願いいたします」
そう言って頭を下げる。
「…ふん、なかなか殊勝な態度だな。命令に忠実なら、いずれ俺の身辺警護に抜擢してやらんでもない。フェンリルも、なかなか難しい組織だからなあ…」
僕の返答に満足したのか、意味ありげに博士を見て笑うグレム局長。
…なぜだろうか、直接視線を向けられた訳でもないのに鳥肌が立つ。
「…それでは、失礼させて頂きます。ロミオ先輩も、お付き合い頂いて有り難うございました」
「え?…あ…お、おう」
先に部屋を出た僕の背中に、「おい待てって!」とロミオ先輩の声がかかる。
なんというか、子供お断り、のような空気を感じて居た堪れなくなってしまったのだ。
少なくとも僕に、局長室は鬼門のようだ。
お腹がすいたという僕の訴えで、ロミオ先輩と食堂へ向かった。
「はあー…。結局ユノには会えなかったな…」
「やっぱりねー。そんな結果になるだろうなーって思ったよ」
「僕もです」
僕とナナさんからの言葉に、「うぐっ」と胸を押さえるロミオ先輩。
「で、でもまあ、確かに、お前、なかなかやるな。まさか局長室に正面から入っていくとは思わなかったぜ」
「…正面からじゃなきゃ、どうやって中に入るっていうんですか?」
「そりゃおまえ…ちらっと覗くとか、耳を当てて中の音を聞くとか…」
「ロミオ先輩…それって不審者だよ、もう…」
「なんだか…アラガミの次位に、討伐対象になりそうですね…」
僕たちの言葉に、テーブルへ突っ伏してしまう先輩。
何とか復帰したものの、小さく「いいよいいよ、俺なんて…」と呟いているのを聞く限り、完全復帰ではないようだ。
「それにしても、よく無事で帰ってこれたねー。怒られてボロボロになってるんじゃないかって、心配しちゃったよー」
「ああ、そういや有り難うな。お前がとっさにああ言ってくれなかったら、ほんと、グレム局長にキレられてもおかしくなかっただろうし」
「ああ、いえ。僕も、怒られてあれ以上お昼が先延ばしになるのは嫌でしたから」
「そんな理由かよ!?」
「うんうん。お腹空いてるのは嫌だよねー」
僕の答えと、ナナさんの感想に、ロミオ先輩がまたしても力無くテーブルに突っ伏す。
その隙にと、ナナさんがピザを一切れ狙っているのにも気づいていな様子だ。
「はあ…、まあいいや。それにしても、ああいうのどこで覚えてきたんだよ」
ピザに伸ばされたナナさんの手をやんわりと払いながらされたロミオさんの質問。僕は「多分」と前置きしてから答えた。
「極東で保護されて以降だと思います」
「思います…って、自分の事だろ?」
ロミオ先輩の疑問に同調するように、ナナさんも首を傾げる。
どうやら、二人はデータベースをチェックしてはいないみたいだ。僕の記憶が無いっていう事は、そこに乗っているはずだから。…まあ、わざわざ人の欄まで見る事はないか。
フライアに来た当日、その情報も載ると言われたから間違いないと思う。
「データベースでも閲覧できますけど。僕、昔の記憶がないんです。でも、極東に来てから年上の人たちに囲まれて生活していたから、その時にああいう対応を覚えたのかなって思いますよ…どうかしましたか?」
料理―今日はキノコピラフ。キノコのコリコリとした歯ごたえと、鮮やかな野菜の色が目に楽しい一品―から顔を上げると、ポカンとした顔の二人。
同じように口を開けて僕を見ている。
「え、ちょ…。記憶が無い?記憶喪失?」
「そうだったの!?」
驚く二人の声が大きかったので、周りでご飯を食べていた何人かの人達がこちらを見る。
その人たちに軽く会釈してから二人に向き直ると、なんとほぼ目の前まで詰め寄られていた。
「ええと…はい…。保護される以前のものは…」
「…マジか…」
「そうだったんだー…」
そう言って、今度は崩れるようにイスに座り込む二人。
それを見て、何となく罪悪感に襲われてしまう。
こういう反応が嫌だったから、それにわざわざ言うような事でもないから、今まで黙っていたのだけれど。
「なんだよ…」
「…あの…せんぱ―」
「何か無駄に大人っぽいから、ずっとそういう風に育てられてきたんだろうなーとか思ってたのになー」
「だねえ。…ロミオ先輩は、少しくらい分けてもらったほ方がいいかもねー。そういうとこ」
「うるさいよ、ナナ」
…えーと?
…うん。どうやら僕の想像は杞憂だったらしい。ホッとした。
どうも、極東に居た頃から、『記憶喪失なのに、適性を持つ少年』と、心配と同情の混ざった感情を向けられることがあったせいか過敏になっているようだ。
「覚えようと思えば直ぐですよ、意外と」
「えー?ロミオ先輩にできるかなー?」
「なんだとー?」
じゃれあうような会話も、最近では気後れや違和感を感じなくなってきた。
…ナナさんとも、自然な会話ができるようになっている。
意識しているのか、無意識なのかは解らないけど、僕はロミオ先輩に感謝した。
もちろんナナさん本人にも。
つめ寄られ具合は、1でのサカキ博士をご想像ください。